第166話  成層圏まで斜め上




アルベルト邸

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11月29日8時半。

朝からアルベルト邸の受け渡しにPT四人で跳んだ。


ロスレーン家の家族全員お付きのメイドも呼んできた。お婆様視点、お母様視点、メイド視点、エルフ視点、精霊視点、皆で見たら何か不便があるかもしんない。


棟梁から鍵を受け取る、そのまま俺の認証紋を刻んでスペアをお爺様に渡す。お父様にも渡したいけど当主に渡さなきゃなんない。(※俺の認証紋:カスタムに付いてたキーレスキーみたいなもの)


大工さん達が並ぶ中、皆で屋敷を見て行く。木肌は古くデザインはモダン、歴史を感じる屋敷が出来ている。


アリアが大喜びで走って見て回る。今までマーガレットと散歩の途中で窓から覗いていたんだって(笑)


お爺様もお父様も唸りながら見て行く。最初の状態を見ているお爺様とお父様の驚きが凄い。お母様とお婆様は食堂と応接の生活回りを見て行く。アルムさん、クルムさんは自分の部屋を物色する。


「まさか、ここまで生まれ変わるとはのう」

「二階の海向きだった部屋が全部無いですからね」

「外観小さく作りは伯爵家じゃ(笑)」

「家がこれ程まで明るくなるとはなぁ」


ロスレーン家の屋敷は廊下の両側が部屋なので常時魔法ランプが必要なぐらい暗いんだよ。(ランプでとても明るい)


応接の作り付けのセットに皆を誘導して話す。

暖房紋も稼働させる。


「それで、先日お伝えした通り次の日曜日にこの屋敷の前で完成披露パーティーを行いますので、ロスレーン家の使用人も含めて参加の件はどうなりました?」


「アル、問題なく料理長に伝えてある。言ってた食材を明後日までに料理長に渡してくれ、捌いた肉の塊とは伝えてある」


「お父様、ありがとうございます。雨の場合はあの様な大きなガレージを作って、中でやります。机やテーブル椅子やかまども全部、あのサントの砂浜で作った様にしますから大丈夫です」


