第238話  過激な説法


1月2日。


俺は変わらず王宮のだだっ広い部屋(二室ついてコアとニウが一緒に暮らしてる)で型をつかい模擬剣を振り回す。


見ていたニウが言った。


「一時期魔物に遅れを取ったのが信じられません」

「そういう時もあるの!(笑)」

「有り得ない事でございます」

「その分ね、心が育ったの」


コアとニウが目を見開く。


「その様な事象が?」

「うん、あれは心の試練だったんだよ(笑)」


「あの時、大丈夫だ、大丈夫だと言っていたでしょ?」

「はい、おっしゃっておいででした」

「今は心の試練だったと笑って言ってるでしょ?」

「はい、明らかに表情が違います」


「そういう事なんだよ」

「・・・」


「人間はね、必ず失敗する。失敗した時に反省するんだ。反省すると落ち込んで自分が嫌になる。何でもそうさ。好きな人に勇気を出して告白して断られる。自分がこんなにも好きなのに断られる。


そんな時に自分はなんて小さいんだろうって落ち込むの。同じ町に住む、一人の女の子にすら好かれない自分が小さく見えちゃうの。中には世界に必要とされてないって、自殺を考えちゃうほど悩む人だっているんだよ。


でもね、振られたのは結果論なんだよ。その行動に意味があったんだ、相手の事を考えて相手ばかりを見つめて、心が張り裂けそうになるほど好きになって、凄い勇気を出して告白するんだ。結果はどうあれ、振られた事は結果論で言う失敗だ。


どんな結果を出そうとも、そういう時間を過ごした自分はそこにあるんだよ。失敗してもそこにある。何も知らない過去には戻れない。


そして次は失敗しない様に頑張るんだよ。そうだよ、間違わない様に頑張るために次の糧になってる。分かるかな?」



「コア達はタナウスの成果だよね?」

「はい」


「コア達が出来る前までタナウスの人は、失敗に次ぐ失敗をもって、コア達が出来るまで失敗のかてを栄養に進んで来たんだ」


「分ります」


「失敗が無かったらコアやニウは当然生まれてない」

「その通りでございます」


「何でもそうなの、失敗して反省して、次に生かす事で人は進む。タナウス人もそうだよ。タナウス島の動物や魔獣だって、開墾されて無くなった家を何度も見に来てコア達に痛い目にわされた。見に行かなきゃ痛い目に遭わなかったのにって反省して来なくなったでしょ?」


「はい(笑)」


「僕の記憶にライト兄弟っているよね? 何度落ちても挑戦したんだ。人が空を飛ぶまで失敗したんだ。空を飛んだ後も大変だったよね?落ちない様に工夫する、長く飛べるように工夫する、事故が起きたらそれに学んでまた進む。それは大層な事じゃ無いさ、言い換えれば好きな人に告白するのだって一緒さ。剣術を進歩させるには失敗が一番の教訓だけど、失敗したら死ぬから中々進歩しないだけだよ。分かるよね?」


「はい!」


「誰だって失敗する、自我じががある者は失敗するんだよ。失敗して落ち込む。心と体がバラバラになる。そしてそれに向き合って毎日苦しみながら失敗を反芻はんすうするんだ。それがね、心を治してるの。心が治るとね、反省して立ち上がる事が出来たって失敗を笑えるのよ」



「笑って言えるって事は消化して栄養にして、間違った苦しみを糧にして前に進んだって事なの。失敗を笑えるって事はそういう事なんだよ、糧にして乗り越えたんだよ」


「失敗に限らないさ、悩みは無限にある」


「あの時の僕は物事を間違って認識したまま結果を出して悩んだ。心と体が戸惑ったまま行動して、その結果に悩んだんだ。今なら言える、あの時悩んだ自分があるから今の自分になってるんだ。それは心が育ったと言う事。悩んだ事を糧として僕は育ったんだよ」


「よく分かりました。ありがとうございます」

「コアやニウなら、そのうち分かったさ」

「今、アル様から観測した事象の論理が繋がりました」


「え?」


「事象は分りましたが何をもってその結論に行くのかが断片的で曖昧あいまいで回答が出せなかった部類の論理でした」


「?」


「点に悩むな、越えたら未来につながる」


「あ!」


「そういう物がアル様の論理思考に断片的にあって・・・」


「あー!分かった分かった!」


恐ろしい奴め!(笑)


