第197話  傭兵の爺さん


5月4日


冒険号の訓練施設で恩寵数値を見ながらの鍛錬、コアの言った通り俺は剣術でも短剣術でも鎗術、盾術全てにおいて受けの数が足りなかった。


格上の攻撃をギリギリで受けないと恩寵伸びない。


格上のモンスターの受けに回ると攻撃の倍のスピードで恩寵経験値が跳ね上がる。今から考えると暁の副団長達との模擬戦がベストの鍛錬だったと納得する。


身体強化Lv2しかない状態でギリギリの受け。ああいうのが一番恩寵を伸ばす。気が付いてからアルムさんの攻撃を受けてみると、手加減してるから上がらない(笑)



朝に模擬戦をやるのはその日の体調を測る為になった。


バイオリズムと言うか、たまにゾーンに入った?と言うほど体のキレが違う時が有る。その時は相当無理が効く。体感ではまだ2回しかゾーンは無いが恩寵数値がメチャ上がるのだ。



そんな事を思っていた時期もありました。



鍛錬もこんな事は初めてだったんだけどさぁ。


調

この時点で俺はダメになってた。受ける一瞬一瞬の刹那を感じて最良の受けを絶えず模索する。そんなのが消えていたのだ。


俺は気ぜわしいのか恩寵の数値ばっかり気にするの。

スマホを気にする様に鍛錬してる間にも今の受けで0.002上がったとか視ちゃう。恩寵の数値見てカウントしながら鍛錬するの。


視れば視る程に上昇値が減って行った。


数値上げるための鍛錬になってるから上がりにくい。受けや攻めにから上がらない。受けたら上がると安易に受けに行く。


本末転倒。


10日で気が付いて恩寵表記を元に戻した。

数値が気になって身が入らない。



と名付けた。



俺は数値を見ながらの鍛錬に合ってなかった。


これから自分に足りないのは防御と認識して、疑似モンスターと戦うだけにした。今まで通り攻撃の軌道を見切って次の攻撃に繋がる最良の受けをすれば嫌でも上がる。そのうち上がる、気にすんな。



気が入ってないと何でもモノにならない。入り込まないとダメだ。数値を気にする俺はダメになる。


それが俺の結論だった。



・・・・



冒険号の訓練施設で鍛錬した午後。


ハーヴェスで買った種はシズクがもう少ししたら演習場に土を入れた畑に蒔くと言う。



育成実験用の種子をコアの注文通りに成長促進する。


現在4世代目まで交配した種は、実の数が2倍である。

2倍の分茎も太いし倒れにくいが籾を取る手間も増える。


実を太くして数を少なくし手間を無くす方向の実験も行う。


今やっているのは原産国と性質が全く違う二種の混合で優良な部分だけを求めて行っている実験だ。元の品種より確実に収穫量は増えると思う。


実が太い優良種と荒れ地に強い優良種を掛け合わせて荒れ地に適合する作物で収穫量を上げる試みだ、食べるの優先。糖度や食感などの項目は無い。農村は食感や糖度以前に作物に水を届けるのが大変なのだ。


あっちの世でもあった人工授粉と接ぎ木的な面で、俺の成長促進の恩寵は非常に便利。本来なら1シーズン掛かる1世代のハイブリッドが受粉直後にたねに変わる。


同時に土壌の性質や、水の量による生育の違いや実の量をデータ化して、土壌改良や有機肥料の開発までフィードバックしている。


最近は、食料用の穀物の自販機を格納庫に作って貰った。コメ袋の一回り大きい袋のドンゴロスで出て来る大型自販機だ。

有機物組成で分子ごと真似るコピー品だ。


お腹が膨れて栄養になるならなんでもいい。



小麦、大麦、陸稲もち米、大豆、小豆あずき、空豆、トウモロコシ。


小麦、大麦、陸稲はもみ殻付きで長期保存可能。

豆類、トウモロコシはすべてそのまま調理できるようにした実の状態だ。穀物によって40~50kgになるので、ドンゴロスも目が細かく強い物に交換した。


何故、そんな事をしているか。



俺が考えた結論に関係する。


戦争には手出ししない事にした。


交易路補給地の紛争では、レプトさんの考えを視た上で迷って、ラムール会長の意見を聞いた。世界規模の視点であっちの世の歴史に照らし合わせ解決策を取った。


サルのケンカから戦争までが種の進化の過程と知ったら動く気が無くなっちゃったんだよ。闘う奴らは勝手にやれ。


要は受け継いだタナウスの成果を有効に使う方法として紛争や戦争で逃げ惑う人達を助けようと思うのよ。でも連れて来ただけではいきなり作物出来ない、畑を作って種を蒔いて作物が出来るまでの1年間は食べさせなきゃならないの。


