第250話  教義部のデスマーチ



1月11日15時。 聖教国。


導師の研究室に行ってみる。


みんなが床にノビていた。

布を被ってお昼前からずっと寝てご飯食べて無い。


なんかデスマーチしてたの?誰か死んで異世界行って無いよね?みんな髪色のお髭がファンキーですが、目にクマ作ってる人に何も言えない。踏まないよう奥に進むと導師とアルノール卿が居た。視たら二日寝てない!マジかよ!勘弁してくれよ!


立ち尽くしてると、導師が気が付いた。


「アル、少し見てみよ」

「はい」


「・・・え?」

「分るか?」

「うーん、吸魔紋(充填紋)が個別にありますね」


「10段じゃぞ!(笑)」子供の様に笑う。

「はい!凄い魔法陣ですね」

「結論から言う、球状は無理じゃ。道理が許さん」


「あー!無理でしたか。済みません」

「半球状までじゃな(笑)」

「え?」


「土の中に反射魔法は無理じゃ。その代わりに半球外周の下を20m石化する魔術紋を付けた。これはの、反射の魔術紋が切れると石化を解いて土に返る。地中の防御壁を破った者が有れば反射球に警報が赤く灯る。取り合えず完成じゃ」


視てイメージがやっと分かった。


「ミスリル板に刻むぞ」

「はい」


「最初は球状反射の魔術紋じゃ、指定は半径、高さ。強さは術者の出力による、細かく編め。そして吸魔紋で魔石充填か魔力充填。反射陣の構築後に石化魔法がスタート。外周に沿って、壁の厚さと深さを指定。石化完了後に魔力供給は遮断され、充填魔力は反射陣と制御陣に振り分けられライトが明暗する。


反射陣への負荷に対応して制御魔力が増減され、石化監視で破られると反射壁が赤く灯る、赤で明滅が反射壁が消失する一時間前。反射壁が解けるのがスタートで石化を解いて元に戻る。消失と共にライトが明滅」


・半球状反射魔法と認証紋、吸魔紋で:3種1紋。

・認証紋監視、内部反射魔法無効化:2種1紋

↓ここから付け足された魔法陣。

・石化魔法と発動後の魔力遮断で:2種1紋。

・反射魔法と制御魔法に魔力供給:2種1紋。

・魔力供給ループでライトの明滅:2種1紋

・反射壁の魔力供給:3種1紋

・石化壁監視、彩色赤:2種1紋。

・残存魔力監視、彩色赤明滅:3種1紋。

・魔力5%監視、石化解除:3種1紋。

・石化解除でライトの明滅:2種1紋。


一枚目の魔術紋から2段目3段目と昇って行くのが10紋。魔術紋にギュウギュウに魔法を詰め込んで1紋作って重ねて10紋!すでにの爆裂魔法に匹敵する魔法陣!全自動防衛網が達成されとるがな!


と言うか、これアルノール大司教の趣味と違うんか。サンバカーニバルと同じ匂いがプンプンする(笑)


まぁ、芸術的調整は無いだろうけど・・・。これ確かに教義部のスペシャリスト達の集大成だよ。石化したら魔力供給止めて次の制御に魔力を回すとかは司教様がお着替えやサンバで使ってる魔術紋の応用で無理やり魔法陣に詰め込んでたりする。


アルノール大司教が動作理論組んで各魔術紋を繋ぐところなんか司教様に丸投げだよ(笑) 術の改編と詰め込みが導師やってるな。このチームで初めて出来る10段だよ。


「これを見よ。今の所、弱点は見つからん」


実験に使う3m四方の砂箱の中に有る石板に20cm四方のミスリルプレートが固定される。ミニ反射壁直径1m。


反射壁が発動すると水を掛けると跳ね返る。箱の中の石板を持ち上げると下に敷いてあった砂の部分が石に硬化されて地面を模す石板の下部に帯の様に作成されている。石板を逆さにして床に当てるとポヨンポヨンと跳ねる(笑)


「すごい!」


「どうじゃ?魔術結界と違って一枚のミスリルプレートで半球が出来るぞ、お主の言ったディバインサークルは正解じゃ、魔術結界も進歩するの」



「今、ミスリルプレートってあります?」

「実証用の小さいのしか無いの」

「作りましょうか?私も切り出すので」

「アルノール卿が命じておったで良い」

「襲われる首都の大きさはどのぐらいじゃ?」

「王城から半径8kmとなります」

「それなら60cm角の厚さ3cmを二枚用意せよ」

「え?」

「お主ならそれ以下で編めるじゃろ」

「そんなに大きく!」嘘だろ(笑)

