第241話  脱出行の財宝



1月3日。


まだ真っ暗な夜明け前に教会へ行った。

当番の司祭とシスターが眠そうに番をする中、俺が教会の扉を開けると吹き込む冷気に二人が来客を知る。


ナレスの教会は幻想的だった、夜は雪雲で一層暗いナレス。そんな教会の礼拝堂はたゆたう魔法ランプに照らされて幻想的に浮かび上がる神々の像。さすがに立派な王都教会だなぁ・・・。


朝早くから現れた俺の顔を近くで見て司祭が驚く。


「御子様!」

「おはようございます、朝早くからご苦労様です」


「御子様!とシスターも駆け寄って来る」

手を出されたので握手しちゃった。


「昨日の説法は素晴らしかったです。私たちの説法は寝ちゃう人も居るんです、誰も寝ないのに感動しました(笑)」


そこに感動かい!バシ!


「喜んでくれてよかった。教義は分かった?」


「ある程度は教会部の解説で学んでいましたが、根本が解って深く教義を知る事が出来ました」


「ここは喜捨は?」

「神像の前にあります」


「そんじゃ、司祭様に渡しておこう、どこかに入れたら怒られそうだ(笑)」小金貨二枚出しておく。


「(笑)」


机に座って祈る。そして行く。


創造主  ネロ。人の世界を司る。

豊穣の神、デフローネ。豊穣、狩猟、繁栄を司る。

戦いの神、ネフロー。戦い、武技、生死を司る。

審判の神、ウルシュ。審判、道徳、善悪を司る。

慈愛の神、アローシェ。慈愛、 調和、美を司る。

学芸の神、ユグ。学芸、知恵、技巧を司る。



「本当に一年に一回しか来んの」

「近況報告はしようと思って」


「お久しぶりでございます、神々の皆様」

後ろでチョイチョイと手を振ってくれる(笑)


「あのう、婚約したのですが・・・」

「儂らも驚いたわ、かぶりつきで見たわ」


「あ!そうなのですか。デフローネ様かアローシェ様が無理やり連れて来たと思いましたがネロ様でも無いんですね?」


「繁栄の神はそんな強引な事はしません(笑)」

「慈愛の神を何と思ってるのですか!(笑)」

「そんな事はせん、巡り合いはすごいのう」


「仕組まれた様なお膳立てで王女が登場なら、エル様の刺客より先に送りこもうと人の神が裏で糸を引いたと疑いますよ(笑)」


「「「(笑)」」」


「結果論ですよ?皆さんが犯人じゃ無いなら言っておきますが、最初のあの出会いは無いわ!絶対無い!裏で糸を引いてるのがアローシェ様なら慈愛の神の頭を疑いますよ(笑)」


「私ならお互いが目を交わした瞬間に恋に落ちるロマンチックな演出をするに決まってます!」


それエル様方式だよね。


電撃が走らなくて良いから、俺的には位のロマンチックな場面を想像してたのに全部ぶち壊しだったのが何とも言えない。


「いや、疑ってなかったです。むしろ、とにかく繁栄しろというにおいがしたのでデフローネ様を疑ってました」


#「わたくしを何だと思ってるのですか!」


「「(笑)」」


「そういう推測から導き出される結論は、人の事象を司る神々のエル様への対抗心かなと疑っておりました(笑)」


「そんなもんに対抗しとったら、神になれんわ!(笑)」


「分かってますよ、しかしアノ出会いは無い」


「皆がハラハラ行方を心配しとったぞ(笑)」


テラスハウスか!驚愕の幼い王女登場!


「台本は無かったの」なぜ付いて来る!


「しかし、あのむすめは凄い角度から来たの(笑)」


えぐり込む様な角度でした(笑)」

「そして綺麗に収まっとる(笑)」


「収まってたらいいや。らしてインターセプトされたら見合いは不調と王太子に連れて行かれてます(笑)」


「収まったのも巡り合いの不思議じゃ」


「本当にありがとうございます」ぺこり。

「あぁ、その器か」

「はい、良い人達に恵まれます」

「お主が引き寄せとるのじゃ」

「引き寄せとか、そんなのあるのです?」


「あのナレスの娘は凄かったがの(笑)」

「はぁ」引き寄せたのかいな?

