第274話 幸せの重さ
6月5日光曜日の翌日。※風曜日(日本なら月曜日)
5時起きでアルムさんと冒険号で身体強化と剣術をLv1にして2時間の鍛錬、アルムさんの敏捷が1上がった所で終わった。
7時に管理棟に跳ぶ、そのままクラン加入希望の長蛇の列を横目にクランハウスへ入って行く。リナスと事務員が5人待機するのは加入メンバーをクラン案内する集会の日だからだ。そんな中、応接で希望者を視て面接を行っていく。面接の不合格者は(うちのクランの初心者狙ってパシリを作ろうとするPT以外)なかなか居ない。
「面接合格!そのまま立ってろ」宣誓の儀を行う。
終えると30人単位で番号札を渡し、ハウスの外で集会を待たせる。今日の月一集会の後に事務員が宿舎に案内し、調理棟と宿舎の案内、風呂とシャワーの使い方を説明する。7位のズタボロな貧民上がりが来たら小金貨も貸し出して雷鳴商店で服から揃えてやる。今は時期なので7位が相当数来る。
本日159人を30分で
イコアさんの名声で加入者ラッシュとなり、今では2000名を超える冒険者が暮らすクラン雷鳴。
銅鑼が鳴って10分経つと、イコアさんが自分の前に演壇を土魔法で作る。
「皆、集まってくれてありがとう。この6月の末よりクランマスターのアル様が貴族の職務により不在となる。現状前倒しの状態で2月よりこのイコアが預かっているがクランの目的は変わらない。食える冒険者を育成する事だ。そんな物にアル様がお見えになる必要は無い!このイコアで充分用が足りる。各自自覚を持って自身の技術の向上に
「今月の褒章者を発表する。身体強化部門!・・・
・・・以上褒章者はこれからも弟子を取り一人でも多くのメンバーを育成して欲しい」
「身体強化を手に入れた者は、いずれ剣術Lv1を手にする筈だが下の者に稽古を付けてやると共に、同レベル以上のメンバーを探しお互いに切磋琢磨することが己の剣術を磨く事となる。おのおの技量の
降りたイコアさんの後ろで演台が崩れる。
かっこいい! 俺とこんなに違うの?とショックだった。ドズル・ザビとミネバ・ラオ・ザビ程も違った。
俺は何も言わず静かに帰った。
・・・・
ハウスに帰るとアルムさんは朝から風呂に入ってた。朝湯って自由過ぎる人!アロアが朝食の準備をしてくれてる。食べたらマルテン侯爵領の洋品店に行こうと思っている。街路灯を設置に行った2月末に21時でも店が開いていたので小さくなった服の見本を渡して生地を変え、サイズの大きな冒険服や貴族服を頼んでおいたのだ。
朝食食べてたらアルムさんが風呂から上がったので誘ってマルテン侯爵領に行った。3カ月で貴族服も出来ていた。そのまま侯爵領都を巡って流行りのお菓子をゲットする。9時になったら二人でタナウスのアルムハウスに跳んだ。
マルテン侯爵領9時>タナウス11時。
導師もアルノール卿もいない。クルムさんが昼食を作っている匂いがする。クルムさんに珍しいお菓子を買って来た事を告げ応接に向かうとシズクとスフィアが応接で帽子を縫っていた。俺を見るとアル様!と二人で声を上げる。まぁ一週間ぶりだ。
帽子は海で被る用に作ってるみたい。タナウスはすでに秋から冬に掛かっているが亜熱帯なので平気で泳げる。俺も時間が有れば海で遊んで海の家で色々食べるのを楽しみにしてる。
クルムさんが昼食の用意をしながら首尾を聞いて来る。
「お昼はどうするの?」
「さっき(朝食を)食べて来た~」
「そう?どうなの、そっちは?」
「まぁ、働き過ぎは無くなったかな(笑)」
「でも一昨日は盗賊討伐したわよ」
「連れて来たの?」
「ううん、打ち首と思う。騎士団に渡して来た」
「昨日のはカシノの街の代官やボスとどう違うの?」
「アルムさんが怒って無茶苦茶やる程違うでしょ(笑)」
「もう!そういう事じゃ無くてさぁ」
「
「え?」
「本能のまま生きて、奪って殺して逃げる奴と、その土地に根付いて力を溜めて人の欲望に忠実に生きる悪党の違い」
「・・・確かにそんな感じするわね」
「悪事を知られたカスタの家族は権力のままに
「クルム姉、騎士団の鎧来て盗賊が来たらどうする?」
「そんなの居たの?」
「そうなのよ、誰も逆らえずに盗賊の餌食よ」
「考えもつかないわ・・・逆らえないわね」
「
「アル、やっぱり悪党の神託は受けるの?」
