第158話  飛空艇計画



秋の夕焼けに師匠の肩車で帰った午後6時。


泣き顔で帰ると皆が心配顔。


「御子様!午後はどうなされたのです」

「昼食時に神託が下ったのじゃ」

「え?」

「神の啓示が下ったので三人で果たしてきた」

「・・・」

「お陰で明日の式典に魔法攻撃は無くなったぞ」


「えーーー!」


御子が犯人を諭して返した事。

以後は何も心配いらぬ事。

仔細を語らずガンダが話してくれた。


「なぜ御子様は泣き顔なのです?」

「砂糖菓子が欲しいと駄々をこねとるのじゃ」


何言っとんじゃー!


「「・・・御子様が・・・」」


「甘い菓子をやれば機嫌も直る」


吹きそうになったが、泣いた手前すぐ機嫌を直すのも恥ずかしかった・・・ら侍女に連れて行かれた。


大通りで大泣きして恥ずかしかった。


「このお菓子はどうかしら?美味しいですよ」

のが痛い!泣くんじゃなかった。


もうヤケクソだ!


「・・・あそこに売ってたお菓子が欲しかったの」

上目遣いで涙ぐむ。


侍女は魅了された。

買いに行こうとしたので、慌てて止めた。



・・・・・



夕食は教皇と大司教様全員と取り、その後懇親会。


式典への魔法攻撃について色々聞かれたが、と話さなかった。教皇様にだけ神聖国のステレン教皇代理に聖女の年季明けをしてもらった事を話し、顛末は後日お聞きくださいと耳に入れておいた。


明日のパーティーは全司教が出席する。


色んな国の首都に赴任する司教様に顔を覚えてもらい何処の国でも顔パスで協力体制を敷いてくれるのだ。遅くても五年で出席の司教が他国の司教と入れ換わる。


俺はこの世を冒険したいので、とてもありがたく聖教国に足を向けて寝られない。と思って寝た。



・・・・



朝の5時に起こされてからが大変だった。

侍女さん五人に揉まれまくる(笑)


襟足の毛まで剃られて、テカテカに磨き上げられた。


新調したちょっと豪華な貴族服を着た。

侍女がヒソヒソやったあとミイルフ大司教が呼ばれてきた。


慌てて視たら貴族服を勝手に着ちゃったのがNGだった。

俺は御子服だったみたい(笑)

まぁいいや、流れに任せろ。


「どうしました?」

「貴族服で疑われる可能性がございます」

「え?」と言っておく。


「教皇様より聖教国の御子が貢献したとご紹介されます」


「え?あ、そうでしたね、不味いですね」


「神の思し召しで難病から助かった末に聖教国に帰依し御子となった経歴なので御子服にお着替え願えますか?」


「はい、分かりました」

大司教が見守る中で御子服に着替え完了。


「厳重に申し付かっておりますのでお許しを」

「いえ、助かります」



・・・・



9時から、楽団の演奏が始まった。

>これから始まるよー。な感じの演奏が流れると各国の来賓が紹介されながら手を振り聖騎士に伴われて席に来賓席に着く。


俺は忘れぬように教皇以下演壇の周辺人物に精神耐性Lv10でイリュージョンの魅了回避をしておく。授与最中に演壇の皆が俺に注目じゃ絵にならない。


ミイルフ大司教が演壇に現れ本日の式典次第を案内した。


集まった信者や観光客に褒章授与式典が述べられる。


・神聖国の建国と奴隷解放の功績に褒章を与える事。

・褒章者は多数あるが、皆を代表して三人が選ばれた事。

・三人は以後名誉大司教として聖教国の運営に携わる事。


大観衆に拡声の魔法で知らされる度に、歓声が沸く。


教皇様の後に壇上へ続く三人。

続いた後に座るように促されて席に着く。


教皇様が演壇で一席ぶつ。


2759年前に始祖が建国した聖教国セントフォールがどのように成り立つのか。その中で第二の聖教国である神聖国イーゼニウムが生まれた事の意義。帝国国民に教義としてアレを布教している報告も有った。


