第299話  今に向き合う事



1月1日、新年だ。


ギブラルやスラブの山向こうで雨が降るせいかナレスは豪雪地帯では無い。大陸の中央部で乾燥していて雨が降っても少し。寒すぎてサラサラの粉雪だし、空気中の水分が凍ってダイヤモンドダストにもなる。


そして豪雪地帯の大山脈から雪融けの豊富な水が東のバルトロム部族連合国やチノ共和国の海を目掛けて大河を作る。ナレスは大河による水が豊富で支流も多いから畑作に適して農業国だ。1年前ぜんざいを発見したが白玉を作ってる陸稲りくとうも含めてナレス産100%の農作物で作ってた。


タナウスでは更生村始め、グレゴリ村で農作物を作っているがハッキリ言って自給率は0%に近い。小麦から芋類、穀類すべて宇宙船の元素合成食物でおぎなっている。


自給の為の農作では無いのだ。

病害や荒れ地に強く量が取れる主食になる作物の種苗しゅびょうを作っているからだ。


農作物の品種改良も並行して行っているが実験棟規模で作成した改良種子しか無く、去年初めて大地に蒔かれて取れた種子は世に出ない。去年収穫した種子を今年爆発的に増やせば、片手に一掬ひとすくいいの種子は世に配れるかもしれない。


栄養価が高く良く実る作物は土がせるから土壌保全の知識が無いと何年かに一回は飢饉ききんになる。そういう事も踏まえて農作物を組み合わせる作付けの順番や運用法も考えないとダメなの。


それは実証実験が必要な事で、俺の恩寵、成長促進を使っても一夕一朝では無理な仕事なのよ。農水省の種苗生産しゅびょうせいさんは何十年単位で品種改良を行い育成条件や病害に強い品種を作り上げる事が良く分かる。


運用法を確立し、配る事が出来たら優良な作物なので勝手に広がって行くと思う。当面の目標は気候に合った優良種を世に出す事だ。



元日本人らしく新年の計を順に立ててたら農業の方に引きずられて横道にそれた。


ナレス王城、部屋の暖炉の前で鍛錬中だ。身体に覚えた型を反復しながら並列思考でやる事の筋道や方向性をアレコレ考えるのが俺の朝のルーチンになっている。


昨日、クロメトの総裁にボコボコにされたにも関わらず剣をやらずにラプカ寺院拳波動螺旋拳つかっている。


俺は言われた通りに三門80位の実力なんだよ。相手を視てギリギリ勝つような剣術してたらこの世は渡れない。俺の身体の大きさや恩寵能力や基礎数値も含め、年齢的に剣術は飽和状態と思ってるの。


野球と同じで体が出来て無い。技術は同じでも小さいだけでレギュラーになれないのと同じだ。だから今の俺は体が出来るまでの時間を有効に使って魔力線を細かくしたり波動の使い方を上手く覚えて先に繋げたい。


魔力線も波動も体得するのは体の大きさや恩寵に関係無いからだ。


多分遅かれ早かれ体得するには同じ時間が掛かると思う。それならば体が大きくなるまでに体得すれば良いとベクトルを変えてラプカ寺院拳波動螺旋拳なのだ。


朝の5時から暖炉の前で型を遣う時間が色々と考える時間に丁度良い。ゆっくりゆっくり確かめながら確認していく作業はやればやる程身に染みる気がする。


-----


初志しょしと言う言葉がある。


最初のこころざし、夢や未来。誰でもある思い描く自分。しかしいつしか日々の慣れに流され初志は蜃気楼しんきろうのようにブレて行く。


アルが優れているのは初志がブレない事だ。ああなりたい、こうなりたい。最短距離はどうしたらいい?と絶えず考え、手本を見つけて良い方法を模索もさくする。


ランニングしながら考える時間。型をしながら模索もさくする時間。毎日同じ事をしながら慣れる事がない。初志が大きければ大きいほど慣れは危険だ。慣れにたゆんで目標をブレさせ、漫然まんぜんと過ごす事で歩みを遅くする。


