第273話  四峰の名


6月初旬。


エネイ王国(ムン国南東隣国)の王都を出てエスジウへ向かう。俺とアルムさんは次の街モンス行きの乗合馬車に乗っていた。二時間ほど揺られて最初の休憩を挟んで一時間程すると、乗合馬車が隊商を追い抜いて行く位置関係になった。


直線が山を迂回して大きく右にカーブした2時方向の端にいた点の様な隊商がいつのまにか同じ直線の100m先に居た。


乗合馬車をいつの間にか追いこして行った騎士四名と従士四名に幌馬車。おれは目にはしたが、まったく気にして無かった。


「なんか捕まっちゃったね?」


「え?」

「あれよ!」


見ると騎士が隊商を止めて何か言っている。

アルムさんは膝立ちで御者越しに見てたみたいだ。隊商は騎士団に止められたので乗合馬車が追い付いた事を知った。


「税金誤魔化したのかな?(笑)」

「徴税官いるのに無理だよ(笑)」


言いながら何やってんだろな?と視たら、騎士に変装した盗賊だった!変装と言うか騎士団まんまの盗賊(笑)


乗合馬車が見えなくなるまで抜け荷脱税をあらためる振りして丸ごと奪うつもりだ。あんなよろい着てたら王国公認の盗賊みたいやな。護衛の冒険者十人も座ってる、王国騎士団相手じゃ何も出来んわ。


(アルムさんアレ盗賊)

「えー!」

(小さい声で)

(分かっちゃったの?)

(わかっちゃった)

(どうするの?)

(襲う!)

(どっちを?)隊商襲ってどうすんねん!


アルムさんの頭をコツンした。


乗合馬車が四台の荷馬車の隊商を追い越すまで待った。先に幌馬車に布かぶって隠れてる六人を麻痺した。


少し時間があるのでヒソヒソ打ち合わせ。


(先頭の荷馬車に追い付いた直後に荷台から飛び出して襲うからね、騎士と従士の八人と交戦して幌馬車と馬を奪うからお願いね)


(うん、アルムはどっちやればいい?)

(アルムさん早いから後ろの騎士二人と従士二人お願い)


アルムさんと小声でしゃべっても隣の人に聞こえるみたいで!みたいに驚いてるが乗合馬車は一台目、二台目と抜いて行く。すでに幌馬車に隠れた盗賊六人は麻痺で声も出ない。


三台目を抜き、四台目に掛かった!追い付く寸前に、すみません、すみませんと二人で乗合馬車の最後尾に待機状態。十二人も乗って満車で移動も大変なの。


四台目の荷馬車を追い越した瞬間!


街道でこんな位置関係になった時、跳び出した。


--------------

隊商荷馬車四台 騎士団幌馬車一台

      ~乗合馬車       



--------------


目配せで跳び出す弾丸の二人。書類を商隊長に見せて話す騎士を腹パンで一発KO、横の騎士をアッパー、伸びあがって後ずさった所を首狩りの跳び蹴りでぶっ飛ばすと道をコロコロ転がって手が変な方向に曲がった。


道に飛んで転がる変な形の騎士見て冒険者が固まる。


アルムさんは荷を改めてる従士を指揮してる騎士からぶっ飛ばした上にオマケの股間蹴りで失神させ、荷台で驚く騎士を殴りざま地面への高低差有りの一本背負いで叩きつける。受け身も無しであれは痛い!でも手を最後まで掴んでるのが優しさだな。片足曲がってるけど。


俺も騎士をとっちめ次第に、荷馬車の荷をあらためるフリをする他の従士二人に取り付いて殺さない位に痛めつけた。ノルマ終わってアルムさん見たらあっちの従士もノビてた(笑)