「せいぜい原因の王太子に感謝せよ」


「え!どこまで聞いてんですか!(笑)」


「すべて聞いておるとお主が説法していたぞ」

「それストーカーじゃないですか!」

「加護の神が見とるのはお主も知っとろうが」


「@@」目が点。


「何を驚いとる」

「全員?」

「そりゃ、使徒は気になるでのう」

「やっぱりな。そうだと思ってました」


「神の話も面白い事言っておったの(笑)」

「?」


「昨日は笑わせてもらったぞ」

「なんか面白いのありました?」

「あれほど面白い説法も無いわ(笑)」

「面白かったです?なら良かった!」


「数ある教団の説法の中で一番面白かった」

「そんなに?」


「あれは芸風か?」

「え?」


「持ち上げて期待させ、神はそんな事せん!」

「(笑)」


「持ち上げて期待させ、神はそんな事言わん!」

「それ捏造ねつぞう!(笑)」


「喜んでがっかりする者を見るのも面白かったわ」

「人の神なのにひどい!」


「途中に話しかけおって、いたわ!」


「(笑)」


「己の目の前の事に気付かせるに良い例を上げた」


「皆さんもネロ様を身近に感じたと思います」


「しかし、王族を上手く丸め込んだの(笑)」

「読まないで下さいよ!(笑)」

「美味く触れずにズバッと言ったしの」

「器は平等とか、専制君主に言ってどうすんです!」

「まぁ、詳しく話しても縛られるがな(笑)」

「そうですよ税金取って民を導く良い王様で良いんです」


「ナレスもスラブも良い王様だと思いますよ」

「それで、他の国を見て歩くのか?」

「やったらまずいです?」

「お主は自由じゃ、見て判断すればよい」

「神教国タナウスは如何いかがです?」

「笑ったわ、ようも考え付くのう(笑)」

「ネロ様が笑ってくれるなら決定します」

「聖教国以上に他国も底力はあるぞ」


「うちには優勢爆弾があります」

「ぷー!(笑)」


「色んな兵器を見て来たが、あれはひどい」

「え?神教国の慈愛が込められた爆弾ですが」

「何が慈愛じゃ、思ってもおらん事を!」

「読まないでー!(笑)」


「お主忘れておるじゃろが」

「え?」

「一日未明に海賊船が流れ着いておるぞ」

「!」

「あれはになっとるわ(笑)」

「え?」


「漂着した海賊を捕えに出た兵が二重遭難しとる」

「えー!」

「今は三重遭難になっとるの」

マンホール中毒災害みたいやな。


「激臭災害じゃ。わっはっはっ!」

「よもやあの様な兵器が生み出されようとは(笑)」

「他の宗教国に勝って見せます」

「無益なほろびは無くなるの」


「あ!騎馬民族は隷属して連れてっちゃっていいですよね?このままじゃ早かれ遅かれ滅んじゃいます」


「滅ぶよりマシじゃな」


「全員隷属して連れて行ったら族長だけ隷属して言う事聞かそうかなって思ってます」


「あれは武と戦利品にわれておるぞ」

「族長ではおさえきれませんか?」

「若者が武を示したくておさえられんな」

「ありがとうございました、全員ハッピーで!」


「また楽しみに見ておるぞ(笑)」

「あはは、見過ぎは体に毒ですよ(笑)」

「我らに器はないでの(笑)」

「イヤ!とらわれますよ?」


「お主は、どの神もとらわれぬフリー使徒じゃ」


フリーWiFiみたいやな(笑)


「それでは、お元気で!」

「うむ」



・・・・



まだ暗い教会に帰って来た。


そういうことかい!バシ!

イヤ、加護の神は絶対見てると推察してたんだ。それは想定内だ、その様に振舞って来たから大丈夫。


凄く理不尽な気がする。加護ってそういうもん?普通違うだろ。聞いた事無いわ。


>使命を果たせ!よりはいいのか・・・うーん、今更だなぁ。今更だよなぁ。


イヤ、胸の揺れを見ていたとかエル様が言ったんだ。俺以上の多重視点は間違いない。イヤ俺の考えを丸ごと知ってたぞ、見てると言うより俺の追体験的な・・・え?そんな事あるのか?でも事実から推測すると・・・。


