第288話  ナレスの夏休み




シズン教国の件で2週間を使い恩寵施設関係者の移送をする間、三賢者もエルフ姉妹も色々と力になってもらった。コアさんが観測したシズン教の現教義にまつわる宗教催事や政策の運営について可否を論じてもらったのだ。


・神託式は公表されず人知れず行っていた事。

・シズンの民は恩寵関連の秘儀を何も知らない事。

・教皇様が神託を聞けるお陰で国が平和である事。

・シズン教国ではその教えを信じる者がたくさんいる事。


そんな事をコアさんから聞かされたら俺だって迷う。顔が曇って気持ちが沈む俺に三賢者が教皇の擬態ぎたいだまされるではないと言った。


そして、クルクル変わる教皇の内面のフラッシュを視て、そのまま言わしてやろうと真実の声で聞いた教皇の本音が耳によみがえった。


俺は三賢者から遅くまで有意義な政策意見を聞く事が出来た。三賢者も三者三様、違う国で磨いて登った人の言葉は貴重で為政者の根幹を知る事が出来た。そんな知恵のお陰でシズン教が2~3年掛けてゆっくりと生まれ変わる道筋が見えてきた。同じ事やってるシーズ教もすぐ取り掛かるので良い前例になる。



・・・・



7月の下旬。


子供が生まれたら休職する条件でやとっていたクランハウス副事務長のルミナスに子供が出来たと聞いた。12月の頭から休むと聞いたのでまだ少し早いが事務員を募集する事にした。雇うなら読み書き教室のリズ、イコアさんのクラスと4人のリズの側近にも先生をやってもらってるので4クラス分の先生を兼ねて女性の事務員を4人募集したいとギルド長に相談した。


ギルド嬢の来年度の募集に14人ほど応募があると教えてもらったのでミウム領内の遠隔地からメルデスギルドに応募してきた4人の生活魔法持ちを紹介してもらった。


ギルドは来年度、現場の実務型職務の男女12歳以上の応募を中心に欲しい様で、出来たら生活魔法持ちを指名してくれと言われ、私塾出身の生活魔法持ちに打診した。運営は伯爵家で募集は使用人待遇、俸給待遇はギルド同等、宿泊施設はタダで風呂付の宿舎と書くと4人が来てくれた。


各地の私塾の先生が伯爵家の使用人ならすぐに行けと卒業させてくれたと言う。ピア、セザーリ、ロタ、ネピスの商家の子、現在17歳だ。やはりロスレーン家の名前はありがたいな。


中でも実家暮らしから一人暮らしがしたくてメルデスのギルドに応募したランサン出身のロタが一番早く8月末に来た。ルミナスが12月に産休に入っても4人入れば充分な余裕が出来た。以後は朝番の事務員が交代で読み書き教室の先生を回す。試用期間3カ月は銀貨10枚(10万円)、使用人に昇格で初任給銀貨15枚(15万円)寄宿は無料。(食事は寄宿の事務員が出し合って順番で用意するように決めてるみたい)8人の事務員が隔月番で朝の読み書き教室に入ると1日大銅貨2枚を支給する。月当番なら銀貨6枚弱(6万円弱)


これを機に読み書き教室はイコアさんからキャプターに運営を任せて月銀貨10枚を支給する事になった。1位教室のキャプターが校長先生だ。


※ギルド職員は12歳以上の成人で読み書き算術必須の募集だ。各部署の事務方や食堂勤務やエール生産場などの職能特化の実務型と生活魔法まで修めた昇位試験補佐などの秘書特化の受付業務の二種の方向で雇い入れている。花形と言われるギルドカウンター業務も食堂や事務方や実務型業務も同年齢の俸給は同じ。



・・・・


物語関係の異世界地図。

https://www.pixiv.net/artworks/103781828



シズン教国に対応している7月下旬にタナウスの沖に時化シケで帆と魔動回路が壊れた船が漂流していた。コアが衛星都市マリン近辺に3日後に流れ着くと予測したので鹵獲していた炸裂砲弾の無敵艦隊20隻に付いてきた補給艦隊の方をシズクが改造してタナウスの紋章の入った魔動補給艦に仕上げた船を出して曳航に行った。


衛星都市マリンに連れて行くと住民がいないのがバレるので神都の港に曳航えいこうだ。助けてみるとライナ王国というタナウスと経度が近い国の70m級の魔動帆船(商船)だった。聞くと商国連合のストイ商会の船で商会長ストイの次男ラルークさんが船長と言う。


