第229話  幽玄流免許皆伝



追視眼の恩寵を持つ武官にターゲットされた。

食堂で葡萄ジュースを飲みながら対策を考える。


食堂の隅の猫は真っ直ぐにアルを見ている。


追視眼ってそういうのかよ、追視で情報抜かれると思ってマジ焦ったわ。冷や汗が出た(笑)


良く視せてもらった。15秒も視たら丸裸に出来た。そう。フラッシュバックがバババと出る度に知りたいことが頭に叩き込まれるのだ。


追視眼の恩寵。この恩寵はターゲットの魔力紋を追って視る。ターゲットを目視した瞬間に相手の魔力紋を恩寵効果範囲内で自動追尾。追視の恩寵だからって追尾して視るのではない、それは尾行だ(笑) 追尾するのは自分以外の眼。ターゲットを見る眼を使って追視する。Lvが上がるとターゲットを見る者の視線を奪う。奪ってターゲットを見に行くように仕向ける事が出来る。


俺の眼と一緒の成長の仕方だった。俺の場合は(たぶん)Lv2から追視(多方向からの視線)が操れるようになった。検索とかもそうだ。あの頃は気になる、引っ掛かるという興味の意思で能力が乗っていた。


この追視の恩寵効果を人に使うと、ずっと見つめ続けてしまうのが欠点だ。一心不乱に視線を外さず追いかけるので、異常行動で露見する。奪うのは小さな動物の視線だ。今はこの猫の視線を奪ってる。


恩寵効果範囲は自分を中心に1km。一度に使える連続的な追視は3~4時間な訳ね、そりゃ魔力や寝る時間もいるからな・・・大体分かった。張り付いて恩寵休止時間に魔力を溜めて自分で追う訳か、大変だなお前の仕事も。


(タイム)今18時3分か、恩寵使用限界が21時なら丁度いいや、恩寵使い切って寝てもらおう。


そのまま立って管理棟に向かう、クランマスター室へ入って明かりを灯す。猫の視線を共有して見てるのを確かめた。


もう、マークした。お前の視界ではヘマしない(笑)



・・・・



2日前。


ハルバス公の影。第6騎士団の追視恩寵持ちのベンジャー・ストナウトは晩にメルデスに着き、アルをターゲッティングしようとハウスを突きとめて夜に灯りを確認し、朝6時にハウスの出口が見られる場所からアルを見ようと待っていた。


しかし、朝9時になってもアルがハウスから出て来ない。

(起きるのが遅すぎた、朝の6時ならすでにクランで読み書き教え終わっている。しかも間が悪い事に今PTの3人は他の大陸へ行って居ないので、ハウスから直接冒険号へ跳んで生成された魔獣と鍛錬して、冒険号からクランの管理棟に跳んでいる)



ハウスに居るアルをターゲットしたいのに家から出て来ない。お前いつまで寝てるんだよ!と毒付きながら朝の6時から昼までハウスの玄関を見ていて諦めた。お腹が減って堪らなかったのだ。


近くの食堂で聞いてみた。


「すごく可愛らしい金髪の子供をこの辺で見るって聞いたんだけど・・・やっぱりアル様の事なのかい?」


皆がと教えてくれた。逆に、あの子って冒険者だったのかい?と貴族風の風体で護衛を連れて歩く姿に聞き返す人もいた。お昼を食べながら細かい情報を集めて行く。やっぱりハウスの前の道を通ってこの食堂前を通るみたいだ。食事を取りながら通らないかな?と通りを見渡す。


その子供の近況を集めろと言う指示だからだ。


「とにかく本人見なきゃな」つぶやいてハウスに向かった。


暗くなるまでハウス見てたら明りが灯った。


「こんな日もあるさ」くじけるなと声に出して宿に帰った。


翌日の朝6時にまた玄関を張った。

また出て来ない。


「お前に用事は無いのか!」独り言も増える。買ってきた朝飯を食っても、まさか二日連続で昼まで出て来ないとは思わないので午後の2時まで見ていたが、諦めてお昼を食べに行った。


「これ、今日も出て来ないかもしんねえな・・・」


夕方まで出て来なかった。


明日の朝までに少しでも情報を得ようと、アル様が作ったクランで噂を集めていた。アル様は稼げない冒険者に寄り添って、教育をして一人前にしようとこのクランを作ったらしい。


エールを飲みながら鉄級6位のソロの冒険者の話を聞いているとアル様が居たと言う。指さす方を見ると金髪の小さい子が食事を食べていた。あれだ!むさい冒険者の中で髪が金色に輝く子供!

