第271話  14歳の紡ぐ旗



>カシノのカスタを隠した者は村に住めなくなるぞ。カスタを出したら褒美が出るぞ。


-----------


翌朝5時、アルムさんと門に向かった。


この村はカシノの街まで八時間程の町だ。休憩入れても14時、遅くても15時には着ける。


最初に来た農作物満載の荷馬車はやめた、乗る場所無いし一頭のロバが可哀想。次に道具と少しの野菜、果物を積むおじさんが来た。昨日水車を直した帰り道だと言う。タダだった。物騒な事になったら守ってくれたら良いと言う。大喜びで護衛を引き受けた。


このおじさんは街から来る昨日、三回カスタの事聞かれてるな。冒険者も日当出てるから真面目に探してた。


休憩を兼ねた朝食の7時半と同じく休憩の11時半に干し肉とパンとスープを作っておじさんにも出した。ここの海抜はだいぶ降りて来て亜熱帯。俺もアルムさんもインナーの裏にミスリルの薄い板で冷房紋と暖房紋が入れてあるから低地の亜熱帯気候になってもあまり暑くはない。


ご飯だけじゃ無くて馬の休憩もあるでしょ?馬も草を食べさせて塩を上げて水も飲ますので結構時間が有る。近くの森にバナナの大きな葉っぱがあったので休憩時間に山ほど取った。調子に乗ったら近くのバナナの木がつるっぱげになった(笑)


森から帰って来るとおじさんは荷台にあった瓜のような横長のスイカをおやつに切ってくれた。昨日は仕事を済ませて粉ひき小屋にそのまま泊り、朝方村の人が収穫した野菜や果物をお土産にくれたという。水気がすごくあって美味しかった。スイカの皮を水気をボトボト落しながら馬が美味しそうにムシャムシャ食べるのよ!スイカがゴミも無く丸ごとなくなった(笑)


そんな道のりの閑話休題。


鍛冶道具以外は野菜をチョロっと積んだ空に等しい荷馬車だったので13時半に街に付いた。街の門で四峰の証明書を出すと守備隊に二度見された。貴族認定された格好は普通の冒険者、二度見されても何も言われなかった、というか通って来た道は四峰に続くからな、何も怪しくはない(笑)


カシノの街はなだらかな丘陵の高台にある見晴らしのいいかなり大きな街だった。


すぐにカスタ君の隠れ家の羊飼いの家に直行したら、そこら中に目が光ってた。こりゃダメだ。よそ者の俺たちは街に入った瞬間から目を付けられた。スゲーなこの街のボスは。悪人はこれぐらい危機感持たなくちゃダメだよな。見習わなくちゃ。

(お前の方が用心深いから大丈夫だ)


「アルムさん、一旦宿入って観光に行こうか?」

「いいの?」

「いいよ、誰も知らない穴倉に隠れてる」

「そうなのね」

「だから夜に行く」

「わかった!」


羊飼いの家をなにげに通り過ぎて中心街に向かった。


「ここ露天の温泉があるらしいよ」

「ん?」

「外にお風呂があるの」

「裸見られちゃうじゃない」


「女の人は湯浴み着で、女の人だけのお風呂なの。男湯と女湯があるのよ。あ!そうか。マナーや人に気を使うから宿に温泉がある方が気楽に入れるよ(笑)」


エルフだしな、ジロジロ見られるよりそっちのがいい。


「うん、そっちがいいわ」

「こっちに温泉の宿がある」


「冒険者丸出しだから身分証でお貴族様で泊るね?」


「分ったー!」


内風呂がある貴族用の部屋に二人で泊まった。


「多分ね、目を付けられたから口の軽い子供の僕に接触しようとして来ると思うの。だから誰でも入れる露天のお風呂に入って来るね?」


「分ったー!」


・・・・


アルムさんがテラスにあるお風呂を見て喜ぶのを横目に公衆浴場に行く俺は一位の冒険者タグ、腕輪、指輪を全部インベントリに入れてシェルのチョーカーに四峰三門のタグだけにした。


(シェル、指輪やタグ、重くなかった?)

