第286話  察知する敵



7月11日(火曜日)


朝の森の子ヤギ亭。


6時に朝食に降りて行くと女将さんと吟遊詩人さんが待っていた。森の子ヤギの歌をチョレスで弾いて馴染みの吟遊詩人さんに聞かせてくれという。吟遊詩人さんはこの辺の宿にお邪魔して投げ銭をもらう流しの弾き語りだった。この世のカラオケだ、こうやって自分の好きな歌の伴奏頼むんだよ。


視たら、光曜日に教会で披露したいみたい。家族の愛に満ちた歌を森の子ヤギ亭の女将さんが歌う。自分の宿と同じ名の最高の歌に出会ったと喜んでいる。


題もいい加減なら歌詞も改変した歌で良かった。ブラックな奴歌ってたら宿から叩き出されていた気がする。森の子ヤギ亭で子ヤギの断末魔を歌った結末に笑えた(笑)


俺が弾いて女将さんが情緒豊かに歌い。吟遊詩人さんが弾いてまた女将さんが情緒豊かに歌う。


朝食が済むと、馬車で食べなと肉野菜のナン巻きのようなお昼をくれた。次寄る時には必ず泊りに来いと言われた。


メロの街、森の子ヤギ亭は忘れないから来るよ。



・・・・



「この辺なら良いよね?」


街道の前後を見ながらアルムさんが言う。


「うん、そこから入ろ」


そういう安易な慣れが出た時に事故は起こる。自動車学校の言う事は本当だった。


二人で横の林道に入ったら冒険者が草むらで用を足してて非常に気まずい。あ!と目が合って二人で慌てて方向転換で逃げた。アルムさんはサイドの髪を編込んで後ろのワンテールに3本束ねてバレッタで留め、旅の最中はエルフの耳を出してない。ただの綺麗なお姉さんだ。


しゃがんでいたのも冒険者のお姉さんだったから、たまたま姉弟と鉢合わせた感じで悲鳴も何も無く、お互い何も見なかったような感じになって良かった。俺は見た目子供だしな。


木が大分まばらな場所で馬車を出す。


ヨシ、こんで次の街タージス。16時頃までにうちの馬車なら着く筈だ、当然俺は地図要らない。検索で道の先の街を探せちゃうだけじゃなくて行き交う人から次の街の情報や泊まった宿、パリス教についての情報を取りながら進む。


この旅を通じてパリス教の良い所は良い、悪い所は悪いと理解したいと思っている。兵を持って攻め、奴隷を売った真意を知りたいだけだ。ついでに俺自身の性急で短絡的な性格を直したいと思っているからこの様なのんびり旅になる。


そんな事を思いながら俺達を見る視線を辿って多重視点で見ると、丘の上からの盗賊ちゃんの視線だよ。どうすんのよ?まぁ、たったの6人ポッチだ、時間も取られるし放置で行こう。みんながみんな襲われてる訳でも無いしな、と思った途端に襲う気になりやがった。


女子供の2人と見て強気になりやがった!


何も積んでない馬車襲ってどうすんねん。コンビニ強盗的な行き当たりばったり強盗か!冒険者の持ち金を狙うってショボ過ぎだろ、そんなんじゃ死ぬのも早いぞ。とツッコミ入れながら恩寵と武器防具取って麻痺して放置したった。襲ってくる前にこんな事やらせやがって、どっちが盗賊か分からんやんけ!点在してる狼の魔獣に見つかって食われたら可哀想だなと利き手だけ麻痺に変更した。


もう盗賊出来ないよ。真面目に生きて磨きなよ。


小壺に冷たい水を出してゴクゴク飲んでると、アルムさんが昼までの2時間御者を変わってくれた。


俺は荷台に座って精神統一で魔力線の細分化の修行に入る。俺は馬車が揺れようがガラガラ音があろうが入り込むと気にならなくなる。耳に入って来ないのだ。細分化というのもおこがましいが体全体で身体強化しながら巡る魔力量を変えずに細く細くしていく、と口にするのは簡単だ。細くすると魔力の巡りが悪くなる、細い魔力線に圧力が掛かると思い込んで細い魔力線を一本一本足して行くイメージ。途切れさせず巡るままに細い魔力線を重ねていく。気を抜くと重なって太くなろうとしちゃう。


実地の鍛錬で体得する物を、自由意思で操作しようとしてる所がアルだ。タッカート師匠のここに隙を作って誘おうとすると魔力線までそうなることをアルは見ている。師匠が無意識に感じた途端にそこに魔力集中がなされ、本人も気が付かずに防御する事例も知っている。


