第212話 幽玄の笛
8月末。
翌朝の教室。
リズが朝一から火魔法を見せてくれと迫って来た。
簡単な火魔法から教えに入った。火よ!って生活魔法ね。
なんか人が変わったように真剣に見てくれる。視ると侍女やメイド達の火魔法と比べてやがる(笑) 食らえ!俺の火よ!
教室が始まってもリズが別人だった。
容姿は同じだが、傍目に見ても輝きが違った。
前列の小便タレ共をからかえない輝きで完封した。
教室が終わると弾む声を侍女に掛け屋敷に帰った。
侍女を連行して行った!・・・されてなかった。
こりゃ、生活魔法も心配いらないな。
7時からメンバー希望の面接を終える。今日は26名でまぁまぁの数だった。
そんな中、タッカート師匠との鍛錬も続いていた。
老夫婦が来て5月の初旬からもうすでに8月末だ。
2週間は休んだが毎日一時間の鍛錬。
ステラ婆ちゃんがいつも鍛錬をチョコンと座って見つめてる。
「アル様、終わりましたらお茶の用意がございますので召し上がって行って下さいましな」
珍しく、というか初めてお声が掛かったと思ったら鍛錬を最後まで見ずに家に入っちゃった。初めての事だ。京都で「ぶぶ漬け、どうどす?」(早よ帰れ!)と言われた気分だ。夫婦でクラン出たいとか言わないだろうな と表情が暗くなった。
「アル様?どうなされた?」
「いつも最後まで見てるのに行っちゃったから、クラン出たいとか言われないかと思って」
「わっはっはっは!ステラも好かれたもんじゃ」
「そういう事じゃ無いですよね?」
「違う違う!」
「よかった!お茶とか言われて焦っちゃった」
「お茶は無くとも朝食の席に上がり込みますがの(笑)」
「(笑)」
「ステラが茶に誘うなら気に入られましたな」
鍛錬が終わるとタッカート邸にお呼ばれした。
「アル様こちらへお座りください」
「はい、ありがとうございます」
タッカートもステラもニコニコして嬉しい。
「アル様の剣術は何処で?」ステラ婆ちゃんの質問。
「え?リード・オーバン男爵が師匠です」
「なんと!英雄になった小僧か?」
「そうですそうです(笑)」
「あの気性の小僧が弟子を育てたとは驚いたわい」
「タッカー、それほど?」
「渇きと餓えの心、師そっくりの餓狼の剣」
「あはは!渇きと餓え。餓狼の剣!最高!(笑)」
手をパンと叩いちゃう。
「アル様は粗さを知っておるのか?」
「傭兵ですから生活態度は粗いですね」
「アル様の剣はその様な剣には見えませぬよ」
「ありがとうございます。師匠の剣で間違いないです」
「その域に達したか?小僧は30位にはなっておるか?」
「40超えて奥さんと子供もいます」
「なんと!早いものよ。小僧が結婚だなど・・・」
「絶句する程酷かったんですね(笑)」
「タッカー!小僧、小僧と弟子の前で
「これは済まぬ、アル様」
「いいです!もっと話を聞かせて下さい。餓狼の(笑)」
ALL「(笑)」
「師に付いとる時は、否定の剣じゃったでの。それでも磨けばその域に届くかよ。儂の眼が節穴じゃったわ(笑)」
「否定の剣?」
「イヤ、敵の剣をも肯定したのじゃろ、足りぬ己に気が付いたのじゃ。そうか、そこまで昇ったか・・・」
「・・・」
「イヤの、否定の剣とは己の信ずる剣しか見ぬ剣じゃ。全てを拒み押し潰そうとする
「・・・」
「押しつぶされる前に悟ったんじゃよ(笑)」
「アル様はタッカートの剣も学んだ様子」
「当然です、師匠ですから。たくさん学んでます」
「見た限りタッカートの剣筋は見切っておりますね?」
「え!」
「隠さずとも良いです、見切った上で受けておいでなさる」
「・・・はい、とても参考にさせてもらっています」
「心配せずとも良いですよ。よくぞ我が流派、私のお爺様の剣を継いで下さった。感謝しております」
「え?流派?」
「左様、戦乱の少なくなる中では幽玄流を継げる者を探してもおらんかった。このクランに原石はおらぬかと思ったが継ぐ者は近くにおった」
「え?息子さん達は」
「なかなか剣で身を立てるのも大変でな。継いではおらぬ」
「流派も?」
「うむ、子を8人作ったがの、見込みのあるのを2人戦場で殺してしもうた」
「済みません」
「イヤ、違うのじゃ。子が痛い、辛い、泣き崩れるのを見ると親は打ち据えられぬ。そして半端に戦場で沈む。子には親は師になれぬ。また子も師と敬っても、どこかに親と言う甘えが残る。親の儂が一番半端じゃった」
