第275話  ごめんね



エネイ王国を出発しモンスの街を目指して走る。馬ロボは普通の南国種の小さいタイプの二頭に中型の幌馬車を引かせている。盗賊騎士団をやっつけた場所まで乗合馬車で3時間以上あったが、この幌馬車は2時間チョイで走り抜けた。まぁ荷物は俺とアルムさんだけだし。


走ってるこの辺はもう標高もクソもないただの平地だ、ただし木々は生えている。その辺に森があり川があり橋がある。王都へ向かう道の逆行だからだだっ広くメチャ快適。幌付きオープンカー?で風が御者台から荷台に吹き抜ける。


御者台横に来たアルムさんが色々と露店の食べ物を出して食べさせてくれる。シュチュエーションは世話を焼かれる弟だ。


急に御者台に上がって来たと思ったら荷台で食べてたお菓子を俺にたまわる。また荷台に行ってエルフィンボウで魔力込めて撃ってたり、飽きると布団出して寝てる自由人。


しゃべってもさぁ、荷台と御者台だとガラガラうるさくて聞き返すのが面倒臭い。何言ってるか分からないのにいい加減な返事でウンウン頷いてたりする。


今もアルムさんがなんかワーワー言ってるけど何言ってるか分かんない。ウンウンいい加減な返事しててもまだ叫んでるから振り向いてマジ固まった。


ハチだ!のハチじゃない!


四リットルの焼酎(大五郎)のペットボトル大のハチがブンブンと幌馬車の後ろに付いて来る。アルムさんが剣で斬りまくってる。この馬車ポヨーン魔法付いてねぇよ!何で付けてねぇんだ!アホタレ!そんなの馬車に付ける訳ねぇ!


混乱して変な問答が頭の中で始まる・・・。


混乱しながら視たらアルムさんが木に付いてた大きなヒョウタンの様な物を打ち抜いてた。アレだ!俺はあっちで見た事ある、その茶色のシマシマはスズメバチ系が作る巣だ。


「なにやっとんじゃーい!」正気に帰る。


「知らないわよ!」イヤ、俺は知っている。


にらんでハチをポトポト落した。


「あー!ビックリした!」


「やめてよ!変なの攻撃するの!攻撃されたらハチも怒るよ!」


「何もしてないじゃない!」


黙って指をさす。


「髪飾りで見えてるよね?」


3mの玉に5m程の玉が付いたひょうたん型のハチの巣。下の5mの玉に1m程の大穴が空いている。眼に燦然さんぜんと輝くはクイーンビーの巣。


「・・・ごめんなさい」


「ビックリした?(笑)」

「ビックリしたわよ!ブブブって凄い音が怖かった!」


頭をコーン!としておいた。

頭押さえてうずくまる程にやったった。



御者台に戻って馬車を走らせたらまたアルムさんがワーワー騒ぐ。今度は何だと思って荷台を見たら、馬車降りてはるか後ろに走ってた。


「はぁ?」と視てびっくり。いた!


プー!


他の荷馬車が襲われてる!に!


ギャー!どんだけ迷惑かけてんだ!クソエルフ!ホントにもう勘弁してくれ。余りにもトンデモ事態に右往左往して気が付いたように跳んだ。


トンチキエルフにありったけの呪詛じゅそを並べてから跳んだ。


一瞬で馬車を見渡せる15mほど横の草原。


メッチャ恐ろしい羽音をブブブブ響かせて跳び回る、マジ怖い。八匹のハチ軍団を睨み地面に落とす。麻痺して落ちても動いてカチカチ言いながら反射かなんかで10cm位の針をニュ!ニュ!シュ!シュ!とお尻で刺そうと毒まで出してる。


もう怖い!


他の通りかかった人も気の立ったハチに襲われそうだ。ブルブル震えながらハチの巣まで跳んで燃やした。


馬車まで帰ったらアルムさんが泣いてた。わんわん泣きながらヒールしてた。御者の村人二人が死にそう、意識が無い。アナフェラキシーという言葉は知ってるが医者じゃ無いので分からない。視たら麻痺、毒、溶解状態で動ける状態じゃ無かった。恐ろしいハチ毒だ、マジ死ぬ寸前。泣きじゃくるアルムさん見て怒る気力も無くなった。


・ディバインサークル:状態異常回復シールド

・ピュア:浄化

・ヒール:回復


ステータスが健康に戻った。


村人二人は大丈夫。

マジで治癒魔法を作った人をおがむわ!


