第230話  リズの帰省


12月25日。


今日はリズ先生の今年最後の読み書き教室になる。明日から29日まではクランの事務員四名が教室の先生に入ってくれる。前からヘルプで入れてくれと言われていたのよ。私塾で教わってきた事を先生として教えられるのはあこがれるものらしい。


教室の前に魔法を見てやった。教えた魔力制御の練習を真面目にやって、視た物を大きくトレース出来る程には上達した。リズが取り組む最後の生活魔法は時間魔法のアラームだ。フラウ姉さまが卒業するまでに覚えないと笑われるとプレッシャーを掛けている。


6時40分に事務員のルミナス、アレッタ、コリー、ヘルド(21)が教室に来たので王女付き使用人の四教室に引き継ぎに行った。年末四日間、年始一月八、九日の二日間の臨時講師だ。


七時に教室を終わるとタッカート師匠の所に行く。


「師匠!やりますよー」

「今日もですかな?」


「今日も楽しみに模擬戦見に来る奴らに言わなきゃダメでしょ」


「なるほど、そういう事ですか(笑)」

「そうそう!師匠を押し包み、打ち掛かれと言わなきゃ(笑)」


「やれやれ(笑)」


「ステラ婆ちゃん!大工さんと話は出来た?」

「出来ましたよ!今日絵図面を引いてくれるそうです」

「ならいいや、お茶飲んだりする応接も作るといいよ」

「はい(笑)」



模擬戦を始めるとすぐに人が集まって来た。十分程打ち掛かって一息入れて言う。


「俺は昨日、タッカート師匠の幽玄流剣術の免許皆伝をもらった。もう教える事は無いと言われた。師匠の剣は戦場で生き残る剣だ。それは俺たち冒険者の戦場だって当然生き残れる。これを知らねば損なのは分かるだろう?」


車座の一同を見渡し、一息切って言う。


「キャプター、レイニー、セロンズ、そしてサラウッドは少しの時間だが見て学んだな。お前たちもこの剣を学べ。あそこに仮設の幽玄流道場を作った。隣はこれから大工が道場を作ってくれる。セロンズ夫婦はもう少しで二位のはずだ、磨いて損は無い。これから師匠に技をえ。もう一段強くなれ」


「よし!取り合えずキャプター、サラウッドの二人掛かりで行け(笑) 一度レイニー、セロンズでやられてるぞ。後れを取るなよ」


皆が模擬剣を武道場に取りに行った。


結核セロンズの番の時に言ってやった。


「お前が二位に上がったらクラン雷鳴で一番の高給取りだぞ!マリアンナも二位なら夫婦で小金貨五枚だ(100万)そんなに俸給貰った上にメンバーの小坊主たちとPT行って小遣いせしめやがって。お前のポイント上がった分は儲かってんの分かってるからな!(笑) まぁ笑って子供と暮らせてんだ。気張れよ! お父ちゃんは頑張んだよ!」


周りの見学者、冒険者も教官も皆が大笑いで応援する。


二回目の番が回って来た独身レイニーにも言った。


「レイニー!お前だってリナス貰っちまえばセロンズに負けねえぞ!笑って暮らせるじゃねぇか!婆さんのラーナ付いて来るけどその分入れたらセロンズより上だぞ。子供なんか何人だって食わせられるぞ、リナス待ってんだから早くしろ!(笑)」


また見学者が大笑いする。


「アル様、レイニーの剣が乱れております。動揺するのでその辺で応援は止めて下さい(笑)」


「レイニー!男は剣だけじゃねぇぞ!(笑)」

「アル様!(笑)」


「どうせよぅ!俺だけ嫌われ者だよ!飯食って来るわ(笑)」

見学の輪がワッと笑って俺は食堂に向かった。


後ろ姿にステラ婆ちゃんがペコリと頭を下げてくれた。



・・・・



七時半。いつもは八時以降に食堂に来るが、今日は十分の模擬戦でヤジっただけなので三十分も早い。大体教官が管理棟前に来るのが八時半から九時の間なので早い教官目当てのPTは八時頃までに食っちまう。今が一番忙しい。


雷鳴食堂が出来るまでは回り持ちでかまどの火を起こしてた奴らも金回りが良くなって食堂に来てる。七位や六位のまだ稼ぎの安定してない奴らはかまどで自炊してるな。


列に並んで食券売り場のベルにモーニングプレートを頼む、銅貨四枚(400円)だ。一番混む時に決まったプレートを頼むと銅貨1枚安いメニューがある。お得なセットで日替わりの中身お任せだが、安くない時はロールパンが一個余計に付いたりするので人気のメニュー。見ると女の子は大体朝昼晩と日替わりプレート頼んでる。