水や食料は持っていたので元気。


タナウスの神都でメイド部隊が乗員160名を保護する間に色々と聞いた。ストイ商会はワールスとサントのどちらとも布の原料や魔物素材系の糸や麻糸や綿糸で交易していると聞いた、ライナの重要な交易品目らしい。商国連合幹事国のサントとワールスと神教国は懇意こんいにしている間柄なので困った時はお互い様と魔動帆船を貸す事を伝えると、信じられないと言った表情で乗組員たちは大喜びした。


俺はそのまま曳航してライナまで貸すつもりだったのだがラルーク船長に止められた。聞くと外洋は小さい船で曳航はかなり危ない様で補給艦での曳航は諦める様に言われた。大きい船が時化しけで揺れるとロープが切れたり小さい船が転覆すると言うのだ。


そんな訳で神都に保護したストイ商会の乗組員が商船の積荷を50m級の魔動補給艦2隻に7日間で積み替えてライナに返した。魔動クレーンも何も無しで7日間は凄く早かったらしい。帰りのタナウス回航は執事部隊が帆走で帰って来る。魔動帆船の取り扱いや帆走もストイ商会の乗組員から覚えるいい機会になった。


残ったストイ商会の壊れた漂流船は倉庫に魔動回路も余ってるので造船技術が神教国に育ったら直そうとクリーン掛けて取って置いた。俺の貧乏性も極まっている。


・・・・


この2週間にアルムハウスに研究に来ていた司祭がタナウスで作られた改良版回復スクロールを聖教国に持ち帰って運用法を検討に入った。戦争時に安易に出せば両軍激突の翌日にピンピンの兵士が出て来る。良かれと出したスクロールで戦争が長引き戦費で国力が削られ最前線の救護に同行する回復士も軽んじられる。


回復効果次第だが、簡単に出せない大きな理由はそんな訳だ。色々と生まれる便利な物も既存のシステムを壊す物では迷惑でしかないのだ。魔術士ギルドの回復ポーションとの兼ね合いから安く効果が高い物を販売すると錬金術の進歩を阻むとか廃れてしまう社会的な影響もあるんだよ。


俺は導師にスクロールの魔術紋(腐食紋・風化紋、名前はそんな感じになると思う)を見せてもらった。要するに継続魔法紋にスクロールの魔術紋が埋め込まれたものだ。刻んで魔法紋にヒール(回復)でもピュア(浄化)でもディバイン(状態回復)でも打ち込めば、吸魔紋に向けて魔力を吸わせたら魔法が発動する。ざら紙のスクロールも羊皮紙のスクロールも発動後に風化(腐食)し崩れ去って再生できない。


パリス教会はざら紙に最低限の回復魔法を聖典風の本にまとめ、それっぽいパリスの呪文を唱えながらバリッとざら紙を破り魔力を込めながら患部に当てる。当てた後は腐食の魔術紋でざら紙が風化することで傷や痛みをパリスの聖典(に見せかけたざら紙)が身代わりになったと思わせる。小さな魔法を積み重ねて何度もやるので枚数が掛かると治療費も上がる。


まぁ見る人が見たら分かるのでメロの街の司祭は領主に>3枚ほど都合してくれんか?と横流しを視たので俺も内緒でもらってきた。(神の御子が泥棒をする異世界)


ファーちゃんは俺と一緒に見て、交感会話の時にスクロールの魔術紋を覚えた事を伝えて来た。記憶だろうが、武術だろうが、魔法だろうが現象を観測したら情報として蓄積する鬼だ。蓄積どころか自分達で魔素具現化の現象や魔力不可逆の根拠を解明して訳のわからん魔法道具まで超科学で作って1億年前には人種に与えてた存在だ、そんな存在に俺は物申せない(笑) 


うちの国タナウスはその様な秘術を外に出す気も無いし、戦争や商売しないから自由に作って運用するように伝えた。


一回限りの消失品がタナウスにもストックされた。タナウスでは簡単、現地のメイドの要請で回復士に扮したメイドが転移装置で村に向かうか、現地のメイドがスクロールを使うかの二択だ。コアが必要と判断したら勝手にマジックバッグ持って自由に使うだろ。そもそも国民はナノロボットが体の中で守ってるから骨折とかの危急の時しか使わないと思う。



