第246話  魔術士卒業



北の大地でマーキングした盗賊狩りをチャッチャと終わらせ、昨日泊った洞窟へ帰る。晩までの四時間で六百人捕まえた。森の中、岩山の穴、村落、街中、冒険者ギルド。そこら中追った。一カ所の盗賊に付き恩寵剥奪→隷属→布教で十分だ。


今日は寝る時間になり時間切れ終了。中には六十人程の悪の秘密結社みたいのがいた、奴隷狩りメインで麻薬も殺しも何でもやるシンジケートだ。明日も朝から芋蔓いもづる式に壊滅かいめつさせてやる。


夕食も食わずにやっていたので、盗賊が酒飲んで摘まんでる鍋でガツガツ食って二十二時に寝た。


寝た瞬間にコアから緊急連絡があった。


(アル様、就寝中失礼します)

「ん?何だった?緊急だよね?」

(台風が発生しました)

「え!何?」

(台風です、巨大な台風です)

「四年いるけど台風来た事無いな」


(コルアーノほど高緯度な大陸中央に台風は来ません。タナウスです。南半球ですから地球ならサイクロンでしょうか)


「え!タナウスに来るの?」


(今、大きいのが生まれた所ですが、進路予測で六、七日後にタナウスのどこかに上陸します)


「危ないの?」


(日本であれば倒壊はしませんが、この星は文明が違います。通常なら数千人単位の死傷者が出る規模です。瞬間最大風速60mクラス。地球でカテゴリ4に当たります)


「大きいの?」視るの忘れてた(笑)


(首都を直撃で上水橋や建物が倒壊する可能性と高波になります。左半円に入ると倒壊確率が70%以上になります、屋根が保ちません、屋根が飛び次に壁が倒壊します)


「え!移住した人たちが危ない?」


(そうです。内陸から持って来た建物なので、暴風にさらされるとかなり危険です)


「コアならなんとか出来る?」


(それは出来ますが、星の営みを故意に捻じ曲げる事になります。星が生み出すエネルギーの波及効果を消してしまう余波の方が心配です)


「うーん、高潮は僕のウォールで防げるとして、首都を囲う場合の被害予想を立ててくれる?」


(かしこまりました)

「まだ一週間あるなら、僕も考えてみる。明日の朝五時に予測演算の連絡頂戴」

(かしこまりました)

「おやすみなさい、コア」

(おやすみなさいませ、アル様)


寝ながら視た。

南半球の台風は日本の反対の時計回り。日本だと夏休みから秋ぐらい?あ!もうタナウスも7月ぐらいの気候のはずだ。来てもおかしくない。


一月十三日から十四日の予想だな。


・・・・


1月7日。


「!」

(アル様、おはようございます)

アラームで起きた直後にコアの通信が入った。


「コア、おはよう!予測できた?」


(首都及び衛星都市周りを岩盤から生成したウォールで30m立ち上げれば、風速も緩み高潮を防ぎ被害は20%以下になり、移民の被害は大山脈の転移ホールに避難すれば防げます)


「良し!それで行こう。僕も考えたんだけど、それならウォール代わりに大きなポヨーン魔法掛けたら力が逆ベクトルに変換されて被害もウォールより少ないかもよ」


(30mの壁面に当たる風速60mの力を逆ベクトルで演算いたします)


「うん、お願い、あと思う事も有るから導師の所に行って相談してみる、一応具体的な対処案はそれで行こう」


目を覚ましに洞窟の外に行って雪で顔を洗う。雪明かりの中で歯を磨くのも新しいな(笑) 隅でおしっこして準備完了。


そのままミスリル鎧に着替えて導師が起きる八時まで朝の散歩と恩寵ブースト最大にして盗賊狩りの散歩に出る。


酒飲んで寝てる所に朝の散歩で来られたら盗賊もたまったもんじゃない。日の出まで二時間もあるのだ。グースカで寝てる間に恩寵取られ隷属されて布教。そのまま待機を命じられる。


盗賊の場合布教に一文が付く。


・刑の執行が終わり解放されるまで笑顔で元気に働く。

盗賊だから執行終わらないが、岩塩鉱山の犯罪者全員を隷属させた時に導師と考えた一文だ。逃げた奴隷が原因で全員を隷属させたので刑が終わって解放されるまで逃げない囚人を作った。


