第278話 遺したもの。
昼過ぎに静かに降ってきた細かい雨。
こんな日も風情があっていいなぁと幌馬車を走らせてたら15時にはとんでもない豪雨に変わってきた。一面が薄暗く見通しも悪い、風情もへったくれもぶっ飛んだ。
四方八方から豪雨の水跳ねが襲って来るので胸のポヨーン魔法をONにして御者をしている。豪雨が幌に当たる音がババババー!と凄い中、アルムさん何してんの?と振り返ると雨が滝の様に降り注ぐ中、土の踏みしめられた道のカーブに点々と灯る小さなライトの魔法。通って来た道に小さなライトを並べて道しるべの様な物を作ってた。ぶっ飛んだ風情がそこにあった、なんかエルフってすごい。
馬車の前方も跳ね飛ぶ雨滴で視界が悪い中、多重視点で先を見通し馬車を走らせる。うちの馬はロボだから塩も休憩も豪雨もまったく関係ない。知られなかったら誰が見ても普通の馬だから超科学も関係ない。誰も知らなければお金持ちに白金貨10枚で譲ってくれと言われない。
そんな中。
最初に見た時は前方に狼のモンスターが飛び出して来たと思った。良く見たら獣人の兄弟だった。三人の子供が馬車の行く手にずぶ濡れで立っている。毛がまとまって細くなった尻尾から滝の様に雨が流れるのがなんか可哀想。子供と言っても八歳と九歳の子は結構大きい。
馬車を止めると、アルムさんが荷台から顔を出す。
「どうかしたー?」アルムさんが俺の後ろで叫ぶ。
「子供出てきたー!」おれも豪雨の騒音の中叫ぶ。
子供達で話してるけど豪雨の音で聞こえない。が視えてる。
(人だよ?お兄ちゃん)六歳の犬獣人
(いいんだ、この辺は人しか居ない)九歳の犬獣人
(大丈夫?)八歳の二足歩行の犬。この子を狼のモンスターと勘違いする俺も
(大丈夫、言葉も通じる筈だ)
(うん、助けてくれるといいね?)
もう視て解った、助けて欲しいのが分かった。
「どうしたのー?」子供っぽく言う。
(あ!分かるよ、お兄ちゃん、喋ってるの分かる)
(うん、分かるな。よかった!)
「助けてー!お兄ちゃーん!」
「何を助けるのー?」
「お母さんが死にそうなんだよー!」
「どこに居るのー?近くー?」
「このお山の少し上ー!」
「よしわかったー!助けに行くー!」
付いて行くからと子供に案内させて山に向かった直後に馬車ごとインベントリに入れた。ポヨーン魔法をOFFにした途端に頭からずぶ濡れだ。
緩い斜面の木に捕まりながら
二歳三歳四歳の小さいのが寝てるお母さんを囲って
マラリア原虫と出る。検索すると熱帯や亜熱帯特有の病気だ。細胞クラスの卵が体の中で多数活性化する。血の中の細胞クラスの卵を血と共に蚊が吸って次々感染していく。子供達も発症してないだけと思う。地球でも何十万人も死ぬ病気だな。クルムさんの医学書にも載ってない、北中央大陸に無い病気だけどタナウスも亜熱帯ちゃうんか?これ治るかな?分かんないな。
七人を昏倒させて魔法を連発。コアさんを呼ぶ。
「コアさん!マラリア原虫って治せる?」
(タナウスの民はすでに予防してあります)
「重症ぽい獣人を取り合えず連れてくから、後はお願い」
(かしこまりました、宮殿の応接でお待ちします)
タナウスに跳んだ。
「この七人、癒しのヒールと状態異常回復と浄化したけど体の中の病原虫の細胞卵はさすがに分かんないし子犬の方も感染してるかもしんない。取り合えず回復はしてる。お父さんは三日前に死んでる」
「お任せ下さい」
「今、睡眠の魔法に変えた、揺らせば起きるからね」
「かしこまりました」
コアさんが医療用の錠剤を持たせてくれた。とりあえず飲ませたら今回みたいに救急医療体制取らなくて良いと言う。多種な病気に効くだけではなく一回飲めば傷が治るまで化膿しない夢の様な抗生物質。その錠剤の名はナノロボットだった。
噴いた。
体内で敵と戦うらしい、もう付いていけない。タナウスの民には勝手に住んでるらしい。ナノロボットが(笑)
それはどうなんだ、アウトちゃうんか?考えてしまう。知らずにヨーグルトドリンク飲んで善玉菌がお腹に住むのと変わらないの?知らなきゃ超科学もアリ?