「大きい反射壁と小さい反射壁を組合せて使え」

「え?」


「吸魔紋は12時間保持出来たら良い、切れそうになったら二枚目を発動すれば良い、切れそうになる頃には睡眠も済んだ魔法士が2枚目に魔力を込められる」


「あー!」


「それならば魔法士が何人かおれば持続させられる、お主しか持続出来ぬでは欠陥ぞ(笑)」


「なるほど!」


ミスリル鉱石の塊を出して、そのまま成型して12枚作った。


「作ってみますね」

「うむ」


王宮中心なら背後は大山脈で高い建物は無い。王宮から約7.5kmの海岸線なら半径8.5kmで岸壁まで有効圏内に入る。吸魔紋作って石化スイッチ入れて石化壁は2m厚の深さ20m。1時間前に赤点滅ON、反射壁のOFFが石化解除に連動。


中心に反射魔法紋1紋20cm、それを囲む3紋15cm、その外側に6紋15cmの魔法陣がコンパクトに1枚の魔法陣として刻まれた。小さいと思ってたけど固まると確かにそれ位の大きさになるわ。吸魔紋の充填部分が途端に大きくなる。


緻密ちみつに作ったのぅ、充填したら18時間位行きそうじゃ(笑) 反射壁への負荷で魔力使用量は変わる。嵐であればその強さに対応して魔力が消費される。反射壁が赤く点滅したら消失する1時間前じゃ。2枚目を作動させよ」


「はい」


次は同心円の大だから反射壁は半径9km。石化壁は2mの深さ20mにして1時間前に彩色ON、反射壁のOFFが石化解除に連動。ライトの明滅でOFF。これで大と小が出来た。


「ふむ、良いと思う、細かすぎて見えぬ」

「(笑)」


「アル!見物に行くぞ!あそこじゃろ(笑)」

「え?」ギギギと振り向く。


「あそこでありますよね!(笑)」大司教ハイになってる。


「・・・」顔色でバレている。


「はいはい!降参しましたよ!アルノール大司教も見に来れる様に付けておきます。導師に教わって下さいよ」


導師にささやく。


(転移Lv10、インベントリLv10を指導して下さい)

(わかった(笑))


「二日後ですが早くなったり遅くなったりしますからね、今から寝て来ると丁度良いです」


「そうか!ヨシ!アルノール卿、寝るぞ!歴史的瞬間を見逃してはならぬ。聖教国が生み出した魔法陣の神髄を見ねばならんぞ!わっはっはっは!」


「そうですな!検証実験で弱点は見つかっておラぬ!もはや究極の守備魔法陣となっておル筈だ!聖教国始まって以来の不攻撃魔法じゃ!いゃっ~はっはっハっ!」



高笑いするラリった人たちを捨て置き、他のミスリル板に取りかかった。



二回刻めば十分だった。

同じ作りで反復しながら10枚に刻んだ。


転がってる教義部魔法研究員の司教様達が寝てるのを踏まない様に給湯まで行き、カモミールティーを入れて二人に持って行く。コンペイトウを3個ずつご褒美に付けた。


お茶を飲んだら寝るだろうと思っても二人が部屋に全然帰らない。三十分経っても苦労話に花が咲いている。頭にキテ闇魔法Lv10の昏睡魔法を叩き込んだ。二人の研究室に運んで寝かしておく。


24時間寝たら起こしてあげるからとにかく眠ってもらう。


ヨレヨレの司教服(冬服:紺)で転がってる人達に水魔法Lv10のヒールを掛けたら顔や目のクマが取れて大いびきも止まり、幸せそうにスヤスヤ寝るようになった。



司教がサバト悪魔崇拝やり切った!の醜悪な絵面は無くなった。


17時半か。起動してコアに観測してもらおう。


・・・・



タナウス跳んだら19時半。


タナウス宮殿、王の執務室に入った。実は初めて入る。ネズミで亡くなった王様の城を持って来たのは俺なのでどんな理由を付けても泥棒は泥棒だ。入ったらいけないような気がして入らなかった。しかし首都防衛の要の魔法陣が人の近付ける場所に有ってはいけない。だからここに来た。


執務室の机の後ろ、出窓にある大理石の棚を60cm角の深さ3cmに正確に凹ませる。そのままミスリルプレートをそっと置く。手でテンテンテンと叩いて行くと沈み込んだ。刻まれた50cmの複雑すぎる魔法陣を見つめてしまう。


