第303話 世界大戦
ハーヴェスの制海圏で各国の商船が海賊に襲われた。それはカラムが仕掛けた海賊を
獲物に乗り込めば数で圧倒し船ごと鹵獲する海賊事業は上手く行った。カラム王国の海賊事業が軌道に乗った事でテズ教国が動き出した。
テズ教国の教皇からラウム教国の教皇に親書が送られた。それは両国の宗教圏が重なる地、カラム王国で会談を望む親書だった。
テズ教が神託として授かった情報をラウム教国と共有し神託について対策を考えたいという内容である。
ラウム教国の教皇も政治家である。
宗教国が神託を振りかざし政治を
地震災害や津波災害、魔獣災害や
会談は両国の宗教圏が交わるカラム王国で行われた。
その神託とは
ハーヴェス帝国に起こった事実をそのまま教えて来たのだ。
一月四日のほぼ同日中に全世界に散っていたハーヴェスの魔動軍船から全ての大砲、剣や
ラウム教皇はその事実を独自に調べた、宗教国は情報が命。時には最新の災害(津波被害や地震被害、火山被害)情報を神託として使い、
テズ教教皇から聞いた話は本当だった。
今回の神託もどうせ同じ情報戦と見抜いてはいたが、テズ教のシナリオを聞いて乗った。そのシナリオならハーヴェス帝国は確実に滅ぶからだ。並び立つ列強の中でもハーヴェス帝国が浮上すると一番の頭痛の種となる事はラウム教国もテズ教国と一緒なのだ。
テズ教の描いたシナリオの通り、ハーヴェス帝国自身の誇りと過去の栄光の
テズ教国とラウム教国が手を組んだのは、ハーヴェスが兵器を失った半年後だ。それから両国はカラム王国に国境を接する国(セラス・ヤーリカ・ゴウド・ルーミス)に陸戦能力の拡大を指示した。巨星落ちる時、教国の
テズ教はシナリオの後半で活躍する信徒国のヨルノス・コモン・ドネスクの三国にも神託の時に備え信徒国としてテズ教との同盟関係を強化していた。
現在ここまでがアルが視たシナリオだ。すでにプロローグは一年半に渡って演じられ、海賊船の収奪物の食糧、物資、人はテズとラウムの信徒国によって分配され巨万の利益が出ていたのである。
一幕が上がった事でプロローグは終わりをつげ、
問題はここからなのだ。ハーヴェスが滅ぶシナリオ。
アルは用意周到な
シナリオは次のように書かれ、演じる役者の準備は着々と進んでいたし、いつでも二幕の準備は出来ていた。
二幕は海賊船を壊滅させたハーヴェスが辿りつく黒幕から始まる。カラム王国が偽装して海賊を行い、あろうことか各地の海賊を呼び寄せ操っていた事実。カラム王国の偽装海賊船が
これによりハーヴェスは
幕が上がると、ハーヴェスがカラム王国への報復と侵略を行うためにカラム王国の三つの交易港に砲撃をして揚陸船で押し寄せるシナリオが動き出す。揚陸戦の想定は初戦三万の兵~中盤六万の兵。
カラム王国の王家はテズ教国に避難させて
ハーヴェスは目前の勝ち戦に紛争調停など聞く訳がない。
砲撃の届く沿岸を射程に入れて大量の兵員が上陸し白旗を上げさせ講和を結び占領政策だ。国を
序章は海賊の台頭。
一幕は海賊の殲滅
二幕はカラム王国への上陸で栄光を思い出すハーヴェス。
カラム王国、東経62度、北緯37度。
ハーヴェス帝国、東経63度、北緯20度
https://www.pixiv.net/artworks/103781828
そして三幕が上がる。
三幕は苦難の幕開け。
カラム王家は降服せずに抵抗するのだ。テズ教国の停戦講和に応じないハーヴェスにカラム王国の周辺国がテズ教国を
叩けば逃げる義勇軍をハーヴェスは高笑いで追い散らす。義勇軍を追い散らせば占領の王手だ。義勇軍がいるうちは戦乱は終わらない。いつまで経っても終わらぬ戦乱にラウム教国も停戦講和の声明を出す。
同じ様に耳を貸す訳が無いハーヴェス。
停戦講和の条件は直ちに『兵をカラム王国から撤退させたら戦後補償は求めない』だからだ。侵略目的の国が引く訳が無い。