新年過ぎたら忙しくなりそうなので、食ったらロスレーンの子爵領予定地、北街(仮称)の人夫宿泊用のキューブハウスを作りに行く事にする。


・・・・


交易路とは違って、15m程の幅の街道を飛空艇から見下ろす。どうせ舗装するならとロスレーンから石畳に変えて行ってやる。どっかのテーマパークみたいな石畳とは違うよ、掘れちゃったりぬかるみになって荷馬車が立ち往生しないように雨を流す傾斜を多少付けて土肌をザラついた石に固めて行くだけ。


空から眺めて波紋が伝わる様に街道を固めるのも爽快感があって楽しい。ついでに隣の男爵領まで街道を固めておく。


新しい街の北街予定地は取り合えず南北の街道に沿って大きな門が二個しかない。東西は道すら無いから多分周辺の村用の小さな門だな。街道沿いの木を道幅から15m奥まで釘バットで一気に斬った。


(シャド。この高さで木って切れる?)

(切れます、切りますか?)

(そんじゃお願い、僕仕舞うから)


シャドがシャンシャン切って行く。

切った木を俺が強奪していく。


あっちの世界じゃ御神体になる木まで伐採(笑)


見える範囲で切り株をモコモコ土ごと持ちあげて柔らかくして切り株をインベントリに入れる。土を締めて5cm上げた土台を作る。


南門より男子用女子用風呂付クリーン施設と、トイレを作って行く。終わるとキューブハウスと馬車の車庫をポコポコ作ってロスレーンと寸分違わぬ開門村を再現していく。門から道の両脇にキューブハウスと厩舎が出来たら暖房紋と給湯紋を付けて足元用の街灯をニョキニョキ生やす。


街の南門から北門まで7km、それは旧ロスレーン子爵領都と変わらぬ大きさだった。メインストリートを街道と同じ幅の石畳で南から作って行く。そのまま北門まで続くので、街らしいしっかりしたザラザラした滑り止めの石畳で作っておいた。道の両脇に予定にはない歩道を作って街灯もニョキニョキ生やした。街作りの時には助かると思う。


北門予定地から両脇の木をシャドに切って貰い、同じルーチンで開門村を作って行った。


南北のキューブハウスが完成したのでクランへ帰って日替わりプレート。券を持って座ると今日は当りと皆の声が聞こえる。オークのトンテキにロールパン二つにスープ。これ銅貨五枚ならマジ安い。インベントリから葡萄ジュースを出して頂く。やっぱ作り立てのアツアツは美味い。食べてる間にもう一枚日替わりプレートを注文して、お皿は後で持って来るとアツアツをインベントリに入れた。


食い終わったら、冒険号に跳んでコアに観測してもらい、メニューを追加。パンだけ格納庫の大型自販機でドンゴロス一杯出る様にしてもらった。新年開けて色んな国を見に行って悲惨なところが有るなら即効性の救難物資はジャガイモかパンだと思いついたのだ。安い定食に付くようなロールパンが飾りっ気が無くて良いと思った。それ以外だとカビの生えにくいバゲット(フランスパン)みたいなパンになるのよ。あの隊商の硬いパンだよ。


食事のコピーが済むと北街予定地まで跳ぶ。


西と東も同じ様に作った。片側150戸、道の両側で300戸、東西南北で1200戸、6人利用なら7200人が雨をしのげる。

サービスエリアも男女セットで作って行く。東西の開門村には道が無い、それは村人や旅人用じゃ無くて街の普請人足の住処用だ。


最後に公園に使えそうな大きな敷地に点在させて東西南北に男女セットで十二カ所のサービスエリアを作って行く。


終わると夕方だった。



陽のあるうちに余計な事出来ないかなと辺りを見回すと、小さな川があった。川幅は40m程だが両脇15mは河原なので実質10m、水深80cm程の浅い川だ。近くに村は無く40km以上離れているので灌漑用水かんがいようすいを確保しておく。いずれは街の外にも村が出来るだろうしな。


少し上流にゴゴゴと直径2km程の池を掘って中心を段々深くして漏斗状の池にして底を固める。水魔法があんま上がって無いので陽が落ちるまで眼と多重視点と並列思考で水をザーッと出して溜めて行く。


