第174話  覇権国家


新年三日目。


朝の鍛錬が終わった朝食。

お爺様、お婆様にクラン:雷鳴の展望について話した。


昨日の晩に話が出来なかったのは、何も考えていなかった事を家族の前で説明する様で恥ずかしかったからだ。


メルデスのギルドで収益を調べた結果、金額が大きかった事。多人数から少額としても、今の冬の時期でも300人で月額にして大金貨2枚(400万円)の見込みがある事を踏まえて教官を6人雇い収入の半分を棒給に充てた事。底辺の冒険者の環境を整える様に動いたこと。


お爺様は静かに聞いた後で言った。


「貴族が金を取ったら責任は重いぞ、その名に傷を付けるな。多分動き出せば経営が付く。貴族に無いと恥じゃぞ(笑)」


「お爺様に言われて演習場を己の領と考える事にしました、領に良い事をと意識が変わりました」


「それでよい。宿屋にならずに良かったのう(笑)」


「はい!」


「丁度新年明けに兄上ミウム伯に礼状を書こう。ミウムは冒険者の活躍で成る領じゃ。兄上もお主に下賜かしした事を誇り、喜ぶであろうな」


お婆様が静かに微笑んでくれている。


何も言われなかった。それで終わりだった。俺も将来はお爺様みたいになりたいと心底思った。


報告を聞いてアルムさんの顔が明るくなった。



・・・・



クルムさんに新年だけど村に帰らなくて良いか聞くと、「出てきたばっかに何しに帰るのよ?」と逆に聞かれた。

イヤ、新年の挨拶とか義理とかあると思って聞いたのに・・・。


もうね、人が10年一昔ならエルフは100年一昔だ。当てはめると100日は10日だ(笑) クルムさんの齢見てるとそう思う。


そういう事でお休みを利用して今作ってる船を見に海商国に四人で跳んだ。造船所も新年でお休みだと思ったが、働いてる人がいるので視たら出稼ぎに来てる人がトンカンやっていた。



船体が出来たから、にかわをベットリ船体の継ぎ目に塗っている。シズクが船を見て世界樹だと気が付いて目が点だ。


元の自分だからな・・・考えたら酷い話だ。


そのまま作業を見ながらピタピタと触っている。触った所の木がお互いに一つになって行く。継ぎ目のにかわも一緒に一つになって行った。


継ぎ目が無くなって行く船体に職工が驚いて口がパクパク、アウアウ言っている。そのままを表面に塗っておいて下さいと頼む。


本来ならにかわを塗ったら、船を浮かべて浸水などの不具合を確かめた後、また造船所に上げて、内側も浸水しない様にを塗って行くらしいが防水作業工程が一切必要無くなった。


シズクに隣の船もやってもらった。


色々な事が同時進行で行われていて、大きい造作が出来たら海に浮かべて前後左右の重量配分を見ながら作って行くみたいだ。大きい構造物が出来たら内装を仕上げて行く手順だな。


バラストを圧縮したスペースにはりが組まれ出しているが、全部組まれた頃に来て一体化するとミールさんに伝言を頼んだ。



船首は神々の像が付くので俺はネロ様を彫って貰っている。要らないと言ったら聖教国の御子を疑われそうだったから・・・。

大雑把に造船所の片隅でネロ様の輪郭が彫られている。


交易船はデフローネ様の(繁栄の神)。軍船はネフロー様(戦いの神)を定番で船首像にするらしい。


造船所から見える丘の世界樹でシズクが誇らしげだ。



・・・・



サント海商国の新年の街を散策して、今年もお世話になるのでバーツ海神商会にも顔を出す。


「レプトさーん」

レプトさんに新年の挨拶と大壺を二つ渡す。


「あれ、新しい子かな?」キャバ嬢か!


「シズクと言います。よろしく」

「レプトだ、この商会の御子様担当だ、よろしく!」

笑って握手するが、いつの間にそんな担当が出来た?