(重く無いです(笑))

(なに笑ってんのよ)

(アル様の命なら当然なのです)

(ありがとうね)

(はいです)


貴族宿に入った冒険者の子供が外に出て視線の主が喜ぶ。視線の主を視て俺も喜ぶ。やっぱり視線が二つある、隠密四峰をなめてんのか?(笑) (弱きを助ける隠密剣士四峰になりきっている)


(シェル、シャドお願いね)

((はい)です)


結構な人が露天風呂に来てた。15時前なのに。

服を脱いで籐籠とうかごに入れて係りに渡すと番号札と引き換えにひもの付いたザルに籐籠とうかごを乗せて滑車の付いた高い天井まで上げてくれる。大銅貨二枚(1600円)が入浴料、水とタオル無料。番号札と一緒にもらった粗いタオルの1枚を周りの人と同じ様に腰に巻く。


洗い場に出ると絶景の露天風呂だった。眼下に樹海の山すそが広がって気持ちいい!地面が掘られた場所や石作りや木造りや屋根付きの場所に大樽(視ると八百リットル樽)の半切りもある。露天風呂は四十人ぐらいは普通に入れる感じ。源泉かけ流しでどの湯船もチョロチョロ湯が流れてる。タナウスにも欲しいなぁ・・・。


さっと洗い場でクリーン掛けて風呂の湯を被る。手にはそんなに感じないが体に被ると熱い!ぬるい湯を探しても無い。おっちゃん達は普通に入ってる。視ても全然熱いと思って無い。子供の皮膚は敏感で熱く感じるのか?


仕方が無いので誰も居ない一番狭い大樽風呂に入り次第に全身から水を出した。一気に水があふれる湯舟(笑)


子供が巨漢が入ったような水をあふれ出して、皆が驚いた。


「坊主!飛び込んじゃダメだ。大人しく入れ!」

怒られた。・・・飛び込んでないけど謝った。


「ごめんなさい」ぺこり


温くした湯が段々掛け流しで暖かくなって気持ちいい。腕をさするとスベスベだ。ツルツル検索:アルカリ性単純温泉だって。


隣の大樽に入ったおっちゃんが話しかけて来た。


「四峰の坊ちゃんよう」

「ん?僕?」

「そうだよ(笑) お山から下りて来たのかい?」

「うん、何で知ってるの?」

「動きが違うからさ」

「え?」ととぼける。


「あの入り方であの湯はこぼれねぇよ」

「あはは!」それ本気で間違ってるから(笑)


「何しに降りて来たんだい?」

「パリス様の巡礼に行くんだよ」

「え?巡礼ってパリス教国へ行く?」


「そうそう、パリス様が助産婦したり病気を治したところを祈りに行くの」


「お姉ちゃんと一緒にかい?」おい!バレるぞ!

「そうだよ」何も気が付かない振り。

「信心深いんだなぁ」


「そうでもないけどね、総裁様がパリス様に信心深くてお山を降りるの許してくれたんだよ」


「何処の総裁様だい?四人居るんだろ?」

「クロメトだよ、リン様って言うの」

「強いのかい?」

「強いなんて!一位の剣聖様だった人だよ?」

「イヤ、名前までは流石にしらないな(笑)」

ヨシはまった!情報と合致して俺は証明された。


「クロメト知らなくてどうすんの!」子供が怒る。

「すまんすまん、普通の人は知らないんだよ」

普通じゃ無いから自分は知ってるのね(笑)


「もう暑くなってきた、先に出るね」

「おう!気を付けて行けよ」

「うん!」


身体を精霊に冷やしてもらって夢心地。わざわざ長風呂するのもアリだなこれ、気持ちよさがハンパない。


公衆露天風呂から出るとまだ一人の視線があるが気にしない。話は付いた、すぐ外れる。近くにあった井戸に駆け寄って元平民を見せ付ける。桶に一杯冷え冷えにしてゴクゴク飲んだ。


袖で口を拭いて旅館に返った。


アルムさんが湯浴み着で面白い事やっていた。

温泉に我慢して入って、限界になったら温泉を氷魔法で一瞬で十度位まで冷やして、ホー!と極楽になる。熱が取れたら出る(笑)