それは、自分の今を消費する。


磨く事は今の自分を大切にすることだ。未来の目標を見据みすえて今の自分を作る事。明の最初は野球が上手くなりたいだった、それしか考えなかった。その一事から学んでいる。


どの世界にもプロがいる。それに打ち込んで与えられた24時間を使い、登る人間がいる。その道の登り方を明は野球で学んだ、目の前の凄い奴がプロになって行った。未来を作るとはそういう事なのだ。今と向き合う、漫然まんぜんと過ごさない。向きあい方は人それぞれで方法など無い。


明のやり方は、決められた下積みをキッチリ行う事がだと言っていた。それが出来ないと土台が出来ないと言っていた。辰雄さんに建設業の下積みを語っていた程だ。


置き換える。


10分で出来る用具の手入れを漫然まんぜんと過ごして、漫然まんぜんと練習に行く。これは伸びない、誰しも分かるはずだ。


放課後の掃除、放課は自由時間。皆遊んでいる中で放課が終わってチャイムが鳴り掃除をする。それはたった10分の掃除。その10分の掃除が明と他の野球部員を分ける境界きょうかいだ。


自由時間にツレと楽しく話をして遊んでいてもチャイムで切り替え、スッと掃除の時間に入って行く。中学生だ、誰しもそんな者はいない。しかし良く見ると居るのだ、そういう奴が。


10分を決められた掃除に集中できる奴、それが明だ。掃除の終わりに部活に走る、そこからは部活の時間で同じ様にスッと入って決められた下積みをキッチリこなす。そして練習に打ち込む。そこには今という時間が存在するのだ。


アルには漫然まんぜんと逃がさない目標に向かう今が存在する。今を認識する事でその時間は濃密になる。


時間が経つのを忘れる。


勉強もそうだった、明は野球から決別すると普通の高校生になるなら良い学校に行きたいと目標を立てた。毎日今を見失わずに努力したのだ。


掃除や用具の手入れ、下積みや野球の練習を勉強に置き換えたらいい。自由時間から掃除に切り替えられない事は、遊びを切り替えられず勉強に切り替えられない。漫然まんぜんと遊び、そのまま流れで漫然まんぜんと勉強して成績が伸びる訳がない。


下積みは嫌だと10分の下積みを漫然まんぜんと過ごして、そのまま練習に入って伸びる訳がない。ガッ!とその10分を下積みに集中して、時間を分け、次の節目の練習にもガッ!と集中して入って行く。


いつしか人は初志を忘れ、未来を蜃気楼しんきろうの様にボケさせて夢破れて行くが違う。今の自分の目の前の事に集中できない。掃除に集中できない、下積みが出来ないと言うのは基本中の基本だ。人には向き不向きがあり、やり方もあるから一概いちがいに言えないが、その集中する過程で向き合う事に不向きなのが分る筈なのだ。


パティシエに不向き、経理に不向き、営業に不向き、現場に不向き・・・。そうして皆がベクトルを変えて最良の方向に向かっていく。


その未来へのベクトルを決める土台は、下積みが出来るかどうかと明は知っている。今に集中できるかどうかに掛かっている事を知っている。人は皆同じ時間を過ごして同じ様に生きていく中で変わるものなど何も無い。


初志を目標に今を生きたら良いのだ。


友達と仲が悪いと悩む。友達に迎合げいごうせず我を出して否定したらそうなる。その過ちを知って反省して修正する。嫁と仲が悪い、嫁に迎合げいごうせず機嫌を取らず否定する。我を出し孤高ここうを選んだのだから大切にされる訳がない。


夫婦となる初志。結婚した二人の初志はお互いの孤高ここうでは無かったはずなのにブレてしまったのだ。


学校生活も社会人の生活も変わらず同じで区切りなく時は流れる。目標に向かう階段をのぼる己を知覚することは大切だ。今、目の前にやるべきことを積んでその道を登るのだ。練習会しかり、センター試験共通試験しかり、司法試験しかり、仕事に求められる能力しかり。


