第281話  武術大会予選


6月25日光曜日。


宿を7時に出ると、女将さんが今日は家族で応援しに行くからねと言ってくれた。その言葉一つで嬉しくなった。大将も呼んで内緒だよと四峰の身分証を見せると二人は眼をいて驚いた。うちのお姉ちゃんはもっと強いからねと教えてやった。


二人に賭札買うのも自由だけど負けたら許してね?と笑っておいた。今日の晩も泊まる、帰って来る時には結果も決まってる。俺は一度はアルムさんの応援に回ろうとしたから力は入ってない。


賭札は勝者を予想する賭け事だ。

昨日渡された出場規定に出場者は賭札を買えないと書いてあったので出場者の家族は買えるんちゃうの?と視た。家族どころか騎士団関係者に近所のおばちゃんが誰が強いんだい?と聞き込みまで行われている事を知った。2~3人の名前を教えてもらい予選から決勝まで単勝一点買いで小遣いを稼ぐ大チャンスだ!


当日は前情報で確信して賭札を買う者を見て周りの人も提灯買いをするから実力差以上に倍率が跳ねあがって実力差6:4なのに9:1ぐらいの大穴になる。そして実力僅差きんさを知る人は大穴に流れる・・・ってどうなんだそれ!


出場規定で気になって、視るのが乗って深く視えちゃった。


田舎過ぎだろ!どうなんだソレは!これぞタテマエのルール、誰も口に出さない領民公然の秘密だった。女将さんと大将は前評判で噂のテネルとショーンという騎士団員から俺とお姉ちゃんに乗り換えた(笑) 宿泊客の噂より四峰の身分証を信じてくれた。


一戦一戦予選会場脇の露店で大銅貨1枚(800円)の賭札。売り上げで倍率配当の払い戻し。会場全体で何十戦(131試合)もある上にテラ銭も1割しか取らないオッズのある丁半ばくち。負けも込まないから最初から最後まで領民が遊べて主催者も儲かる。


こっちの殺伐とした世界より、あっちで専用の箱作って係員から警備員から、歌謡ショーまでイベントやって行う公営ギャンブルよりテラ銭が低いのが笑える。


あ!演習場に入るのに大銅貨1枚、予選は自由観戦、スタンド観戦が席によって大銅貨2枚から3枚、午後の決勝戦スタンドが大銅貨3枚から5枚、立ち見大銅貨2枚。完全に剣術大会は娯楽イベントで興行として成り立ってる。※大銅貨1枚(800円)


アルムさんは一番目指そうと気合が入る。


コルタ城内壁にある騎士団演習場まで外壁の端から4km程ある、まぁギルドは外壁の近くって相場が決まってるから4kmなんてジョギングで30分だ。


7時40分。内壁の門番に大会申し込み用紙の切れ端を見せると目を見張って驚かれた。大会最年少の14歳だからだ!・・・ゴメン、小さいからです。


大会参加者はタダで入れた騎士団の演習場には木組みの簡易スタンドが予選会場を取り囲んで組まれている。なんかスタジアムの原型はこうなんだと感心した。ロスレーンとか田舎だよな、こんなイベント聞いたこともない。あ!王都コルアノーブルでは有るのか?アルムさんが暇つぶしに武術大会に出たと聞いたわ。アルムさん実はこういうの慣れてる?


4会場は1会場32人の参加者で総勢128人が戦う。騎士団の補欠が数合わせで3人参加してる。第一会場と第二会場、第三会場と第四会場は潰し合うがアルムさんは第二会場。俺は第四会場だから決勝戦まで当たらない。


騎士団もうまく当たらない様に各会場8人は強い順に1~4会場に割り振られてる。俺の第四会場で一番強い騎士団員は序列4位と5位だな。騎士団の団長、副団長を除く平団員の大会出場の序列決めの模擬戦をもう行っている。


予選トーナメントは、シードもあるがこんな感じ。

32名16試合>16名8試合>8名4試合>4名2試合>2名1試合。計31試合、これが4会場で124試合が行われる。


5回戦勝てば午後からの決勝トーナメントに進める。決勝トーナメントは4人で2試合>2人で1試合。3位決定戦アリで1試合して4位まで決まる。5位は予選決勝で敗れた者の4人2試合>2人1試合で5位が決まる。


だから午後は準決勝2試合>5位決定戦の3試合>3位決定戦1試合>決勝戦1試合の順番で7試合が行われる。


第4予選会場の財務執政官(算術Lv7)が賭札の露店を開いているのが見える。俺の場合は賭札以前に冒険者証記載の3位と年齢からもの凄く劣勢なオッズになっちゃった(笑) アルムさんも2位冒険者で傭兵相手にかなり劣勢のオッズだ。買ってる人を視ると騎士団>傭兵>冒険者と実力知って買ってるな。傭兵は対人戦闘特化だしな。


