第291話  愛に変わった世界



寄生されたパリス教団の教皇以下98人の説得を二週間ほどしたが聞き訳が悪い、人の世界に毒され過ぎて、宿主が怒りを覚えるなら人の世界のルールはそうだと虐殺や奴隷売買も寄生生物が後押ししてたぐらいだ。


オークやオーガと話は通じないから、パリスの教皇に話しかけて、質問して浮かんでくるイメージで寄生生物の考え方や行動を学んだ。1週間食料も水も何も与えて無いが皆普通だ、オークもオーガも狼も人も四隅に集まって普通に座ったり寝てたりするだけだ。コミュニケーションも取ろうとしない。明らかに普通じゃないのは分かる。


宿主は魔法で眠ったままだ。4つの種族が寄生体に操られてるが当の寄生体は宿主の身体があればいいみたい。中に入ってたら安心するのか思考の焦りとか全く無い。最初はジェル状に鼻から出てきて実験室の隙間を見つけて逃げ出すとか、ホラーな事も予想したがまったく違った。話が出来る筈なのに話をしようとしない。食事で釣っても動かない。唯一話しかけると色々な情報を脳がイメージするのでそれを視るだけの観察が続いた。


それはまるでスライムと一緒だった。餌が来るまで固まって動かない。たまに立って歩くのもいるけど宿主の筋肉をほぐす為に歩き回る。


・・・・


そんな観測をしている中、タナウスの農村地帯の収穫が始まった。荒れ地や降雨の少ない地域でも芽吹く最初の品種改良作物だ。一つの村ならドンゴロス2袋もあれば従来の作付面積に少量植えさせて徐々に増やせば良い。更生村の農民達は成人1人月銀貨10枚で雇って、それでタナウスの合成食材を食べているので収穫は全て種子としてタナウスに備蓄される。合成食材は生命が無いので芋や豆を植えても芽吹かないから食糧専用で仕方ない。


種蒔きから始めた農民6000人とメイド、執事部隊1万人で各植物の麦、米、芋、豆の腹にたまる種子や種イモがドンゴロスに何千袋も取れた。これを元に来年何千倍の種子を得る。



・・・・



3週間もアメーバだかスライム野郎の様子を見て観測してたらリズの誕生日の前日になった。



9月25日(つち曜日)


去年と同じく里帰りにリズをナレス王宮に送って行った。


フラウお姉さまには明日の光曜日の魔法鍛錬はお休みにしてもらい、最近再開した魔法の鍛錬のお礼に転移を他の魔法恩寵と同じレベルのLv3に上げた。


転移 Lv1 100m SP5

転移 Lv2 1km SP10

--------- ↓

転移 Lv3 10km SP15  



光曜日の晩にリズを迎えに行き、ナレスからお屋敷に帰って来た時にリズに誕生日プレゼントを渡した。


リズに今一番必要だと思われる魔力上昇の清流の指輪(+10)を贈ったらリズが泣きだした。


視たら理由は分かったが目でナタリーとセオドラに退室してもらった。


俺は誠意は見せても形を贈って無かったらしい。


リズは最初の出会いから負い目を背負って俺の婚約者になっていた。好きの一言も言わない俺に不安を抱いていた。楽しい思い出と素晴らしい物をナレスにはくれるがリズには何一つとして安心できる物を与えて無かった。


そんな不安な思いが指輪を見てあふれてしまった。


それは積み重なる御子の秘密と寄り添うプレッシャーとの戦いだった。俺の横に並び立つ者として、当の俺から安心できる愛を表す言葉も形も一切もらえない事に押し潰されそうになっていた。


リズは通信で一度も俺を呼んだことが無いのは、神の御子の邪魔をしてしまう事を異常に恐れていた。


視る事は同じ追体験をすることだ。リズの苦しみや悲しみや不安の数々。あふれ出した想いを知った俺は同じ苦しみにさいなまれた。どうしようもない渇望かつぼうの想いだった。