同じ様に2枚目の反射壁のプレートを横に埋め込んで行く。


「コアー!」

王宮のメイドがそのまま容姿も変わらずコアになる。

「何でございましょう」


「今からポヨーン魔法を・・・反射魔法を展開するから観測してくれないかな?この部屋を中心に9km圏に住民は入ってる?」


「はい、入っております」

「起動していいね?」

「今、外側に移民村のメイドを動かしております」

「9.5km地点に参りました、観測始めます。どうぞ!」

起動した瞬間にライトが明滅して分かった。


「あらゆる手法で風速60m/s級の飛来物を再現してます」

「ん?、何か物投げてる?(笑)」

「樹木を60m/sにて(笑)」

「それはすごい(笑)」



「僕も行って、首都に魔法を撃ってみるよ」

「お願いいたします」


そのまま外に出た。


取り合えず火炎弾のデカいのを鋭角に撃ってみた。そのまま跳ね返って空に飛んで行く。海に出て精霊魔法で竜巻を再現した。水を巻き上げる竜巻を何度当てても大丈夫。反射壁の中には波一つなかった。


「僕の魔力紋で反射壁に入れる。メイドさんも試してみて」


「・・・」


「問題無く通過いたしました」


そのまま執務室に跳んだ。


メイドが四人の来訪を告げる。


元宮廷魔術師:ジェシカ・アントム。

元宰相:ベルン・リュードス。 

元外相:ニール・オットマン。 

元内相:マール・ニクラス。


「アル様!ジェシカが多段魔法陣が構築されたと!」


「あ!それそれ!やってるから!大丈夫!」


何言ってるか分かんない。


「二日後大嵐が来るからね、それの魔法防御訓練中なの、避難しなくても良い感じになった」


「大嵐ですか?」

「そうそう!ポヨーンの魔法で大丈夫!」

「何事も無いのですな?」

「大丈夫!」


「あ!内政部の皆さんは警報出たら王宮に詰めて下さい」


「警報が出るのですか?」

「大嵐が通過する時だけです、みんなで見物しましょう」


「承知しました」


「コア、どんな感じ?」

「あの竜巻が跳ね返されるならもう充分でございます」

「当たったら反射で消えかけるね(笑)」

「波の状態もよろしいようですね」

「うん、反射壁の中は波一つ無かった」


「五都市の宮殿にもやっておく」

「かしこまりました、お声掛け下さい」


・・・・


「執務室に埋め込んだよ、起動確認お願いね」

「かしこまりました」


五都市で起動しコアに観測を頼んで帰って来た。


・・・・


22時半にハウスに帰ったら怒られた。


「何やってたのよ!フラフラと!」

「え?」

「依頼はどうしたのよ!」行きたかったのね(笑)

「終わったけど。ホラ!」完了依頼票を出す。

「いつ終わったのよ!」

「朝、手を怪我した吟遊詩人を連れて行った」

「え!」

「吟遊詩人さん知ってたから連れて行っただけ」

「・・・」

「嘘!嘘だよ!あんな人いないよ!」鋭いな。

「いたんだよ!ギルドで聞いてみな」

「えー!」疑いの眼差しが凄いな。

「11歳に見えたけどその人だった」

「8時にはギルド連れてったよ」

「ふーん」視たら、聞きに行くつもりだ(笑)


「そして9時から野菜売りに行ってたし」

「本当?」

「本当だよ、ミッチスの後ろに車庫も作ったから」

「え!メルデスに売りに来たの?」


「そうだよ!メルデスの御用旗ごようばたも貰ったよ」


「何でお昼も帰って来ないのよ!」


「何でそんなに怒ってるのよ!」

「アル君が帰って来ないからじゃない!」

「えー?」


「アルムは朝からずっと教室から帰るの待ってたのよ」


「えー!」


「大嵐が来るの忘れて無い?」

「あ!・・・忘れてた!」

「村の近くに避難壕を作るって言ったでしょ?」

「うん」


「避難壕を作って魔法の研究してる導師の所に行ったの」


「どうだったのよ?」


「出来てたよ、もうタナウスの全ての街にポヨーンが付いたよ」


「えー!」

「大嵐も大丈夫になったの!」


「分った?」

「分った!」

「分ったじゃないでしょ!」

「え!」

「分りましたでしょ!」

「分りました」

「すみませんは!」

「すみません」

「よしよし!」


頭を撫でてやる。


もうマジ疲れた!