終わり。


乗合馬車は少し先で止まっちゃった。乗客が騒ぎ出したからだ。唖然とする商隊長と冒険者たち、集まって来る乗客の野次馬。騎士団との荒事に剣を抜いてる冒険者もいる。


何も言わずに騎士団が連れて来た幌馬車の中に入って、完全武装の盗賊を地面に蹴り出す。


「大丈夫です、こいつらは盗賊です。隊商が危なかったので助けただけです。乗合馬車が見えなくなった途端に冒険者から殺して荷馬車を奪うつもりでした」


ALL「!」


「ありがとうございました、助かりました」

「騎士が盗賊とは全員やられる所だった」


「とりあえずみなさん乗って先に進んで下さい。こいつら王都に突き出すので、この幌馬車で連れて行きます」


ノビてるのを縛りながら言う。


「お礼を!」商隊長が言う。


「イエ、結構です。こいつら騎士団の格好でこんな事やるならお尋ね者でしょ?馬車と馬で大儲けですから要りません。先へ行って下さい」


「俺達からだ!」冒険者に酒瓶を渡された。

「隊商なら今日野営でしょ?飲んで下さい」

「イヤ、死ぬ所だった。一晩ぐらい良い薬だ(笑)」


酒瓶を受け取ったら、商隊長は干し肉を束でくれた。


拍手してくれる乗合馬車の人達に手を振って見送る。


「馬十二頭に幌馬車って高いよね?」

「まだ終わって無いのよ」

「え?」

「こいつらのねぐらがあるの、あと二人(笑)」

「今日は進めないね」

「仕方ないね、そういう日なんだよ(笑)」


・・・・


ねぐらを訪ねて行くと視た通り野営用の軍の天幕が張られて山間やまあいに隠れて堂々と立っていた。堂々でも山間やまあいに隠れる所が気持ちを表してる。騎士団の演習から盗って来るこいつらも凄いわ。騎士団が野営で盗賊に襲われるとは思わないからな、こっそり来て盗まれたら騎士団も公に出来ないわ(笑)


外から二人を麻痺させて無力化して恩寵ゲット。

これ、もうどうしようもないわ。更生村も連れてかない。


天幕に入ったアルムさんの髪が逆立った。


そうなんだよ、縛られた女の人が十二人裸。しかも盗賊一人が朝なのに発情中の麻痺食らって女の人に乗ってる。もう知らん、アルムさんの好きにしれ!


盗賊だけど女も目当て、流れの急ぎで仕事してさっさと他に行く。現地の守備隊が被害に気が付く頃にはもういない。楽しんだ女は当然のように殺して埋めて行く。どうしようもない奴らだ。


科学捜査など何にもない世界だ。見られなきゃ盗賊じゃ無い。


襲われた隊商長の娘もいる。親の居ない娘らだけでもタナウスに連れて行くか・・・良く視て決めた。四人は家族が居るから忘れさせて返す。


闇の衝撃で騒がずに言う事聞くようにした。


「アルムさん、服着せてあげて、言えばゆっくりやると思う。お昼から盗賊を王都に連れて行くね。僕は女の人を言い聞かせてタナウスに連れて行く、四人は家族居るから忘れさせて故郷に返す」


「うん、分かった。やっておく」


「僕たちが見つけなかったら、この女の人は殺されて埋められてたの。この女の人達は凄く運が良かったの」


「そうなのね・・・」



ドミニオンの隷属紋で四人に思いこます。


・野営中にお花を摘みに行って山に迷った。

・山を放浪して村で助けてもらった。

隊商かぞくは山を放浪の間に盗賊に殺されてた。

・苦労して家に帰って来た。


言えば本人に想像のイメージが出来る。そして強固に思いこむ。そんな四人をエネイのお金持たせて故郷の街に送って行った。


残った八人の女の人にも隷属を掛ける。


・野営中にお花を摘みに行って山に迷った。

・山を放浪して村で助けてもらった。

隊商かぞくは山を放浪の間に盗賊に殺されてた。

・行き場も居場所も無い自分は新天地タナウスへの移民の張り紙を見て胸を膨らませて船に乗ってやってきた、新たな自分の居場所を作るために。


馬三十二匹、荷馬車十四台、女性八人をコアの所に連れて行き、交感会話で犯行の仔細しさいを話す。


「盗賊も更生村でよろしかったですよ」


「いや、僕も最初はそう思ってたけどアレはダメ。もう人を型にめて富と欲望だけ食らうけものだわ。奪って食らい、増やさず他の命を害する分サル原人以下だよ。鉱山の採掘なら良いけど更生村は無理に思った。見るに耐えない、変な慈悲じひを出さずに普通に人のルールで裁いて貰うよ」