だからアルは今を集中する。


人生に安近短あんきんたんを望むには自分で歩くしかない。


歩いた者は分かる。


安近短あんきんたんが無い事に。



-------



王宮の朝食の前に聖教国の御子服を着る。

やっぱ一年分もらっておくとつんつるてんやゾロゾロは無くなって良い。コアさんに耳元の髪を少し切ってもらった。


7時半に呼ばれて朝食に行くと、新年の朝はナレス王家は家族全員そろっていた。奉加参拝ほうがさんぱいの民に拝謁はいえつ後は王家の公務は終わりとなるのでみんな元気でタナウスの話に花が咲く。


今年はネロ様以下6神の氷像もやめておく、今年もやるとずっと続きそうだからだ。日中-5℃とかの寒い中に司祭を立たせるのも悪い(笑)


ナレスの奉加参拝が終わり次第にリズと側付きを連れてタナウスの新年挨拶あいさつに行く事を伝えた。建国はまだでも政務官もいるし国民がいるので新年の挨拶をしに行く。


交感会話でコアさんに謁見えっけんを提案されたのだ。


シズン、シーズ、パリス、ミンの各大陸に大陸交易路の基地を建設中で30人弱しかいない政務官が各国の交易路の拡充やルールのシステムを考えてくれている。


新年からはナレスの奉賀参拝ほうがさんぱいが終わってから、タナウスの政務官に謁見えっけんし、お声を掛けられては?と提案されたので決めた。


・・・・


奉賀参拝で集まる民に、陛下から北方騎馬民族の討伐が宣言され、北の地はナレスの領土となった事が告げられた。ナレス王国万歳、ヴォイク家万歳と色鮮やかな布が民に振り回される(笑)


いつかタナウスもこうなるといいな。


・・・・


ナレス10時>タナウス12時。


リズとナタリーとセオドラと一緒にタナウス宮殿に跳んだ。俺は御子服、リズはドレスにクラウンにタスキだ。


コアにお召替えと言われて、服を変えられた。


それは、聖教国、シズン、シーズ、パリス、ミンの良いとこ取りのような服。宗教国をこれでもかとアピールする豪華なお召し物だった。


リズと同じく純白と言うよりパールホワイトに光沢が出ている生地で作られた膝上までのチュニックにズボン、その上から袖広のダルマティカが全身を覆う。右肩から斜めに左の肘に抜けて背に下がる片流れの金糸のマント。日本で言う豪華な袈裟けさ来た坊さんと一緒だった。


渡された錫杖しゃくじょうが凄かった。

タナウスの超科学で作った俺専用装備(笑) オリハルコンの杖だよ!流石コアさん!良く分かっていらっしゃる。俺の強固なイメージによるの精霊魔法特化の杖。イメージをそのまま具現化するに特化した錫杖しゃくじょうだった。


その杖はレイジングハート。

頭の部分は小さいがデバイスモードそっくりだった。ジロリとコアさんを見ると予測しましたと言う。それは万能の言葉だ。


錫杖で棒がオリハルコンで乳白色。キャッチーな頭の装飾の部分に宝石ポイ深紅の球(ピンポン玉ぐらい)が付いてたら、まぁデバイスモードっぽくなるわな(笑)


ドキドキハートの杖じゃ無くて良かった。


「コアさん・・・予測してるんだよね?」

「しています」

「分かるよね?」

「分かってます、そちらが教皇装備です」


「うん。こんな格好で何処どこも行きたくないよ」


「こちらが皇太子の装束しょうぞくです」


袈裟部分の片流れのマントが可愛い服が出て来た。基本教皇の服と一緒だが明らかに格式が落ちる。クラウンの豪華さが非常にミニになって大変良い!杖はそのままらしいが自動サイズ調整で元々身長に合わせて小さくなってる。


