第252話  大嵐



1月13日。


朝の打ち込みの掛け声が「ネジって何?」に変わった。


「アルムさん、朝食後にタナウスに跳んでくれる?」

「わかったー」


イコアさんに連絡。


「早めにご無礼するから今日も教室に来て」

(かしこまりました)


教室行ってリズの魔法の鍛錬、生徒が静かに文字の書き取り状態になったらご無礼する。


6時半に導師とアルノール卿を起こしに行く。

昨日の晩に起すと昼夜逆転になりそうだったので止めたのよ。


導師から水魔法でヒールしてから覚醒させた。

続いてアルノール卿もヒール掛けて術を解く。


「いつまで寝てるんです!大嵐が来ますよ(笑)」

「む!御子様、だいぶ寝ておった様子」

「何日徹夜したんです?」

「二日ですかな?(笑)」


無理し過ぎだ!


「導師!行きますよ!大嵐が来ます」

「ちょっと待て、髪を直す」

寝癖がついてた(笑)


「コア、まだ大丈夫?」


(まだ上陸12時間以上前です。少し早くなりました。タナウスでは風も無いので警報は出しておりません)


「はーい」


(後、この嵐は進路に島を巻き込みました。その島でなぎ倒された倒木などが反射壁外のタナウス北西岸に漂着する被害が予想されます。タナウス西側に被害避けの壁を海面上に出せないでしょうか?)


「わかった、今からタナウスに跳ぶね?」

(お待ちしています)


話してる間に導師とアルノール卿が揃っていた。


「行きましょう!」


跳んだ!



・・・・


聖教国7時>9時タナウス。


宮殿に着くと湿度が違う、雨がやって来る前兆だ。海に白波こそ立っているが、この風なら飛空艇で飛ぶのに充分だ。


「導師もアルノール卿も外を見に行きましょうか?」

「コア、漂着防御壁を作って来る」

(お願いします)


砂浜に跳んだ。


「アルムさん、クルムさんも海に出てきて」

(はーい)


飛空艇を出す。タラップ作ってたら三人が合流した。


「これが言っていた飛空艇じゃの(笑)」

「船が飛ぶとは、なんともはや・・・」

「そうです、飛びますよー」


すぐに舞い上がって、台風を直に受ける西岸に飛んだ。首都は東岸にある。


「これは凄いのう!」

「景色が良いですな(笑)」

「もう色々な悪人を討伐してます」

「うむ、それでよい」


導師が頷く。


北西岸に着くと俺は操縦に専念、シズクに防波堤を作らせる。シズクの方が具現化が早いのだ。一本はタナウス北にある海峡にゴミを誘導する防波堤。一本はタナウスの最北端の島を流木が避ける様に水面上10mの防御壁を作る。波浪で流木を西から東に流す防御壁だ。シズクも俺を読みながら作って行く。


「おー!みごとじゃ!」

「なんとすごい!」


海面上に列車が走る様。流れるように防波堤が出来て行く。作りだしたら10時間前になった。


タナウス通過予側の北西の衛星都市を中心に西の沿岸にこれでもかと防波堤を作って行った。


・・・・


3時間後。


(アル様、そろそろ警報を出します)


「分かった。帰る」


首都の宮殿前に降りるとコアが言う。


「防護壁確認いたしました。台風の力で流木被害も東に抜けると思います」


「そんじゃ僕らは北西の衛星都市スカイに行く。そこが一番強いんだよね?」


「はい、海から吹きつける風は遮蔽物がございませんので、猛烈な風となります」


「わかった、こっちを頼むよ、コア」

「かしこまりました」

「全都市、コアが起動して」

「10分後に警報と共に起動します」


「聞いた通り、反射壁の実証試験に立ち会います」

「分った」

「跳びますよ~」


衛星都市スカイに跳び次第メイドに言付けた


「テラスで皆で観測するね、ソファーや机、椅子を持ってきてくれるかな?」


「かしこまりました」


「コア、そっちの内政官を集めて反射壁の向こうを王宮の高い部屋から見せてあげて」


(かしこまりました、5分前、警報鳴らします)