・家内仲良く、親と子を大切にしなさい。

・獣人・人には親切、仕事に熱心でありなさい。

・獣人・人を恨まずうらやまず罪を憎みなさい。

・腹を立てずに悪口言わず正直に生きなさい。

・笑顔の絶えない楽しい人生を歩みなさい。


群衆もすでに知る吟遊詩人の奴隷解放の話も本当だと言った。本日は特に功労のあった他国の貴族と聖教国の御子に皆の代表として褒章を与えると宣言した。


宣言と共に割れんばかりの大歓声が巻き起こった。


民衆は熱狂していた。圧倒的にホームだった!

ここは聖教国のホームグランドなのだ!


さすが為政者、話しの持って行き方が上手かった。

ミイルフ大司教が名前を呼ぶ。


「コルアーノ王国、ベント・キャンディルム伯爵に第一位円環騎士褒章を与える」


後ろの席から導師が立って会釈をし教皇の前に歩み出る。教皇が褒章を胸に付けた瞬間、後ろの席で5秒2000mでイリュージョンを発動した。


それはたちまち天上からの祝福の様に光の奔流が巻き起こり教皇と導師を中心に周りを飲み込んで行った。


5秒後、何を言っても聞こえない程の大歓声。

貴賓席の各国要人もたまげる凄さだった。


それを3連発!


興奮冷めやらぬ中、褒章授与式は終わった。

速攻で精神耐性Lv10を周りから回収した。


楽団が演奏を奏でる中、お昼14時からパレードがあると案内されて家族が待つ部屋へ案内された。


お爺様一行の部屋に案内されてビックリ。オペラの劇場の様に特等席の教会横庁舎4Fのテラスからの観覧だったのだ。


お爺様に笑われた。


コルアーノ王国ではなく、聖教国の御子との紹介は知らされていたが御子服が似合い過ぎで聖教国の人にしか見えないらしい。アレ(師匠の結婚式のイリュージョン)はアルだったのかい(笑)とお父様が大笑いした。ほぼ真横から3回も見たらバレちゃうわな。



昼食は皆がそれぞれ家族と共に過ごした。

お土産で特別な物を聖騎士団長から貰ったと言う。

見せてもらったら、獣人奴隷を送って行った聖騎士団が持っていた外征用の青盾(傷入り)と聖騎士の片手剣を二振りもらっていた。


なんでも聖騎士の盾と剣二振りをクロスさせて壁に飾ると家のじゃけがれ)をはらうと贈られたらしい。まぁ、そうやって飾るのは武家のたしなみで暴漢用なんだろうけど。


各家族に同じものをくれたと言う。

神の国、聖教国の。当時の奴隷解放に使用された傷の入った盾でそれを飾る。貴族家ならグッと来るよね。またうちの応接が豪華になりそう。



・・・・



昼食後は褒章を胸に付けパレードだった。


最後には侍女たちの乗った馬車が色とりどりのキャンディーを道の脇に集まった群衆に撒きながら回った。拾えたものは街を綺麗にして神に感謝を示すんだって。


晩は司教様達と褒章パーティー。教皇様と大司教は各国の来賓の方たちの接待らしい。普段の褒章は聖騎士や司教が多いため、今回もその例として褒章者と来賓の接触は無いらしい。宗教国と言えども見事な政教分離だった。



そうして俺のてんやわんやのお休みは終わった。



・・・・



翌朝。朝食の席。


「聖教国の皆さんにご挨拶とお礼を言って参りますので、9時でよろしいですか?」


「我らも歓待してもらった、御子様からも宜しく伝えてくれ」

「それでは、9時にレンツ卿の部屋に集合するかの?」

「はい、お願いします」


1時間以上あるので噴水広場に行こうとアリアがお父様にねだる。師匠がリリーさんとハグした後にチュ!とされたのを俺の眼は見逃さない。


内政部のドルュン大司教、調停部のウラジス大司教、教会部のミイルフ大司教を訪れて師匠とお礼を言って行く。


師匠と別れてアルノール大司教に約束の物をもらいにきた。昨日出来上がってると聞いたのだ。


研究室にもらった自分の部屋で導師は寝てた。さすが賢者(笑)