俺が家を離れたらこっちに夕食に出て来たんだ!


やったー!ターゲット見つけた。これで任務に入れる!


アル様を隠す様に視線の途中にPTがいて、しっかり顔が見えない。焦らなくて良い、そこに居る!嫌でも見られるのだ。

アル様が食べ終わって顔を上げたのでバッチリ視界に収めた。ターゲット完了。バッチリ見せてもらいました。


喜びの嵐の中、すぐに席を立ち。大慌てでその辺の猫の視線を奪ってクランの食堂まで走らせた。


・・・・


アルは管理棟からすぐに冒険号まで飛んだ。

交感会話でコアと対策を練っていた。


日常も何も掴ませない方策。


ジェルを使ってアルの魔力紋で他国へ離れて、追視眼の武官と共にメルデスを離れてしまう。


ジェルを使うならそのままコアが参ります。と俺の眼の前で俺になるコア(笑) (俺的にジェルがなった方が映画らしいんだけどと思ったがやめておいた)


馬はどうしよう? コアが作ってくれる?

「格納庫に南方型(騎乗型)を4頭出しました。参りましょう」


「これならいいわ!ナイスだコア!」

疲れもせず追っ手を好きなように引きずり回せる。


「御者の戦闘執事二名はニウが、戦闘メイドが2名、アル様でよろしいですか?」 

「充分だよ!」


「タナウスから貴族馬車持って来る」

「煌びやかなのがよろしいかと」

「(笑)」


追手が間違いにくい馬車を探すのも一苦労だった。貴族の持ち物から大きなトランクを5つ用意してコアに渡す。


「必要な物分かんないから、生成して」

「かしこまりました」


「これが野営用のマジックバックで各国の手持ちの通貨と軍用魔石も山ほど入れておいた」


野営に必要なありとあらゆるものが詰まっている。


「そんじゃ、クランの厩舎に馬と馬車置いておくから、7時過ぎに迎えに来てね」


コア達メイド部隊は管理棟の別室に有る転移装置で冒険号から転移出来る。


そっとクランハウスの裏に跳んで、厩舎と車庫に置いて管理棟に跳んだ。


19時半に管理棟を出てギルド経由でギルド長に会い、猫の主人を満足させるように20時30分にハウスに帰ってやった。



・・・・



翌日(12月24日)目覚めると冒険号に跳び、コアに偽アルになって貰った。そのまま偽アルを連れてハウスに。冒険号に戻ってそこにも居るコアに後は頼むよとお願いする。


アルはそのまま冒険号で生成されたモンスターと鍛錬を行ってクランの管理棟から読み書き教室へ向かった。


読み書き教室を終わって出てきたところ、遠巻きにメンバーたちが厩舎を見ている。コア達が馬車の前で4頭の馬と馬車を繋ぐ二人の執事の姿を眺めていた。


用意が出来たらニウが馬車を回し、メイド達が馬車に乗ってクランを出て行った。普段見ない立派な馬車に、教室の生徒や偶々たまたま通り掛かったメンバーが立ち止まって見ていたがメイド達がアル様に会釈するのを見て(お客さんだったのね)と納得して動き出す。


