第156話  休日の終わり



マジックバッグをお爺様に渡した晩。


家族と一緒のファイナル吟遊詩人ツアー。


アルムさんとクルムさんとシズクを一緒に連れてきた。


今日はミニチョレスを持って来た。

教会楽団の先生も、街の吟遊詩人も巨大なチョレス。ミニチョレスじゃないと俺は抱えられないの。



いつもの通り、レストランで軽いつまみとワインを頼んで吟遊詩人の奏でる吟詠ぎんえいを聞く。エルフ姉妹とシズクは舞台のショーに感激してる。


拍手と歓声と共に吟遊詩人がお辞儀をして、いつもの様にチップを弾んだお爺様に丁寧に挨拶しに来てくれた。吟遊詩人さんの前でチョレスを出し、私もやって良いですか?と聞くと大喜びで聞いてくれると言う。


皆が知ってる聖教楽団の親しみのある曲をNo指定して腕輪よりイントロで流し、合わせて俺が弾いて行く。賑やかしの音が無いとソロ演奏は寂しいと思ったのだ。


普通のチョレスとかけ離れた、超絶の響きにしてある。海商国で視た反響の魔術紋効果だ。楽団の曲のチョレスの音から浮き上がって俺の音は目立つのよ。


腕輪のバックミュージックと共に俺の演奏も段々大きくなっていく。終わる頃には皆が陽気に歌ってくれていた。教会のお祭りの時に聞く誰でも知る陽気な収穫の歌だ。


吟遊詩人さんは、子供のチョレスを最初褒めようと演奏を促したが、演奏を聞いて気が変わった。


2曲目から吟遊詩人さんも弾き出しセッションになった!

アルは嬉しくて心がドキドキモードに入ったハイビスカスが点滅しキュイーン!と鳴った


次々に曲を披露して行く、お客の合唱になった(笑)


♪~村の種まき、陽気に踊って水を撒こう~♪ハイ!ハイ!♪


歌って弾くのはまだ怪しいの。だからカラオケを目指した。


♪~祭りの踊りはどの娘を誘おう、あの娘も、その娘も熟れている~♪


耳障りの良い曲を3曲弾き流したら机に驕りのワインが4つ積まれた。アルムさんとクルムさんがお礼を言って立ったついでに踊りながら飲んだ。


最後ねー!と言った5曲目。踊ってたアルムさんが席で歌ってた二人の手を引いて中央スペースに誘った。手を引かれたシズクとアリアが店の中央で合唱した。俺と一緒に吟遊詩人さんも4人のスイングに合わせてリズミカルに奏でる。


♪~陽気な太陽に照らされて生まれ育った俺たちは、親が暮らしたこの故郷まちで笑って生きて行く~♪


みんなが手拍子足拍子で一体になった。


吟遊詩人さんは最後の曲でアドリブ演奏まで入れて、それでいて雰囲気を壊さない超絶技巧!お爺様から2度目のチップをもらってた。最後の吟遊詩人鑑賞ツアーは終わった。



思い知った!趣味でマネは出来ても演奏の重みが違う。結構練習したけど吟遊詩人はまだ早い!(笑)


今日の吟遊詩人さんは27年やって今の舞台に立つ資格をもらってた。舞台に立つ人は皆この道を研鑽けんさんして登った人。視た俺だから解るんだ、街頭の弾き語りからポツンと始める吟遊詩人。同じだよ、道にチョレスのケースを開けて小さな硬貨を稼ぐことから始めたんだよ。



俺の吟遊詩人は歌いながら同じ音を弾き鳴らすコピー演奏だ。心が籠らない。トレースするのが精一杯でぎこちなくて聞かせられない。技は自分の物にして磨かないとモノにならない。


でも充分!カラオケは武器になる!元からそのつもりだ、夜営の焚火で仲間と歌うぜ!♪~燃えろよ 燃えろよ 炎よ 燃えろ~♪


※冒険者はそんな事しません。


焚火で吟遊詩人どころか毒舌漫談まで考えている。大人になった時、PTの雰囲気を良くしようと思ってた。


アルムさんの恋物語を聞かされて憧れていた。


エルフ村を出て、入れてもらった冒険者PT。リーダーと助け合うようになって何年かしたら発情した・・・物語。


あのアホ!延々と聞かされた恋物語が台無しだ!最後ぐらい言葉を選べよ!俺みたいなお子様に何言ってんだよ!