「アル様が現世で磨くと言う意味において、器の本質を成す根幹となる認識であることが確認されました」


「・・・」


「なにか?」


「そんな大層なもんかな?普通の人なら知ってる事よ(笑)」


「アル様の思考は体系化されております、漠然ばくぜんとされてるでしょうがカテゴリ的には分っておいでです」


カテゴリ的とかロジックでは敵わんからな。


「そうなのね?分ってくれてるなら嬉しいよ(笑)」


時間になってメイドさんが食事を呼びに来た。リズの食事の時間に合わせて貰っている。


「それでは、コアとニウも食べて来るんだよ」

「はい、承知いたしました」



・・・・



ナレスの大公夫妻以下の家族と一緒に食事。ナレス王宮は二日から九日までお休みで十日から公爵と謁見えっけんらしい。仕事始めって事なのかな?視ると大公と王様が謁見の間で公爵と対峙するのね。実は俺、王宮の謁見の間入った事無いのよ。公の場すぎて公務上はお父様とかの家族呼びもタブーなのよね。俺には縁が無い方が健康にいいわ。


「殿下、だいぶナレスを楽しんでもらってる様だ」

「え?」昨日のバレてる?

「あの氷像は見事!民も目を楽しませただろう」

「ありがとうございます」違ってた(笑)


「三十日に話しておった北方の件も昨日のうちに吟味ぎんみした、今の草案では侯爵二、伯爵三、子爵四、男爵領八の四万二千が三月に北方に侵攻しんこうする計画だ。具体的な兵数は諸侯しょこう謁見後えっけんごにまとまる筈だ」


「え!そんなに!」

「風聞では三万から四万ほど居ると言われとるからな」

「はぁ、私もそう聞きました」盗賊から視たけどな。

「騎馬民族は散っておるのでな、固まっても二千ぐらいだろう。その兵数であれば周辺国には言い訳も立つ」


「えーとですね、相手自体がいないん・・・」


「分っておる。四万二千で北方に攻め入った事実を密偵が報告する事が重要なのだ。それが無ければ北方の平定をナレスが通知しても領土とはならぬのでな、平定の信憑性しんぴょうせいの高い軍勢を送り込む事は協議の上だ」


「密偵が報告するんですか?(笑)」

「密偵がだ(笑)」ウインクする。


皆が笑う。


「そうであろう、ナレスが北方討伐に五万と言っても誰もが二万としか思わんぞ(笑)」


「えー!」

「国はそういうもんだ(笑)」


「しかし二月侵攻とは無理な事を申しました」


普通に軍勢集めても二月じゃ絶対無理だわ、三月でも相当無理してるよな、居る奴みんな行け!みたいな感じかも(笑)


「よい、世界最強の宗教国ならその位言うであろう(笑)」

「(笑)」

「敵は現地には居ませんのでお願いします」

「援助どころか、援助されておるな(笑)」


「マリア姉様の婚礼に花を添えるかと思います」


「北方の騎馬兵は周辺国では冬の頭痛の種でした、ナレスが打ち破ったなら私も鼻を高くして輿入れできますね(笑)」


陛下が大公様と目配せした。


「あー、オホン!」


「聖教国の教皇代理殿、伝えた通り王宮はこれより九日まで休みとなる。神教国の晩餐に教えて頂いた神々の話を大公にも話した。どうか聖教国の教えを王宮の皆に説いてもらえないだろうか、そこに人として必要な教えがあると感じたのだ。改めて大公を含め家族と王宮の皆に是非ご教授きょうじゅ願いたい」


「え!」


教皇代理殿ぉ~?


「休みの最中、済まぬが頼む」


陛下と大公が頭を下げる。


「あ!え! えぇ、分かりました。それでは、こういう冊子が教会にございますので、私の説法をお聞きになるなら教会で手に入れて頂けますか?教会で銀貨三枚程の喜捨でもらえる聖教国の教義本です」


カーマル陛下が王妃と共にペラペラ見て行く。


えらいことになっちゃったなぁ、もう。


「ジョルノー、教皇代理殿の説法を聞かせる者全てに揃えよ」


ジョルノーさんの手に冊子が渡る。


「は!手配いたしますのでお待ちください」


あー!俺の御子様語録が行っちゃった・・・。



・・・・



昼食の後、


何で、こんな事になってんのよ。


聖教会の司教以下、司祭、シスターまで揃ってしまった。


「東と西の教会どうしたんですか?」

「騎士団が駐在してくれて・・・」

「孤児院もあるでしょう!」

「王宮の方たちが面倒を・・・」


「・・・」ジョルノーさんを拝み倒す司教身内を憎めない。


そりゃ御子様の説法ならと聞きたいよな。俺も教皇様や七大司教様しか話をして無いもんな。御子様語録だけじゃなくて直接聞きたいよな、神様の話を。


ダンスパーティーの二部屋ぶち抜きの大ホールにナレス大公、スラブ陛下以下、宰相以下政務官、武官、文官、メイド、側付き侍女まで勢揃い。150人お願いしますとジョルノ―さんに言われている。