俺の方舟計画。


毎日働けば、お腹が膨れて家族が平和に暮らせる国を作る。


一人が面倒を見られる畑の耕作地を与えて、そこでハイブリッドな作物を育てて暮らしていける世界を作りたい。


俺はエルフの知恵を教えてもらった。

豊かな森で生きて行く術を知ってるんだよ。

アルムさんはと言った。


裏返せば買ってこなくても花の蜜と蜂蜜はある。


砂糖を知ったら欲しがるように、武器を持てば武器の性能を追ってしまう。俺だって+15の指輪を追ったんだ。俺以外ならもっと執着すると思う。


神の理を知らぬものは今の点の時に執着する。


人に生まれてくると物質に囚われてしまうから、いい方向に執着をコントロールしてあげたい。


俺には見て暮らしてきた日本の経験がある。


核爆弾が2個も落ちた戦争で悲惨な運命を辿った日本。焼け野原から復興した国は他国に攻めようという感情すら持って無かった。戦争に翻弄された人達ならその苦労を解ってる。だからそういう人たちを集めて、国を作ろうと思う。


国と言っても最小の村から始める予定だ。まぁ、戦争だから村単位、街単位の移住になると思うけど。



・・・・



建国する立地を検討するため世界地図を見せてもらった。


凄い事を知った。


まず横掘りの魔穴を出してもらった、周辺の森も大山脈も形が変。地図を見たらなんかおかしいのだ。聞いてみたら作ったのが1億年前だ。


驚いて聞いた。「なして?」


コボルさんの指示船長命令探査機探査衛星を飛ばしてたそうだ。指示の情報観測が終われば探査機を戻す。コアは予測演算が仕事だから情報観測の指示待ちは当然だった(笑)


コアは1億年も眠っていた探査機が自己診断上は使えると言ったが落ちたら怖いので試運転を機体格納庫の中で行ってもらった。

衛星軌道まで乗せたら太陽熱の温度上昇と下降でエネルギーチャージが要らないという。


30/160機を格納庫から出しますと聞いて、交感会話してるので見たいけど動けないと言ったら解いてくれた。


早く見たくて機体格納庫に走る。


直径2m厚さ60cmの探査機が静かに浮くのを見ても光ったり動く所が無い。ロボット掃除機様の銀の機体がそのまま浮いている。

フライパンが逆さになった塊だ。脚さえない。


そのまま真上に影が出来て消えた。

あれがショートジャンプと言うから次元跳躍だ。


探査機はおよそ2時間で稼働し星全体をカバーできると言った。低軌道は2200km上空で120分程で星を一周。

中軌道は高度2500km~30000km上空で任意の時間で一周。

高軌道は38000km上空で静止軌道で大陸を一望できる。


北の中央大陸の形が解った。

やっぱ近場の大陸から自国のコルアーノや神聖国を見てしまう。その場所を見ると拡大され、鉱物資源や生物資源、水源まで探査され表示される。全体を見ようと視線を動かすと地図が広くなる。


北の中央大陸は、あえて言うならオーストラリア風な感じだ。1億年前から2/3ほどになっていた。大陸は移動して圧縮され大山脈が皺の様に増えた。


引き千切れて離れて行く最中の場所もある。


「コア、この星の立体模型作れる?モニター連動で情報も表示させて欲しいな」

「情報が集まり次第。今の情報ではこんな感じになります」


目の前にナノマシンが煙の様に集まり球となり浮く、たまごの割れた殻が張りつく様に大陸と島が表示されて行く。


「生命反応とか拾えるかな?」

「周囲温度と違う個体と地表上の動体識別です」

「充分だよ」


「楽しみだなぁ、良い所があればいいなぁ」

「アル様の思われる所は四季のある地域ですよね?」


「希望で言えばそんな感じの土地で危険生物が居なくて商国連合の船が立ち寄れる位置が良いなぁ」


「地形図が完成次第に土地や島のピックアップ。気候予測と防衛予測を立てておきます。


「コア、ありがとう」



・・・・



夕食の時に3人に言う。


「明日、パーティーの食材を狩りに行くからね」

「ヨーグルトドリンクは2Fの奴で行けるからパンケーキとアイスクリームはクルム姉と私で用意しておくね」

「うん、お願いね」


キラーバイソン、ヨージ鳥(前回大好評)オーク肉を狩りに行くけど沢山取れたら季節も良いし、クランでもBBQやろうと思いつく。


邸宅完成記念(150人)の5倍の肉がいる(笑)