「かしこまりました」


「明日、光曜日だから一応導師ハウスの方へ帰るね?」

「お待ちしております」


「コアさんがそれもどうなの?(笑)」

「アロアの代わりに答えました(笑)」


冒険号で中身が繋がるのも複雑だ。


・・・・


「ただいま」

「アル君おかえり!麻痺解いてくれない?」

「え?」

「効かないのよ、こいつらに」


「・・・」すでに顔の形が変わっている。

「許してやってよ」


「アル君!」

「もう凄い熱だしてるし、死んじゃうよ」

「死ねばいいのよ!」冒険者は盗賊に容赦しない。

「王都で死ぬから!今殺してダメ」


小さな癒しのヒールで治しといた。


簡単な食事を食べ、エネイの王都に戻る準備を始めた。


十六人を乱雑に幌馬車に積んで、残してあった荷馬車に天幕や騎士セットの鎧や盾や武器を積む。



騎士団の幌馬車に俺、荷馬車にアルムさんで走り出して驚く、これ荷物軽いし全然早いわ。



・・・・



16時には王都に付いた。

貴族門から四峰の身分証で入る。


四峰 クロメト流 三門 剣戒けんかい アルベルト・タナウス。

四峰 ラナン流 二門 剣嶺けんりょう アルム・ポポ。


荷台に積まれた盗賊団と騎士団の備品を見せて仔細しさいを話す。守備隊が先触れに騎士団に走り、横に守備隊の人が乗って御者してくれた。


騎士団に着くと凄い歓迎ぶりをされた。盗賊の仔細しさいを聞くなり、お山の話を団員から振られ周りも興味深々だ。視ると、この王都の騎士団に四峰の四門出身が三人居るらしい。貴族位に上がり仕官先を探すか試験を受けて任官してた、三人共が団長だ。


話してる間に四峰出身の第三騎士団長が来た。

四峰 エルブル流四門 剣鎖けんさだって。


「師兄!この度はありがとうございます。王都第三騎士団のクレ・ムソルと申します」ガッシリ握手する。


上門の人間は、下門の徒弟に年齢関係無く師兄と呼ばれる。


「いえいえ、団長様にめられては恐縮します」


「あの品は一月前、王都外での行軍演習の野営中に盗まれ、同じ徒弟の第五騎士団長ムト・マスキが内偵で探索していた物。ムトもクロメトの一門、師兄に取り返して頂いたのも縁を感じます。一番良い方に見つけて頂いた、今は不在のムトになり変わり感謝致します」


深々と礼をしてくれる。そして最初に対応してくれた今日の輪番なのか第一騎士団員もうんうん周りで喜んでくれる。嬉しいなぁ。


「殺された人々のむくろとむらってます。他に荷馬車が十四台ありましたので余罪も多いと思います、よろしくお願いします」


「分かりました。被害の報告も上がっておらず前代未聞の事件です。大きく騒ぎとなる前に捕まえて頂き面目次第もございませぬ。余罪などは盗賊ごときが詮議せんぎまでの拷問も持ちますまいよ、吐いても吐かなくてもはなから極刑ですしな(笑)」


「良かった!最初から殺せば良かったと思ってましたが王国の鎧だの天幕持ってきたら私どもが奪ったと思われかねなかったのです(笑)」


「その恐れはありましたぞ!(笑) ムトなら問答無用でしたでしょうな。あっはっはっは!」


「戦った瞬間にお互いの型で解ったでしょうね」

「そうですな、師兄がそんな物盗む訳が無い(笑)」


「今回の騎士団をかたる盗賊など前代未聞、目の前でやられても守備隊すら動けぬでしょうな。盗賊がねぐらに騎士団の天幕を張っていたなどエネイ王国騎士団の恥にも程がある。第一騎士団長が聞いたら怒り狂って手打ちにするほどの案件です。まず少なくはない褒賞金が出ますな、出なかったら第一騎士団長が自腹でも出す案件です(笑) しばらく王都に留まって頂けますかな?」


「あぁ、褒章金など良いので少なかったら団長同士で飲んでも良いし、多かったら団長で分けて部下連れて飲みに行けば良いし、そんな風に使っちゃってください」


「良いのですか?団長の感状かんじょうも出るかと」

視ると第一騎士団長は武官一位、名誉伯爵位だった。


「騎士団で四峰の男振りが上がるなら安い物(笑)」

「ありがとうございます(笑)」


そんな感じで騎士団を辞去して来た。少なくない褒章金が出ると言うのでアルベルト・タナウスとアルム・ポポの褒章は四峰出身の徒弟を代表して第三騎士団長クレ・ムソルに譲渡するとの魔術証文を置いてきた。その場に囲む団員含めて飲みに行ってくれと言ってきた。


面倒なくて意外と楽しい騎士団で良かった。


あ!身内だ!身内感覚なんだよコレ(笑)



