第170話 辺境伯の招待
毎日、と言っても三日程でアルムさん達は階層を進んで行く。
クルムさんもシズクも集団戦闘に慣れてない。自分の時は頑張るが、人のモンスターは突っ立って眺めてるそうだ。
弓で狩りをしたりエルフ同士で連携して獲物を狩っても、前衛での戦闘のスイッチ的な駆け引きの経験が無いのだ。自分の受け持ちのモンスターを倒すとシズクの獲物には手出ししない。
人族との戦争でも精霊魔法や弓矢を自由気ままにぶっ放してたエルフにはカルチャーショックみたいだ。
食事の時にアルムさんに注意されている。
連携がうまく行くまで次の階に行かない事もある。
初日から四日でそうだ。だから階層進んで行ってねぇよ!物理的には進んでるよ。まだ2Fだよ!1F進んでるよ。それは進んでるのか?精神的に進んでない気がする。360歩のマーチだ!3歩進んで2歩下がって2Fだよ(笑)
どうすんのよ俺のソロが長いよ。俺もダンジョン入ると忘れて剣振り回してるからドッコイドッコイかも?と納得した。
そんな朝、招待状が届いた。
導師にである。
城塞都市メルデスで妹の孫が賢者と一緒にダンジョンにいると聞き、ミウム辺境伯が話をしたいと思ったらしい。
ダンジョン研究で9か月滞在している賢者が言う。
「アルよ、お主だけ行って来い」
「えー!」
「儂の事は研究が忙しいのでご辞退するで通じる」
「えー!・・・ホントですか?」
「本当じゃ。のこのこ行くは隠遁の賢者ではない」
「・・・」ジト目で攻める。
「その名は伊達に付いとらん」ドヤ顔で胸を張る。
「(笑)」どうなんだソレ。
「イヤ、それどうなんですか?」
「戦争も王家に
「イヤ、それどうなんですか?」イロイロ酷い。
「5回も戦争行きゃ充分だと思わんか?儂が行くと階位が上がるでの、弟子もおったし王家の為に行かなかったのじゃ。分ったの?その招待状はお主宛てじゃ。間違いない!」
「イヤ、招待状は導師宛です!(笑)」
「儂をそんな物で釣れると思っとるなら辺境伯は
「(笑)・・・ホント知りませんよ?」
お爺様が師を願う手紙も無視と言っていたわ。
「うむ、
この人の
一応、ダンジョンの研究なので打ち合わせた。
ミウム辺境伯の招待状を持って訪ねた。
俺にとってはルシアナお婆様のお兄さんなので
謁見ではなく客間での応対だった。
「そなたがアルベルトか。ルシアナから聞いたぞ」
「はい、アルベルト・ロスレーンです。
「うむ、儂はカレノフ・ミウムじゃ。よろしくの」
「領にいながらご挨拶も来ずすみません」ぺこ。
「よい、初対面で縁者とは言いに来れぬわ(笑)」
「ありがとうございます」
「メルデスで賢者殿と一緒におると聞いたが?」
「はい、死病で三年程寝込んでいた折に・・・」
「おぉ!聞いたわ、奇跡的に持ち直したとか」
「はい、それ以来高名な賢者様と一緒に」
「ベント卿も元気であろうか?」
「元気も元気、閉じ籠って書物に埋もれております」
「そうであろう。儂より二つ上じゃが魔法科でも有名であったからのう。あっと言う間にこの国の魔法学のトップになったぐらいじゃ」
「若い時もそのような(笑)」
「そうじゃ、書物に埋もれ風変わりじゃった(笑)」