朝の盗賊訪問

八時までの三時間で四百人ほど捕まえてSPを貯める。


・・・・


聖教国、導師の部屋に駆け込んだ。


「導師、おはようございます」

「アル!こんな朝早くなんじゃ」起き抜けだった。

「新しい魔法を見てもらおうと思いまして」

「お!街路灯の魔法は見事じゃったの!」

「あ!レンツ様です?」

「おう、見せてもらったわ」

「今日の魔法は違う物です」

「む、新魔法か?」

「はい、他の国の宮廷魔道士に教わりました」

「外に出られます?」

「おう、中庭で良いか?アルノール卿も呼ぶ」

「はい」


(子供は朝も冬も関係ないのう・・・)

イヤ聞こえてるよ!悪かったよ!


・・・・


「これで高さ3mの反射壁となってます」


「石を投げて下さい」

ポヨーンと帰って来る。


「剣を突き入れると突き入れた分が出て来ます」

剣を反射壁に突き入れる。


「何じゃと!」導師が半分突き出た剣に驚愕する。

「真正面だとつばに当たりますね(笑)」

「・・・」


「反射壁を潜ってみて下さい」

二人がこっち向きで帰って来る。


「ファイアボールを撃って下さい」


導師からアルノール卿が離れる。反射するファイアボールを導師が消す。


「全て反射するのか?」

「反射と思ってましたが方向が変わる逆転かも?」


「ふーむ、凄い魔法じゃな、聞いた事も無い」

「聖教国向きの守る魔法と思いますが」

「放った者に全て返る魔法か・・・」

「障壁の強さにもよりますが」

「内側からは攻撃し放題とは恐れ入った・・・」


導師が考えを巡らし思案状態でたたずむ。


「弱点は上です、ディバインサークル状に球の障壁で上部を覆えば矢も防ぎます。円の壁から球の立体障壁に出来ないでしょうか?私の魔力なら聖都をおおえば聖教国の絶対防御になります」


「素晴らしい守備の魔法ですな!」


「他国が得れば諸刃の剣となります、聖教国の秘儀として秘匿し進化させてもらえませんか?実は六、七日後に巨大な大嵐にさらされる国があります、その国の首都を助けたいのです」


「知ったのか?」

「啓示なのですね?」


「はい。多分その為に私が知った魔法だと思うのです」

(聖教国をしゃぶりつくす神の御子はどうなんだ)


「六日後か、これは忙しくなるの」


「御子様!教義部の司教を総動員致します。ミスリルプレートに魔術紋で刻めば術者も要りません、軍用魔石か魔法士が集まれば極大魔法も発動できるでしょう、教皇様の公式行事には聖都の雨すらしのぎますぞ」


「聖騎士なら鎧に刻めば良いな、有効時間にもよろうが聖騎士を恐れる様にはなろう」


「御子様、球にしてしまいましょう。城攻めでは穴を掘って攻める戦術もございますでな」


「転移は出来るのかの?」

「球は試してませんが、壁状は出来ました」

「まぁ、ダメなら入る認証もあるのじゃろ?」


「・・・」マジこの人凄いわ。


「ん?無いのか?」

「ありますあります!」


「街を守るのであれば、どの道プレート状の魔法陣で運用せねば魔力が追い付きませんな」


聞いただけでそこまで広がるか、この人達は・・・。


「よろしくお願いします、その国の首都の70%が失われると言う巨大な大嵐です。巨大な竜巻だと思って下さい」


聖教国には当然台風来ないから知らない。


「アル、これを伝えた宮廷魔導士はおるのじゃな?」

「はい、居ますが?」


「事が収まったら一度会わせてくれぬか?」

「あ!はい、分かりました」



教義部の研究室に帰って来た。


(アル様、演算結果が出ました)

(どうだった?)ひそひそしゃべる。


(おおむね逆ベクトルになった暴風が互いに打ち消し合い乱流は発生致しますが30m以上の上空だけの暴風となりますので被害予想は6%以下と思われます)


(うん、現状その作戦で行こう。ありがとうコア!)


