第292話  導かれる引力



7月のシズン教との会敵かいてきから辿たどったシーズ教への攻撃。9月のパリス教国の真実に驚き、痛い目にわせて支配下に置いた。原因の寄生スライムの故郷は南の中央大陸から千切れた大陸だった。そこを第7中央大陸とした。


全て中央大陸という呼び名は俺が受け入れた。2つある月の名前もバラバラ、年号もカレンダーも新年すらも大陸でバラバラ。田舎に行くと中央大陸語がなまって通じないけど、自国が世界の中心で神に愛されてると心の底から思って人が繫栄してる。神のいる世界でモンスターを退けて繁栄してるからやっぱ神に愛された土地に住むという意識が高いんだよ。


世界最強の蒙古襲来もうこしゅうらいを二度も撃退し、世界最強とうたわれたバルチック艦隊を撃破した日本と同じ高い意識だ。


俺は敬意を表し、番号振って全てを中央大陸と認めた。


10月の下旬に第7中央大陸の6つの国は、神教国タナウスの指揮下に入った。この大陸にはメジャーな宗教が無く、各国で新興宗教的な小さな教会、寺院などが民の信仰を得てネロ様以下の神を語る。その土地に根付く歴史的文化遺跡と名前を使って布教する。南緯50度線付近の寒い国が多いので人口も少なく大陸の北側に集中してる。


この大陸の各国首脳の宿にタナウスの意向を伝えて国を運営し災厄さいやく侵略しんりゃくから守る。シズン、シーズ、パリスと同じく聖騎士団の様な武力は外に向けるのではなく任期制で国内の村や街に順次駐屯ちゅうとんさせる。盗賊が成り立たない国を目指すのよ。


それは専制君主制度の元、資本主義で生まれた財を共産主義的に国主が民に分け与える国。人の欲を排除した国主(宿主)が運営するシステムだ。


器を磨く者を救おうとする国。

道をれた者も文句を言わせず磨かせる国。

大悪を振りまいた者も裁かれた瞬間に幸せになる国。


ああだこうだと説明しない。分からない奴は分からなくても頑張れだ。神のことわりと現世の器に入った意味を知る神教国だけが知っていたらいい。タナウスにしか出来ないシステムだ。タナウスと言うより正直コアとニウさんだ。


俺はことわりを説いてタナウスの舵取りをする。各国には俺は何も言わない。エンタープライズ号の優秀な予測演算装置に任すのが以後何千年、何万年の繁栄をもたらす。


まぁ、ことわりを説く者が拷問みたいな真似をして寄生スライムを配下にしたのは・・・アレが説法だな。分からん奴は殴ってでも説法を教え込む。


解るまで粘り強く教える講師陣はタナウスにそろってる。少し過激に見えるだろうがタナウスでは。まったくブレない素晴らしい教義だ。人に寄生するスライムや寄生された魔獣すら許すふところ深く寄り添う神の愛だ。


そもそも出しゃばってるのは俺だ(笑)


神にやれとも言われてない、神が見ているだけのものに介入してるだけだ。俺はその混沌こんとんの根本を理解して好きにやるのは自由に生きてる範囲と確信してる。視たく無いものに介入して何処どこが悪い、ダメなら輪廻りんねを待つ魂の列に並ぶよ。と神にも居直る覚悟だ。俺だって覚悟無かったらやらない。


そしてタナウスの計画はコアさんによって進んで行く。軍事物資への投資をすぐにやめ、第7中央大陸の中央部のミン王国に大陸間交易路の流通ステーションの建設を命じたのだ。シズン、シーズは大陸の中央に、パリス教国もロフトン、エスジウと三国が跨る国境線に大陸間交易路の流通ステーションの建設を命じた。


パリス教、シズン教、シーズ教、ミン寺の司祭服、御子服、僧侶服をそろえてお着替えセットに入れて行く。宗教国の各国で御子に成りすまして宗教国の神の御業を民に見せなければならない。


パリス教国は隣国のロフトン、エスジウ、アドワに対して趣旨を説明して自国の交易路を広げる様に提案した。南方の物を北方に出して、北方の物を仕入れたら国が活性化すると説き、外交チャンネルでの賛同は得られたが大陸間交易ステーションへの交易路を整備しなければ使わせないだけだ。協力してくれるノリの良い国は喜ばせてやる。