年末は忙しかったみたいだ。バーツ海神商会も巻き込まれて海戦やったという。レプトさんはやってないが自分がやったように話す(笑)


「それって海の商人の戦い?」

「イヤ、本当の海戦だ」

「えー!勝ったの?」

「勝ってないな、負けてもいない」


「どゆこと?(笑)」


「海商国に交易されたくない国があってな、その国がうちが動けない様に途中の補給港を封鎖しやがった。最初は嫌がらせで、商船同士の海戦になったが軍船まで来やがって港を封鎖しやがったんだ」


「ふーん」取り合えず視ておいた。


揉めてから軍船来るの早すぎるから最初からその気で嫌がらせに来て、揉めた理不尽さに怒ってるのね。うちを相手に揉めたケジメ取れってヤクザ国家か。まぁ目を付けられたら意地でも因縁付けて来るわな。


「・・・」


俺に何期待してんの(笑) 知るか!


「そんじゃ、ラムール商会にも行きますんで!」


「ちょちょちょ!待ってくれ!」


手を振りながらに跳んだ。



・・・・



ハムナイ国のラムール商会に跳んだ。


「タクサルさーん」

事務所の外から窓越しに呼ぶ。


「御子様!なに遊びに来てんだよ(笑)」

「新年の挨拶に来ました」


「そうか、あれ?女の子が一人増えたな?」

「シズクと言います。ね?」

「よろしくお願いします。シズクです」

「タクサルです、この商会の番頭です」


「面白い話聞きましたよ!」


「え!何の話だよ?」

「レプトさんが困ってる話(笑)」

「あー!(笑)」

「知ってます?」

「噂にはな?」

「ラムール会長は詳しいです?」

「まぁ、詳しいだろうな」


「会わせてくれませんか?」

「聞いてどうすんだよ?(笑)」

「レプトさんが泣きそうなので」

「しょうがねぇな、行くか」


会長宅の厳重な警戒を抜けてやっと会う。


「ラムール会長、新年の挨拶に来ました」

大壺を三つテーブルに置く。


「御子様、これはご丁寧に」

「この国の戦争はまだ続きそうですか?」

「お互いに引きませんからな」


「終わらせたらダメなんですか?」

「終わらないでしょう(笑)」


「戦えない様にしたら?」

「戦えない様に?」

「壁を作ってしまうとか」


「作ってる間に攻め込まれますぞ(笑)」

「一瞬で作ればどうです?」

「まさか!・・・」

「出来ますよ?壁商人になりますか?(笑)」

「・・・」


「今日は伺いたい事がありまして」

「何でございましょう?」

「帝政国ミランダについてです」

「ははぁ、噂を聞きましたな」


「噂も一方からでは判断できずにお聞きしたいと思いました」

「賢明な判断ですな」


「その国の事って分かります?」


「彼の国は海軍力が強く、それを背景に植民地を開拓しそこの資源を特産や生産、加工して持ち帰り、また中継地として新たな植民地を作っている国ですな」


植民地:その国の原住民や王国を武力で服従させて自国の支配階級を送り込み、農業生産、鉱物資源、特産品(日本でその時代に有った干しアワビ、干しシイタケ、小判(金)みたいなもの)を製造、採掘して自国の富とする政策。先住国民や現地獣人部落を蛮族として奴隷化し労働力とする。


