第239話  隠せぬ輝き  


1月2日。


ナレス王城の研修室舞踏場ぶち抜き二部屋に詰め込まれた聴講者。ジョルノーさんの公式発表で百六十三人と休憩中に言われた。水増しする必要も無いのでそうなのだろう。と視たら教会関係者が自分の御子様語録持って参加してたの忘れてた。


新年早々、何故なにゆえ教義の説法してんねん!(笑)


十三時から始まった説法は十四時四十分から休憩を挟んだ。一斉に立った聴講者がトイレで詰まり三十分の休憩となって後半の部は十五時過ぎになった。寒い上に女性が多いからな、視て無かったら変なお仕置きみたいになっちゃうわ。


色々考えながら休憩が十五分延長になった時にマリリンさんがスッ!と出してくれた暖かいお茶を美味しく飲んだ。


「さぁ、それでは始めましょうか」


にこやかに御子様スマイル。


「神が怒って、悪しき者にばつを与えると言います」


皆が大いにうなずく。


「神はそんな事しません」ズビシ!


皆が驚愕きょうがく。ホント、リアクション最高!


「悪しき者に罰が当たったのは、悪い事したからその人が引き寄せたんです、悪い奴らは徒党を組みます、悪い奴らは仲間も平気で裏切ります。悪い事したら討伐隊も出ます、倒して名を上げようと冒険者も追うでしょう。気が休まらず絶えず警戒しおびえて戦う暮らしの後、ついに倒される。皆さんが物語で聞くのは自分で滅びていくそんな話です。


現実がそうだから物語を聞いてなるほどと思います。それが罰に見えるだけです。そんな他の赤ちゃんをたたいちゃったような小さな事で神は愛し子を見捨てません、罰なんて当てません」



「人間が悪だと思う事は神様にしたら小さい事です、その悪に悩んで、反省して改心するかもしれないじゃないですか。いいですか?悪に悩んで改心して、反省して悔やめば神は喜びます。だから死ぬまで見守るんです。気付いて反省するのを最後まで見届けます。罰を与える神様がいたら疑った方が良いですね。そんな些細ささいな事で怒る神様はいません(笑)」



「休憩前、神様に祈っても無駄と言いましたが、自分だけ得しようとか。剣の技量が上がりますようにと祈っても無駄です」


「考えても見て下さい、毎日毎日騎士団の人が鍛錬しています。パン屋が神様に祈ったら剣術の恩寵が付いて騎士団をバッタバッタと斬るなんてありえますか?ないない!(笑) あったらどんなに依怙贔屓えこひいきな神様なんですか!そんな神様は神様じゃないの分かりますよね?」


「民を守ろうと一心に剣を振る騎士、パン屋が剣を望むなら鬱憤うっぷんを晴らすための剣ですよ。騎士では無くパン屋に剣術の恩寵を与える神いると思いますか?アホでも分りますよね?それが皆さんなかなか分からない(笑)」


「私が言っておきます。そんなのは神様じゃ無いです。神を語る変な者です(笑) そんな変な奴は神を語ってる時点で邪悪な者ですね(笑)」



「武官の方に言っておきます。神様は恩寵をくれません。その恩寵はあなた方が血を吐く努力の結晶で手に入れたんです。胸を張って誇りを持って下さい。祈って恩寵をくれる神様なんて安い神様はいません。それはあなたの努力をあざ笑う神を語る詐欺師です、その鍛え上げた恩寵で斬って構いません。鍛え上げた体が知ってる筈です」


「毎日努力する者を静かに優しく見守る存在。それが神様です。剣の腕が上がったらあなたの努力で上がった物です。見守ってくれた剣の師匠に感謝する様に見守ってくれる神様に感謝の祈りを捧げて下さい」


「みなさんが毎日汗水流して働いたお金で家族が健やかに過ごす事が出来る。それは神様は関係無いです。あなたが頑張った汗で作った幸せなんです。静かに見守ってくれる神様に感謝の祈りを捧げましょう。そうです、神への祈りは感謝の祈りを捧げる事なのです」


舞台を歩き回り両手を広げて語っていく、断言していく。


「神様がいるのは分ってらっしゃる皆さんです。神様がここに現れたらどうなると思いますか?皆がすがるでしょ?王様なんて悩む事が沢山あるから一番に聞きたいはずです。ダメですよ。悩んで悩んで出した答えと、悩んだ事実が皆さん自身を磨くのです。皆さんが一生懸命頑張っているのに神様が邪魔をしますか?邪魔をしない様に現れないですよ。絶対に現れません。稀に表れますがね(笑)」



「現れる時は、損得そんとくを示したり、こうせよ、ああせよとは絶対に言いません。損得そんとく超越ちょうえつした事を言います」


「私も声を掛けて貰った事があります」


皆が驚く。


「何言われたと思います?(笑)」


「>面白い事やっとるのぅ! 私がやってる事見て面白がってる言葉でした。何も助けてくれませんよ、面白がって見てました。何を隠そうそれはネロ様です(笑)」古畑任三郎ズビシ!