「アル、朝食に行くがお主はどうする?」

「ご一緒します」

「アルノール卿は済んだかの?」

「私は侍女に運ばせます」


すでに魔術紋の文献を手に開いていた。


~食事中~


「アルよ、儂もアルノール卿に魔力眼を授けたぞ」

「え!」


「お主が兄者に授けた様にの。ほれ、王女殿下へ兄者直々に魔力眼を授けたそうじゃな。それで考えた、お主のおるこの時代こそがそれを持つべき人間が集まっておるのではなかろうかと、そう考えた場合にアルノール卿はまちがいなくお主を支えておると思ったのじゃ」


「ありがとうございます、支えて頂いてます」


「あの御仁は努力の塊。魔力感知を磨き、魔法発動までの経緯から推理して魔法学を研究しておる。知識は当代随一じゃ、聖教国魔法界の至宝と言っても過言ではない。並み居る魔法士を見て来たが別格の存在じゃ。弟子とならずとも良く見ておくが良い、すでに弟子はアルノール卿を目指して教義部の門を叩いておるから弟子には困っとらんがの(笑)」


「はい、わかりました」


「本日をもって、お主は魔導士じゃ、腕輪を貸せ」


導師が机に手を出す。


「え?」腕輪を急いで外す。


「三年半か、まことに短かったのう。さすが神の御子よ」


導師の名前の後ろに導師の魔力紋で日付が入った。2163.9.26~2167.1.7それは師に付いて学び終わった者への称号。宮廷魔導士の力量を持つと魔導師が認めた存在だった。師の名の元で仕官を願い出れば宮廷魔導士となれる称号だった。


「もう分かっておるな、みだりに弟子を取るでない。みだりに魔法を教えるでない、それは不幸を呼びよせる。肝に命じよ」


「はい!」


「これをもって弟子は卒業じゃ。共に魔法を究めようぞ」


「え!」


「お主は師の知らぬ魔法で三回驚かせたじゃろ(笑)」

「?」


導師は指を折った。


「最初は重力魔法。猿人討伐では土属性魔法と精霊魔法の混合を使っておったの?属性魔法と精霊魔法共に無詠唱で精霊を使役するなど何処までが何の魔法か世の誰も分かるまいよ。あれはさすがに驚いたわ。そして今日の反射魔法じゃ。あれは空間魔法じゃな(笑) 見事だった!このとしの儂を驚かすなど、その辺の魔法使いではおらんぞ、よく研鑽けんさんして己の物とした。めて使わす」


※土属性魔法と精霊魔法の混合:アースニードル(石で出来た長い針を飛ばす土魔法)を生成し精霊に持たせて猿人に自動追尾させた。世の人間は魔力線の編みが見えないので何が何だかさっぱり分からないの意。


「それで卒業じゃ。アルおめでとう!」

「ありがとうございます・・・」

「なんじゃ?浮かぬ顔は」

「メルデスのハウスは?」

「お主が使っておれ、要るようなら借りに行く」

「アルムさんは?」

「お主のPTメンバーじゃろ(笑)」

「・・・」

「どうした?」


「私はまだ卒業しませんからね!」

「なんじゃと!」

「嫌です!弟子のままです!」


「しょうのないやつじゃ・・・」


ベントはそれ以上何も言わなかった。

アルが泣いていたからだ。


泣く子には勝てなかった。


・・・・


思わず泣いてしまった。

異世界で餌の捕り方を教えてくれた優しい親がいきなり大人だと、首をガブッと噛まれた戸惑いを覚えた。嫌だった、離れたくなかった。誇らしいより離れたくない一心だった。


※魔導士のジョブは魔導師の下に付き弟子として研修。師は出来上がった弟子を推挙したり、引退時の後釜にして弟子は宮廷魔導士になるのが普通。導師の三人の弟子のうち一人は殉職、一人は宮廷魔導士序列三席(名誉子爵4位)になっている。三人目がアルだ。


アルベルト・ロスレーン 13歳 男

ロスレーン伯爵家 三男 健康


職業 聖騎士(騎士10UP、精神+10、幸運+2)剛力の指輪(+15)瞬足の指輪(+15)幸運の指輪(+3)アプカルルの涙(魅力+10)


体力:86(96) 魔力:- 力:62(87) 器用:403(413) 生命:67(77) 敏捷:61(86) 知力:713(728) 精神:735(750) 魅力:84(94) 幸運:87 (92)