これでもかと装備に魔術紋が盛ってある。靴は劣化版の妖精の靴だった、性能変わらず靴底だけが変化する。服に合わせたデザインで固定なので一度俺に見せないと妖精の靴も変化させられないと作っていた。ここはほぼ年中夏だからゆったりとした7分袖に冷房紋。冬用はローブもダルマティカも長袖で片流れの袈裟は一緒だ。


「ありがとう、コアさん」


「各宗派の御子服はお持ちですが、そのマントには各宗派の紋章が左に流れて勲章で付いておりますので、その服で宗主国タナウスでも各宗派の大司教も名乗って頂けたらどこに出ても恥ずかしくありません。こちらが各宗派の身分証を追加した指輪になります」


「まぁ、そういう儀典ぎてんは嫌いだし近付く気も無いけど、御子で通用しなかったら使わしてもらうね」


「それでよろしいかと、その身分を作り次第に各宗派の名簿に大司教アルベルト・タナウスで載っておりますのでご安心ください」


「ありがとう!でも奇跡を見せる時しか要らないでしょ?必要な時はいつでも言ってね?普段コアさんが頑張ってるから、すぐに行って宗派の名前で奇跡するから(笑)」


「重要な事があればアル様にお願いします」

「奇跡でパッと黙らせたらいいのよ(笑)」

「はい(笑)」


「それでは13時からの謁見となりますので昼食をお先に召し上がって頂きます」


「はーい」


12時20分。


着替えた俺の姿にリズとセオドラとナタリーがハッとする。宮殿の侍女とメイドと執事がリズと二人並んだ服を直してくれる。


「先に食事行くよ(笑)」


リズとセオドラとナタリーがずっこけた。


・・・・


「セオドラとナタリーは少し待ってて、これからタナウスの家臣団との謁見えっけんになる」


王家にかしずく様に片膝で頭を垂れてくれる。


神教国の皇太子装備で王女装備のリズと宮殿を歩くとすれ違うメイドと執事が上品な儀礼をしてくれる。右手を心臓の上に当てて礼は15度で通り過ぎるまで立ち止まってくれる。


「この格好の時はそうなの?」

「その恰好の時はお客様がいらっしゃいますので」

「なるほど!」

「アル様が喜んでますわ!(笑)」

「だっていつも冒険服で走り回ってるもん(笑)」


宮殿横の神都の執政官事務所。政務官の会議室に入ると総勢26名が迎えてくれた。皆がチリウ王国で宰相以下、外務、財務、政務、軍務を担った1位から5位までの政務官だった者だ。今のタナウスは宰相含め政務官26名に当時の部下達の執政官22名の合計48名の陣容で事務所は回っている。他には元騎士団と元守備隊の者が合計26人が神都警備職に就いている。


俺の服を見て王の謁見と格式が同じ事を悟ったのか、何も言わずとも会議用の席に付いていた皆が立ち上がって儀礼をしてくれた。


「皆、ありがとう、座って下さい」

皆が座ってくれる。


「皆さんのお陰で少しずつ神教国タナウスが整備されて行きます。大陸交易路構想の件では成果を聞いています。神教国タナウスはみなさんが自身で作り上げる国家です。この様な格好は外交上の物と思って下さい。横にいるのはさる国の第三王女リズベット姫です。神教国と敵対する国より王女の国が狙われる可能性もありますので大陸と国については内緒にしておきます。私の婚約者で建国の折には王妃となります。皆さん今年も神教国の舵取りをよろしくお願いします、新年の挨拶と共にこれを持って帰り家族の皆さんと飲んで下さい」


ブランデーの瓶を26個出す。


「王女の国の最高級のお酒です。今年一年またよろしくお願いします」


コアさんが頷くと皆が席を立ち儀礼で言った。


「神教国タナウスに誓って!」


視たら国王に忠誠を捧げずに国に忠誠を誓えと俺が言った事から、その言葉を了解した意味で使うらしい。ハイル・ヒトラーヒトラー総統万歳!みたいやな。


「建国までは毎年1月1日の午後にここで謁見します。以後1月10日までタナウスはお休みなのでみなさんも街や村に帰ってお休み下さい。毎年新年は11日から仕事始めです。こんな格好ですが国中どこで会っても普段からアル様、リズ様で良いですからね」


