第302話  テズ教のプロローグ。



1月2日。


タナウス15時半>メルデス13時半。


ハウスで御子服に着替えてロスレーンに追加発注された街路灯を建てに行く。今から街路灯を作りに行くから通信とメモをお願いとお爺様に連絡を入れると、今からか?と飛び上がらんばかりに驚いた。


新年2日の午後に家臣団が家に居なかった(笑)


でもそんなの関係ねぇ!だ。


1月2日の昼からお兄様とお父様とお爺様が相互通信機前で各領の契約書に普通何本、指定何本と書き入れて行く事になった。


飛空艇で飛んだまま跳んで行く。


今回、各領地の注文がる様になってきた。各領地で道の幅は千差万別、馬車がすれ違うのがやっとの道もある。アルは当然その様な事を見越して道の脇に付けたり、すれ違う余裕がある大きな道には歩道と分ける様に付けたりしている。


今回はそんな忖度そんたく、領地の情報を与えて来る領が多かった。大きな道と小さな道の重なる十字路、街路灯の場所はこの辺りが『望ましい』。この石段は長いが便利で、夜通行する人も多く『石段の途中の踊り場は休憩する人が多い』。門のかがり火の近くが『便利だと思われる』などと書かれている。指定すると1.5倍になるからみたいに書いてルールのギリギリを突いて来る領地があった(笑)


頭の良い領はすでに付いている街路灯の光量を算段して階段で登れる城塞門の壁の外側上部に2本と図面が書いてある。街道の遠くからでも見える町の灯を示し、門外の夜明け待ちの隊商や旅人にも灯かりの便宜を図って1.5倍の料金で一石二鳥を狙って来る領もあった。


狭い道で寝室の窓横に街路灯の明かりが来る場合は遮光板を付けてやった。ピョンピョン跳んで作って行くがマルベリス商会の件で国内を飛び回った経験が生きている。発注の街に跳んで街路灯を建て、子爵邸、伯爵邸、侯爵邸、公爵邸とその別荘地の真上に跳ぶ。高空から見下ろす庭園に図面の通りお洒落な細い街路灯を建てる。


男爵家から降嫁こうかした娘の大店の商家や使用人宿舎の敷地にも付けに行った。今年結婚する娘(俺の従弟いとこ)の輿道具として嫁に行く領に発注してる伯爵家もあった。俺のもう一人のお爺ちゃんのルーミール伯爵家だ。俺の名付け親で会いに行きたい気持ちはあるけれど、偽アルを国外に出してる関係上どこから情報がれるか分からないので姿は見せなかった。


同じ様にハルバス公爵家の庭園と別荘2邸も気を遣った、御子服で帽子もかぶって髪色さえ出してない姿。庭の直上の飛空艇からニョキニョキ生やしてる時に気が付かれて、空に呼び掛けられたら降りない訳に行かない。聖教国の魔法士の偽名を使うつもりでステータスボードも改変していた。


場所指定の街路灯が異常に増えた。公爵邸や子爵邸の場所指定の庭園は明るいうちに高空から図面で確認しながら建て、普通タイプの多い街には暗くなってから一気にニョキニョキとタケノコの様に生やして行った。


-----


21時を超えるとお爺様がキレた。


#「いつまでやっておるか!いい加減にせよ」

「もうすぐですから(笑)」

「お主、夕餉も食べておらんじゃろ?」


「パンと串焼きをかじりながら(笑)」

#「貴族が何をやっとるか!」

「そっちも執務室で軽食でしょ?(笑)」

#「貴族の夕餉ゆうげじゃ!」


「貴族だって尻ぐらいきますよ(笑)」

#「貴族たる者が何を言う!」

「常在戦場!仕事の場を敵地と心得るなら串焼きくわえても貴族の剣は振れますよ!(笑)」


「ベークス侯爵領、ナナン978本!指定82本!」

「ベークス・・・ナナン978本!指定82!」


相手に叩きつける連絡になっている。


「978本、指定82、間違いないです」


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「もう22時じゃぞ!」

「分かってますよ、寒い中戦ってます!」

「そもそも見えておるのか?」

「目の前から建てたら明るいです」嘘だ。


「街の守備隊は来ぬのか?」

「御子服で街路灯建てると驚いて納得します」


「ヘルメラース伯爵領 ドライツ 924本 指定64本」


「ドライツ 924本 指定64本」

「924本 指定64本」

「それで間違いないです」


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「いつまでやっとるか!23時じゃぞ!」

「孫が戦う中、お爺様は寝たいとおっしゃる?」


「いや、グレンツもアランもおるではないか」


「家族は痛みや苦しみを分かち合う者です、私の苦しみを分かち合って二人も喜んでる筈です!そこに座る者は文官にあらず武官です。武官が泣き言とは貴族として情けない、10位の武官が寒空で歯を食いしばり・・・」


