第167話 急速反転180度
12月3日日曜日 13時半。
庭で家臣団が机の位置を討議中
アルベルトハウス完成祝賀会のゲストを見送り、メイド隊が後片付けを総力挙げて行った後、執事長、メイド長と料理長が次回のパーティーの配席図を考えている。
その三人の後ろには各勢力が控える。
シュミッツの勢力が五人で少数だが一番強い(笑)
春にもこの会を行おうとお爺様が言ったのだ。
グレンツお兄様が八年ぶりに帰るイベントを頭に描いてる。
使用人と
俺はその時に決めたら良いじゃんと思うのだが、料理長やシュミッツが色々配置に物申す(笑)
料理長は自慢の腕を披露する都合上、全ての席から見やすい位置に調理台が置きたい。シュミッツはその調理過程を楽しむ主人の視線を遮る動線を作りたくない。
それでもポツポツ机の配置も決まったようだ。
披露宴の席とパフォーマンス舞台の関係だなコレ(笑)
あっちと同じ配置になっている。
机と椅子はメイド部隊が並べている。使用人席にはかまどが置かれていく。当然使用人にも準男爵がいるから前の席だったりする。
出来上がった配席図を図面にして、また三人で確認してやっと終わった。俺は椅子やテーブルを持って来る使用人達に指示を出してキューブハウスに棚を作り大量の小物を仕舞う。予備のテーブル、椅子とかまどを入れて行く。用具がパンパンに詰まった二十畳ぐらいの凄いハウスになっちゃった(笑)
次から机と椅子が重なって積み上がる様に設計します。
終わったら蚤の市の広場に跳ぶ。
俺が出した机と椅子をアルムさん達が片手でヒョイヒョイ公園広場に並べて行く、椅子を綺麗に並べたら石畳に接合する。
広場、公園を回ったらいい感じに机と椅子が無くなっていく。すべて組で作ったから、組で並べたら余らないのだ。三番街教会の横の公園に四セット置いた。あれほど嫌味を恐れた自分に笑えてくる。
西門に行ってみた。
開門村の中心に一軒借りて雑炊屋(麦粥)がいた。視ると銅貨二枚(200円)で腹が膨れて美味しいらしく昼でも売れている。気ぜわしい二、三人の商人が立ち食いで寄っている。となりのハウスが空いてたので、明日からこっちで石の机使うといいよと長テーブルを固めた地面にアンカーしておいた。
椅子も雑炊屋の配置に合わせて固定した。
開門村徴税官が走って見に来た、仕事熱心で結構だ。開門村執政官の通達を見せて
長テーブルに椅子一脚を置いたので三脚が余った。
誰も通らないなら座りなよと西門の門番に三脚置いてきた。領主の孫が言うので門番が恐る恐る座る。(物納査定の徴税官は門の内側に元から座れるようになっている)
東門にも長テーブルを置いてきた。また椅子が余る。
門番に椅子を勧めて、今度は言い方を変えてみた。誰か来たらスッと立てば良いと門番に三脚置いてきた。でも恐る恐る座る。
視ると
・座る門番見た事無いけど大丈夫か?
・隊長来たら怒らねぇか?
