第298話  根を張った深さ



クロメト総裁の


食事と呼びにきたメイドさんに助けられた。


総裁が意識を向けた刹那せつなの隙を逃がさない!


「ご指導ありがとうございました!」

「こ・・・」何も言わせない。


頭を下げるなりサッと跳んだ。


3か月間の習慣は恐ろしい。当たり前の様にスカブの裏街に跳んでいた。皆と集合していたお茶屋さんの近くだ。跳んだついでに昼を食べようとお茶屋さんの横にある食堂に行こうとしたら話し掛けられた。


「あれ!あんた。居たのかね?」

「は?はい」お茶屋のお母さんお婆さんだった」

「急に来なくなって!心配したんだよ」

「すみません、修行が終わったので・・・」

「分かってるよ、4人がお山の達人だ(笑)」

「はぁ、あのご飯を食べたいので・・・」

「入んな!」手をつかまれ引きずり込まれた。


お母さんお婆さんの店のご飯じゃねぇよ!隣の食堂で肉野菜炒めと決めてんだ!お茶屋の茶そばや茶うどんの気分じゃねーよ、俺はガッツリ栄養が欲しいんだよ!

 

※小麦粉やそば粉にお茶粉の入ったうどん汁のドンブリをアルがそう呼んでいる。他にそばがきのようなもある。質素な食べ物だが腹はふくれる。アルは香りよりもかさを増すためにお茶の出しガラを入れてると心底しんそこ疑っている。



しょうがないので茶そばで作ったゴマ団子200個を10個包みのかごで頼んだ。(ここは高地で竹系の植物が多く竹の小籠こかごに入れてくれる)お母さんお婆さんも調理に参加させて振り切る作戦だ。そば粉の生地に(出しガラのお茶粉を入れて)あんが入って、ゴマをまぶして揚げてある。お茶と一緒に頼むとお安く2個付くお団子でアルムさんが良く食べていたから土産に丁度良い。


「隣の食堂に居るから出来たら呼んでね」

「はいよー!」すでに飯を食わす気が無い。


隣りの食堂に冒険服で入って行くと、隣の親父も俺を見知っていたみたい。


「坊主!久しぶりに見たなぁ(笑)」

田舎は・・・やっぱこうなのか。


「久しぶりにスカブに来たので」

「日替わりでいいかい?」定食。

「日替わりなに?」

「豚の煮込みだな」

「肉野菜定食に豚の煮込み付けて」

「あいよ!日替わりに肉野菜一丁!」同じだ(笑)


食事を待つ間、昼に集まるお客の魂のくもりを視ていたら小さな女の子が店に入って来た。一直線に食堂のおばちゃんの所に行く。少ししておばちゃんが声を上げた。


「この中で字が読める人はいないかい?」


店内の客は『え!』と止まった。取り合えず手を挙げた。手紙を読んで欲しいのが視えたからだ。


女の子が駆け寄って来て手紙を渡してくれる。


が! 読んだ瞬間、息が詰まった。人前で口に出して読める代物しろものじゃなかった。


「リデ、久しぶりに会おう、不義ふぎの子を一緒に連れて来い。それは俺の子だ、平民が育てて良い者ではない。姿を見せない場合はお前の家族にわざわいが降りかかる、子爵家をあなどれば皆が不幸になる」


並列思考がそのまま変換して行き、辻褄つじつまが合うように読みつづる。


「リデ、お前が世話になったヨハンさんが亡くなった。お前が顔を出さないと私たちも肩身かたみが狭い。旅が出来る程の子供もいるなら一緒に顔を見せてヨハンさんの家族に感謝を伝えておくれ」


「だそうだよ、分ったかい?」ドヤ顔の女将。


「お父さんに言わずに兄ちゃんと行っちゃったの?」


そんな背景に驚いた、慌てて付け足す。


「旅なら一泊大銅貨5枚は居るよ?10日の場所にお兄ちゃんとの二人旅なら往復で金貨が要るんだよ。お父さんに言ったら怒られるんじゃない?」


女将さんも日替わりを配りながら言う。


「普通は行かせてもらえないね。リデは元々生まれは良いと思ってたがムンで手紙が読めるなら相当の家だよ」


「僕もそう思うな、スカブの街だってパリス教会の手伝いしないと本とか読んでもらえないしな。手紙が読めるお母さんはすごい人だぞ」子供っぽく言う。


「お父さんに教えてあげな、待ってるんだろ?」

「うん!」6歳の女の子は走って行った。


お父さんのコンゾは薄々事情を知っている。

長男が自分の子では無いからだ、手紙で残った弟妹に知られるのを恐れている。この子が知りたがり、弟妹が賛成するのを止められず心配顔で見送っていた。


「あんたも相当な家なんだろ?(笑)」

「僕は剣のお師匠から学びました」剣をな(笑)

