第300話  ハーヴェス帝国の反撃


1月1日(木曜日)


ナレス王宮。


晩餐ばんさんに間に合う様にリズと帰って来た。

リズがタナウスの三賢者と会い、鼻息が荒くなって会食中に賢者の話をしてしまった。聞いた皆が息を呑むのでその賢者は聖教国の大司教と俺がたたみ掛けて説明したのが良かった。聖教国の賢者が新しい国作りでタナウスに来てると思われた(笑)


隠すつもりも無かったが、賢者のめいに魔法を教わっているとか、そんな話に流れそうで怖い。魔法を見せてと陛下や王妃に突っ込まれたらリズの魔法が変なのがバレる所だ。リズは生活魔法もまだだったのに1年半で聖教国の回復魔法や攻撃魔法まで出来るようになっている。出力は小さいが、使う魔法の種類では宮廷魔導士を凌駕りょうがしている。


俺と並び立とうとする婚約者は成長してるのだ。俺だって魔法が変だから簡単なのしか見せてない。


話をらすのにナレスの魔法士の戦闘をたずねた。


ナレスの魔法使いは1系統の魔法を極める方向。多方面の系統に熟達する事は魔法玉かスクロールしか無い。貴族家の奥さんはやっぱ魔法士を望まれる。とにかく魔法の才ある子女が欲しいのはナレスも一緒だ。


第二王子が北方での演習戦の魔法士の動きのレクチャーをしてくれた。男連中は皆そういう話が好きだから晩餐の最中も男で戦略を話してしまう(笑)




順を追えば、戦場の最初は両軍の総大将が口上を述べて、戦争の大義を自軍と敵軍に知らしめる。明日何時を以て両国は戦争になるから逃げるなら追わぬとかお互いに言い合う。


翌日決められた時刻を以て戦争になり、攻撃軍が攻めよせる中で両軍が長距離魔法と弓の撃ち合いで開幕する。緒戦はLv4以上の火魔法の魔法使いを並べて10~20人の兵士にファイアボールの大きくなった2~3mの火炎弾を撃ち込んで行く。


お互いの魔法士と弓士は大盾の騎士が両脇に付いて守る。火炎弾の直撃さえ受けなければ回復魔法士が居るので魔法士と弓術士の損耗率は低い。


慣れた魔法士は守りの薄い所に撃ち込むが、狙われてないとバレると相手の魔法士が集中してしまい命中率が上がり直撃されるので考え所と言う。


お互いの先陣を切る魔法使いの魔力が無くなると死体が転がる戦場で兵士の肉弾戦となる。そうなると入り乱れて魔法は撃てない。以後は後方の指揮官を狙って敵地に入り込むユニット戦となる。攻め手の白兵力が大きい方は広大な草原、少ない方が複合地形で戦いたい。


防御側は不利な地形に出て来ないから有利な複合地形で待ち受けるのが相場だ。攻撃側が押して行くと敵地形に指揮官も入らざるを得ない。お互いに索敵と伏兵で陣形と思惑を探り合いユニットを潰し合う。潰走かいそうと見せかける、防戦一方と見せかけて別動隊。無線など無い中での戦争は時の運と読みに勝った方に軍配が上がる。


話しはれるが以前、筋金入りのクランの教官と言った事がある。焼けた死体が足元に転がり、煙と臭気を発する戦場で斬り合って生きて帰って来たという意味だ。戦争で負傷したうちの教官の記憶は地獄絵図である。俺と会った時に腕とか脚が無かった教官がいる。みんな戦場から生きて帰った筋金入りって事だよ。


軍事演習を北方で繰り返す事で、伯爵と子爵、子爵と男爵との複合軍の連携や読みが深くなり、ここが薄くなる。ここが急所と指揮官が流転する戦況を読んで防御と攻撃が自在に変わったと言う。2か月後の演習では伝令と斥候の数は3倍になり、当たりが強い攻撃軍前面を柔らかく受けながら後退し、有機的に防御陣形を変えて分隊化したユニットが周囲や後方から司令官を狙い、押し包む戦略に進化したと第二王子が言う。


演習を繰り返す中で、秀逸しゅういつな作戦がいくつも生み出されたと言う。


第二王子の話に合わせて1月10日は北方討伐の戦功叙勲が行われ、謁見の間にて貴族家と騎士団に褒章ほうしょうが与えられると陛下が付け足した。


弓のテルーの財宝も王家と王家と関わりの深い家臣に下賜かしされるそうだ。リズも俺もくれるって。わーい!と陛下の前で喜んだ後にキッチリ断った。ナレスの重鎮じゅうちんや貴族の前で弓のテルーゆかりの宝が他国に流出するのは祝賀の場を逆なでするので絶対に受け取れないと言うと、後日内緒で渡すと言われた。