ビクビクしてる。
そういや知る限り座る門番見た事ないな(笑)
これマズイかもしんない・・・。
東門の守備隊駐屯地(帝国があったので必ず東門に有る)の守備隊長に言って、遠目に門番の椅子を見てもらった。
誰もいないのに立ってたから椅子置いた、とそのまま言った。
「今あっちから三人が来た時に座ってたら駄目だけど、休める時に休むのも兵法と聞きましたがダメですか?」
旅人三人が10m程に来たら二人がスッと立って身分証を確認して大銅貨一枚(1000円)ずつ取っていた。
「分かりました、アル様がそう言っていたと隊員に言ってキッチリさせましょう。ラルフ様には報告が要りますな(笑)」
「アルが戦争に行った武人なら分かる筈と隊長に言ったと(笑)」
「それは間違いありませんな(笑)」
「うーん・・・」メモを出して少し考える。
---------
常在戦場:兵士たるもの常に己の立つ場所を戦場と心得よ。戦場で
---------
「これを門番に毎朝復唱せよと」
「は!心に刻みます」
「北と南にも置いて来ますね(笑)」
「ありがとうございます」
「問題があれば取っちゃって下さい」
北と南に置いてきた。
「隊長がお爺様に掛け合うらしいので座ってね。人が来たらキッチリ仕事してね」
余った皿や机や椅子を偽教会の空き地に置いた。
孤児院の子に揉まれたが、炊き出しにでも使えと言っておく。子供達が小物の皿やコップを運んで行く。
・・・・
翌日、謁見に来た守備隊長が脂汗を流していた。
隊長が出したメモを見てラルフが渋い顔をする。
「これを毎朝門番に復唱せよと?」
「は!そう
「・・・」
「・・・」
隊長が𠮟責を覚悟するとラルフが言った。
「また汚い字で書いたもんじゃ(笑)」
「・・・」
「少し待っとれ!」
「は!」
後日、ラルフが清書した物がプレートになり門壁に
・・・・・
机と椅子を配り終わって四人はロスレーンの街を散策した。
あ!そろそろ靴出来てるかも?とスコッツ武具店に寄ってみた。
「靴出来てます?」
「アル様!三日前に(笑)」
アルムさんとクルムさんは既製品の軽戦用の靴を買った。俺の靴は重戦用なんだって。知らんかった。シズクは動かなかった、後衛だしな。ブティックへ寄ると服も出来ていた。皆の服はメルデスで良いか、と俺の服だけで帰る。
「よし、帰ろか!」
「五位の前祝いでダンジョンの服買わない?」
「いいわねぇ、買いましょうか?」
「クルムさんは魔法士用の服とか買わない?」
「これ動き易くて良いけど」
「それアルムさんのでしょ!(笑)」
「自分用の可愛いの要らない?」
「そうね。買うわ!」
「シズクも魔法士の格好にする?可愛いのあるよ」
「見ます」
あ!シズクは見たらいいんだ!靴買う訳無いわ。シズクが笑って(はい)と言う。モロバレだ。
まぁ、試験は受かった様なもんだしな。
なんかやっちゃいました? それだけが心配だ。
「行こう行こう」
「どこで選ぶの?」
「東ギルド周辺のお店を回るけど、高級品でいい?」
「毎日稼いでるからね!高級品よ!」
アルムさんに任せた方が良いな(笑) 服選びなんて女の人はイベントで楽しむって言ってたからな、長い筈だ。俺も武具屋で鹵獲品を買い取りしてもらおう。
・・・・
三人は服をオーダーするブティックに入った。俺は少し離れた武具屋さんで買取査定中だ。棚やケースに並んだ色んな武具の売り物を見て回っていたらティンと来た。
(シズク?分かる?)
(アル様、なんですか?)
(シズクって魔法士の杖とかも見たら持てるの?)
(剣と同じ感じに作ります)
(作った杖では強化されないの?)
(そこまではできないです)
(やっぱシェルは別格だな)
シェルは
(アル様攻撃嫌いです)
(シェルは分かってるよね)
(分かってるです)
(御使いのシェル様と比べられては困ります)
(シェルがすごいのはわかる)
(えへへ)
(この店に魔法士の杖とかあるよ。見る?)
(行きます)
武具屋の窓越しに・・・見てしまった。
シズクが店から飛び出た瞬間、魔法使いの格好になった。なんか盗んでるよな、アレ(笑)
やっぱ魔法使いってそういうのか。
濃紺ひざ下のオシャレワンピースみたいの。帽子も組み分け帽子みたいの被ってる、やっぱ魔法使いは定番なのか?帽子やめて赤いリボン付けたら宅急便になれるわ。メケメケのあれはもっと幼児系だな。
チリリンと扉のベルが鳴る。
奥から店主が顔を見せようと出て来たので、連れが来ましたと報告しておく。
(あっちに杖がいっぱいあるよ)
(はい、見てきます)
まっすぐ土の属性石の杖に行くのが可愛い。そうやってジッと見てるのね。やっぱ大地とかの系統は土属性だから惹かれるのかね?
邪魔しちゃまずいな。
(私は精霊ですが人の言う属性魔法ではないかもです)
(え?)