セラスとヤーリカの義勇兵はハーヴェスに好きなだけ大砲を使わせ大笑いさせ、釣って陸深く誘い込む。補給線を伸ばすだけ伸ばして
その長期戦の最中には、ラウム教国の停戦講和の呼び掛けを軽んずるハーヴェスを街の講談師や吟遊詩人がハーヴェス非難の論調を大陸に流す事でラウム教圏の義勇軍もゲリラ戦に加わって来る。
ハーヴェスに対する敵対心が民に植えつけられると、ラウム教圏の国がダラダラと参戦する。
ラウム教圏の国が義勇軍では無くもう我慢ならんとカラムの隣国、ユウド、ルーミスが挙兵するのだ。戦争を終わらせる為の参戦では無い、戦争を継続させる戦いに参戦するのだ。この時点でセラス共和国・ヤーリカ王国の義勇軍は戦地から
ハーヴェス帝国が優勢に戦うのは表向きはカラム、ユウド、ルーミスの三国だが後ろに付くのはラウム教圏8の国(ガナン、モン、ウォーク、クリスク、ラウム、ルウムリア、ブラン、ラパス)
この時点の戦争はラウム教国圏対ハーヴェス帝国なのだ。簡単には終わらない、終わらせる気が無いから適当に負け、適当に攻撃する。決戦は逃げ回る。
ハーヴェスとは海の向こうの国だ。その長期戦でハーヴェスを支えるロドン王国、モルト王国、サロマット王国の資源産出国を巻添いに
何も知らないサンテ教国はハーヴェス帝国が侵攻すれば信徒国が増えると応援し後押し。戦勝の神託も出す。
現地で長引く優勢な長期戦に
ハーヴェス帝国の首がジワジワと締まって行く中、大陸を巻きこむ大戦の第四幕が上がる。
第四幕はカラム王国の戦地から
それは二国対一国の戦い。
カラム王国のハーヴェス戦をラウム教国に任せたテズ教国はハーヴェス帝国の側面モルト王国を攻める。モルトは助けを求めるがハーヴェスにそんな余裕は無い。モルト王国対セラス共和国・ヤーリカ王国というテズ教圏の戦争が新たに始まる。
そして最後はテズ教自らが大陸の統一に乗り出す。サンテ教圏のラズン・モンテーヌ・オラルスの三国に対してテズ教圏のヨルノス・コモン・ドネスク三国が個別に宣戦布告し侵略を開始する。
テズ教信徒国がサント教信徒国に侵攻するのだ。
この時点でテズ教とサンテ教の領土を接する信徒国は全て戦争になる。
・カラム王国で、ラウム教信徒国VSハーヴェス帝国。
・モルト対セラス・ヤーリカ連合軍(テズ教)
・ラズンVSヨルノス(テズ教)
・モンテーヌVSコモン(テズ教)
・オラルスVSドネスク(テズ教)
テズ教圏十二国は隣接するサンテ教圏のモルト・ラズン・モンテーヌ・オラルス四国と独自の戦争を戦い、後ろからはテズ教信徒国が一丸となって兵員、兵站、武具をバックアップする。
ラウム教圏十一国は対ハーヴェス帝国に当たり、ハーヴェスをバックアップする三国(ロドン王国、モルト共和国、サロマット王国)の国力を磨り潰す。
サンテ教国が気が付いた時には何もできない。
武具の調達、兵員の増員、他国への長期派兵など兵站を考えたら論外。三か月の派兵で国の財政は傾くのだ。
所見では三、四年も武力を磨いた国が文句なく勝利する。
テズ教の描いたシナリオの五幕。
五幕にはすでに演者のハーヴェス帝国は無い。
ハーヴェスの降伏を受けてカラム王国が占領するからだ。ハーヴェスとモルト、サロマット、ロドンの資源属国三国は無傷のまま手に入れる。ハーヴェスの威を借る三国など物の数に入って無かった。
その時にはサンテ教圏の国は六国となる。
テズ神聖帝国の戦いの歴史に基づく戦略シナリオだった。
シナリオの分岐があった。
サンテ教国が隣接する国の戦争に参戦する想定なら、隣国四国のうち一国の独自戦争の介入しか出来ない。それに介入した瞬間、テズ教信徒国に神敵と攻められ壊滅しサンテ教圏を全てテズ教に明け渡す。
・・・・
テズ教国はハーヴェスが背伸びしているのを知っている。二幕が上がり、早くて一年、遅くて三年の戦線を保てないと見ている。
ラウム教も一年から三年以内にハーヴェスは