「それで何も心配は無いね」


「今、ロスレーン領の村に暖房紋を付けて回ってますが、街には付けない様に致しますがよろしいですか?」

「うむ、それでよい。村の方が生活は厳しいでの」


「あと、この屋敷に関わった者たちの褒美として暖房紋とトイレのクリーンの紋を下賜かししますがよろしいですよね?」


「ほう、儂より豪華じゃ。それではアルが褒美を渡せ」

「はい、家はどのくらいまで置いていいでしょうか?」


「ん?」

「どこか建てる所はあるのかい?」

「いえ、グレンツお兄様が来るまでに取らないとダメですから」


「は?」

「え?」


「だって、グレンツお兄様もヒルスン兄様も家を持って無いのに三男が持っていては怒られてしまいます」


「・・・」皆が押し黙る。

「・・・」顔を見合わせている。


「わっはっはっ!グレンツには横に屋敷が有るだろうに(笑)」

「ヒルスン兄様の分は?」

「ヒルスンはまだ先じゃ!任官もしておらんわ」

「でも!」

「ヒルスンは任官で今のまま変わらず住むわい」

「?」

「任官明けてもうちの任官でそのまま王都だよ(笑)」

「・・・」


「王家からたまわった別邸だからヒルスンにあげられないけど、実質ヒルスンの家同然って事だよ。ヒルスンが結婚するならまた別の話だ、分家の話になる」


「何じゃ?その顔は(笑)」

「まだ、置いてもいいんです?」


「好きなだけ置け!グレンツに庭を下賜かししてもらえ(笑)」


「心配して損した(笑)」

「心配は分かるわい、この屋敷は別格じゃ(笑)」

「ですよね(笑)」


「心配せんで良いわ。伯爵家の三男の屋敷がこんなに小さくて涙が出るでの。アルが不憫ふびんじゃとアランが改装費用を持ってくれるぞ(笑)」


「お爺様が内装の費用を出すからね。全部僕じゃ無いよ」


「・・・」


家族の優しさにポロっと出た。


「親なら当然の事だよ」お父様にポンポンされた。



・・・・



来てる大工さんをお茶の接待で待たせて一人ずつ家に跳ぶ。


跳んだ先で驚いた、トイレが改装されていたり、作り掛けだった。え?と視ると、アル様が来られると知って不浄な場所を見せたくないと涙ぐましい事を考えてくれていた。


それだけで頭が下がるよホントありがとう!


一軒に付き一分掛からない。暖房紋は多重視点で各部屋に付け、トイレに付けて二回しか刻まない。帰って来ては次々と手を繋いで跳んで行く。往復の手間は掛かったが10時半までに全部終わった。


俺が大工さんを運び終わると芝生で遊んでいるPTの三人におやつでパンケーキとシロップの壺とヨーグルトドリンクを出す。


暖房紋が少し稼働してる応接で待つ家族。

パーティーに出すデザートを10時半に試食してくれと引き留めておいたのだ、お付きのメイドだって期待してる。パンケーキとシロップ、冷えたヨーグルトドリンクを出した。食べた皆は極楽に行った。


お付きのメイドには試食した事を口止めして当日に出すデザートはサプライズで盛るのは黙る。



バルトン料理長に肉を出しスライスしてインベントリに仕舞って行く。牛肉350kg2個、豚肉10kg×24個、鳥多数。料理長以下8名が肉の山を崩して行く。捌くなんてもんじゃない、凄いスピードでスライスが出来て行く。鳥もバンバン釜ゆでされて羽を毟られる。貴族用にヨージ鳥のお腹に香草の詰め物をして下ごしらえもしてくれた。


ピリ辛ソースの大壺にも肉を詰めて行った。


料理長にパンケーキとシロップとヨーグルトドリンクを試食してもらった。当日の子供に出すケーキ系のお菓子と被らぬための試食だったがバルトン料理長が白旗を上げた。クッキーや可愛い砂糖菓子(マジパン系)は作るが、デザートはバルトン以下全員一致でこれと決まった。



・・・・



11月30日は朝から張り切った。


海商国の砂浜に跳んで真っ白な砂で作ったラウンドフォルムの洗練されたテーブルや手すりの付いた椅子を山ほど作る。当然アルの事。強度も十分な薄い石造りを鍛錬込みで作る。


大工さん20人が家族込み、三人子供なら100人?うちの使用人と家族で43名。師匠や導師で150人突破クラスである。


肉を盛る皿、取り皿まで薄手の物を作って行った。綺麗な白い砂が固められて石になっていく。かまども薄い石作り、かまどの上に嵌める石で作った薄い網状のプレートもポコポコ作っていく。


簡単にデザートを出せるように皿やナイフとフォークとスプーンも石造りでセットにしていく。


葡萄酒やジュースは用意があっても大工さんの普段飲む酒が無かったのでギルドで樽で買って来た、ミード(蜂蜜酒)とエール(ビール)だ。


慌ててジョッキやグラスを作りに行った。


師匠と導師も誘った。

(用意が出来たら設定せよと)魔術結界の防犯ミスリルプレートをもらった。(コテージの分まで作ってくれていた)アルノール大司教も来てくれることになった。師匠の赤ちゃん(命名セルス・オーバン)は初めての外出になるという。