「私は子育てで休んだらダメになったわね」
「8人も育てたらそうなるわい」
「だから極めた眼があるのですね」
「嬉しい事を言ってくれますこと(笑)」
「資質はあっても過ちを犯す者に教えてしまったりの、なかなか伝えるのも大変なのじゃ」
雷雲団長を思い出した。
「貴族でありながらその物腰、他国の姫君を
「アル様にタッカートの奥義を授けましょう」
「あ!アレですよね?」
「初日に見切った縮地恩寵。アレは驚きましたぞ」
「アル様のような
「体は
「(笑)」
「これを吹きながら大山脈を歩いて回りなされよ」
小箱から見せられたのは銀色の1cm×4cmの筒笛だった。
「赤黒いのと青黒いの30匹も斬れば会得できるでしょう」
視た。幽玄の笛:地虫を呼び寄せる。それだけだった。
「とにかく来るのを叩き斬れば良いです」
「寄って来て吞まれますから慌てず斬ればよろしい」
地中に引き寄せかよ! 青くなる。
「地中に呑まれるって事ですよね?」
「地中には埋もれませぬ、せいぜい40cmです」
安心した。
「初日は儂が付いて行こう」
「ありがとうございます」
ステラ婆ちゃんが笛を首に掛けてくれた後、大事に笛を服の中に入れてくれた。
「継ぐ者を見つけて奥義を授けても出てっちゃダメですからね?会得しても模擬戦は毎日やりますよ!」
夫婦は笑いながら頷いた。
・・・・
地虫の襲い方を視ていた。
タッカート師匠の時もステラ婆ちゃんの時も膝まで地面に呑まれてた。吞まれながら足に食いつく地虫を突いて殺してた。
夜に地中への引き寄せの対抗策を練った。
正攻法。地面に取り込まれたら地中の地虫は切れない。精霊剣を地中に突き立てるイメージで早撃ちのようにシュ!シュ!と腕輪から右手に出す。
イメージが浮かんでは消え浮かんでは消える、その度に動作を修正しながらシュッシュする。
クルムさんがまた何か始めたとチラ見する。
アルムのアホが俺と向かい合って同じ事するので笑えてやめた。本気で遊んでると思ってるのが怒れない。
・・・・
翌日。
朝の教室でリズに火魔法講習二回目を教える。
インベントリの導師の魔法袋に冒険セット(野営道具)があるので燭台ランプにろうそくを机に乗せて練習してる。
魔力が見えるのと、視えて再現出来るは違う。
俺はリズとは違うので
火よ!で発動する一瞬を連続した。(※魔力眼持ちは正確に魔力線を編むので呪文でイメージ的な魔力線構築はしない。無詠唱だ)ずっと発動し続ける編込みと魔力と回転の魔法陣を見せながら練習させた。
魔法陣を連続して何度も見ながら練習すれば俺の視ると一緒と思ったのだ。
リズは昨日と今日で生活魔法の火魔法を視て覚えた。頭の中で完全に編み方を覚えていた、後は魔法制御の精度が上がれば編めるようになると言っていたらそのまま発動した(笑)
クリーン出来るぐらい魔力制御できるリズ。初歩の火魔法なら見てすぐだった。
リズが使える魔法もお互いに魔法陣を見せて、
教室終わってからタッカート夫妻と話をして、朝ごはん食べた後に8時に北東門で待ち合わせ。
俺はそのままミッチスで朝食だ。
時間はまだあるが一瞬でユニフォームに着替えて準備完了。
待ち合わせた時、少し見せてもらえますかの?とおれのミスリルユニフォームを検分した。
「アル様、凄い鎧ですのう、これなら大丈夫ですわい」
「大丈夫です?」
「この修行用の
「よかった、使わないなら魔法袋で持ちますね(笑)」
「そこまでの鎧は中々ありますまいぞ(笑)」
使い込まれた
タッカート師匠と一緒に大山脈に行った。
身体強化で駆け上がる様に急傾斜を上がり2時間掛かって緩い牧草地に来た。木が一本も生えてない、足元の野草しかない場所だ。何も無さ過ぎて敵がいたら丸見えだ。
「この辺の高さなら居ますな」
「これぐらいの高さに居るんです?」
「大体木が生えなくなる高さから上ですかの。ほれ、あの辺からもう木が無いじゃろ?木が切れてクマザサになって来たら地虫の巣もありますな」
「へー」
視ると高さは1800mだった。まだ丘と言える傾斜地だ。これで山の一番てっぺんから1/3ぐらいの高さだ。ここは峰と峰のすそ野が繋がった場所。
(シェル、シャド頼むよ、助けてね)
(はい!)