・・・・



そんなこんなでシーズ教国もまったく同じ方策で傀儡かいらい政権にした。そんなシズンとシーズに掛ける時間も取りながら相互通信機の連絡が入るたびにライツ湖の保養所に休暇を取った執政官の研修もしていた。


ロスレーン領都の脇の点がライツ湖だ。

https://www.pixiv.net/artworks/100819215


各地の一位執政官(代官)が家族を連れライツ湖の保養施設に3週間の休暇を取って参集したのよ。夏の旅の疲れを癒す兄夫妻と休暇を取って同道したのはモルドとシレンの代官家族だった。俺は光曜日にお邪魔して隠し部屋で昏睡させてタナウスで観測を行い、恩寵を付与して4時間と言っていた研修を2時間で終わらせた。


ヘクトのオスモさんはお兄様達が新婚旅行にヘクト湖を訪れたあと7月中旬頃にライツ湖の保養施設に来た。岩塩採掘の街を任されるオスモさんを迎えたホストはお爺様とお婆様だった。俺が領内の盗賊どころかミウムの盗賊までヘクトで奴隷にした件をお爺様が知り青筋立てたそうだが、ミウム伯が承知の上と聞いてお怒りが解けたそうだ。


怖くて他国の領主まで奴隷にしてる事は言えなかったとの俺との研修の時の弁。次の機会にチャレンジして言えば良いよと言ったが、絶対に無理だと笑われた(笑)


まぁ、夏の光曜日は連絡が来ると研修をこなした。



・・・・



すでに8月12日の雷曜日。


シズン、シーズと連続で二つの国を掌握した4週間後、取り合えず夏休みにしてタナウスの海でのんびりしようか?(神都は冬でも泳げる)とみんなに提案した。


そんな話を出した夕食終わりのお茶の時間。

クルムさんがダンジョンのPT戦闘をスフィアに学ばせたいと言って来た。狼や熊や虎、剣虎、双頭蛇、ゴブリン、オーク、トロール、オーガまでタナウスの大森林や大山脈を駆け回り狩って来たと言う。後はPT戦を覚えさせたら自己判断力も磨かれると言うのだ。


前衛がアルムさん、シズク、後衛がクルムさん、スフィアでシズクに教えた様にスフィアも同じ事をしたいと言うのだ。スフィアは今でも人の考えを読む癖で、一呼吸置くので鍛えるPT戦だ。



・・・・



俺は10日程の夏休みを取る事にした。


俺はシズンとシーズで陰惨な歴史や施設を見た事で一回頭をクリアにしたかった。のんびり忘れて海で洗い流そうと気分転換したかった。時間を置く事でに落ちたり納得できる事があるからだ。


でもPTがダンジョン行ったら一人でつまらない。戦闘の立ち回りをスフィアに教えるPTだから発散出来ない。


リズに去年の湖でBBQしない?と誘ってナレスの湖畔の避暑へ充てた。セオドラ、ナタリー、うちのファーちゃんも一緒。アロちゃんとフィオちゃんはクルムPTの世話でハウスだ。


ナレス王家の湖で夏休みで一緒に遊びに行きませんか?とカーマル陛下に許可をもらいに行くと、陛下は執務が忙しく、いきなり遊びに来られても儂には休みが無いと宰相をにらんだ。聞いていた王妃様がそれでは、パン!と柏手を打ち主催者になってくれた。横で陛下が悔しがって、お前も仕事だぞと名指しされたフォント王太子(政務官)も執務の巻添い。第二王子は北方騎馬民族討伐の総大将でいなかった。


そんな訳で婚約の時に来た王家の保養地に王妃様と大公様夫妻とリズの兄妹で遊びに来た。出かけるのは丘陵地帯の湖、王都の近くで簡単に行ける。



大公:カールトン・ド・アクランド・デ・ナレス(79)

太后:エルビア・ア・アクランド・デ・ナレス(77)

王妃:メラルダ・ア・ヴォイク・デ・ナレス(51)

第三王子:アルトン(18)

第二王女:アリシャ(17)

第三王女:リズベット(14)9月26日15歳

婚約者:アルベルト(14)11月29日15歳


王妃様と子供たちみたいな二泊三日の小旅行でも30名以上。近衛騎士団と執事やメイドも付いてるのよ。俺たちが湖で遊びまくってる間にも騎士団が湖の周りの森で警戒しながら獲物を狩って差し入れくれるので鹿やウサギの肉のBBQをした。騎士団も交代で護衛がてらに湖で一緒に水遊びや釣りをして夏の日を楽しんでた。