抱きしめて安心させる事しか出来なかった。そして俺は生まれて初めて男女のキスをした。リズは泣きながら俺にされるがままだった。でもその意味を噛み締めて分かってもらえた。


俺はリズに、やっと態度で示す事が出来たんだ。



・・・・


9月下旬。


冒険号の実験室に寄生スライムを閉じ込めての3週間の質問や説得。昏睡させてからのコアの観測で俺が視られなかった小さな深層意識まで掘り下げて行った。


スライムは異常な程に強情だった。すでに話しかける言葉も何もなくなっていた。同じ事しか思い浮かべない、反応もワンパターンだ。


最後の試験をしてみた。


魔鉄の棒を一つ持って俺が生餌になった。


人間98人。オーク19匹、オーガ23匹、ジャイアントウルフ20匹が広大な実験室の四隅に固まる中、中央に俺が転移した。試しに恩寵、自己再生Lv10を付けたが同族とは思ってくれなかった。


最初に反応したのがウルフだ。ウルフの脳にインプットされた餌に対する対応の仕方を学んだ寄生スライム野郎が最初に殺到して来た。魔鉄の棒で殴り倒す、前足を折る後ろ足を潰す。動けずに横たわるウルフの頭を魔鉄棒でかっ飛ばしてノシてやった。


次にオーガが来た、オーガもボコボコにしてやった。頭も潰した、手足を全部叩き折って脳内に響く痛みをスライム野郎に叩き込んだ。これでもかと怖がる痛みを思い知らせてやった。


それは視るおれが追体験する痛みと恐怖も連れてきた。観察する為とは言え普段思いもしなかったブーメランが帰ってきた。



狙っていたのは度重なる回復に使うエネルギー不足での生物的危機的状況に追い込む事。若しくは痛みを怖がる習性から痛みによる危機的状況の判断を視たのだ。



オークで学習した人を襲う知恵か本能か知らないが、オークそのままの動きで宿主を操る寄生スライム。徹底的に手足を潰し、首を潰し内臓まで潰して隅にまとめて転がしておいた。


人の98人は震えていた、皆で手を繋いで震えていた。蹂躙じゅうりんされている魔獣の痛みを想像で感じて怖くて震えているのだ。何を言っても折れず奴ら、グデーッとしてる寄生スライムの奴らに痛みを叩き込んだ。手足を折った、頭を潰した、変な方向に手や足が曲がる人形の様なボロ雑巾にした。


元凶の俺がフラッシュで追体験する地獄の連鎖。頭が焼ける程の痛みと痺れる恐怖。フラフラしながら殴り飛ばす。


回復時間と魔力量の増減はコアが観測している。俺は痛みを視ていると言うか体験している。人や魔獣達の痛みが引くのを視ているのだ。治って逆襲出来る身体状態になるまで静かに視守る。


首が折れた奴でさえ4時間で治っていた。痛みと回復の時間に恨みが芽生えて、アプカルルの涙で脳の持ち主が魅了されても寄生スライムはへこたれない。宿主の体を操って俺に向かって来る。全部の宿主が回復したら同じ事をやった。何度もやった。この実験室に居る以上永遠に続くと思わせる程に叩きのめした。その痛みがフィードバックされる永劫の苦しみに俺は悶え苦しんだ。



俺が寝てる間は俺に扮したコアさんがやった。



色んな事が観測で分かってきた、本来原生生物で痛みもクソも思考さえ無い奴らなのだ。宿主が魅了されようがお構いなしに脳を乗っ取ってるから痛みに反応してるだけ。種族繁栄、種族継承の為だけに特化した生命体とでも言おうか、ガンガン回復する種族能力は凄まじい再生能力でどうしようもない奴らだった。