「ネロ様!見てますよねー!ネロ様を宣伝せんでんしておきましたからね。ここにいる人は教会でネロ様に感謝すると思いますよー!(笑)」


演壇でオーバーゼスチャーで天を見上げて神に話しかける。


「笑えるでしょ?こんな言葉をちゃんと神々は聞いてます。死ぬまで見てますから。今の言葉はネロ様どころか他の神々にも間違いなく聞かれてますよ」


「神様はそんな遠い所で見てません、あなたの横で見てますし、空の高い所からも見ています。そうですね、何でも見ています」


「今日は教会の方々も見えています。イエ、私も教会の者なので身内なんですけどね。教会の方々の悩みは神様がいるのに、教会にも姿を現さない事なんですよ。司教様も司祭様もシスターもこんなに頑張って神様を信仰してるのに全然教会に姿を現さないんです。ひどい話ですよねぇ(笑)」


身内が食いついてるなぁ(笑)


「そりゃそうです!そうやって悩みながら手探りで良き方向を目指そうとするいとし子の前には絶対姿を現しませんよ。その直面する悩みに向き合って、それでも震えながら神を信じ、うやまいとし子の邪魔をしてどうするんですか。悩んで悩んで人々の苦しみを聞く仕事。


病気や怪我、殺し合いで人が簡単に死ぬ世界。涙する民をなぐさめ支えとなるのが司祭です。民の苦しみと悩みと向き合って己を磨くいとし子を甘やかすなんて絶対しません!だから教会にも神は現れません。皆と同じく教会の者も優しく静かに見守ってくれています」



「さて、それでは手元の冊子があると思いますが、これはジョルノーさんが揃えてくれました?」


「は!全てに行き渡っております」


「民がナレス王国に払う税金で教義書をそろえて頂きました。聖教会に入ったお金は孤児院や民への炊き出し、司祭様の俸給にもなります。司祭も教皇代理も食わねば生きて行けません、司祭も子に食べさせねばなりません。ナレス陛下に感謝して冊子を開いてください」


「皆さん読んで下さい。神がどのような者であるのか説明しました。その様な生き方を朝から晩まで出来る人なんかいません。そんなお手本の生き方が冊子には書いてあります。お手本を心がけて生きて行けば神は大喜びで見守ってくれる生き方です」



教義書1-1 人生訓。 


・家内仲良く、親と子を大切にしなさい。

・獣人・人・エルフ・ドワーフには親切、仕事に熱心でありなさい。


・獣人・人・エルフ・ドワーフを恨まずうらやまず罪を憎みなさい。


・腹を立てずに悪口言わず正直に生きなさい。

・笑顔の絶えない楽しい人生を歩みなさい。



教義書2-1 誘惑と節制


・邪淫と純潔の美徳 みだらな享楽きょうらくの罪

・虚栄と謙虚の美徳 自惚うぬぼれと見栄に踊る罪

・貪欲と慈善の美徳 金銭に対する執着しゅうちゃくの罪

・暴食と節制の美徳 華美かび多大な飽食ほうしょくの罪

・憤怒と忍耐の美徳 自制無き逆上ぎゃくじょうの罪

・怠惰と勤勉の美徳 汗無き利益を求む罪

・嫉妬と感謝の美徳 人の成功をねたむ罪

 


教義書3-1 人が忌避すべき事


・理念なき政治・労働なき富・良心なき快楽

・人格なき学識・道徳なき商業・人間性なき科学

・献身なき信仰



※なお、各章の-2にはとても簡潔で上品な言い回しの解説がされている。アルはこんな解説、上品過ぎて伝わるのかな?と凄く懐疑的解釈かいぎてきかいしゃくを持っている。取り合えず読ませて皆のイメージを見たいと思っていた。



