第235話 ベクトルが交わる時
甲羅干しスペースで気が付くとマリア姉様とアキーム兄様が寝そべって恋人
目のやり場を探したら浜辺に沢山の人がいた。陛下達と第二陣、第三陣で来た側近や侍女や楽隊がお許しをもらって波打ち際で楽しんでいた。
洋風マス席に陛下夫妻が護衛と共にトロピカルジュースを飲んでいる。(タイム:11時06分)もう1時間半も遊んでた!そろそろ昼で呼ばれるだろうけど、それまで遊んでたらいいか。幼児体型のシズクとつくし体型のリズをたらいに乗せて岸に向かった。
砂浜にビーチチェアを50脚一気に生成した。飲み物とか置きたいだろうとサイドテーブルも置いた。海の家で何か食べていたアルムさんがビーチチェアが出来たのを見て手を振ってくれる。
11時30分に鐘が鳴った。コアとニウが海を仕切ってるな、王族は事前に用意された伯爵邸でのナレス宮廷料理だそうだ。海にいる侍女、メイドは海の家で食事と言う。
海に上がって大きなテーブルを複数作ってあげた。元々ナレスのリズ家族だけと思ってたから海の家のキャパが少ないの。後は勝手にピリ辛やエールや
全員アロハで並ぶ食卓(笑)
俺の席とリズの席・・・大きい円卓だから序列はボケてるけど、俺とリズの左右。右からスラブ王国夫妻とアキームお兄様。左からズラッとナレス王家族が序列順。間違いなく俺が中心に分けられている。意味は分かるが恐れ多くて尻がムズムズする。
12時10分前から樂団が宮廷音楽を
ナレスの厨房から運ばれてくる料理を転移装置でうちのメイドが前菜から各自の前に持ってくる。続きの間に次の皿持ってメイドが待機している。
ジョルノーさんが俺に目配せするが
「皆さま、今日は
視たら使用人に感謝せよと言う君主や貴族は居ないとジョルノーとマリリンが内心驚いているが、聖教国なら感謝の心を公にしそうなので、そうなのだろうと逆に納得している。
皆の拍手に4人が素晴らしいお
「さて、事前に
皆の拍手と共に会食が始まった。
「アルベルト殿下、建国前の神教国にお招き頂き、誠に感謝
「え!早いです、まだ早いです」
「
敬語になってるよ・・・。
「アル。いえ陛下、アキーム兄様と呼んでくれてありがとう。王のお言葉はそのまま僕も受け継ぐ、僕がいる間はスラブの民は皆、陛下の味方でありましょう」
「これは私も娘を
「お父様!」
「リズ、おめでとう。もうこれは神のお導きとしか考えられない、そのままを受け入れるんだ。只の国では無い、神教国なんだ。神の教えの国なんだよ。建国に立ち会えるならまだしも、建国前の国に招待されるなど聞いた事が無い。これが聖教国の力だ、神教国をあるがままに受け入れるしかない」
ナレスの王太子殿下も言ってくれた。
「僕もアキーム殿下と同じ思いだ、この場に陛下と同じく同席出来ている事を誇りに思う。ナレスも僕が継ぐ限り神教国を
今更ながらに聖教国の大きさが身に染みた。セリムという人がどれ程も
聖教国の脈々と積み上げてきた信用を俺が使ってしまう怖さが生まれた。
脈々と時代を受け継ぐ
困ってしまった。
俺は簡単にセリムの後を継ぐと言ってしまったが大丈夫だろうかと自分に自信が無くなって来た。俺は信用しないなら頭に来てぶっ飛ばす奴だからだ。
余りにも俺は人間が出来ていない。
あーあ、どうしよう・・・。
!
アレ?セリムもぶっ飛ばしてたわ。
そうだ。ぶっ飛ばしまくってた!