夜明け前。

考え過ぎて跳ぶのも忘れて寒い街中を歩いていく。


一陣の風が通り抜ける。

「うぉ!寒い!」


貴族服のまま歩いてるじゃん!何やってんのよ俺。裏道でミスリル鎧に変えた。おほー!ふ・る・え・る。


道に出て先に見える大きな構造物に気が付いた。

なんかとんでもなく大きい馬車駅のプラットフォームだった。出発を待つ馬車がすごい数!ソリ馬車の乗合馬車だった。雪や氷に道が覆われると車輪がソリになる・・・どんなけ本数出とんねん。


コルアーノの王都も知らんけど、改めてナレスの王都も凄いな。


寒いので馬車駅の周りに沢山ある露天を視て行くとぜんざいがあった!思わず駆け込んで寸胴を覗くと白玉まで入ってる。視るとまさにこれ!陸稲りくとうの粉で作った白玉だった。ヤッター!完成した!冒険号のぜんざいが完成した!あのもち米はこうやって使うのか!炊いてる情報無かったんよ、米粉にしてナンの様に焼いて食べる情報だったの。


ぜんざいの小豆って、検索したらナレスの産物だった。夏の気候が北海道と同じだ!そういうことか!


コルアーノ換算銅貨4枚だ(400円)全然高くない。むしろ安い。砂糖使ってるけど甘みが薄い感じ。と視たら砂糖大根(テンサイ)だった。え!これもナレス産!全部ナレス産100%のぜんざいだ。


クソ寒い+劇が面白い+ぜんざいとアルのナレス感が増えた。


ひどいナレス感だ)


二杯目を小壺に入れて持って帰る。わーい!


懐かしくてあっと言う間に食べた。身体がぽかぽかになって周りを見る余裕が出来る。食べてる間、乗合馬車の後ろに何枚も掛けてある毛布の出入り口から子供が顔だけ出して俺を見ていた。すかさず馬車に乗ってる人に恩寵付与して気が付いた。そう言えば朝に付与するのわすれてた!けど、寒くて飛空艇なんて思い出さなくて良かった(笑)


六時。周りから乗合馬車に集まって来る人が増えた。満員になったのか、まだ暗い中出発するソリ馬車を五台ほど見送った、山の様に大きい北方馬だ。


思い出したついでに裏通りから王都の外に跳ぶ!まだ間に合うぞ。もう夜明けが近い。空が白みを帯びている。


飛空艇のコックピットに座って、暖房をつける。一気に300mまで上がって村に照準を合わせて付与して行く。すでに二百人の村なら楽勝の一瞬だ。


六時四十分ごろになって夜明けの明るみが出て来た。そのまま付与してるとすぐにご来光。ホバリングの重力紋にチョンと魔石を置いて、パンパンと柏手を打ってしまう。神様によるとアレも慈愛と豊穣を振りく生き物らしいからな。


凄ぇよなぁ。宇宙丸ごと創造神が作ったとか、知ってても信じられんわ(笑)


白く埋め尽くされた極寒の大地をピョンピョン跳んで高度に応じた見通し距離で恩寵付与していく。今なら三万人の街でも五、六回で隷属する実力だ、周辺の街に恩寵付与なんて鼻歌よ。


一時間半付与して、王城の部屋で着替える。これ、転移部屋一個欲しいな。あ!リズの部屋・・・はダメだな。子供でも十四歳、それはマズイ。七時半ピッタリにメイドが朝食と呼びに来てくれた。


「アル様、食べたら三銃士のお墓に行ってみます?」

「行く!ありがとうリズ」

「手向けの花はあるかな?」


「あとでお母様の部屋の花をもらってきます」


リズが王妃様を見ると笑ってうなずいてくれる。視ると各部屋の花瓶の花よりも王様王妃様の部屋の花は多種多様な花が生けてあるみたいだ。御料農園みたいな所で凍てつく冬でも栽培してるみたいだな。


「ありがとうございます」


・・・・


一面雪一色の王城敷地の一画が半地下の墓所となっていた。

入り口こそ立派なレンガで作られているが、しばらく入ると岩肌むき出しの地下に作られた礼拝堂の様なお墓だった。地下通路に入って左手が時代の王族をまつったお墓。その正面に当たる通路右手は一直線の穴が40m程は続いて、側近として働いた者のお墓だった。新年だからか、全ての入り口の前に花が手向けられていた。けがれにならぬ様に厳重に火葬して一握りの骨だけが小さな骨壺に入れられ、縁の王族の側に置かれる。