「ウゥーーー!・・・ウゥーーー!」


という決して甲高くない不連続音がハッキリと聞こえる。


「決して街から外に出ない様に!」

「ウゥーーー!・・・ウゥーーー!」

「決して街から外に出ない様に!」


放送されているがスカイには誰も居ない。


「警報が鳴りだしたの」

「あと5分で反射壁が起動されます」

「ワクワクしますな」

「心配ない。実験しとろうよ(笑)」


机と椅子とワゴンがテラスに運ばれてきた。ふと見るとアロハセットがワゴンに用意してある。皆が冬の土地から来たので冬服だ、湿度高いから暑いよな。


先に着替えておこうと四人がお着替え腕輪でアロハになる。


「起動したらメイドに言って着替えたら良いですよ」

「そうじゃな」


「大嵐まで9時間です。風呂も良いかもです」


言った瞬間、風呂にメイドが行った。ここにいるメイドじゃ無い、風呂に最寄りのメイドが行った(笑)


「お!そうじゃな、ここの風呂は立派そうじゃな」

「立派立派!王宮ですよ(笑)」


その時王宮の全天にライトの光が灯り少しして消えた。


「起動しましたな」

「アル、失礼するぞ!」


導師がファイアボールを天空に向けて放った。ファイアボールは上空の反射壁を突き抜けて行った。


「ふむ、実験通りじゃ、外からは試したの?」

「はい!」


「卿!風呂に行こうぞ!三日ぶりじゃ(笑)」

「そうですな(笑)」


(実は36時間も強制的に寝かされて一日抜けている)



「さっきライトが付いたのが合図なの?」

「そうだよ、ポヨーン魔法が街を覆ったの」

「一人は前にダンジョン来た人だよね?」

「あ!ごめん、聖教国の導師みたいな人だよ」


「そうか!私は晩に一緒に飲んで話したから、アルムはあんまり知らないかも(笑)」


「え?紹介して無かったらゴメンね」

「あの時見学だったけど、魔法使いなの?」

「その腕輪を作った人」

「えー!そうなの?」


「そうだよ、あの人の弟子から僕が教わって作ったから、あの人は知らないけどね(笑)」


途端に尊敬の眼差しになった。


「アルムさんとクルムさんは知らないけど昨日選んだ男爵家にあの人の部屋作ってあるから」


「名前は?」


「あ!ごめん、アルノール大司教って言って、教皇様の次に偉い人なの、導師の友達(笑)」


「あ!名前。思い出した!(笑)」

「よかった!(笑)」


「あのとき聖教国だから見学と思ってた(笑)」

「それ間違って無いよ、大司教は戦わない」


「ロスレーン家で集まってたいるでしょ?あのメンバーとアルノール卿はタナウスのお客様扱いの人だからね」


二人は思い出して合点が行った顔をした。



・・・・


12時に上陸7時間前と言われた。


ポツポツ雨が降って強くなって来ていた。


導師が風呂から上がって妙に体が軽いと笑う。 二人が風呂に行った間、アルはコアに逐一ちくいち嵐の様子を聞いていた。導師達が来たのでコアとの通信を終えて、自分でも見られるかな?と検索してみた。


今まで多重視点で高所から街を見下ろしてもせいぜい100m。むしろ300m、700mの飛空艇から見下ろす多重視点がアルには多かった。台風に思いをせて超高空から直接視るのは初めてだった。


そして視えたのだ。


視えた雲の塊。捉えた雲をめる様に上面に視点を向かわせた。台風の大きさ的には驚くほどの小さなトンネルがあった。台風の眼だ。大体の高度は20kmだな。ズームアウトして全景を視る。見事に雲が回っている。


見ながら並列思考で台風の情報を検索した・・・これ日本で言う沖縄を抜けた台風が曲がる進路で上陸しそう。 タナウスは南半球だから、こいつは赤道南側をどんどん大きくなりながら西へ向かって成長して、進路を変えてブーメランの様にタナウスに向かって来る。


しばらく台風を見ていてネズミの死骸竜巻を思い出した。そして気が付いた。これって風の精霊が遊んでるんじゃねぇのか?


そんなの視えないよなぁ、と思って眼を凝らしてかなりの時間視てたら付いた。


恩寵:妖精眼Lv1が発現した。


「あ!」と声を出してしまった。思わず台風観測視点を切ってしまったが。いる!周りにもいる!あのウジャウジャで細かいのがその辺にポツポツいるのよ(笑) いろんな色がポツポツフヨフヨしてる。


え?これ、台風を凝視したら付いたって・・・!


台風に風の精霊いるって事?