(精霊魔法は魔力を渡して精霊が・・・アル様が考える属性要素の魔力変換を操って魔法にするのが人の言う精霊魔法です)
(あ!そのとおりだね)
(操るのが得意な精霊が違うので属性に言われてます)
(そうだねぇ)
(アル様は、ご自分の魔力を使われますから人の言う魔法使いです)
(うん)
(シズクはアル様の魔力でも、周りのマナでも、自分の魔力でも具現化出来ますから人の言う何魔法か分からないです)
(具現化!そう言えば精霊魔法も魔法陣とか出て無いね)
(直接魔力をイメージに変換します)
(精霊が沢山集まって魔力を具現化するかシズク一人が具現化するみたいな?)
(はい、私と同じに直接具現化させますから(笑))
(シズクの魔力も凄そうだな。シェルが魔力隠さないと、魔力眼の景色が歪むって言ってたけど・・・)
(アル様、シズクも隠してますよ)
(だよね!あんまり普通の女の子で人間に見ちゃうのよ)
(シェルは初めて見たときから知ってましたよ)
(そりゃそうだろ!(笑))
(えへへ)
(シズクの姿は普通すぎて騙される(笑))
(ふふっ)
(だって精霊と忘れてるもん)
(アル様(笑))
錬金術師が持つポーションケースがあったので棚から取る。後ろに試験管の半切りみたいなアンプルの空ビンが並んでいた。
ケースの中には6本×2列12本の同じアンプル瓶が並んでいるので既製品で規格なのかな?と視てアンプル瓶を20本余計に・・・30本にしてカウンターに置いた。
横に置いてあるのは軟膏入れだ。携帯用朱肉入れみたいに捩じると木の蓋が取れる。10個ほど買っておいた。
値札が無いので買う気を見せたらヤバイか?と疑うが、貴族が何考えてるんだと勇気を出す。
清算したら小金貨1枚と大銀貨1枚(30万円)だった。店主を視たらアンプル瓶が一本大銅貨6枚(6千円)革のポーションケースがアンプル瓶込みで銀貨9枚(9万円)軟膏入れが大銅貨3枚(3千円)だった。
お洒落な錬金術師のポーションケース。クルムさんが喜ぶといいなぁ。
買い取りで差し引きしてもらって残金を受け取る。
なんかお金より物が嬉しいのはなぜだろう。
・・・・
アルムさんクルムさんが洋品店から出て来る。
「いい奴あった?」
「色々着て、6着注文したわよ」
「アルムも4着注文したよ!」
「お金持ってるねぇ!(笑)」服はマジ高いのだ。
「稼ぎまくってるからね!(笑)」
季節的にはバラライカそろそろかなぁ。ちょっとまだ早いだろうけどいいか。動くと暑そうだけどダンジョンだしな。
「ちょっとあっちでお茶飲んで夕食まで時間つぶそう」
まだ17時過ぎた所だ。
・・・・
クルムさんにバラライカの貴族用と平民用を見せた。PTでお揃いの奴頼んで作ろうかなって思ったの。
「お店に行くと商人さんが良く買う内側が毛で外側が布のバラライカがあるんだよ。貴族用はいかにもだから商人さんが買うバラライカの布の部分をみんなでお揃いにしない?あとダンジョンは15℃ぐらいだから表も裏も布で丁度良いかも」
「賛成ー!」アルムさんの勢いが良い。
クルムさんとシズクが被って確かめる。
「毛皮は動くと暑いかもだから、PT中はそっちの平民用のバラライカが良いと思うんだ」
「これ、村に教えてあげたいなぁ」
「行くなら連れてってあげるよ」
「待って!まず布を決めましょ!」
お茶も早々に切り上げバラライカ売ってる店に行った。
バラライカは商人用と平民用しか売ってない。視たら貴族用は店頭販売してないんだわ、商人用を四枚買った。平民用はクルムさんが最初から全部作ると言う。
北の街の布屋で皆が選んだ。
ただ、エルフと俺の好みが少しも噛み合わない。最終的に皆が好きな布を選んでバラバラだ(笑)
最終的にバラライカしてるのが仲間という大雑把なくくりになった。
そのままムストリウ王国のエルフ村へ跳ぶ。
クルムさんの友達に会いに行って俺の持ってる貴族用と平民用と商人用を見せて、暖かさを実感させた。見せるだけで充分だった。ムストリウ王国はコルアーノから五つほど国を挟む。オットー商会のクレームなど無い!
