第293話  アル様 襲来!



ラプカ寺院の広大な空き地に俺のハウスがある。ミンの国王(宿主)を経た住持への紹介だから自由に置かせてもらう特別待遇だ。(住持:寺の長)


ミンの国王は寄生生物の宿主だ。まだメス化してるらしいけど身内や側近に卵をなすり付けて成体が増えたらオスになると話は付いている。別になすり付けても寿命を全うするだけだから人の悪さをあおったりしなければ好きに体に飼えばいいよ。乳酸菌もナノロボットもアメーバも体に良いなら一緒だわ。



俺が鍛錬する横でニウさんが護衛ぽく立ってるが観測してるのを知っている。たまに型にない流れの技を繋げて教えてくれる。人が良かれと作った物よりも、超科学で解析した流れの方が技の繋ぎで何フレーム得したと教えてくれるのだ。


そう、ニウさんが観測するとそういう世界なのだ。何フレームとは瞬きする程の細かい隙の時間と思ってくれ。折角近距離に詰めてるのに射程がより短く打撃の早い技に繋げた方が流れが速くなる。ダウンさせるより細かい打撃でノックバック(弾き飛ばして連撃を繋げ相手の攻撃を防ぐ)を稼ぐ方がよりダメージに繋がるのだ。


そんな風に連撃を繋いでいく型を日々改良している。


上級者と対戦すると型の通りに受けに入った上級者がすべもなく受けられないコンボになる。将棋の受けと攻めの新手や新構想の様なものだ。それは絶えず流行と主流と言われて、時代と共に対策されてまた新手が生まれる。


1か月蹴りを研究したら、蹴って来る足首固めて自由自在に巻き込みながら投げて肘を叩き込むが完成していた。


同じ様に突きと見切った途端に腕を絡め取って関節決めて投げ技に繋げダメを与え、そのまま関節の寝技で子供が勝つ。それ以上やると関節を損傷したり、折れたりするから決まった瞬間にギブアップになる。


受けの面で関節を使った巻き込みながらの投げは体得した。打撃技は本当に難しかった、虚実の駆け引きで攻防してる相手にパンチだけでどうにかするのはボクシングの試合の様なものだ。自然に上中下段の引く押す虚実の技の裏表で隙を作って打ち込む動作に技が絡んで来る。


鍛錬を続けるうちに地球の中国拳法で言う功夫クンフーを練るという言葉がやっと分かった気がした。波動の力、回転を元にした螺旋らせんの力、重力のことわりの中で両者の体重移動と攻撃の力、自然のことわりを味方に付けるのが功夫クンフーだ。それは自分の力だけを持って相手に当たるのでは無い。重力はことわりだ、ことわりを知る事で己以外の力を知る。磨けばことわりの力だけで受けられるし倒す事も可能になって来る。


知悉ちしつしてそれを練る事、回転させて螺旋を作ってそれにことわりの力を乗せる事。多分功夫クンフーとはそういう物だと思う。俺はあっちで野球しかやってないから分かんない。でも合気道の達人のテレビは見た事ある、お爺ちゃんが二人に両手を取られても簡単に投げていたのを嘘!と見ていたのだが、多分あれも同じ流れだと思う。


俺は身体強化の魔力線を鍛錬しながら強さという物が分からなくなっていた。速さとパワーと攻撃と防御を磨いても基本の功夫クンフーを知らなきゃその力を効率よく相手に伝えられない。剣しか知らない井の中の蛙だった(笑) 基礎数値の総合力を手に入れても、引き出し方や使い方を知らなきゃダメだよね?そう言う事。


・・・・


12月25日。


年末の帰省にリズを送るのに一旦寺から帰って来た。


7時にクランハウスに行き、イコアさんとリナスと年末年始の話をまとめた。読み書き教室の成人になってない子供達に今年も大銅貨1枚のお年玉を預ける。年末の〆の挨拶はイコアさん、年始の挨拶は俺がする事に決まった。クランは12月29日~1月7日まで休みで変わらない。


そしてリナスに聞いた。

レイニー(44)とリナス(35)が来年春に結婚する。


その時に聞いた。

武人サラウッド(46)と弓術士:ルウ(43)が二人で焼肉やってルウが肉を焼いて食べさせてたらしい。ルウのトラウマを直すのに光曜日は二人で大森林へ狩りに行くんだって。


先生キャプター(37)と事務員のアレッタ(25)が付き合ってる事。


串屋:ロスダン(36)の宿舎に食材の籠を下げて通う北東商店街の汁屋(スープの総菜屋)の娘の話。クラン雷鳴の教官と言う地位はメルデスに周知され、貴族に俸給を頂くお固い仕事になっているらしい(笑) まぁロスレーンの10位騎士の俺より俸給貰ってるしな。