「・・・」苦笑いしか出来ない。
「学院の話など
「はい(笑)」そっか。お爺様も弟になるんだ。
「冒険者で身を立てるやも知れんと聞いた。ラルフへの報告では恩寵の取得も進んでおるとか?」
「はい、この九か月程でボチボチと」
「うむ。ラルフも自慢しておったぞ」
「お爺様がですか?」
「そうじゃ、自分の血を引いたと誇っておったわ(笑)」
「そんな事を?(笑)」
「毎朝傭兵と模擬戦しておったそうじゃの?」
「あぁ!はい(笑)」
「ロスレーンの麒麟児の血そのままじゃ(笑)」
「え!」
「ラルフは学院でそう呼ばれておったのじゃ」
「本当ですか!(笑)」
「本当の事よ!学院の武術大会でルシアナが見た途端に持って行かれてオヤジに泣き「ンー!ゴホン!」」執事長の咳払い。
「・・・」この人脳筋系だ、俺と合うわ(笑)
「・・・(笑)」
「今日はな、ルシアナの孫が折角メルデスに滞在しておるのじゃ、貴族学院には行けなかったが、死病の寝所から起き上がって我がミウムに来たアルベルトに褒美をやる」
「え?」
「冒険者として身を立てようと努力するのであろう?ラルフから聞いたわ。今は賢者の元かも知れんが、いつまでもそういう訳には行かぬと思ってな」
「はい」まぁそんな感じで伝えたんだろうが・・・
「メルデスが気に入ったならメルデスに土地をやる」
「え!」
「ランサンの方が良いならランサンでも良いぞ」
目が点だった。
「そんな驚く事は無かろう(笑)」
「でも!」
「我が領じゃ、全て好きになるわ(笑)」
「・・・」
「メルデスで
「は、はい。ありがとうございます」
「賢者の住む家の近くが良かろうとな・・・」
用意してある手文庫から関係書類を出して行く。
「地図のここじゃな。従士と領兵の練兵場がある」
「え!」
「騎士団の様に広くは無いが、そこそこの大きさじゃ」
思い出してみる。うちの騎士団より広い土地だ。
「コレや騎士団のこっちでも良いが、北東ギルドからは遠いと思ってな、少し小さいが近い方が良かろう?」
「兵の練兵場が無くなってしまいます!」
「よいわ!元々モンスターを相手に兵を育成する練兵場じゃ。イーゼニウムが出来たお陰で騎士団も統合して縮小しておるのだ。彼の国は聖教国じゃ、絶対に攻めて来ぬ。ナレスもあるが彼の国はロスレーンの岩塩に依存しておる。友好に取引しておれば攻めて来ぬわ、儂らはマルテン侯爵家の中立派じゃぞ(笑)」
「あ!」
「そうじゃ、儂は辺境を守らなくても良くなっておる。ロスレーンも隷属紋制として伯爵家の有する戦力を満たすのに鉱山から武官を引き上げたと聞いたぞ。我が領も同じ事なんじゃ、ミウムは兵力が多すぎで縮小じゃ(笑)」
うちの領は伯爵家になって兵士が足りないのと、自立する罪人が便利なのでそうしただけだ。ドミニオンの隷属紋でたまたま余った武官や文官を足りなかった伯爵家の戦力として増やしただけだ。
「話を聞いた限り13歳になると聞いて精悍な男を思っておったが、こんな可愛い孫とは思わなかったがのう」
視るとお爺様がそのまま13歳になった麒麟児と想像していた。想像するのは勝手だけど、ソレ五虎大将軍の馬超じゃねぇか!そんな麒麟児いねぇよ!