使節団には他大陸での商売の仕方やお客の迎え方をレクチャーする事でパリス教国の研修を受けた国しか転移装置を使わせない事を通知した。神の残した古代大魔法をパリス教が復活させたと触れ回った。


俺の性格だ、外交チャンネルで賛同を得られたのでパリス教教皇をようして使節団として王宮を訪問した。こういう国威発揚の場に大陸の宗主国の教皇が来たら国主が喜ぶからだ。パリス教使節団を歓待し、大陸間交易路構想に大賛成の祝辞しゅくじと協力を惜しまないと謁見えっけんの間で家臣団に号令を下したロフトン王とエスジウ王の王都に街路灯を瞬く間に付けた。


これで交易路の整備が早くなれば安いもんだ。


使節団に連れられた可愛い御子が王に祈る。

「パリス様の慈悲が訪れますように」


俺はパリスだけではなく各国の祈りも勉強して色々な国で大陸間交易路の構想をかたらねばならなかった。信じる者が多い大嘘を吐くほどに経験値になる虚言スキルがLv6からLv7を音速で飛び越えLv8になった。各国の重鎮が部下に構想を話すたびに大ウソが拡散し、信じる者のお陰でガンガン経験値が溜まってしまう。すでに今の俺の最高恩寵だ・・・方便スキル。


・・・・


10月の下旬からミン王国のラプカ寺院の由緒正しい拳闘術を学んだ。俺の格闘術は剣術の体捌たいさばきと足捌あしさばきで、出来た崩れに好きに打ち、好きに蹴るだけの流れの無い単発の格闘術だった。良く言えば斬撃ざんげきの空いた時間を使ってついでに相手を崩す。悪く言えば剣のメインに付いて来る福神漬けのような蹴りや突きだった。


師匠が剣の間隙かんげきを有効利用して相手を崩し対応を遅らせるために拳や蹴りの格闘術をつかうから俺もそれを真似ていた。


ミン寺の技はカンフーの型の様なものだ。技をつないで流れる様な攻撃と防御と関節を利用した隙の無い投げや寝技を打つ。


時には相手の突きを絡め取って、相手の運動エネルギーを利用し引いて繰り出す投げと打撃。連撃をつなげて相手を崩す、受けられても流れる様に連撃をつなげていく。単勁たんけい寸勁すんけいというアルムさんが使うしょうけんを押し当て身体強化で吹っ飛ばす技や、寸勁すんけいと組み合わせて拳や肘で突く猛虎硬爬山もうここうはざん鉄山靠てつざんこうの様な組み合った後に内懐うちぶところに入り体当たり的寸勁すんけいで相手が吹っ飛ぶ技も多数ある。


身体強化のグルグル巡る魔力の流れを上手く利用して、波動と捩じりの奥義で力を集め収束して放つ。国王の命で教えてくれたミン国のラプカ寺院の始祖が発祥の武術。最初は宗主様の手ほどき程度の教えだったが、数日すると押す引くの虚実きょじつに応用して上手く技を使う俺に本気になって教えてくれた。


今までの俺は剣戟けんげきの隙に蹴りや腹パン一発の単体攻撃だったが、単体技が怒涛どとうに連なる螺旋らせんの強打で相手の反撃を許さぬままに制圧する武術を学んで行く。剣術の型と同じ様に流れる静かな動きから激流の様に激しく撃ち合う動きもある。


型を覚えると魔力を操って掌を固くして打つ打撃と掌から相手の内部に魔力を送り込む放撃ほうげきが加わる。放撃とは身体強化を教えてもらう時に回してもらう魔力の代わりに相手の急所(魔力門)に魔力の塊を掌から送り込み魔力の門から巡る魔力を止めてしまう技だ。それは魔力門に突き抜ける魔力の砲弾。


外からの打撃と共に内側に巡る魔力に大ダメージを与える。


一発食らうと魔力の巡りも一発で止まる程の激痛のダメージが体の内部を突き抜ける。身体強化の鍛錬で他人の魔力が巡る、泣き叫ぶ苦痛。その苦痛の塊が放撃で急所(6門)から突き抜けるから相手は声も出せずに悶絶する。


この世は敵を殺す武術でしょ?踏み込んだ一歩の足の力を膝→腹→肩→肘→掌に波の波動で伝えて体全体で捩じり込んで拳に乗せる事で威力が数倍になる。


師兄は足から腰、肩、肘、手首と力を波動で伝えて螺旋に捩じって拳に乗せると言う。言うのは簡単。試行錯誤の連続だが野球の野手投げと投手投げを意識したらだいぶ違う気がする。そんなモーションで撃つ訳ではないが土台から一撃を発射してる感がある。その発射訓練はじり単体の打から始まる。それに波の伝導の様な動きで踏み込む爆発力を伝えて果ては体重、果ては地球の重みまで乗せると打の数倍の波の打ち込みになる。に変わる。