「これが、三銃士のお墓ですわ」


リズが花を石の前に置いて行く。


「へー!」


通路右手の部屋に入って一番手前の台に自然石が3つチョコンと置かれている。二人で祈る。俺はご苦労様でしたと祈った。


「本当に凄い人だったんだね」

「そう言い伝えられてます」


「このお墓が出来た時、助けられた人や友達だった人が何日もここで一緒にお酒飲んでたみたいだよ」


「そうなのですか!」

「うん、あそこのお墓の人が一番の友達だった(笑)」


「え!」


「王の側近の近衛兵だね、仲が良かったみたい(笑)」


リズの置いた花を半分ずつにして、友人のお墓の前にも置く。


「へー」


「これ右に並んでる人が王妃の側近で左側が王の側近だよ」


「あ!それは聞いてます」


「三銃士も紛争で死ぬときはバラバラに死んでるから、一緒に働いてた友達が来たんだよ。今でもそうなんじゃないかな?だから職場に近いお墓にも焼いた骨が入るんだよ(笑)」


三銃士は骨が無い、当時の遺品が納められている。


「アル様は、そういうの分かるんです?」


「分んないよ。このお墓の前で語りかけてお酒飲んでる友達が視えただけ」


「へー」


「リズ、三銃士の宝があるそうだよ。行ってみようか?」


「え!」


「お姫様を守った三銃士の弓のテルーがお姫様の国が滅ぶ時に家族を脱出させに行ったみたい。反乱の大群に囲まれる逃避行の中、馬車三十両にも及ぶ宝を抱えて逃げきれないと悟った弓のテルーがお姫様の実家の宝を山越えの峠に隠して身一つで国王一家を連れてナレスまで逃げ切った。ナレスは途中でけがれに襲われてるから以後千五百年も経って何処に隠したかも分からなくなってる」


「お父様にそんな伝説を聞きました!」

「うん、皆が勿体なかったとお墓で酒飲んでた(笑)」


「すぐにお父様に!」

「そうしようか(笑)」


・・・・


「そんな話があるとは聞いていたが・・・。すでにチノ共和国になっており、当時も混乱して行けなかったのであろうな。そうか、勿体もったいないとテルーの墓所で笑って飲んでおったか(笑)」


「見届け人として近衛団長と副団長を付けて頂けたら少人数で見つけに行けますよ」


「イヤ、儂も見に行きたい。丁度休みだ(笑)」

「え!・・・まぁ近衛団長も居るなら(笑)」


「何人まで同行させてもらえるだろうか?」


「10人とか15人ならそんなに目立たないでしょうね、平民の恰好で旅人を装って行きましょう。 新年から隣国を刺激しない方が良いです。眠っている宝を奪いに行く訳ですから(笑)」


「あ!リズは連れて行きますね(笑)」

「よし、許す!」皆がえー!と言う顔になった。


ナレスの財宝伝説に立ち合わせる人員を選考した。生き証人になるからだ。王太子が凄く行きたがったが却下された。ケージス第二王子(武官)が付いて来る。


騎士団10名、政務官2名、陛下、宰相、財相、第二王子、第三王女、俺の18人になった。


平民の服を取り寄せると言って昼以降の話になって来たので、盗賊の服をドバッと出して平民に一番近い俺がコーディネートしてあげた。


何処の民族やねん!とツッコミが入るほどカラフルな集団になった。皆が見た事無い他国の様式の服なのだ。リズの子供服などスカートが10枚もある。メクリまくってもお尻どこ?みたいに何重にも重なってスカートがある。