お爺様の若いイメージそのまま錦馬超だよ。信じらんねぇ、マジか。錦は髪色の金しか合ってねぇよ。99.9%別人だ(笑)
「可愛がってはもらってますが(笑)」
「昼を食べてから担当官を呼び、書類を整える。領兵や従士隊はすでにミウムに帰っておるから好きに使え。家も
そっか大司教の恩給は知らないもんな、まさか月小金貨25枚(500万)と騎士10位の小金貨1.5枚(30万円)もらってるとは思わないよな(笑)
「あの・・・この事はお爺様、お婆様は?」
「知る訳ないわ(笑)」
「え?」
「こ度のミウムの会議で空いた練兵場の活用について話が出ておっての、どれもこれも税を投入するばかりで回収も聞こえの良い話ばかりじゃ。それなら妹の孫に
悪戯っぽく笑うが、全部後付けの理由だ。数奇な運命の妹の孫を応援しようとしてくれてる。
お昼を頂き、書類もらってメルデスに帰ってきた。執政官事務所の代官ニールセンさんに書類を出すと別室で凄い待遇を受けた。
前ミウム辺境伯の次女の孫、現当主の妹の孫。
この領の40年前のお姫様の輿入れを知っている執政官が居るのだ。今はロスレーン伯爵妃なのだ。メルデスの序列上位の執政官が挨拶と面通しに次々に応接に来た。皆がお婆様の近況を聞いてくれた。ルシアナ姫と呼ぶお年寄りの執政官までいるんだよ(笑)
お姫様の孫。余りの可愛さに皆が驚いた。
ゴメ。こんなに小さい子と誰も思わなかっただけだ。
・・・・
翌日、朝早く実家に乱入した。
朝食を食べているお爺さまお婆様に報告し、書き換わった練兵場の登記書類を見て大笑いしてくれた。お婆様もニッコリと喜んでくれた。
場所を見た上で礼状を寄こしてくれるという。
そういう事ならと、お父様とお母様、アリアに早々に朝食を取らせて家族とシュミッツ、ジャネットを連れて導師ハウスに跳んだ。今から
「はー。広いと知ってはいたけど、ここまでとは」
駐車場込みのイオンモール程もある。それぐらいでかい。視たら 横幅600m奥行500m=300,000㎡(9万坪)
お爺様とお父様が余りの大きさに唖然とする。リノバールス帝国と接し、抑える役目を負う辺境伯家は伊達じゃ無い。ロスレーン家の騎士団演習場の倍はある、お父様が兵舎のかまどを見て解説してくれた。
「モンスターと戦って研修する演習場と聞きました」
「そうだな、生き残る力を付ける演習場だな」
「従士や領兵の演習場なので守備特化です?」
「この城塞都市で守られたら手が出んわ(笑)」
「あ!
「攻城戦は3倍以上と言うがここは5倍はいるのう(笑)」
なんか色々と納得した。
新年明けてお爺様とお婆様が礼状を送ってくれるそう。家族をロスレーンに送った。
・・・・
アルムさん達のいる練兵場に戻ってきた。
そのまま立ち尽くす。
どうすんだよコレ。
俺の豪華なお屋敷置くとポツンと一軒家過ぎて寂し過ぎる。4Fの兵舎15棟と関連する武官と文官宿舎4棟、厩舎も大きい。糧秣庫やかまど専用の調理棟15棟と管理棟がある。最大収容4300名とか自衛隊の駐屯地みたい。ミウム辺境伯軍の訓練施設なら当然なのか?
イヤ、待て!ここから遠いらしいがまだ大きいのが有るって言ってたぞ。このメルデスだけで兵士数1万人超えてるぞ。
黙って考えていたらアルムさんが言った。
「アル君がここでクランを作れば?」
「え?」
「前、ミゲル君に言ってたじゃん。クランの事」
「あ!あぁ、でも面倒なんて見れないしダメだよ」
「面倒見なくてもいいよ」
「え?」
「こないだのオーク捕れないPTの子達なら喜ぶよ」
「あぁ、宿泊所にいいのか(笑)」
イヤ、待てよ、しかし・・・と思考を巡らす。
文官にも俺が貴族とバレた。もう自分のPT作ってる。貴族だからPT誘われないとか考えなくて良いな。
「食える冒険者を育成するクランならどう?」
「どんな?」
「~かくかくしかじか~こんな感じに食えないパーティーを食えるまで泊めてやる感じのクランを思ったんだけど」
「みんな喜ぶね(笑)」
「と思うんだけどなぁ・・・」
その日からみんなに手伝ってもらい演習場の整備をした。うちのPTはまだ2Fで30Fまでまだ遠い。それよりも冬で獲物も無くなってる最中の底辺PTを助ける気になってしまったのだ、動くのは早い方が良いに決まってる。
冒険者の駆け込み寺を目指して最低限の宿泊施設にしようと整備した。ベッドには
離れた場所から各宿舎と調理棟、管理棟を丸ごとクリーンし、精霊魔法で隅々まで粉を外に掃き清めるイメージで魔力を与えて精霊を喜ばせた。欠けた割れたの老朽化はさておき、ピカピカの宿舎が並んだ。
どうせ食えない奴らなんてそう集まらないだろ。4棟で十分だ(笑)全部やるのもめんどくさい。4棟480室(各階30室×4棟)定員960名、取り合えずベッドでお腹空いて凍死しない様に暖房紋を各部屋にマシンガンの様にガガガと付けておいた。布教で鍛えた俺の敵じゃねぇ。フッ!