タッカート師匠との模擬戦を行う。

最近は棒で足を直されなくなっている。アルは視たら忘れない。


模擬戦終わった後にお茶に呼ばれた。


お茶を飲みながらステラ婆ちゃんが言ってくれた。


「アル様は幽玄流剣術を極めなさった」

「え?」

「おめでとうございます。アル様」師匠も言う。

「免許皆伝ですよ(笑) 幽玄流道場を開いてもよいです」

「あはは!」免許皆伝になっちゃった。


「分っております。アル様はその様な器では収まらん」

「タッカート!儀式でしょうに(笑)」

「そんなつもりで笑ったのではないのですが・・・」

「幽玄流免許皆伝のしきたりです、お笑いください」


「たったの6か月とはな・・・」

「本当に!縮地を学んだ後の皆伝は初かと(笑)」


「模擬戦はやってくれるんですよね?」


「おぉ、誘われたらやりましょうぞ。しかしアル様も分かった筈、柔らかな剣の極意を。それを掴めば齢や力に頼らずとも生きて行けます。アル様のとしかんがみれば、柔らかな剣は毒となります」


「毒?」


「そうですの。春の芽吹きの青々とした季節に、紅葉しこれから枯れていく剣は毒となる。季節に合った青々と天に伸びる剣をこれからは意識しなされ。勢いを持ち勢力を誇り青さが匂い建つほどの躍動の剣を学びなされ。多分それは師匠のリード・オーバン男爵も過ごして大きくなった季節でもある。今の己に似合う剣を探しなされ」


「はい、分かりました!師匠。ありがとうございます」

「アル様、おめでとうございます」



「幽玄流道場を持って良いのです?(笑)」

「いつでもどこでもお持ちくださいませ」


「クランの中でも?」

二人が驚く。


「幽玄流道場を早急に作ります。道場主はタッカート師匠にお願いいたします。縮地を教えても良い者が現れたら私が面談して見極め、災いがあれば後々まで私が責任もって刈り取ります」


「・・・」


「先程も私と師匠の模擬戦を楽しみに毎日通う者が教官の中にも居ます、是非その真っ直ぐな剣を冒険者全てにお伝えください」


「道場が出来次第、タッカート師匠の仕事は道場主の仕事と致します。ステラ婆ちゃんは立派な幽玄流の道場を大工さんと共に作り上げて下さい、今から大工のクラムさんを連れて来ます」


「道場主が師匠で、師範代がレイニー当たりなら如何です?レイニーはかなり見て学んだと思いますよ(笑)」


「アル様、まさか道場の復興がなるとは・・・」


ステラ婆ちゃんが涙ぐむ。だって視えるんだもん。失ってしまった父の道場に今でも悲しむ姿が。



・・・・



1時間ほど前。


猫は見ていた。


朝の7時20分にハウスの前に4頭立ての立派な貴族馬車が着いたのだ。執事やメイドが大きな旅行鞄を5つ箱馬車の屋根の荷台に乗せる。それは旅に出る用意だ。


「え!え?え?本当かよ!」思わず宿屋で口走った。


慌てて椅子から立ち上がり自分の荷物をまとめて宿屋の階段を駆け下りる。釣りは要らんと宿代をカウンターに乗せて馬具と荷物を片手に厩舎に駆け寄った。


ミウム領都かロスレーン領都だろうと当たりを付けて、猫の視線で追いかけて馬車の出た西門を確認して追視を切った。



・・・・



追視の恩寵持ちは、今まで経験した事無い体験をしていた。恩寵有効範囲半径1km。ターゲットの近くに陣取ったら追視の恩寵で追いかける。ただそれだけだ。今まで逃した事などない。


5~6km/hの商人の荷馬車のスピードとは訳が違った、4頭立ての貴族馬車は13km/h程で進んでいる。第6騎士団のベンジャー・ストナウトの乗る馬も4頭立ての貴族馬車と負荷的には変わらず追いかけられる筈だった。メルデス~ケルン間90kmなど1日の距離と高をくくっていた。騎士団の馬は騎乗型のスピードの出る馬なだけだ。生き物を働かせたら休憩はいる。1時間から長くて2時間に一回は必ず水を与えて塩や餌をやらねばならない。


馬車が休憩したら、一緒に休憩しよう。と思いながら追視を含めて恩寵効果範囲の1km以内で馬車を補足していた。メルデス~ケルン~ミウム間は森や林に中を蛇行する道で500mあれば森に視界が阻まれて尾行するのに丁度良いのだ。