型を教えてもらって練習すると回転を自然に使って捩じるので、今まで使わない角度で肘先の可動範囲が増えて良い感じ。とにかく型を覚えて一心不乱に10年やれと言われた(笑) 体得すれば自然に波動と螺旋が身に付いて連撃は要らず一撃で終わる様になると言われた。そんな物騒な勁打けいだを鍛えても使えん。


体重の乗った身体強化を波動と螺旋らせんで倍加させてけい(6門)に寸勁すんけいで打撃と共に(魔力の砲弾を)放撃ほうげきする。オークやオーガも一撃で沈むってのは盗賊なら死ぬわ!


・・・・


11月中旬。

ガンズ地区の担当メイドさんよりミスリルの鎧と武器が出来上がったと言う連絡を受けた。注文から7か月!早速取りに行った。


それは獣人大サイズのインナーよろいだった。薄く軽く強いミスリル糸で平織ひらおりの長袖シャツとタイツだ。ガーン。


シャツはペランペランのタートルネックで首部分を完全に覆う。タイツは同じ様にペランペランの足首まで覆うタイプ。ガンズ長老を視たら冒険服の下に着るインナーを考えてくれてた。


まぁ、それはそれで有用なので嬉しかった。俺は最近、エルフ姉妹と戦闘行動していない時には平民を装って着慣れた冒険者装備で剣も魔鉄を腰に差してるからだ。


送還した工房の長たちに1月下旬に頼んだミスリル鎧と剣を36セットと500リットルの樽のブランデー2本と交換して来た。そっちは出来を見てガンズ長老が気に入らない箇所を直してくれると預かってくれる。


とりあえずもらって来ただけだ。今は忙しくて1セットずつ試してる間がない。


12月6日(風曜日)


光曜日には相変わらずリズとデートしてる。寺の敷地に立てた俺のハウスではコアさんニウさんいるからタナウスの事、サルーテの進捗の事を絶えず聞いている。クルムさんPTの進捗も聞いている、俺が前に作った盤面のPT人形にスフィアの駒が増えて立ち回りを教えていた。


今日は月に一回のメンバー面接の日なので寺の修行から帰って来た。メンバー希望者はだいぶ落ち着いて40人程が来ていた。12歳で冒険者になって全く稼げず、浮浪児みたいなPTが6人程いた、6人PTだ。ここまで酷いのはなかなかいない、会うなり外に連れ出しクリーン掛けた。


いつものとおり雷鳴商店行きだな(笑)


皆の経歴を見ると貧民上がりで12歳になった記念に近所のスラム貧民がナイフとかゴブリンの剣とかをお祝いでくれている(笑) どうせ宣誓の儀をやるんだからとイコアさんの集会が終わったら雷鳴商店に集合させた。ギルド天引き20%(税込)にして小金貨1枚(20万円)を貸し付けている。タオルや風呂の桶、下着や服を買わせた。余った金で最低限の装備を選んでやった。ゴブリンの剣など没収して銅貨2枚やった(笑)


こんなんじゃ、女の子は野花に行くわ。毎日残り湯に入ってご飯食べられて温かい布団に寝られる良い暮らしが出来る(野花:花街の娼婦に付く身の回りの世話をする小さな女の子)


こいつらみたいな格好で歩かれても困る。身だしなみは大切だ、と言うかこいつらをこれから事務員が寮に案内する気持ちを考えると整えざるを得ない。風呂入った事無い奴らだ、雨のザーザー振りに風呂代わりと素っ裸で走り回る子供が冒険者だと言い張ってうちに来たようなもんだ(笑)


こいつら大森林で食い物取って来てかまどで食う生活ですごく満足する。とてもハングリーで好感の持てる奴らだ。応援するに決まってる。教官と1年一緒に過ごす事を厳命した。



・・・・


12月のカレンダーを見る事で15歳になっていた事を知った。コルアーノは誕生日を祝わない。だから気にして無い、もっと先進国とかナレスみたいな文化の洗練された風習が入って来ないとダメだな。(お前は日本出身だろ)


