第277話 鬼気迫る刃風
昼に帰って来たキングビー討伐の後、素材報酬が出ると聞いた。大きなマンガ肉を解体した十六時頃に報酬がもらえる。
現在昼過ぎ。荷馬車は宿に預けて明日出発にしたのは十六時じゃ街出てもすぐ野営だし二十一時にはちゃんと寝たい。育ち盛りだから寝ないと背が伸びないと思うのよ。
街に出て少し上等なオープンテラスのレストランで昼食を取るついでに弁当も二人分作ってもらった。エネイの王都程は
街を歩くと華やかな現地衣装の店があって自然とアルムさんの目が向くから寄った。この国の娘さんが着る服だが膝上までのチャイナドレス風のセクシーな服を見てる。
「いいの?買う?」
「これは、クルム姉が好きな感じなの」
「あ!言われてみたらそんな感じかも」
アルムさんはミスリル鎧のショートパンツにミニスカのニーソとか自分から着ない。大体ズボンが多いけど、クルムさんはミニスカ履きたがる。年寄りだから派手なのかもしんない。クルムさんがミニスカ履いて、アルムさんとシズクがお揃いにしてる感じ。
「クルム姉は、見せつけて誘うからねぇ・・・」
服を物色しながら気のない素振りでなにげに言う。
お前、なにげに何言ってんだ!(笑)
確かに俺にも太もも見せつけて来る、と言うかわざわざ足を組み替える。チクショー、漢の純情を
「・・・」
アルムさんから少し離れた。大人の汚さから離れた。
この国の冒険者の風体の古着があった。色々見て行くが当然魔物の革なんて使って無い。俺のサイズはやっと七位になった紙級の冒険者の小さな服だ。大きいの買ってサイズ調整から魔術紋を付け直すのも面倒臭い。この国の定番衣装として買っても良いけど布のペラペラに魔術紋刻んでもあんま意味無い(笑)
冒険者風の衣装に釣られて見ながら結局この国の定番平民服を選んだ。中古で結構ヨレてマジ平民の子供になれる。敬語要らなくて地の言葉遣いが出来るから平民ファッションが好きだ。
「え?アル君それなの?」
この国の娘さんのおしゃれ着持ったアルムさんが言う。
「地味かな?」
「流民の子じゃないの!」
「えー!」ガーン
選んでもらったら、襟や胸の合わせと袖にヒラヒラが付いたオスカルのブラウスみたいな服だった。日本人にはこの感性無いわ。勘弁して欲しかったが、アルムさんも店員さんも心からウンウンするからこの世の感性的にこうなのだろう。
もうさ、シンプルな服=金が掛からない服≒流民の服の公式が出来ている。シンプルは流民なんだよ。
なんで平民服選ぶのにこんなに忍耐がいるんだ!
(お前が流民な服選ぶからだ)
・・・・
夕方に冒険者ギルドに行くと綺麗なケバブの猫ちぐらが飾られていた。巣の中で凍って死んだキングビーが二匹巣に止まってる様にディスプレーされている(笑)
裏を見ると穴が開いて中の芋虫は綺麗に取られている。
キングビー討伐
四峰
説明書きがPOPなカードに書かれて留められている(笑)
ここのギルド嬢、ドンキに就職できるぞ。
巣の中に居たキングビーの幼虫の素材買い取りは、討伐報酬より多かった。確保され次第に王都に運ばれたと言う、王都で冷凍してマジックバッグ保存するらしい。
一番大きなキングビーの巣が討伐報酬大銀貨五枚と幼虫の素材報酬が大銀貨六枚だった(90万円)珍味的に地球のこのわたみたいな扱いやな。六人PTなら一人大銀貨二枚(15万円)ってところかね。一日掛けてPTで狩れたらそんな相場みたいね。
スペック不足の六人PTがお礼を言ってくれたので、幾らもらえた?と視たらニセ斥候の奴がボコボコにされていた。腹や背中の見て分からない所に剣のサヤで殴られた
六人PTに聞いて知ったが、キズものの凹んだ巣の方が素材的に高値だったみたい。ハチを
匂いが付いて安値だったクイーンビーの巣との差額を返すと言ってくるが関係ない。芝居を見た後に面白く無かったと見物料を値切るみたいだ・・・TRAINの。
・・・・
ロバの鈴屋で夕食を食べていると(六人PTが四峰のお二人に出してくれと)女将さんがエールとツマミを持って来てくれた。