内緒ならいいか?と欲でしたがう俺も俺だ。


・・・・


晩餐が終わった後、男同士の飲みに誘われた。


大公、陛下、王太子、第二王子、第三王子、俺だ。俺が誘われた時にリズを含めて大后様、王妃様以下女性が「え!」と言う顔をした。視ても何の事は無い飲み会だ・・・。


王宮の応接に集まった男ども。

驚くほどのナレスのツマミが机に並ぶ、それはニンニク料理。ナレスの男達が1年頑張る秘訣だった。聞いて見るとナレスの男はこれで精力を付けると言う。ニンニクって雪の下で育つみたいだ。これも100%ナレス自給野菜と聞いた。


絶対タナウスに持って帰る!

ガーリックパウダーにして塩コショウと持ち歩けば完璧。タナウスの南方極寒地でも育つはずだ。騎馬民族との交易村でナレスの特産を栽培しよう。


陛下にお願いして種苗しゅびょうを取り寄せてもらう約束したら陛下も喜んだ。食材でタナウスに貢献出来ると王宮食材の御料畑官吏かんりを何人か付けてくれるとご機嫌で言ってくれた。


※王家が食べる糧食や道具(御料)を作る専門官吏。御料の馬、牛、羊、畑、森林を任されて専任で牧場や畑、漆器や陶器や家具や果てはザルまで作って管理する役人。守備隊と同じで技量をもつ者が王家の使用人として俸給をもらって官吏となる。


果てはザルと書いたがバカには出来ない。一切トゲも無い規格の様な竹の薄いベルトを編み込んでベッドの底面に張る事でマットレスの役割を持たせたベッドとなる。布団のフカフカを際立たせる弾力で王家のベッドは出来ている。婚約が決まった初日に泊まり、ベッドに驚いて視たそれも御料官吏の仕事だ。


23時にお開きになる頃にはワインもツマミも空き、明日はと言いながら陛下は寝所に帰って行った。途中で御料山の山ブドウの話になりそれから作られたブランデーを飲みながらの話が弾んだので殊更ことさら多く飲んだ。


皆酒に強いわ!北方の|ヴァイキングか?とツッコミ入れたいほど飲んでいた。俺は寄生スライム以来、防御恩寵を外していないので飲むと毒は中和されるみたい。アルコール中毒になるんじゃ?と注がれるままに飲んだが俺の小さな体でほろ酔いなのでそうだと思う。


・・・・


寝るまで交換会話でコアさんと話す。俺の記憶で見たナレス建国物語と実際の舞台を見たら、俺のは演者のイメージ付きだから、実際の舞台と違い過ぎて驚いたと言う(笑) 


※ナレスのコアさんニウさんはずっと劇場に通っています。タナウスにもシズン、シーズ、パリスにも同じニウさんやコアさんが居ます、アルのインベントリの中にも居ます。その場に同時に存在しないだけで場所が違えば普通にいます。冒険号にも居ます。


コアさんがタナウス建国物語を作ってくれると言うので聞いたら聖教国の始祖セリムから始まる壮大な事実で構成し8幕2時間は必要と言った。建国を楽しみにしておこう(笑)


現在、神都ガンズ地区のドワーフには未来のタナウス守備隊の儀礼服、靴、兜、軽量鎧や盾、剣を作成してもらっている。


新年に当たってドワーフ総勢560人とノーム160人に500リットル樽で10樽の壺の葡萄酒と3樽のブランデーを届けたと聞いた。ノームは盟約のドワーフ以外から報酬を受け取らないらしく、タナウスの俸給も親方からノームの親方に渡すのが通常で、今回は酒と一緒に小振りの宝石を一緒にガンズ長老に渡したと言う。


ドワーフとノームには元来休むと言う観念が無く、晩は酔っても翌日バリバリ仕事が当たり前だった。光曜日は休みと言うタナウスでずいぶん戸惑ったと聞いた。それまでは休みも無く家の手伝いが当たり前の子供達だった。