3日間それをやったらやっと落ちた。絶対に敵わない生物の強者と思い知り宿主を操って話す様になった。俺を見ただけで恐怖を感じる程になっていた。オークもオーガもウルフも人も俺を見た瞬間、隅に固まり身を寄せ合って震える。4種族がほぼ同時に折れた。


そして宿主のパリスの教皇寄生スライムが言ったのだ。


「質問に答えたら、許してもらえますか?」


パリス教の教皇はそう言った。


オークやオーガやウルフも入っていた。



・・・・



パリス教の布教失敗。


未開の地への布教は困難を伴う。それは回復魔法を取得した若き前途ある司祭の登竜門だ。月に一回、二月に一回の補給を密林の開墾地や未開の島に待つ暮らしで布教しながら修行する。大体どの宗教も布教をしての修行となっている。


開墾して土地を切り開き、現地部族と交流し医薬品や香辛料、優れた魔法道具で交易しながら現地人に入り込んで浸透することで布教する。回復魔法で病気を治し、神の偉大さを説いて布教する。


それは若い司祭がベテランに成長する程の気の長い年月を費やして受け入れられる物だ。改宗と言うのは教義を知って理解され、信用されて、そこで初めて崇める神を受け入れてもらえるのだ。



侵略からの奴隷売買に至る経緯はこうだった。



その土地の風土病から少数部族の長老一家を救った司祭は信用され、補給物資の先進性あふれる豊かな文明、薬剤や農産品や香辛料に少数部族は魅了された。その若い司祭は性急に過ぎた、部族同士の交流が余り無い土地で、部族の数も勢力も把握せず一つの部族と仲良くしてしまった。


開拓した土地がその部族の物だったからである。


魅了された部族。それは便利な文明と医療と回復魔法に魅せられ土地の先住民が元々崇めてた精霊や神を捨て、新しい神にすり寄ったと他の部族から良く思われてなかった。


1年経った頃には、その部族だけが突出した日常生活を持つ様になっていた。魔法ランプや着火魔法の道具を使っていたのだ。周りで置いてきぼりを食った各部族は恐れた。火が無かった原始時代の人が、火を手に入れた部族を恐れたと同じ様に魔法を手に入れ怪我さえも回復してしまう部族を恐れた。傷薬ではない、その場で回復する魔法の脅威。


無知による風評と恐怖は伝播し他の部族を反パリス教の部族へと変えてしまったのだ。半年、1年、そんな間隔で周辺の部族が訪れる度にその部族だけ先進部族になっていたらそりゃ恐れる。周辺部族が青銅器で戦ってるのに鉄器を持った部族になってたら恐れる。


2年の補給を受け、現地部族の協力を得てやっと建ったパリス教会。それは現地部族を改宗したシンボルだ。若い司祭が功名の為に現地の足場も固めず作った物だとは誰も知らない。


ある日補給船が行ってみると全滅していた。若き司教は教会のパリス教のアシンメトリックなシンボルにはりつけにされ槍で貫かれていた。その報告を受けた上層部はやっと花開いた布教の地が蛮族によって刈り取られたと激高した。


誰だって怒る。


教皇の怒りを寄生生物は増幅した。皆が怒っている時に同じ様に怒る事で木を隠すなら森の中と皆の怒りに同調した。討伐命令は激高した上層部の反応に同調して教皇が怒りを覚えた気持ちを後押しし教皇を先頭に立たせた。神の教えに逆らった神の反逆者として先住民を蹂躙じゅうりんした。


その後の奴隷はオマケだ。人の世の常識を知る寄生生物が戦争で捕えた者は奴隷との認識でそうするのが常識だからそうした。


人の常識に沿って社会を乱さず寄生生物は寄生の事実を隠す。宿主と一生を終える生物の習性だった。オークにはオークの、狼には狼の、オーガにはオーガのコロニーごとの掟や常識があった。寄生生物は宿主を感知されないように種族の社会性を維持する方向に思考した。