女将さんと大将はまだ来てない、大工さんもモリスさんもまだだな。最初が倍率良いから儲けさせてやりたいなぁ。


8時半に正面の天幕で要綱に書ききれない細かいルールの説明が有った。ぶっ飛ばさなくても首にポンと当てる様な有効打突は判定で一本。ぶっ飛ばして気絶で勝利。場外で一本、試合時間5分延長あり、引き分けは先に一本取るまでサドンデス。相手の死は罪にならないが反則負け。一戦が終わるごとに辺境伯の家紋入りの模擬剣は返されて次の試合の者が自分の武具を政務武官(事務方の武官)の前で選ぶ。


剣術大会だが片手剣、両手剣、曲刀は勿論、槍や短槍たんそう、ナイフどころか斧やハンマー、ショートピッケル、トゲトゲ鉄球のモルゲンステルンまで用意されて目が点になった。ソレ先が丸まってだから。


それぞれの好みに合わせて色んな重量に分けてありやがる。皆がそれぞれの得物に当たりを付けて行く、俺も円盾と片手剣の良さそうな重さと長さを選んだ。戦争では相手の獲物を選べないし、マジで騎士団員用の大会だわ。


最後に予選第四会場の魔術証文に全員が署名した。不慮の死を遂げても文句言いませんて奴よ。遂げたら文句言えねぇよ。


俺の初戦が16戦中12番目だった。当然俺は相手の獲物や恩寵を視させてもらった。騎士団勤務24年目で片手剣に円盾のバランスタイプ騎士団出場者選定序列5位、俺を見てすでに次の戦いの相手を意識してる。辺境伯領の若手と言うが技量はロスレーンの副団長クラスだ、相手にとって不足なし。


第二会場のアルムさんは7番目の試合でワクワクしてた。9時になる頃には会場全体で観客が何万人も入ってた、これは興行収入的にすごいな。露店も大きな木の枝も何もかも人が埋め尽くしてる。


すぐに第一試合が始まった。

俺にとっては剣技を見る最重要のルーチンだった。視終えると隣の第三会場も視る。視ながら一度選んだ模擬剣をチラ見に行った。子供の選んだ剣に細工するとも思えないが、他の出場者の選んだ模擬剣に細工が無いか見に行ったのだ。


いつもの通り、俺の杞憂きゆうだった。ドテ!。普通さぁ辺境伯家が絡んでメンツの為に不正とか有るじゃん。騎士団の対戦は恣意的しいてきに組まれてる。でもそんなのは自領の騎士団の宣伝でフランチャイズのローカルルールなだけだ。不正ポイのが無いから逆におかしいなと見に行ったんだよ。


まぁ騎士団で団長、副団長除く上位をわざわざ選別して大会に出して来るからそりゃ強いからさぁ、領民から見たらシャンシャンに見えるかもしんないな。


なんて言ってる間にアルムさんがすぐに勝った。相手は傭兵の槍使いだった。タイムキーパーの5人の赤旗(コルタの領旗)が1本も上がって無いから1分以内に終わってる。


さぁ!俺も末席だけどさ、ロスレーン伯爵家騎士団に10位叙爵されてんだよ。まぁ聖騎士もだけど。北の大陸の騎士の実力を見てもらおう。


試合を見てると盾持ちの騎士7:両手剣の騎士3の割合だな、盾持ちはユニットで戦う最近の流行りなのか中型の盾に片手剣、両手剣は中型の盾に狙いを定めて押し潰すためにチョイスしてるな。騎士団同士の武器のチョイスや読み合いも面白い。


気を静めて試合を眺めていると会場前の天幕に呼ばれて俺の出番を待つ。前の試合が終わると模擬剣が返され、その時点で自分の得物を選んで執政官に見せる。この間に次の対戦者が読み上げられオッズや勝者予想が拡声魔法で紹介される。


用意が出来ると審判に次いで武舞台に上がった。物凄い声援だ、子供に対する贔屓ひいきが半端無いが、誰も賭札買ってない(笑) まぁそんなもんだ、現役の騎士団が相手じゃ子供冒険者は勝てないよな。


しかし、同じ丸盾装備で騎士として正々堂々勝つ。


お互い礼をして向き合う。すでに俺は身体強化全開、多重視点と並列思考で視ている。初見の相手が副団長クラスなら油断できない、初見の技にめられたら終わりだ。まぁ2回食らわなきゃ良いけど。


「始めぃ!」審判から合図。


無難に受けに回って打ち込みを防ぐ。ギャラリーも相手も含めて子供がビビってる様に見えるだろうな。五回六回と打ち込みを防いだら相手も俺が固いのを認識したみたいだ。連撃が混じって来るがそれでも崩れない。