朝の捜索願いと野菜売りとポヨーンでヘトヘトだ。



・・・・



翌日1月12日の晩、相互通信装置で連絡があった。


四人の吟遊詩人とスージーさんが来てるという。


「19時半から演奏するので見て欲しいそうです」

「行くけど・・・伝えてくれるかな?」

「何を伝えましょうか?」



「冒険者は通行人と違って、この時間に酒飲んでるから中途半端なメニューで演奏やっちゃダメよ。酔っ払いは乗せたら勝ちみたいな所あるから。やるなら皆が知ってる三曲以上をキッチリやってこれからよろしく!ってスージーさんが言うと投げ銭も集まると思うよ!」


「わかりました」


「今から見に行くよ(笑) よろしく言って!」

「はい、分かりました。ここで聞かれてますけどね(笑)」


「聞こえるように言ったんだよ(笑)」

「リナスありがとう!今から見に行く」

「はーい」


「雷鳴食堂に吟遊詩人が来たって」


「え!ホント?」

「今から行くけど・・・?」

「行くー!わーい!」

「そんじゃ、皆でいきましょうか」

シズクがピタッと左腕に引っ付いてきた。


雷鳴食堂に入るとスージーさんの歌声が聞こえて来る。


「アル様が来た」

「アル様だ!」

「おい!アル様だ!」


黙って聞け!(笑) 五人で来てるな。四人の吟遊詩人が興味ありだな。視たらそれぞれがスージーと組んで年末年始に教会で歌って稼いでたらしい。


一曲終わった時に声を掛けた。


「いらっしゃい!(笑)」

「御子様だったそうで、済みません」

「いえいえ! ちょっと待ってね」


「お前らー!メルデス教会の歌姫が来てくれたぞ!これから雷鳴食堂に吟遊詩人の稼ぐ奴も稼がない奴も来るかもしれん。ここで歌って音楽鳴らすのはな、街に出るとショバ代取られるんだよ。冬の寒い中で頑張って歌って弾いても稼げねぇ時があるんだ。今稼いでここで飲んでる奴、高いエールが飲める奴!それはなぁ、過去の食えなかったお前たちと一緒だ!雷鳴食堂でプレートが食えるぐらいは投げ銭入れてやれ!たまには銅貨の重みを思い出せ。思い出したら幸せになれるぞ!(笑)」


「投げ銭するまで稼げてない奴は、後ろでひっそりと聴いて歌声に感謝して飯を食うのがマナーだ!10年後にあの時は投げ銭出来なかったなぁと3位になって懐かしめ!その時歌ってる奴に入れてやれ。吟遊詩人はいい思い出作ってくれるぞ。騒ぎたい奴は前で投げ銭入れてやれ(笑)」


「明日も来てくれるように俺も入れておく!銅貨で充分だぞ、お前らだってそんなに稼いでない。こんなもんは気持ちだ! 俺はお貴族様だから銅貨って訳には行かん(笑) 以上!」


先頭を切って銀貨を一枚入れてやった。


演奏が全て終わると、ヤンヤの拍手が鳴った。


スージーさんが挨拶に来てくれた。


「言葉はアレだけど、説法らしい事言うじゃない。さすが御子様、司祭様より説法は上だわね、吟遊詩人を良く分かってるわ(笑)」


「そりゃどうも!(笑)」


「アル君知ってる人?」

「うん、今朝の吟遊詩人の友達の人なの」


「朝会ってさぁ、稼げなくて寒いならおいでって誘ったの」


「へー!良い事したわね!」

「うん!」


五曲やって帰って行った。四人の吟遊詩人も音出しに来て一人大銅貨四枚稼げたら御の字だろ。酔っ払い相手だ、色々あるだろうけど、うちのクランはまともな筈だぞ(笑)


「歌も良いよねー!」

「いいよねー!」

「アルムも歌おうかな」

「歌うなら弾いてあげるけど?」

「稼げなかったらどうしよう」


「何言ってんの!小金貨稼いでるのにまだ稼ぐの?(笑)」


「歌いだしたらお客がどっか行ったら悲しいよ」


クルムさんの裁縫と同じような事言う。


「行かない様に工夫するんだよ(笑)」

「えー!」

「えー!じゃ無いわ!(笑)」


「自分の好きな歌だけ歌ってたら駄目よ」

「そうそう!」

「みんなを楽しくする歌だからそうしないとね」

「アルムさんだけが楽しい歌は・・・」

「アル君!やめてー!」


貴族風めー!と苛められた朝の鍛錬が走馬灯のように。


・・・・


21時。


ハウスに帰るとクルムさんに出窓に鉢植えを置く用のクロスを縫ってとお願いした。140cm×80cmで作ってもらう。




次回 251話  嵐の前の静けさ

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               思預しよ

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