「私の国では、その様な国を覇権国と言うのですが、同じ様な列強と言われる国と覇権を巡って対立し潰し合うと思うのですが

対抗する国はあるのです?」


「あるにはあるのですが住み分けてますな」 

「住み分け?」


「お互いに戦いが長引けば疲弊する。よってルールを決めて富を分け合う方法もございますぞ」


「ルールが有るのですね?」

「植民地は見つけた者の物となる」

「え?」

「征服した者の地とすることです」

「えー!」


「何も驚く事はございませんぞ、この国も征服しようと攻められてますからな。わっはっはっは!(笑)」


「あ!そうか、そういう理屈ですか(笑)」

「左様、陸と海の違いですな」


「うーん、国境で争うのは当事者で済みますけど、一国の思惑で交易路や補給地を封鎖とか好きにされたら皆が迷惑しますよね?」


「海商国が請け負った荷が止まっておりますな」


「それです!奪って無いだけで封鎖して閉じ込めたら海賊と一緒じゃないですか?何かそういう海のルールがあるのです?」


「海賊に限らず強き者に弱き者は勝てませんな、そういうルールなら何処にもありますな」


「強い者がルールです?」

「動物でも人間でも一緒ですな」


「違いますよ!動物は満腹なら襲いません」

「これは失礼、一本取られましたな(笑)」


「軍船が無くなるとどうなります?」

「無くなると安堵する国が多いですな」


「無くなって世界に不具合は起きませんか?」


「武力で征服して富を得、拡大していく国策ですからな。他の国が出てくるかも知れませんが、征服して我が富とする海路の植民地政策は止まりますな」


「その国は他国を食い荒らしますか?」

「人の欲が止まらぬ限りは続きますな」


「ミランダとハーヴェス以外にむしばむ国は?」

「その二国が競って、他の出る杭を叩いておりますな」


「たまには袋叩きにあって反省すると良いのですね?」

「国も反省しないと伸びませんな(笑)」


「次に出てきそうな国は?」

「リンダウ王国」

「植民地政策です?」


「作っても最近ハーヴェスと戦い、取られましたな」

「植民地の民と覇権国では格差は酷いです?」

「槍と弓と呪術士VS大砲と魔法士と魔動帆船です」


「それも酷い(笑)」


「融和は無理ですぞ」俺が読まれてる!笑うわ。

「商人が導く事は可能ですか?」


「導くとは?」


「各国の商人が出入りし自立させる導きです」

「事例がありませんので何とも言えませんな」


「これを持つ豪商がルールを作り仕切れば?」


オリハルコンのコインを出した。


であれば可能でしょうな」


「海商国のバーツ会長は大きいですか?」

「大きい」


「それではラムール会長とバーツ会長にやってもらいましょうかね」


「え?」


「植民地政策の海上覇権国の戦力を無にします」

「ん?」


「海の上は誰でも通れる、封鎖無い交易路にします」


「とても分かり易い。豪商たちも動くでしょうな」


「ラムール会長、いつでも相談に来られる部屋と庭を頂けないですか?」


「そこにある応接と前の庭を使って下されば良い」


「それでは、このコインはお返しします」

「イヤ、持っていなされ。こんな物はいらん」

「いらんって、厄介者みたいに(笑)」


「コインじゃ無く、儂の顔で皆が動きます(笑)」


「色々相談に乗って下さりありがとうございました」

「イヤイヤ、なんの」


「海商国のバーツ会長の所へ行って、まとめてきます」


「困っておる筈、喜ぶじゃろうな(笑)」



・・・・



御子が帰るとラムール会長が言う。


「タクサル、各国の支店から物資を集めてミランダとハーヴェス両国の植民地に早急に送れ。聞いておったな?自立させる量じゃ、着く頃には終わっとるぞ」



・・・・



バーツ海神商会に顔を見せる。


レプトさんが駆け寄って来て話しだす。


「御子様!さっきの話・・・」分かってます。


「レプトさん、バーツ会長と会いたいのですがいます?」

「少し待ってくれ、会議中なんだ」視て分かった。


「丁度良いので、お昼食べに行きましょう」

「え?」


「忙しいでしょうから私が行きます」


「みんな、美味しいお昼食べに行こう」

「レプトさんも行きます?」

「俺食ったんだよ」

「残念!奢ってもらおうと思ったのに(笑)」

「そんじゃ、四人で行こうか」

「分かった分かった!行くよ!」



・・・・


会議中のレストランの前で言う


「この国の高級店だからね、良い服で入ろう!」

皆が一瞬で着替える。


「神聖国ってこういう人ばっかなのか?」

「そうですよ」嘘だった。


「帝国が勝てる訳ないな(笑)」

「勝って無いですよ。皇帝に譲られたのです」

「そういう事にしておこう(笑)」


店のマネージャーに言う。


「各会頭の席の部屋へお願いします」

「御子様、サントの十傑(評議員)との会議なんだよ」


「そんじゃ、これですね」

教皇代理になった。


マネージャーにタクサルさんが頷く。

一緒にお昼のコースを四人分頼む。


「聖教国の御子様が参られましたが・・・」

「何、御子様が?お通ししてくれ」


「皆様、不躾ぶしつけな訪問をお許しください。聖教国、教皇代理アルベルト・ド・ミラゴ・イ・クレンブルと申します」


皆が席を立ってくれるが、座ってもらう。

聞かれる前にぶっちゃけた。


「ミランダとハーヴェスには困ったものですね、ネロ様は公平に人をお作りになった。進んだ軍備で驕り高ぶり人の道を外れ本来磨くべき道を欲に曇らせ周りに迷惑を掛けているようです。神に変わって御子が天罰を与えに参ります。つきましては40名程も乗れる魔動船をお借りしたいのですが」


「御子様!」


「彼の国は植民地政策を進めているとか、他国の民を奴隷とし富を奪う植民地など持てぬようにします。ちょうど世界の海を股にかける方たちが居られるようなのでサントが解放された植民地を持つのは如何ですか?」


十傑の皆がポカーン(訳:植民地って何?美味しいの?)