「良いお師匠だねぇ(笑)」


日替わりを食べ終わってお茶をお願いしてたら隣のお母さんお婆さんが来た。ゴマ団子200個、生地から練るけどあんも炊くので2時間は掛かると説明に来た。


「あんた!ゴマ団子200個は相当な家だよ!(笑)」


ちげぇねぇと周りのお客も笑う。


「何言ってんだい!この子はお山のお貴族様だよ!」


その場の皆が驚いた。お山のお貴族(剣士)はスカブの街をうろうろしない。剣一筋で磨いてるからだ。


お茶屋のお母さんに200個でも300個でも2時間後に出来た分を買わせてもらうと言ったら食堂の女将が13時から団子作りを手伝う事に決められていた。田舎ってすごい(笑)


ゴマ団子の話が済むと運ばれたお茶を飲む。


新年があと12時間と迫った時に舞い込んだ貴族のゴタゴタに首を突っ込もうと思っていた。我ながらマクロ視点なのかミクロ視点なのかブレブレの使徒だ(笑) 


まぁ俺の行動理由の大元は、だから。今年最後のキメ台詞はオッパッピーだ。



手紙の内容から顛末てんまつを想像したら視たくない結末が容易に想像できるのだ。子爵家が俺の子と言うお兄ちゃん。それは跡取りを意味する。


お母さんがスカブの街に帰って、お兄ちゃんが居なかったらお母さんを責めるだろうな。4兄妹と思ってるのにいきなり兄が居なくなるのだ。無垢むくな心で子供達は兄を売ったと泣きながらお母さんを責める。真相を知るまでにお互いに大きな傷を負う。と思ったら動かずにいられなかった。


とにかく子爵の心を視てからだ。

あんな脅しの手紙書くぐらいだ。俺の時間を使わせたことを後悔する程にはと思う。


お父さんのコンゾを検索して追視する。

当時1~2歳の長男の親として何も言わずに過ごす事が子持ちのリデとの結婚の条件だった。未亡人と思って求婚しコンゾは今まで何も言わずに幸せに過ごしてきた。


それが三日前に突然妻は長男を連れ、朝には居なくなっていた。


妻が旅籠はたごの手伝いで溜めた針箱のお金も無くなり手紙が隠してあった。旅籠の手伝いも当分来られないと断っていた。コンゾはその時が来たと薄々感じていた・・・


・・のに手紙を読んでもらった子供の言葉を聞き、コロッと悪い予感が吹っ飛んだ。旅費が大きくて普通の嫁は実家に帰らせてもらえないと子供が聞いてきた。コンゾはリデが実家に呼ばれて、夫にも言えずどうしようもなく里帰りしたと安心した。コンゾは良くも悪くも人を疑う事を知らぬ正直で純朴な田舎の人だった。


・・・・


子爵家に行って視た。

貴族の務めを果たさぬアホが当主になっていた。 アホの側近も若い時から一緒に遊んできた野郎なのでタナウスに連行してやろうかと思ったが、こんなアホな奴まで怒ってたら側近の家族まで巻添いになるので大人の事情で許してやった。


当主になって3年。妻との子も出来ず4~5年で離縁を繰り返して早53歳。もう貴族の間では子を成せぬ男の烙印らくいんを押されている。メイドも街の女もはらませ、産ませる為に金に飽かして襲っていた。男爵の弟の子に当主を渡したくない一心で焦っていた。


嫁に子が出来ずに12年前の子爵41歳に関係した屋敷のメイドに子が出来た。子をせる己に自信が出来ると共に親(当主)に放蕩ほうとうの発覚を恐れ、メイドに金を渡し自分から身を引かせた。その時はメイドに子が出来た事実で嫁に問題があると思った。


以後嫁を変えても、メイドと関係を結んでも子が出来なかった。もう一度リデと関係を持ち子を産ませる。子が出来たら嫁に迎えようと思っていた。子爵家の嫁に迎えるならば大喜びで来ると思っている。生まれなければ不義の子を養子にしてしまえば自分の子なのだ。


リデが訪ねて来たら屋敷から出す気はなかった。


領民の方を向いていない。自分しか見ていない領主の典型だった。政務官や代官に領の経営を丸投げして食わせてもらってる乞食貴族だ。問答無用で側近を隷属して布教した。悪い事に加担しない家庭を守る正直な側近になるだろう(笑)


子爵の隷属は布教以外の誓約が多かった(笑)


離縁状を書いた歴代の嫁に辛く当たった詫びを入れ、相応の資産を嫁と嫁の実家に入れる事。関係する街の女やメイドに手厚く礼を出して暇に出す。子をあきらめて弟の子を後継者に指名する事を公表し王家に届ける。以後は布教の通りの真面目な人生を過ごして領民を安堵する事。訪れたリデに若き日の許しを請い、遥々はるばる旅した母子に充分な褒美と養育費を渡して帰す様にした。


こんな長いゲッシュ誓約は初めてだ(笑)


手紙と全く違う話に戸惑うだろうが、仮にも子爵家当主が口に出して言うならボケていても側近ですら言葉を返すなんて無理だ(笑)


子爵領でご褒美が待ってるからな。

あと1週間の道程にいる乗合馬車の母子にエールを送る。


旅で悩んだ分だけ報われるから頑張れ!