盗賊団の服だから圧倒的に品が無いのに、似合ってしまうのが王族だが、暗黒街の首領みたいに見えてウケる。全員帯剣だ。


品の有るゴロツキの集団が手を繋いで飛んだ。

雪におおわれた凄い山に出た。足元はガチガチに凍ってる。1500年も前の話なので、最初の峠ならここだ。弓のテルーの隠した荷物で検索すると三か所のプロットがでた。


すでに道自体が大分だいぶずれていた。隠した洞窟の前に土魔法で広場を作って跳んだ。


「ここですね、弓のテルーは土魔法使って隠してますね」


普通の山の傾斜。雪もそんなに積もって無い。


土魔法で掘って行くと10m程して穴がポコっと空いた。掘っただけの穴なので中を石に硬化して落盤を防ぐ。


幅3m×高さ3mの土魔法で素掘りの穴だ。ライトボールをポイポイ投げながら15m進むと朽ちた馬車が崩れている。先の穴も落盤で崩れているがアルをこばむ事は出来ない。


馬車二十三台が金と銀を積んだ馬車だった。重くて逃げられる訳ないわ(笑) 金塊も昔の金塊で団子金貨とも餅金とも言われる砂金を固めた物だ。アーモンドチョコの様な形から棒状の金にお鏡餅のような金塊ばかりだ。視ると純度96%以上の自然金だ、砂金由来のとんでもない財宝だった。


壺の蓋が朽ちて中に小粒なお餅のような形の金があふれる。ライトの光が金に照り返されて覗き込む人の顔を下から浮かび上がらせ人相がメチャ怖い。金見て笑ってる首領に殺されそうだ!変なもん取り付いたら浄化してやると身構える。鏡餅の様な大きさは見た目と重さが全然違う、ズシッと来る小さな塊だ。皆がその重さに純金近い?と驚きあう。


穴の中を綺麗にして、次の場所に跳んだ。


次の場所は街道の横にせり出す山だった。当然雪が積もってる。ここは山と山に挟まれた間の街道。横に迫る山の斜面に作った穴だった。


誰も来ないと思うけど、街道の前後を盗賊に見える近衛騎士団に見張って貰い、手早く穴を開けて行く。ここは馬車五台が納められていた。換金用宝石四台、貴金属一台だ。軽い部類の宝物でここまで手放せなかったんだろうな。


全部回収した。


次に飛ぶ。


街道の先に立ち塞がる山は大きかった。見ただけでえる大きさだ。この大きな山の稜線がナレスの国境だが、千五百年前は全然違う筈だ。妙な事に街道から少し離れた山に洞窟を作ってた。


街道からだいぶ外れて雪の山の中を歩いた。皆がハアハアと息を白く吐き出す。昇った所の凄い斜面に穴を作ってた。中には輿こし(お神輿みこしと同じ、この世では王族を乗せて家来が肩に担ぐ物)が三台朽ちて崩れてた。荷馬車三台は捨ててるわ。山中に入るのに輿に荷物積んで逃げてた。王族の古着と身の回りの装飾品の数々が朽ちた輿の中に散乱していた。見て分かった。武器、鎧、腕輪、髪飾り、指輪、腕輪、金糸で織られた靴は布が朽ちて金糸で形を保ってる。


詳しい状況は分からないけど追っ手に先回りされてたかもしんない。街道の伏兵に気が付いて山の中に逃げたらこんな感じになりそうだ。王族の痕跡こんせきを無くし、家来の服で身分を隠して山越えをしたのだ。着の身着のまま、宝飾品を何一つ着けずに待ち伏せの街道を迂回した感じだ。


・・・・


ここまで、穴の中で起こった事や、物に残る薄い情報を断片的に視て分かったのは、国の没落は民衆の蜂起だった。豪族がそこらじゅうで幅を利かせた頃は民衆を痛めつけて財を貯めるのは当たり前。一つの領で起こった反抗が他領に飛び火して最終的に国を倒しちゃったみたいだな。


この頃はナレスだって今の1/3以下の小国だ。群雄割拠ぐんゆうかっきょの時代だよ。尾張の織田か、美濃の斎藤か、はたまた劉表か孫堅かと相手の領地が欲しければ欲望のまま取り合ってた。奪った土地からは略奪し、鞭で集落の長を殺し兵で脅して重税も取る。それぞれの土地で成り上がってきた豪族なら当然だと思う。平和な時代じゃないのだ、平定するとか治めるとか道徳もクソも無い。とにかく軍事で大きくなって侵攻し、負けたら逃げるだけ。野蛮な陣取り合戦だよ、今も変わらない。



・・・・


伝説も当時のナレス王家がけがれの襲来で滅び、仔細しさいを知る者が亡くなったり離散りさんとなった口伝の伝承で隠した場所さえも分からなくなり、伝説で残されるだけとなったのだ。当時の王家の血を引く現王家のヴォイク家がナレス王国を引き継ぐまで紆余曲折もあり伝説となった。