要するに極めた者は多かれ少なかれその境地に至るのだ。そうなろうとする努力は無駄にならない。仮に違っても何かの足しになるのだ。アルはそこまで考えて一歩ずつ積んで行く。



「アル君ー!あそこの川で休憩しようかー?」


我に帰って目を移すと木造の橋が見えている。


「あー!いいよ、そうしてー!」


馬ロボは疲れないが、人間は用を足す動物だ。誰だっておしっこぐらいゆっくりしたい。大自然に抱かれて用を足す人間本来の姿だ。街中だって自然で人間本来の姿だろう?と言うのは早計だ。街中のトイレは板やブロックで覆われた箱に入ってする。川沿いに用水路を作ってそのまま水流で流す水洗トイレが主流。その近くには辻クリーンの魔法士が縄張りを持って巡回してたりする。


異世界でもトイレは不浄の物として毒が体に付いて病気になる事はお婆ちゃんの知恵みたいに認知されている。。


宿屋ではトイレの穴にスライムが掃除屋でいたりする。たまに動き回って穴から上がって来るのでスライム返しが付いている。


お姉さんとエンカウントしたお陰でそっち系の回想でスマソ。


馬車を川沿いの土手に停めると河原に降りて伸びをする。桶を出して馬に水をやるとちゃんと飲む、塩や野菜をやると喜んで食べる。ちゃんと馬をしてくれてる(笑) 宿に預かってもらうお金が勿体無いから馬車も馬も隠してるけど厩舎に入れたらちゃんと他の馬にも感づかれずに朝まで馬やってる。まぁ馬のロボだから厩舎で馬やるのは間違ってない。


川にチョロロロとして、グレープジュース飲んでたらアルムさんも帰って来た。そのまま河原に座ってお昼にする。


「アルムさんもジュース飲む?」

「アルムはミカンのがいい」

「はい」


アルムさんと少し寝そべってた、川の近くだからか風が涼しくて気持ちいい。川で魚が跳ねるよ、ふふっ。


ん?


あれ、なんか視てる奴がいる。

直接見ないで遠隔で視るって凄いなぁ、恩寵で俺を視てるな。


え!


敵? 俺が敵!


バッ!と跳ね起きた。


視る人間を検索して、もの凄い関連フラッシュの洪水に驚いた。とんでもない恩寵集団がいて大慌て。その場で32人全員の恩寵を取って・・・あ!くそ!身代わりの珠付けてやがる。全部強奪ヨシ!恩寵全部取った!全員麻痺。ふー!危ない。


シズン教国だってさ。え!タナウスと近くない?何ソレ、どうして俺を敵と思うの?恐ろしい奴らだ。


検索掛けてシズン教国でこの大陸を検索するがこいつらだけだ。余りに唐突な会敵に気を取られ、ハッ!と気が付き全員昏睡魔法を掛けた。


やっと自分が無防備だったと気が付き、自分とアルムさんの防御恩寵を付けるがすでに意味は無い。と言うか初めて先制攻撃受ける所だった。油断してたらマジ危ねぇな。


「アルムさん!起きて、大変!」

「何?」

「敵がこの先5km程にいる」

「え?」


「コアさん!神教国の敵が現れた!相手も宗教国だ、凄い恩寵集団だった、無力化したから今からタナウスに連れて行く」


(武装解除はお済みですか?)

「済んだ。全部奪って普通の人」

(かしこまりました、牢を用意しておきます)

「そうして、マジ危ない奴ら」


「今から飛ぶよ」

アルムさんと馬車まで巻く黒い影。


5km先に跳んだ。


・・・・


「旅の途中で休憩してたみたい」

「何したの?」

「僕たちを魔眼で感知して敵認定した」

「え?」


「シズン教国だって、周囲を恩寵で探索してやがった」


「危ないの?」


「危ない奴らだから全麻痺で何も聞こえて無いから大丈夫。未来眼持ってるのが僕を見て報告する寸前だった」


「え?」


「こいつら未来見て負ける戦いしない奴ら(笑)」

「そんなのあるの!嘘みたい」


「だってさ、僕を発見したら明確に敵認定したのよ。何もしてないのに僕に滅ぼされると瞬間に認識した。怖い奴らだよ」


「何もしてないのに?」

「うん、未来にするのを察知した」

「えー!」


「取り合えずタナウスの牢屋に入れるから」

「うん」


シャドが全員巻いた。

宮殿の入り口に跳んだ。


「アルムさん、緊急事態。僕もアルムハウスに行くから待っててくれる?」


「わかったー」と言いながら消えた。


「こいつら、恩寵的にバランス取れてる布陣だった。厄介な魔眼持ってたから全部取った」


「全員昏睡のまま視させてもらうから牢の中入れといて」


護衛で付いてる奴も魔眼が半端なかった。警報出されたら厄介だったけど、さすがに5km先からは識別だけで攻撃されないから大丈夫といえば大丈夫か。しかしこの恩寵の化け物のこいつらに正対して勝てる奴いるんかいな?(笑)