(修行になりませんよ)
(!)
(シェルが厳しい事言う)
(えへへ)
(えへへじゃないわ!(笑))
笛を口にくわえてスースーしながら歩く(音が出ない)
テクテクその辺を歩くと来た。危機感知だ。瞬時に剣を抜く。
気が付いたら膝下までパックリ呑まれて焦る。
精霊魔法で自分ごと1m×1m×1mのキューブ状に地面をせり上げたら凄いのいた!赤黒いの。平たいミミズだ、幅60cm厚さ30cm長さ・・・5m以上だな。地中のアナコンダ?
膝まで埋まったキューブの上から下に見えてる凄いのに剣を伸ばしてめった刺し!
「いやはや、アル様は凄いですの」
「イヤ、凄いのはミスリルの鎧です(笑)」
「足は何ともないですかの?」
「はい。こんな倒し方で良かったです?」
「ふむ、地中か外かだけなので大丈夫じゃろう(笑)」
12時までで四匹狩って弁当食べながら師匠に戦闘の感想を聞いて少しでも効率の良い狩り方を模索していた。
「二番目の奴が強敵でした」
「脚の付け根まで飲まれると手こずりますな」
「分かります。
「 」声の無い笑い。
口を開けて縮地して来るから足と地虫の口がジャストフィットすると地虫の大口に落とし穴の様に落ちるのよ(笑)
深く地虫に呑まれると自分の脚を斬りそうで怖い。
口の中にびっしり小さなサメの歯の三角が逆刃に生えていて呑まれると抜けない。ミスリルの鎧で魔鉄の剣では通らないけど理屈抜きで脚に刃を叩きつけたくない。そうだよ!怖いんだよ。
ご飯食べてお茶を入れてたら、ちょっと果物を取って来ると姿を消した爺ちゃんがサクランボを山ほど摘んできた。どんなけ山下っとんねん(笑) ステラ婆ちゃんが好物という。どうせ余るから隣の
自由でいいなぁ、と思ったら俺以上に自由な奴は居なかった。
自由だけど
午後から二時間狩った所で九匹目を倒せた。
赤黒いの四匹青黒いの五匹だ。地中から音に寄って来て土の中進んで来る。攻撃範囲になると足音の場所に跳んでくる。
俺は歩いてるし地虫は眼で見てる訳じゃないから足を踏み出してると食いつけない時がある。
食い付けない時は、あれ?と頭がチョロっと出て来る。
出て来る頭をおりゃー!と待ち受けるのも慣れた(笑)
タイミングが合うと落とし穴の様に呑まれる。
タイミングが合わないと頭がアレ?と出て来る。
呑まれた膝までなら身体強化でズブズブと剣を突き刺せるし、股まで深かったら魔法でせり上げる。食いつき失敗したら出て来るの待つ。3つの戦術が確立していた。
「もう慣れた様じゃ、その戦い方で
15時半には、背中の
誰もいない丘陵地をスースー吹きながらテクテク歩いて誘う。寄って来て食いついたら交戦。途中から自分を餌にフライフィッシングしてる気分になってきた。
日没が近いので18時には上がって、一旦冒険号に跳んででタナウス島の整備状態を聞き、ハウスに帰った。
七時間で地虫十五匹ペースだった。
・・・・
翌日。
教室が終わるとそのままミッチスに食事に行き。走って北東門から出て昨日の場所まで跳ぶ。
昨日は7時間で15匹だった。今日は2時間早く着いたので20匹を目標に狩って行く。
が・・・2時間で3匹ペースに落ちて来た。4時間やって5匹は昨日の半分だ。もしかして俺が絶滅させちゃう?と感じて慌てて場所を変えた。
スースー吹きながら岩盤の場所を通るといきなりジャストフィットした。股下まで岩盤に!と思ったが岩盤に有る穴に縦に地虫がいやがった。岩盤に有る井戸みたいなもんだ。
穴に詰まった土に股下まで呑まれてどうしようもない。焦って隆起させたら穴の周りが岩盤で地虫の身体が出て無くて突き刺せない。脱出か!とも思ったが折角食いつかれてるのに勿体ない。次善の策でシャドに突き刺してもらった。