「それでは、このお酒を取りに来た人から解散です、リズの国のお酒だからリズが渡して上げて」


「はい」

「リズです、よろしくお願いしますね」

「王女様、神都都督(代官)のベルン・・・」

「王女様、財務政務官のマール・・・

「王女様、民生(移民)政務官のニール・・・

「王女様、転移拠点政務官の・・・

「王女様、交易路整備政務官の・・・

「王女様、物資調整政務官の・・・


皆がリズに自己紹介を始めたので時間をだいぶ食った。


・・・・


そのまま宮殿馬車でアルムハウスに行く、リズを3賢者に会わせないといけない。アルムハウスは教会部の政務官事務所だ(笑)


14時30分。


ベガとクレアさんはうまい具合に海だ。コアさんが教会部をすべて集めてくれている。


「みなさん新年おめでとうございます、初めての人もいるので紹介します。僕の婚約者のリズベット姫です。」


「アル様の婚約者のリズベットでございます」

「ほぉ!教皇の正装かの?」

「リズはさる国の王女の正装だけどね(笑)」


「初めまして、聖教国の大司教でタナウスでは賢者を拝命しております、王宮魔術師 賢者 アルノール・ファルクです」


「リズ様、はじめましてでは無いの(笑) 儂も同じく賢者の ベント・キャンディルムじゃ」


「はじめまして、同じく賢者を拝命しております、ジェシカ・アントムと申します」


「こっちが、僕のPTに加わったスフィアね。今アルムさん達とダンジョンで修行中なの」


「スフィアです、よろしくお願いします」

「リズです、よろしくお願いします」


そのまま皆でお茶にした。

リズがアルノール卿に聖教国の事を色々と聞く。リズは賢者を初めて見るので俺がこの三人の賢者は自分の師匠で、そこらの魔術師とは違う事を力説する。皆にベント師匠の姪のフラウ様はリズの魔法の師匠だと教えた。


折角なのでリズをワールスの二人に見せようとドレスや法衣から水着に変えた。そんな格好で行けば海で遊んでる人が迷惑する。シズクとスフィアとリズはワンピースの新作水着だった。アルムさんとクルムさんはセパレーツのスポブラ系ビキニに変えている。黒に花柄の・・・それのハイビスカスだぞ(笑)


俺の知識がこの異世界を毒して行く気がする。



砂浜でエール飲んでビーチチェアに寝そべるベガとクレアさんに挨拶に行く。


「ベガー!クレアさーん!」

「おぉアル!聞いたぞ御子様なんだってな(笑)」

「何処まで聞いたの?(笑)」

「聞くと教えてくれないのよ(笑)」

「この国に来たならその内知るってよぉ(笑)」


一緒にハウスから来たアルムさんとクルムさんがテキパキとビーチチェアーやサイドボードを海の家から運んでセッティングする。シズクとスフィアは二人でを借りて海に突撃して行く。


「こっち婚約者のリズ、さる国の第三王女様」

「え?お前やっぱり貴族だったのか?」

「ベガ!王女様よ、アル君て相当のお貴族なの?」

「普通の冒険者です(笑)」

「普通の冒険者は王女様と婚約しねぇ!あ!」


ベガが気が付いて寝そべっていたビーチチェアから立ち上がる。それを見てクレアさんも立ち上がる。


「ベガと申します。魔法具屋を営んでおります」

片膝付く臣下の礼だ。


「アル様に聞いてます、この指輪を入手下さったのですよね?ありがとうございました。感謝しております」


「あ!は!はぃ!そうです。その指輪です」


「私はクレアと申します、ベガの冒険者仲間です」

こちらも片膝付く臣下の礼だ。


「二人ともよろしくお願いしますね(笑)」

「ベガが礼儀っぽい事する(笑)」


「バカ!お前王女様の前で礼儀無くてどうするよ!」

「そうよ!アル君、王女様は珍しいのよ!」


珍しいと言う(笑)