一番先に適応したのが女子供で、成人前の子供は神都の寺小屋みたいな半日学校で学んで子供同士で街の噴水や海で遊ぶ事を覚えてから光曜日も遊ぶようになったと言う。


現在はガンズ地区が出来た為に弟子を3人持つ親方を一人グレゴリ村に常駐させている。人の鍛冶屋さんが来るまで村の鍛冶屋さんをお願いしている。


11月から夏野菜をコルアーノに届け始めた村のグレゴリ、ホイス、アーセン、バチストさん。去年の教訓で3月からはコルアーノの春野菜が出回って売れ行きが悪くなったので、春からは神教国の種子プロジェクトで畑を拡張して栽培実験農場もしてくれてる。今はここぞとばかりに、冬のロスレーン領都、ヘクト、モルド、メルデスにタナウスの夏野菜を売りに行って稼いでいる。


グレゴリ村に掟も生まれたみたいだ。

それは賭博禁止令(笑) 村長が決めたならと俺は了承した。日本では室町時代以前に賭博は身を持ち崩し人の物を盗む諸悪の根源と民にさげすまれる事だった。俺としてはある程度身を持ち崩すのも薬と思うが、世を知る村長が決めたのならそれが良い。


あとは、一昨年おととしの11月末にラムール商会が売った大砲を艤装した軍船が去年の5月頃から順に武装商船に改装されて就航した。コアさんの話では、最近4日ほど前の観測でハーヴェスの武装商船の艦隊と海賊の大海戦が行われてハーヴェスが勝ったそうだ。


「どういう事なの?」


今まで寝耳に水の情報に驚いて詳しく聞いてみた。


どうも海賊の大規模な寄港地を襲って海賊側が負けたという。観測では寄港地から各国に出ていた貨物船の割合からカラム王国行きの貨物船が30%を超えているのでカラム王国主導で海賊行為が行われていたのでは?と予測していた。


俺はそれを聞いた時に思い出した。確かに国が海賊をかたってハーヴェス、ミランダが庇護する国の商船を襲っていたのをアルは知っていた。知った時には複数の国が絡んでいたので、強き者も力を無くせばやっぱり他の国に叩かれて『弱肉強食』やねぇ・・・と他人事ひとごとに思ってたのだ。



※コアもアルも掴んでいないが、ハーヴェスは襲って来た海賊船を相手に武装商船が戦果を上げているうちに海賊行為に深く関与していたカラム王国が判明した。なんと海賊に関与どころか国の軍船も海賊船に扮して襲い、海賊船の水揚げや補給、バックアップしていた事までハーヴェスは掴んで動いていた。



元々のハーヴェスのお家芸。武装商船20の砲撃で海賊船補給港の出口から続々と逃げる海賊船を集中砲火で沈め、満載の兵員の上陸戦で海賊の街を蹂躙じゅうりんしたそうだ。サントの議長バーツさんが危惧した戦法なんだけど、これに気を良くしてまた植民地政策に転換しないだろうな?


コアの観測イメージが視られたら良いんだけど、俺のイメージは見てもらえても、コアの観測イメージは全く視えないので残念。GPS検索でコッチ!と方角と距離しかわかんない。俺の追視イメージは高高度からの地平距離までが限界で星の裏側まで無理なんだよ(笑) 


新年前で海賊も溜め込んでたろうな?と上手くやったハーヴェスの海賊討伐に舌を巻いた。俺が行ったら砲撃前に無傷で色々手に入ったな・・・最近視ないし知らないから放置だったし、捕まえてから処遇が面倒臭いのでスルーしてた。海賊の鹵獲品には少なからず興味はあるので邪推じゃすいしてしまう。


「そのまま戦争になる予測ですが?」

「海賊するならそれ位の覚悟してるよ(笑)」

「アル様は介入されませんか?」

「そんなのしないよ、勝手にヤレだ(笑)」


「覚悟ないと襲っちゃダメよ。海賊は海の盗賊だから国がやっても滅ぼされるよ。僕がやってもハーヴェスがやっても掃除は掃除だよ、人を襲ってるならモンスターと一緒。僕は関わるつもり無いけど、興味あるから戦争が起こったら教えてくれる?国が海賊していたなんて民は知らないだろうしさぁ」


「かしこまりました」


「心配しなくてもハーヴェスも侵略しんりゃくして旨味うまみが無くなる様な殲滅戦せんめつせんの焼き鳥にはしないよ」


卵を産む鳥を育てるのは植民地も占領地も一緒だ。


交換会話の最中に寝た。多分5分話してないと思う。


・・・・


2日の朝5時。


悩んだ末に教会に行った。


「去年は教会に居ながら来なかった」


以前に嫌みらしい事を言われたからだ。


あの寄生スライムに対する拷問を怒るなら怒ってみろ!と開き直って行く事にした。俺より良い方法を提案するなら素直に怒られてやる。と開き直った上にネロ様に上から目線で教会に行った。