「お主、去年から俸給を取りに来ぬではないか!(笑)」


「私の俸給よりサルーテの大事。伯爵様ともあろうものが10位の武官の俸給に心労では困りますよ(笑)」


「カークス子爵領 カンバス 普通759本、指定32本」


「カンバスと、普通759本、指定32本」

「759本、32本。間違いなし」


「カークス子爵領 キース男爵領都 普通652本、指定16本」

「キース男爵領都、普通652本、指定16本」

「652本、指定16本、間違いなし」


「以上、追加注文分終了しました。明日もう一度抜けが無いか確認下さい、連絡次第に作りに行きます」


「分った!ごくろうだった」

「アル!新年から働き過ぎだ!(笑)」

「お兄様も新婚新年から執務室はダメですよ(笑)」


「誰のせいだ!(笑)」


「アル、お蔭さまで順調だよ。ありがとう」

「何も(笑) 私は街路灯作るだけですよ」


深夜23時過ぎ、9時間も家族の会話が続いた。


グレンツもアランもラルフ相手に一歩も引かぬアルに驚いた。余りの口の悪さにラルフが言うのを諦める。


そのままメルデスのハウスに帰って寝た。


・・・・


1月3日。


朝5時に起きて冒険号の格納庫で鍛錬を行う。型を遣って波動と螺旋を乗せる・・・全然違っていた。剣を抜きクロメトの技を遣う・・・波動と螺旋が見事に乗る。


深呼吸をした後、身体強化を巡らせる・・・考えられない程も濃密に細い魔力線が体中を巡り回る。


それは魔素を取り入れ精神で動かす魔力線だった。物理的な血液の様に体内に道を作って巡り回すと考えるだけで抵抗を観念で作り出し、無意識のブレーキにしていた事を知る。


クロメトの鍛錬では技に傾倒する事でそれに精通し洗練すると次第にが取り除かれるという事だった。


概念の世界で学んだことわりは現世の器に引っ張られなかった。分かった事の重大さ、それで充分だった。それはアルのの物凄い宝だった。


そのままコボルさんの執務室でコアさんを呼び出すとたちまち霧状からの物質化でコアさんが現れる。


「ハーヴェスと海賊の戦った島を出してくれる?」

「この島になります」


球状の世界地図の海域に6つの光点が現れた。


「六つもあったの?」

「六カ所ですね」

「何で六つも・・・画像ある?」

「そちらのモニターに、時系列です」


蹂躙じゅうりんしてるね、交易船も港にいるじゃん」

「交易船が収奪品をロンダリングしてます」

「一カ所と思ってた。占領したら次へ行ってるね」

「時系列で追うと計画された作戦行動と分かります」

「うん、一直線で向かってるねぇ」


「年末に集結する海賊を一網打尽に狙って無いことは分った、完全に隠れ家を把握して攻めてるね」


「ナレス王家の集合時間は分かるかな?」

「七時に避難施設に集合と聞いてます」


タナウス九時に着く。


「時差考えたら妥当な時間だね。あと三時間か、馬車で伯爵邸に着くなら約四時間あるな。それまで海賊の島に潜り込んで来る」


「大丈夫でございますか?」

「シャドとシェルがいる、何かあれば連絡するね」

「よろしくお願いします」

「そっちも王家の動きを通信で教えてね」

「かしこまりました」


情報知らないとカラムで予言できないから調べる。


・・・・


タナウス6時>統治国ズサ沖、海賊出没地点11時。


統治国ズサ、東経90度、北緯16度。

https://www.pixiv.net/artworks/103781828


※統治国:元々他国の貴族が王命で自国の交易船の為に補給港を開いた名称だけの島国。貴族が統治しているのは寄港地の港湾と街(首都)だけ。統治国とは名称だけで国として先住民から税を取って統治している訳ではなく、寄港地を統治しているだけ。先住民は好きにしろと放置している。


最初に殲滅せんめつされた海賊の基地になっていた小島に跳んだ。時差五時間でこっちは昼前だ、緯度的にコルアーノと同じぐらいで雪がチラついて寒い。


島に海賊の捜索隊が二十名程キャンプ作って残ってる。海賊の残党は無し、三か月前じゃ掃討されてるか。次だな。次の島もその次も残党は居なかった。結局最後の島に来たが生き残りは居なかった。捜索隊も命じられたままだな。これ黒幕に連絡させないための急襲かもしれないな。