(シャドありがとう)
(はい、いつでも呼んで下さい)
(シャド任せじゃ恩寵付かないかもしんない(笑))
(はい(笑))
岩場で毎回これじゃ困ったなぁ。
あ!アホか!検索すりゃいいや。
地虫は笛で寄って来るから気にして無かった、引きずり込まれる対策ばっか考えてた。さすがに岩場の地虫は想定外だった。
岩場を地虫(イメージ)で検索した。
無数に空いてる穴にポコポコ入ってる!これはいい!ここってカルスト台地みたいに浸食される場所だ。
精霊剣で穴の中の地虫をいきなり突き刺そうと思ったが縮地技を受ける事が経験値かも知れないので足にバファローマン風アンクルトゲトゲを土で固めて足に付けた
呑み込まれた分は地虫の食道にダメージ入れて、仮にジャストフィットしても引っ掛かって口の落とし穴に落ちない工夫だ。
俺、異世界でパンクロッカーになってる・・・
穴の上で足踏みしながら笛を吹く。すぐ来た、入れ食い!呑まれてる足首をメチャクチャ動かし捻りまくる。(呑まれると全然蹴れなかった)まだ生きてるな、と剣で突いておく。穴から出たら右足が返り血まみれ。
変に
※脱出戦法:呑まれたら転移で地虫ごと出して殺す。
良い案の様だが師匠の持っていた脚鎧を考えたら余りにも戦い方が違うので恩寵付かない可能性があった。
(アンクルトゲトゲまでは見た目の戦い方が一緒なのでルールに引っ掛かっていないと思い込むローカルルール)
コロニーの半分を釣ってやっと12匹。検索GPSで次のコロニーへ跳ぶ。次のコロニーで3匹やったら日没前でハウスに帰った。
ギリギリ昨日と同じ15匹。
道は遠い・・・その日の晩作戦を練った。
・・・・
翌日。
道は遠くなかった、実は短かかった。翌日に飛空艇で丘陵の生息地を国を跨いで大山脈中探し回り、ピンポイントに釣りまくったらすぐ恩寵が付いた。
その後も地虫を倒す2週間。
途中で一回バーツさんからあの時の吟遊詩人が見つかったと連絡が入ったので、ネタを教えに行ってきたぐらいだ。
あ!ミウム伯から王女の馬車をナレスに届けた話と事の顛末を知ったと報告が入った。後日二人でミウムに訪れよとの話しだ。
それ以外はずっと地虫を狩っていた。
検証しながら地虫を倒すのに
縮地は赤黒地虫、縮歩は青黒地虫で付いた。付いた恩寵を数値で表示して縮地1.012 縮歩1.015としてその上で狩りまくった。
恩寵付いてからも狩って検証を続けた結果、恩寵攻撃を出させて殺した場合が一番経験値が高い事が分かった。(必殺攻撃を乗り越えて倒すから?それは分かんない)
恩寵が付くまでの推測経験値35~45。30匹倒して大体1000のしきい値で恩寵が付く。
恩寵レベルLv1からは30~35ずつ恩寵数値が上がった。
恩寵レベルLv2からは25~30ずつ恩寵数値が上がった。
恩寵レベルLv3からは20~25ずつ恩寵数値が上がった。
恩寵レベルLv4からは0~20ずつ恩寵数値が上がった。
恩寵数値に直せば、30=0.030上がると言う事だ。
地虫の恩寵レベルは3.999~4.9999位と思われた。目に見えて恩寵経験値が入らなくなったからだ。
ちなみに同じ様に縮地を使って鹿やイノシシやオークを狩ったら3匹でやっと0.001上がった。
恩寵Lvの高い相手こそ恩寵を上げる元だと分かった。例外もあるだろうが恩寵の秘密に一歩近づいた気がした。
地虫を狩るとまだ数値が上がる時があるので夢中になってたら、我に返るとフラウさんを王都に迎えに行く1時間前だった。
クリーン掛けてハウスの風呂にドッポーン!
明日は家族旅行だ!
次回 213話 秘密会議の新メンバー
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