二段高い公演台に教義本が置いてある(笑)


「説法を聞きに来て下さり感謝いたします」


東と西の教会関係者が一番ホッとする事態になっている。


「みなさん、教義書薄い本はお持ちですね?」

皆が頷いてくれる。


「まず、みなさんの一番知りたいことを教えますね。神様はいるのかどうか、見た事ある方いますか?」


二人手を上げた。


「あ!すごい!神様見えたなら凄いです!」

「神様はなんか言ってましたか?はいそっちの方」


「今のままではいけないから、頑張れとおっしゃいました」


「凄いですねぇ!それではそっちの方」


「今の嫁は運命の人と夢に出てきました」

「よく分かりました」


「皆様、今のは神様ですか?」


皆が頷く。素直な方たちだ。


「残念!神様ではありません!ブー!」

ブー分かんないや。皆が驚愕きょうがくする、田舎っていいなぁ、スレて無いよ、リアクションいいよ。(ナレス王都だ、決して田舎では無い)


「それは、ご自身が考えて考えて心の中で出した正解なんです」


「?」


「そっちの方が言われた頑張れの言葉。それは、このままではいけないと心で気が付いて頑張った。良い事ありましたよね?」


うなずく。


「そっちの方、奥さんと結婚して運命の人だったですか?」


うなずく。


「ご自身が心で決意し頑張った。そして自身が納得する結果になっている。おめでとうございます、神様は喜んでます」


皆が???だ。


「神様は人にあれをせよ、これをせよ、これをしたら幸せになれる、これをしたら得をする。そんな事は何一つ言いません」


「そんな言うのは人間だけです(笑)」


「!」


「騙されてはいけませんよ!そんな神が居たら偽物にせものの神です。皆様は神様にたのみますよね?祈ってたのみますよね?」


皆がうなずく。


「それ、無駄です!祈っても叶いません!」


ズビシ!皆が愕然がくぜんとする。マジおもろいわ。


「願いが叶ったなら。それはあなたの力です。神様の力ではありません、あなたが努力したから叶ったんです、努力したから希望の扉を開くことが出来たんです」


「それでは、神様はいるのか?」


みながゴクリとつばを飲む。


「おめでとうございます、神はいます!」


ピンポーン。皆がホッ!とするのが可愛くてしょうがない(笑)


「戦争が起こった時、神にたのみますよね?」


皆がうなずく。


「戦争の最中に神が助けに来るんですか?神が戦争を止めに来るんですか?知ってるはずです、過去にそんな神様はいなかった!」


ズビシ!と指を差す。なんかウルトラクイズの司会者みたいになってる気がする。


「・・・」


「居なかったでしょ?私が昨日劇で見た、ナレスの建国物語のけがれは誰が倒したんです?世界中の人が倒したんです。神は出て来ませんよ(笑) 神は倒してくれなかった!」


ズビシ!


「そうです、そんな神様はいないからです」


「神はそういう事しません(笑)」


皆がポカーンとしている。リアクション最高!



「皆さん、思いますよね? そんじゃ何してるんだって(笑)」


全員が大いにうなずく。


「ネロ様!一体何してるんですか!」


ズビシ!ツッコミ入れておく(笑)


「見守ってくれてるんです。静かに何も言わず、私たちの事をとまで言って見守ってくれてるんです」


「見守るだけですよ、生まれてから死ぬまで見守ってくれてます。助けたりなんかしません。戦争で殺されるのも優しく見守ってくれています、コロッと死ぬまでちゃんと見てくれてますよー!」


「それが神様です」


全員がガッカリして>えー!それは無いよ~!な顔だ。


「全ての生き物を見守る存在、それが神様です」


皆にトドメを刺しておく。


「あなたに子供がいるなら分かる筈。近所の子供同士で喧嘩けんかする事ありますよね?喧嘩けんかして友達をやめたって子もいます。昨日はゴメンネとあやまって翌日楽しく遊ぶ子もいます」