見知った王都の教会。朝の五時には人影もまばらだ。お忍びの平民服の布のバラライカで訪れる。喜捨をナレス金貨4枚(32万円)で司祭に渡すと二度見されてバレた。


「御子様!」

「シー!シー!」


そんなゼスチャーは無いが分かって貰える。が異変をぎ取ってシスターも寄って来る。防犯上それも必要だな(笑)


「新年もよろしくお願いします」

「ありがたいお言葉をありがとうございます」

「御子様、ありがとうございます」


ありがたくねぇよ!社交辞令だよ。二人ともそんなに真面目に受け取らないでよ、お願いだよ。俺は拷問の指令出す奴だ、そこまで綺麗じゃ無いんだよ。これからネロ様に何言われるか分かんないっての。


実は手を繋いで震えていた人に寄生したスライムの姿がトラウマだ。2000人弱の寄生された人を〆るのは俺には無理だったのでコアさんニウさんに頼んだ。オークやオーガも一緒だった、最初こそ襲ってくるが1日も経つと逃げ回ってた。中身が寄生スライムだから人に入ろうがモンスターに入ろうが中身は震えて怖がっていたんだよ。



「お祈りに来ました。感謝の!」


お祈りいらん。と言う説法と違うので慌てて付け足した。以後ずっと付け足すのかと思ったら皆に祈らせておく方が楽だったと変な後悔をする。


信徒の邪魔になるので机で祈りますと机に早々に座った。


行くぞ!気合を入れた。


創造主   ネロ    人の世界を司る。

豊穣の神、 デフローネ。豊穣、狩猟、繁栄を司る。

戦いの神、 ネフロー。 戦い、武術、生死を司る。

審判の神、 ウルシュ。 審判、道徳、善悪を司る。

慈愛の神、 アローシェ。慈愛、 調和、美を司る。

学芸の神、 ユグ。   学芸、知恵、技巧を司る。


「ふむ、逃げずによう来たの」

「はい」

「逃げるとくせになるでの(笑)」

「それ読んでるでしょ!(笑)」

「本当の事を言っておるのだ(笑)」


イヤ、まぁ本当だろうけどさ。


「あの様な生物、どうでもよい」


「え?」


「我が身を守るために宿主に入っておるだけじゃ、情けなど無用!お主のやり方で正解じゃ」


「本当に?」

「あれは宿主の頭を使い中身は何も考えておらんぞ」


「はい、そうなんですが・・・」

「宿主の痛みは嫌がるが、あれらに痛みはない」


スライムだけにそうだよなぁ。


「そもそもアレの神の恩寵ではない(笑)」

「え?」

「原初の細胞生物に宿った魂にだまされよって」


えー!守って損した?


「損はせんじゃろ。宿主も生かした。あれはなかなか殺せぬ存在だ。10匹なら分かるがあの数じゃ、お主以外なら必ず取り逃がす」


「お主の自己再生はもっと上位の存在の恩寵じゃ」


スライムより下位は居ないだろ(笑)


「なかなかおらんな(笑)」あ!


それって雅様みやびさまとかじゃ無いだろうな。


「まぁ、宿主の怒りをしずめて混沌に導く衝動しょうどうをコントロールするだけでも儲けものじゃ。以後増える事も無さそうだしの」


「一応隷属して布教したので災厄をかず、横にロボットが付いてますから国ごと豊かにはなるかと思います。国主の子も寄生されてるのでずっと同じ個体が国主ですが」


「国主は良いが辺り構わず兵を向けては困るな」


「はい」


「去年はよく頑張ったな、よもや荒人神あらひとかみが出てくるとは思わんかったが、どれ程の人間が救われたか分からん。けがれの石棺しかり、犯罪者の街しかり、宗教国の件もしかりじゃ」


「余計なお世話じゃ無くて良かったです」


「隷属した混沌の元凶。その100倍の人間は秩序の中で生を全うする。混沌が混沌を生む事を考えればそんな数では済まなかろう」


審判の神、ウルシュ様もめてくれた。


「私はその者の行動を見ずに加護を付けたのは御子が初めてですが、さすが秩序と混沌の神に愛された御子です。審判の神として誇らしく見ていましたよ」


「ありがとうございます」


「そうじゃ、悪徳の街、石棺の解放、生贄への介入を見て最高神がアルを見つけた意味が去年分かった。そもそも我らは気に入った人間に加護を与えるでの、その位は穢れておる。分かった上でやって承知の上だ。創世の神々が穢れも承知で加護を与えた意味がアレを見て良く分かった」