四日前に最後の島を出た武装商船の艦隊(兵員満載)が母国ハーヴェスに向かう洋上にいた。交易船と乗組員は全部鹵獲して連れているがカラム王国の船じゃない。海賊船の寄港地周辺国の交易船が多いので視て分かった。寄港地を仕切る海賊の首魁しゅかいが手引きして指示された交易船を使い収奪品を商人に流してる。


盗品と分かって海賊の寄港地に入る船って一体?一介の商人がそんな危険な事する?船長は商会に言われた通りに割符わりふを持って寄港してるな。海賊と取引して物資を乗せて帰るだけの交易船だ。ハーヴェス着いたら縛り首だってさ、まぁそうだよな。


割符わりふの商会に行こう。

検索した商会長を視たら割符わりふを渡したのは子爵家の使用人だった。仕事を知った上で割符わりふを受け取ってる。ってことは子爵家を視に行く。子爵家に行くと旨い話で稼げと伯爵家から直々に割符わりふを受け取ってる。伯爵家を追うと、侯爵家から寄子の商会に稼がせろと割符わりふを渡してる。どこまで続くんじゃい!


侯爵家視るか、侯爵家まで追って来ちゃったよ。侯爵家の当主も王家に言われただけだ。え!モン王国も海賊してるの? 


海賊>商会長>子爵家>伯爵家>侯爵家>モン王家。


モンの国王とカラム王国とどんな関係があるのよ?海賊同盟なの?と視ても直接的に見知ってない。ただ視えたのはラウム教国、教皇の手紙と割符わりふだ。


・ハーヴェス帝国を止めるのは今。

・海賊の上がりをラウム教信徒国に分配する。


海賊の収奪品を換金して儲けると結果的にハーヴェス帝国を地に落とせる。との神託しんたくの手紙がラウム教皇から出てた。


何ソレ? 色々と辿って視て行った。


海賊→貨物商船>>>>ガナン国首。

海賊→貨物商船>>>>ラパス国首。


他の国の貨物船も国主に繋がっている。

なんだそれ?ラウム教の教皇を視に行って納得した。


そこには深い大戦略があった。


この大陸に根付く三大宗教国。


・テズ教

・ラウム教

・サンテ教


サンテ教国はハーヴェス帝国という金の卵を産む信徒国を持った事でここ百年で大躍進し、大陸に信徒国を拡大していた。現在海沿い主体の近代貿易国家十四国でなるサンテ教圏を作っている。


サンテ教大躍進の原動力はハーヴェスの属国とも言われる周辺国のロドン王国、モルト共和国、サロマット王国の資源産出国をバックにハーヴェスの産業科学が開花した事による。サンテ教の先代教皇が秀逸しゅういつな説法を行い、教義で取り持つ共栄の教えで国と国の外交が盛んになりハーヴェス帝国という怪物を育てたのだ。周辺国も今では共栄というより属国というイエスマンの国となった。ハーヴェスの思惑に従えば国が栄えるのだ、自然にそうなる。


テズ教国は大陸中心にある。テズ教の前身はテズ神聖帝国という。今でも尊大な者はその名を言う。要するに古代ローマ帝国と同じ政治の国だった。簡単に言うとだな、まぁそのままの意味で地球の古代ローマの市民だよ(笑)


テズ神聖帝国には階級があり街の上級市民は働かなくて良かった。強大な神聖帝国軍が植民地からの収奪品を集め、その物資は山の様に帝都に集まり聖帝はそれを聖なる街の民、上級市民に分け与える存在。パンとサーカスという風刺の言葉も地球にはある。食料と娯楽に興じる市民を満足させる神聖帝国の法律だ。


下級市民の男は徴兵義務で大陸を蹂躙じゅうりんする神聖帝国軍となり成果を上げれば上級市民への道は開け、参政権や投票権も与えられる。地球で言う階級闘争から社会主義的思想を生み出す根源となったブルジョワジー資本家プロレタリアート労働者の言葉は皆が知る通りだ。


テズ教国は2000年前まで、チンギスハーンの様に現在の大陸を荒らし回って、古代ローマの様な政治を行っていた国だ。近代化と言うか現在の王政が各地に芽生え至る所で建国と反抗が始まっていつしか今の形に収まっている。各国には神聖帝国時代の名残りで奴隷は捕えた者の所有となるのが常識だ。