「大半の親は、それは子供の世界。子供の世界をこわさぬために、子に経験を積ませるためにえてほうっておく筈です。子供だって子供の世界で生きてるんです、子供に判断させて子供の世界を学ばせますよね?」


「神にとって、この世界はよちよち歩きの赤ちゃんの世界です。子供にもなって無いです。赤ちゃんが一杯いておしゃぶりを奪い合ってるのを神はしかりません。赤ちゃんがおしゃぶりが欲しいと泣いても何もしません、それが赤ちゃんの世界ですから」


「みなさん、お母さんから生まれてきましたよね?泣いておっぱい貰って、お漏らししたおしめを替えて貰ってた。スクスクと育ったから大人になったと思ってるでしょ?いいえ、神の前では皆が赤ちゃんです」


「ステータスボードに加護がある人いますかー?」


居なかった。


「加護がある事を知ってる人はいますかー?」


皆が手を上げた。


「知ってるなら話が早い、それが神様です」


「神は見守る存在です、あなたがたが悩み、悲しみ、この世の全ての悪で苦しんで、それでも心の傷がえて立ち上がるのを見守る存在です」


「生まれてから死ぬまで見守ります、悪事を働けば見ています。人を殺せば見ています、人をだますのも見ています」


「ここが大事ですよ、人を殺して奪えば得したと思ったら大間違いですよ。人をだまして奪って得したと思えば大間違いですよ、人をおとしいれて得をしたと思ったら大間違いですよ。死んだあと神様の所に行きますからね。その世界で何千年、何万年自分の犯した罪を反省して涙を流しながら過ごします」


地獄なんて無いからそんな事無いけどな(笑) まぁ説法で怖がらせるだけだ。分かりやすいのが一番だ。


「戦争で人を殺したらどうなるのか、命令されて戦争に行って殺しますよね?それは大丈夫です。この世界のルール、この世の人のルールに乗って殺したなら大丈夫です」


「命令した者が苦しみますから大丈夫です」

王様の顔色が悪いので多重視点で視る。


「戦争ってどんな状態ですか?相手が攻めて来て、相手を殺さないと滅びますよね?そういう命令は大丈夫です(笑)」


「よく考えて下さい、この世の生物で人だけが行う邪悪じゃあくな事がありますよね?」


「法律もありますよね?盗賊は打ち首ですよね?」


「人だけが行う悪には気を付けて下さい」


「オークやオーガは人を滅ぼしに来ますか?来ないです。食べるために人を襲います。人は違いますよね?自分の欲のために奪って殺しますよね?それはダメです。盗賊の様な奴らは生かして置いたら他の者が殺されますので、すぐ殺しちゃって大丈夫です。良いことしたと神様が見てくれています」


「神様は全て見ています、知ってます。悪い事をした報いは、本人に必ず帰ってきます」


「良い行いをした者は、死んだあとすぐに生まれ変わって来ます」


「みなさん、怖いでしょ? 何も怖がることは無いのですよ。この場に王様がいらっしゃいます。王様は民を救うために騎士団に死んで来いと言います。騎士団は国の為、民の為、我が子の為に戦います。それは自分の欲望の為ではありません、国を守るため、民を守るため、子供を守るために下された死んで来いと言う辛い命令なのです。神はその王と騎士団の辛い苦しみや悲しみを見ておいでです。たとえそれで死のうとも、何も恐れる事はありません。よく頑張ったといとし子を抱いてめてくれます」



「一番怖いのは、楽をして得したと思う心です、そんな物はありません。楽をした分その人の経験は軽いのです。苦労した人は成長した分経験は重いのです。重い人こそ死んだときに神に召されて得をします。軽い人は召された後に泣いて永劫えいごうを悔やんで過ごします。楽をしたら思い出して下さい、それは自分に負けたと言う事です、積むべき経験の重さを捨ててしまったから楽なんです、自分に負けずに荷物を捨てずに丁寧な仕事をいたしましょう、楽をせずに一振りでも剣を振りましょう。それがあなたを成長させます」



「人は嘘をきます。自分はミスや悪い事はしていないと嘘を吐きます。神様は見てますよ(笑) 嘘を言ってその罪を逃れると楽なので次も嘘を吐きます。嘘を吐いて逃れたら罪に向き合わずに逃げる事が出来て楽なんです。さぁ、楽した人はどうなるんでしたっけ?神の元に召された後永劫えいごうの苦しみで悔やんで過ごします」