アルノール大司教に聖法騎士団の甲冑一式をもらった。ヘルムがモヒカンの無いビギナギナXM-07だった。サイズ自動調節と重量軽減、自立吸魔紋の魔法防御と物理防御の魔術紋付き。


どこの勇者やねん。戦う相手いねぇよ。

こんなの着て暴れたら聖教国が喧嘩売りに来たと思われるわ。身バレ防止に青とか紋章削ったら不味いよなぁ・・・。


速攻で導師を叩き起こして重量軽減と自動調節の魔術紋を習った。重量軽減は実質16日ほどで完成させた事になる。レンツ様を送って行くから早く!と弱点を突いて教えてもらった。



魔力を乗せて行くと重力が増す魔法陣。

反転の魔法陣に魔力を乗せて行くと重力が減っていく。ある程度軽くなるとフッと魔力が乗らなくなる。


重力軽減から反重力に反転しない。


回転を速めても編込みを密にしても魔力量が減るだけで反重力とはならない。


教わる中で導師が発見した恐るべき係数を知った。重力の魔法陣の中に最初から反重力に反転しない仕組みが組み込まれていたらしい。反転する場合に掛かるセーフティー解除の係数。作った者の意図を感じる編込みだった。


反重力のセーフティーを外す暗証番号。


その部分だけ聖教国に明かしてないと言う。

(元より戦争に転用可能な魔法は一切公表しない)



南の中央大陸に編み込みを読み解け、シンメトリックの反転魔法陣に書換える技術を持った研究者が存在した場合。係数を割り出して魔術紋で反重力を利用する者がいる可能性を導師は示唆しさした。



俺はその怖さを知っている。あっちの世で知っている。


飛行機が出来る。

為政者にそれが渡った場合、大喜びで使うだろう。制空権を握る武器なら使わない訳が無い。世界を相手に戦争が出来る。


導師の御子に対する考えを視て戦慄した。

導師が知る→神の御子への警鐘→御子が神の啓示を受け上手くやる。聖教国を遥かに上回る御子への信頼に戦慄した。


導師の示唆により、以後は飛空艇の製作に入る。当然神の御子が為政者のそれを墜とすためである。導師にとって神の御子とはそれが許される存在なのだ。



それはさておき、軽量で早く旋回性能の優劣が飛空艇のキモであることを考えても俺はまだ銃も爆弾もこの世で見ていない。攻撃するなら魔法士同士の空中戦?とか想像してしまう。


取り合えず秘かに抑止力を持つ事になった。




・・・・



9時にレンツ様の部屋に行くと皆がお茶をしていた。


帰りは皆をそれぞれの家に送り(休みは終わったので帰ると)ロスレーンで挨拶を済ませて俺とアルムさんはメルデスに帰った。



昼までの細々した用事を済ませて、昼からギルドの資料室に行った。三万人のうち一万人が利用する北東ギルド、資料室は高校の図書室ぐらいは優にある。



今朝知ったばかりで焦る事も無いが飛行機の知識を色々漁った。


それを持っている大陸を予想して対策を練らないとダメだった。

飛行機で侵攻したら、世の魔動帆船の軍船相手でも戦力差が開き過ぎる。航空戦力に攻められたら何処の国もなし崩しに敗れる。


村程度の部族や豪族が纏まった程度の国。国力つぎ込んで全面戦争する国は兵と兵の潰し合い。国民全てが俺の素の魔法防御を一発で撃ち抜く魔法戦士。重力魔法と反魂魔法を操る部族。色々と脅威はあるが、飛行機はこれまでの戦争を一変させる。全てを打ち崩す。