知らなきゃ善玉菌も超科学も一緒に思えた。
誰も知らなきゃセーフだな。ぎりぎりセーフの様な気がしないでもない。聞いても誰も信じないし。小人が体の中で細菌とリアルで戦うとか笑うわ。でも白血球もリアルで戦う訳だからやっぱセーフ?白血球の援軍とか行くんかね?イヤもっと小さいわ(笑)
ハッ!と気が付くと錠剤を持ったまま考え込んでた。
「アルムさん、宮殿のお風呂豪華だよ入ろう」
「あ!そうだねぇ、雨の中洞窟まで登ったし!」
「ただいま用意しております、お待ちください」
「ありがとう!」
「あ!犬家族の荷物取って来る」
「うん」
「先入ってて」
「わかったー!」
・・・・
犬獣人がいた小さな洞窟に行って色々と荷物をインベントリに入れて行く。洞窟にお父さんの服が一面に敷かれてみんながそこに寝ていた。お父さんの匂いかなぁ?安心するのかなぁ。色々視て行った、色々と知った。
洞窟の前に痩せた馬が豪雨の中繋がれてた。
可哀想に一週間も
馬が引いていたのは軽トラの荷台程の小さな荷馬車。
急な坂の下の茂みに隠してポツンと雨に打たれる荷物を積んだ荷馬車があった。洞窟まではケモノ道で行けないから馬だけ連れてここに置いていった。小さな子供達三人が荷物と一緒にこれに乗って新しい家に向かってた。
お父さんのお墓も穴掘って埋めただけだ。すでに体調崩してるお母さんが掘って泣きながら埋めていた。
夫婦は冒険者で最初の子が出来てから嫁の実家に10年の通い婚だった。モンスから十日の場所に有る大森林の獣人村だ。新年は二か月を嫁の実家で暮らす生活。俺達がハチを追ったモンスに家を買ってこの荷馬車でやっと嫁と子供達を迎えに行った際にマラリアに
お父さんの遺品に家の鍵を視て泣けた。
モンスでお父さんが買った家に行って屑折れた。
机に並んだ子供達へのサプライズのプレゼント。モンスで使うから獣人村に持って行かなかった心まで視えて泣いた。余りに
半時間ほども床に
わかったよ、子供を立派な冒険者にするんだな?あんたの遺志を奥さんと子供に教えてやるよ。この家も全部家族に渡してやるからな、ちょっと待ってくれ。少し落ち着くまで待っててくれよ。
涙が止まるまで帰れなかった。
二時間経ってタナウスに返って来た。
「遅かったねぇ」アルムさんが待っててくれた。
「うん、色々あってさぁ。今日はここに泊って明日犬獣人のお母さんと話すね、それから戻るよ」
「何があったの?」
「犬獣人のお父さんが家族に
「へー」
「アル様、お風呂の間に食事を用意します」
「うん、ありがとう、これ見てもらえるかな?」
交感会話になる。
「その様な経緯は分りました。状態が回復し、気が付き次第に今の状況は知らせておきます」
「お願い、お風呂行って来る」
「行ってらっしゃいませ」
・・・・
翌日。
犬獣人のお母さんに、どのような状態で救われたか、救ったのは誰でお父さんが用意していた家をモンスから確保して希望の場所に置ける事をコアさんに伝えてもらってた。
帰る場所は奥さんの実家の獣人村。家は親の家の横に置いて欲しいとの事。奥さんから魔術証文を預かり、モンスの冒険者ギルドで
半日かけて手続きを済ませて、犬獣人の一家と獣人村に跳んだ。奥さんの実家の向かいに家を出して、子供も含めてお父さんがいかに立派で凄い男だったか話してやった。
新年に帰省した時、長男に身体強化が付いたことを知り、凄く喜んで立派な冒険者になるようにお母さんと一緒に鍛えようとしてた事。皆を喜ばせようと机の上にあるプレゼントを買っていた事。どれほど家族を愛していたか聞かせてやった。奥さんの両親も一緒に泣いていた。アルムさんも貰い泣きしてた。
俺は泣かなかった。
もう分かっていた、それは悲しむべき事じゃ無い事を。やることをキッチリやって家族にそれを
だから視えた俺には心に響いた。
生を燃やし尽くして死んだお父さんの獣人に涙した。悲しんで涙したあと
六人の子供達は魂に浮き出る紋様が奥さんに似ていた。それはお父さんとも当然似てたはずだ。生まれるべくして生まれて来た器に入った縁ある魂だ。輪廻は似た輝きの魂を持つ者で縁を作るらしいからな、生まれ変わったらまた人生を紡ぐよ。奥さんと子供達の魂とまた輪廻で出会うんだよ。
そういう事だ。器が滅んでも
知ってる俺が
みんな頑張れよ!
お父さんが楽しみに用意していたと嘘を付き、子供達に小振りの剣とナイフと短弓を用意した。
お母さんによく教えて貰えよ。
それはな、お前たちのお父さんの
お父さんから愛する子供達への
十五時、昨日の幌馬車を止めた場所に帰った。
雨は上がって、豪雨も何も無かったかのような空だった。
アルムさんが御者をしてくれたので、俺は日課の魔力線の細分化の練習をしている。部屋で座って目を
あと二時間弱でエスジウとの国境線の街コルタだ。
次回 279話 オークと冒険者と14歳
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