俺は手紙を読んだだけ、。家族を守るために旅立ったお母さんに味方しただけ。顛末てんまつまで追う間柄じゃない。


年末1時間のサービス残業だ。


年末にドロドロの貴族家の跡継ぎ問題とか!子供になんて仕事させんだ!と因果いんがののしった。


まぁオッパッピーならそんでいいや。

(意味分んない)


多生の縁とか無意識に口に出した。


それは輪廻に巡る魂が現世で袖すり合った奇縁を言う。マクロもミクロも揺りかごから墓場まで視たく無かったら首突っ込んでやるよ(笑)


2時間後の14時半と言ったのに、後30分で作った団子が全部揚がると15時過ぎまで待たされた。ゴマ団子を残しても売れないと言われたら待つよ、俺が注文したのが悪い。そんなのも田舎アルアルだ(笑)



・・・・



ドロドロの跡継ぎ問題見せられて気分がムシャクシャしたので楽しい事を考えた。冒険号へ行って最近は食べ慣れて美味しいと思うバタークリームのホールケーキを種類別に山ほど持った。フラウお姉様に持たせたケーキだ。


ナレスの王宮に行き、リズとセオドラとナタリーに協力してもらい王家の家族会議室を借りた。


用意が出来たら通りがかったメイドに序列最後のメイドの名を聞き。セオドラに名指しで呼びに行かせた。


「メアリはおりませんか?」


リネンセクション(生活用布製品のクリーニング担当)のリーダーのメイドが驚く。王女の側付そばつきが名指しで呼びに来たのだ。平伏して聞く。


「メアリの担当部署のメイドは全て集まりなさい。リズ様がお呼びです。直ちに参集さんしゅうし王家の会議室に出頭する様に」


当然、普通の呼び出しではない。なのだ!の言葉で部署のメイドが凍り付いた。湯浴み着から足ふきマット、タオル、シーツ、枕カバー・・・クリーンの粉を発見されて叱責しっせきされることなど山ほどある部署だ。


程なくして、22名が出頭しリーダーのメイドがノックした。


年末にどの様なお叱りを受けるか顔が強張ってる。ひどいイタズラだと思いながら首謀者しゅぼうしゃが笑う。


部屋に入ったメイドの前の机には、今ナタリーが切って運び終わったケーキの乗った皿があった。


メイド達にリズが言う。


「皆様、良くいらっしゃいました!アル様から異国の美味しいケーキを沢山頂きましたので、忙しい部署のメイド達から振舞おうとお呼びしました。メアリは一番下だから大変でしょう?メアリの部署から最初に振舞いますわよ。そこに序列順に座りなさい」


座った者からナタリーがお茶を注ぐ。


「私もまだ食べて無いので一緒に頂きましょう!」


メイド達は地獄から天国に昇って行った。


一回トラップに引っ掛かった者を接待役に任命し、アルとリズの名の元に各部署の者を名指しで呼び出してケーキを食べさせるように連鎖させた。3部署が終わると3つのそれっぽい王族部屋に呼び出して回転を3倍に上げた。


16時過ぎにジョルノーとマリリンがそろって来た。


王家の会議部屋への呼び出しにビビった執事とメイドが執事長とメイド長に泣き付いたそうだ。年末に褒美を与えてるだけだと会場に案内すると二人が笑い転げながら怒った。


余り使用人を怖がらせてくれるなと怒ったが、止められなかったので許された。


シャレで副執事長と副メイド長を名指しで出頭せよと呼んでやったら、ジョルノーとマリリンも悲壮ひそうな顔して入って来たのでこっちがやられた(笑)


年末をいろど晩餐ばんさんのお茶の時間にそのケーキを陛下と頂いた。晩餐ばんさんに立ち会った執事長とメイド長以下の使用人がマジで驚いた。陛下より先にそのケーキを食べていたからだ。俺とリズだけが使用人の顔を見て喜んでいた。


そして、その晩、使用人の夕食に違うケーキが一切れ付いた。


新年の王族が食べるケーキである。使用人の食事後、執事長とメイド長にメッチャ怒られたので、料理長が間違えたのでは?とと毒見と出さねば陛下は食べられないと料理長を脅す!とネタは上がっていた。


一年間仕えた使用人へのご褒美ほうびだと居直り、お腹の中に入ったもんはしょうがないと俺がなだめた。


序列が違うだけとアルは笑う。

食べてない使用人は居ないかと、そっちを気にする。


序列がとても大事なのだがアルにはどうでも良い話だった。使用人全員が美味しく食べられたら良いのだ(笑)


どうにも破天荒はてんこうな聖教国の皇太子だった。


・・・・


寝る前の交感会話でクラウスの仕事の契約は1月10日までだが、劇場への義理もあるので1月30日まで公演を続けながらの1か月で妻と子供も含めて身辺整理を終わらせると言う。


劇場への義理と身辺整理のために1月後という期間は土地に根を張った深さみたいだなと思った。窓の外はヒュゥーと風鳴りに流れる粉雪だ。こんな国だからこそ人の関わりの根も深いのかもしれない。




次回 299話  今に向き合う事

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               思預しよ

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