・・・・



12月3日 快晴だった。


前日から張り切って作ったパンケーキとヨーグルトドリンクの瓶を持って10時にPT四人で跳んだ。


遊び心も出して平民と貴族をやんわりと分ける胸高のパーテーションまで用意してポコポコと置いて行く。


ジャネットとシュミッツが俺の手際と用意と意図や客の動線を見て配下のメイドと執事に何を用意、何を用意と指示して屋敷に走らせて行く。布きんやテーブルクロス、フィンガーボールとか水差し、客用の銀のナイフ、フォーク、スプーン、季節の花を生けた花瓶。150人のパーティーだ、屋敷の使用人用のトイレへの誘導、貴族とメイドは近くの俺の屋敷のトイレに誘導するとか考えも及ばなかった。俺には絶対に無理だ(笑)


長いテーブルを用意するとメイドが寄って豪華な赤のテーブルクロスが掛けられる。飲み物ブースに大量の小物を置いて行く。石の皿に石のジョッキ、グラス、タレ、塩、胡椒、ピリ辛香辛料の壺とガンガンおいて行く。インベントリからスッと出して行くだけだ。


テーブル横に石のかまどをポコポコ置いて行く。

好きな物を勝手に焼いて勝手にいで飲め形式だ。メイドもずっと立って無くて良い。


四十分ほどで巨大なセルフのビヤホールが出来上がった。

最後の〆に皆が注目できるような立派な調理スペースを出した。

調理場を模した巨大な四つ口と調理台。料理長バルトンの持ち場だ。


出来上がった時にはその威容に使用人が棒立ちだった。料理長も呼ばれてきた。貴族の目の前の調理とは言って無かったが腕の見せ所になる。あっちの世界はそれもパフォーマンスだったのだ。


料理長はすぐに指示を出して、副料理長以下七名が調理器具を揃えて持ってきた。



かまどの中にはすでに薪が入っている。11時に多重視点で一気に火を付ける、三十分後には良い炭になっている。



お代わり用の肉のハエを追うのに馬丁を三人配置する。クリーンと浄化を掛けた馬の鞭を持たせたらシュミッツがブフォ!と吹いた。伯爵家の三男がハエ係まで用意して何やってんだ!自分でウケるわ、俺もラノベで読んだ事ねぇわ(笑)


ハエ係の準備が出来たら長机の大皿に肉のスライスを山盛りにしていく。大きな石のボウルに料理長から預かったサラダを盛って行く。最後に良く冷やしたエールビール、ミード蜂蜜酒、グレープ・ミカンジュース、ワイン、葡萄酒を樽や壺で置いて行く。


がトング用のフォーク・スプーンが幾つとメイドに指示している(笑) メイド長並みにテキパキ言われてキビキビ取りに行くメイドも分かってる。



11時過ぎにかまどの火を着火し、使用人の前で説明する。


この後11時半から招待しているお客。


・メイドは貴族スペースと平民スペースに分けて案内。ドンドン勝手に焼いて飲んでもらうパーティールールを説明して次のお客の接客に移る事。


・12時より使用人は半数に分かれて、使用人スペースで交代で自由に食事。貴族のお客に失礼が無ければ食事を食べてよい。


・基本的に接待はセルフサービスに慣れてない貴族だけで良い。

料理長、副料理長は貴族の分の料理をする、目の前で肉を焼いて渡す。付け合わせ、サラダなど全て目の前で腕を披露する。


※貴族は材料さえ触らない。出された完成品しか皿に取らない。

飲み物は注がれたコップを受け取るか注がれるまで待つ。



平民はお母さんも子供もいるから勝手にやらせろという。大きな子供は自分の肉を焼く事も楽しいから、子供にも焼かせろと言う。


全ての使用人に、手がいたら平民の机を回り、大工かお母さんの手を引いてお代わり用の肉や飲み物を勧めるように言う。貴族家のパーティーで遠慮して食べ物や飲み物を取りに行けない事だけは無い様に言い含めた。