※隣の娘を捕えたら犯罪だ(笑) 未開国や後進国の人間や獣人を捕えたらの意。


その影響下にある周辺国がだ。


ここ千年で信徒国が激減し現在十二か国でテズ教圏を作っているが花形となる牽引国が無いので大陸南方のサンテ教に侵食されている状態。そりゃ9000万年前の古代遺跡に頼りたくなるよなぁ、元々の歴史があるもん(笑)


・・・


ラウム教国は信徒国十三を持つ国だが、近年信徒国のマジス王国とカムラン帝国が謎の消滅をした事で教圏の求心力が低下して信徒国は十一になっている。この国は厳格な戒律を千年も継承している。


実際に厳格と言う戒律を知りたくて教皇を視て驚いた。自由自在に教義を解釈できる様にシステム化されている宗教なのだ。犯罪者は司祭や司教が裁く。支配者に取ってコネや賄賂が無い者は厳格に処罰される。逆に領主や国王には都合の良い教義でで罪が何等も減じられ、死罪も所払い(街や村追放)に変わる。


領主や王家は教会に寄付の実績を作って神の減免証を受ける。何か問題があっても教会の司祭に相談したら支配者に忖度そんたくする処罰に変わる(笑) 


まぁ王政の貴族社会では、領主家の直系も同じことが言えるんだけどね。俺が悪事をして明るみに出ても、裁くのがお父様やお爺様だから、俺が自分の部屋で生活と言うか、幽閉されて事件が忘れられるまで裁きの日が来ないのは充分あるんだよ。(ラウムは裁く権利を忖度そんたく自由な教会が持つ、稀に教会から地位を金で買った領主が司祭を兼ねる土地がある)


どこかの大統領が任期が来たら断罪されて死刑だとか、大統領をやった者は司法の罪に問われないとか、支配者に都合の良い法律を民にミエミエに作るより神を説く教会が裁く方が支配者にはよっぽど良い。


神が法をつかさどり、神の代弁者は学のある司祭や司教だ。この世にはけがれもいるし、竜もいる、スライムが人に寄生してる世界なのよ。この世で悪魔狩りをする教会は神敵に対して国を滅ぼしに行くほど過激なの。


過激だけど、教会に寄付する者は神敵にならない(笑)


以前、この大陸で盗賊から助けた冒険者PTとの会話に集約される。


------


「困って無いのがなんで追い剥ぎしてるんだ(笑)」

「あぁ、7位や6位の奴らに安く売る為です」


「なんだってー!(笑)」

「ホントなのかい?(笑)」

「そりゃ、教会に喜捨きしゃするよりマトモだが(笑)」

「嘘だろ(笑)」みんな笑い過ぎ。


ここの教会何処どこだと見たらラウム教だって。知らんわ!


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この会話にラウム教の姿が出ている(笑)


『教会に喜捨するよりマトモ』と言われる教義だ。


そこには無実を金で買う事を揶揄やゆする意味がある。


意味:(大きな)喜捨する奴は神の減免証を求めるマトモじゃない悪人。喜捨しない者はマトモ(悪人ではない)


ラウム教信徒国の沿岸の国はハーヴェスの躍進やくしん旨味うまみの少ない貿易に終始していた。ハーヴェスの開拓した植民地商材は原材料の国から買えなくなるのだ。当然ハーヴェスを中継すれば中間マージンが増えて交易に旨味うまみは少なくなる。



・カラムとハーヴェスの戦争でハーヴェスは沈む。



ラウムの教皇を視た時に出て来たフラッシュの内容だ。


テズ教国は今でもサンテ教国圏に古い信徒を持っていた。その信徒の情報でハーヴェスがいきなり海上軍事力を全て失った事を知った。古き信徒の子がハーヴェス艦隊にチラホラ乗っていたのだ。


ハーヴェスの台頭に頭を悩ませていたテズ教は神の思し召しと真っ先に動いた。サンテ教の旗印の牽引国、旗艦のハーヴェス帝国を叩きに行ったのだ。神託をってカラム王国を説き伏せ、聖戦の序章の幕を開けさせた。


---プロローグ---


序章の幕とはカラム王国主導による海賊行為である。


先日までにわだった海域で海賊が荒らし回れば一番青筋立てるのはハーヴェス帝国と分かって挑発したのだ。


どこでも手に入る小さな砲を装備して国と特定されぬ様に世界中の海賊を集めた。海賊が大砲を持つのは万一でも拿捕だほされた場合、国が特定される。


偽装したカラム王国の海賊船が流した噂で統治国ズサ沖の群島海域に世界中の海賊が集まり、海域を航行する商船を襲った。海域を航行する商船はハーヴェスの護衛も無く周辺国の商船が多かった。護衛も大砲も無ければ撃沈される事も無く、海賊船が自由に接近して100名以上の海賊が乗り移って来るのだ。一年半、商国連合以外の商船は狩り放題の海域になった。