狂ったようにヒールしながら泣くアルムさんをヨシヨシしてハグして大丈夫、大丈夫!治った治った!もう治ったから大丈夫!と何度も繰り返し落ち着かせて


様子を横眼で見てると一人が起き上がった。


「大丈夫でしたか?」

「ありがとうございました」


もう一人も腕をさすりながら起きて来た。


「治して頂いたのですか?」

腕が太ももの様に腫れていたのを自分で知っていた。


「たまたま。僕は治癒士ですので(笑)」

「ありがとうございました」


「最初僕たちのあの幌馬車にハチが来て追っ払ったら、こっちに来ちゃったみたいですみません」嘘である。


まだ地面でモゾモゾ動くハチを突き刺しながら笑って言う。


「このハチはしょうがないです。ひと夏に何人も殺すんです。冒険者ギルドが巣を取ってくれるまで、この辺の村では羽音を聞いたらその日は外に出ないというハチです。このあごで殺した人の肉を千切って巣に持って帰ります。たかられたら骨しか残りません」


突き刺しても生きてる奴があごからガチガチと音を出す。確かに良い闘魂アゴしてるよなコレ。丸々した40cm程もある黄色と黒のシマシマだ。


「僕、こんな怖いの初めて見ました」

「今日はモンスまでですか?」

「はいそうです」


「うちらモンスの手前の村なんで、よろしかったらうちの家に泊って頂きたいのですがいかがです?」


「あ!いえいえ!大丈夫です」


「折角なので村に来て頂いたらお酒も出せますし」

「お礼は大丈夫です!モンスの宿に泊まります」


「そうですか、王都で編みかごを卸して何もお礼も出来ずすみません。助けて頂いてありがとうございました」


「それでは、お気を付けて!」

「ありがとうございました」


良かったー!あっちなら賠償責任が発生しそうだ。完全に巣をつついて呼び寄せてるしな、何にしても助かった。


200m程前に置いてある幌馬車にアルムさんの手を引いて戻る。何も口に出さずに大人しく荷台に座る。


「ふう」 思わずため息を吐く。


あれは無いわ。あのハチなんなんだ!


生理的な嫌悪でゾゾゾと身の毛がよだつ。近くをブブブと通り過ぎる羽音と羽風でおののいて身が固まった。それぐらい4リットルの大五郎で黄色と黒のシマシマは恐怖の存在だった。燃やした巣からポテポテ落ちたハチの子の大きさが1.5リットルのコーラのペットボトル大でマジ恐ろしかった。


エルフ食べそうだよな、アレ。

一口で頬張れないよアレ。


アルムさん大泣きしてたしなぁ。何もしゃべらなくなっちゃった。どうしよう。あれだけ泣いてたら充分反省したよな。もういいや、立ち直るまで荷台に置いておけ。



六甲おろしに 颯爽さっそうと~

蒼天翔そうてんかける 日輪にちりんの~

青春の覇気はき 美しく~

輝く我が名ぞ 阪神~タイガース!


物思いにふけりながらなぜか六甲おろしを歌っていた。


日本語で歌っても恩寵:心声で六甲おろしと阪神タイガースの固有名詞以外の意味をアルムは理解していた。


二人とも歌で少し元気が出た。



※恩寵:心声と心聴はアルムもクルムも付いています。


・・・・


ハチ騒動で40分程も使ったが、こっちは馬の休憩も無い。御者席で串焼きだの芋煮だのを出してグレープジュースで流し込みながら昼も走った。14時頃には1時間先に先発していた乗合馬車に追いつき追い越して17時にはモンスの街が見えて来た。手前の雑木林に馬車を突っ込んで泣き寝入りのアルムさんを起こす。


「あれ?寝てた?」

「うん、途中で気がついたら寝てた」


あれはもしかして夢だったかも?と都合のいい頭だ。


そんな訳あるか!(笑)


街の門番にムン国(四峰の)貴族証を見せたら入領税も取られない。そのまま評判のいい宿を聞くとロバの鈴屋と風体を見て教えてくれた。俺たちの風体は冒険者そのままだ(笑)


行って見ると、俺達姉弟で満室になった。食事二食付きでコルアーノ換算二人で大銅貨十六枚だ(12800円)冒険者宿でこの金額なら食事に期待できる。食事の時間に部屋の鍵を見せると出してくれるという。


部屋の桶を持って外の井戸に汲みに行く。

汲みながらハウスのアロアに通信を入れる。


「今からお風呂に帰るからお湯にしといて」

(かしこまりました)


部屋で大人しいアルムさんを視るとちゃんと口に出して俺に謝ろうか迷ってる。最初の声の出し方から悩んでる(笑) わはは。


俺は俺であれはしょうがないと思ってる。

木に垂れさがったまとだもんアレ。真ん中射抜きたくなるような形状してるし。アレだ!木に穴が有ったら指を入れたくなる奴だ。子供の前にまと見たいなアレが有ったら弓で射抜くわ、エルフだし。それはしょうがないと俺は納得してる。