ネロ様が言った一月二十日前後から始まるカラム王国へのハーヴェス艦隊の侵略。それは海賊行為で幕を開ける大陸の大戦だった。始まりはカラム王国とハーヴェス帝国の争い。
誰しも大義を掲げるハーヴェスが勝つと思う。アルの様にカラムの王族は助ける者も無く大陸に追われ滅ぶと思うのだ。それは巧妙に仕掛けられた大義名分だった。
負ける者に大義名分など何も無いことをテズ教は知っていた。勝つ者に大義があるのだ。勝つ者が神に認められた正義なのだ。
ラウム教信徒国連合VSハーヴェス帝国。
テズ教信徒国連合VSサンテ教四国の独自戦争
五幕ではサンテ教が和平講和を訴えるシーンも省かれている。二つの宗教国の提案したカラム王国の和平講和を勧めるどころかハーヴェスを後押ししたサンテ教国の罪悪が説かれ、そんな物は無視されるからだ。力無き正義はシナリオにも書かれないほど無力だ。
テズの教皇にはサンテ教をなじる言葉まで用意されていた。
アルが視たシナリオはこんな戯曲だった。
・・・・
既に序章は過ぎて一幕も終わっていた。
アルは持ち時間を使って、各国国主の思惑と教皇の思惑とシナリオを視て行った。教皇の思惑を視て壮大な世界大戦の
ネロ様のご褒美じゃ無かった。一月二十日付近は止まらない戦争の幕開けなのだ。戦争が始まれば難民はタナウスに余るものとなる。並列思考で先に広がる大陸の未来を考えると
世を渡る飛行機が無い時代の戦争。まさしくこの大陸の戦争とは言え、何十国も巻き込む世界大戦だった。
止めなければならない。
タナウスに情報を持ち帰る為に急いだ。
・・・・
テズ教国11時40分>タナウス9時40分。
アルムハウスの応接に跳んだアルはナレス王家を追視した。タナウスの常夏に対応した窓の大きな宮廷馬車六台に分乗した王族とメイドと執事と護衛が神都を走る。
神都でも見慣れぬ光景に民は礼をして、子供は手を振る。海辺の伯爵邸に着くまで二十分ほどあった。
ファーちゃんに交感会話をお願いする。
視て来た情報をイメージして渡して行く。会話も少ない。
「こんな感じなの、世界大戦を止める手立てと落としどころ。僕が動いた場合の勝利条件の予測をお願いね」
「かしこまりました。すでに数カ所難民用の街の選定と造成が始まっています」
「ありがとう、お願いするね」
「あと十分程で御一行が到着なのでお出迎え下さい」
「分った、ありがとう」
応接から自分の部屋に帰って水着とアロハに着替える。去年からバリエーションも増えてパンツは膝上のバミューダパンツから短パンタイプも選べるようになっている。上から五色のアロハを引っ掛けてハウスの前に出ると、そこには三色の宮殿使用人を表すアロハメイドと執事が並んでいた。
到着した客人に花のレイを掛けたらワイハだよ。今度重要なお客が来たらやろうかしらんと思いながら列の前列に並ぶと坂道から馬車がゆっくりと近付いてきた。
アルに気が付いたリズが窓から顔を出して手を振ってくれる。冷徹な政治の世界を見た後のリズの笑顔が沁みてアルも笑顔で手を振った。
新年三日の十時。
海に遊びに来ている神教国の民は、アル様がお客様に手を振る姿を海から見て平和なタナウスを実感した。
・・・・
降りた陛下に開口一番。
「無事に避難出来たようですね(笑)」
「無事に避難出来た!申し分なき転移先であった」
「こちらの施設に何か不備は?」
「何も。火急の避難に十分な大きさだ」
「それならよかったです(笑)」
「転移装置はどのぐらいの人が運べるのかな?」
「あのサークル外でも手を繋げば何人でも」
「ほう!それは・・・」
「お父様!」リズが陛下の手を引っ張る。
「お!分かった」陛下が伯爵邸に向かった。
今回のナレスのお客様。
大公:カールトン・ド・アクランド・デ・ナレス(79)
太后:エルビア・ア・アクランド・デ・ナレス(77)
国王:カーマル・ド・ヴォイク・デ・ナレス(54)
