第269話  四部会



キャンディル伯爵家からの申し出でグレンツお兄様とフラウお姉さまの結婚式は、7月2日の光曜日に決まった。


そして、貴族学院を卒業したフラウお姉様は5月に実家のリズの魔法の先生で通ってる。


朝食後8時から1時間、昼食後13時から1時間、夕方17時から1時間の先生をしてくれてるの。朝、昼、夜は必ずキャンディルで食事を取るのでリズの屋敷とキャンディル宮殿のフラウ様の部屋に転移装置送迎門が置いてある。


最初レンツ様と一緒に来たフラウお姉様を視た時は眼が点だった。頑張ってリズに魔法を教えてご褒美に恩寵:転移をもぎ取る気満々!


シレッと転移装置を出したらフラウ姉様がおこりだした!


「もう!なんでお爺様だけなのよ!ズルいわ!」


「えー!」


「えーじゃ無いわよ!アル君。グレンツ様との結婚準備で忙しい私がリズの為にメルデスまで教えに来るのよ。そこは恩寵でしょう!お爺様が使える大魔法を私が使えないなんて恥ずかしくてロスレーン家にお嫁に行けないじゃ無いの!」


上手い事を言う(笑)


フラウ姉様は本音一本勝負!一番ストレスのないおこり方だ。レンツ様に転移を教わろうとして魔法陣の無い魔法と知り愕然がくぜんとし、リズを口実になんとか結婚までに手に入れたいと思ってやってきた。


視るとレンツ様も知っている。もらえなかったらゴネル事を知っている。フラウ姉様がゴネだした瞬間、すでに彫像の様にImmortal Objectイモータル オブジェクト(破壊不能物体)と化していた。


そこまで忙しく無いのが視えている。忙しい中とか、よう言ったなお前。俺を篭絡ろうらくして恩寵ゲットだぜー!と作戦練ってのぞんでいる。ウンと言わない場合は信用されてないとメソメソ泣くつもりだ。兄嫁は狡猾こうかつ策謀さくぼうを巡らして俺との対決にのぞんでいた。



先手を取って泣いた。ポロっと泣いた。


「え!アル?アル君!」驚いている。


Immortal Objectイモータル オブジェクトも驚く。


「どうしたのよ、怖かった?」うぉい!


泣きながら訴える。


「レンツ様に恩を返そうとポイント使っちゃたんです。コレ275ポイントでLv10なんですが・・・レンツ様の恩寵を全てLv10に

したので何千ポイントも使ってしまい。今これだけなんです」


SP23ポイント。勿論改変している。


振り向いたフラウお姉様が眼力でImmortal Object破壊不能物体を破壊した。


「・・・」


--------------


転移Lv1 100m   SP5

転移Lv2 1000m  SP10


残りポイントSP8


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「今は、これが精一杯なの」涙目で言う。


お姫様が抱き付いて喜んでくれた。

「これで充分よ!使えたら恥ずかしくないもの!」


「済まぬ。御子殿」

「いいえ(笑)」

「魔法陣の無い魔法など考えてもいなかった様での」

「あぁ、それで」相槌打たないとな。


「長女も魔法の才と性格が凄かったでの、全てが納得できる魔法になるまで嫁に行かぬと言ったほどじゃ(笑)」


「それはレンツ様の家系では?(笑)」


「それは儂のせいではない(笑) まぁ、フラウはそれを見ておるでの、儂やベントが使える大魔法を己が使えぬ事をロスレーンで知られたくない一心じゃ。そんな事は誰も気にせんと言うのに聞かん。我が孫を笑ってくれ」