余りに皆が真剣に読んでいてつまんない。



「聖教国の教え」


皆が聞き耳を立てる。


「家内仲悪く、親と子を蹴りなさいでは無いですよ(笑)」


皆が笑う。


「取り合えず、皆さんが読み終わるまで待ちます。分からないとか質問があればどうぞ」


手が上がった。

「はいどうぞ」


・獣人・人・エルフ・ドワーフには親切、仕事に熱心でありなさい。


何故なぜ、獣人・人・エルフ・ドワーフに親切と書いてあるのですか?」


国によって肌の色や髪の色、獣人、人、エルフ、ドワーフに差別が有るからですね。困っている人を助けるとその優しい心は巡ります。人に親切にすると巡り巡って自分に帰って来る事なんです。人に親切な心は、実は自分に親切な心なんですね。


簡単に言います。

親切が出来ると言う事はあなたが豊かで平穏な生活が出来ているあかしです。それを少しだけ周りの人に分けましょう。それは神に感謝する気持ちと同じです。怒ってイライラしてる人は自分の事が精一杯でそんな親切は出来ませんよ。



・腹を立てずに悪口言わず正直に生きなさい。


「これは難しい生き方ではありませんか?」


「難しいと口にするあなたは正直者ですね(笑)」


「腹を立てるのは怒ると言う事です。怒った時どうなりますか?物に当たり散らし、周りの者がおびえ、子は怖がり、嫁は逃げますね。腹を立てると自分が損しちゃいます。いつも笑ってる人の所に人は集まりますよね?誰だって怒って怖い顔の人の所に行きたく無いです。それは損ではございませんか?」


「損をするより皆さんは得をしたいですね?でしたら腹も立てる回数が減ります。減った分得な人生が待っています」



「悪口は怖いですよ。その人を知らなかった人まで悪口を聞いてその人が悪いと思っちゃうんです。それを広める事、それは嘘かホントか分らない言葉をこれ見よがしに触れ回る事なんです」


「それが、勝手な思い込みや勘違いで言った悪口はどうなると思います。嘘を広めたことになるんです。良いですか?嘘をくだけじゃなくて広めて回るんです。嘘を認めず楽に逃げるとどうなります?神様が見てるんです。そんな事言って無い!と嘘を重ねますか?知らん顔しますか?それは荷物を下ろす行為です。知らん顔したら、それは楽に逃げましたね?」


「私は嘘を広めましたと告白して反省しますか?認めて反省するなら謝りに行かないとダメですよ。私は嘘を吐きましたと広めて回るんです。面倒臭めんどうくさいですよね、確かめもせず人の悪口を聞いて自分も悪口言った途端にそうなる可能性があります」


「その人が悪くない場合、全部その罪が自分に掛かって来ます。贈り物をして相手が受け取らなければ、その贈り物は誰のものですか?送った人に帰って来るんです。だから人には良い言葉を送りましょう。悪口を送ると面倒ですよ、大変ですよ。呪いは呪った者の所に帰るんです。知り合いがいたら呪術師に聞いてみて下さい。呪いと同じですよ、悪口も怖いですよ」


「正直に生きなさい」


正直に生きると言うのは、隠し立てせず堂々と胸を張って生きたら良いんです。言いましたよね?人は必ず失敗して悩むんです。悪い事をしてしまったら反省して二度とやらぬと誓う事が正直な生き方です。嫁や子供に悪いと思ったら意地を張らずに正直に認め謝る事。周りの人に悪い事しちゃったな、言い過ぎちゃったな、と感じたら素直に口に出して謝って下さい。それが正直に生きる心です。失敗を隠す嘘を吐いて楽に逃げ回る人生を正直に生きるとは言いませんね(笑)」


「例を挙げるとそんな感じですかね」


「恨まずうらやまずって言うのもありますね」


「その人を恨めばその人に仕返ししたくなります。親が殺されたと相手を殺したら、今度は相手の子があなたを恨んで殺しに来ます。そしてあなたの子も復讐の鬼となって相手を殺す。そんな怒りと恨みと悲しみの連鎖を子供に背負わせたいですか?あなたがめたら終わるんです」


めるには悩みますよね?悩む姿を神様が見ています。そして悪意を持って相手があなたのお父さんを殺したなら必ず報いが来ます。神様が見てるからです。折角磨くために生まれて来て磨きもせずに恨みにとらわれたら、神の元に行ったときに後悔しますよという教えですね」


うらやまず」


「人が良い物を持っていてうらやむ、良い仕事してうらやむとかあります。よく考えて下さい。ナレスの王様がここにいます。王様は昨日までずっと時間単位で会議していました。ナレスの王ですよ。気が抜けますか?抜けないでしょう?スラブ王も来られてるんです。ナレスが軽んじられます、皆さんがバカにされます。時間単位でそういう仕事なされてます。今日はやっと休みだと皆の為にこの様な会で勉強しようと言う王様ですよ。酒場でバカ話して一杯飲むとは違いますよ(笑)」