この国に無いパーティーの形式だった。


シュミッツがメモを取るのが早い早い。口述筆記の鬼だ。復唱した後、うちの家族にルールを説明に行った。執事の鏡だ。


説明を飲み込んだジャネットの指示も凄かった。

大工がリフォームしていた職場に通う、慣れた庭に家族と踏み入れた途端にメイドが付いて席に誘導、システムを説明してあとは何をやっても自由という。


席に付いた家族から3種の肉を席の大皿に盛っていく。


「時間までもう少しお待ちくださいね」

にこやかな子供が落ち着き払ってホストを演ずる。


肉を配っていたら時間に全員集まった。


そのまま肉を盛っていた所から拡声の魔法で言う。


「みなさん、お集まり頂きありがとうございます。本日はアルベルトの家が完成した良き日となりました。この様なパーティーをセルフサービスパーティーと言います。各自が楽しみ話しながら肉を自分で焼いて語り合うパーティーです。よその国の方式ですが平民と貴族が一緒に食事する事はこの国では中々ありませんので、この様なパーティーになりました。みなさん私の大切な身内ですので今日は自由に食べて飲んで語り合って下さい」


「大工さん達、お父さんかお母さんが焼いてあげないと子供達は食べられませんからね、お店じゃ無いので自分で焼くんですよ」


「貴族の皆さんは目の前の料理長と副料理長が作ります、飲み物はご自分で好きな物を取るかメイドに申し付けて下さい」


みんなが神妙に聞いてるので自分で言った。

「拍手ありがとうございます」

拍手してくれた(笑)


うちの家族は外国に行って少し洗練されたのか普通に受け入れてた。


俺は何も言って無くても、メイド長がお父さんにフォークとナイフを渡して肉を自由に焼けとかまどに乗せて行く。メイドも一斉に大工さんの家族に群がってお母さんと子供の手を取って飲み物ブースへ案内していく。


お母さんと子供が飲み物を持って帰ると肉が食べられる様になっている。お父さんがどんどん焼いている。


そんな中、料理長がステーキをフランべすると炎が上がる。

アリアの目が点になる。


俺もこっちの世界で初めて見た。食べてみると全然違う、これ葡萄酒の酒だよ、あれの濃い奴だからブランデーか。炎が上がるって事はアルコール分が高いから蒸留とかしてるな。イヤ魔法の蒸留もアリか?


てか、ドワーフの酒ってそんなんじゃね?火酒とか言って、あれ蒸留してないと無理だわ。


大司教の機嫌を伺うと導師の機嫌も良い!まぁ美味いツマミと美味い酒なら機嫌も良いわな。焼肉パーティーなんだけどコースになってる食事も凄い。


師匠は上機嫌で飲んでいる。ルナがセルスの乳母車風の箱車に風が当たらない様に立ってるので風よけの半円を描く壁を建ててやった。


ルナを無理やり座らせて、ご主人の肉を焼けとバンバン網に肉を乗せて行く(笑) 師匠が笑って見ている。リリーさんと師匠が食わなかったら焦げちゃうからルナが食べるんだぞ!とルナの皿に山盛りに積んでやる。ここは元平民の家だ、厳しい事は言わないよ。



メイドのテーブル見るとレノアさんが仕切って焼肉奉行をしている、焼けた奴をどんどんメイドの皿に乗せている。キレーヌとアリエラが楽しそうにお屋敷のメイドと喋って給仕している。視たらルナと交代で働くのね。


大工たちは親父だけで集まってピリ辛の壺から鳥肉焼きながらエール飲んで上機嫌だ(笑)


お母さんたちは蜂蜜酒を飲みながら小さく切った肉を子供達に食べさせてる。子供達はミカンとグレープジュースだ。


平民の机もホストとして回る。

鳥肉が美味いと勧められ摘まんで食べるがマジ美味い。ヨージ鳥のピリ辛はもっと美味い。


貴族席の近くのかまどでピリ辛のヨージ鳥をドサッと焼いて焼けた奴を皿に乗せて、貴族席に回す。


エールとよく合うみたいですよというとお爺様も冷えたエールを取りに行った。(伯爵が自分でジョッキに取りに行くのは凄い事なのだ)皆が席まで持って来たエールを凍る寸前まで冷やしてやると美味い美味いとピリ辛食べながら飲む。