風に当たって景色を眺めて、また掛け流しで埋まって湯に戻ったら風呂に入る。三セットやったそうなので温泉は湯当たりって病気になると止めさせた。


・・・・


「やっぱ、色々調べに来たよ」

「来たんだ(笑)」


「カスタを探しても見つからないから四峰が脱出を請け負って無いか気になってた、カスタを逃がして交渉に来た四峰とまで疑ってたよ(笑)」


「あー!あるわね(笑)」

「元々が困りごと相談の四峰だからね(笑)」


「何て言ったの?」

「パリスの巡礼ってそのまま答えた」

「本当の事教えたの?」

「そうだよ、巡礼なんて普通だもん」

「信じたの?」

「信じてもう僕たちを追わなくなったよ」

「さすがアル君!」

「だから今日の晩やるからね」

「わかった」


「夕食の用意にメイドさん来たら、って僕に言ってね」


「わかった!」


「今回の件に関わった奴らは全部タナウスの更生村に連れて行くからね」


「それが良いわね」


・・・・


ご飯を食べたらミスリル鎧に着替えてコアに連絡。


「今から千名ほど更生村に入ります」

「かしこまりました」


街全体を検索:税金の中抜きに関わった者→それを知る者→その子供。脳内GPSに光点が現れ、どこの誰でどの様な家に住んで、家族は何人とプロットが点々と増えて行く。


身代わりの珠強奪→麻痺→恩寵強奪→隷属。


「行くよ」

言った瞬間シャドがアルムさんに巻き付く、跳んだ。


ボスの邸宅に飛ぶなり検索。一秒前に確認しても再度検索。確実に隷属を確認し、拡声魔法で呼ぶ!


「全員集合!」

全員の麻痺を解く。


「アルムさん行くよ!」

「え!」と言う間に全てのプロットにシャドが巻き付く。


全員タナウスの更生村にある始まりの広場に連れて来る。コアさん達はここから選別して送り込む更生村へ連れて行く。


「アル様、お待ちしておりました」

「取り合えず悪党の拠点分連れて来た」

「かしこまりました」

「次から手下を家族ごと連れて来るね?」

「お任せください」

「認証だけだから布教しておいて」

「かしこまりました」

「あ!認証せずに連れて来たらお願いできる?」

「それは・・・出来ますが?」

「夜に叫んで認証って近所迷惑でしょ?」

「かしこまりました」アル思考を深く知る超科学。


※隷属には隷属紋を刻んで声の魔力で認証が必要。


「アルムさん!行くよ!」

「え!」巻き付く。


跳んだ瞬間 シャドが家族全員巻き付く。


→そのままタナウスで放置→街の家族に巻き付く→そのままタナウスで放置→街の家族に巻き付く→そのままタナウスで放置→街の家族に巻き付く→そのままタナウスで放置→街の家族に巻き付く→そのままタナウスで放置。


気が付くとアルムさんが目が回ってぐったりしてた。


こりゃダメだ。


シャドが巻き付いたので宿に跳んでベッドに寝かしてピストン輸送した。


1:税の中抜きしてた奴を捕まえる。

2:転移。

3:シャドが巻き付いてタナウスで放置。


1>2>3>2>1>2>3>2>1>2>3・・・


延々と続く。めんどくさい。


・・・1>2>3>2>1>2>3>2>1>2>3・・・


ボスの手下も代官の手下もいなくなったな。ついでに掃除もしとくか。検索:人を殺して何か奪った悪人。それを知って隠す者、人を攫って売った者、人の滅びを知って麻薬を売った者。


余りに個別で誘拐すると面倒臭いので、エリアごとでも出来ないのかな?と街の中からプロットを全指定でイメージしたらシャドが苦もなく街中全員巻き付いた。


「え!、今まで何やってたんだ、手間にも程がある(笑)」


人外の技に驚き過ぎて思わず自分にツッコミ入れた。


(シャド!どんなけ射程長いのよ!)

(この街ならどこでもイケます)

(この街ってメチャメチャ大きいじゃん!)

(イケます)

(シャドさっすがー!)

(☆ミ)←喜んでる。


「コア、これで終わり。お願いします」

「はい、アル様。お疲れさまでした」


宿に跳んだ。


「アルムさん、ごめん!」

「何よアレ!」泣きそう。

「もうしない、もうしないから行こう?」


「ホント?」

「ホント!はい!」ミカンジュースを出す。


俺も一旦ミカンジュースを飲む。


アレは流石に無いわ。何されてるか分からんわ。いきなり景色がグルグル回って俺は運転?してるから分かってるけどアルムさんにとったらタイミングも何もなく跳ばされて周りの景色がグルングルン回ってたと思う。