明の時代の誕生日は買ってくれていたケーキをしずくと二人で食べて、後日欲しい物を買いに連れて行くついでに外食もする方式で誕生日当日よりも令子さんの休みの日が誕生日みたいな感覚だった。二~三日後にしずくや明が学校から帰って来ると!みたいなサプライズ誕生日だ。だからあんまり気にして無い。


貴族学院に行ってたら3年目の年だ。と考えてしまうのは学校行ってないコンプレックスかもしんない。考えた上で学校行くより学んでる、成長してると確認してしまう。


寺の師兄しけい徒弟とていにコンペイトウを買って帰った。


修行での組手ではアルは大人気だ。初級から中級、上級の師範までが良い修行になると組手の予約が殺到する。誰と当たっても相手の恩寵に合わせて身体強化と格闘術を数段下げるから技の精度も落ちるし良い勝負になる。


クロメトの登竜門では無い。旅をして布教する時の盗賊やモンスターから身を守る武術として寺院ならではの発達をしてるから寺の僧侶は皆で鍛錬して皆で掃除して終わる。


それでいてアルは基礎数値を上げながら技をトレースして行く。休憩時間は魔力線の細分化のトレーニングだ。アルはのめり込んでいた。


宗教国の事や大陸の動向など頭に無い。アルは基本的に知って視たくないと思わなきゃ動かない。用事が無いと動かない、知っての通り放置する。用事が有るなら相手が来るだろう?な人間だ。


今自分の知らない事は、自分に必要のない事と知っている。レベルに達して無いから知らないのだ。必要になった時にそれが必然の様に自分の前に現れると思っていた。ネロ様に考えを話した時に「無益なほろびは無くなる」と聞き、神教国タナウスのすべきことを決心した時期にシズン教国に察知されていた。


すぐにパリス教国の奴隷船が全滅でタナウスに流れ着いた。


正月から始まった弓のテルーから始まる凄いイベントの連鎖に巻き込まれて知った事に立ち向かうと剣神様が現れた。必要な時に必要な監督が現れたのと同じ巡り合う奇跡の現象が起こっているのだ。


今自分の知らない事は、自分に必要のない事。


日々を目の前の事に向き合って生きていると、そのレベルに達した時に必要な事を知り、対処すればいいのだ。誰が言ったか知らないけれど乗り越えられない壁は神は用意しないらしいからな(笑)


神すら分からない引力いんりょく斥力せきりょくでそういう因果が生まれる物と分かっていた。世界樹しかりリズしかり。※(引力:引き合う力。斥力:反発する力)


リズとの邂逅かいこうは別格のイベントだった。

最初は印象が悪すぎて、降って湧いた災厄から逃がしてやろうとも思わなかった。婚約して俺の所に来たのがこんな小さな女の子なの?とガッカリではないが余りにも打算や自分本位に誘導する計算が視えた普通の女の子だった。ほぼ諦めムードで、来ちゃったもんは仕方がないと関係が続けば結婚まで責任取るつもりだった。未来は神様の御心のままにと受け入れたのだ。


ひどいい例えだが、拾った子犬に情が湧きお前は可愛いなぁ、みたいな最初だった。それが女の子に化けて行くのだ。どんどん存在が大きくなって今の俺の中では、王女の肩書など要らない人と思っている。


その時に来るべくして来た婚約者がリズなのだ。


ネロ様が凄い角度で来たと驚く程の存在だ。帝国の時でもそんな事は毛ほども言われてない・・・。


俺は気持ちがあふれ出たリズの本当の魂の輝きを知ってしまった。俺と出会わなければ多分、普通に一生を終えたと思う女の子が導かれ磨かれた。1年以上悩みに悩んで子供から大人に一気に脱皮したリズの認識の高さと清らかな輝きを見て因果に導かれた事を知った。


あ!リズの話になってしまった(笑)


要するに迎えに行こうが行くまいが、その時になると知るべきことが向こうからやって来る。イベントに引き寄せられる引力には逆らえない。その時に乗り越えるか挫折ざせつするかだ。挫折ざせつしたら乗り越えるまで悩むだけだ。悩めば悩むほど自分の力になるから死ななきゃヨシだ!


どんな苦しみでも、悔しさでも、恥ずかしさでも殺されなきゃ何とかなる。悩むだけだ。死ななきゃヨシだ!必ずいつか乗り越えるのだから。


俺は演武をしながら寸勁すんけいを撃って〆た。





次回 293話  アル様襲来!

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               思預しよ

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