しかし、2時間経っても馬車が休憩しなかった。


御者が水魔法の回復持ちしかありえない。ベンジャーは焦った、このまま強行すれば、何よりも馬がケルンまでの残りの距離70kmを走り切れない。川を横切るのを良いことに一旦休憩した。恩寵効果範囲からターゲットの馬車は抜けて行った。



・・・・


コアは観測衛星でベンジャーの馬を追っていた。

相手の馬の速度、航続距離と休憩時間、旅装の程度でベンジャーの走破能力を観測した。観測して予測するのが本来の仕事だ。


・・・・


ベンジャーがケルンに付くと切れたターゲットを補足するため追視で1km以内にアル様を探した。見つけた時には貴族宿に泊まっていた、厩舎を見ると馬車もある、確認して安心した。一日寒い中を走って来たのだ、風呂が有るだけの貴族宿に泊まって体を休めた。


・・・・


その日の晩。アルは報告を聞いて指示を出した。


「年末年始を挟んで寒い中の移動は心が折れるから、朝は良く寝かせてあげて、なるべく頻繁ひんぱんに休憩しながら進んでね」


「かしこまりました」


「姿を良く見せてあげて、子供らしく天真爛漫てんしんらんまんに笑ったりはしゃいだりして密偵の仕事もさせてあげなきゃダメだよ」


「承知しております、お任せください」


・・・・


12月25日の夕方

馬車はミウムに着き、その翌日(26日)あろうことか南門に進路を取った。これにはベンジャーもさすがに驚いた。その道はオードへ向かう道。神聖国イーゼニウムへの道だった。


年末年始なのだ。向かうなら実家のロスレーンだと思っていたベンジャーは道中、目的地の推理と要件について悩みに悩む。


12月29日。

ベンジャーはコルアーノ王国から消えた。



・・・・



時は戻る。(12月24日)


幽玄流道場の話をしてから、食堂で朝食を取って大工のクラムさんの所へ行った。クラムさんは教官の家を含め宿泊所、管理棟などの修繕も1年を通してやっているのでタッカート師匠の家も当然知っている。


アルはステラ婆ちゃんから視た規模の道場をこんな感じと話しながら予算に関係なく建てて欲しいと相談して、クランの立地を見に来てもらった。


道場の剣戟けんげきの音で宿舎で寝てる人や雷鳴商店の馬や鳥が驚くとか卵産まなくなるとか苦情が出るといけないので門から入って右に300m行った端っこを道場建設予定地とした。


道場横に仮設で大きなキューブハウスを建てておく。窓穴と暖房紋を付けて窓と扉を注文しておく。クラムさんには予算は山ほどあるので大工仲間で時間があればみんな誘って儲けて下さいとお願いした。


最後にステラ婆ちゃんに引き合わせて勝手にやってもらう。タッカート師匠には仮設道場でいつでも指導してもらう様に言った。


俺が思うに毎日模擬戦を見に来ていた独身:レイニー、先生:キャプター、結核:セロンズ、武人:サラウッド。この中で特にセロンズと嫁のマリアンナはもうそろそろ2位試験にポイントが届くので無理にでも扱く様にお願いしておく。


うちの教官、腕はいいのに戦争負傷者だったから実力関係なく昇位試験までのギルドポイントの稼ぎが遅い。その中でセロンズ夫婦は冒険者を続けていたのでポイントが貯まっている。


正式に集会で通知するのは12月29日の朝。幽玄流の道場を周知するとタッカート夫妻に伝える。



・・・・


ロスレーンに跳んだ。


お爺様の執務室行ってノックするとリサ(18)が出て来て驚いた。ジャネットに付いて虎の穴なのね(笑) 頑張れ!