リナス情報では、次は誰?と結婚が秒読みらしい。


職員の結婚祝い金を小金貨1枚(20万円)と決めた。リナスに、結婚祝い金として小金貨一枚を支給するとクランに張り紙して、結婚後に自分で小金貨2枚金庫から出せと笑った。リナスと俺の金庫番からイコアさんも加わり、その時金庫の現金が白金貨20枚以上の金貨まみれになっていたので過剰な資金はイコアさんがマジックバッグで持つようになった。


・・・・


ハウスに帰って食事を取りながらアロちゃんとファーちゃん相手に世間話。すでにクルムさん達はタナウスで夏休みを取っている。(俺がクソ寒いナレスに行くことを知ってるので早々に逃げて行った)


4部会には希望通りの敷地が割り当てられる事が決定して代金も支払われた。代金を支払い次第に権利が発生するらしく、すでに歓楽街の建築が始まってるそうだ。


お爺様の話では、元締めが選ぶのはちゃんと裏町になりそうな土地だ。サルーテでは一番外周の安い土地だそうで、東西南北の根城周辺の土地以外に歓楽街の副業用に中心地にも5~6の土地を手に入れていた。


元締めの支店は執政官事務所の代行業務や街の顔役としての取りまとめもあるので実際の要望場所よりもこちらが良いとの提案を執政官から受けて購入場所の変更も何度かあった様だ。


すでに王都の大店の分家や支店も建築が始まって、使用人の宿舎を街区に作っていると言う。子爵領が経営する領民用アパートや貸店舗を夏から作らせているロスレーン領の大工や人足。領都の大工に民間施設の建設をさせていたら領の建設業の人足は自然にサルーテに集まった。今ではサルーテ以外の領内の新築は無理という程資材や大工が出払った。


ミウムの人足衆は工期を2か月も大幅に短縮して2月には執政官事務所が出来る都合でミウムの二期工事を2か月前倒しするそうだ。


うちの執事とメイドが12人で24時間高空から見張る流民村。8か月経つ12月にはキューブハウスに住む流民が1万人、新たにサルーテに流入した流民は河原に住み分けが出来ていた。


ロスレーン家が考えもしなかった効果を生んでもいた。工事を受注した他領から搬入される大量の物資は春から免税にしたのだ。中には庁舎に使う特産の装飾用陶土(ガラス質が多く、焼くとコーティングの様なツヤが出る)を遠路はるばる長蛇の列で運ぶ際に通過する領は税を取るがロスレーンに入る場合は取らない。


何十台での物資でも国中からから集まれば何百台も門に並ばれる。ロスレーンの守備隊や徴税官が困るからだ。恩に来た領は少量の荷馬車で通過するロスレーンの隊商からサルーテの受注工事が終わるまで税を取らない免税措置めんぜいそちを打ち出してくれた。


税と言えば、3年間はサルーテの人頭税は取らない事に決まっていた。税を取っても城壁や城門は出来てない、治安を取り締まる騎士団と守備隊は最低限。街もやっと大店が土地を手に入れて店を作り始める段階だ、街の機能は人足が長屋に泊まるだけ。人頭税を取ってもロスレーン家は民を守れない。今作っている城壁の土台が完成する3年後に門が付いて住民登録が始まるとの事。


※城壁の土台は基礎部分から魔法士が掘り起こして作っているため見た目は2m程の高さでも、基礎部分からは実質3.5m以上のしっかりした台形で3年掛かる。


・・・・


クランから帰って朝食を食べ、リズの屋敷に跳んだ。


今の時間は丁度フラウお姉さまが魔法の授業をしている所だ、セオドラとナタリーがお茶を入れてくれる間に授業を盗み見た。光、水、聖の回復魔法を終えて、火、土、氷で今は雷に進んでいる。フラウお姉様は自分が教わった順番で教えて行く。次に物理結界と魔法結界に進む。その時点で覚悟さえあれば魔法士として戦えるのよ。


キャンディルの魔法士は最初に回復魔法から攻撃魔法に進み、人を害せる様になると物理と魔法結界を教える。


魔法の授業が終わる時間にナタリーがこちらに二人をお連れすると出て行った。


すぐに二人が部屋に入って来た。

フラウお姉様は部屋に入るなり微笑んでロスレーン家の指輪と知力:天才の指輪(+10)がはまった左手を挙げた。


「アル君、お久しぶりじゃない!」

「フラウお姉様もお元気そうで(笑)」

「リズから聞いてるわよ!うらやましい!」

「え?」


「普通は結婚前に二人で出歩くなんて無いのよ!」


「そう言うのはお兄様に言って下さい(笑)」

「なかなかねぇ・・・」

「連れて行ってくれない?」

「あそこまで真剣に仕事されると・・・ねぇ」


「実はカッコイイでしょ?」


「そうなのよ!学院の時もっと見とけばよかったわ(笑)」


「(笑)」


「あ!忘れる前にコレ!魔法袋に入れて下さい」

「ん?なに?」


フラウお姉様に12月25日~1月10日まではロスレーン家でゆっくり新年を迎えてくれとサント、セイルス、コルアーノ王都のホールケーキを渡した。家族の夕食分3つと使用人たちの分を9つ、自分達の年末年始分の3種類の王都のホールケーキだ。俺がリズと色んな街に出かけて遊んできた戦利品だ。