朝起きてから寝るまで兄妹一緒で遊び倒した、そんなに齢も変わらない。大公様が王妃をメル、第三王子をアル、第二王女をアリ、第三王女をリズ、俺を小さいアルと呼んだ。


エル、アル、アリ、リズ、小さいアル。そんな呼び方されて遊んでる間に俺もお母様とお爺様と呼んで、兄弟は愛称に兄様、姉様と付けていた。リズと結婚して無いのに(笑)


小さいほうのアルだからそのまま呼ばれても仕方ない。俺は14歳でも体は小学校5年生だ、しかも小さい方ときてる。リズも言わずもがな、1年経って小学校2年生が3年生になった位だ(笑)


身長がお互いに伸びてるけど見た目はそんなに変わって無いんだよ。多分2次性徴?が始まらないと男の子と女の子的な強調するものが容姿に出て来ないと思う。


俺は小学校の3年生ぐらいからクラスに好きな子は必ずいた。それはクラスが変わって新しく好きな子が出来ると簡単に消える好きだった(笑) だからそう思えば愛だの恋だのをリズに抱かなくてもリズが好きならいいやと何も違和感が無いのを納得している。あの時が戻って来たと思うだけだ。ハンカチ落としで好きな子が俺の後ろにハンカチを落としてくれるだけで舞い上がっていた小学校の青春。


そんな事を思い出して、小さい頃やった遊びを使用人も含めて木陰でやった。俺のやってたは静止時に何かの動物の真似をして静止するので、皆が何の動物か申告する。侍女さんが魚をやって手の部分がヒレとか言うから皆がブーイングだったり、四つん這いは狼、犬、猫、馬、ヤギ自由自在に言われた。動物の記号(猫の手で招く的な記号)が周知されてない状態の動物の真似はそれぞれが独創的だった。


王妃さまと大公夫妻に神教国タナウスの国首として扱われる時には政策の話や建国の話を問われる。当然真面目な話になる、またたく間に国中に付いた街路灯の話。盗賊対策に予算を取ろうとした宰相が各地の守備隊、騎士団の報告を集めると盗賊被害が無くなっていた話、王家の戦力を含め5万5千の挙兵となった北方の騎馬民族討伐の話。もちろん説法の時の言葉に対する細かな質問もあった。答えにくい最終的な答えは聖教国の秘儀だった。


建築中の神殿風タナウス退避施設が完成したら海に避難に行って良いかと王妃様にワクワクして聞かれた。もう使を理解していた。


国の命約でナレス王と王妃様、第一王子夫妻の4人はキーを持つので国民を連れていつでもタナウスに避難する権利が有ります。と重々しく皆の前で宣言しておいた。リズの兄妹たちはお母様!私達も避難させて下さいと訴えた(笑)



・・・・



今年の3月1日に北方に進軍したナレス軍は、大将の第二王子(武官)をようする王軍、大公軍も含めて5万5千の兵が7月末に各国の国境線に天幕を張り、北方騎馬民族の掃討を宣言した。駐屯する場所から各国へ奏上されたのである。


「ここの稜線からナレスね?」


みたいな感じと思う。(そう思うから仕方ない)


取り合えず各国からの騎馬民族討伐祝いの親書が届けばナレス領土扱いになると、リズの誕生日で9月末に王城を訪れると王様から最新の報告を聞いた。


進軍に必要な糧秣りょうまつなどの戦費。先渡し分を謁見えっけん時にナレス王家から下賜かしされ王命を果たす各領の混成軍。討伐成功のあかつきには褒章として戦費が下賜かしされると宰相の裏情報で知る各領主家。敵のいない地を寄り親、寄り子で足並み乱さず行軍したという。下賜かしの莫大な戦費を自領に落とせば領が肥える景気が良くなるのだ。


「皆しおるわ(笑)」


家族部屋で陛下が笑って言ったが現場は少し違っていた。


・・・・


3月から北方を歩きまわって進軍した5カ月後の7月末。


現場の5万5千の3軍は隣国の国境線に布陣した。


ギブラル首長国国境に陣を張る総大将第二王子軍。

チノ共和国国境に陣を張る東方大将侯爵軍。

スラブ王国国境に陣を張る西方大将侯爵軍。


3国に対し北方騎馬民族を討伐した奏上を行った3軍は(交戦してなく元気)ここぞとばかりにそれぞれの国境線で演習を行った。南軍、北軍に分かれて指揮統率力、ユニット戦力、勝敗などを競う演習だ。本来の戦争は両軍が作法に従い、開戦後は戦場会敵一発勝負で寄親と寄子の混成軍で実戦に望む。