貴族はエールも美味かったら飲む(笑)

お父様まで普通に注ぎに行ってお母様にキンキンに冷やしてもらってる(笑) 俺が席から離れるとお母様が冷やし係になっていた。チビチビ飲まずにグワーと飲んでる。爽快感だな。


シュミッツも持って来たのでキンキンに冷やしてやった。


「アルよ!これは良い会じゃな」

お爺様が言う。


「お褒めに預かり光栄です」

「平民と貴族が皆笑って食べておる」

「アレを見てみよ」


料理長が肉を焼いて料理作ってる部下に食わしている。部下たちも笑ってモグモグしながら忙しく立ち働く。


「普段見られぬ光景じゃぞ(笑)」

「ロスレーン家に関わると皆が笑うといいですね」

「いいのう」


しばらく準男爵料理長が平民に肉を焼いて出してるのを眺めた。普段の賄いも使用人の食事は調理部持ち回りで食事を作る。料理長と副料理長は使用人の食事は作らない。副料理長はセンス・キプラス、準男爵だ。



「そろそろデザートを出して来ますね」

「うむ」


たっぷりメイプルシロップを掛けた二段のパンケーキをヨーグルトドリンクと共に出した。今日のは特別製でヤギの乳で作るアイスクリームをトッピングしてある。


アルムさんが寸胴いっぱいアイスを作ったのだ。砂糖や蜂蜜が入ってエルフのお祭りしか食べられない特別な物だって。作ってる時に寸胴の周りに精霊がいっぱい集まってるとシェルが言った。


酒飲んでる大工のお父さんのデザートまで母子に襲われていた。食の細いアリアが2人分の四段もパンケーキを食べた。


気が付くとビクトリオ達がハエを鞭で追っていた。伯爵家の生活魔法バリバリの執事がなんて仕事してんだ(笑)



余った肉とお菓子を皿ごと大工たちに持たせた。コップも皿も自分の使った奴は全部持って行って良いと言った。白い石の皿とコップとジョッキをお父さんが運ぶ。

大家族にノームのドンゴロスを出してやった。


「アル!この石の応接一式をあの辺の芝の所に貰えぬか?」

「いいですよ。後、海で砂に崩すだけです」

「え!」


家族全員が俺を見た。


「アル!それなら領都の広場に置いてくれないか」

「うむ、民が利用するであろうな」

「いいですよ、崩すよりいいですね」


皆がうんうん頷く。


「広場の端の方の石畳に引っ付けてくれないかな?」

「あ!取られちゃうのか(笑)」世知辛いな。


「分かりました、蚤の市に邪魔にならぬように付けます」

「そうしてくれ」


「皿もな、使用人の分も含めて置いてくれ」

「かまども全部ですね、お客用に余計に置いておきます」

「そうしてくれ」


「芝のあの木の下にキューブハウス作りますからそこに入れておきます。後で扉でも付けておいてください」



「アルよ、三番街の教会の横に公園があるじゃろ?あそこにあの丸のテーブルと椅子をセットで四つ付けてくれぬか?」


「はい。いいですけど、三番街の教会と縁が有るので?」


実は三番街の教会は嫌味を言われそうで行きたくない。コルアーノでは誰もアルを御子と知らないのだ。


「お主程では無いわい!(笑)」

「そう言えばそうだったですね(笑)」

「あの教会は儂が作ったからの」


「え!」


「公園も儂が作ったのじゃ、孤児院の子供達にの」



「・・・」



じゃねぇかよ!


何やってんだよ!困ってただろ!怒!