コルアーノ王都のホールケーキは懐かしいわね!とお姉様に見破られた。新作ケーキが出た当時、在学中に食べていた(笑)


兄夫婦の部屋のお姉様のウォークインクローゼットの中に転移装置が設置してある。今回相互通信装置を一緒に持って帰ってもらった。近隣の領主が成婚の祝いに訪れた時、お爺様の執務室からリズの屋敷に呼び出しは何度かあったそうだが、今はサルーテの執政官に指示を出すのが頻繁ひんぱんになりフラウ姉様でも私用に使いにくい。


呼び出す場合はお爺様の執務室へお姉様を呼び出し、お姉様が連絡したい時には自分の通信機で呼び出せる。


お姉様が持って帰った1分後に呼び出しがあった(笑)


「そんじゃ、用意が出来次第にナレスに行くよ」

言いながら天幕を床に敷いた。


リズと話しながらお茶を飲んでると30分程で用意は整った。去年と違ってコルアーノ土産が少ない(笑)


・・・・


ナレス王城の第二ゲートに突如現れる27人の集団。門番もすでにギョッとしなくなっている。顔パスでそのまま通してくれる。

門を通れと道を開けているのにセオドラはご丁寧に叫ぶ。


「第三王女リズベット様一行の帰郷である!」


まぁ、そう言うもんなんだろ(笑)


でも気が付いちゃった。門番が貴族用のバラライカしてた。オットー商会から届いてた!わーい。騎士団用のバラライカは黒で汚れが目立ちにくい。


もう城内の者も俺をナレス王族に見てくれてる。イヤ、ナレス王族の指輪もらってるから王女の婚約者でも王族の端くれなんだけどさ。


城内のメイドさん執事さんに声を掛けると何でもしてくれる。今回は前回と同じ部屋、年始までここって言うけど俺専用部屋みたい。


王家の家族会議部屋に呼ばれるのを待ってたら、王太子:フォント兄様(27)と第二王子:ケージス兄様(23)が揃ってやって来た。一年働き詰めで新年の休みにタナウスで遊びたいと言う。北方行軍の話を第二王子にぶっちゃけられた、つい二週間前に帰って来たと言う。北方騎馬民族の殲滅せんめつは1年前に俺がけし掛けたから申し訳ない。


陛下にリズと帰郷の挨拶が済み次第にフォント兄様(王太子)とケージス兄様(第二王子)が大公様を味方に付けてカーマル陛下に詰め寄った。凄い奇襲攻撃で家族全員の賛成を得てタナウスに来る。初めて来る事になる大公夫妻がに行くぞー!とすごく楽しみにしてくれた。


タナウス避難施設を見に行った。外見の装飾がまだ出来ていないが40m×60mの石作りの神殿風の建物で中は石畳。中央に王家の紋章がありそれを中心に半径20mのサークルが描かれている。奥が2mほど高い舞台になっている。舞台の下の引き出し状の台車を認証紋で引き出すと転移装置用の立派な石の台座が乗っていた。


台座にNo.11の転移装置を乗せて融合させ、王と王妃、王太子と王太子妃の認証を行った。ホール中央の紋章で発動させたら半径20mのサークル範囲がタナウスの大陸間交易用大ホールに転移する。普段は多目的ホールに使うみたいなので最高の投資だ。


皆の顔が笑顔に変わる。


お昼前に28日のダンス会場を見てお昼を頂いてタナウスに跳び、そのまま大陸間交易路用のホールにNo11の転移装置を設置した。俺は28日の15時にダンスパーティーでナレスの部屋に跳べばいい。


・・・・


12月27日(光曜日) 


すでにラプカ寺院のアルベルトハウスは年末で帰ると撤収して来た。また出すまでハウス専用執事のフォボスとダイモス、美少女戦隊6人とはしばしのお別れだ。


貴族服そのままに1年近く放置しているサルーテへコアさん、ニウさんを連れて跳ぶ。俺がサルーテ流民サービスに顔を出すと『おう坊主!今日はどうした?』と下っ端が声を掛ける。その場のソファーに座っていた南東街の元締めアロルドが凍った。アガガ!と言って手を前に出して固まった。