攻めなきゃ初見の技も出ないしな(笑) タッカート師匠みたいに魔力線まで連動する蟻地獄に誘って来る剣豪はいないだろ(笑)


子供相手に攻めきれない姿に観衆のヤジが大きくなり焦ってきてる。焦った打ち込みを見てる間に癖や角度、タイミングが段々と構築されて行く。視終えるとその構築した影を相手に鍛錬するアルなのだ。用心深く相手の剣筋を視覚にストックしていく。


元々盾は相手の攻撃を受けながら返すスタイルだ。アルは受けるだけで亀の様に固まって殺気で剣を出すフリしかしない。当然相手も来ると思って盾を出し剣の間合いから避ける逃げる向かう受ける動作をからめて攻撃してくる。だいぶ癖とタイミングが視えた所で4番目の赤旗が上がったので初撃を出した。まぁ一本目だイケ!と受けから繰り出す最短の返しで胸をき相手を膝付かせた。


見せた剣筋はそれだけだった。


亀の様に防戦一方と思っていた観衆も驚いた。子供が動いた瞬間、騎士が突かれて一本取られたのだ。


第四会場の観衆の声が全ての会場を覆ったほどの喧噪だった。


膝立ちから起き上がり信じられない物を見たコルタの騎士が驚きと共に子供を見た。亀の様に縮こまっていたのでは無かった、剣の技量をじっと見ていたのだ。静かに対応しながら動かない視線は気になっていた。攻撃しても驚かないのだ、冷静に受け流され、無効化される撃ち込み。そして来る!と思わせる足捌きと体の流れと殺気は本物だった。


立ち上がって開始の挨拶を呆然と聞いた騎士は畳み込まれる様に4合程打ち合って潰されて同じ剣筋で胸をかれた。


試合時間5分を20秒残した2本勝ちの完封だった。

(4番目の赤旗の次だけ白旗が残り30秒を表してるのよ、5本目の赤旗が上がるとサドンデス突入なの)


一番長い予選試合だった。終わった後に礼をして模擬剣を執政官に返す。2回戦まで少しあるなとホッと一息ついた。あ!と思い出して視たらかがり火亭の大将も大工さんもモリスさんも払い戻しに行ってるので安心した。みんな買っていた。わーい。


騎士団に勝っちゃった子供のオッズは2回戦から大幅に修正された。でも必ず劣勢だった。


予選は一会場で31試合有るのに3時間で行けるのか?と感じていたが杞憂きゆうだった。早ければキキンキン!1本!カカンキンキン1本というペースで試合が終わる(笑) 5分という真剣な勝負はお互いに消耗する程長い。皆が予選からアルの様に万全を期して戦ってない。予選で負けると思ってない、逆に予選で必死なら上に行けないのを知っている。皆が鍛錬した技量を予選でぶつけようとして、自信の型でヤー!と打ち込んで行く者が多く、同時に己の立つ位置を予選を使って確かめていた。


2回戦、アルムさんの相手が騎士団の序列7位だった。

少し打ち合ったあとすぐにラナンの変幻自在、天衣無縫の剣が出た。それは対人用の片手剣が鞭の様にしなり、相手との技量差で2本に見える幻影剣。全く同じ太刀筋とモーションの速さと遅さに翻弄されてから全然違う所に振り下ろされる剣。


その剣筋を知れば知る程アリ地獄の様に殺気とモーションの変幻にだまされて受けられなくなる。本人は受けに回っているが剣が来ない。普通に受けたつもりで剣を出すとギリギリで受けるほど速い撃ち込みだったりする。同じモーションで緩急付けられ対応してる間に、剣がとんでもない軌道で飛んで来る。


ストレートのスピードと同じ腕の振りで繰り出されるチェンジアップやカーブ、シュート、スライダー、フォークを至近距離でやられる様な剣だ。相手のタイミングを巻き込んで無茶苦茶にする剣技だ。剣筋の振りが異常に速いからタイミング的に攻撃に移れずにどうしても受けに回ると蟻地獄の様にハマる。


まぁ元々早い上に基礎数値高いわ、恩寵高いわ、敏捷の指輪してるわ、妖精の靴でブーストしてる。そのままの速さで緩急と変化付けられたらわやですわ。そんなのにラナンの天衣無縫の技が乗る、初見で対応もクソもないわ(笑)


当然の様に辺境伯領騎士団の7位も寄せ付けなかった。2本合計の試合時間1分ほどで終わり。


アルムさんは第二会場の予選決勝で辺境伯領騎士団の2位と、俺は第四会場予選決勝で辺境伯領騎士団4位と当たる。


※団長、副団長を除く大会出場者選考試合の順位。

※各予選ブロック1会場に32人中8人、4ブロックで騎士団1位から32位と人数合わせの3人35位までが出場している。




次回 282話  武術大会決勝

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               思預しよ

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