「まぁいいや、二人ともどうすんの?住むの?」

「おぅ、住むぜ!」

「私も住むわよ!」

「仕事はどうすんのよ(笑)」


「気が向いたら?」

「4か月したら?」


お前らフィーリングカップルか(笑)


「ここ、エルフ姉妹を見に連れて来たけどさぁ。実はまだ国になって無いの、内緒の国なの(笑) ここにいる人は国を捨てて逃げて来た人たちや、街で暮らせない悪党達を宗教で改心させてる島なの」


横のエルフ姉妹を見ながら言う。


「アル君。いいじゃない、気に入ったんだから」

「アルム、大事な話の最中よ!」

「はーい」


「おぉ・・・それで?」


「楽園だとか、仲間とかに内緒にして欲しいの。と言うか、出来たら二人が知った訳アリでそのままでは潰れてしまうような行き場の無い人達、国に翻弄ほんろうされて行き場を無くしちゃった人達をここに逃がして欲しいかな?それを心掛けてくれたら家を用意させて頂きます」


「おお!訳アリの島か、いいぜ。分かった」

「街だけじゃ無くて人の村もあるのよね?」

「あります、国の機能は徐々に備わってます」

「て事は何年後かに国になるんだな?」


「僕とリズが結婚するときに国になります」


「今もタナウスの貨幣があって回ってるんだ、国と言っても良いんじゃねぇか?(笑)」


「いえいえ、リズの国では2~3万の奉賀参拝で王宮の前は民がウォー!って地鳴りがするほどたたえてましたからね。アレぐらいは民が欲しいです」


「この神都は何人いるんだよ?」


「宮殿のメイドや執事たちを入れずに1000人です(笑)」

「後の20万はどこにいるんだ?」


「馬に乗って暴れ回る人達とか?そのままだと野生過ぎて滅んでしまうのでこの国の野生の場所にいます」


「未開の人種丸ごとかよ!(笑)」


「そこまで未開の人達じゃないです、騎馬で放浪の民なので国境に当たると問題が起きるので連れて来てます」


「あぁ、国を持たない放浪民族な。何処に行っても文化が違うと受け入れられねぇわ。一度シズン教が改宗するならと譲歩じょうほしても自分の宗教を変えねぇから国境から追い出されてたわ(笑)」


「そんな感じで、この国の教義を知り協力出来るなら家を用意します。この冊子が教義です。うちの宗教は改宗しませんからシズンでもパリスでもリケットでも宗派は構いません。その教義を胸に生きてくれたら大丈夫です」


冊子を二人に渡した。


「分からない事があれば、アルノール卿に聞いて下さい。一晩考えて明日納得してたら家を見に行きましょう」


「いいよ!お前が真っ直ぐなのはもう分かってる、良く読ませてもらって分からなかったら大司教様に聞くよ」


「私も良いわよ!アルムとクルムから聞いたわ、エルフ用の移住の森があるじゃない。アルムの森が400年ほど経つと移住するって言うから、私も村が分かれる時に連れて来ようと思ったの」


「え?そんな事まで聞いたの?(笑)」


「夜明けに連れて行ってもらったわ、良い森だった!移住先の森を探す旅をしなくていいわ!」


「僕とリズが生きてる時に来てよ!(笑)」

「アルが村で誘えば結婚前の娘は皆来るぞ(笑)」


「アル様!」

「違う!それは違う!」

「お主、エル様に言われとろうが」

「な、何言ってんの!それ今言うの?」

「声が震えとるぞ(笑)」


「・・・」

「クルムさん、後で詳しく!」

「アルが泣きそうよね?」


ALL「(笑)」




次回 230話 ハーヴェス帝国の反撃

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