第261話 憑依した先王
昼に冒険号で食事してたらコアさんから連絡。
執政官の勧誘を15時まで待つなら北西の海上に作った防波堤を崩してもらいたいとのこと。このまま放置すると海流の影響でタナウスの気候が少し変わると言われた。
検索して視たらその通りだった、緯度が高くて寒そうに見える国でも黒潮の脇にある国は温暖だと知った。タナウスの気候が変わっちゃうならアカンじゃないの。と崩しに来たが、実は次の台風用に置いておこうと思ってた。
15時までシャドにミニ万里の長城を斬らせた。こんな感じが一番沈めやすいかな?とイメージするとシャドが滑走路みたいな防波堤を豆腐のサイコロ状に斬っていく。俺はシャドが斬った防波堤を土台ごと海底の地盤に沈めて行く。猿人騒動以来の大暴れで闇の存在を大いに示してシャドもご機嫌で斬っていく。
二人のコンビプレーで防波堤を処理してると15時になった。
・・・・
タナウスに移住する人は牢に入ってた人を除けば二十五人の半分が移住するって言ったよ。よく十二人も残ったなぁと感心した。
まずは移住しない人達を帰した。移住する人達のリストを持ってチリウの村や街に跳んで行く。移住の準備もクソも家族と移住を決めた当人は話すらしてないので、有無を言わさず家族をシャドが巻いて拉致、家ごと持ってタナウスに連れて行く。
そりゃ家族も会議室で呆然と立ち尽くすわ(笑)
連れてきた俺も可哀想に思って一緒に立ち尽くす。
視てもチリウ王国に仕返しを考えるような人は居なかった。元はチリウ王国のエリートだから家族も学が有って文化水準は高い。
家は取り合えず村と街の空き地に置いて、希望者にはコアさんが抽選で家を割り振ると言った。呆然とする会議室の家族にメイド達がお茶を振る舞ってお父さんや執政官達がまた事情を説明する。
やる仕事だけやって、後は北西の街でシャドと日が落ちるまで防波堤を崩して行った。
どうしても物想いに沈んでしまう。
朝、悪い事をして無いのに投獄された人が居た。この世界だ。盗人と間違えられた、人相が悪いだけで疑われて必死で否定しても捕まっちゃう奴だっている。濡れ衣を着せられる奴もいる。ジャンバルジャンみたいにパンを盗めば
そんなもん、俺が助けて回るのかと言う話だ。間違って鞭打った奴を懲らしめて回るのか。
最初から決めている。
正にも負にも磨かれた魂に刻まれた記憶がある、そんな器が召されるまで俺は何もしない。最初からする気も無いが、やはり目の前に居ると助けちゃう。助けようとして移住の話を持って行けば、会議室の執政官の様に
午前中に視て凹むほど考えさせられた。
そうだよ、何もかも俺がどうにか出来る訳じゃない。その人の人生だ。その人が決めなきゃダメだ。たまたま視ちゃったら助けるだけだ。移住もガッカリするな!皆が喜ぶと思ってした事が期待に反して疑われただけだ!
気にするな!気にしなくて良いんだ!
自分を
俺はタナウスに急に連れて来られて戸惑う人達を視て弱気になっていた。執政官の移住の勧め、神都タナウスを
俺も心が折れて説得する気も失せる。
逆に移住を決めた人は
シャドと一緒に防波堤を崩しながら思う事。
危機感の無い人は絶対に誘わない。危機感が無いから誘われた者は美味い話を疑い、勘ぐられてこっちが傷つく。理不尽に押さえつけられ道の閉ざされた人だけにしようと執政官に意見する事にした。
善意が相手に誤解され悪意に理解される事を執政官も感じた筈だ。
アルがその様な事を考えながら、シャドと仲良く防波堤を崩している時、動く宗教国があった。
・・・・
※1:本来の名前は有るが、分かり易いので○○教国と表記。
アルは宗教国を舐めていた。直接ではないがタナウスを感知する宗教国があったのだ。アルやタナウスが知られた訳ではない。
聖教国と同じく宗教国を名乗るだけの土台はあるのだ。言い換えれば宗教国とは神の恩寵を研究し魔法科学を究明する国家が職業として持ちうる恩寵技術を利用して神を語る国だ。
シズンはどのような確率で魔眼が受け継がれるかを科学的に解明し、聖教国の様に魔眼が発現した者を優遇し取り込み、子供を為す事で有益な魔眼保持者を教団内で育成して、教義に沿わせて恩寵を使い大きくなった教団である。
シズン教の内部事情を知った縁者は千年も前に追手を
シズン教国、教皇の血筋は未来眼の血筋だった。
本来未来眼の発現確率は低いのだが、誰の子に発現すると未来視するので恩寵レベルを上げれば相当な確率でその未来確率は上昇され確定されて未来眼を持つ子供や孫が生まれていた。
シズン教とは未来眼によって自由自在に一番可能性の高い未来を覗く能力を利用し、神の宣託と称して成功の道を指し示す現世利益を実際に説く宗教国だった。教皇が民に現世利益を誘導するのだ、信者が多いに決まってる。