「ありがとうございます」


「褒美だ。1月20日頃となる」

「はい?」

「お主が考えている事よ(笑)」

「え?」


「このままではルーミス、ユウド、ヤーリカ、セラスへの街道が難民であふれかえるぞ、ハーヴェスから助けるなら上手くやれ。逆に言えばそれまでに街路灯をやれば良い」


「ありがとうございます。未来視です?」

「そんなもの持っておらん、知ってどうする(笑)」

「そうなんですね(笑)」


「艦隊の動きでは補給が済み次第動く」

「助かります、他は無視でも大丈夫です?」

「好きにせよ。難民を想う気持ちに応えただけだ」

「はい、それでもありがとうございます」


「よい、民は国の悪事など知らぬ。急な戦乱で何もかも失い苦難の生で磨く事もなかろう。お主の考えも否定せん」


「救える者だけしか救えません」

「それで良い。誰しも短い生なのだ、好きにせよ」


「はい」


盛者必衰じょうしゃひっすい有為転変ういてんぺんに抗うか(笑)」


「秩序と混沌は考えません。視たくないだけです」

「迷いも無くなったか(笑)」


「それよりアローシェも話があるそうだ」


「それよりって人の生なのに(笑)」


「何度も器を巡る。今回だけではない」


「私が生きてる間は視たくないだけです、私が死んだら混沌衆も好きにやればいいんです(笑)」


「わかった。好きにせよ(笑)」



「アローシェ様、何かありましたか?」


「素晴らしいチューでした!」


「・・・」見られてた。話が変わり過ぎだ!(笑)


「互いの心が溶け合うまれに見るキキ、キス!」


キスと言われて余計に恥ずかしくなる。


俺達の秘密に興奮しすぎだ!(笑)


「良いのです。そういう甘酸っぱいのが良いのです」


「読まないでください!」


「側近の目を盗み、そっとついばむチューもグッドです。二人の秘密は高得点ですよ!」


高得点とか、ギャルゲーか!

全部見られてグッド言われた。


「私の加護を持つなら、その愛を大きく育てなさい」

「それアローシェ様の願望ですよね?」

「リズの愛は育ってますよ」


そうなんだ。


育ってると言われたら嬉しいな。朝顔の芽が出たら嬉しい系の嬉しさだ。


「何を言っているのですか、苛烈かれつな現世でお互いに見つめ合い思いやる愛はなかなか見られませんよ」


語るに落ちてる。


「寄生スライムを思いやる愛はありましたか?」


「・・・」おぃ!


「僕なりに愛を込めたんですが、余りにも強情で」


「アレの神に忖度そんたくする打算の愛が透けてます」


腐ってもアローシェ様だった。


「これ!何を言うのですか」


言ってない。けど読まれてる。


「御子よ、聞きなさい!」


「はい!」ぎゃー!


「ギャー!じゃありません。お互いを想い深めなさい。深い愛の中できっと良い子が生まれます、愛の芽を育てるのです。期待してますよ」


「そうです!全ての器は繁栄のために愛を紡ぎます」


アローシェ、デフローネ、ツープラトン攻撃か!


「イヤイヤイヤ!まだ二人共子供なんです」

「すぐ大人になりますから大丈夫です」

「あと3、4回来ますからその時で結構です」

「すぐです!」

「まだです!」


「・・・」


「イヤ、ホントまだ早いと思います」

「そう言いながら隠れてチューする癖に!」


「グッ!」グが大きい。


「繁栄のステップを二人で舞うのです」

求愛ダンスか!マジ勘弁して。


「ネフローも言いたい事があるらしいぞ」

「ネフロー様も?」


「私が加護を与えてるにも関わらず、あのエルフの一閃はなんですか?アレは加護無しですよ。恥を知りなさい!」


「加護無しって、ネフロ―様も付けたでしょ?」

「怒りながら付けたのは初めてです!」


「怒るって、無理でしょ!アレに勝つなんて」

「負けるには、負け方もあると言ってるのです」

「エル様の加護が・・・」赤い大魔神だったし。

「だまらっしゃい!」

「はい」しゅん。


「最近のあなたは目を奪われた物に向き過ぎです。一日中、目をらさず武を極めんとした日々をお忘れですか?」


「イヤ、それもですね・・・」

「言い訳が過ぎます!たばかつもりですか!」


「ごめんなさい。でも真っ直ぐに鍛錬してます」

「・・・」えー!マジかよ!もっとかよ!