「アルムさん行ける?」

「もういいわよ」

シャドが巻き付くと目をつむる。


「跳びます、跳びます!」

人と跳ぶならこれから宣言する。


ボスの邸宅の地下にカスタの両親が捕まってた。誰にも話してないと言っても信じてもらえず拷問で半死にだ。カスタが捕まったらカスタに尋問じんもんするために生かされていた。カスタが聞いた事を誰にも話して無かったら家族揃って仲良く死なせてやると言われていた。最大の回復魔法で癒して隷属。


助けてくれたのは義賊と名乗る四人だったと覚え込ませた。代官や組織はどこに行ったか知らない。自分達は助け出されただけとした。


家族が尋問もされないように税の中抜きの帳簿類、架空工事の契約書、代官の不正蓄財など証拠を揃えて机の上に置いた。一番上にざら紙をペーパーウェイトで押さえて置いた。


ざら紙にはメッセージ。


-----------------

天知る、地知る、使徒の知る。

パリス様に代わってお仕置きよ!

          義賊:隠密使徒

-----------------


と書いてあった。


隠密のくせして名を明かしていたがアルはニヤニヤして気が付いていない。


両親を連れて羊飼いの家に行った。


・・・・



五日前の晩、カスタの家にゴロツキが五人入って来た。

カスタの上に兄は三人いるが他の街に出稼ぎに出て両親とカスタの三人家族だった。カスタは二階で変な奴らが訪ねて来たことを知っていた。その内怒号と悲鳴が聞こえて両親が乱暴されているのを知った。親父が叫んだ、カスタ!逃げろ!


屋根を伝って逃げ、血縁のない羊飼いの家に逃げ込んだ。とても悪い奴らが親に乱暴しに来たと言うとかくまってくれた。


逃げ込んだのは羊、ヤギ飼いの家、カスタの働く木工所の隣の家のヤギをそこの次女が朝に預かり、夕方返しに来るので顔を見知っていた。家族全てが毎日街の周りの栄養のある牧草地まで家畜を連れて行く。副業で街のヤギ、馬、ロバなどの家畜もついでに預かり連れて行く。


カスタは休みには頻繁に森に出た。

カシノの街の下には密な樹海、街の上には丘陵に森がある。光曜日に手製の弓と短鎗たんそうで狩りに行った。カスタは木工が好きで職人の下働きをしていた。木工所で作る物は椅子や机、ベッドやチェストなどの家具だが、年頃なので狩りにも興味はあった。実際にウサギやキツネ、キジ、鹿は弓や槍でって来ていた。


ある光曜日の日、丘陵の浅い森で取った獲物や山菜を小川で処理していると、自分の後ろに何かいた。狼や野犬は普通にいるので警戒していたが短鎗たんそうを持って後ろを見ると小さな子ヤギだった。


子ヤギ?とホッ!とすると。キャー!と叫び声が聞こえた。子ヤギの向こう100mに青い服の女の子がいた。と同時に周りを伺うとカスタのまさに20m程まで近付いてきた子ヤギに野犬が2匹猛スピードで左から向かっていたのだ。


子ヤギも野犬に気が付いて猛スピードで逃げようとカスタに野犬をなすり付けるような軌道で3m程脇を抜けた。カスタも驚いたが向かって来る野犬を引き付けて威力も高い弓術恩寵の必中距離まで引き付けて絞った矢を放った。放った矢は野犬の頭を射抜き一匹倒したが一匹に抜けられた。


走り回ったヤギは小川沿いで犬に尻を前足で攻撃されながらも転ばずに逃げ回る。小回りは子ヤギ、スピードは野犬という具合の勝負だ、と追いかけ合いをしながらまたカスタの方へ戻って来た。家畜の本能か人の近くが安全と知ってるのか?とカスタは舌を巻いた。


相手はすでに一匹、手負いにしても安全だ。


矢を引き絞りながら子ヤギと離れるのを狙っていたカスタは野犬の胴体に狙いを定めて子ヤギが駆け抜けた瞬間矢を放った。


はぐれた子ヤギを追いかけていた少女がカスタの元に着いた時には胴を射抜かれ負傷した野犬にカスタが短槍たんそうを突き入れ終わっていた。


預かった子ヤギは無事だった。助けてくれたのは木工所で働く少年だった。カスタは顔見知りの少女ミルンと川原で出会った。


昼食を食べ終えて、子ヤギが一匹いないと探していた時に聞こえた悲鳴で家族が集まってみると子ヤギは助けられていた。家族も大変喜び二人もこの件でたまたま会って仲良くなり、お休みに次女に誘われると羊飼いの家族と街の草原で一緒に羊を追って食事をしていた仲だった。