管理棟(貴族士官の宿舎)演習所所長室と続きの作戦会議室(指揮官が演習や会議など行う)をクランマスター室にした。管理棟宿舎は全てが貴族用に作られて勿体ないけど平民には使わせられない。
クラン員を獲得に動き出す前に各棟4F、各階の角部屋4室を潰して風呂にした。給水の魔術紋を暖房紋と合成して給湯紋に改変した。42℃のシャワーが出る。最初は真冬に水浴びよりマシだろと温水シャワー室を作ったが、結局サービス精神が出てしまい風呂まで作っちゃった(笑)
土魔法で圧縮した風呂は6人槽(各階26室2人部屋になった)で使用魔力を極小にし、42℃のお湯が出る超緻密に編んだ給湯紋。給湯以後の温度を保つ暖房紋40℃を付けた。シャワーは24時間、風呂は18時から22時まで使えるように時間設定した。
1Fから4Fまでの床を貫通して排水溝を造る。今のアルには近くの小川までの斜度を視て一発で土管並みのホールを貫通出来る。(難民村で用水路を造った基本の魔法だ。
極めつけは風呂に付けたクリーンの魔術紋。そう!トイレに付けたあの魔術紋だ。汚れた水が一瞬で綺麗になる。試運転すると粉が水の上でクルクルと綿ぼこりになる。水がたゆたう事で掃く事と一緒になるのを発見した。わーい!綿ぼこりは桶で掬えばいい。(メイドは皆知ってる事だった)
宿舎もそんなに要らないだろうと11棟の兵舎と武官文官宿舎4棟、調理棟も11棟を練兵場の隅にまとめて寄せた。最初は4棟(1棟208人)からの宿舎だ!と等間隔に置いた。棟と棟の間に調理棟も置いて食事の用意やPTの鍛錬が出来たり、木陰やベンチを置いてやれば喜ぶかな?とか想像して机や椅子も作った。
都市住宅公団の作りを真似した。この世にない整備計画だった。この様な軍事施設は実用一点張りで、住環境への細やかなサービスまで昇華されてない。お陰で捕虜収容所の様な練兵場が少しは見られるようになった。
ギルドマスターに練兵場の登記書類を見せて、意図を論じギルドの推薦文を出してもらい、貴族名を出してクラン募集を掛けた。
ロスレーン伯爵家、アルベルト・ロスレーン主催。クラン:
※クランとは、同じ目的を持って派閥を組む、またはコミュニティーを形成し相互扶助を行う組織的冒険者集団を指す。深層のダンジョンアタックのための中継地点(キャンプ)を作る同業者の20~60名ほどの互助会を元々はクランと呼ぶ。
条件。
・ダンジョンアタックの活動はしない。
・クランマスターの面接が必要。
・加入費はギルドに卸した買取額の10%を加入費で天引き。クラン宿舎に素泊まり出来る。ギルドの買い取りに卸す期限は無い(1カ月に1回でも良い)
・10%天引きが惜しいなら即日ギルド脱退も可。
・クラン加入証明を発行。宿舎を自治する。
・2人部屋にソロは2人。PTはペアで同室。
・宿舎にかまど、風呂があるので自炊で桶持参。
冒険者の中間層は税金などを中抜きされたら一日平均大銅貨6枚だ。(6000円)
安い宿でも素泊まり一泊大銅貨3枚(3000円)だ。月額銀貨9枚(9万円)にもなる。一回当たりの報酬は多くても、休みもあるし空振りも入れたら銀貨18枚が中間層だと思う。そんな冒険者でも稼ぎの半分は素泊まりの宿屋に消えていくって事だ。
クランに入って7日に1回の収入で銀貨(一万円)稼いで10%の大銅貨1枚で泊まれるなら魅力でしょ?