「いえいえ、お兄様のお嫁さんはそれぐらい元気が無いと務まりませんよ」


「ラルフ卿ゆずりみたいじゃの(笑)」

「何度うまやの木にしばられたか(笑)」

「そうじゃろう!武官はそうでなくてはならぬ」


「御子様はアラン卿の様に静かじゃの」

アルの脳筋ぶりを知らない。


「ありがとうございます」


「無理を言って済まぬ、フラウも安心したであろう」



アルは若いフラウお姉様に安易に恩寵を付ける事を危険な芽と思っていた。人生経験が少ないからだ。努力せず望めば手に入る、それは容易に堕落する事に直結する。


「以後メルデスに跳んで来るなら、この管理棟へどうぞ、僕は名目上は居ない事になってますのでこのクランマスター室でお会いしましょう」


「こちらの部屋をお使いください」クリステルさん(管理棟駐在員)がマスター室のキーケースからカギを用意する。



「すまぬの、当主は裏町と言う訳に行かぬ」

「私は、平民服で気兼ねなく跳んでます(笑)」

うらやましい限りじゃ(笑)」


「今日は魔力門の調整ありがとうございます」

「なんの、整えねば宝の持ち腐れじゃ(笑)」



フラウお姉様は輿入れで5月の末にキャンディルよりロスレーンに向かう。7月の結婚以後は新婚旅行もあり、落ち着くまで先生は出来ないという当たり前の話をしていたら、色んな派生の話が出て来た。


この時、思わぬ事を言われた。


フラウお姉様が5月の末にキャンディルを出発するのに転移装置をロスレーンに移すからリズはこのままメルデスに住むように言われたのだ。しかもリズも俺も結婚式前後はロスレーン領に居ない様に言われた。


レンツ様の国王派閥とお爺様の中立派閥、そしてサルーテ事業で関係の出来た貴族派閥の伯爵、子爵、男爵の訪問をロスレーン家は連日受ける。特に伯爵家になって、サルーテ領関係で金回りの良いロスレーン家はかってない程の貴族家が集まると言われた。何かの拍子で俺がピンピンしてる所を見られたり、リズがナレスの第三王女と知られると不味いと言うのだ。


(俺も影武者を他国に送ってる以上見られる訳に行かない)


そりゃ、ごもっとも。当たり前の話だった。ロスレーン家にナレスの王女様が居るのがバレたら俺の足跡が全部暴かれる。リズは出席者の中で一番爵位が高いって事だよ、ロスレーンにいたらエライ事だよ(笑)


聞けば伯爵家の長男の結婚式は当然華やかで、祝いの品を持つ来賓も遠方から来るために、結婚式の二、三日前からロスレーンに逗留するという。前夜からパーティーが催されて、結婚式の晩も成婚パーティーで長男が来賓に感謝の挨拶をするという。それは国中と言って良いほどの貴族のるつぼだ。


リード師匠の結婚式みたいに軽く考え過ぎてた。


出席は無理だわ。 

レンツ様からお爺様にとりなしてもらう様にお願いした。うちの家では何も聞いて無いからだ。多分グレンツお兄様の結婚とサルーテ関係で頭が一杯だと思う。


転移装置はフラウお姉様が落ち着いてからレンツ様がロスレーンに運んでくれると言う。流石にそれはと言ったが、今日の無理難題よりよっぽど楽な仕事と笑ってくれた。


まぁ、そんな5月の初旬だった。


・・・・


同じく5月の初旬。

初めて相互通信で受けた聖教国は教皇様の連絡。


(聖教国より相互通信連絡です。お受けしますか?)


聞いた時耳を疑った、何があった!と思った。何か言ってくる国では無いのだ。陽気な受け答えしていても神の使徒を心底あがめてくれている。俺を呼びだす様な教皇様では無いのだ。視ているアルは知っている。


「コアさん、お願い」


(御子様、少し話が有るのだが・・・)

「分かりました、教皇の間でよろしいですか?」

(うむ、たのむ。人払いをして話しておる)


教皇の間に跳んだ。


「お久しぶりです」


「御子様、申し訳ないがこれは何とかならないものか?」


「なんです?」


机の上に差し出された親書を受け取った。


早速読んでみると、そこには隣国コルスン王国の王太子の乗った騎馬が暴れ、軍用荷馬車の鉄枠に向かって暴走した上に王太子を荷馬車に押し付けて、顔も皮ががれ、腕も肘から千切れてしまったと書いてある。回復魔法で一命は取り留めたが噂にささやかれる教皇様の秘術におすがりしたいと書いてある。