大丈夫だ。俺も一緒だ、一緒の事なら出来る。
妙な親近感が湧いた。
今日はここで
二国の使用人や樂団の人達は昼から海で自由行動となったので快速艇はメイド達に運航を任せて皆を楽しませてもらう。俺とリズが先導して二国の関係者にタナウスを案内して回った。まだ王都なのか首都なのか聖都なのか呼び方が決まって無いと言うと皆が笑った。
そもそもが聖教国と神聖国の教皇は大教会の敷地で生活するのに、うちは宮殿だ。右側に尖塔のような部分は有るが王城でも無く教会でも無い。強いて言えば宮殿様式で、首都に有る教会は間違いなく大教会だがラウム教という訳のわからん分派の教団だ。中身はネロ様祭ってるから大丈夫だ。違ってたら祭ってる物取り外すだけだ。
せっかく時間を取って晩にタナウスの話が出来るんだ、二国の陛下に聞いてもらえたら改善点も見つかるかもしれない。行き当たりばったりの俺には
道に有るランドアバウト(環状交差点)の意味、あえて緩い傾斜を残した街作りなどの説明と街に壁が無い説明もして行く。
丘陵地の無人の村には馬やヤギを30頭程放した事を伝えると驚かれた。魔獣の事も聞かれた。魔獣を殺さず痛めつけて
噴水の説明の途中で、ナレスの王妃様とリズがサンダルを脱いで噴水の中で冷たい!綺麗!と遊びだしたら、山脈から流れ出す冷たい清浄な水に驚いた一行が噴水に足首まで浸かって水遊びになった。大通りは日が照って暑いので裏町の日陰有る街並みを選んで歩いた。
普段王宮しか歩かぬ王族が歩く。王妃様とマリア姉さまが手を繋いで歩く、陛下とリズが手を繋いで歩く。二国の陛下にとって視察と家族の休日を兼ねていた時間と思う。海まで7.5kmの
海の家でチキンバスケットとピリ辛ヨージ鳥を出されて、キンキンのエールをメイドに頼んで飲むと止まらなくなった(笑) 大喜びで飲む俺を見て王族一行も飲むと、これは良い!これは良い!と止まらなくなった。
ギンギラギンの太陽の下の焼肉と冷たいエールだ。殺人的に美味い。昼を海の家で食べた人はメニューの中からアイスクリームを発見したようだ!かなりの人が食べている。
快速艇が岬の中をゆっくり走る。
腰ぐらいの水深でメイド達がキャーキャー言いながらコブ袋を投げ合って遊んでる。海の枕投げの様だ。メイドがひょうたんを両脇の下に入れて楽しそうに浮いている。波打ち際、王太子の赤ちゃんがたらいの中で海に入る。正解の様な、違う様な複雑な光景だった。
リズが手を取って海に誘う。
まだ15時半、日はまだ高い。
・・・・
17時に使用人達は着替えてナレスに帰って行った。第一陣で来た側近だけが残った。
日が傾くと湿度が高くないので風に当たると肌寒く感じる。
俺は神聖国で買った伯爵邸の執務室でリズとリズの屋敷の執事長セオドラと話していた。リズの使用人達は結婚に付いて焦っていないと言う返事だった。4~5年で神教国が出来るならこの国が落ち付いて世に宣言するまでには相手を決めようと前向きに考えるという使用人達の総意だった。
セオドラはナレスの女流騎士団出身だった。リズが5歳の時に護衛侍女として
教えてもらいながら地球なら80歳位の寿命として、大体40歳前後までは普通に子供作ってた感じだ。この国なら60歳位までは普通に子供作ってるぽいなと改めて計算していた。何と言っても6人も子供産んでる50歳越えてる王妃様だって30代にしか見えない。
イヤ、そもそもクラン雷鳴では、タッカート爺ちゃんステラ婆ちゃんと俺は呼ぶが、俺の爺ちゃんより年上だから呼ぶだけで容姿で言えばとんでもない話なのだ。そして実際に俺以上の齢の孫もいるから普通に許されている。本当にお爺ちゃんだし、お婆ちゃんなのだ。
齢を聞かれなきゃ容姿じゃ分からない世界ならアリだった。と言うかクルムさんが
・・・・
「世界最強の宗教国ですと?」
「はい」
皆が
二国の執事長が速記する手が思わず止まった。
・・・・
神教国タナウスは世界にタナウス教を布教する総本山になる。俺は教団など
教え自体は聖教国と変わらない。北の中央大陸には聖教国があるので布教しない。世界中に宗教国を語る国があり、法王、教皇、宗主、大王と言われる者達が、覇権(世界)を握る為に軍備を整えて他国に侵攻している。人の世に害悪を撒き散らしているから、宗教国として見過ごせないから作った国が神教国のタナウスだった。
ダンジョンと同じ仕組みの転移装置を使用して、大陸間交易路を拡充する事。それを元に世界中で稼いだ外貨を元に、その国にある既存の教会の地盤に侵攻していく教会の戦い方をすると皆に説明する。コンビニ作戦と言っても通用しないし(笑)
問題点を色々聞かれた。
・宗教国タナウスの領民がいない問題。
紛争になった国で行き場のない難民を連れて来る。
・国家収入の問題。
大陸間交易路の収入、交易路転移装置の貸し出しレンタル料。
・布教の問題。
帰依した者が、次々信者を獲得するネズミ講方式。
・お布施の回収制度の問題。
回収しない、その国の活動資金とする。
・他の大陸では聖教国の名が使えない件。
元々聖教国とは何の関係もない立場を貫く。一宗教国で世界中の宗教国を帰依していく方針。聖教国は一銭も出資しない。
武装する宗教国をタナウスが呑み込めるかが焦点だった。
「神教国は古代魔法を受け継ぐ国です。それは武力では世界最強の魔法国家。世界最強を誇る軍事国がタナウスの歩む道に立ちはだかるなら消し飛びます。タナウスは世界最強の宗教国です」
