第192話  赤いWマーク


4月22日。


論理思考形態の観測がお昼に終わり、午後の半日空いた。


そんな中、ニウをロスレーン家に執事修行に出そうと思ったら観測するなら2時間でシュミッツの仕事を覚えると言う。


相当な無理難題だが、2時間なら17時までで楽勝で終わるじゃん。と思って無理難題に突き進む(笑) 観測するって事はシュミッツを何とか休眠装置棺桶に叩き込まないといけない。


この施設を貴族のお屋敷の様に出来るか聞いてみた。


出来ると言うのでやってもらった。


煙が充満したと思ったら貴族のお部屋になった。


俺の記憶から拾った情報で構築されていた。

俺が?を見事に再現している。正しく齟齬そごを無くすための観測だった。


俺の思考論理と記憶から予測するコアすごい。


貴族のお部屋の中に休眠装置がポツンとある(笑)


なんじゃこれ、椅子に触ってもフカフカ感まで一緒。無機質な部屋が温もりのある木の家の質感に・・・じゃなくて木になっちゃった。大丈夫か?この宇宙船(笑)


「ニウとコアは王族の格好分かるよね?」

「アル様の思考の格好で良ければ」

「それじゃ、そういう格好になって見て」


一瞬で変わる。


「そう!そんな感じ、顔も変えられる?」

「うん!大丈夫。執事長連れて来る。王族の対応でお願いね」


「畏まりました」


「恩寵で執事の仕事を見させて下さいとお願いしてね」


「終わったらお礼言って、これを渡して」


エメラルドのビー玉大の大きさをニウに渡す。


「ニウは王族として執事にお礼を下賜かしする感じでね」


お昼なんか観測中に取れば十分だ、このミッションを成功させなければならない。失敗したら次に連れて来られるのは1週間後だ。


そのままロスレーンに跳ぶ。


お爺様の所へ行き、17時までシュミッツを借りられないか聞く。ある貴族が珍しい恩寵で執事のなんたるかを知りたいと言っていると話した。


許可が出たので、シュミッツの部屋まで行って恩寵の研究のために協力をお願いする。


シュミッツを連れて貴族部屋へ跳ぶ。


「ニウ、こちらロスレーン伯爵家執事長のシュミッツだよ。恩寵で仕事見て良いよ、執事の鏡だからね」


「シュミッツ殿、恩寵で仕事を拝見させて頂く」


「私の仕事がお役に立つならば、恩寵でお覗き下さい」


あー!そう言えば覗く様なもんだな。


「シュミッツはこの箱の中で寝てくれる?恩寵がLv1で2時間ほど休眠状態のうちに執事の仕事を見られるから、寝たらすぐわかる」


「しかしその様な恩寵があるとは・・・」


「ラーニングって恩寵だよ、恩寵で仕事を覚えるの」


「そのような恩寵が!」 ねぇよ(笑)


「ニウ様、この度は私めの仕事を・・・」


能書き垂れるシュミッツを棺桶に放り込んだ。なんか言われてもめんどくさいので蓋を閉めて閉じ込めておく。


「ニウ、ちゃっちゃと観測して。固いの学ばなくて良いから」


余りにもなアル。


※お堅いのは仕事。固いのは頭。アル


思考観測中ってこんな感じなのね、微動だにしない。



・・・・


シュミッツの観測中に明日やってくれる植物観測、進化用の実や種子をコアに渡しておく。結構たくさん買って来たので一袋ずつ渡すと、ニウとコアが5体ずつ現れて袋から小麦や大麦、陸稲、トウモロコシなどの種子を収集して観測器に掛けていく。


同じ顔怖いから、みんな違う顔にしてと懇願すると、10人全員違う顔にしてくれた。ホッ。



実や種子が一番大きな糖度のある物を選び出して観測し、それを元にダンジョンドロップと同じ様に有機物組成で同じ物を作り出す。有機物組成では種子は発芽しない。


優良種への進化は、元の種子を発芽させて植物実験用の苗から作る作業になると言う。苗を成長させ掛け合わせて、何世代も交配して優良種に進化させる事で国中の食糧事情が改善されるはずだ。