・・・・



翌日からサント海商国に跳んだ。

海神商会のバーツさんに相談するためだ。


番頭のレプトさんが口に泡飛ばして興奮してる。


「御子様!すごい事になってるぞ」

「え?」

「あの世界樹だよ」

「何でした?」


「あの世界樹から取れる竜骨(船の一番大事な骨組み)は20本以上取れる話だ!その上、今までの魔動帆船では80mが限界だった物が130mクラスにまで大きく出来るんだよ!」


すごく興奮していた。


「へー、そうなんですね」

「解ってねぇなぁ(笑)」

「はぁ、済みません」


「今日は何だった?ハムナイ行くのは五日後以降だぞ」


「船を作って欲しいのです」

「え?」

「小型の船を作って欲しいのです」

「え?」

「船が欲しいんです!」


「ちょっと待て!そう簡単に船は出来ねぇよ。あそこに停泊してる魔動帆船だって早くて2年、普通なら3年掛かるぞ」


「えー!そんなに?」

「そうだよ(笑)、船は艤装の方が時間掛かるんだよ」

「あんな大きくない奴を作って下さい」

「本気なのか?」

「はい、大事な事なんです」


・・・・


「話を聞こうかな」


レプトさんが呼んできたバーツさんが話を聞いてくれた。


小さく丈夫で、草原や坂道にも置ける船と聞いて首を傾げた。


海岸で小舟を借りてバーツさんの山まで行き。自力の魔法で浮かせてみた。腰を抜かすほど驚いていたが後ろにそびえる世界樹がその法力の裏付けとなっていた。


宗教国の御子が乗るので、魔動帆船の技術で進み、早く小さく内部構造は半分が家、半分が貨物室、5m二人乗り程の魔動船を三艇積める。武装は要らない。


概要は出来た。


全長30m、魔動帆船型を二隻。貨物スペースのハッチを開けると小型艇が収納できる。船底にはソリの足が付き自重を支える事が出来る。


基本小型の造船所で作れると言う。海に浮かぶようにするには別途バラストと呼ばれる岩石を船底に敷き詰めるらしいのでお願いする。


商談を始めると聖教国との同盟を言い出した。

教会がある国は同盟と答える。


御子様がサント海商国を見限らない条件で無料と言う。

悪い事しないなら見限らないと答えた。


世界樹のお礼と言う。

要らないと言う。


作って貸してくれると言う。

私しか乗れないですと言う。


・・・とにかく紐付きから逃げまくったんだよ(笑)



最新型の船型でもなく、商船でもないため、軽さ、小ささを重点に武装無しで作ると六から八か月程で出来ると言う。


商船と言えども海上での戦いとなれば、船首の衝角しょうかくという武器(敵船の腹を突き破る)を装備したり、火薬式大砲を何門か装備すると途端に建造日数が掛かると言う。


武装装備で撃ち合いした上で船上の白兵戦を行うのが海戦と説明された。


海戦は俺にはあんま関係ない。

俺の使い方は高高度での視覚情報による偵察。


国力と魔法と空駆あまかける兵器があれば、持たぬ大陸はあっと言う間に蹂躙されて飲み込まれる。戦力は均一であるから恐れが生まれて抑止になる。



航空機を世に解き放つ意味を考える。

最強の武器を持った為政者が何をするのか考える。


俺は地球の歴史を知っている。


使わない訳がない。

絶対有利な武器なのだ。

余りに無体な為政者たち。

そんなのはあっちもこっちも同じだ。


自陣の損害は皆無という理由で死兵を投入する司令官を視た。民が為政者に巻き込まれている現実。闇の呪術を持つがために居場所が無いと心で泣く部族の姿が頭に有った。


飛行機持って有頂天になる為政者。攻めよ!奪え!蹂躙せよ!命令一つで逃げ惑う民。視なくても見えるわ。


と言って聞かぬ為政者なら武器を取り上げて、サシで拳の勝負させてやるか?


武器に囚われない己の力で勝ち取る勝利だ。

弱者を巻き込み犠牲の上に立つ勝利とは訳が違う。



さぞ勝利の美酒も美味いだろう。





次回 159話  飛ぶ草船:ウルマ

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               思預しよ



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