ボスが固まって動けないのをさとった横にいた幹部が下っ端をぶっ飛ばす。


「楽しそうにやってるなぁ(笑)」

「ははは・・・はひ!」アロルドが凄い状態だ。


「どうした?こいつは親しみのある声の掛け方をしてたな?流民に話しかける言葉にはとてもいいぞ!(笑)」


転がってる下っ端にヒール掛けて銀貨1枚(1万円)をやった。


「報告は聞いている、元締め全員呼んで来い」


幹部が走って行く。すでにサービスセンターで座っている者は一人もいない。一番奥の応接室に入るとお茶が出て来た。


お茶を飲んでると元締めたちが血相を変えて応接に入って来た。


「お!みんな久しぶりだな?元気だったか?」


ALL「はい、お陰様で!」


「寒くなって来たしな、年末の陣中見舞いだ」


元締めにブランデーを2本ずつ、護衛に中壺1個ずつ、大壺を20個置いてやった。


「こっちはナレスの酒だ、旨いぞ。こっちの大壺は部下に飲ませてやれ。ロスレーンの銘酒めいしゅだ、なかなか買えねぇぞ。うちのお爺様から土地は買えたようだな?見た感じ南北の大通りで両脇を仕切ったのは公平だな、四部会が仲良くやってるようで何よりだ」


「ユージィ、ニノ。元気でやってるな(笑) 大壺はお前らが仕切って下の全員に飲ませてやれ」


「はい!」


「今のままで何も問題はない、そのままサルーテに溶け込め。お前たちに流民は勿論、執政官、商店主も期待してるぞ。守備隊が目の届かねぇ裏町をお前らが仕切るんだ。今年も良くやった、新しい年も頼むぞ」


ALL「はい!」


「今日は、キューブハウスが手狭てぜまになってる様だから後500戸増やして行くから上手いこと回してくれ」


ALL「はい!」


川沿いで久々に土魔法を使った。並列思考と多重視点で一回で全く同じ規格の500戸のキューブハウスが出来た。


金魚のフンで付いてきた元締めに言う。


「大工は足りねぇよなぁ?手すきの部下で窓とドア付けろ」


※ハウスの料金徴取はメイド隊がやって、ハウスの掃除や案内は流民サービスが代行してメイド隊から代行料をもらう形、流民の子がハウスの掃除で稼ぎ、若い衆が新しく流入した流民をハウスまで案内している。


言いながらハウスの近くににサービスエリアを作って行く。


「このサービスエリアは執政官に管理するよう・・・いいわ来たわ!(笑)」


「アル様ー!」


門内と門外のサービスエリアを担当する執政官だ。門外の現場を任されてる料金徴取の代行が呼びに行ったらしい。


「ここ作っといたから料金と鑑札かんさつの方は頼むね」


「午後から開業でも構いませんか?」

「ちょっと待ってね、魔術紋付けるよ」


一睨ひとにらみでクリーンと暖房紋、給水紋、温水紋が付いた。


「流民村の窓とドアは如何いかがしますか?」

「資材とか大工とか足りないでしょ?」

「予備の資材と不具合補修用の大工は確保してます」

「500戸も有るよ?(笑)」

「アル様のハウスは同じ作りで工房で生産出来ます」

「あ!そんじゃ頼んでいい?」

「は!」


「そんじゃさぁ、目立ちたく無いからそこの執政官の臨時事務所行くよ、ロスレーンの執政官達に酒を取りに来るように言って皆に渡してくれる?」


「かしこまりました」


「おーい!お前ら、執政官様が窓とドア作ってくれるぞ、出来たハウスから順に入りたい流民を入れてやれ」


「はい、わかりました」


「いつまで雁首がんくび並べてんだ!おらー!仕事しろー!」


「行こうか?」

「は!」


元締めたちは立ち尽くしてアルを見送った。


「人が増えて、入る家が無さそうならお爺様に上げてね、お爺様から聞いたら空き地に人数分ぐらいはハウス作ってあげる」


「予定の人数を上回る場合は、先程アル様が作られたハウスを使わせて頂けば、家を建てる間は充分かと」


「あ!そういう手もあるね。春に今入ってる半分は領民になると思うんだけど・・・ハウスもだいぶ空くはずだね(笑)」


「アル様、領民募集は後二年後に決定いたしました」

「あ!そうだ、聞いた気がする、忘れてた(笑)」


「入り切れない場合は、門外に移らせます」

「うん、頼むね。とにかく家無しじゃ流石にねぇ(笑)」


ブランデーの樽を8つ出した。500リットルの樽だ。

※身体強化Lv4の武官がいたら3人(9人相当)で持てる。


「各地区の執政官に荷馬車で来る様に言ってね」

「は!」

「そんじゃ、新年も頼むね」

「ありがとうございました」




次回 294話  女王蜂の微笑み

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