人の内面を知り、人の社会を知りそれを真似て一生を終える存在。こいつらは人の真似をしてるだけだった。寄生スライムは自分の意志でそれを行って無い。こいつらは悪くない。人のとる行動を真似るのは寄生の擬態がバレない様にしてるだけ。


そこに善も悪も無い。人は戦争する、蹂躙する、奴隷を売る。


それを学習してその通りに教皇の怒りを増幅しただけだ。寄生生物に罪は無かった。


同胞を害された怒りに討伐に行くのは人間だった。



・・・・



実験結果でやっと光明が見えた。


タナウスの大きな島(四国の半分弱)に半径2km、10mの高さの壁を設け特設コロシアムを作った。作った特設会場に次から次と寄生された宿主をさらって来た。宿主から派生して寄生された孫世代まで全部だ。


南の中央大陸のさらに南の大陸。タツノオトシゴが寝たような形の南の大陸にスライムの元締め的な元凶がいた。寄生体を増やしていたミン国の国王はマジに頭が良かった。国王は寄生体と共生しながらスライムも洗脳していた。人間の活動を教え、その活動で人間が繁栄すると教え込んだ。人間が繁栄して国が富めばこの地位は安泰と本当の意味で寄生生物と共生した。


国王の寄生生物はメスになっていた。


ミン国の側近の寄生生物を少数に制限し、常時メスでに他国でも他種族でも自己再生能力を理解した国王本人が卵をなすり付けに行っていた。


この国王に卵をなすりつけられた国の一つがパリス教国だった。ミン国は寺院型宗教国だったのだ。後進国で貧しい関係上布教もままならず周辺国のみが知る小さな宗教国だ。


人であろうが魔獣であろうが、集団になる知的生命になすりつけられる卵は一個。孵化ふかした1個の卵はコロニーの中で成熟するとメスとなり、コロニーの指導層に卵をなすり付けに行く。


自分たちが襲われないように種族長に卵をなすり付け宿主にして行く。寄生体同士なら襲わない習性を逆手に取った。


隣国の王族同士が宿主ならば国の戦いも起こらない。相手が王族を滅ぼしに来ない、そんな事態は相手の王(宿主)が止める。紛争しても戦争しても王の首まで取りに来ない。は自由にさせた。寄生されてない者の争いは寄生生物には関係なかった。


この大陸で宿主にされた生物は6万以上にも及んだ。全部島に連れて来た。放置してたら魔獣も人も襲い合わない。食べ物は無ければ無いで種族ごとに固まってグテーとするから手間が掛からない。


次々と宿主を拉致して国王だろうが側近だろうが子だろうが孫だろうが特設コロシアムに叩き込んだ。まぁそんな他国の国王はパリス教団同様20~30個体が自分の分身を作ってるだけなので一国に100人前後だった。それよりも未開人からモンスターまで凄い数のコロニーへの寄生だった。


そして始めた。


6万6000もの寄生生物のを得る戦いが始まった。


コロシアムの中に寄り添う宿主の魔獣と人たち。自分達以外の集団には、同種族でも寄生体同士は決して近付かない。60坪当たり一匹の寄生生物の寿司詰め。実際は同じコロニーの集団で寄り添う習性なので一カ所に密集している。その光景は弱肉強食的な争いが起こらない不思議なコロシアム空間だった。


コロシアムの10m壁の外側に転移装置を設置した。朝陽を浴びて無手のニウさん執事部隊が大挙して転移しコロシアムの外に綺麗に整列して行った。ドロイド的なモノは何一つ見つからない人間そのものの容姿が一糸乱れず並ぶのだ。それは集められた宿主たちを蹂躙じゅうりんする1万の軍隊。俺は追体験が嫌なので今回は視るのをやめてその行為を見守るだけだ。


上陸して壁の前に整列していく執事部隊が余りに綺麗で足並みも乱れぬ姿に見惚れた。俺は静かに静かに整列して延々と増えて行く執事部隊を見ながら知らぬ間にBGMでΔワルキューレの騎行が頭に鳴り響いていた。