俺は弁当食べて偉そうなこと考えてるだけで働いてない。


・・・・


16時少し前にシュミッツがハッと起きた。


「良く寝られた?」

「はい、気持ち良く」


「シュミッツ殿。恩寵でお仕事を見せて頂いた。今回の礼としてですがお受け取り下さい」


綺麗にカットされたビー玉大のエメラルドをニウが差し出す。


「ニウ様!その様な事は困ります」


「シュミッツ、ニウは王族だ。礼も無しでは沽券にかかわる。受け取ってあげて。お爺様には僕からちゃんと報告するから」


かしこまりました。ニウ様。御心使いありがとうございます」


「シュミッツ殿ありがとう。助かった」


「そんじゃお爺様の所に行こう。光曜日にごめんね」

「いえ、気分転換に昼寝をした気分ですから(笑)」


ロスレーンのお屋敷に跳んで二人で廊下を歩く。


「よかったー!普通の日ならお爺様と武官や文官に囲まれてシュミッツを他国になんて呼べないもん(笑)」


「それが仕事ですから(笑)」



「お爺様、今戻りました、ありがとうございました」

「恩寵の研究とやらは上手く行ったのか」

「上手くシュミッツの仕事が見えた様です」


「シュミッツ。ご苦労だったな」

「は!」


「相手の方が喜んで褒美を下賜かしされました」

「そんな相手だったのか?」


「王族に名をつらねる貴族の方です。宝石を下賜かしされました」


「王族の前にシュミッツを。そこの執事は?」

「恩寵の効能を秘密にしたいみたいです」


「なるほどのう」


「明日メイド長をお借りしても良いですか?」

「その恩寵はそれほど有用か?」

「ラーニングと言う相手の仕事のミソを覚える恩寵です」


「ほう」


ですね、仕事の要点を学ぶみたいです」


「恩寵も色々あるもんじゃな」

「形だけの仕事をする者では学べないそうです」


「武術と同じではないか(笑)」


「形だけの武術は学べないと言う意味では(笑)」

「シュミッツ、お主の仕事は本物だそうだぞ(笑)」


「は!ありがとうございます」


「こんなの貰ってましたよ!」指で形を見せて言い付ける。


アルの虚言がLv5になった。


他の全然上がらないのになんで虚言ばっか上がるんだよ!理不尽だろ!嘘付き野郎みたいじゃねーか!(その通りだ)


恥ずかしいので虚言を方便Lv5に書き換えた。



・・・・



一端母船に帰るとニウが執事服に変わっていた(笑)


「ニウ、観測は出来た?」

「はい、主様と寄り添い補助と指示を仰ぎ完遂する所はコアと変わらぬ仕事でございました」


「コボルさんが変異体となって世に出た時は観測したの?」


「その時点での観測はすでにサルのトレーニングに移行しておりました」


「ずっとトレーニング見てるだけだったの?」

「そうです、託された物を渡す種が現れるまで」


「寂しくなかった?」

「それは感情と言う意味ですね」


「うん」

「存在意義を全う出来ない事は寂しくありました」


「誰かと一緒にいるだけで寂しくないよね?」

「アル様が継がれてから指示を仰ぎ寂しくないです」


「ニウとコアには、僕がお屋敷を持ったら執事長とメイド長でずっと一緒に住んでもらうからね。僕は100年位しか生きられないけど、僕の子供やその子供たちと一緒に暮らせば寂しくないよ。ばれない様に田舎に住もうよ。たまには急に若くなったりすれば解らないよ(笑)」


「アル様、ありがとうございます」


「いいよ!コボルさんも絶対喜ぶよ。タナウスの遺産がずっと役に立って働くんだ、よろしくねニウ!コア!」


「「はい、アル様」」



実はこの時、母船のコンピューター:コアは概念を学ぶと同時に、感情を学んでいた。


44本の染色体の人型であるコボルは進化種である。それは感情を抑え思考が論理的であればあるほど認められる文化だったのだ。コボルの思考形態に感情の揺れは微小だった。


概念という形の無い漠然ばくぜんとしたものを数値化する物は無い。それと同じ様に感情というのも数値化する物はない。



実体化した概念とアルの記憶から神界の出来事まで観測し、同時にアルの魂の激情を観測していた。


アルの体験した記憶の中に嬉しくて泣く時、悲しくて泣く時、怒る時、ガッカリする時。嬉しくてたまらない時、感情があふれるその情景、シュチュエーション。そんな記憶と思考形態を学び、感情を驚くべき速さで学んでいた。