5月5日。


キャンディルの奥の冒険者も来ない山で3人で狩りまくった。

ゴメ、吊るしまくった。シズクが。

シズクが方向と距離と何匹言うから走って行くだけだった。

何も考えずに走って〆るだけで取りすぎた。


クラン用の肉はギルドの食肉工場に持ち込んだ。



お兄様のパーティー用はすぐに捌いてキラーバイソンは塩コショウ。ヨージ鳥とオーク肉はピリ辛、塩コショウで大壺に漬けて行く。捌いた肉をロスレーンに届けると料理部総出で切り分けて料理長のマジックバッグに収まった。


50人弱の身内のパーティー。当日は挨拶合戦も何もない。


お爺様から副メイド長のセリーナ(26)と第三騎士団のチャック・セバストン(武官5位:29)の婚約が決まったと教えてもらった。従士(12)からの生え抜きで騎士になってからお父様の側付きで戦争に参戦してたそうだ。


そのままセリーナは結婚式まで働くそうなのでパーティーでの発表になるだけという。お爺様が演習場のある三番街に家を建てて来年の春頃に結婚するって。


覚醒した時23歳だったセリーナが・・・と感慨深い。俺は何も関係ないが身内の結婚は寂しさと嬉しさが同時に来る。


覚えてるかな?俺が小金貨3枚持ってキャンディルに行くと言った時、お茶のカップをカタカタ鳴らしたセリーナだ。



2日後の夕方、食肉工場に寄って約740人分の肉を受け取って来る。クランで一斉にやると俺が大変なのでPT単位で肉を支給して、勝手にやらせる。クラン運営関係者だけは皆で焼肉大会をやろうと思う。それならかまども大混雑しないと思う。


・キラーバイソン6頭 2560kg 1名3.4kg

・ヨージ鳥多数   680kg 1名0.9kg

・オーク26匹    2300kg 1名3.1kg

 骨付き、バラ肉等  400kg 


クラン雷鳴、運営員の家族含む740名分。


凄い量だ。余ったら孤児院で焼肉大会だ。孤児だけじゃ無くて司祭やシスターだって焼肉食べたいよ。



・・・・



ミウム伯の視察以降最初の月曜日に驚いた。

ギルドの紹介状を持って来るPTの数が異常だった。


毎週1~2PTだった加入希望者が12PT60人も並んだのだ。1カ月ペースで200人超えるぞ、下手すると250人ペースだ。


紹介状には先月のギルドでの水揚げが載っている。普通に稼げてるPTが来てるので念入りに面接した。



今までの希望者と違って、クランの名前が欲しい奴らが半数だった。稼ぎや技術を求めていない。庇護が欲しい奴らだ。


今日来たPTの6割が中堅のPTだったが、クランによく誘われ、クランに入れば揉め事が多い、断れば角が立つ中で煩わしい事を嫌ってうちに来ていた。クラン雷鳴のメンバーと言うだけで角を立てずにお誘いを断れるのが魅力らしい。


稼ぎは充分あるので宿屋やPTで借りている家を拠点に、水揚げの10%をクランに払うと言う。マジか!どこのクランに入っても10%~20%の上納金は当たり前らしいのでPTの皆が納得していた。


生活に困ってない加入者が増えても困るので、名前以外の特典何も無し、クラン加入料、月10%で許可した。


怪我した時は回復魔法で治してやろうと思い、怪我をしたらクランハウスの事務員に連絡しろと言っておいた。不思議がるので、怪我で稼げないなら宿なんか泊ってないでこっちに来いと前払いで加入料もらった分は好きなだけ風呂付の宿舎に泊めてやると貴族風で凄むと嬉しそうな顔をする。



クランメンバーが一気に増えリナスが空き部屋が少ないと言ってきたので宿舎を増やした。1棟208名で4棟832名まで入れるが、男子寮、女子寮の兼ね合いもある。3対1位の割合で男女比もあるが、女子だけのPTも少なくない。PTの男を気にしなくて良いと言うのは楽みたいだ。