友達用に買ったエルフ好みの布を色々と渡すクルムさん。クルムさんが頑張って稼いだお金で街の綺麗な布を持って帰る、友達も目が輝いている。友達っていいよなぁ、俺は生きて行く強さを得るのに必死過ぎて余裕全然なかったしな。まぁ、学校行けなくてもしょうがないな。それ自体平民の事考えたら贅沢だ(笑)
・・・・
クルムさんが友達と話し込み19時半にギルドの大食堂に来た。メチャクチャ混んでるじゃないのよ!なんじゃコレわ!
四人で座れる席を探してるとアルー!と呼ばれる。
横掘の魔穴三十階の住人(では無いが)ミゲルだった。
「ここ空くぜ、来いよ!」
「ミゲル!ありがとう、そっか!上がるとこの時間なんだ」
「そうだよ!毎日毎日ミッチスだよ!(笑)」
「頑張れ!」
全員席を立ってくれた。
「じゃぁな!」
「うん!」
四人で座って、お昼が肉ばっかだから芋のスープのプレート(ポトフみたいに野菜がゴロゴロ)にしようかな?というと、皆がそれになった。
アルムさんが四人分の券を買いに行く(スーププレートのカウンターは黄色の木札に番号)
「よう!アル」
「あ!こんにちは!」白夜城は二十四時間こんにちはだ。
ジェルニスさんと一緒にいたうさぎ獣人さん。
「最近探してもいねぇからランサン行きと思ったぜ」
「ランサンはレベル落ちるって話じゃ無いですか(笑)」
「アルが落ちたとは言ってねぇだろ(笑)」
「稼いでますよ!(笑)」
「え!探してた?僕を?」
「アルって教会の信徒なんだろ?」
「え?・・・あ!そうですけど」視たらわかった。ジェルニスさん経由の信徒情報だった。
「これ、買ったからな!」冊子を見せてきた。
「何です?」
「おまえ・・・知らねぇのか?」
「え?・・・見せてもらえます?」
見て
御子様語録集だった。(銀貨三枚喜捨の付録)
「・・・」
俺!小金貨喜捨してもくれてないよ!そこんとこどうなのよ!おかしいでしょ!何十枚喜捨してると思ってんのよ!
「知らなかったのか?」
「・・・」
「・・・知ってますよ!」戻ってきた。
「え?」
「子供の頃で冊子を忘れてたの!」キレ気味だ。
「ホントかよ?嘘くせぇ。知らないって顔してたぞ(笑)」
アルムさんが戻ってきた。
「知ってますよ・・・」指摘され尻下がりに凹む。
「神はどのような存在か知ってるか?」
「見守る存在とか?」
「お!当たった(笑)」決まってるだろうが!
「教会は神に祈る場所じゃ無いよな?」
「神に感謝する場所でしょうか?」
「お!このくそ坊主!覚えてやがるな(笑)」
そのくそ坊主の語録買って自慢してんじゃねぇ!小さく薄い本に銀貨三枚も喜捨しやがって(3万円)
教会部のアレだ!朝の会だわ。ミイルフの野郎!明日朝一で教会部に凸してケジメ取ったる!
「でも、全部は覚えて無いかもです、それ高いし」
「高い!でもな、俺は里帰りしたらこれを村長に渡す」
「ん?」
「俺は教会で宣誓の儀をしたが、この年まで神様なんて信じて無かった。でも教義書に書いてある事には納得できるんだよ。ジェルニスに教えてもらわなきゃ知らなかった。アル、感謝するぜ。俺も信徒らしく教義を布教するからな(笑)」
「は・・い」
「それだけだ、それで探しただけだ!じゃぁな」
「はい(笑)」
神の御子だとかロスレーン家とかで見ずに、認めてもらえたことがすごく嬉しかった。
ただのアルで感謝してもらえて嬉しかった。
損得関係じゃない、心からの感謝が沁みた。
すごく嬉しかった!
ミイルフ大司教、借りておくからな!
一分前の進路から急速反転180度の取り舵一杯を切った。
「252番から呼んだよ!行こ!」
急かされた俺は黄色の木札を握って立ち上がった。
次回 168話 怪しく小さな薄い本
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この物語を読みに来てくれてありがとうございます。
読者様にお願い致します。
応援ポチ。☆も頂けたら嬉しいです。
ポチをしてくれる事。それはとても励みになるのです。
一期一会に感謝をこめて。よろしくお願い致します。
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