「そこに多分この国で一番の働き者の方がいます。執事長のジョルノーさん、メイド長のマリリンさんです。子供の時から仕事を頑張ってずっと磨いて今の地位まで登ってます。どれ程忙しいか分かりますか?自分の身を粉にする程働いてその地位に居るんです」


「でも、見たらうらやましい仕事に就いてると思われる。いいえ、どんな仕事でも一生懸命やれば同じです。他人の仕事は簡単そうに見えますが違います。文官の方が武官の仕事を出来ない様に、武官の方は文官の仕事が出来ない様になってるんです、執政官がメイドの仕事が出来ない様にメイドも執政官の仕事が出来ません」


「人の地位や仕事をうらやむ事はしなくて結構です。家族を養う仕事で糧を得るのは一緒です。子を食わす仕事に誇りを持ってください。どの道にも一流の仕事人が居る筈ですよ。料理人、商人、武官、文官、メイド、大工、鍛冶屋、靴屋、服屋。一流の腕を持った人はその仕事しか見て無いです。他の仕事をうらやましいと思いません。仕事に誇りが有るからです。他の仕事がうらやましいと思うなら、今の仕事から逃げてるかどうか心で考えて下さい」


「一流の人は逃げてませんよ。思い浮かべて下さい、あなたの職業の一流の方を。逃げるどころか苦難や難題に立ち向かってる筈です。あなたが他の仕事をうらやむのは努力が足りずに逃げてるのではありませんか? 逃げたらダメですよ、悩んで苦しんで答えを見つけるんです。それを神様が頑張ってるな!って見てるんですから。


無理に頑張って死んだらダメですよ(笑) 死なない位に頑張ってダメだったら、踏ん切り付けて仕事を変えても良いでしょう。悩んで出た答えのままに仕事を変えましょう。それは人をうらやんで選んだ道では無いからです。子供を食わすために仕事を変わる事は正義です。神様も認めてくれます」



「偉大な神が作ったこの世界を分って頂けたでしょうか?」


「皆さんはそれぞれの道を信じて歩んできた方々です、違う国の出身の方も見えます。全ての人がその道の中で今座っている席に続く努力をされてきた方だと思います。思い浮かべて下さい。あなたをその席に座らせる為に切っ掛けとなった方がいませんか?その人が居なかったらメイドになっていなかった、武官になっていなかった、宰相になっていなかった、司祭になっていなかった、シスターになっていなかった。そんな方が必ずいる筈です」


「その方を思うと心が温かくなりませんか? 巡り合う奇跡がそこにあります。その奇跡はあなただけに起こってません、ここにいる全ての人に起こってる奇跡なのです」


「もっと深く考えますよ、あなたが生まれて来たのはお母さんから生まれて来た筈です。誰にも親がいて子として生まれてきましたね?大人のまま川から流れて来た人は居ませんよね?(笑)」


「親がいたから、あなた方は生まれました。それは間違いない。逆に言えば両親が出会わなかったら、あなた方は生まれてこなかったんです。親の親、あなたのお爺ちゃんとお婆ちゃんがいなかったら親は生まれませんから当然あなたも生まれてこない」


「あなたが巡り合う奇跡でその席で座っているなら、生まれて来る前からご先祖が出会って無いと無理なんです。ご先祖も子供達を守った。大きくした。子供が大きくなったら奇跡と巡り合って夫婦となり子供を作った」


「これを見て下さい」


教皇セットに変身した。


「私の名は、アルベルト・ド・ミラゴ・イ・クレンブル 教皇の名は、ライトス・ド・ミラゴ・イ・クレンブル」


「2761年前に聖教国を作った始祖の名は知ってますか?」


皆が知らないと首を振る。


「始祖の名は、セリム・ド・ミラゴ・イ・クレンブル」


「2761年前に聖教国を起こした時の名です。クレンブルに住むミラゴ族のセリムという名です」


「皆さんにも名前があります。親の付けてくれた名前があります。あなただけの名前ではありません、あなたの名前を付けるまでにどれ程のご先祖様が子供を守って来たのでしょうか。今、あなたが子供を守る事、それが未来をつなぎます」


「だから皆さんの先祖は、始祖が聖教国を作った時代に頑張って生きて子供を守り通したのです。始祖が生きたその時代、頑張って子を守った。だからあなたがいる!」


「全て人は奇跡の巡り合わせで回っています。奇跡の巡り合わせで盗賊になる者もいます。奇跡の巡り合わせでこの席に座っている自分が解りますか?奇跡の巡り合いに感謝してください。親が恋に落ちた奇跡の巡り合わせにも感謝してください」