最初はシズン教皇が夢を見た。
シズン教が
その夢を未来視した。
未来は絶えず変動し、確定しておらず、あやふやに日常に過ぎる事象がジグソーパズルの様に結び付き絡み合いその因果で紡がれる蜃気楼。その蜃気楼を実現するのも回避するのも未来眼なのだ。当然、いつもの様に蜃気楼が
シズン教が
教皇はそれを自分の死と
シズン教が古から伝える未来眼の歴史書を
教皇はシズン教国で進める政策、国交、軍事、通商。ありとあらゆるものに付いて未来視した。
全ての物が途中でブツリと視えなくなる。原因も何も無く暗転して終わるのだ。
やがて身内に未来視で知る者達が現れ、このまま隠し切れないと悟った教皇は同じ未来眼を持つ一族郎党12名に命じ、一斉に未来視を行った。2人ほどが視えてしまった。何も映らない未来を。
教皇と同じくブツリと消えるシズン教国の未来を。
シズン教の意思決定機関の討議。
シズン教最高幹部の枢機卿(教皇を補佐する国政を左右する司祭)に突然途切れるシズン教国の未来が告げられた。信じられない驚きの知らせだった。
教皇一族の未来視が絶対の教団である。
シズン教が
教皇の決断は早かった。
この地を離れ、シズン教国の滅びから一族は逃げようとした。逃げたら変わると思った。
教皇が大陸を離れる間は紛争禁止、全ての武力と恩寵保持者はシズン教聖都に集結し、
それは、シズン教が最初だったに過ぎない。
同じ系統で宗教国を建国したシーズ教国も同じだった。
早かれ遅かれはあれど、世の宗教国は己が破滅する事をアルが始動する前から感知した。聖教国もターゲットであれば当然聖女や御子が感知する。予言であったり、
恩寵を利用した洗脳と商売である。
それは剣術を利用して武官で稼ぐと同じ職業であった。
力が溜まれば内外に示す為に神敵を作る。そして侵略し神の正当性で勝利したと
アルは宗教国をなめていた。
・・・・
シャドと夢中になり過ぎて、日が落ちて暗くなる19時半頃まで一緒に遊んでいた。普段あんまりしゃべらないシャドと何時間も心で
アルはシャドを攻撃要員と思ってるので、普段は攻撃しないアルにとって縛る位しかお願い出来ずに心苦しく、魔力を使って何かさせてあげたい存在だった。シャドはアルと繋がって思う事が分かっているので嬉しく思っていた所に、転移の影縛り利用を考えてくれたので以後はその役目を果たそうと思っていた。
そして、防波堤の破壊。凄い規模の防波堤を存分に斬れと言う。持ちうる力を振り絞って魔力を使った。それは中精霊であれば数百年分だったかもしれない。シャドは嬉しさに弾けていた。アルもそれを読んで弾けていた。
お互いにその様なハイな心持ちで気が付いたら日が落ちていた。ちょっと落ち込んでいたタナウス勧誘の事も忘れていた。
ハウスに行ってクルムさんの作ってくれてあった食事を済ませてミッチスの在庫品の量を聞く。アイスクリームと世界樹の葉の粉末は1か月以上持つ様に在庫を作り、ペパーミントティーはそろそろ在庫が切れると聞いて手持ちの在庫を出した。
機会が有れば買いに行く事にする。
ハウスのジャムや油も一緒に買って来てと頼まれたのだ。
ロスレーンの分も買って来よう。
今日はタナウスに帰って寝た。
色々考えすぎて疲れていたが、明日やることは決めていた。
・・・・
1月19日。
翌日5時。
朝起きて速攻で平民の冒険服に着替えてチリウの王宮に飛んだ。時差は無く、タナウスと同じ5時05分。王の寝室で魔法ランプに魔力を注ぎ全点灯!
一緒に寝てる王妃を麻痺させた。
(睨む攻撃や転移などの魔法陣を必要としないアルの恩寵は王宮結界内でも関係なく使える)
寝てる王をぶっ飛ばした。
「何をやっておるかー!」ばちこーん!
「な、なんだ!お前は!」ベッドを後ずさる王。
「儂を忘れたかー!だからお前はバカなのだ!」
王が目を見開き子供をマジマジと見る。
「子供の体では儂が分らんか。わはは!」
「・・・」王はもしかしてと思う。視て分かった。
「やっと分かったか?バカ者が!」
「お父様ですか?」
「そうじゃ!お前のバカを見ておれず来たわ!」
「・・・」そりゃ、信じられないよな(笑)
「儂の家臣をようもあの様に扱ってくれたの?」
「あれは違うのです」
「言い訳するかー!」どかーん!ぶっ飛ばす。
ベッドから落ちて夢では無いと気が付く。
「子供に乗り移ったのでそう力が出んのう」
「乗り移ったのです?」
「心清き者しか乗り移れん。仕方なくこの子供の身体じゃ」
「・・・」
「心配せんでも良い!言いたいこと言ったら帰る」
「え!どちらへ?」
「神の所じゃ!決まっておろうが」
「陛下!陛下!」ドンドンドン!