「世界最強の宗教国ですと?」
「はい」
「・・・」皆が固まる。
「皆さん知ってるじゃありませんか」
「?」
「リノバールス帝国が無血で滅びましたよ」
「「あ!」」
「力が全てと
「怖がらなくて結構ですよ、教えは聖教国と同じです」
・家内仲良く、親と子を大切にしなさい。
・獣人・人には親切、仕事に熱心でありなさい。
・獣人・人を恨まず
・腹を立てずに悪口言わず正直に生きなさい。
・笑顔の絶えない楽しい人生を歩みなさい。
「この教えを守る国は最強の宗教国が守ります。神は何もしないと高を
「聖教国、神聖国、神教国を一神教とは思ってダメですよ。この場に居られる身内だけに教えます。神はネロ様だけではありません、私が聖教国の御子として知る真実は、この世に192神の神々がおられます。ネロ様はその内の人の神」
「え!」
「ネロ様はまさしく人の神です。この世で間違いなく人を愛してくれている神様です。だから感謝しないといけません」
「・・・」
人の創造神 ネロ
豊穣の神、デフローネ:大地、狩猟、繁栄を司る。
戦いの神、ネフロー:戦い、武勇、生死を司る。
審判の神、ウルシュ:善悪、道徳、審判を司る。
慈愛の神、アローシェ:慈愛、 調和、美を司る。
学芸の神、ユグ:知恵、学問、技巧を司る。
「ネロ様と5柱の神はこの世の宗教国は例に漏れず
「残念な事に人間は現世で益を追ってしまうみたいで、船で
「えーと、それを解説するとですね。お菓子をくれるお姉様だけが好きで、お兄様もお父様もお母様もお爺様もお婆様も眼中に無いと言う事ですよ(笑)」
「陛下考えて下さい、息子、娘も可愛いし、孫も可愛い。その注ぐ愛に差は無い筈です、皆を愛しく思う心。神はその様に愛を持って世の人々に頑張れと見守ってくれています。苦難に立ち向かう息子、武の鍛錬に行き詰った息子の手を取りに行きますか?行かない筈です、それは本人が打ち破る壁だからです。神もそうです、迷える時に手は差し伸べません。どうです?神は同じく愛に満ちて見守ってくれてますよ」
「だから、私としては神に感謝をして欲しいですね。喜捨はどうでもいいんです。ご自身の親が見守ってくれたと同じ様に、心で良いので見守ってくれる神に感謝して欲しいです」
「ナレス陛下は昼に言われました」
>リズ、おめでとう。もうこれは神のお導きとしか考えられない、そのままを受け入れるんだ。
「神様は見守るだけで、そんなお
「ですからアキーム兄様とマリア姉様が私の婚約する4か月前に婚約する事さえ奇跡の巡り合いだと思っています。ここにスラブの陛下を出席させるための奇跡の巡り合いかも知れません。単にそういう巡り合わせなのかも知れませんが、1日、2日でこの様な話が出来る関係は今までありましたか?」
「普通は初対面の人にこの様な話をする事はなかなか無いです。不思議と思いませんか?もうそういう巡り合わせと受け入れるしかないのです(笑)」
「ただ、言えるのは、皆さんは私より人生経験が長いので思い返して下さい。ご自分の転機になった切っ掛けの言葉を、その時に側に誰が居たのかを、王妃様との縁を
「リズとの時は、そうです。あの方が縁を運んでくれました」
ナレス陛下夫妻、王太子夫妻、リズがハッ!とする。
「あの時、王家は一致団結してあの方を否定したからこそ僕はここに居ます。それが無かったら絶対にこの場はありません。まさしくあの方が結んでくれた縁だと思います」
「感謝が生まれましたね(笑)」
「マリア姉様のお相手候補としてナレスから招待状が届いたからあの方がお越しになりました。ナレスから招待状が出された時に僕とリズの糸が結ばれたのかもしれません」
皆が目を見開く。
「この場に皆様がおられるのが奇跡の巡り合いと思えます」
皆が納得した。
明はそれをベクトルが交わる時と説明していた。
・・・・
ナレス陛下とスラブ陛下に率直に質問形式で色々タナウスの構想を聞いてもらった。二国は全面的に協力してくれると言ったが、何を協力して貰うかが俺には思い浮かばなかった。
衣食住、兵器、鉱業、サービス、娯楽・・・俺も地球の知識を動員して抜けを探しても見つからない。
領民がいないから何もいらないの(笑)
4~5年で少なくてもある程度の苦しんでる領民(難民)を見つけて来ないと話が進まなかった。
その時に核心の意見が出てしまった。
「神教国タナウスが民から
ガーン! その通りだ。
「神の教えに逆らうものを叩き出して、うちの国の公爵家と家臣団を王城に入れてしまえば国が簡単に変わりそうだが(笑)」
「安定している領地の大領主様がナレスやスラブの様な舵取りをしてくれるなら安心ですね。それなら他国に責められてもタナウスが助けに行けますし・・・良いですね(笑)」
「教会で民の考えを変えるより、手っ取り早いですな(笑)」
「イヤ、真面目に宗教戦争の領地の陣地取りのように教会数を増やして布教と考えてましたが、そっちの方が早いですね」
「王宮から触れを出せばすぐ法律も変わりますしな(笑)」
そうして宗教侵略国タナウスへと案が変わった。
外部刺激で宗教国の変異体が生まれた。
武力侵略国よりマシだ。
次回 236話 宇宙人襲来
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