こいつら2300年前から自分たちの危険因子や目の上のタンコブ排除してる筋金入りだわ。分派してるシーズ教国ってのも同じだな。


コアさんこんな感じと、交感会話で概要を見せる。


「未来眼の能力の高い血族が教皇になるみたい、きらびやかな服着てるのが未来眼の一族。あとは兵器みたいな恩寵の武官だけど奪ってステータス封印したから今はただの人だよ」


「これは凄いですね・・・未来眼ですか」


「見てくれたね?子供を未来視で作ってる。誰の嫁とか孫とか爺ぃ関係無し、魔眼同士を掛け合わせて魔眼が生まれたら良いんだよ。優性と劣性を分かった上で、より強いの掛け合わせて恩寵出現確率を上げるために未来視を使ってる。何千年もやってる。近親婚どころじゃ無いよ、結婚なんて何の意味も無い、これ恩寵人間の養殖だよ?ひどいわ。とんでもない兵器みたいな恩寵持ってる訳だよ。もうさぁ、あっちの世のサラブレッドの交配と一緒だよ。コレ恩寵の恩恵じゃ無くて恩寵をあがめて集めてるよね?神様の名前使ってここまでするってどこまで囚われてんだ。宗教ってここまで腐るほど美味しいんだねぇ(笑)」



コアは分っていた、アルが非情のカルト的な教団にショックを受けて雄弁であることを。裁くには力が要り、裁く力の原動力となる根拠を探しているのだ。裁く根拠を視てはショックを受け、口に出して耳で聞いて反芻はんすうしている。裁く力を溜める為により深く理解している。


「全員心を折る。手枷足枷てかせあしかせ、鉄球付けても良いよ」アルの顔から笑みが飛んだ。


「作成いたします」

「服はコアさんのイメージの罪人でお願い」

「かしこまりました」


「うん、用意出来たら自分たちの恰好見せてやる。多かれ少なかれもう自分たちの未来視がブツっと切れてるの知って覚悟してる、一人でも未来眼を残そうとしてる。残したら一族の未来は繋がり勝ちだと思ってる。これね、こういう奴らはあっちの世のソドム(背徳の街)認定だ。徹底的にとっちめて言う事聞かなかったら隷属して神教国の傀儡かいらいにする、その時は駐在するメイド派遣するね」


「そのように」


俺が破滅を運ぶとかアホか。ゆっくりのんびりしてるのに、なんでお前らからチョッカイかけてくんのよ。未来視が途切れるとか言って自分で破滅してるじゃん。アホか、未来眼ってアホなの?


何でそうなったかも見ないとな、こりゃ大変だ。


要約すると以下の通り。


・1月中旬、未来視が暗転する未来が視えた。

・原因が分からず一族で大陸を変え他国に逃げた。

・シズン教圏の教会に異常兆候あれば報告義務。

・戦力を集め災厄に備え戒厳令かいげんれい発令。

・ステータスボードを与える聖教国を目指した。


神に近い法力の国で未来視が繋がる事に賭けた。


旅路の途中。


・絶えず当番が未来の危険因子を索敵していた。

盗賊、海の海象、道中、道の二又路さえ、未来視でトラブルの先を視て進む道中。直接魔動帆船のチャーターで目指せば1カ月半から二カ月でサント海商国に付く旅路を三カ月掛けて北中央大陸の対岸にある南中央大陸に来ていた。


吉兆があればそっちに進む、凶兆を探すから失敗しない道を探し当てて進む旅。パリス教国から辿ってエスジウ~ダイロン~サントへ向かってた。商業国家ワールスと同じ大陸にある宗教国だ、商業国に限らず武力国家にもその神託は絶大。間違いのない神託を出すとはそういうことだ。


危険因子を未来視で索敵していたら恩寵圏内にアルがいたので凶兆の兆しで、幻影か蜃気楼かもやの掛かる危険人物(アル)がたまたま視え、未来眼で注視した。休憩しているアルの場所を追って視ていたのではない。