「分かりました!行きましょう」

「御子様、神の御業をその様に使って構わぬのか?」


「聖教国に味方する信徒国の王の願いです。陛下が悩むまでありません。治す事が聖教国の外交になりましょう」


「御子様、本当に済まぬ!」


「何言ってるんです、聖教国の俸給貰ってたら教皇様を助けるのは当然ですよ(笑) 俸給分は働きますよ!皇太子ですから(笑)」


「訪問用の法衣にお着替えください」

「む、分かった」


新たなお着替え腕輪で着替える教皇様。俺も一緒に御子服に変わる。ベルを鳴らし現れた侍女長のアロラお婆ちゃんに御子様と隠密おんみつの用事で外すと伝えている。


「聖教国教皇の秘術ゆえ王太子さまと別室に入り、御子に世話をさせるので何人たりとも神の降臨する部屋に近寄るべからずと申し付けて下さい」


「まさか・・・本当に・・・」

「そんな訳ないです!神はそんな事しません(笑)」

「そうだったな(笑)」

「神から力を授かった私はします(笑)」

「ありがたい、治るのだな?」

「治りますよ。行きますよ?」

「うむ!」


アロラ婆ちゃんが扉の前で目を細めて見送る中跳んだ。


教皇様の知る謁見の間に跳んだが誰も居ない(笑)


誰かいないかと王宮を声を上げながら探したらメイドさんがいたので王様の親書を持たせて、コルスン王に謁見えっけんをお願いした。


謁見えっけんどころか王様と王妃がメイドと執事に連れられ部屋まで出迎えに来た。顔見て思い出した、俺の褒章の時この人来てたわ(笑)


「先程親書が届くなり聖教国の秘術で跳んで来たので不躾ぶしつけな訪問でお許しを。内容は拝見しました、教皇とて早々使える魔法ではありませんがやってみます。別室を用意し王太子殿下をお連れ下さい、秘術を行う最中には部屋に神がご降臨なされる。この御子が王太子殿下の世話をするので神聖な部屋に近付かない様にして下されよ」


王様と王妃様がおぉー!と涙目で教皇様の腰にすがる。俺はそれを見ただけで親のありがたさが身にしみた。この人達は治るなら神に命も捧げると思っている。


秘術は30分ほどで終わった。

王太子殿下が恐れおののくのが笑えた。常識で言ったら悪魔の儀式みたいなもんだ、自分の身体の為に神や悪魔が降臨するとか言われたらこの世の人はチビるわ、怖すぎだ!(笑)


昏睡魔法を掛け、顔を薄く剥ぎ、腕を新たに傷つけ最大の光魔法のヒールで見る見る間に欠損は修復されて行った。これはこれでクランの教官たちを治した経験がモノを言った。


強烈な閃光を発する魔法を行って眩い光を扉の隙間から警護する騎士とコルスン王夫妻に見せつけた。


最後に水のヒールで失った体力と魔力を癒す。

睡眠の魔法でゆり起せば起きる様にして部屋を出た。


部屋を出るとハラハラとした全員の視線が集まった。


「終わりましたぞ。神は降臨なされた」


教皇様は優しい笑顔で王様と王妃様に言った。


「本当でございますか!」

「中で王太子殿下と一緒に喜びなされ」


一目散に部屋に駆け込んで行く二人。


おぉー、おぉー!と部屋の向こうで泣くのが分かる。それは親が発する歓喜の涙だった。王族だって同じ人間だ。


「教皇様、参りましょうか?」

「おぉ、無粋ですな(笑)」


残されたメイド達と執事、護衛騎士に俺は殊更ことさら可愛く手を振って二人で消えた。



「私と連絡が取れない場合はこれをお使いください」

錬金術のアンプル瓶を二つ渡す。


「これは?」


「神薬、エリクサーです。欠損も再生する万能薬です」


「神薬!噂に聞くエリクサーとはこの様な・・・」

「聖教国の為にお使いください」


その後クルムさんを拝み倒してまた二本作ってもらった。


御子様だって拝み倒す人はいる。


・・・・


五月末、貴族屋敷の執事とメイド部隊は四部会にサルーテ流民サービスセンター業務を引き継いだ。引継ぎには一週間の現地研修を行った。キューブハウスも渡そうと思ったが執政官じゃあるまいし四部会が千棟を仕切るなんて無理。(今はメイド部隊が認証鑑札を売っている)


四部会には逃げて来た流民に追手が来る可能性を言い聞かせて家族ごと貴族屋敷のメイドに引き渡せと指示した。


ミウムの北、北東、西、東の元締め四部会が俺の委任状で無体なチンピラを狩りだす。真面目に働いた流民はサルーテの領民になって貰うぞ!