今回の討伐遠征では会敵しなかった、王命により北方騎馬民族の討伐と聞いたが居ないのだ。新年の謁見にて伝えられたこの遠征は何らかの情報を得た王家がその財政を賭けて領土を増やしに計画したものと領主の間でささやかれ、それを裏付けるように国境線に陣取るまで騎馬民族を一度も見る事は無かった。


北方騎馬民族討伐が各国の王家に奏上そうじょうされ、返信を待つ期間を使って演習を繰り返した。中には初陣ういじんもして無い兵もいた。地面が震える様な1万人の南北に分かれた兵士たちは現状把握に即した戦術で布陣を変えて勝利、敗退の演習を毎日繰り返した。


とばりの下りた天幕の中で、各領地の騎士団長が戦術について酔っ払いながらの持論を展開し、演習が繰り返される内に勝率の良い騎士団長の指揮力と判断力を皆が学ぶ。ユニットとなった魔法士と騎士の6人~10人のユニットは、前日戦果を上げ生き残った部隊の動きを真似た。魔法士から放たれるのは絞ったファイアボール。回復士が簡単に治せるやけど程度の負傷だった。誰かに当たれば部隊ごと全滅判定される。毎日勝ったり負けたりの戦果、良い場合と悪い場合の経験が部隊に蓄積された。


各国からの祝い状と戦勝祝いが届けられたのは10月中旬だった。各国の使者は討伐が終わったにも関わらず、どの領主も帰っていない事を恐れた。本来は戦費増大を恐れて戦闘が終われば我先に帰るのが領主軍なのだ。長らく各国の冬を悩ませた北方騎馬民族掃討の奏上に対して無視した場合は紛争を起こすつもりだったのではないかと恐れた。


恐れは杞憂きゆうに終わり、使者を丁重にもてなした後、使者と別れる様に2万の軍はナレスに帰って行った。


それぞれが布陣した国境線3軍への労いと戦勝祝いは1週間程の違いで3軍にそれぞれ届き、5万5千の全軍はナレスに引いた。


北方騎馬を退治したナレス軍は自国に入ると領民に勝ち戦をたたえられた。戦わずに演習で強兵になって来た。


参戦した領主は国境線に近い領主が多く500~600km程の自領に着くと戦陣装を解き、例年通りの謁見に間に合う様に休息を取って貴族服に変えて王都に参上した。


一番遠いギブラル首長国の国境線から帰って来た第二王子。北緯53度近辺から北緯44度近辺に位置するナレス王国へ13000人の王軍と大公軍を連れて帰った。騎馬、大荷駄(天幕、野営装備、貴族用の薪、第二王子のベッド等)小荷駄隊(糧秣、飼葉、塩)及び徒歩の従士隊含めて1カ月半掛けて約1000kmを大名行列して帰って来た。第二王子が王都に付いた頃には厳しい冬だった。


アルは夏休みの後にリズの誕生日にナレスに来て、その年の年末のダンスパーティーに出席した時、北方行軍の話を第二王子から聞いた。毎日が天幕を張る野営、かまどから作る食事、雨が降ると天幕逗留とうりゅう。ナレスまでの遠距離を行軍する王軍、大公軍を率いる第二王子以外に天幕でのベッドは無く行軍中の部隊はほとんどが天幕暮らしだったという。


先頭からの最後尾まで大荷駄、小荷駄隊の多数の荷馬車隊を入れると12kmもあると聞き驚いた。視たら13000人が二列行軍で6500人。1m置きに整列しても6.5kmで納得した。


たまたま1年前に俺が北方討伐を進言した事で1000kmの大名行列になり、エライ目に遭わせちゃったと反省した。


1月10日に参戦領主は謁見の間に集合。労いの言葉と帯同した戦功官からの演習報告の奏上で討伐褒賞金と共に領主と騎士団長には褒美が下賜かしされた。




次回 288話  寄り添う心

---------------


この物語を読みに来てくれてありがとうございます。


読者様にお願い致します。


応援ポチ。☆も頂けたら嬉しいです。


ポチをしてくれる事。それはとても励みになるのです。


一期一会に感謝をこめて。よろしくお願い致します。



               思預しよ

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る