お爺様に目配せして応接に入って貰う。

シュミッツとジャネットがお茶のワゴンを持って付いて来る。


「お爺様、僕の所にハルバス公の密偵が付きました(笑)」

お爺様とシュミッツ、ジャネットが目を剥いて驚く。


「ほう、面白いの。してどんな話じゃ?」

「メルデスの私の情報を集めているようです」

「まぁ、そんな所からじゃの(笑) 早かったのぅ」


「それで相談があるのですが」

「なんじゃ、公爵家相手の難題は困るぞ(笑)」

「以後の私の扱いです」

「扱い?」


「私は廃嫡はいちゃくした者と貴族名鑑に載っております」

お爺様もピンときた。


「そう言えば良いのじゃな(笑)」

「はい、すでに縁を切って音信不通と言って頂けたら」

「それは、不味くないか?(笑)」


「お爺様はそうでも、仲の良い兄弟が家に友人として半年に一回ほど招く事もございましょう(笑)」


「ようも・・・ぬけぬけと申すものよ(笑)」

「建前は大事かと(笑)」


「王家やハルバス公からの私関係の縁談やごり押しが有っても音信不通では連絡の取りようもございません。どうしてもロスレーン家とつながろうとするならヒルスン兄様に話を振られるのも良いかもです(笑)」


「アル!兄を!(笑)」


「王家や公爵家の者なら相応の為政者の嫁かと思います。よしみを結び家を盛り立てるには最高の嫁となります」


「子爵家に来るかのう?それも街の規模から最初は男爵家となるからの」


「年が明ければ、グレンツ商会が注文を取り始めるでしょう、来年のロスレーン家は台風の目になるかと思います、ナレスと付き合いだしてから塩の重要性が良く分かりました。うちには普通にありふれた交易品ではありますが、ない国には死活問題の交易品なのです。ロスレーン家のコルアーノでの位置付けは人口のみの話で今まで不当に低かったかも知れませんよ」


「お主も言うのう。しかし子爵家だからこそやっと目の届いた領地でもあったのだ。子爵家だからこそ男爵家の辛さを分かってやれる。伯爵家では目にも入らなかったかもしれんのだ。身の程を知らねば上を見るだけでは疲れるぞ」


「そうですね、ロスレーン家のヒルスン兄様の価値としてのお話でした」


「そういう意味では、確かに恥ずかしくないの」


「はい、最初は相手に「え?」と思われるかもしれませんが、お爺様の口からそれが出たなら、その意味を推し量れぬ器の小さな家では無いと思われます」


「まぁ、ヒルスン兄様次第ですが(笑)」

「そうじゃの、儂もそのように心積りはしておこう」


「それでは、伯爵邸内はいつでも歩きますが、当分ロスレーン領内では出歩かぬように致します、相互通信機で呼んで頂けたらいつでも参ります」


「うむ、承知した」


「あ!、謁見は今年はどうなります?フラウ姉さまの卒業を見にグレンツお兄様は王都に行くのでしょうか?領地を通過する領主様の商談が王都ならばグレンツお兄様は王都の方が話が早いのです」


「む、聞いておらんな。しかし、言われる通りじゃ。各領主が領地に帰って執政官をロスレーンに寄こせば夏頃にはなろう。儂の謁見の前後、王都マルテン侯爵の別邸で中立派のパーティーがもよおされる。間違いなく街灯の話が出るじゃろ。その場で煮詰まるなら何処の領も王都に執政官が詰めておるのでその場で証文を交わせるの。グレンツは王都に同行させる」


「それでは、この相互通信機を王都の別邸にお持ちください。話が決まり次第にグレンツお兄様から仔細を聞き、動こうと思います。王都で有益な商談をした領主様は領に帰って驚くでしょう(笑)」