コアとニウに任せても良いんだけどね。

ナノロボットは磨けないから人にやらせた方が器が磨けて得だ。人を使うと頭と体使って頑張って磨くでしょ?以後流民たちの生活を守るんだ、人の道さえ外れなきゃ大抵許す。俺はチノで腐ったのを沢山見ちゃったから、少し優しくなったかも知んない(笑)


賄賂とか賃金の中抜きとかも見えるけどさ、そんなのどうでも良い。自分で責任取れば良いのよ。働いてる人もみんな分かってる常識だ。流民って貯めたお金隠すところが無いでしょ?河原の石を目印にして硬貨を隠すのよ。そしてコアが高空から見てる。盗人ぬすっとが取った瞬間に御用だ。


河原から妙に離れる流民を追ってコアが流民サービスに教える。追撃隊が追い、流民を取り返して他領のチンピラを叩き出す。メルデスで暴れ、恐れられるしか能が無かった裏の暴力担当が正義の味方として流民から泣いて感謝され意識が少しずつ変わって行った。


「この家族はお貴族様からうけたまわったうちの仕事してんだ。連れて行くとお貴族様が出て来ちまうぞ、良く見てみろ!」


「この委任状が目に入らぬか!」

平伏して逃げて行くチンピラたち。


中には>舐められやがって!と手下総勢百人連れて来た元締めも居たらしいが、元が男爵領のパイが小さい街の元締めとパイが異様にデカいメルデス仕切る元締めの四部会が睨み合う。四部会手下の七百人+殺気立った流民の集団千人に囲まれて北街のユッコにさとされる。(ユッコは学があり弁も立つ経済ヤクザ的な元締めだ)


「お前らたった百人で来やがって舐めてんのか?千人連れて来い!そしたら伯爵家のお貴族様が出て来るからな。良く考えろ、そのチンピラ百人置いてここで仕事させたら男爵領で人泣かせて稼ぐより実入りがいいぞ(笑)」


「伯爵様は戦争で何もかも失った哀れな流民が未来のサルーテの領民になれるように守ってんだよ。お前らは流民の未来を考えてるのか!逆らうと間違いなく伯爵家が出て来るのが分かるな?」


それを聞いた流民の集団も驚いた。他の三人の元締めも驚いた(笑) 守ってくれる理由を知ったのだ。貴族が税も払わぬ流民を守るのはありえない。定期的に守備隊に掃除されて居場所を追われるからだ。


舐めやがって!と出て来た元締めこそが舐めていた。相手はガチモンだった、後一歩踏み出すと終わるのが分かった。囲まれている時点で終わってるのだが・・・。


四部会は既に体感で何をすればお貴族が怒るのか大体掴んで来ていた。ユッコの啖呵たんかを聞いて余計に分かった。その啖呵たんかを聞いた流民の若い衆が流民サービスに憧れアニキアニキと付いて来る。肩で風切って歩く姿に憧れて舎弟も増えて行った。


こんなに人数要らねぇなぁ?と連れて行った部下をユッコの言う通りに手間取りに百二十人送り込んだらアホみたいに儲かる。みかじめ料どころじゃない全額組織だ。 憧れる舎弟も一緒に送り込んだ。日当取り上げて小遣いを渡す。


いつの間にか流民サービスセンターは会員制の流民互助会になっていた。日当から一割もの金を流民は喜んで自分から互助会に持って来た。どこにお金を隠しても守ってくれたからである。


そして流民サービス横のお貴族様の執事とメイドが流民のお金を預かる様になった。互助会の金をプールするついでに銀行を始めたのだ。仕事の割り振りをするための口銭を取るのは良いが、互助会の会費は別とアルが判断したため会費は日当の五分(5%)となった。


一回アルが見に来た時に四部会に言った。


「稼いでるな。群れてるだけじゃ金は稼げねぇからな。未来の領民にツバつけてるんだ、お前らに憧れて付いて来た奴はちゃんと面倒見てやれよ(笑)」


口銭だの中間マージンだの、流民の若い衆の手下を増やしてる事もアルは視てるから分かって何も言わなかった。そのつもりも無かった、今まで通りサルーテの元締めになった時に必要な構成員を増やしていただけだ。