思い出すたびに怒れるが、まぁいい。


チョレスで演奏してPTで歌う。つ・い・で・に。


18~20歳位で出会うであろう公爵家の魔法使いのお嬢様とか、運命に導かれた聖女とか、王国歌劇団のスタァで一刀流免許皆伝の女の子とか将来PTに入って来る運命の人と良い雰囲気になりたい。


あっちで彼女いなかった!大きくなったら彼女ぐらい欲しい!


だ。




そんな夢想ぐらい許してあげて!



・・・・



10月11日。


35日もあった筈の休みがもうあと3日しかない。毎日色々と追われてる間に俺の休みがどっか行っちゃったよ!


あ!俺の屋敷が残ってる、そう言えば魔法袋も大量に手に入って配れてるし大丈夫だ。ゴミ掃除も終わったな、やりたかった開門村も出来たしな。この休みの象徴が残ってた、有意義に使ったな。


クルムさんには今は休暇中だから授与式終わったらPT活動すると言ってある。街に出てきたばっかだから生活基盤を整えてもらうのが優先だ。


三人の原始人狩りなら速攻でポイントも貯まるだろ。



休みに立てた予定も終わって、少しずつ出来て行くリフォームの屋敷を遠目で見ながら短剣を振るう。二刀の刃筋に注意しながら迷わずゆっくりと短剣を振るう。



・・・・



10月12日。



アルムさんクルムさんとシズクに内緒でハイランドに出かけた。行く度に攻撃されてるので気配遮断Lv10にして死角からアホ共を視て行った。


約60万人中の22万人が垂れ流しだ。

精霊魔法で綺麗にしていた。ご飯もお粥で流し込まれている。


最高指導部である元老院は全員麻痺。研究開発部門も全員麻痺。聖地を守る各部族派遣の防衛隊の精鋭も麻痺。


15時に世界樹が消滅し、晩に集まった20万人と元々聖地に住む選ばれた者2万人が麻痺でアーウー言うだけになり、真相を知る者は誰もいなかった。


周辺部族から集まった者が今回の大規模災害の救援をしていた。


救援する同族でも、聖地の惨状に邪推をしていた。


・元老院が人間抹殺計画を立てた。

・新薬開発の化学研究班の恐ろしい実験失敗。

・世界樹が消えた。御子様を怒らせた説。

・一夜にして地盤沈下。崩れた聖地に神の怒り説。


おおむね元老院の独裁が招いた事故とされていた。麻痺の世話が有るから早々攻めてこないと思ったけど、原因が分からなけりゃヘイト敵対心も来なかった。


周辺から集まった部族長から元老院の最高指導部を決める選挙の話が出ていたが、介護人の横にいる呪術師の婆ちゃんがキエーッ!と奇声を上げてかき消されていた。


ハイエルフ以外の下等種族を滅する毒を開発中に事故で爆発が起こり毒が拡散、地面は陥没。世界樹は余りの惨状に呆れ、天に帰った説が有力だった。なるほど!合理的なうわさだった。


そのうわさイイネ!と納得していた。


麻痺患者の目の前で噂が飛び交っても、当事者が否定どころかアーウーしか言えないのも助かった。


このまま放置でそのうち神に世界樹を召し上げられた説も風聞に乗って広がるかな?とホッとした。


怒り狂って周辺国に自爆攻撃じゃ無くて良かった。


建物がいっぱい穴の中に有るのでエルフの財産で検索して金品強奪を掛けた。キタキター!こんな所で踊る訳に行かない。


またマジックバッグが何個も増えた。


周辺国の貨幣も沢山あった。ミスリルの武器も有った。厳選された小麦、各国の銘酒、色々な至高の樽がいっぱいあった。聖地に住むだった。砂糖が・・・売るほどめちゃくちゃあった。