※商国の魔動帆船(武装商船)は大砲を備えた上で甲板上で海賊を迎え撃つ武装商人。制圧する前に大砲で海賊船が沈んでしまう。武装商船でもハリネズミの様に大砲装備する魔動軍船には手も足も出ない。


ハーヴェスが無力化し半年経つ頃、海賊に流れた噂だ。


・ズサ沖の群島に海賊の楽園がある。

・収奪品を貨物船で買いに来る国がある。

・船乗り、軍人、女、商船、何でも売れる街がある。

・群島に行けば海賊船団に寄港地が与えられる。

・喫水の深い軍船は入り込めない入り江がある。


ラムール商会から仕入れた大砲がハーヴェスの商船に搭載され、結果的に去年の5月に狩り放題の海賊を終息させた。大、中、小の大砲がそれぞれ2門を備える武装商船を順次就航させたハーヴェスは海賊を徐々に撃退するようになった。急ピッチで軍船を改修した三十隻の武装商船が出揃った七月以降にはハーヴェス国旗を見た海賊が逃げる様になっていた。まぁ、そんな経緯があったらしい。



海賊の跳梁ちょうりょうから始まるプロローグ。


そして第1幕が始まる。


第一幕は海を荒らした黄巾党海賊たちの討伐から始まる。


海賊たちの寄港地を特定し、十月から十二月で海賊の拠点をハーヴェスの武装商船が一網打尽に襲った。迷いのない全ての寄港地を内偵した上で仕掛けた軍の急襲だった。


海域に海賊はいなくなった。←今ココ。



それは第一幕の閉幕。



そして宗教国主導の戯曲、第二幕は上がる。


それはテズ教が書いた壮大な劇。


テズ教は大きな国力を持つハーヴェスが近年海上戦力を拡充する事は読んでいた。但しここまで早いとは思って無かっただけだ。早くて二年で大砲工場が稼働し三年目から無事だった軍船に艤装。海上戦力が整いだすのは三から五年は掛かるとの見通しがサントの議長バーツと同じ様にテズ教国にも見込まれていた。


今回、海賊の拠点六カ所が電撃作戦で壊滅した事を知らないテズ教は後手を踏んでいる。


が、この二年でシナリオを万全としたテズ教は二幕が上がることを待ち望んでいた。


二幕で海賊の裏にいたカラム王国をハーヴェス帝国が叩きのめす。ハーヴェス帝国は海賊の拠点を滅ぼし戦果を上げて喜ぶだろう。笑いが止まらない筈だ。そして陰で糸引く者に気が付き怒りに震える事となる。そもそもどこかの国の偽装海賊がいるとの噂があったのだ。噂の真相を知ろうと動き、そしてカラム王国に辿たどり着く。


カラム王国が行っていた偽装海賊による略奪を。


そして第二幕が開幕するのだ。


第二幕はハーヴェス帝国のカラム王国への復讐ふくしゅうである。シナリオでは海上戦力を得たハーヴェスはいつの日かカラム王国へケジメを取りに来る。世界最強の覇権国だった国である、なめられたら誇りに掛けて絶対引かない。間違いなくカラム王国に砲撃から揚陸戦ようりくせんを仕掛けて占領に来る。


テズ教はつかんで知っていた。


海上兵器をすべて失った上に恩寵の無くなった海兵たちの情報を。武装商船に乗り組むのは本来の陸の騎士団達が乗っているのだ。それどころか属国からも騎士団の援軍を借りている状態で精一杯背伸びして外に威嚇いかくしているハーヴェス帝国を。


テズ教圏の沿岸周辺国もハーヴェス程ではない中型の大砲を持っている。それは一撃で大型商船を沈めたり、ましてや軍船を相手に出来る物では無かったが国軍の海上戦力として一応持っている。鍛え上げた兵員を乗せて幕が開くのを待っていた。


テズ教圏のカラム王国へハーヴェスが侵略を開始する日、その日を以てハーヴェスは連戦連勝の二幕を上げる。


アルは視て愕然とした。

歴史はこうやって作られると身をもって知った。


ハーヴェス帝国の辿たどる滅びのシナリオを視ていた。




次回 232話  世界大戦

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