・俺を注視した瞬間滅びを運ぶ者と理解した。

凶兆の人物を未来視したら滅びに繋がる未来視がブツッ!と切れる元凶だった。未来眼で視た当人も余りに驚いて一瞬放心状態になっていた。


・当番は原因が解った瞬間恩寵を失って麻痺した。

・周りの武官も同時に全員転がっていた。

・女性教皇は身代わりの珠が弾けた瞬間に麻痺した。


「コアさん、ちょっとアルムハウスに行く。これ明確な敵意を持つ相手だから一応付いて来てくれない?」


「かしこまりました」


アルムハウスに飛んだ時には15時だった。



・・・・



「お!アル、どうした? 早いな(笑)」

「御子様、頂きましたぞ!ありがとうございます」

タナウスの身分証を見せてくれるアルノール卿。


「お!もらったぞ、この魔力投影は凄いの」

「私も!ありがとうございます!」


三者三様に喜んでくれているのを見てホッとした。落ち付くまでこんな殺伐としたひどい話を聞かせたくなくなった。


「スクロールの編みは分かったぞ!」

「本当です?」わーい。

「女史が苦もなく笑って再現した(笑)」

「さっすがー!」

「お力になれて光栄です(笑)」


「回復と遅れる別動の魔術紋があった(笑)」

「分離はまだですが回復紋は稚拙ちせつですな(笑)」


「教皇様、魔力眼を授けて頂き感謝致します」

「いえ、そこの賢者が相応しき者に授けています(笑)」


導師を指差す。


「世を救う神の意志に沿えば良いのじゃ」

「まぁ、そう言う事ですなぁ(笑)」

「それでは、私からはこれを授けます」


転移とインベントリをジェシカさんに付与した。


「その才を世のためにお振い下さい」

「教皇様の命のままに」ジェシカさんなんか固い。

鍛錬法たんれんほうは導師から教わって下さいね(笑)」

「私も及ばずながらこれを。受け取って下され」


アルノール卿が腕輪をジェシカさんに渡した。

「ここの者は着替えをそれで行ってますからな(笑)」

「ありがとうございます」


まさか!と視たら昨日の導師と俺の会話を聞いて、昨日の晩に卿が作っていた。イリュージョン仕込んだのかな?と視る俺は既に汚れている事を充分理解している。



「アル。ファーちゃんがくれた俸給銀貨10枚には笑ったぞ。コルアーノの準男爵10位より下ではないか、宮廷魔導師の1位がこれでは世界一俸給が安い国ぞ(笑)」


「まだ国ではありませんのでお許しを(笑) 税も無く、住む所は無料、食べる物も安く銀貨10枚で安心して暮らせる俸給です」


「このタナウスの三賢者が安く見られたの(笑)」

「御子様、俸給より大壺の酒の方が高価では?」

「あ!そうですね、賢者は大壺支給で(笑)」


すかさず、ジェシカさんに大壺渡す。


「あの、これはよろしいのですか?」


「こっちの賢者は無いと夜泣きするので、もう渡してます」


ALL 「(笑)」


とりあえず話の区切りが出来たので伝える。


「いきなり深刻な話ですが神教国の敵が現れました、明確に私を敵対認定する宗教国です。すでに教皇以下の血族を捕え牢に入れました。みなさんの意見も聞きたいので今晩19時の食事をこのアルムハウスで取り、聞いて頂けませんか?、このハウスの皆が聞いて下さい、アルムさんもクルムさんも」


シズクとスフィアはもう俺を読んでるから話を聞かせなくて良い、お子様がいる方が違和感バリバリだ。


途端に皆の顔が本気になった。


「使徒に仇なす者の出現とは古歴の通りですな」


※古歴:古文書で語られる言い伝え。


「そのための後ろ盾じゃ、気にするな」

「教皇様のおっしゃる通りに」


「コアさん、本日をもって神教国の外敵に当たる者は教会部とするね、神都代官ベルンさん以下の政務官は内政部とし、教会部の事は耳に入れぬ様にお願いね」


「かしこまりました」





次回 287話  禁忌のハイブリッド

------------------


この物語を読みに来てくれてありがとうございます。


読者様にお願い致します。


応援ポチ。☆も頂けたら嬉しいです。


ポチをしてくれる事。それはとても励みになるのです。


一期一会に感謝をこめて。よろしくお願い致します。



               思預しよ


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る