もう一度台風を視る。よーく視る。あ!いるわ、大喜びで飛び回ってるわ(笑) これはこれで可愛いな、視てる間に妖精眼がLv2へ上がった。もしかしたらと多重視点で妖精視たら恩寵Lvが一気に上がった。雷魔法と上げ方一緒だった(笑)


そして突然、俺の視界に視えた。


透明、水に一滴カルピス色で踊る風の女王みたいのがいた。大き過ぎる精霊、イメージは妖怪人間ベラ。酔ってる、力を行使するのに大喜びで酔ってる。凄い大きさだ、台風を抱え上げる程の大きさで自由に踊っている。


眼が離せなかった、そんな存在から眼が離れなかった。


ポカーン。


星が生み出す莫大ばくだいな魔素で己の存在意義を示す者がそこにいた。手の中の台風と地上を見ていた大笑いするその存在がふと斜め上に顔を持ち上げた。多重視点で観察していた俺は注視した。


それはに眼を合わせてアルにニィと笑った。


あ・り・え・な・い。


何百の視点で視ていた風の女王。半乳色の妖怪人間ベラがアルに全ての視線を合わせたのだ。


ぎゃーーーー!


存在意義を示すがアルに気が付いた。

多重視点で視ているアルに気が付いた。


恐ろしくて視点を切った。


(アル様、知られましたね!(笑))

(アレ大丈夫?)

(もう精霊がアル様を報告してます)

(え!)


視ると、なんか白い繭玉まゆたま精霊が俺の周りにザワザワしてる。そんな感じ?イヤ、薄い青系の小粒な精霊もなんか俺の周りに集まりだした。


(シェルなら勝てる?)

(ダメです。アル様がバカにされます)

(え!)

(もうシズクがバカにされてます(笑))

(・・・どゆこと?)

(小さな人間の眷属とシズクが笑われてます)

(えー!)小さな身長じゃ無くて人間だよな?


シズク視たら、怒りのエネルギーが逆巻いてる。綺麗な髪が逆立って渦巻いてる!そして・・・シズクの頭の周りで浮かれ狂ってるのが風の精霊、白い繭玉か。それをガードするように青い系の小さいのが髪を押さえて追い払う(笑) 


調子に乗ってる気分が分る、大きな繭玉はスーパーボール並みもいる。これシズクが笑われてるんだ・・・。


(ぐは!シェル。あいつらどっかやって!)


(シェルが出ると、シェルにお願いして精霊をしずめたとアル様がバカにされますよ。許す代わりに契約を持ち出す精霊もあります。アル様に名前をもらったシズクとシャドもバカにされます)


(えー!何よそれ!)

(シェルがチャッチャとやってよ!)

(アル様の実力を見せてやればいいのです)

(えー!何よそれ!)


(星の魔素で存在を示す者に負けちゃダメです)

(あんなの、どうやって勝てるのよ!(笑))

(アル様の方が上です)

(上か下じゃない!どうやってあんなの!)

(シズクが言ってます、聞いてあげて下さい)


「シズク?何か言われたのか?気にするな!」


(アル様、世界樹をここに植えて下さい)

(え!今なの?)

(今です)

(マジなのか?今植えるのか?)


(マジです!今です!)

(・・・)


シズクが小壺を差し出した。マジだ・・・。


(これを どこに植えるんだ?)

(これみよがしに!)


えーーーー!これ見よがしってどこよ!


(・・・)


シズクが戸惑いを読んでくれた。心で通じた会話を言語化したアルはと受け取ったからだ。


(よく見える所に!)


(分った分かった!こんな小さいの飛んでくぞ?)


(大きく大きくして下さい)

(どのぐらいだ?具体的に言え!)


!)それ具体的?シズクが怖い。


(行って来る!)


「コア、緊急事態だ!概念がいねんが喧嘩する!」


(アル様もですよ?)

「俺もかい!俺がかい!」バシ!

(アル様、口に出てます)そんなの今!


「啓示じゃな!」

「啓示よ!」

「何を知った?」

「御子様!」


「イヤ・・・何でも無いです」


「お主、概念が喧嘩けんかと言ったでは・・・」


「わーわーわー!知りません!知りません!」


「緊急事態って今・・・」

「わーわーわー!ちょっとおしっこ!」


「・・・の前にコレ!出そうと思ってたやつ」


ブランデーの瓶を二本出した。口に合わないとダメなので大壺も出しておいた。



俺は訳も分からず世界樹を植えるために跳んだ。小粒、大粒と呼吸してる様に雨が変わるが風はそんな大したことない。


木が良く見えて、これ見よがしな所!