王妃:メラルダ・ア・ヴォイク・デ・ナレス(51)
王太子:フォント(27)
王太子妃:アマル(25) 第一子:カークス(2)
第二王子:ケージス(23)
第二王子妃:ソネット(20)
第三王子:アルトン(18)3月卒業。
第二王女:アリシャ(17)
第三王女:リズベット(15)
ナレスに貴族院任官とかは無い。ナレスの貴族は19になる齢に学校を卒業して男爵家の三男四男であれば新興貴族家の武官や文官の口を探して寄親に紹介してもらったり自領で研鑽して就職先を探して過ごす。当然王家の子女はそのまま陛下に職をもらい王宮勤めとなる。
王太子は宰相付き政務官。第二王子は武官として任官している。四年前コルアーノとの国境に起きた中州の紛争を王都の武官として現認した第二王子の話をアルは
アルは暁のマルクさんが中州の傭兵依頼から帰って来た時にその戦いの決着を視ていた。
中州のナレス側は子爵領だった。子爵も兵を出したくなかった。コルアーノ側は侯爵領だ、国の紛争になってはアホらしかった。侯爵はお互いに傭兵を雇って決着を付けようと子爵に言って来た。王都の隣の子爵領の小競り合いでも、それは王都に知らされた。
それは寒風吹きすさぶ大河の中州の戦い。
暁の副団長マルクは空気を読んでいた。侯爵領と子爵領の戦い、万が一にも侯爵が負ける訳に行かないのだ。夜中にこっそりナレスの子爵と敵側傭兵団の団長に会いに行った。
五対五の遺恨無き模擬戦による決着。
そして侯爵が勝ちナレスもあっぱれと中州を二分する計画。大河が増水すれば無くなる割に普段は村が出来る程の葦に覆われた大きな土地である。正直お互いが要らなかった、漁師が言うから出て来ただけなのだ。
成り行きを心配して見に来たのが王都の若き武官、第二王子だった。結果は三対二で侯爵軍の勝ち。勝った侯爵が約定通り機嫌よく裁定し両軍で中州の寒風吹きすさぶBBQを行った事を第二王子は王都に報告した。
第二王子の実戦は?と武官体験を視たら任官直後にアルの知っている中州の決闘シーンが出て来て驚き、第二王子に聞いたので知っている。
話しが
すぐ分かる様にMIB風の黒メガネを支給しようかなと思う。マジで考えるなら黒メガネ以前の話で、護衛専用アロハとして俺が着る黒地のアロハに統一しようかな?と思う。
アロハの王族を取り囲む護衛が好き勝手なアロハだと見た目に異常過ぎる集団だ(笑)
護衛するターゲットを森に隠す意味では正解かも知れない。
・・・・
海で楽しそうに遊ぶお兄様お姉様たち。俺は大公夫妻と陛下夫妻の相手をしてリズと舟遊びの遊覧船。お兄様達に遊覧船を誘ったら遠慮されてしまった。楽しいのに!
サンゴの海に群れる色とりどりの魚にポテチの
実は毛深い人が海に入ると
余りに餌をやり過ぎて魚の群れが遊覧船を追って来るのに皆で大笑い。餌を投げ入れるとそこで群れが固まり、無くなると船を追って来る。小さく綺麗な魚の群れが可愛過ぎて餌をやるのがエンドレス(笑)
陛下の一行と餌をやって俺自身が
・・・・
お昼はバーベキューとキンキンのエール。
俺が仕切らなくてもメイドさんにエール何杯と頼むリズ。リズの仕切りで乾杯しながら塩の効いたポテトを摘まんで飲むエールは格別だ。明るい太陽の下で皆が笑う平穏な空気にも
北半球の雪の降る中の情報収集。三時間半も情報収集で跳び回って大陸劇団が未来に織り成す歴史の真相にショックを受けた。この明るく降り注ぐ陽光の下で考えると別世界の物語に思える。
午後は皆と海でたっぷり遊んで良く寝られる様にした。心配事が多すぎて寝つきの心配までしていた。
次回 234話 職業の宗教国
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この物語を読みに来てくれてありがとうございます。
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