「守備隊の隊長さんがいらっしゃるのでついでに教えておきます。盗賊は平気で嘘を吐きます。人を殺して奪う職業ですからね(笑) 自分で働かずに人の物を奪って生きていくんです。そんな重い荷物を捨てて楽に生きて来た人が罪を認めますか?楽になろうと嘘ばかり吐きます。楽になろうとする言葉ばかりだから嘘ばかり吐きます」


「嘘を吐かずに罪と向き合った人は反省します、反省して二度としないと誓います。その罪と向き合って誓った分だけ経験が重いのです。どうなるんでしたっけ?そうです死んでもすぐ生まれて来ちゃいます。おめでとうございます」


「罪人が泣いて悔やんでも許してダメですよ、許すのは神様だけで充分です、やった事はやった事でサクッと殺して結構です。人を殺して奪った事を告白したらサクッと殺して下さい。神様が悔やんで反省した事を見てますから大丈夫!」


聖職者が言う事じゃ無いな(笑)


「盗賊の例を出しました。盗賊になった人は生まれた時から盗賊ですか?違いますよね? 農民で苦しんで何も食べられなくて盗賊になった。冒険者やってたら悪い友達にそそのかされて悪の道に入った。盗賊にこそ聞いてみたら辛い過去があったのかもしれないです」


「しかし盗賊は間違えた、楽だからどっぷり浸かってしまった。人を殺して奪う事で生きる苦しさから逃げて楽をしたんです。人を襲うんです、それはオークやオーガと同じです。人の世界で暮らせません。楽をした人はどうなります? そうですね神が見ていて永劫苦しみます」


「ここに居る皆さんは、今まで悩んだ事無いよというかたいますか?・・・誰も居ませんね、良かった!ここにいる人は間違いなく人間です」


「人は間違いなく失敗します。人だから失敗します。恐れ多くて言えない人もいるでしょうから私が言っておきます。王も苦悩し失敗します、教皇様も人だから失敗します。私の婚約者の可愛い第三王女も良く失敗します。人だから当然です!失敗したらそれに向き合い反省して二度とやらないとまた踏み出せばいいのです。何も恥ずかしい事ではありません。そんな物を恥ずかしがるのは赤ちゃんがお漏らしを恥ずかしがるのと同じですよ。何も恥ずかしいことなどありません」



「勘違い、思い込み、女の人が自分を好きだと思い込み、告白したら振られちゃったのも失敗ですよね(笑) 大事な事はここ。失敗した時に落ち込みます。なんであんな失敗しちゃったんだろうと悩みます。皆さんも色々な事で悩んでますよね。それ、逃げずに向き合って下さい」


「その時点では無理だと思うでしょう。愛しい我が子が盗賊に殺された。血の涙を流して、自分が死のうとも仇を打ちたいと思うでしょう。その時辛くて向き合えなかったら心に留めて、逃げるのだけは止めて下さい」


「勘違いしたらいけませんよ、辛くて逃げだしたらいけないのは心の話だけです。鞭で打たれて剣で殺されそうなのに逃げなかったらダメですよ。すぐ逃げて下さい。折角神に与えられた命を無駄に散らす事は一番ダメです。悩んで人生を磨く道を逃げた事になってしまいます」


「いつか答えが出るんです。悩みを何度も乗り越えてきた人に思い切って間違えてしまった自分の過ちを、罪を見てもらうのも良いでしょう。こんな演壇の上で言うのは簡単ですが、当事者にとったら恥ずかしくて相談なんか出来ませんよね?自分の失敗や罪を人に話す事。実は一人で悩む事よりも経験豊かな人に聞いてもらう事は、話した瞬間にすでにご自身が認めています。答えが出てるんです、それは罪を認めて二度と同じ過ちは犯さないという人なんです」


「先ほど言った経験の重い人とは答えが出た人です」



「今まで悩んで来たけど、今は悩んでないよって人いますか?」


沢山の人が手を上げた。


「見て下さい!こんなに沢山悩んだ人が居て、逃げずに向き合ったら答えを出して、今笑ってますよ。その時は辛くて悩んでいても、人に恥ずかしくて言えなかった悩みでも、それは向き合えば乗り越えられるんです。隣の家の人が口うるさくてめんどくさい人だ!ありますよね? 剣を持って向き合ったら駄目ですよ(笑)」 