綺麗に整列した執事部隊が行進できるように50mの通用門を壁に作った。


号令も何もなく1万の宇宙戦闘ロボがザッザッと行進してモンスターの密集するコロシアムに足を踏み入れた。1万対6万余りの壮大な肉弾戦闘行為の幕開け。これから始まる事を忘れ不謹慎にも凄まじい行進に見とれてしまった。


俺は1万人の足音響く行進を見てタクトを振っていた。


頭の中にAnchors Aweigh錨を上げてが響き渡っていた。


~♪ And sink their bones to奴らの骨をディビィ・ジョーンズ Davy Jones, hooray!に沈めろ!万歳! ~♪



1万人の兵士がコロシアムへの入場行進を終え通用門を塞いだ時、俺は唐突に調子コイてる事に気付いた。今から始まるのは寄生スライムに対する蹂躙じゅうりんだ。新年は教会で祈るとネロ様に青筋立てて怒られそうで恐れをなした。


半径2kmのコロシアム。ニウの操る宇宙戦闘ロボが逃げる個体を見逃す筈も無かった。1万の軍が一人6匹を叩きのめして壁際に積み上げていく作業だった。


観測により完全復活の時間は測られ、復活した瞬間に蹂躙じゅうりんされる寄生生命体。視るとフラッシュによる眩暈めまいがする痛みを寄生スライムに与え続ける作業が続けられた。


1日以上続くと野獣の本能もクソも無くなった。復活しても逃げ回るだけで襲ってこない。そして3日目、人間種がコンタクトを取って来た。その様子を逃げ回る事無くおびえながら見守る魔獣たちの姿の方がある意味怖さを感じた。


唯一実験で見られなかった光景だった。


寄生された宿主が膝をついて頭を垂れ、服従のポーズでニウさん達に許しを乞うと、魔獣達まで同じく頭を下げたのだ。コンタクトを取って来た人間種はメスに変態していた寄生生物と共生するムン国王だった。


メスが強いのかメスに変態した寄生生物が親なのかは分からないが全ての寄生体は服従したのだ。


大陸各国にはメイドを一人ずつ置いて国王と側近、その子供は傀儡かいらいとして返した。メスの国王は自分の分身体以外の子供や側近の分身体以外の子供数名に卵を植えて個体数を増やし、オスに変態する事を誓約した。


魔獣は誓約出来ないのでコロシアムの壁を壊して日本の四国地方の半分弱の島に閉じ込めた。元々大森林と言うか山あり谷ありの密林だ。タナウスから何百匹も種族の魔獣を連れて来て逃がした。伴侶と一緒に一子相伝で繁栄したらいい。寄生されてない弱者は弱肉強食で食えばいい。


唯一の掟。 島から出やがったらぶっ殺す。


俺の考えは一点だった。

操る寄生生物を〆ないとダメ、その一点。


人の害悪を学んで(宿)戦争や侵略や奴隷売買など寄生生物の命で宿主にやられたら人の世が混沌もいいとこだ。


脳みそをぶっ飛ばしても(記憶は無くなるだろうが)脳まで自己再生して死なない存在。それはゾンビ以上にたちの悪い存在。危険だと思う一方で閉じ込められた食物も何もない閉鎖空間でもパニックにならず群れで固まる静かな種族特性。宿主と一緒に同化して寿命まで寄り添う本能。基本宿主の学びと一緒に磨いているとも言える一生。


俺はそんな寄生生物をコントロール出来たら害悪にならないと思った。現に俺と誓約した、神の使徒との契約を人種の寄生生物は理解した。寄生した魔獣は俺やメイドや執事がいるタナウス本土に絶対来ない筈だ。恐怖を刷り込んだし、行こうとした宿主がいたら寄生生物がコントロールする筈だ。


