第234話  海のロマンス



ダンスパーティーの後、アルはリズと一緒に第一王女のマリアンヌ様の部屋に呼ばれた。アキーム殿下も一緒に4人で今日の出来事を笑って話していた。マリアンヌ様の侍女も過去のナレス王太子、フォント様の婚約お披露目パーティーの話をしてくれながら今回はまれに見る盛り上がりだったとの感想を聞き、次から次と話が生まれて弾んだ。


二人はこんなに楽しいダンスパーティーは初めてだと笑ってくれた。フリーになった最初に男爵の子女を誘ってアルが踊った時はリズの赤くなったり青くなったり震える怒りを身振り手振りで教えてくれた。マリアンヌ様にリズが突進してまた皆が笑う。


今年は齢幼としおさなく婚約したリズの事があった。王城のパーティーに社交界デビューの凄い数の子女が集まったのを上手くさばいてくれたとお礼を言われた。


カップリングの秘訣ひけつをアキームお兄様に聞かれたので話しておいた。誘ったお嬢様を綺麗な花開く踊りで男性陣に魅せて、誘う長男はお嬢様の華に目を奪われた人の所に連れて行く事。初めてのダンスパーティーでが狙い目で、誘うと二人とも水を得た魚の様に喜んで踊ると説明した。


アルだって知っている。

アリアがロスレーン家で歌やダンスのレッスンをしてる事を。その時のために磨くのだ。女の場合は誘って貰わなければ壁の華だ。そんなのは楽しく無い。綺麗なドレスを着た甲斐が無い。


ご無礼する頃には、マリアお姉様とアキームお兄様。アルとリズと名前呼びになっていた。


用意された部屋に寝て、朝はクランの教室に行く。明日はクラン雷鳴の仕事納めで集会がある。



・・・・


12月29日。5時起きでコアを呼び今日の予定を聞く。


昨日のパーティールームに今回王城に連れて来たスラブ国王の側近12名、ナレス国王の家族と側近12名、世話をするメイドがナレス側30名、タナウス側50名。海では昨日置いた伯爵邸の応接にて1時間の会談。12時より伯爵邸で会食、演奏楽団の人員は会談前と終了後はアルの屋敷に荷物を広げ伯爵邸2Fからの間接演奏になる。


恐ろしい事にコアは全ての人員の服のサイズを視認で観測し用意していた。


俺は8時半までにこのナレスの部屋に帰れば良かった。


「それではクランに行って来る」

「行ってらっしゃいませ」


・・・・


クランに跳んだ。


基本お休みが無い名目の商店も、年末年始は3日ほど休む店が多い。そんな中、12月30日から1月7日まで休みと公言する団体は珍しい。珍しいがトップがそう言うのだ、クラン運営の教官や使用人も楽しみにする。


教室が終わった時に用意していたお年玉を子供たちにやった。


そのまま集会と思ったらベルが教室の外で待っていた。そのまま教室に引き入れて話を聞くと、最近服を脱がす治療が多く、女性特有の相談もあり、どこか空いてる部屋を借りられないかと言って来た。さすがに女性特有と言われたらアルには手に余る。


すぐには無理と、クランハウスの2F、3Fの空き部屋を年明けまで使えとリナスに話をしてクランの集合を掛けた。



「今年も頑張った!お前らも稼いだ!終わり!」


皆がずっこけた、クランの予定は寮とクランハウスに貼ってあるからだ。


「寮やクランハウスに貼ってある予定通りだ。まぁ、ずっこけてるから教えてやる。馬の放牧場の向こうにキューブハウスがある。あれはクラン雷鳴の幽玄流剣術道場だ、2位のタッカート教官が師範になった。剣の振り方や型を教えて貰え、足捌きだけで剣術は別物になる。すでに3位の教官が鍛錬に励むほど有益な剣術だ。狩ろうが休もうが酒飲もうが何やっても構わねぇが、やる事無いなら身になる事やれ。それと先日怪我して足に毒が入ったメンバーが痛いの我慢して足が腐って死にかけた。戦争でよく掛かる病気だった。怪我にも色々あるのは分かるな?見た事もない傷になって来たらベルの所へ行け、死んだら稼ぎもクソも無いぞ。1月8日の朝に集会をやる、それまで好きにしろ。以上!」