水出してる最中に気が付いた。これ大雨で池が氾濫して北街が水没とか無いだろな・・・ゾー!背中が寒くなった。これ不味い気がする、計画知らされてるのに勝手にやったら不味い気がする。


インベントリからメイドのルナを出して話しかける。ルナだろうがジュピターだろうが顔が違うだけで全部中身はコアだ(笑)


「こういうの作ったんだけど洪水になったらマズイ?」

「衛星で確認しております」

「・・・」

「大丈夫ですね、元々増水して川幅が40mになった川ですから同じ大きさの出口があれば理論上はため池の増水はありません、出来ましたら出口の河原を広くして貰えばより安全になります。」


「分った、ありがとうルナ」

聞いた直後に河原の両脇を5mずつ広げた。


「出来ましたら3km先のカーブを石化すればこれ以上の侵食による蛇行は抑制されます」


「分った、行こう」ルナを連れて跳んだ。


「このへんからでいい?」


「はい、これ以上浸食が進むと堆積と浸食で増水時に危険なカーブになります、あの木の所まで800m程堤防にして固めて頂けますか」


「分った!」


堤防とか開拓村で練習したまんまだ。川底から河原の下まで侵食されない様に石化した。


丁度陽が落ちるのでルナを仕舞ってメルデスに跳んだ。


そのままハウスの風呂で烏の行水。

貴族服に着替えてリズの屋敷に跳ぶ。


「どんな感じ?」

「あ!アル様!」

「もう少しお持ちください」

「そんなに荷物あったっけ?(笑)」

「皆がコルアーノ土産を実家にと(笑)」

「あ!なるほど」

「それじゃお茶でもして待つか」


インベントリから天幕を出して応接に敷く。


「それは何でございます?」


「皆の荷物をここに置けば、僕が全部持って行ってあげるから、王宮の小さな部屋があればそこで出してあげるよ」


「そうなのでございますね」

「そうでございますよ(笑)」


「あ!バラライカって知ってる?」

「知ってます、布のかぶる奴ですよね?」

「アレ、貴族用があるのよ(笑)」

「え!本当ですか?」

「うん、ちょっと買って来るね」

「はい」


パーヌのオットー商会に跳ぶ。


「オットーさーん!」

「え?アル様ではないですか。大きくなられて!」

「え!えへへ、大きくなった?」

「すごく大きくなってますよ!」わーい!