エネイ王都の大通りを二人乗った荷馬車で通る。幌馬車は騎士団の物で返した。


「拷問って言ってたね」


「うん、叩いたり殴ったり蹴ったりじゃないからね、死なない様に上手く痛い事だけするから怖いの」


「痛い事?」

「爪の中にこんな長い針を入れるの」


「   」アルムさんが長さ見て固まった。


端正なエルフのウメズ顔も凄かった。おくれ毛が立った。


18時近かった。


「明日光曜日だよ。そのままハウス行く?」

「お宿も勿体ないし、アル君が良いならいいよ」

「馬と荷馬車をタナウスに置いてハウスへ行くね」

「うん」


エネイ王都を出て近くの雑木林から馬と荷馬車をシャドで巻いてタナウスに跳んだ。


エネイ18時>タナウス20時。

馬と荷馬車をメイドさんに渡すとメルデスに跳ぶ



・・・・


タナウス20時>メルデス18時。


メルデスの導師ハウス。

跳んだ瞬間声が掛かる、アロアとフィオリーナだ。跳んだ瞬間をあっちで見送ってるしな。


「おかえりなさいませ」

「「ただいまー!」」


「ご飯どうする?」そのまま口に出る。

「用意してございます」メイドのアロアが言う。

「あ!ありがとう、そんじゃ19時で」

「かしこまりました」大人になって面影は無い。


「フィオリーナ、交感会話をお願い」

「かしこまりました」

「まずはクランの事教えて」


「クラン雷鳴は何も問題無く運営されております、食堂では雷光(イコア)を讃える吟遊詩人の歌が盛り上がっています。明後日は第一光曜日の週始めなのでイコアが集会を行います。アル様は7時にPTと面談をお願いします」


「ありがとう、分かった。集会もまとめて第一光曜日後にして良かったな、正解だ。教室は何も問題ないね?」


「英雄イコアに見惚れる生徒が一部おりますが問題ございません」


「(笑) そんじゃサルーテの方は?」


「サルーテは、他領組織の追跡者を八名撃退しております。かなり遠方からの者も多くなってます。四部会北の元締めユッコがロスレーン家に対し個人的に用地取得の申請を出しましたので四部会の失態と打ちすえました」


「なんかあったの?」


「ユッコが情報を集め執政官事務所から土地の優先購入権をロスレーン家に申請致しました。こういう物はまとめて出さねば四部会の結束が疑われ、アル様に叱責される元と他の幹部の前で打ちすえました」


「あいつらまだ出し抜こうとしてんのか、しょうがねぇ奴らだ。ありがとう!助かった」


「イエ、北の元締めユッコも目が覚めた様でございます。他の幹部にびを入れ、結束も固まった様でございます」


「上手い事やってくれたね、ありがとう」


「その間のユッコの申請は執政官事務所で止め、三幹部の書類が上がり次第に、アル様掌握しょうあくの四部会としてロスレーン家に上げるようにとのアル様の指示と執政官事務所に伝えてございます」


「うん、それでいい、完璧。ありがとう」


「あと二、三他の組織の元締めも参りましたが河原にまとまって秩序ある流民とロスレーン家の委任状を持った四部会には手を出せず街の治安もみかじめ等も平穏へいおんを保っております。他領の人足のいさかいなどの騒動も四部会に抑えられ、それを以て執政官の印象も良くなっております」


「裏は四部会が裏の常識で仕切ってくれたらいいよ。間違えたらまたお願いね」


「はい、あとタナウスですが、航路を外れた交易船が世界樹を発見するケースが多くなっています。世界樹を目指すと北西の衛星都市スカイからは離れ港は発見されておりません。世界樹目指してタナウスに立ち寄り、深い原生林とモンスターに阻まれ、水と食料を補給して帰るケースが多いですが、如何いかがしましょうか?」


「あー!世界樹で引き寄せちゃうか。どうせ奥地まで入る事は無いでしょ?探検家や冒険者じゃあるまいし(笑) 商人が水や食料でモンスター狩るぐらいなら好きにさせてあげて。」


「かしこまりました」

「報告聞いて安心した、ありがとう」

「どういたしまして(笑)」


フッと交感会話が解けた。


微笑むフィオリーナも大人になって面影が無い。


明日は光曜日だからリズを誘って遊ぼうかと呼びだした。


「リズ?今いい?」

(アル様!いいですよ)

「魔法の練習はどんな感じ?」

(今、水魔法のヒールをやってます!)

「光魔法のヒールは出来た?」


(はい、発動を小さくする練習をしています)

「順調そうだ!いい感じ!」

(ありがとうございます)

「明日の光曜日は魔法の授業はあるのかな」

(ありますわ!)

「うげー!フラウお姉さまも休めばいいのに」


(結婚で授業の間が空くと、ロスレーンに向かう宿や馬車からレンツ様が連れて来て下さってるのです、とてもお休みなど申せませんわ(笑))


「あ!そうか5月末にキャンディル出たんだ」

(そうですよ、道中の名物を持って来られます(笑))

「分った。そろそろ夕食だからね、おやすみ」

(おやすみなさいませ)




次回 274話 幸せの重さ

-------------


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