「ちょっと待て!まだ解散言って無い!(笑)」

メンバーが解散しようとしてガクガクする。


「追加だ!雷鳴商店で中古の武具が新年の期間限定で相場の半値で買えるらしいぞ!自分の命の値段を決めて買ってこい。クランメンバー証が無いと半値にならないぞ、忘れず持って行け。以上!解散!」


ずっこけたりガクガクしたりリアクションが上手いメンバーだった。話す事も考えていなかったせいだが、どうでも良い事にはとても行き当たりばったりなアルだった。


・・・・


8時半まで1時間ほどあったので食堂で朝食プレートを食べて、診療所の場所をミッチスの裏に決めてキューブハウスで3部屋の小さな診療所を立てた。待合所、診療所、処置室だ。


言われた通りに8時半に王宮の割り当てられた部屋に跳ぼうと思ってやめた(笑) 実は王宮の魔法防御には穴が有るのだ。アルの睨む麻痺、転移、インベントリを始めアルム達が持っているエルフのアーティファクトは、構築された魔法結界に反応しない事がアルの屋敷で分かっている。純然たる魔力を編んで発動するタイプの魔法は結界内では構築できない。


だからって使っていい訳じゃない。


自重して使わずに王宮第二ゲートから入れて貰った。


「コア、ありがとう!あっちの用事は済ませて来た」

「それはようございました」


「一昨日の晩から王宮の侍女達にも協力して頂きタナウスに参るマナーを講習して参りましたので報告だけしておきます」


「ん?」


「アル様が兼ねてより目の毒だと感じていた事案について事前に予防いたしました、報告です」


「なんだっけ?」

「女性のムダ毛問題です」

「え!」


「かねてより、女性のムダ毛を見る度にアル様が感じていた不満を今回解消する良い例ととらえ、ムダ毛のお手入れをタナウス入国のマナーと致しました」


「・・・」


ギャー!


「アレを言ったの?」


「直接的には申しておりません、入浴の折にタナウスではムダ毛を処理する事で女性の美しさを出す。女性の体をより美しく洗練させる意味でタナウスの文化としてムダ毛処理を行っていると指導いたしました」


「目をらされていた脇毛モウモウの女性は今回おりませんのでご安心ください」


ぐは!アルは血を吐いた。


確かにこの世の女性はわき毛や下の毛の手入れしないからモウモウだ。たまに見えたりするとゲンナリしてしまう。海で泳ぐときに白のシャツや白のパンツだと明るい系の毛色なら目立たないが茶や赤や紫、黒系などモサモサが透けて見えるのだ。


そんなもん手入れする文化が無いのだ。生えっぱなしだ。


「そういう事で現地のエルフ姉妹に言って聞かせ、わきのモワモワはツルツルにしておきましたのでご安心ください。今までモワモワを隠すために7分丈で用意されていたこの世の水着は世界に対して古すぎるファッションと流布をし、以後は世から駆逐いたします。今回用意した水着は、オールドファッションのスポーツブラ程には進化いたしました。パンツの方は股上の深いビキニ程まで進化させています」


「・・・」


「なおムダ毛処理用のお肌の荒れない安全剃刀あんぜんかみそりはオーバーテクノロジーを許可頂けると確信し王家に開放しました」


「・・・」

「なにかご質問はございますか?」


俺は感涙の余りむせび泣きたかったが、ムッツリ魂が鎌首を上げたのであえて何も言わなかった。


「うん!ありがとう」


さわやかにコアにお礼を言った。


「みなさん、どの女性もツルツルになった美しい肌に目を奪われておいででした、女性にとってウィークポイントが減ると言うのは喜ばしい物なのです」


言えば、本性を現しそうなので、コアにありがとうと感謝の言葉ばかり掛けた。



超絶アーティファクト級ロボットとムダ毛処理の話をしているとタナウスに向かう時間と侍女が呼びに来た。今までの会話が無かったかの様に「うん、ありがとう」と明るい口調で誤魔化した。


・・・・


パーティールームに第一陣のお客様が集合していた。


そのまま40人程で伯爵邸に跳ぶ。

跳んだ先には執事長のジョルノーとメイド長のマリリンがすでに水着にTシャツ、アロハの恰好で待っていた。後ろには着替えを手伝う夏服のうちのナノロボットメイド達。


タナウスの標準服の着方を教えますので女性はこちらへ、男性はジョルノーについてお着替えの間に向かって下さい。とマリリンさんに誘導されて行く。


王族の家族の部屋。側付きの侍女の部屋、武官2名それぞれが男女に分かれて伯爵邸の各部屋に消えていく。


俺は当主の執務室で勝手に着替えた。木綿と麻で出来たこの世の素材のなだけだ。


流石コア。俺が思う以上の豪華なアロハだ。あっちの世界でも夏の宝物になりそうな至高の一着に仕上がっている。


下の階に降りて行くと俺しかいなかった(笑)