「感謝の気持ち」


「その方に感謝する気持ちは神に対する感謝と同じです。神様が何処どこにでもいて見守ってくれてる事が分りましたか?」


「二時間も喋ってしまいました(笑)」


終わる雰囲気を見て手が上がった。


スラブのファディル陛下だった。


「見ての通り王をやっておる、国を富ますために王は汚い仕事もせねばならぬ、先程聞いた通り兵に死ねなどとはいつもの通りじゃ、目をつぶらねば命令など出来ぬ。王の悪事については神の教えはどうか聞きたい」


王の悪事と聞き皆が生唾なまつばを飲み込む


「その悪事はご自分の為ですか?」凄いのが視えた(笑)

「王家の為でもあり、自分の国の為でもある」


「それをこの場で言える陛下は大いに悩んだ上で答えが出ていらっしゃいます。神の前で、やっている事が悪事かも知れぬな、とお考えならご安心ください。王家、貴族とは税を取って民を庇護ひごする者。迷ってはなりませぬ、時には小を殺して大を生かす、その様な苦渋くじゅうの決断を下すのが王の仕事。この場で悪と私に断罪だんざいされても変える事無き王の正義でありましょう。儂は王として間違っておらぬと胸張って言えるから、ここで話したと言う事です。悩み、苦しんだ末の決断に迷う必要はありません、そんな陛下も神は見ています。胸を張って非情の決断を下し民をみちびいてください。それで失敗したら反省して良き国にすればよいのです。失敗を糧にする前進、それは国としての成長です、進歩です。何も悩む必要はございません」


ファディル陛下は反芻はんすうして目を閉じた。


会場がシンと静まる。


ファディル陛下は目を開けると言った。


「誠に有意義な時間を過ごさせてもらった。この席に着いている事を誇りに思う、ありがとうアルベルト教皇代理。この席を用意してくれたカーマル陛下にも多大な感謝を送ろう」


場が引き締まっちゃったから言った。


「こんな話を聞いたからって神様、神様言わなくて良いです。体壊しますよ。そんなに根を詰めて感謝されても神様も迷惑ですからね(笑) 見てるだけです。適度に感謝するのが丁度良い、神様はそんな存在です、あなたが子を愛すように、あなたを愛して見守ってくれる存在です」


「この冊子からあなたが一番大切に思う言葉を探して下さい、毎日神様、神様おがまなくて良いです。祈る仕事は司祭に任せて、拝む暇が有ったら仕事しなさい!子供に銅貨1枚のお菓子を買って帰るあなたを神は喜んでくれますよ(笑)」



おもむろに演台に大壺を置く(直径30cmの葡萄酒の壺)



「本日の朝、急遽きゅうきょ決まった教義の説法にお集まり頂きありがとうございました。十三時までに百五十冊にも及ぶ教義書を集めるのも大変だったと思います。説法を聞いて良かったと思ったなら私の願いとしてお聞きください」


「本日使いました教義書は薄くても貴重な本です。普段は教会で喜捨した銀貨三枚(3万円)でナレスの信者さんが手に入れている本です。聖教国は皆さん一人一人の信者さんのお気持ちで成り立つ国です。十三時までに本を集めるのに使ったナレスの税を国庫に戻したいと思います。皆さん一人一人のお気持ちで良いのでこちらの壺に喜捨をお願いいたします。ナレスの税ではなくみなさんのお気持ちでご自分の教義書を手に入れて頂きたいのです」


「最後にカーマル陛下。教義の時間を頂き感謝いたします」


深くこうべれて感謝を表した。


「これで聖教国 教皇代理 アルベルト・ド・ミラゴ・イ・クレンブルの説法を終わります。皆さん長い間ご清聴ありがとうございました。帰りにエールでも引っ掛けないと頭固くなりますよ~(笑)」



何も考えず、草稿そうこうも無く、思うがまま必死にしゃべり倒すだけの説法だった。神様に怒られるかな?とも思ったが、鳴りやまぬ拍手に後押しされて、怒られてもまぁいいや!と思えた。


司教、司祭、シスターの晴れやかで誇りに満ちた顔を見て良かったと思った。


どんなに言葉がくだけても、冗談を言ったとしても、神を知らないと語れない強い信念があった。つむぎ出す言葉にはあらがえないかがやきがあった。途中でネロ様に笑って話しかけていた。その場にいた者はアルが神を知る本物だと確信した。




次回 240話  ナレスの三銃士

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               思預しよ

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