もらったエールの木のジョッキをアルムさんと一緒にPTの方に
女将さんと親父さんが泊り客のPTを助けた四峰を大したもんだと
話を普通にウンウンと聞いてたら、近所のイタズラ坊主たちに子供が泣かされて帰って来るらしい。武術の手ほどきをしてくれと言う方向に向かっていた。そんなのに何か持って掛かって行ったら余計にやられる気がする、大丈夫なのか(笑)
でも明日宿を立つ時に弁当を出すという言葉に釣られて簡単に受けた。自分で食べる分と自販機のボタンになる分、二度美味しい弁当だ、断る手はない。
子供の体力なんて体が大きいか小さいかに尽きる。そして大きな体に粗野な性格が付くと近所のボスになる。そんなに体力は違わない筈だ。優しい性格に少し根性付けてやりゃあ良いのかなと思った。
アルムさんが精霊魔法でライトの魔法をそこらじゅうに付けたロバの鈴屋の裏庭。親父さんと女将さんと六人PTも他のお客も噂に聞く四峰の剣術を見ようと見学で座ってる。
ただし、何が有ろうと口出し無用と言ってある。口を出したら斬ると脅すほど言っておいた。
男の子を視たら剣の練習なんて意味無いとガキ大将の怖さを植えつけられて最初から折れている。逆らうとやられる恐怖に
ガキ大将最強伝説の固定観念を消してやろうと思った。
何を言っても要するにノビタとジャイアンだ(笑)
「やー!」背の変わらぬ十一歳の男の子が打ちかかる。
「そうそう!」と俺もにこやかに対応する。
何度かの打ち込みで木の棒を持った子がヘロヘロになってきた。
「やー!」
「もうちょっと根性出せねぇのか!」
言葉使いが段々と荒くなっていく。
「お前、やられて悔しいんだろ?悔しいだけで棒も振ってねぇよな?口だけで剣術修められると思ってんのか?」
段々説教になっていく。
「お前ぇ、四峰舐めてんのか!なんだそのヘロヘロな打ちこみは!死ぬ気で打ち込んで来い!」
「や、やー!」はぁはぁしてフラフラだ。
アルムさんはニコニコ見てる。
「お前、どうやら死ぬ気ってのを知らないらしい」
「え?」
「死ぬ気になるとな、人間は何でも出来ちまうんだよ」
「・・・」何言ってるか分かんない。
「俺が死ぬ気をお前に見せてやる」
そのまま土魔法で杭を出して子供を縛り付ける。
「今から剣でお前を斬るからな。寸止めだ、安心しろ」
親の眼が飛びだしてるがアルムさんが前に立って抑える。
「俺も死ぬ気でやるからな、お前が死んだら守備隊に捕まって俺も拷問の後で打ち首だ。俺も死ぬ気でやる、お前も死ぬ気で受けろ」
死ぬ気で受けろと縛られた子供に言い放つ。
「動くんじゃねぇぞ、動くと死ぬぞ」
四峰のお兄ちゃんなら大丈夫!四峰なら大丈夫、動かないなら大丈夫、四峰だもん絶対大丈夫・・・。呪文が視える。呪文で誤魔化しやがって、こいつやったるか?子供には
逃げたら越えられないな・・・。
気合を入れ直した。
眼を能力全開、多重視点、並列思考、身体強化最大・・・。
次第にアルの眼が
余りの鬼気迫る禍々しい幽鬼に子供がたまげる。
「ぼ、僕はもういいです!」
「鍛練中だ。うるさい」重く静かに言う。
「動くなよ。死ぬぞ」眼光で
子供はこぼれるほど目を見開いて声も出ない。
静かに息を整えた刹那。
「やー!」 向こう三軒両隣まで響く、散歩する猫が飛びあがる様な気合と共に剣が振り下ろされる。
刃先から視る視点で、気合と共に振り下ろされる剣を万力の力でコントロールして額に止める。
ピタ!と額に触れる真剣。
「ちょっと斬れちまったな、すまん。死ぬ気が足りんかった」
剣を外すと額から細い一筋の血が口まで垂れる。
「ヒール!ヨシ直った。次は死ぬ気で止めてやる」
顔に付いた血筋はそのままだ。
ルーチンを最初からやり直す。
目を全開、多重視点、並列思考、身体強化最大・・・次第にアルの眼が据わって行く。アルの気迫が魔力が体に纏いつく。全身全霊の打ち込みに賭ける気力が毛穴から吹き出す。鬼の殺気を身に
トドメを言っておく。
「俺の死ぬ気を受けて見ろ」重く静かに言う。
「 」口がアウアウゆっくり動いてる。
縛られた子供は恐怖に漏らしても俺から目が離せない。