現在選択>(裏①:聖騎士。体力+10、力+10、生命+10、敏捷+10、精神+10、幸運+2)

馬術、盾術、身体強化、格闘術、剣術、槍術、聖魔法効果UP。

(表②:神の使徒。数値の向上無し)

(裏③:151515

全攻撃、弱体魔法、魔術紋効果UP。

(裏④:治癒士。魔力、精神、知力)

全回復、補助、強化魔法効果UP。

(裏⑤:斥候。知力、器用+10、敏捷、幸運)

気配察知、気配遮断、投擲、罠解除、罠発見効果UP。


朝食を取りながら泣いてもソレはソレ、コレはコレとナレスに盗賊を狩りに行った。


ナレスは寒いから盗賊が街に潜む率が高かった。当然冒険者崩れもいた。わざわざ二人組の盗賊追って冒険者ギルドに押しかけた。御子服で前に立って隷属した。布教して大人しく待つように言う。スラムの一角を占拠する盗品の換金宿と呼ばれる場所にも布教に行った。


盗品をさばくコミュニティーも全員集まっとけと布教する。境界があいまい過ぎて迷う罪状もあったが人を殺して奪ったか、人攫ひとさらいで売ったか、魔薬の売人かどうかで決めた。盗賊に利益供与の副業を営む共生関係は真っ当な仕入れで食って行けと布教して見逃した。


盗賊検索で西239kmと出るGPSの様な方向と距離と街、フラッシュでどんな悪事しているのか見せてくれる真実の眼。盗賊関係者を根こそぎ、人攫ひとさらい関係者を根こそぎ、麻薬シンジケートも根こそぎ、多種多様な考えも及ばない悪事を見るにつけ怒りの余りに容赦なくなった。


北の悪人は腐っていた。


腐った奴らが周りも腐らせていく、人殺しが仲間を作るために人を殺させる。そしてその陰惨いんうつな記憶をお互いに秘匿ひとくして信頼を得る蟻地獄ありじごくの世界だった。一度堕ちて関わったら抜けられない世界。


アルは自身で、もう良いだろ?充分だろ?と隷属は止まれない。隷属が終われば検索に掛かる街に次々跳んでいく。


自ら入って浸かる悪業の川で視て進む。自身が血まみれになりながら腰まで浸かってザブザブとかき分けて行く。死体の川を探し回って悪行を視て行く。知った以上は立ち止まれなかった。腐ったこいつらを見逃せば他の大陸でも見逃すと思うと止まれなかった。


直接的な暴力と殺しで人の物を奪う奴と、薬で奪う奴、子供をさらって奪う奴。食えないからしょうがないよな、その通りだ。食えるロスレーンに連れてってやるからな。そこは奪わずに食えるぞ、自分の汗で食う楽園だ。


捕まれば死罪の人間ばっか生かしてるけど大丈夫だよなぁ?間違って無いよな?間違ってたら帝国の時にクレームだの罰だの当たるよな。色々ああだこうだと考えながら隷属して行く。伯爵家の次男もお付きの者も全く気にせず隷属して布教している。こいつは闇に葬る、貴族だろうが一生地下で働いてもらう。馬車から何から痕跡を無くす。


一昨日付けた街路灯にその辺の民の魔力で何回灯せるかやりやがった。おもちゃをもらった子供みたいに面白おかしく二人殺しやがった。考えも及ばない腐った奴らだった。


寒い地方のゴロツキたちはタチが悪かった。敵対する勢力と血で血を洗う報復合戦だ。嫁から子から相手陣営を殺しまくっていた。家族の次は親の所まで行って本人に見せ付けてから殺す。仲間を売った(守備隊の拷問で喋った)奴は、その親類縁者も皆殺しで牢までわざわざ教えに行く程狡猾こうかつだ。


俺は裁きながら血の涙を流して死んでいく者の姿を眼に焼き付けた。こんな世界は法なんて有って無い様な物だ。強い者が正義、強い者には目を伏せて生きる世界だ。権力、金、暴力、お前らが信じる正義の通り俺が来てやった、だからやり過ぎた奴は街から消えろ。


人知れず消えろ。


そうさ、居場所がなくなるんだよ。




次回 247話  腐る領主

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               思預しよ

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