あの時メスがどんな信号を送ったのか知らない。スライム信号なんか分かんないよ。でも全てのモンスターが頭を下げたのだ。ある意味メスは女王バチの様な存在なのかとも思った。


凶悪な寄生の究極形がノストロモ号が出会ったマザーエイリアンみたいな寄生獣なんだろうが、ある意味それより上のしぶとさを持つ生物だった。一匹も殺さず服従させる事が出来て、自己再生の恩寵をくれた神様にも言い訳が出来ると安心した。


全滅した奴隷船の漂着から7か月。人の感情を学び、学習して人ならこうすると操って起こった侵略だった。それは宿主のパリス教皇の(宿主の)怒りをそのまま後押した寄生スライムのせいでもあった。他国が軍を持ち侵略するのを学び同じ事をやったのだ。この世で日常茶飯事に行われる戦争で学んでいた。


・・・・


リズの誕生日のすぐ後。


次の10月3日以後の光曜日はデートの日にしたいとフラウお姉様に直球で勝負した。一週間も毎日メルデスに来てはお兄様がねるので光曜日は一日夫婦の日にして下さいとお願いした。


そして俺はリズの光曜日を勝ち取った。


俺は光曜日に必ずリズの所に顔を出すようにした。それはつぐないだったかも知れないがリズは全身で喜んでくれた。


俺は忘れていた、俺が子供に見られる以上にリズは子供に見られている事に気が付かなかった。俺自身が15歳になったリズを子供にしか見て無かった。中身は普通の大人なのに・・・。


無神経な男そのままの大失敗だった。


まだ小さいから価値が分かるまでに魔法道具を無くすと、その価値に気付いた時にリズが傷付くと渡さず、子供扱いしていたのだ。


俺だって価値のある物を贈りたかった。まだお互いに(容姿が)子供だから早いと、愛を語る滑稽こっけいさや高価な贈り物を自重じちょうしていた。あれほど欲しがってた言葉や証を俺はまだ子供だからと与えなかった。


俺が子供と思われイラッと来ることを、そのままリズにしていたつぐないをした。二人で外に出る時は手を繋いだ。恋人つなぎした、どう思われようと気にしない。平民服で歩くと兄妹に見られても何も心を動かさなくなった。笑われたり勘違いされる事よりも、想いがあふれ出るあの悲しむ姿をリズにさせたく無かった。


ナタリーとセオドラを何度も振り切って遊びに行った。


王都に限らずロスレーン家の結婚にまつわるバタバタも落ち着き、10月にはリズと一緒にロスレーン家にも遊びに行けるようになっていた。家族から領地のうわさ話を聞いて笑った。領都も歩かないし、サルーテも話を聞くだけで歩かない。


世界樹のツインタワーに二人で挨拶に行った。聖教国大教会の光曜日を満喫した。コルアーノの王都も、ナレスの王都も手を繋いで二人で歩いた。海にも食事に行った。タナウスの海に泳ぎに行った日はナタリーとセオドラを連れて行った、あとが怖すぎるからだ(笑)


ロスレーンに秋が深まる10月と11月、紅葉した山や森を歩いた。黄金色こがねいろに染まった大きな銀杏いちょうの木の下をリズと二人で歩いた。


魔素がある異世界という舞台以上に田舎の紅葉して行く季節はまるでモンゴメリのつづった世界を彷彿ほうふつとさせる舞台だった。俺は生き急いで目の前の綺麗な世界を見ていなかったと痛感した。リズと歩いたこの美しい景色を一生忘れないと眼に焼き付けて二人で落ち葉舞う並木道を歩いた。


二人を包む世界は素晴らしく色づき輝いていた。


手を放して銀杏の大木にリズが吸い寄せられる。


木を見上げたリズが振り返って俺に笑う。


美しく輝く世界に二人はいた。


二人の想いが愛に変わった世界だった。




次回 292話  導かれる引力

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