部屋の鍵を閉めて、


「お風呂行くよ!」

二人でハウスに跳んだ。


「「おかえりなさいませ」」

「アロちゃん、フィオちゃん、ただいまー!」

「・・・」下向いて笑った。


「お風呂に来たから」

「かしこまりました」


湯船の前でクリーン掛けてお湯被ってドッボーン!と入る。そのまま香油も何も無しでクリーン掛けて出る。お貴族の匂いさせてたらすぐばれる。


「アルムさん、出たよー」

「早いわね!(笑)」

「上がったらご飯行くよー」

「はーい」


ロバの鈴屋に戻って食事中。あの凶暴なハチを討伐したけど怒ってるPTがいた。視たら五位(魔鉄)で受けられる依頼になってる。マジか!あのハチに五位の依頼票とか嘘だろ、一位の俺でも怖いのに。ギルドも経験の無い奴ら送っちゃって良いのか?


割に合わねぇ!とメチャクチャ怒ってる(笑)


お前らそれ危ないぞと言いたいが五位で受けられる依頼なら自由だから何も言えないのが歯がゆい。現に二人が毒食らってパリス教会で治療を受けて赤字だよ。


あのハチの毒食らって治療魔法?あんなの食らって教会行けたの?と不思議に思って深く視た。


こいつら討伐してねぇよ!(笑) 


俺達ならクイーンビーの討伐依頼行けるんじゃね?と試しに図示してる場所のハチの巣の近くに行った。飛んでる一匹を六人でタコ殴りにして倒したが、その時に刺されずピュッ!ピュッ!と毒を掛けられPTの二人の肌が溶けていた。


刺されてなかった、肌が溶けるぐらいだから行けたんだ。


治癒にパリスの教会かぁ、司祭を視たら脳筋過ぎてワロタ。パリスの金ぴかエンブレム付いた鬼の金棒かなぼうの様な錫杖しゃくじょうの武器を身体強化で振り回す。司祭というより僧兵だな。鬼の様な十字架持ったがパリス教に転向するとこうなるわ(笑)


わざわざパリス教を調べに南の中央大陸に来たから身体強化系の司祭がどんな魔法使うのか食事したら視せてもらおうと楽しみにした。魔法士系じゃ無くても問題ないのかな?ちゃんと治癒してるし。


部屋に帰ってパリス教の秘密をキッチリ視た。


パリス教キッタネー!イヤ汚くは無い。でも汚い!どっちだオイ!やってやがるわ!魔術紋シートだ。新技術だ!パリスの秘儀見つけちゃった!わーい。


俺でも出来るわ!(笑) 普通に魔法士は絶対使えない魔法だった。魔法士の資格剥奪だ。魔術士ギルドでは禁呪扱いだ。


経典に見せかけた第一章の中身はヒール。

バリっと経典を破って患者の患部に押さえ付けながら魔力充填。ヒールが発動して破った経典は


第二章は解毒、第三章は浄化、第四章はクリーン(笑)


クリーンぐらい覚えろや!バシ!


俺なら継続紋にヒールや浄化や状態回復の魔法撃ち込んで転写しまくるな(回復無限になるため戦争使用される恐れがあり回復魔法士の禁止事項)要するにそんな方法なら脳筋でも魔石でも発動できるじゃん。司祭が魔法覚える必要が無い。僧兵が司祭やってる訳だよ、あいつが自分で魔法の発動してないよ。


商売上手い!チクショー!


しかも崩れ去る経典が神の御業っぽくてステキ!絶対パクったる。確かにあれなら許されるわ。


まぁ俺も出来るけどパリスのは継続紋みたいな万能魔法陣じゃないな。発動させたらOKみたいな粗製の一個ずつ考案された各種魔法陣だ。パリス教国の秘密工場行って編み方と崩れ去る経典の秘密を教えてもらおう、改変したら効率も良くなるだろ。資金源の大元だな、総本山が作って教会に卸してる、外部の者は作り方分かんない。経典を流したら教会の権威が落ちると守り抜いてる。聖教国の聖魔法と同じ扱いだわ、飯のタネならそうだわな。


まぁ、司祭教育で一人一人に魔法さずけるより僧兵作った方がよっぽど効率いいな、聖騎士団とか有るけどそれ以上に戦力は充実する。


お茶飲みながらパリスの結構な秘密を掴んでご機嫌だった。


あの経典の秘密は俺が頂く。作り方が視えなくて分かんないから盗んで導師に言い付ける(笑)


ベッドに入って目をつぶる。


「アル君」


「なぁに?」

「ごめんね」


「いいよ、誰でも失敗しちゃう時あるの」


「もうしないから」


「したらいいよ、ハチ以外に(笑)」


「そうする(笑)」




次回 276話  傷物の巣をあなたに

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               思預しよ

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