木が良く見えて、これ見よがしな所!

木が良く見えて、これ見よがしな所!

これ見よがし!これ見よがし!これ見よがし!


念仏の様に唱えながら小壺持ってオロオロ走り回った。


ふと思った。


・・・世界樹大きくしたら関係ないじゃん・・・



取り合えず岩盤割って根が入るか分からなかったので岩盤まで深い所を選んで、ふと思った。岩盤層を俺がぶち抜いて、その下が土の場所のが強い。そう思ってから気が付いた。俺が岩盤作ればいい。最強に硬い奴。


広大な大地でしっかりした高台を選んだ。


シズクもベラに勝ちたいんだろうしな。アレに勝ちたいんだよな?アレだよな!絶対そう言う事だよな?倒れたら負けとかそういう勝負だよな。


(アレは全部倒しつくそうとしてきます)


(そういうことだよね?)


(アレは魔素の限り風を具現化させます)


#(!)


(アル様が怖い~)シェルが怖がって泣く。


(ゴメンゴメン!怒って無いから泣くな)


(・・・)メソメソしてる。


(えー!)いまそれなの?


(教えて欲しいだけなの、教えてシェル)


(そういうことです!)嘘泣きだった。


えーとハイランドは高さ580mで幹が80mだったよな?


直径100mの円形で深さ100mのホールを開けた。岩盤層を二つぶち抜いた深さ100mの穴に降りて小壺から出した小さいのを植えた。


お前頑張れよ、暮らしたのは1年半で短い間だったけど頑張れよ。シズクがバカにされてるんだってよ、お前が戦うらしいぞ。お前しかいないのかもしんない、シズクを助けてくんない?今から大きくしてやるから待ってろよ。若木を撫でた。


穴の底で成長促進を掛けた。ズンズン掛けた。


600mの高さ、直径80mになったので底から地上に跳んだ。もう一丁行くぞ!大きくなぁれ!大きくなあれ!可愛い世界樹大きくなぁれ!穴にスッポリと収まった状態で1200mにした。地上1100mの地下100mだ。視ると地中で根がもの凄い事になっている。


地下部分の100mの幹を傷つけない様、辺り一面石化した。根の張る大地の上部分を石化して、物干しの基台のブロック状に固めてやった。足りないかな?と思って同心円に世界樹の高さより大きな半径5kmで全部石化した。その辺に生えてる木の根っこは石に埋め尽くされた。


知らぬ間に横にシズクがいた。

「シズク、こんでいいか?大きくしたぞ」

「アル様、ありがとう!」


風が強くなる中、抱き付かれて顔にチュ!とされた。そしてシズクは木に入って行った。


入るの?籠城するの?と思ったら、タナウスの大地が一瞬光った。土地と木が燐光りんこうの様に光った!気が付いた!シズクのご本尊がタナウスのになった。イヤ違うか?シズクがご本尊か?ムストリウ王国のエルフ村の世界樹からタナウスの世界樹に本体が変わった事が分った。



(アル様は海の塀を倒されない様に)

(アレ塀なのね。防波堤と思ってたのに)

(うふふ(笑))

笑ってるし(笑)


(あれシズク作ったけど僕の責任なの?)

(あれを倒されたらアル様の負けです)

(何でよ!どんな勝負やねん!関係ないよ!)

(何を言っても倒されたらアル様の負けです)

(えー!何であんなのと!)

(シズクやシャドが笑われても?)


(分かったよ!やればいいんでしょ!)

(ですよ)


多重視点で塀(笑)の下の岩盤を持ち上げてドッキングさせる。風で海をあやつって来るだろうな。海の圧力凄いだろうな・・・クソッタレめ!倒せるもんなら倒して見ろ!


「ふむー!うぬー!」

多重視点全開、並列思考全開、土魔法、精霊魔法・・・恩寵Lvがみるみる上がって行く。


雨と風が強くなって来たので世界樹の陰に入ってうんうん唸った。


(アル様、5時間前です、大丈夫ですか)

「大丈夫大丈夫、まだまだ!大丈夫」

(アル様の場所目掛けて来ますが・・・)

「そうなの、勝負しに来るのよ。精霊が!」


雨が大降りになって凄い事になって来た。

脈打つように叩き付ける大粒の雨が痛い。

余りに暴風雨なので世界樹の横に高さ2mの石のかまくらを作って世界樹の石のブロックと接着する。


うーん!どりゃー!