凄い執事とメイドの事も何一つ言わなかった。流民が連れ去られたり隠した金が盗られると必ず察知してサービスセンターに明け方だろうが夜中だろうが関係なしに教えに来る恐ろしい使用人と思われている。


夏前に城壁工事が始まり一日四千人以上限度無しという大口の工事が始まった事で四部会はサラリーマン化していった。

いつのまにか朝番、夜番、深夜番を置いてそれ以外は全員稼ぎに行っていた。サービスセンターは四部会が普通に店番して元締め一名と手下三十名で仕事は回った。夕方にハウスの清掃終わりましたと部下に連れられた子供達二、三十人に大銅貨一枚ずつくれてやる。何も無い時はそれが元締めたちの仕事だった。


俺は光曜日にムン国から帰って三度見に行った。元々サルーテに手を出すつもりも無かったが対処が難しいと思われる流民の問題は明確に手を出した。執政官では何ともならないからだ。



・・・・



すでにアルは北の中央大陸を旅立っていた。

相互通信で呼び出されると待ち合わせ場所に飛んで話をするだけだ。お爺様だけは俺の心を分かっている様な気がする。街路灯の設置の件以来ロスレーン家からしょうもない通信が無いからだ。何かあっても俺の耳に入れない様にお爺様が握り潰していると思う(笑)


そんな理由もあって、結婚式欠席の件は実の兄にも伝えていない。レンツ様経由で伝えてもらうのはそういう理由だ。


・・・・


アルは原点に返っていた。

ムン国の修行で今の自分の力量が大体分かった。アルムさんクラスの武芸者に当たらない限り害され無い自信が出来ていた。数多あまたの神に頂いた加護や恩寵、何よりも虚無きょむに漂う魂を救ってくれた感謝の分だけでも生き物が生き易い世に整えてやろうと思っていた。



すでにロスレーンに居ない。タナウスにもいない。


5月の中旬。アルは南の中央大陸にいた。


4月初旬、パリス教の奴隷交易船が嵐で難破しタナウス西岸に流れ着いた。乗組員は勿論、手枷足枷で船底に押し込められた奴隷は全員死亡だった。その時は四峰のお山にいた理由が理由なので視るだけ見て修行が終わって暇になったら内偵しようと思った。


※アルが実力不足を指摘され、鍛えよと荒人神あらひとがみのシュウ様に言われていた課題が四峰での修行だった。


アルは当然視た。


要約するとパリス教が土着の民族に布教して教会まで作り、やっと五つほどの部族で六百人程の信者を集めた。それを敵対部族が司祭も含めて皆殺しにしたのだ。教会のシンボルに司祭ははりつけにされて槍でつらぬかれた。


そこを拠点にパリス教を広めようとする足掛かりにしようとの目論見が崩れ怒り狂ったパリス教は敵対部族を蹂躙じゅうりんし捕えた者を奴隷として戦費の足しに売っていた。その一隻四百人の亡骸なきがらがタナウスに流れて来たのだ。


パリス教は未開部族を蹂躙じゅうりんした事を民に知らさなかった、知らせる訳など無い。未開部族を奴隷として売る事を隠蔽いんぺいした。神の国パリス教国に相応しくない話は情報統制される。


俺が思うに内偵を進めて、あんま上層部が真っ黒のアウトだったら未開国まで攻めていく聖騎士団のトップも含めて乗っ取る算段がある。


しかし、戦争やってるハムナイもパリス教を信じてる。ムン国だってそうだ、人々の暮らしに根付いてる。色んな国に熱心な信者がいるならそのシステムをシッカリと見せてもらわないと?は余りにも痛い。


そんな事で五月の初旬、慣れ親しんだムン国を皮切りにパリス教国までの道のりを街から街へと訪ね歩いて教会の運営や教義を知ることから努めようとした。そのうちパリス教に不必要なものが視えると思う。アルは上手くパリス教義を改変して武力で攻めない宗教国の方向を探ろうと思っている。




次回 270話  伐採Lv10発動

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