カスタの母の実家と代官の家は隣同士。カスタの母は結婚するまで小遣い稼ぎに代官の家の使用人のお手伝いをさせてもらう間柄だった。実家に寄ると必ず顔を出して裏庭で今いる同年代の使用人とお茶をする。たまたま作ったお菓子を差し入れに行くと代官と裏街の元締めのボスが激しくやり合っていた。お互いに激高していたので窓を開け放った庭まで話が聞こえてしまっていた。


カスタの母はお菓子を置いてお屋敷をすぐに辞した。


代官がこの街に来た時には、四元締めによる街の縄張り争いが激しく守備隊を投入しても守備隊も死傷する程激しかった。悪事を暴き急襲すると守備隊の牢まで深夜に襲われる程だ。代官は利権をチラつかせて勢力争いを激化させ戦力を削ぐ作戦を取った。抗争するどちらかに肩入れするのだ。


勝った方が負けた方を併呑へいどんする事で勢力図はまとまって行き、三万人の街での抗争は無くなった。が今度は調子に乗って来た。次はどこを狙えと代官が直接抗争の指示を出して追い詰めたネタで強請ゆすって来たのだ。


お互い水に流して忘れようと持ち出して来た条件を飲んだのが破滅の元だった。街に何かの補修工事がある場合に予算の特別計上という項目があった。簡単に説明すれば城壁の補修、橋の補修など大きな支出があった場合は税収から特別支出を引き、残りを領主に届けたらいいのだ。


最初は小さな架空工事を振り出すだけで良かった。代官もホッとした。しかし十五年も経つとバカにならなくなってきた。


架空工事が税の一割を占める様になってきた。領主六割と街三割で残り一割は相当でかいのだ。これが上限だった、これ以上やると査察官をごまかせない。裏街のボスは悪事を種に、代官は領主を盾にお互いに引けない脅し合いになり、ボスも最後にはこれ以上代官からむしるのは無理と諦めたのだ。


こんな代官だ。黙って一割をボスに渡す訳など無い。一割が上限だと言いながら自分の取り分も入れて一割を言い張っていた。ボスは代官は何かやってるからまだ取れると踏んでいた。そんな内面をお互いに隠し、探り合いながらの話し合いだった。


その時は激高して言い合ったのでそのからくりを聞かれてしまった。聞かれた使用人は代官公認で不慮の死を遂げた。その時の尋問で出て来たのがカスタの母の名だった。


・・・・


羊飼いの家族は助けようとかくまって驚いた。

とんでもない街のボスが絡んでいたからだ。地下室に隠したカスタから根掘り葉掘り聞くと両親は死んだと皆が確信した。カスタは当日の物音や悲鳴を思い出しその可能性が高いと泣いた。羊飼いの家族は震え上がった。差し出せば褒美など信用できない程の悪名高いボスだったのだ。


毎日必死で隠した、生活を変えなかった。辻と言う辻で手下が見張っていた。逃がす事すら無理だった。


21時。そんなおびえる家族のドアがノックされた。


そして問題は全て解決されたとカスタの親に聞いて羊飼い家族は腰が抜けた。


・・・・


木工所の親方は驚いた。

朝カスタが働きに出たからだ。


「お前、無事だったのか!」

「はい、どうも誤解が解けたようで」

「お前はもうこの世にいねえと思ったぞ」

「僕も家族もいなくなると思ってました(笑)」

「そりゃ、そうだぜ!ここもずっと見張ってたしな」

「もう大丈夫です!」

「そりゃそうだろうさ、俺の前にいる(笑)」


カスタには怖い物が無くなった。

フラグを乗り越えたからだ。


・・・・


カスタは不安で震える夜に横にいてくれるミルンにすがった。夜に心配して見に来てくれるミルンを抱きしめ口づけを交わした。お互いに初めての口づけだった。


いつ殺されるか分からない少年は感極まって言った。


「無事に生きてたら僕と結婚してくれない?」

「カスタが無事に生きてたら結婚してあげる」


少女も少年のプロポーズを受けた。


震えながらお互いを抱きしめて誓った。


出口の見えない、未来の無いはかない夢だった。


十四歳同士のカップルは秘密のフラグをつむいでいた。




三人目の十四歳のフラグクラッシャーは健在だった。





次回 272話  流れる景色

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