「特産を生む貿易港として栄えさせるは商人次第」

「出来るのですか?」


「神の思し召し次第です(笑)」


「船が用意出来ましたら、植民地を救う案件で各地の商会へ跳ぶ連絡員の乗船は許可します。補給地に閉じ込められ悩んでいないで行動しましょう」


「私は今から食事を致します。皆様、今動かないと商機を失いますよ」


9人がすぐに席を立って消えた。


十傑中九人が旧帝国の屋敷を神聖国から買った人だった。後の一人がバーツさんの頷く姿に出口に向かった。


「レプト、御子様は私がお相手をする。海神商会を全員集めろ」


「御子様、お聞きしたく存じます。どこまでされるお考えなのでしょうか?」


「彼の国の海洋軍事力をすべて奪います」


「全てでございますか?」


「全てです。他国をむしばみ富を漁る者も侵攻する力を無くし反省するでしょう」


「対価は如何いたしましょう?」

オリハルコンのコインを出す。


それを見たバーツ会長が驚愕する。


「それを何処で!」


レプトさんも口が堅いな。さすが商人!


「ラムール会長はこう仰いました。今は奴隷であろうとも、世界の豪商がルールを決め、世界中の商人が導けば、植民地も笑顔に出来るだろうと」


言って無いけど、俺が訳すとこうなるの。


「・・・」バーツさんの喉がゴクリと鳴る。


「自国の資源、特産を奪われ、奴隷扱いの国民の笑顔をバーツ会長が請け負って頂ければそれで結構です」


「・・・」


「難しいですか?商人とは取引を通じてお互いに笑顔になるのではありませんか?」


「時間が掛かるかと・・・」


「国は一夕一朝では出来ません、少しずつ積み上げるのでは?」


そうだよ俺も導師に言われたよ!(笑)


「及ばずながら努力させて頂きます」

「対価はそれで充分です」


「ラムール会長はバーツ会長は大きいと仰ってました。サントの十傑も動けば植民地も喜びましょう」


あーあ!またやっちまった!


変な話を聞かされたお陰で、やる事が既成路線だよ。何やってんだ!そんな暇あるのか俺!神聖国も終わって無いぞ(笑)



暇が無いのは分かってる。

だから当事者で困ってる海商国を道連れだ。海商王達を巻き込んだ方が楽なんだもん!神聖国の二の舞はご免なんだよ。俺だって辛いんだよ!



でも、この世の覇権国家は早晩現れると思ってたからな。対処法は頭の中で出来てる。1月7日までに終わらさねぇとなぁ。


眼の前には美味しい美味しい食べる3人しか居ない。俺も食べようと着替えた。


・・・・


※80m級魔動帆船(商船)で1200トンの200名程の乗組員。

大砲(中型)船首に2門、船首水面下の衝角しょうかくを相手船の水面下に突き刺して甲板上で肉弾の海戦。


覇権国の魔動帆船(軍船)も同クラスで積み荷の代わりに大中小の大砲60門と砲弾で遠隔射撃と魔法士による魔法攻撃。300名超の乗組員。


魔動船は魔動回路のノズルで推進する船舶を指す。


80m級の最大の軍船は喫水線近くに150mm、3トンの大砲を片舷10門その上の甲板に100mm、2トンの中砲10門、その上の甲板に50mm、1トンの小砲10門備えて喫水下にバラストと砲弾を積んでバランスを取っている。船の復元力(傾いた時に元に戻ろうとする力)は地球の中世当時のスペイン、イギリス帆船の倍以上ある外洋船。


砲は砲身のみで車台に置かれ船のレールで反作用を逃がす。 


・・・・



なんと魔導船が用意されるまで3時間も掛かった。

もう16時だ。一回家に帰ってご飯いらないと言ってきた。


レストランで50人分の豪華弁当を受け取ってレプトさんにツケといた。請求来て泣き叫ぶが良い!



朝、神の御子に変な話を振った罰だ。お供えは頂く。





次回 175話  落日の日

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