「やー!」裂ぱくの気合と共に左から右への切り上げ。
子供の
「おー!斬れちまったなぁ(笑)」
「ひ・ひ・・き・か・か」なんか言ってる。
親父が一歩放心状態で踏み出したのをアルムさんが押し戻した。
「ヒール!ヨシ!治った治った!・・・なんだ?漏らしたのか!男が漏らすんじゃねぇ。鍛錬を何だと思ってんだ!」
首から下が血まみれだ。
「次行くぞ!死ぬ気で覚悟しろよ!」
覚悟しろと言われる子供。
またルーチンを行って鬼に変貌して行く。
鬼が子供を
「ひ・ひ・ひ」
「動くなー!」裂ぱくの気合で子供が固まる。
アルが叫ぶとギャラリーもビクッ!とする。
「やー!」とんでもない気合砲が放たれた。
その気合でギャラリーの心臓がキュッと
服ごとズバッと斬った。腹に横一直線、一筋の傷、血がゆっくりと服に染みて行く。
「うまいこといかねぇなぁ、俺の本気も大した事ねぇや。ヒール!ヨシ直った!」
子供は放心状態で俺をボーっと見てる、
「鍛錬終わり!俺の死ぬ気も大した事無かった、お前の死ぬ気もまぁそんなもんなんだろ。悪かったな、お前の死ぬ気は捨てたもんじゃないぞ!」
「クリーン!よし、綺麗になったな?その服ぐらい女将さんに縫ってもらえ、まだまだ着られるぞ!」
本気の分、終わって冗談口調で話しかける俺もダメダメだ。
終わった後、親父がわめき散らして来たが、約束したな?と鼻先に鬼の顔で剣を突き付けた。
真顔で子供に言った。
「弱いお前はもう死んだ!」
子供に宣言してやったら、ハッと気を取り直した。
「弱いお前を追い出してやった(笑)」
「・・・」
「弱いお前はもういない。もう怖くないな?」
「・・・」
「今はそうだろうが一晩寝たら分かると思う」
「はい」
「親父と女将さんが心配してたぞ」
「はい」
「お前は死ぬ気を知った。それより怖い物は無い筈だ、一晩寝て周りを良く見たら景色が変わってるかもな(笑)」
「はい」
「クリーンしたからパタパタして粉落とせよ」
「ありがとうございました」
親父が黙って聞いていた。
ちゃんと視てやってるから大丈夫だよ(笑)
四峰のお兄ちゃんなら大丈夫とか無理やり安心しやがるから斬るつもり無かったけど本気で気合入れて斬ったった。刃先で視てるから皮しか斬ってねぇよ。頬や腹は徐々に深くしないと怖がらないと思った。額に掛かった刃風、頬を撫でた刃風は相当だったと思う。
あの齢でとんでもなく怖い物を見た筈だ、俺が視て来た
アルムさんがほらねとドヤ顔なのが笑える。
ギャラリーのPTに鬼の顔して、お前らも揉んでやると冗談言ったら腰を抜かして逃げて行った。
・・・・
翌日の朝食が驚くほど豪華だった。
食べてビックリしたのが
なんか豆を発酵させた調味料だけど味噌じゃ無い、豆板醤みたいなのだと思う。ピリ辛だけど味噌っぽい風味。これ焼肉に行けると小壺に少しもらって来た。
食事を食べてお礼を言うと女将さんがお弁当と干し肉の塊をくれた。削いでスープにもパンにも挟んで食べなと言う。少し話したら、朝寝ている子供の机に切れた服が大事に畳んであったらしい。奥さんは旦那に四峰の剣を浴びて生きてるなんざうちの子供だけだと笑って
この干し肉の塊を削ぐ度に思い出しそう。
・・・・
ロバの鈴屋の子は何かを乗り越えた。
後日、ガキ大将を見たロバの鈴屋の子はなんでこんなのが怖かったのか不思議に思った。強気に口を利いただけで動揺するのが見えるのだ。手に持つ棍棒など目に入らなかった、殺す気が無いからだ。殺気の無いジャイアンを見下した。殺す気が無い棍棒を堂々と受けて殺す気も無いのかと笑った。
それで充分だった。
まだ来るなら殺す気の見本を見せてやろうと思った。
その覚悟をガキ大将の方が察知した。
これ以上の一歩を進む事をガキ大将の方が恐れた。
それが分かった、冷静に見て取れた。慌てていた。
最後に作った左肩の
両親が弁当と交換した物は子供の胆力。
次回 278話 遺したもの
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