そんな募集要件の中、頭の良いクランが下部のショボイPTを押しつけて来た。(家賃は俺持ちで稼ぐように育ったら脱退して上納金を吸い上げる)面接でバレバレだった。
低位冒険者が勝手に育つまでうちのクランに入れるってどうなんだ?それ食い物にして無いか?正直に聞きに行った。悪いと知っててやってる奴だった、俺が訪ねて来ただけで腰が砕けてた(笑)
貴族として名前を出した以上、舐められたらなぁなぁじゃ済まない。ギルドで徹底的に〆た。うちの3人の美貌のメンバーが金級2位PT6人をボコボコにした。迷惑料取って、送りこんできたPTもそのまま入れた、縁が切れて良かったよ。
稼ぎたい、生活に困っている、食える様になりたい奴らは大歓迎で入れてやった。宿舎はかまども備えた兵の駐屯施設なのだ。
最初の1週間は、クラン加入者を迎えるために暖房の効いたキューブハウスを建てて俺が座ってた。宿屋に毎日大銅貨3枚(3000円)取られるなら雪が降る前にうちに来い。と祈ってた。
うちの3人娘はキャンペーンガールで1日中ギルドでクランのシステムを周知してもらって勧誘をお願いした。手助けしようにもクランに来てくれないと助けられない(笑)
初日に来た2PTはPT単位で部屋に放り込んだが、そうも行かなくなってきた。冒険中は野営で雑魚寝だが、ほとんど男女は宿が別でギルドで待ち合わせのPTだった。俺みたいに男女で住むのは稀だった。そりゃそうだ!思春期の男女だ、酸いも甘いも噛み分けたうちのメンバーとは違う。
すぐに宿舎が男子寮、女子寮みたいになった(笑)
俺の所に来た各PTのリーダーに施設の自治権を与えておいた。
運営に無体な問題が出たら、貴族の名を借りに来いと言っておいた。それ以前に貴族の怖さを知ってるからギルドで文句なんか付けて来ないよ。
パンを咥えてエンカウントの女の子のPTも来た。面接で貴族と知って絡まず良かったとホッとしてた。
後は勝手にやれだ。雑草とかゴミは許さんと厳命してあるのでクランで月一で寮の掃除や除草をするそうだ。鉄級6位PTの駆け込み寺だな。
事務員も何もいないので、うちの3人娘がダンジョン攻略を一時ストップして、名簿やギルドの10%天引き申請書を作ってくれた。以後は面接に受かったら自分でギルド登録する様に持って行く。
面接の時に厳しい事も言ってある。
「この条件で食えないなら冒険者なんぞやめちまえ」
辞められないの分かっていて敢えて言う。
大体、孤児やら食えない奴の集まりだ。冒険者しか出来ないからやってるんだ。ギルドの常設依頼の角ウサギのツノ5個はその日に達成できなくても、大森林から食べ物は持って帰れる。ネズミやタヌキ、ウサギ、山鳥、芋や栗、木の実だ。このクランはそいつらを相手にしてる。
※ネズミや芋をタバタバと交換するレベルだよ。ギルドは交換してくれないでしょ?(笑)
最初は様子見してたPTもポツポツ入ってきた。若い奴らばかりだ。技術が未熟でクランにも入れずその日暮らし。
ギルドに売れる物は無くても、大森林で取ってきた食い物でワイワイキャイキャイかまどの前でやってたら来るさ。
ギルドの満腹プレートを毎日食べられないから大森林で山芋やネズミの肉焼いてお腹を膨らませて宿に帰ってたんだ。銅貨2枚の麦粥で後何日食べられるか計算してる奴もいた。貧すれば鈍するで体を拭く事なんて後回しになっちゃうんだよ。皆ヨレヨレだった。
俺は食わさない、食うのは自分でさせる。それが自分の足で立って生きて行く事だと思う。そうじゃないと冒険者の上なんて登れない。
俺はリード師匠の12歳の冒険者生活を知っている。周りから技術を盗んでその日暮らしから始めたんだ。毎日何か食べる事から始めて、とんでもなく登った人を知っているんだ。
食うのが辛くてもみんなで寄り添えばそれも下積みの思い出になるさ。周りから食える術を覚えて登るんだよ。
・・・・
お助け宿屋のクラン作って余計な事やってたら12月も終わりに近づきミウム領のメルデスでも雪が頻繁にちらつく様になってきた。
そろそろ一か月なのでバラストが積まれてる頃と一度造船所に行ってみた。船大工達の棟梁。ミールさんに会えた。
「坊ちゃんが御子様ですか。お噂はかねがね」
視てみると有る事無い事吹き込まれている(笑)
酷いのはこれだ!