明け方の騒音と怒鳴り声に執事長が駆け付けた。
「うるさいのう!」
ドアを開けて入って来た執事長を麻痺させる。
「儂はバカ息子に言いに来ただけじゃ、捨て置け!」
麻痺した執事長に聞かす。
「お前に、褒美をやろう」
「え?」
パーン! 一発張った!
「目が覚めたか?」
「・・・」
「牢の善人は解き放ったぞ、以後は恥を知るが良い!儂の目に掛けた忠臣から全てを剥奪し、身の程を
「・・・」知られていると驚いてる。
「儂と共に国を支えた忠臣を追い出しおって!」
膝立ちの王の肩に足を掛けてゆっくり蹴り倒す。
「すみません、お許しください」
「昔はよう
「・・・」下を向き昔を思い出している。
「もう少し、儂のやっておった事を見習え!酒や女に溺れおって、慢心し国を忘れたらお主が引き倒されるぞ!これは儂の忠告じゃ。お前の様な愚息でも息子じゃ。親バカにも程があるが来てしもうたわ。心を入れ替え、もう少し真面目になれ。よいな?儂の忠臣を追い出した事は忘れてやる、以後忠臣に関わるでない。お前も変われ!分かったな?」
「・・・」放心状態だ(笑)
「返事が無いぞ!」
「はい!父上!」
「死んでまで説教とは思わなかったぞ、以後は
「もう一つ、褒美をやる」
おもむろにクローゼットに向かい隠し扉を開ける。
「ほれ!お主の母の物じゃ」
髪飾りを渡してやる。
「亡くなった時に
食い入るように見つめている。
「覚えておるじゃろ?可愛がってもらったお主が持つに相応しかろう」
「父上!」
「良いな?心を入れ替えよ、神の元で見ておるぞ」
「必ずや!」
「良いことを教えてやる、サンテ教は偽じゃ。ネロ様以下の神々はおわすが、神はサンテ教のような事は言わぬ。適当に金だけ渡しネロ様以下の神々のみを
余計な事言った(笑)
王が神様!と祈るのがサンテ教だったんだよ(笑)
「はい!父上」
「ヨシ!痛かったのう。忘れるで無いぞ(笑)」
子供が王をハグしてヒールで顔の腫れを取る。
「お前も王の顔になっておるな(笑)」
顔をさすってやる。
「それでは子供の体を返すかの? 無理に体を借りた、王都の冒険者ギルドまで送ってやってくれぬか? 頼むぞ」
「父上!」
完了!良い方向に行きますように。
王妃と執事長の麻痺を解除し魔法ランプを全消灯。俺は気を失った振りでドサッ!とその場で倒れた。
執事長が立ち上がる。
「メリンダ!マリスン!大丈夫か?」
「今動けるように!お父様がいらしてましたね」
「大丈夫でございます!今自由になりました」
「おぉ、まさかこの様な事が、ランプも消えた!」
「ランプが全て・・・先王様がなされたのか」
凄い心霊現象だよな?と心の中でニヤリ。
「子供に褒美を取らせ、冒険者ギルドまで丁重に送れ」
「は!」
担架に乗せられる時に気が付いたふりをした。
「え!僕は?・・・ここは?」
「ここは王宮でございますよ」
「え!王宮!」
「良いのじゃ、良い使いであったぞ!帰るが良い」
「は・・い?」
馬車を待つ間、メイドさんが羊の乳とプレスサンドの朝食を出してくれた。待ってた部屋を出る時に布に包んだお菓子をくれた。馬車の用意が出来ると、迷路のような王宮を執事長とメイドさんに先導されて外に出してもらう。
豪華な王宮馬車の中で皮袋を渡された。
「王は大層お喜びであった、これは駄賃だそうだ」
「は、はい・・・ありがとうございます」
7時に着いたチリウ王都の冒険者ギルドは小さかった。手にズシリと来る皮袋は冒険者の子供が持つに相応しかろうと銀貨30枚が入っていた。
アルが視て演じたが、当人の言動だ。それは、その部屋で暮らした先王そのままの言い回しと説教。その部屋で過ごした王の記憶を
そのままペパーミントティーを探しに行った。
クルムさん、よれた冒険服直せるかなぁ?
肩口を気にしてチリウ王都の朝を歩いた。
ジャムとお茶には少し重い皮袋を懐に入れて。
次回 262話 バルトロム部族連合国
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