「うん、見過ごせないのよ」
「アル君が知っちゃうからどうしようもないと思うな」
「人が獣に食い殺されるの知ったら助けるでしょ?」
「まぁ、そうだわね・・・」
12時になったら導師が帰って来た。クルムさんが昼食を用意する。
「アル、帰っておったか(笑)」
「はい、クランの面接終えて、用事もあったのでこちらを見に」
「先週から平日は司祭が3人客間に泊っておるぞ。ジェシカさんは通いで来とる」
「へー!何か面白い魔法ありました?」
「まずは修めた魔法理論が全然違う、同じ結果でも過程の解説や根本の理論が違っておった。余りに違うでの、基本的な魔法を見せあう事から始めた。編込みが違うファイアボールなど初めて見たわ、固定観念とは恐ろしい物よ、古来の文献も含めて儂がコルアーノで見た事の無い編みでファイアボールを出すのじゃぞ(笑)」
「あー!そういう可能性は僕も抜けてますね(笑)」
「そしての、そのファイアボールはお辞儀する(笑)」
「あ!」
「余りに儂が笑うでの、クルムも加わったんじゃ」
爺ぃと婆ぁが3人で魔法撃つ幸せ空間を想像する。
「え!それで?」
「精霊魔法もお辞儀する(笑)」
「あはははは!」考えた事も無かった。
エルフィンボウの近距離シュートばかり見てたからな。そういや射度が無いって曲撃ちしてたな、あれは
「アル、この齢にして魔法の世界は広まった」
「え?」
「編みですら大陸で違う、そして世界中の魔法はお辞儀する。
12時20分にアルノール卿が帰って来た。
「御子様、おいででしたか」
「昼から
「何を人ごとな、飛び跳ねておったではないか!」
四人居たんかい!(笑) まぁ楽しそうで良かった。
「興味深い現象には
「チーズが美味しいですな?作られましたか?」
「それ、街の商店の前で荷馬車隊が売ってたの。羊の乳のチーズと皆が買っていたので
「塩気がいいの」
「まったくですな」
「また見かけたら買っておくわね」
こっちの食べ方は、塊が皿に乗ってナイフが置いてあるのを食べたい人が削ぎ落して料理に合わして食べる。が二人共削ぎまくってる。視たら北方民族の交易品でメイド部隊と交換の品だった。
ファーちゃんを見た瞬間に
食事が終わるのを待って、他の大陸の違う編みの魔法を見せてもらった。ナンじゃそれ!という固定観念もぶっ飛ぶ編みで魔法陣が浮き出る。目が点だった(笑)
・・・・
外の海を見ると家族が沢山海で遊んでる。ドワーフのお母さんと子供たちもヒョウタン持って遊んでる。ノームも三人程ドワーフに付いて遊んでるわ。光とか
「今日、シズクとスフィアと海で遊ぶんだよね?」
「そうよ、帽子はもう出来たかしら?」
「僕も行く!久々に泳ぐ!」
「お昼食べてないのに元気いいわね?」
「ピリ辛でエール飲みたいだけ(笑)」
「それがいいわよ、のんびりした方がいいわ」
シズクとスフィアの帽子が出来たと言うので皆で海に行った。と言うか、家の前が砂浜と海だ。
帽子を脱ぐのが嫌で、シズクとスフィアが海に来ない(笑)
二人が手を繋いで砂浜を歩き回り姉妹アピールしてる。海水浴に来た家族にまぁ可愛らしい、と言ってもらうために歩き回る。
メチャクチャ透明度の高い綺麗な海。俺は泳ぐよりも潜ってばっかだった。水深2mの白い砂底に沈んで太陽を見上げるとキラキラして別世界にいる様だった。作って半年の富士山状の舞台には色とりどりのイソギンチャクが付いて小さな魚が遊び回ってた。
海を出て砂浜に上がると移住したばかりの質素な遊び方ではない家族が沢山いた。毎月の俸給や村への補助金(息子や娘を執政官で神都に出している)で普通に暮らせる事が分かり安心した家族が一日銅貨五枚のたらい船を借りて遊ぶ。海の家でツマミ頼んでエールを飲む。母子で飲むソーダ水の時代が半年でクリームソーダになっていた。
それは銅貨一枚から銅貨三枚に増えた幸せの重さだった。
・・・・
陽が傾いて来ると南国でも流石に寒い。
15時半にさっさと海を撤退した。
アロちゃんにそろそろ思考観測の時期だと言われてたので冒険号で1時間ほど棺桶に入った。12月、3月、6月、3カ月って早いなぁ・・・。
思考観測でコアと色々喋ってる間に出た軍の幌馬車の話題で馬を生成してもらうことになった。