取り合えず同じ作りで6棟の宿舎と調理棟を増しておいた。

これで2080名まで入れる。これで2000名近くまで宿舎の事では悩まない。



・・・・



そして、


並んでるPTの中に冒険者と傭兵上がりのお爺さんとお婆さんがいた。旦那のお爺さんが就職希望だった。お婆さんは補助はするが子育てで引退して剣を置いていた。


息子や娘が独り立ちした老夫婦だったが、爺さんは傭兵も冒険者も2位の手練れだった。視た瞬間に雇う事を決めた。


神聖国が出来て傭兵稼業を辞め冒険者に復帰。ミウムの城塞都市に来て1年だと言う。食うのには困っていないが若い者と張りのある生活を求めて教官になりたいと言う。


視たら、死と共に消える技を後進に託したいと願っていた。

!と時間が出来たら模擬戦とかで教えてもらおうと貼り付く事を決定した。


雇われるなら氏素性のしっかりした貴族が良い。とクランの噂を聞いてすぐに決めたと言う。俺のには驚いていた。


雇うのは決定だが金級の2位をいくらで雇ったら良いのか分からない。


PTの前衛アタッカー専門職で3位まで登った二人。独身:レイニー(43)と結核:セロンズ(45)を呼んだ。技術的に貴族家の騎士団で言う副団長クラスの技量はある。この二人の今の俸給、小金貨2枚大銀貨5枚(45万)


「この二人に勝ったら、二人の棒給と同じにする」

爺さんは大喜びで手合わせすると言う。


一緒にお婆さんが笑って爺さんの肩を叩く。

タッカー愛称、手加減しなさいよ」



普段は冷静。手の内を晒さない二人は相手が格上、手加減無用の相手だと瞬間でスイッチが入り、その気になった。


結果。


俺は一人ずつの立ち合いを言ったつもりだったが、二人が前に出て来る前に爺さんが二人に向かって行った(笑)


痩せた老体は対人特化の傭兵だった。二人に近寄るとスッと斬る。激しく打ち合うでもなく、間合いに入ると剣を合わせて優しく流してそのまま斬る。


斬った後に元の位置に戻る。


老体が剣を構える。まだやるつもりだ。


今度は二人の攻めを待っている。すぐにレイニーから斬りかかる、崩れた所をセロンズが狙う。レイニーの剣をいなしながら逆にセロンズを斬ろうと発せられる一歩と殺気でセロンズがまったく動けない。


口はレイニーに向けられる。

「ほう、そこまで振れるか(笑) しかしまだまだ」

「そこは一歩引かねば相打ちまでじゃ」

指南されている、レイニーが子供扱いかよ(笑)


「クッ!」間合いに入られると為す術もなく斬られる。


二人を斬ると元に戻って、また構える。


二人を3回斬った。60年以上人を斬って今も生き残ってる。負けてたら生き残って無いよな(笑)


傭兵や冒険者と職業で分けても、それは隠し様のない剣豪だった。リード師匠の剣が丸くなって、豆腐の様に柔らかく、つかみようの無い剣。子供達に剣を教える熟練のお爺ちゃんの剣だった。それでいて詰将棋の繊細さで柔らかく柔らかく詰みに向かって流され、受けられ、必然の様に斬る。


大森林や大山脈で魔獣から生き残る能力、オールラウンダーの冒険者。例え前衛アタッカーでも勝てる訳なかった。


二人は納得するまでタッカート爺さんと打ち合った。

模擬戦で2位の実力を見せてもらった。


レイニーとセロンズも傭兵稼業でその年まで生き残って来た老人の凄さを目の当たりにした。俸給同格の序列TOPを文句なく認めた。(3位冒険者は皆、俸給アップで現在同じ額を貰っている、セロンズの嫁マリアンナも同額だ)


二人が認めたことでタッカート(75)嫁ステラ(67)爺さんをクランの名札の序列トップにして棒給小金貨2枚銀貨5枚(45万円)とした。


武技に掛けてはどこの武官にも引けを取らぬ騎士団長クラスの剣豪に速攻で家を用意した。


「人生の最後に貴族家に雇って貰えたわ」


と家を見上げてステラ婆さんの肩を抱いて笑いあった。


暁のリード・オーバンを知っているか聞いたら、?と知っていた。そこらじゅうの戦争、紛争で傭兵に付いて歩く英雄小僧を見たと笑う。


視たら戦場に赤く輝く若き鬼がいた。振り乱した髪とギラつく眼光だけで野犬の雑兵に見えるがれっきとした傭兵だ。血塗られた武具で身を固めた若き師匠。


これをと言うか、タッカートの爺さん。


師匠の生い立ちは視て知っていたが、本人の若きイメージと第三者のイメージの乖離かいりが凄かった(笑)


今度会わせてみようかな。





次回 198話  Tie a yellow ribbon

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