俺は塀を補強するのを加速した。


・・・・


(アル様、2時間前です、大丈夫です?)

「全然大丈夫!石のかまくらに入ってる」

(アンカーは?打ってますよね?)

「当然!深さ100mで直径10kmのアンカー」

(それなら大丈夫かと(笑))


(アル!大丈夫?)

「大丈夫!全然平気、街の中はどう?」

(風強いのは見えるけど、中は全然よ)

「そのまま待ってて、僕は大丈夫!」

(アル、気を付けるのよ!)

「うん」


・・・・


凄い嵐の中で集中してハイになってた。

7時間。こんな大魔法を行使してるのも忘れていた。絶対負けちゃダメ!の気持ちだけだった。


防波堤の幅を500mにしてやった。高さ10m変わらず。倒せるもんなら倒して見ろ!それは海上10mに固定された幅500mの滑走路だ。


すでに海の中の岩盤とくっ付いた総延長で500kmのミニ万里の長城だ。これだけやったら負けても良いと思った。


そしてすぐそこに居る、存在意義を示す者を見据えた。腹が据わった。凄く怖いけどやるしかない。


存在意義を示す者とお互いにメンチ切って眼を離さない。


やれるもんならやってみれ!


眼は口ほどに物を言った様だ(笑)


(アル様!急激に成長してます!)

「大丈夫だよ、負けないよ!」

(え?負けないです?)

「うん、今、概念と戦ってるからコアも頑張って」

(かしこまりました)


ずっと睨みつけていた。


(妖精眼から精霊眼に恩寵が変化したのに必死過ぎて気が付かない)とにかく睨んでやった。ぽっかりと空いたトンネルは台風の目、おめめパッチリのベラが来る。居座るかまくらの小さな入り口を閉じたら逃げたと思われると、入り口を閉じずに多重視点で見てた。


海は荒れ狂い、海上に突き出る滑走路にもの凄い波を叩き付ける。猛烈過ぎる波と風だった、飛沫が上がるだけで俺は脳天が痺れた。舐められてる気持ちが読める。シズクの存在、俺の存在、俺の回りにいる精霊をあざ笑い叩きのめす気持ちがベラから流れて来て脳天まで痺れた!。


(精霊眼Lv4で)暴れ回る暴風雨、存在を示す精霊を視ていた。あおった。「必死だなぁ!」と余計に念を飛ばしておいた。


シズクの所も凄かった!風の精霊がたかりまくってもビクともしない。 薄く青に燐光を放つシズクから魔力を与えられた精霊が小さいのから大きいのまで枝にビッシリと付いて暴風を寄せ付けない。森全体、一面の土地や木や世界樹が薄い燐光で覆われてる。


良く視ると燐光の元は全部精霊だ、世界樹から魔力を受け取り大喜びする大地系列の精霊だ。不思議パワーじゃ無い。ベラも顔が怖い割に精霊同士のやりあいが柔らかい。


あ!これ精霊眼?精霊眼で視えている。


なんか、みんな小さいのが集まって守ってるのが解る。特攻隊みたいな2~20cmの白い精霊アタックを寄せ付けない。薄青い精霊チームを心で応援したら、もっと燐光が増えた。わーい!


お祭りわっしょいだ!精霊祭りだ!白精霊と青精霊が何億と戦うのが分かるんだけどお互いにそんな戦いっぽくない。眼でも追えない大量の両軍がえい!えい!となんか好き勝手に飛び回ってるだけ、シズク軍は木や枝や葉にとまって光ってるだけ。


およそ戦いとは言えない可愛い戦いだ。


精霊眼で視てるだけで可愛いけど外は超暴風よ(笑)

そのなかで青と白に分かれて柔らかい戦いだ。なんか微笑ましい精霊の戦い。


が白軍青軍で何億とヨジヨジ押し合ってるみたいだ。


この時やっと俺は落ち着いた。



(俺たちは勝つ!)