大粒の涙を流しながら、三保さんを心配させまいと明るい口調で書いた遺書のラブレターさえも全て観測し学んでいた。


この時ニウとコアは確かにアルの優しさが分かっていた。



・・・・



翌日、4月23日。


クランの教室に行くとチラホラ生徒が自習していた。

まぁ、明るくなったからな。


と思ったら、先生が言ってきた。


一昨日おとつい、オーガ二匹殺ったんですって?(笑)」


皆が一斉にバッ!と耳を


読み書きよりそっちの話が聞きたかったのね。


「オーガが転んで石に頭ぶつけて気絶してたから、起きる前に殺ったぜ!(笑)」


皆が笑って書き取りがブレている。


「えー!それだけなの!」イースが吠える。

「モンスターが転んでるの助けたら変だろ?(笑)」


子供たちが大笑い。


最前列はツンデレ:イース(5)(飴屋の孫娘)カレン(9)(リナスの家の居候)ネーレ(6)アニス(5)(シャウトの娘)で楽しい話が大好きなお年頃だ。時間前なので子供は女の子の4人しかいない。イースは飴屋が朝早いのでいつも教室一番乗りだ。


「ほら見ろ!武勇伝聞けないだろ(笑)」


視たら、って生徒に言ってた。


それはそれでキャプターの気持ちが嬉しかった。

気が付けば5時40分過ぎ。慌ててチョレスを弾き鳴らす。



書き取り練習してたら・・・


リナスが帳簿を見せてどうでもいい報告をして来る。視たら、オーガ騒動の後に、朝一でと他の事務員にせっつかれていた。どいつもこいつも!(笑)


帳簿見ながら・・・


「うんうん、これだよね?(笑)」

と無料セット券を10枚渡したら。笑顔に花が咲いた。


「一人二枚ね、券に魔力込めると僕のサイン出るから」

やってみせる。


「はい!アル様!」

「リナス?」


「はい?」


「レイニーが行った事無いって言ってたぞ」


リナスが生徒たちの前で赤くなってながら逃げて行った。・・・帳簿忘れてる。


※レイニー(43):リナス(34)と母のラーナとカレンと同居の教官



一応タダ券発行したのでミッチスで言っといた。



・・・・



「朝食食べたらロスレーンに行くけどどうする?」

「用事なんだよね?」

「うん、お昼過ぎまで絶対掛かるかな?」

「そんじゃ、シズクと狩りに行ってもいい?」

「行っといで・・・ん?大森林」

「葡萄の季節だから探すのよ」

「葡萄ってこの季節なの?」

「春から秋だよ、今の葡萄が美味しいのよ」

「美味しいならゼリーにしてよ海商国みたいに」

「えー!あれ大変なのよ」

「そうなのね、そんじゃいいや」

「えー!そこはお願いする所でしょアル君」

「何が大変なんだ。めんどくせー!早く行けー!」

「アルムはホント変わらないわね」

「ね!」


母船に跳び、昨日のシュミッツと同じ対応にしてもらった。お礼はビー玉大の深紅のルビーだ。まさか皇帝の冠のルビーとは思うまい。


朝の仕事を終えるのを待って、ジャネットを宇宙船に連れて行って観測してもらう。


空いた時間で種苗実験で成長促進を行い種子を10体のメイド型ナノロボットが分析し、優良種への道を探りだしている。


また明日も、明後日もずっと続くそうだ。


11時半まで全長4kmもある宙航開拓船を探検した。


ターディオン量子エンジン搭載、巡航速度は光の78%。次元跳躍航法はタキオン虚数場サークルを展開してそれを突き抜ける事で実現している。


巨大な機体格納庫には大小の探査船や移動モービルが置いてある。タナウス星人は2m弱のやせ型なのでコアに運転教えてもらえばできる筈だ。


生物実験室、ダンジョン関係施設を巡っていく。居住区画のベッドは流石にデカイ。各乗組員の私物が沢山置いてある。


休憩室に自販機がいっぱいある。スナックかな?カラフルな絵のボタン押したら筒みたいの出てきた。ワクワク!