冒険号で馬を数種類生成してもらって、荷馬車、幌馬車、箱馬車の良さげなのを倉庫から取って来た。幌馬車は軍と違って2頭立てだ。アルムさんと御者しながら喋る馬車の旅もいいなぁと思ったのだ。特に雨が降っても良さげな騎士団型の幌馬車が気に入っていた。実は見た目格好悪いと今まで目にも入らなかったが、自分で実際に運転したら良い物であるのを実感した。
アルのいう良い幌馬車とは荷台部分は当然天幕で覆われるが、御者の頭や横の部分まで幌が伸びて雨を防ぐ様になっている。御者席は二段ほど馬車の荷台部分より高い。荷台では立っても天井の幌に頭は付かないが後ろから伸びた幌が御者席の前まで張り出し、御者席が高い位置なので、まるで傘を差す様な近さで幌の天井が頭を隠す。サイドに伸びた幌も体を隠して雨から守ってくれる。
馬車を自分で持つ事。それは自分で移動する事になる。
当然、街の人、村の人との交流や馬車での取り留めの無い会話は少なくなるが、パリス教を調べるのが目的なら視るだけで充分だと折り合いを付けた。気にするのは景色の流れ(過ぎ去る時間の流れ)が速くなって見えない物が出て来るのではという危機感だが、それは乗合馬車に乗っても同じ事。
ムン国よりエネイ王国の首都、これからエスジウ王国に向かいパリス教国へ入る。まだ二国しか見てないが南中央大陸で民に支持され好かれているパリス教は理解した。アル的にはまったく解体するつもりなど無い。心の拠り所を提供してお布施を頂く職業システムが出来上がっているならそれで良い。
このまま見て行って、パリス教国のタカ派を特定して力を外に向けない様にしたら良いのだ。早急にやる必要もない、何千年と続くその地に根差す宗教国のルールを一夕一朝で反転させるなど考えていない。
十四歳の今、見て聞いて知った事を腑に納めて消化し、己の感性と合成し昇華させることが人間の厚みを増す事だと思う。違う世界のペラペラなスピード感の認識で右から左に流すその場しのぎの改善を行わない事が今の自分を磨く雌伏の時と思っている。
ロスレーンの執政官たちの積み上げられたプロの仕事を視て危機感を持っていたアルは剣神シュウ様の言葉で完全に気が付き、己を
それは見るに特化していた明への回帰だった。
だから我を出さない。
だから決めつけない。
だから否定しない。
そのまま呑み込んだものが消化されるのを待つ。
・・・・
翌日、朝。
エネイ王都の冒険者ギルドで魔力充填の依頼を受けた。
エネイ通貨は盗賊団が持ってたし、故郷に返した女の人に恥ずかしくない分渡しても充分あったが、魔力充填の期限が迫っている依頼表を見てしまったのだ。このままでは充填量が少ないままで隊商も旅に出る事になる。
いい機会なので魔石の事を説明しておく。
実は魔石は売れる。
お前、
俺は以前オークの魔石をずっと溜めていて一気に売った事があったがそれも魔力を売る話に関わっている。ゴブリンの魔石、オークの魔石、オーガの魔石。モンスターを討伐すると魔石が手に入る。換金は魔術士ギルドや治癒士ギルド、冒険者ギルド、魔道具屋があればどこの国でも売れる。
一個の魔石を換金するとその国や土地の相場で売れる。
魔力は魔石に
※生命力が強い方の魔石に吸われると言われている。
※アルは勝手な推測で個体差の浸透膜の様な物が魔石にあり、魔力に包み込むと浸透膜が活性化してどちらかに移るんじゃないかと考察している。
吸わなくなるまで充填すると魔力が飽和した軍用魔石として国が高値で買ってくれる。ギルドが個別に集めてそれを大量に作り国に卸す。戦争の有る国のギルドでは当然値も高く取引される。大規模魔法の発動のキーとなる物で軍用魔動帆船に積まれていた物もそれだ。
しかし一般人は販路がない。
俺は魔石を集めてコレクションのつもりで高価な軍用魔石を作ろうとしていた。魔石を換金しない事を知られたアルムさんに飽和しても買い叩かれて大損するだのボロクソ説教されて嫌になり、溜めていた魔石を全部売ったのだ。
実は軍用魔石はメチャクチャ高い。モンスターの魔石にもよるが内包する魔力が30匹とか50匹分になるのだ。ギルドは飽和させる手数料と一個ずつ買い取って売る一律な利ザヤで活動資金を得る。
俺は導師に付いて、極大魔術紋の戦争時発動に使う軍用魔石の事を知ってただ持ちたいだけだった。アルムさんに言われ、そもそも俺には必要無い物なので活用しないのは分かっていたから売った(笑)