(かつです)うちの参謀閣下が言ってくれる。



反射魔法壁の中を精霊眼で視たらマジ笑えた。

精霊が大喜びで操っていた具象化した暴風。精霊が狂ったように踊り飛び回りながら反射壁を抜けた瞬間にスンと風が無くなる。反射壁に入った10cm~20cmの精霊たちが目が点でポカーンとしてる。自分だけ反射壁を通り抜け暴風が剥奪はくだつされ、風を操るのが得意な精霊は呆然自失ぼうぜんじしつ。フヨフヨと漂ってオロオロしてるのよ。



現実の状態は薄皮に反射された風がお互いに打ち消し合う無風。作用と反作用が反射壁の薄膜一つで戦っていた。当然力は互角で打ち消し合う。




やがて台風の目に入った。


最高潮は満潮までだった、満潮時間を過ぎると星の魔力も急激に落ち込みタナウスに上陸した大嵐は急激に弱くなった。


(アル様の勝ちー!)

(へっへーん!どうだい!)

シズクに群がる何億の白軍団を叩いた気になった。


>フルコンボだドーン! 俺をたたえる声が聞こえる。


(大成功だドーン!)シェルが合わせる。

(シェルー(笑))

(えへへ)

(えへへじゃないわ!)


(今から来るそうです)

(ん?)

(大気を統べる者が)

(アレ風の精霊の親玉じゃないの?)

(風を操るのが上手い大精霊ですよ)

(同じようなもん・・・じゃないんだよな(笑))


(シズクも勝ちましたよ)

(やったー!)

(木がなぎ倒されてません)

(小さいのも一緒に勝負だったの?)

(ですよ!統べる者同士の戦いです)

(そんでみんなが光ったのかな?)


(来ましたよ、名前をあげて下さい)

(ここに?)

(ここです、アル様の城です)

(このかまくらが・・・)絶句した。


あ!来た! と思ったらシズクだった(笑)

俺の横に立って腕をつかむ。すぐにかまくらの入り口から子供がのぞいた。俺を見てない。シズクを見てる。視線を辿たどってシズクを見るとフンスとドヤ顔でクレオパトラの様に見下した様な目だ。少し後ろに反り返っている・・・ポカーン。


「・・・」

(何黙ってるですか)

(え?え!)

(呼んであげないと入って来ないです)

(そうなの?)

(シズクのテリトリーです)

(あ!ああ、そうなのね)


「おいで!」


覗いてた子がと入って来た。あ!女の子!女の子!と思ったら姿が確定した、というか乳白の半実態が完全に実体化した。危なかった。あの凶悪な女王面は何処行った!と視ると、シズクと俺の容姿に合わせて、負けた相手に会わせていた。なんかそれが常識と思って同じ姿になっていた。 忖度そんたくしてた!


「名前は無いよね?」あの怖いベラじゃなければいい。

「はい、ありません」

「僕はアル」

「アル様」

「君にスフィアの名をあげる」

「スフィア・・・はい!スフィアです!」


その瞬間。透明な薄膜が弾ける様にスフィアが光り包まれた。何!精霊眼てそんなのまで視えるの?(笑) 光った瞬間存在がドンと大きくなってスフィアと繋がったのが分った。シズクの時は何も感じなかったのにきずなで繋がれたのが分った。


シズクが黙ってスフィアの頭に手を置いた。なんかその瞬間精霊の序列が決まった。スフィアが俺を恐る恐る覗いたのが分った、スフィアが自分の名前の意味を知って大喜びの感情が流れて来る。精霊眼は精霊と深く心が繋がる眼だった。


そしてシズクの存在が膨れ上がっている事を認識した。その時は俺の(テミス様の)魔力を良く吸って育ったんやね。と思っただけだった。


嵐の最中シャドは震えて出て来なかった。

怪獣大戦争に中精霊になったばっかの赤ちゃんじゃ震えるわ。


(シャドはしかたないよ)

(・・・)

(返事は?)

(はい)

(シャドも頑張ったらなれるから!)

(がんばります)


コアが通信で言って来た。


(上陸前に瞬間最大風速62mが82mまで急激に上がりました)


「上がった分はね、概念の存在が星からその時に生まれた魔素を使って荒ぶったの、風に具現化させたのよ。急激に衰えたのが魔素を使い切って本来の物理現象に戻ったの」


(お気を付けてお戻りください、みなさんお待ちです)


「うん、歩いて帰るからね」

(かしこまりました)


かまくらの中。

俺の右手をシズクが掴んでスフィアと手を繋がせた。その後俺の左手をシズクが取って嬉しそうにする。


シズクとスフィアと手を繋いで帰る。


ゆっくり歩いて帰る。





次回 253話  ラストサムライ

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