「魔力線の仕組みもボケてる様ですね?」

「イヤ、なんとかしようと・・・」


「剣を極めれば体得すると知り剣を振らず・・・」

「・・・」げ!


「わざわざ遠回りを考え実践しない剣術・・・」

「それは・・・」読まれてる。


「波動も螺旋も中途半端・・・」


えーん。ひどい言われ様だ。


「ネフロ―も素直にならんか!」

「しかし!言う事を言わねば・・・」

「ネフロ―が稽古を付けてくれるぞ(笑)」

「ネロ様!まだ言う事が!」

「アルを泣かせたいのか?(笑)」


「そんな事はありませんが、武の何たるかを・・・」


「はい!稽古ですね!」ぶった切る。


「・・・」


「忘れるのではありませんよ、構えなさい」


いつもの型に構えた。


「入りますからね、覚えなさい」


「はい!」


途端に体が動き出す。


「波動と螺旋はこうです!」

もの凄いスピードと質量がてのひらから放たれる。精神世界に重みを感じるって・・・力の具象化か?


「もう一度」


もの凄いスピードと質量がてのひらから放たれる。これは概念だ、武を構成する要素の概念で鍛錬してる。


「いつもの型をなぞりますよ?」


全ての打突と蹴突に波動と螺旋が乗る。


「もう一度見せますよ」


同じ様に型の全てに波動と螺旋が乗る。


「ここで身体強化の魔力を乗せる!こうです!」


魔力線は細かく太く生成され打突に乗る。魔力線が具象化してる。間違いない、そういう世界なんだ。


「もう一度見せます」


身体強化で何倍の力が一滴残らず型に乗る。


「それを剣で実践じっせんするとこうなります」


濃密で細かい魔力線が全身にめぐる。波動と螺旋で巡った力が一滴残らず掌から剣に伝わって円の斬撃となる。押しの剣と引きの剣にも綺麗に波動と螺旋が乗って行く。円だ、突き詰めたら剣も円運動になっていた。


「クロメトの型でもう一回見せます」


濃密な魔力線の感触を確かめながら体は最良の軌道でネフロ―様が動かして、その感触が分かる。なぜこんな簡単に見える応用が出来ない。ここは精神世界で誘導しやすいのかとも思ったが、普通の人なら魔力が尽きれば死んでしまう現世。魔力を気にせず行う鍛錬はこの精神世界ならではの鍛錬なのかもしれない。


ここぞとばかりに魔力線も波動も螺旋も視まくった。形を視るのではない。中身を視るのだ。


「ここで使えても現実世界の肉の身では難しいかも知れませんが、確かな感触はつかめた筈です。その先にそれはあります。拳も良いでしょう、しかし武は全て同一線上の鍛錬と知りなさい。磨き上げれば同一化します。覚えて帰りなさい。感触を確かめて帰りなさい」


言いながら何度も何度も反復してくれた。


「ネフロ―様!ありがとうございました。形を真似ても内面の力に戸惑っていましたが分かった気がします」


「鍛錬に励みなさい、見ていますよ」

「ありがとうございました!必ず!」


そのまま神が見守る中、鍛錬を行う。入り込む、集中する。気が付くと一人で白い世界で鍛錬していた。気が付いたとたんに神様達が見える様になった。


「儂らが見えなくなるとは凄いの」

「それぐらい集中すれば大丈夫でしょう」

「調和が取れて美しかったですよ」

「武が技巧まで昇華してましたよ」


ユグ様、アローシェ様も褒めてくれた。


「ありがとうございました。来て良かったです」

「ネフローからの褒美じゃの?」


「え?」

「色々走り回り鍛錬できぬ褒美じゃ(笑)」

「ありがとうございました」

「鍛錬を欠かさぬ様に」

「はい、また来年まで頑張ってきます」

「精進しなさい」

「それではの」

「お元気で!」


教会の中で気が付いた。

タイム:6:12。ぎょえ!1時間も祈ってた。


「御子様、長いお祈りでしたね」

「はい、1年分の感謝の祈りです」

「え!」二度見された。


「神は祈ってすがるものではありませんから(笑)」


「・・・」マジで司祭も驚いている。


俺は確かなモノが体にあるのを感じて教会を辞した。





次回 231話 神教国の公式見解

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