「バラライカの貴族用ってあります?」


「ありますよ、すでに布の方に生産が移ってます。コルアーノ国内は最初の年にだいぶ売りました(笑)」


「雪うさぎは在庫在ります?」

「ございますよ」

「他国の王族に会います」

「え!」

「数無いです?」

「数は?」

「有るだけ全部持って行きます」

「え!」

「取り合えず手付です」白金貨10枚渡す。


「余った物は持って帰って来ますから全部持たせて下さい」


「分りました」


そのまま雪のチラつく街に飛び出す。ギャー!貴族服が濡れる。すぐに冒険服に変えた。


大壺を山ほど仕入れた、大臣クラスが何人いるか分かんない。取って返してオットー商会に帰る。


パッと見、今年孤児院出てきたの?と言う子も手伝ってる。皆に裁縫Lv1を付与する。そのまま検索、オットー商会針子で全員に付与。


「はい、こちらが雪うさぎ、こちらが貴族用になります。赤い紐で縛った方は女性用となります」


「ありがとうー!」


「アル様!お待ちください!」

「え?」


「これが新製品となります、お持ちください」

「これも綺麗だね、え?尻尾も付けたの(笑)」


「銀ぎつねの帽子でございます、尻尾はとても綺麗な長い尻尾なので付けましてございます」


「これね、お金払うから子供用もう一つ貰えない?」


「わかりました、試作でアル様が買われると言うなら以後作って置いてみます。試作品を全部お持ちになって下さい」


インベントリに叩き込みオットー商会を出た瞬間にリズの屋敷に跳んだ。


すぐに貴族服に着替えて子供用をリズに出してやる。


「まぁ、綺麗なバラライカです!」

「ロスレーンで生まれたバラライカだからね(笑)」

「あとね、これ、きつねの帽子だって」

リズに被せてやった。


「尻尾がこんなに長いのですね」

「30cmはあるよね(笑)」



・・・・



執事長のセオドラが用意が出来たと呼びに来た。


「皆の荷物をここに置いてくれる?」


27人分の荷物が置かれる


それでは、皆今年は世話になった。ささやかな褒美をたまわるので序列順に取りに来るように。

使用人は黒のツヤツヤで統一して渡した。

布のバラライカは知っていてもこのような毛のぬくぬくが有るとは思っていなかった様だ。


荷物をインベントリに入れる。

「それでは皆で手を繋ごうか」


ナレス王宮の第二ゲート前に跳んだ。


「第三王女一行のお着きです!」セオドラが衛兵に号令する。


「聞いておりますね?」

「は!お通り下さい」


重厚な樫の木で出来た鉄鋲のはいる両開きの扉を開けてくれた。


やっぱナレスは寒さのレベルが一段違った。


小会議室で皆の荷物を分ける。帰省の暇をもらった者は、今日は王宮に泊まって明日、実家に帰るらしい。


そのまま家族会議の部屋に通される。

半年しか経って無いけど相互通信機が鎮座している。


しばらくして王家の家族が全員集合した。


※ナレスは75歳で国王は譲位し大公、太后になる。

大公、太后は公爵よりさらに上の爵位。今日はいなかった。


ナレス国王:カーマル・ド・ヴォイク・デ・ナレス(53)

王妃:メラルダ・ア・ヴォイク・デ・ナレス(50)

王太子:フォント(26)

王太子妃:アマル(24) 第一子 カークス(1)

第二王子:ケージス(22)

第二王子妃:ソネット(19)

第一王女:マリアンヌ(19)来春スラブ王国に輿入れ。

婚約者:スラブ王国王太子 アキーム(21)不在

第三王子:アルトン(17)

第二王女:アリシャ(16)

第三王女:リズベット(14)

婚約者:コルアーノ王国 アルベルト(14)



「リズベット!久しいのう。大きくなったか」

「お父様!三か月ぶりですわ」

「春に比べて笑顔が明るくなった事!」

「お母様!」

「アルベルト殿下。リズを預けて済まぬな」

「いえ(笑)」


「私は、二十九日まで仕事がございますので取り急ぎお土産だけでも先に出させて下さい」


「これはロスレーンの特産でございます、最高級の防寒具になります。これ、この様に被って外出する物です、コルアーノの王族用の物をお土産に持って来ましたので皆さんお取りください」


「大人の男用、女用がございます。女用で子供用を兼ねてますのでお取りください」


「お姉さま、この様に上の紐と下の紐で締めても良いですし、外出時には眼の下まで上げれば首から上は温かくなりますわ」


「ほう!これは温かいな、外出が少しは楽しくなるか(笑)」



「陛下、後程王宮の上級政務官の数とナレスの貴族家の数をお知らせください。貴族用のこちらの物をお渡しいたしますのでカーマル王からたまわって頂きたいです」


「ジョルノー、聞いたな。王宮の上級政務官と貴族家を序列順にアルベルト殿下に伝えよ」


「は!直ちに」


コルアーノで雪うさぎが百枚で足りたからそんなに変わらないだろ。貴族用も序列順ならなんとか足りると思うしな。足らなかったら謁見までに作ってもらって追加でいいや。


「もう直ぐ夕餉ゆうげだ、殿下も今宵はゆっくりしてくれよ」


「ありがとうございます」



ご飯を食べた後にお土産タイムを作ってもらった。


新年から始まる謁見えっけんで陛下が貴族家にたまわる高級雪うさぎのバラライカ。夫婦分。公爵家、侯爵家には子供の分まで回った。ジョルノーさんが貴族名鑑で確認して印をしていく。

普段王の側近でいる者にも夫婦分(宰相、外相、内相、執事長、メイド長など)雪うさぎが行った。


王宮内上級政務官にたまわる黒のツヤツヤバラライカ。

王宮使用人の序列を問わず男女ともに300で足りた。


ナレス王都は大山脈が近くに無いので雪はあまり多くないが空っ風に体温が奪われるせいで非常に喜んでもらえた。余りの雪うさぎの貴族用を陛下が渡したいと思う者にたまわって下さいと言ったら殊更ことさら喜ばれた。


王宮近衛騎士団、宮廷魔導士用に2600人分の貴族用バラライカを発注くれた(笑)



そしてリズが家族を海に誘った。


四、五年後に新国となる神教国タナウスへ。





次回 231話  奴隷解放再び

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