心で向き合うんです。言われて怒れちゃうでしょ?怒る自分と一度向き合ってみましょう。ホントの事を言われるとムカつくんですよ(笑) 自分で分かっていて直せない事なんかは特に怒れます。聖教国の皇太子は怒ると凄いですよ!そこに証人が居ますね?」


リズを指差すとリズが笑ってうなずく。


「そんな自分と向き合っていたら自然と怒りは収まります。何も悪い事をしてないのが解れば、相手がバカなんだなと分かって悩みが無くなります。自分が悪いと分かったら相手に謝りましょう、もう二度としませんから、また悪い事があったら教えて下さいと反省したなら言えるはずです」


「中には自分が悪いと分かっていても、それを認めず分かってない振りをする人がいます。それはその人しか分からないと思ったら大間違い、神様がキッチリ悪い事を認めず嘘をいたことを見てますよ」


「悩みに逃げて楽をした人は一生逃げ続けます。逃げて得したなんて大間違いです、見ていた神は知ってますよ(笑)」


「一回、休憩にしますが何か質問はありますか?」


「はい、そちらの方」

「戦争で攻めて来た国は悪い国ですか?」

「いい質問ですね」


「戦争は色々あります。攻めて来たと民が思っていても、実際は攻めて来るように十年も嫌がらせをしていて怒って攻めて来た国は悪ですか? 嫌がらせで領民が何十人何百人と死んで討伐に来たのかも知れませんよ。攻められた国は、攻めて来たから仕方がなく戦ってると聖教国に言い訳してるかも知れませんよ(笑)」


皆が驚く、そんな汚い内幕なんて早々知らんわな。


「その国が食べる物も何もなく、攻めないと死んでしまうならどうですか?どうせ死ぬなら奪ってでも生きようとする。それは悪ですか?自分の子供が餓死しちゃうから攻めて来るんです。神は悪とは見て無いですね」


「・・・」


「簡単な事です、相手が殺しに来たら殺してください」


皆が驚く。


「殺さない様にとか、話して平和にって言うのも大変良いですが、剣持って殺しに来て暴れてる者に話しに行ったら殺されますよ(笑) この世の生物界のおきてです、殺しに来た者は殺して下さい」


「生き物は何のために生きてるか考えて下さい。皆愛する人を見つけて子供を作って、子供を育てて愛して大きくして死んでいくんですよ。どんな生き物もそうです、猫も子供産みますよね?お母さんがお乳をあげて育てますよね?可愛いですよね?犬はどうです?産んだら子供捨てて遊びに行きますか?そんな事はありません!ちゃんとお乳を上げて育ててますよね?」


「大事な事はそこです。自分の子供を殺しに来たら、相手を殺しましょう。相手が正義だろうが悪だろうが関係無いです、自分の子供を守るのが正義です、相手の国が自分の子供が死にそうだから攻めて来たら相手も正義です。その戦いは正義対正義です、勇気をもって自分の子を守るために全力で相手を殺しましょう」


「皆さんが、ここにいる。それは先祖が脈々と子供を守って来た証です。大きくなって今ここにいる、子供を持っておられる方は分るでしょう、子供を産み、育て、守るためにあなたが居るんです」


「長くて済みません、トイレ行きたいですよね?15分休憩します」



一端座ってのどを潤す。


折角手に入れたこの機会を逃してなるものかとアルは直球勝負だった。自分が知った事、磨く意味を伝えるのに必死だった。輪廻を待ち望んで並んできた魂達に教えたかった。器に入って忘れてるその意味を教えてあげたかった。話が分かる人だけでも、納得できる人だけでも良かった。



悪ですか?は良かったなぁ。


正義と悪などの二元論なんかアルに通用しない。死と生、明と暗は巡る同じもので分けることなど出来ない事象を無理やり分けて考えるから明と暗と同じく正義と悪になる(笑) 囚われやすい罠だ。人以外の生物にそんな物は無い、生物以外と思ってる石や土や星や太陽や月。太陽が生きてて月が死んでるなんて言ったら月が怒るぞ(笑) 


世界全てが生き物の中で、人だけが神に選ばれたとか言ってる自体で生物の差別主義者だ。肌の色や髪の色や他国の人間、獣人で差別してる時点で気が付け。そんな事言う時点で神は人を選ばない(笑)


数ある生物の中で唯一の人を選ぶなら神を語る詐欺師だ。生物全てに魂の輝きがある事が視えないにせの神だ。


会えばさぞ荘厳そうごんな神殿で着飾ってると思う。





次回 239話  隠せぬ輝き

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