「それは気持ちの良い話じゃのう」


「ミウム領の街灯は凄まじい数の上に、街道の野営場所まで設置する案件でしたが三日で出来てます。上手くすれば商談出来た領地なら同じ様に対応できるかと思います」


「おう、アランとグレンツには聞いた。儂の方からも各種人夫の受け入れの話をしておこう」


「ミウムの執政官も新年よりロスレーンに派遣されるそうですのでそちらもお取り計らい下さい」


「そっちは林業、木工、大工を当てにしておったの」


「私も新年までに執政官に予定地を聞いて、人夫用のキューブハウスを山ほど立てておきます」


「お!そうか、アル。昼食を食って行け、今から予定地の図面を届けさせる、シュミッツ頼む」


「は!行って参ります」シュミッツが出ていく。

「アル様の食事の用意を頼んでまいります」ジャネットも出る。


「それなら予定地を囲む東西南北に開門村を作ってしまえば後々そのまま使えますね」


「そうじゃの、やってもらえるか」

「はい、開門村をセットで作っておきます」


「今度は領都内のクリーン施設な、アレを中心に宿屋街を予定しておるぞ(笑)」


「評判良いです?」


「クリーン施設の周りの土地が取り合いじゃ(笑)」

「人員と土地だけ用意してもらえたら、すぐ作ります」

「まぁ、年明けじゃの」

「ですね(笑)」


「そう言えば、お兄様の叙爵祝いのパーティーでセリーナが来春結婚すると聞きましたが四月です?」


「おぉ!四月に結婚で住む家を三番街に作っておるぞ」

「取り合えず!」白金貨一枚パチリと置く。

「バカもん!良いわ(笑)」突き返される(笑)


「しかし、セリーナは結婚しても子供が出来るまで働くぞ、居なくなる訳では無いぞ」


「え?そうなのです?」

「そう聞いておるぞ、のうジャネット?」

「はい、その通りでございます」帰って来てた(笑)

「分りました(笑)」


「九月にお兄様の婚約が決まった時も来春と言われましたが王都行くなら出来るんです?」


「それはの、嫁に貰う方は連絡が来ねば用意出来んのじゃ」

「え?」


「リリーの時はリードと二人共が領内におった。リリーの用意が済めばすんなり進んだがの、本来貴族同士は領地が離れておるでの」


「フラウ殿は三月二十日に卒業じゃろ?別邸の荷物も引き払い挨拶を済ませて王都を出るならキャンディルに帰るとどうなる?」


「四月下旬になりますね(笑)」


「輿入れの準備や領内の調整を入れたら一か月は掛かる、それからロスレーンじゃ。詳しくは王都でレンツ卿が話されるであろうが早くて六月、遅くて十月が妥当な話であろうな」


「そんな感じになりますか、セリーナが来春と聞き、九月にもお兄様の婚礼が来春と聞いたので額面通り四月かと思っておりました(笑)」


「お主の母のエレーヌが輿入れした時はアランが任官明けで帰った五月であったがな、エレーヌは婚約の約定から二年待っておったので早かったな」


・・・・


昼食を供にし、ロスレーン領、子爵家領の予定地の図面と門の位置までを把握してタナウスに跳んだ。



午後はタナウスで細々した事をやろうと決めた。


本当に細かい仕事が増えちゃったのよ。リズの家族(王家)が来るかも知んないのよ。


細かい仕事とは王宮の紋章や貴族馬車の紋章の手直しだ。


蔓に三つ柏のミスリル鎧に入っている家紋である。王宮の両開きのドア、正門、玉座の間、に直径50mの家紋を刻んで行く。石畳の石材に線の太さが20cm深さ10cmで刻み込み、後は黒土を入れて黒の家紋を石板で貼り込む。


コアにもお願いしたら王宮中の食器を持って冒険号に跳び、装飾部分だけ小さい家紋がかたどられた食器がコンテナでドンと王宮に届いた。


王宮に最初から付いてたポールに紫に金糸の家紋の旗がひるがえった。


王宮馬車は四頭立てと六頭立てがあったが、同じ意匠の馬車が十二台あった。全ての馬車に趣味の良い大きさの家紋が点けられた。


大きなものだけ片付けて、後は頼むよと帰って来た。


次に経過を見たら煌びやかな馬具がコンテナでドンと届いていた。元の素材(元素?)があればエネルギーは使わないって言ってたな。



・・・・



寝る前に偽アル様御一行から連絡があった。

頑張って情報を集めてもらう様に言った。


経路は決めていた通り、寒い地方は止めてあげた。


コルアーノ~神聖国~リンデウム王国~サント海商国~セイルス商国~コルアーノ王都。


九か月から十二か月の外遊旅行にご一行は旅立った。

取材が一名随行している。各国の宿からハルバス公に便りが届くだろう。




次回 230話  リズの帰省

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