遠くの丘から見下ろして取り合えず穴を埋めて行った。元聖地に轟き渡るゴー!ゴゴゴ・・・という振動と揺れ。土魔法で作られた救護ハウスでハイエルフの皆が不安そうに縮こまる。


穴と瓦礫はすべて埋まり、地面を均して成長促進を視界一杯掛けた。巨木が立ち並び、昼なお暗い森、かつ簡単に開発出来ない様にしておいた。建物立てるだけで一苦労するだろう。


治す気はない、アーウーは呪いの言葉なんだよ。麻痺しても聖地の至高の御方しこうのおんかたなんだよ。エルフと人間にこの恥を100万光年にして返すとか今も呪ってるの。そのぐらいトチ狂ってんのよ。


治した瞬間にまたエルフと人間に復讐するからダメ。隷属しろって? 隷属したら罪人ハッピーになっちゃうからダメ。


俺が疲れる。(切実だった)



俺やクルムさんやシズクにやった事に気が付いて反省するまでダメ。一事は万事だ。今までやって来た事が因果で回って来ただけだ、今回はたまたま俺を引いただけ。反省しないといつまでも同じ事やる。


ハイエルフは寿命が長いって言うから、その分反省も薄かったりして、長い時間が掛かるかも?10年もアーウー言って復讐に燃えたら大したもんだよ。


エルフも60年ぶりに会った人が「そっか!」で話もせずに行っちゃうから、頭がハイな奴らは10年は甘いかも知れない。



-- でもなぁ、22万人か --



アホでも介護してるし同族の情もあるんだよな。事件の顛末てんまつを何も知らない人達は以後ずっと、にゃんにゃん出来ない人達にお粥を食べさせて下の世話もしなきゃならない・・・。


※にゃんにゃん:明の地方のの赤ちゃん語。



「・・・」



「ふぅ」



充分怒ったしな。介護人も含めて、やってみるか。


高い山が近くにあるので登った。

見下ろして視た。約30万人、やるか!