「御子様が
守護神か!命運賭けてねぇよ。戦いに当たらねぇよ。そんな事言う奴は一番先に捨てて飛んで逃げるよ。
「何言われてるか知りませんが全部嘘ですからね(笑)」
「イヤ、聞いてますので・・・」
「それでバラスト石なのですが・・・」
「見て頂けますか?厳選した物を積んであります」
視ると船底にギッシリと比重ある石が敷き詰められている。
「これ苦労なさったでしょう?」
「いえ、バーツ様が仰ったことですから」
あ!あの人貴族じゃないけど国主だわ(笑)
「もっと重さが欲しいなら言って下さいね?こうしますよ」
敷き詰められた石を合体させて圧縮して行く。全部混ぜてギチギチに圧縮すると比重の重い石と軽い石が層になって嵩が半分になった」
「・・・」
「石の隙間も無くなって重心は下がった筈です」
うんうんと頷いてくれる。
「空に浮くときはこうします」
船底形状の石をインベントリに消す。
「!」
あ!消して気が付いた。重力反転するんだから消しても消さなくても浮くわ(笑)
「・・・スゲェ!」
「バラスト石の嵩が無くなった分補強を入れるか、室内の空間が広くなりますがそれはミールさんが良い様にしてください」
「・・・」
ミールさんはよく考えた後に言った。
「御子様、船内スペースは充分にあります。存分に強度を上げさせて頂きます」
視ると床板の下に格子状の太い梁を組むみたいだ。
その意味は陸上に揚がった時の荷重の分散。家のような構造にして船自体を脚で支えられる様に強度を増す。
「バラスト石の重りはこれで良いですね?」
「大丈夫です。底にある程海では安定します」
「はい」
「艤装で大砲入れて不安定より全然安全です」
「それでは隣の船もやっておきますのでよろしく」
「是非お願いします」
皆さんで良いお年を、と大壺渡してきた。
・・・・
年末だし顔だけ出してミスリル冒険服の進捗見に行こうとドワーフの鍛冶屋に行くと魔改造が進んでいた。
家紋入りのヘルムがローブのフードに変わっていた。フードにプレートが入っている。カチューシャ状のミスリルプレートが多段に入ってフードも背中側にクシャッとなる。赤ちゃんの日除けフードっぽい。
ジャケットにフードが付いたパーカーになってた。スタジャン風とか完成図で思ってたけど、妙にミスリルの光沢があって、胸の家紋を見るとフードの付いたスカジャンに見える。
フードのカチューシャプレートも面で受けた方が強いのに。とあっちの物理学で対抗するが聞いてくれない。
物理学とか力の分解とか考えると、名匠の誉れ高いドワーフを否定してしまう。ドワーフのファンタジー理論を信じようと頑張る。
謎の家紋の光沢スカジャンは嫌なので色を付けてもらう。
俺の夢想では世を秩序に導く
次回 171話 魔法のランプ
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