心の中でプルプル震えながら、少し酔ったお爺様に聞いてみた。


誘導尋問とも言う。

視ても分からぬ色々と変な所を聞いて浮かぶ事象を視なくちゃならなかった。だって三番街の教会と聞いただけで、偽教会の事で嫌味言われたらどうしようと思ったほど鬼門なのだ。



・・・・



ロスレーン家は敬虔けいけんな信徒で三番街教会に足繫く通う。


三番街教会をラルフが二年掛けて建てたので当たり前だ。


問題はその背景だった。


教会が出来上がる年のリノバールス帝国との戦争でお爺様は次男を亡くした。


教会を贈呈する直前に教会や孤児院用の広場や孤児院の打ち合わせをしていたシスターが亡くなった。


新教会の贈呈式に急遽新しい司祭を首都教会に要請し、ロスレーン領都に司祭とシスターが到着出来るかが当時の執政官の焦点だった。戦争中の明るい話題だからだ。


当時赴任してきた司祭も何も知らず赴任直後に贈呈式のセレモニー。義勇軍や冒険者の孤児も多く、新しい教会の孤児も赴任前に集まっていた。


司祭は詳細を知らず、四番街の旧教会は廃教会を利用した私設孤児院と思われ十七年近くも経っていたのだ。苦労していた当時の孤児だったシスター達の年齢とモロに合致する。


・リノバールス帝国との戦争

・お爺様の次男の死(お父様の弟)

・旧教会のシスターの死

・急遽何も知らされず教会贈呈式に赴任した司祭

・当時の孤児の数

・領主が戦争でいなかった。執政官の指示で回っていた。


聞いたアルも呆れた。ゴタゴタ過ぎで領主が知らなくてもおかしくない。何よりも仔細を何も知らないお爺様が教会の話でのだ。当時は横に座るお婆様が困って王都の教会に司祭を要請しているのだ。


次男を失う戦争でお父様と二人でヘロヘロで帰って来たお爺様は教会を見て無事に回っていたので安堵しただけだ。



アルは敬虔でも何でもない無神論者神に助けられながらも最低な奴だった。だから本物だろうが偽物だろうがやってる事は一緒と、孤児を見かけてそのまま四番街の廃教会を助けた。



三番街教会は、神に関係なく(神に良い姿を見せようとすることなく)を救おうとするアルを好ましい目で見ていたのである。文句を言ってくる訳がない。



お布施を奪おうとか、妨害工作とか、アルに危害はまったく考えていない。そんな汚い所業は教義に無い。そもそも聖教会は厳しい戒律で縛られているのだ。スラムのチンピラみたいなことを教会はしない。


そんな事を考えるアルの方が腐れ外道だ。


なのである。



20!と怒っていたアルの完全な被害妄想で賽銭箱寄付箱に鍵と護衛つけて守っていた。自分の小遣いで看板やお茶まで用意して守備隊を引き寄せた。



三番街教会はお爺様の庇護に有るのに、アルは早々に敵認定して「必ず教会が牙を剥いて来る」と過剰防衛していた。何かのアルアルにアルは踊っていたのかもしれない。


アルのアルによるアルのためのアルアルはとても壮大だ。

常人が及びも付かぬ斜め上の壮大さだ。



敵対勢力のボス教皇の代理になっている壮大さだ。敵のマッドサイエンティストアルノール大司教が最新技術も提供する。敵対勢力に叙爵され、恩給たまわる一位の勲章持ち。


成層圏まで届く斜め上の子供だった。


なかなかこんな奴はいない。



要するに・・・


三番街教会と四番街旧教会の因縁は何もなかった。


ロスレーン家がとか言いません。



全部誰かの被害妄想です。



アルは呆然としていた。


良かれと思って空回っていた。

ハムナイでは公女でも司令官でも空回っていた。

まだ中身は二十三歳の若者だ。引き出しが無さ過ぎた。


己の経験則と己の善悪だけで判断していた。


神の使徒なので!になってしまうのだ。


呆然と反省して落ち込む。



でも。


アルが関わったから少しは良くなってると思うよ。





次回 167話  急速反転180度。

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