飽和させた物を一個ギルドに持ち込んでも大した値段にならない。ワールスの
高価なので換金できると覇権国の鹵獲品を分けた時にバーツさんに言われたが、あくまで豪商が国相手に定量を取引した場合にそうなるのであって、売っても安いなら飛空艇で使おうとホバリングの時に頑張って使っている。
そんな意味で魔石は一個売りが良いよという話だ。
魔力を売るという話はその使用法に起因する。
魔石は魔術紋の吸魔紋に乗せるか当てるかすれば魔術紋が作動する。魔力が無くなれば魔術紋は停止する。使いきりの魔力タンクで魔術紋に対して使う。魔法ランプ、着火の魔法具、給水の魔法具、転写の魔法具、ロスレーンの開門村では給湯やクリーン、街路灯も使えるな。平民は自分の魔力を使う。
こんな関係だ。
・自分の魔力→魔道具(魔術紋)
・魔石の魔力→魔道具(魔術紋)
・自分の魔力→吸魔石→魔道具(魔術紋)
・魔石の魔力合成→軍用魔石→軍用魔動船(極大魔術紋)
※方向は左から右で不可逆。人に魔力は戻らない。
※魔石は一度魔力を使うと吸わない、そこも不可逆だ。
※魔力を使っても魔力吸収できるのは吸魔石。
(アルが覇権国の魔動帆船から奪ったのはオークの飽和魔石で一般的な軍用魔石)
そこで出てくるのが吸魔石。これは魔石自体が呼吸し周りの魔素を吸って充填していく。持ち主が魔力を込めても充填する。但し溜めた魔力は自分に還元できない。魔石と同じ様に魔術紋に当てて使用する。普通の人はそんな物に充填すると魔力が足りなくなって体調を崩す。だから魔素を自然に吸わせてキラーワーム避けにしたりも、寝る前に吸わせたりもする。魔法の才に秀でて訓練した者が余剰魔力を吸魔石に充填すれば金になる。
エネイ王都のギルドには依頼があった。
依頼票:吸魔石の魔力充填
報酬:銀貨2枚。
吸魔石3個の飽和充填(魔力満量)
ソル商会隊商、二日後朝6時 西門出発、
出発までに飽和吸魔石をカウンターに提出。
ソル商会 ソル。
こんな感じだ。報酬額は吸魔石の大きさに比例する。
まぁ隊商も自分の魔力は使うが平民は魔力が少なくそんなに自由に魔道具を使えない。そんな意味で馬車を四台以上連ねるような隊商は長旅のお供に吸魔石充填の依頼を出す。出発日まで三日以内が多く、魔力も使いきっておらず、半分ほどは残ってるので実は割も良い。
使い捨てのオークの魔石を魔道具屋か魔術師ギルドで買うより安い。大銅貨三枚でギルドが買って、カウンターで大銅貨5枚で売る使い捨て魔石より容量も大きく断然安い。
出発まで一日の吸魔石の充填依頼を二件引き受け、すぐに魔力充填してカウンターに持って行く。普通の魔法士(魔力基礎数値180程度)なら一日あれば負担なく充填できて生活の足しになる。
急ぎの依頼の数だけ充填して旅費を稼ぐ。
「モンスの街までの乗合運賃取り戻したね(笑)」
「うん!でも今回は馬車を持って来たの」
「え!そうなの?」
郊外の森で幌馬車と馬ロボをインベントリから出す。
この辺の幌が便利なの。と指をさす。
「これなら雨が降ってもいいのよ(笑)」
「乗合馬車も濡れないじゃない」
「あれ御者さんは雨具着てるじゃん」
「運転したいの?」全然噛み合わない。
「運転しても濡れないから」
「濡れずに運転したいの?」
「え!・・・言われてみたらそうだな・・・」
「・・・」覗き込んでくんな!
「あー!もう、そんでいいよ!」
「変なアル君」
「・・・」俺って変なの? 変かな?・・・
イヤ!変なのはずっとアルムのターンだ!
俺に回って来ねえよ!と心の中で言い返した。
馬ロボに鞭をチョンと入れ、次の街モンスへ向かった。
次回 275話 ごめんね
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この物語を読みに来てくれてありがとうございます。
読者様にお願い致します。
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ポチをしてくれる事。それはとても励みになるのです。
一期一会に感謝をこめて。よろしくお願い致します。
思預《しよ
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