弓のテルーは帰って来て墓所で一人、二銃士の前で飲んでいる。任務を全うしたのだ。王妃の家族をナレスに連れて来た。


アルは弓のテルーから宝物をもらった。


テルーは助けだした王族のからののしられても、何も言い返さなかった。ここで宝物を持って死ぬか、捨てて生き残るかと威圧して三回も財宝を捨てよと迫ったのだ。


生き残った王族はここぞとばかりにテルーの無能をののしった。墓所でテルーは飲みながら友人に何度もなぐさめられたが、一言も言い返さなかった。


アルはテルーに言いたかった。

なぜ何も言い返さなかったのか、不思議でならなくて考えて分かったのだ。


王族は己の経験した教訓を何も学ばなかった。それは貯め込んで来た財宝だけが己の拠り所だったのだ。すがる物が財宝で、己の才や経験で切り開こうと言う考えが無かった。アルは己の鍛錬によって鍛えて上げて来た恩寵に例えた。


今まで毎日積み上げて来た恩寵が無くなったら、恩寵を捨てなければ逃げられない状況で俺は捨てられるだろうかと悩んだ。悩んだから分かった。王族の気持ちが分かったのだ。


アルは自分が理不尽な扱いや、許せない発言を受けると自分の正当性を相手に分からせるために声を大にして言い返す。理不尽な攻撃を受けたVSハイエルフの件ではもの凄く怒った。お爺様に怒られても、その言い方は無いでしょ?と思うと猛然と反撃した。そうだ!王女との出会いで、言われも無いロクデナシと言われて(言われてない)本当に頭に来て激怒した。


テルーの様に黙るのは負け犬だと思っていた。王族だろうが何だろうが言ったれ!ぶっ飛ばしたれ!と任務を全うしたテルーに感情移入した。


深く考えて納得した。

王家の人達にはそれしかなかったのだ。己を肯定する確かな物がそれしかなかったのだ。テルーはえて可哀想な王族に何も言わなかった。言えばその人の大切にしているを否定する事になる。


それは、アルがしてなかったこと。


激怒すると、それに囚われて怒ってる人を視なかった。何に対して怒ってるのか視るのも忘れて言い返していた。視るのも忘れてやり返していたのだ。まぁ、ハイエルフの場合は何言っても無駄だったのだが・・・。


アルも人間だ、神様の理は知っていても、そんな物をはるかにしのぐ欠点を持っている。怒る事はめったにないアルだが、黙ってられない時は怒っちゃうのだ。ニコニコして大人しい分、められてるのか?とナーバスになると、普段より余計にヒートアップする。どうしても怒りがき出ちゃう。


今日 弓のテルーに宝物をもらった。


本人は何も言わずとも、分かってくれる友さえいたら何も怖くない。むやみやたらに八方美人でいる必要などないのだ。そんな者より目の前の怒る者の言い分に耳を傾けて理解する姿勢こそ物事の違う視点や立ち位置を理解する事が出来る。全ての人が己の価値観で動いているのを知らねばならない。



アルの考えは特化している。平和な日本で育ち、謙譲けんじょうや尊敬、道徳や平等、人はこうあるべきであるという考えと皆が心を一致させるその美しさとパワーを分かっている。


この世は違うのだ。貴族は貴族のルール。国には国のルール。人には人のルールがある。文化や思想的にこの世界より成熟してる日本から来た明が、それを言っちゃお終いだろ!と逆上して強引な手法で相手を黙らせていた自分を反省した。


国民が一斉に蜂起ほうきして襲って来る事態。なぜ民が怒って襲って来るのか分からない時代なのだ。為政者は皆そういう事をやっていたのだから。アレだ!嘘か本当か知らないがパンが無ければお菓子を食べろと言う貴族の時代なんだよ。


ため込んだ財宝にすがるしかない王族。それが己の生きて来た存在理由だったらテルーをなじる事も有るだろう。



器が囚われる事から始まる物語。


全ては夢の跡、なじった王族もテルーも居ない。金も恩寵も積み上げた経験もなに一つ持って行けない概念世界に旅立った。己の魂に刻み付けた輝くみがきだけを持って。


頭に来たら余計に相手を視る。

視て囚われたアホだったら、何も言わなくて良い。


黙ってぶっ飛ばす。


弓のテルーによって隠された財宝。


アルにとっての財宝が一つ発掘された。





次回 242話  笑いの神

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