横に置いた俺の屋敷を見ると楽団の連中も第三陣で到着して着替えさせられている。


コアとニウが現れたがジョルノーさんとマリリンさんと同じ4色アロハの色違いを着ている。女性の方はアクセサリーがございますので今しばらくお待ちくださいと聞いた。


アキーム兄様が降りて来た。


「アル!これは良い服だな。この様な色使いの服など今まで見た事も無いぞ」


「気に入った様で良かったです」

「色の数で序列が分かるのも非常に良いな」

「はい、その辺はキッチリしないとなりません」

「今日が終われば差し上げますので、また夏に着て下さい」

「そうか!これが気に入った、済まぬな」


アルは黒地のアロハを選んだ。少しでも大人っぽく見えるかと思ったが自分的に変わって無かった。アキーム兄様は濃い緑を選んだ。そこへカーマル陛下ナレス王様が来た。


「お!その色も良かったな、迷ったんだがこちらにした」

カーマル陛下ナレス王様は濃紺のアロハを選んでいた。

ファディル陛下スラブ王様も合流した。


「皆が別々の服を見事に選んだな、儂はこの紫が気に入った」

濃い紫のアロハにアゴ髭がファンキーだ。


王太子フォント兄様は赤、奥さんのアマル姉さまも子供のカークスも赤だった。赤ちゃんは自分で立って歩いてる。

第二王子のケージス兄・・・もういいか(笑)


女性陣がポツポツやってきた。

王妃様は子供6人産んだとか考えられない!30歳回ったぐらいにしか見えない(笑) 頭の編込みに縛るタイプのシュシュが付いている。


女性陣の水着は全部セパレーツのビキニだ。肩ひもからブラへの縁取りの色と生地の色が違ったツートンカラー。そのビキニの上から黄色や赤や青、白のTシャツにアロハ。下のパンツは見た感じブルマだ(笑) 色とりどりの縁取りのブルマ。王妃は黄色のブルマだった。陛下が惚れ直したと言い寄っている(笑)


ナレス王家の3姉妹が出て来た。

そりゃお姉様見たらアキーム兄様も惚れ直すよ。新年20歳になるから出る所が出て本当に大人の女性が下ブルマみたいな水着着て、アロハを着ているけど上も下も山が盛り上がってる(笑)


第二王女のアリシャ姉様も16歳だから女性になってる。第三王女はアロハ着ていてよかった。体のライン見られなくて良かった。小学校2年生がハワイに連れて来られた感がパナイ。


何て言ってる間に、両陛下夫妻が応接に呼ばれた。俺たちはコアとニウに連れられてこれから海だ。

皆と外に出ると伯爵邸の前で楽団が待っていた。俺達と入れ違いで侍女に連れられ屋敷に入って行く。


俺達に付いてるのは護衛の武官が4名、侍女が8名うちのメイドが10名だ。


そのままコアに洋風マス席に連れて行かれて、すぐにアロハスタイルのメイドによってトロピカルドリンクが用意されて行く。(ワールスでハーヴェスの密偵におごってもらったグアバドリンクだ)夏のバカンスはこれが無いとな。グレープフルーツの切ったのが乗せてある。花が乗って沖縄のハイビスカス風かと思ったらちょっと違った。これはプールの伝説の飲み物から来た飾りつけだ・・・どこまで深く観測しとんねん!


皆が美味しい美味しいとお代わりする。


「アル君~!」


そこにやってくる美女軍団。エルフだもん驚くほど容姿は整っている。胸だけパンケーキ一枚だ。そもそも体の作りが進化の過程で違うのよ、森で木を飛び回ってたサルが上腕進化して地上に降りてエルフになってるからアスリート体型なの。しか書かないテンプレの弊害だな(笑)


なんで俺はエルフの胸を語ってる? エル様が怖いわ! 