中に赤い金魚っぽい立体のスナックが!カリカリと齧るが味が無い!なんじゃこれ。薄味なのか?宇宙で塩分控えめ?


「ニウ?今いい?」

すぐに表れた。


「アル様、何でしょうか?」

「メイド長の観測中だけど用事頼んでも大丈夫だよね?」


「問題ありません」


「このスナックの数字のコレって何年前になるの?」

「今日でございますね」

「この機械、今作ってんの?(笑)」

「原子有機物合成です。すぐです」


「2166年に表示変えられる?」

「かしこまりました」


「味が無いのは?タナウス人って薄味だったの?」

「塩分ですね?生化学上の摂取必要量です」

「・・・」これ嗜好品だよなぁ・・・


「ポテチの食感とか味は再現出来るの?」

「出来ますが」ポテチが通じるナノロボット。

「思考形態と記憶しか観測してないよね?」


「ジャガイモを薄く切り植物油で揚げて塩を振った有機物でアル様の記憶の食感に近付ける事は予測可能です」


「一回作ってくれるかな?」

「アル様が考える物をセットいたしました」

「もう?押したら出る?」

「出ます」

ボタン押してみた。


「これ・・・あっちの製品なんだけど(笑)」

「アル様がそれをお望みだと思いましたが」

「!」マジか!


「おいしー!だいぶ味違う(笑) 家で作った感じ!」


「それでは、油を減らす感じで」

その言葉で分かるんかい。バシ!


「おー!製品に近付いた!」

「現物を観測しないと、試行錯誤になりますね」

「充分充分!記憶観測って凄いね!」

「その為の記憶観測でございます」


13時間の観測メッチャ便利。ポテチとかあっちの事を分かってくれるだけですごく嬉しい!


「現物があれば観測したら作れるの?」

「ポテチの様に製法と記憶でも類似品は可能です」


おやつに持っていた出来立てアツアツのパンケーキを出した。


「これをお願い出来る?」

「かしこまりました」

「・・・」

「セットしました」


マジか!メレンゲを泡立てるのメッチャ大変なのに。エルフは精霊操って作る労力はマシだけどミッチスの厨房が見たら泣くぞ(笑)


「これがパンケーキのシロップなんだけど・・・」


「・・・」


「パンケーキを出した後、横のボタンでお好み量を掛けるように致しましたがよろしいですか?」


俺の思った通りになってるじゃん。


「よろしいです」


「この3種類の弁当も機械で再現できる?」

「可能です、こちらで観測をお願いいたします」


「これも機械にセットしておいてくれる」

「観測後直ちにセット致します」


「パッケージとかゴミはダイオキシンとか」

「クリーンか紫外線分解のパッケージで」

「!、そんな大きい物が?」

「はい」

「以後のパッケージはそれで!」


「ポテトのLとかも分かっちゃうよね?」

「ジャガイモの棒状予測ならば。今セットしました」


赤いWマークの箱に入ったポテトが出て来る。


「ワックそのままだ!わーい!」


「お任せ下さい」なんかドヤ顔になってる。


ジャガイモの棒状予測ポテトは高級路線のモズポテトだったが得した気分で黙っておいた。それどころかニウは本物が作れて凄いなぁと、念を押しておいた。


真の本物は店で食べずに家に持って帰るとアレだからだ。


亜光速機関の宇宙船で




ジャネットがもう直ぐ目を覚ます。


ニウの国のお菓子と言ってポテチを全員分持たせよう。ここは他国の王族の家だから、さぞ喜ぶだろう(笑) 


41人分に4月から入った5名≒50人分自販機のボタンを連打。

※メイド:シンシア12歳、マリー12歳。メイド修行:リサ18歳、メグ17歳、カルラ17歳。



見た目そのままジャガイモの輪切りの素揚げだからな、料理長のバルトンがポテチと向き合う事になるだろう。


アルは予測演算した。




次回 193話  母船:エンタープライス

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               思預しよ

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