感知する者すべてに隷属紋を入れて行った。

60回掛かった。


教皇の服でハイエルフの中心地に行く。服に注目させ人物の記憶を薄める。2000mイリュージョンで注目させ拡声で言う。


・世界樹では無く、森の恵みに感謝する。

・獣人・人・エルフに親切。仕事に熱心。

・獣人・人・エルフ・ハイエルフはみな平等。

・獣人・人・エルフを恨まず、うらやまず。

・腹を立てずに悪口言わず正直に生きる。

・笑顔の絶えない楽しい人生を歩む。

・森にも街にも自由な人生がある。


※以前アルムさんがドワーフをディスっていたのでドワーフは外した。付けると片思いのスキスキになってしまう。


視たら恨みは消えていた。


安心して以後は恩寵の鍛錬にした。多重視点Lv6と並列思考Lv1に落として麻痺を解いていく。


時間は掛かったが多重視点はLv8、並列思考はLv6まで上がった。やり終えて腰を下ろして見下ろした。


固まった心がほぐれていた。怒りに固まった心。


「ありがとう」と言われた気がした。思い出させてくれた獣人奴隷に感謝した自分の心だと思った。



奴隷開放した怒り狂った獣人を思い出していた。堕とされ嬲られた誇りやプライド。命を掛けて復讐を誓う獣人。俺が一方的に憤怒を取り去った人々。


反省するまで麻痺にするという。周りに危険だから麻痺にすると言訳をする。


獣人の心からの怒りを消した俺が言う。


腹を立てるな、悪口言うなと布教する俺が言う。


公爵に死を与えられた者の恨みを消した俺が言う。


欲に踊る暴虐の公爵、傭兵団、貴族を許した。


俺が許した。


あれを許したら世界樹で踊るアホも許す。

誰だって間違う。アホだって間違う、やり直せ。


俺も間違えてたんだよ。


解放した獣人達を思い出さなければ間違えていた。


やられた者はのだ。


獣人の憤怒をアルは心から理解した。


思い出さなければ許す気など起きなかった。



・・・・



地震によりハイランドの聖地名物メイプルシロップのパンケーキは永遠に失われた。地の底に沈んでしまった。女性ハイエルフにとって聖地巡礼の象徴だった。


いにしえの製法で原料に世界樹の葉が必要な滋養強壮、疲労回復、栄養補給、にファイト一発なシロップだった。


余りのショックにハイランドを離れる女性が増えた。森にも街にも人生がある。と周りの国に吸収されて行く。若い美貌で魔法にひいで気位は高いが妙にフレンドリー。


かの海賊女帝のようなエルフ冒険者が増えてファンを増やす。


実はアルによってメイプルシロップ1000樽が強奪されていた。アルが強奪した財産の中に色々な重要書類も有った。


アルが持ち込むハイランドの重要な書類は(イリュージョンの)マッドサイエンティストと導師が紐解いてしまう。


・世界樹の新芽の究極のパンケーキの原料と焼き方。

・世界樹の葉を使った至高のシロップの作り方。

・世界樹の新芽の初露を利用したエナジー飲料の作り方。

・ハイポーション、エクスポーションの製法。

・エリクサー、魔力回復薬の丸薬化や製法。

・世界樹の枯葉を使った美味しい燻製の仕方。

・世界樹の美しく見える角度を決めるコンテスト規定。

・世界樹の前で武を競う弓、魔法、武術大会。

・世界樹の成長を測る神事の巫女の条件規定。

・世界樹の葉の集め方(拾う時に尻を向けない等)

・世界樹の枝を見つけた時の申告の仕方。

・御子様に不敬行動 罰則規定(攻撃当てた奴は旅立った)



終わらなかった・・・ずっと続いていた。

重要書類は、なんか原始人のアレに似ていた。


導師から紐解かれた研究一覧表を受け取り聞いた。


「ハイエルフは色々と聖なる制約を決めてとうとい儀式を行うのが好きな種族じゃな。寿命が長い分 暇なのじゃろ」


「あれがよくこんな枚数にまとまりましたね」


「なかなか見られるものでは無いからの。アルノール卿にも礼を言っておけ。初めて知る生態、ゴホン!生活を垣間見れて興味深かったわい。極められた魔法薬調合の妙はすべて世界樹あっての物じゃった、世の誰も作れぬ」


「これ、二人で分けて下さいね」


拾った世界樹の枝と葉っぱを渡して気が付いた。


「あ!ちょっと待ってください」階下に降りていく。


「こんな感じにしときまーす!」下から叫ぶ。


研究室の下に生やした世界樹、窓から葉っぱが取れる。導師が窓から笑う。導師の分はメルデスとロスレーンに有ると言ったら薬師の娘に渡せと枝と葉を返された。導師の10倍以上生きてる娘だ。


でも・・・あいつらガチ勢だった!


重要書類の80%以上が世界樹関連だった。世界樹フェチ?


ガノタのPGUガンダムをバットで粉砕した感じ?


考えるの止めた。

周りに迷惑掛けずにハッピーに過ごしたらいいよ。



まぁ、慰謝料はもらった。美味しかった。

エルフ姉妹が一生離れなくなる魅惑のシロップだった。本能から解き放たれるわ!と真顔で姉妹がいう。お前ら解き放たれてるだろうが!


コンペイトウでも森から離れると言ってたぞ!


甘いのどんなけ好きやねん!


そうそう!ハイエルフもエルフと一緒だったんだよ。

世界樹を独占して周辺国が買い付けに来る。枝や葉を売って得た大量の金貨でハイエルフは砂糖を買ってた、最上級のパンケーキ用の小麦買ってた。


他のもん買ってねぇよ、だった(笑)


コンペイトウで森から離れるほど甘いの好きなんだよ!世界樹に集るカブトムシみたいな奴らだった。※クワガタ来たら許さんぞ な感じ



もう自由な空へ飛んで行け。





次回 157話  式典への害意

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               思預しよ

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