「アキーム兄様、紹介します、僕の護衛兼PTメンバー。タナウス島の貴族になります、右からクルム、アルムのエルフ姉妹に精霊魔法使いのシズクになります」

皆がアロハの裾をチョイとやる。ナレスの王家とは夏に湖に避暑に行ってるから顔は見知ってるのよ。


「今日の海は青っぽいですが雲の加減で太陽の陽が変わるとサッと海の色もエメラルドグリーンに変わります。水もなめて見て下さいね、塩辛い水ですよ」


「それでは皆様、アロハを椅子に掛けてTシャツはどちらでも構いません。脱いでも脱がなくてもよろしいので海に入りましょうか」


皆がTシャツをスポーンと脱いだ。最初はTシャツ脱がないと思ったのに・・・。気が付いた、お手入れしたを見せたいのだ!すべすべツルツルのモサモサしてないを!


透き通る水、晴れ渡る空は限りなく空色で水平線に入道雲が見える。ギラつく夏の太陽も水の飛沫に反射して冷たく和らぐ肌を温めてくれる。


「水温27度です、海水浴には最高の日和です」

「コア、みんな北国なんだけど日焼けとか大丈夫?」

「紫外線焼け防止の錠剤を服用しています」

「え?ぼくは?」

「アル様は炎天下で野球されてましたよね?」

「あ!あぁ、その通りだけど」

「日焼けの程度や状態も判断できますね?」

「あ、うん」

「夏の思い出からどう判断されますか?」

「いらない」

拍手するコア・・・なんか釈然としない。


「でも、この体はアルだよ?」

「アル様の体は大丈夫です!」

「ほんと?」コルアーノ人だからかな?

「大丈夫!」まぁ、そんならいいか(笑)


アルムさんが海で遊ぶみんなにヒョウタンを投げている。凄く大きなヒョウタンだ・・・マテ!何だ!あのヒョウタンは(笑)


「コア!」と見ると海の家を指差している。


海の家にはたくさんのヒョウタンが並んでいる。人が乗れる佐渡のタライ船まで。海を見ると第三王子:アルトン(17)兄様と第二王女:アリシャ(16)姉様が大たらいに乗って大ハシャギで遊んでいた。


「アレは何?楕円形の袋・・・」

「あれはラクダのコブ袋のビーチボールです」


「・・・」


「ビニールなどアル様が認めるとは思えませんでしたので自然素材で用意してございます」


「・・・」


なんて返事しようか迷った。

大ヒョウタン・大タライ・大コブ袋。超絶テクノロジーで作った自然素材はダウトか否か返事に困る。イヤ!ダウトは嫌疑だ。明白な証拠が無い嫌疑はグレーだ。ギルティー(有罪)では無い。


アホな事考えてたら呼ばれた。


「アル様ー!」


リズが海ではしゃぎながら手を振って俺を呼ぶ。黄色の水着に黒の縁取りが目に刺さる。王妃様と同じ水着だった。思わず売店の大きなとコブ袋を持って海に走り込む。たらいを海に放り投げて、リズの近くに飛び込んで飛沫を上げる!

リズがキャー!っと悲鳴を上げる。


近くに来たシズクとリズを抱いて船に乗せて沖の甲羅干し用の富士山舞台まで押して行く。


3人で並んでギラギラ光る太陽を見上げる。お互いに顔を見合わせて笑いあう。マリア姉さんもアキーム兄さんも泳いで来て、舞台に上がってハアハア言いながら5人で寝転がる。


あっちの富士山舞台には王太子夫妻が2組4人で寝転がっている。視たら若い者は若い者同士でとか考えてる(笑) 赤ちゃんは?探したら侍女が波打ち際で遊ばしてる。


「タナウス最高だ!タナウス万歳!」アキーム兄様が両手を空に突き出して叫んだ。5人でタナウス最高!タナウス万歳!と沖の富士山舞台で叫ぶ。


全てのナノロボットがそれを聞いていた。1億年以上も聞いていない、イヤ、タナウスの民は叫ぶような種では無かった。初めて聞いた叫びだった。アルの観測により分かっていた、それは歓喜の叫びだった。コア達が寄りって来た人種の喜びの凱歌がいかだった。



その時点で今年過ごした俺の時間は全て止まった。

今のこの時間だけが今年だ!



肌を焼く俺の頭の中にBGMが大音量で響き渡っていた。


ジェットコースターロマンスが響き渡っていた。



富士山舞台で踊り出したいほど高揚していた。





次回 235話  ベクトルが交わる時

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               思預しよ

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