第133話  国王の恩賜



4月末に証文をやりおえた。


11月に全国の両替商を襲い、一週間で終えたキャンディル領の証文。年明けから毎晩証文の書き換えを頑張って四カ月も掛かったんだ。心の荷が下りた。新たに重い神聖国の荷ガラクタと布教が増えてるけど。


計算した各領都の明細書も付けて仕分けした。


マルベリス領は自分のやったことが解っているのでそのまま貸付未回収分の債権や奴隷債権だけを渡しておいた。それを持ってたら貸した分は回収できるのだ。貸した分は商売なんだから取らなきゃ損しちゃうだろ?(アルは分かって無い)


問題なのは王国の各領主への返還だった。


俺としては元宮廷魔導師の導師の伝手で何とかなるさ。と簡単に思っていたら明細を見終えた導師が言った。


「儂が行って王家や領主がと思っとるのか。お主も考えが簡単に過ぎやせんか?」


導師から思わぬツッコミが入った。


「どうしましょう?」と二人で悩む大問題だった。



レンツ様に各領の搾取された金額と奴隷債権の事を相談した。


王都の王家直轄領や王家の親戚筋の公爵家(広大で人口が多く金額もデカい)の搾取分が知れると絶対王政ならマルベリス伯爵領が取り潰しで一族郎党が死罪になる。マルベリス家が抵抗すれば内戦の可能性があるらしいので着地点を探すという。


焦った。


商会潰して終わらなかった。顔に縦線だ。


絶対王政になってないとややこしいよ。

イヤ、この場合なっていてもややこしかったけど。



王家の事なら旧家のハルバス公爵家(王弟)である。

レンツ様が導師を伴い何度もキャンディル家の寄り親の国王派閥の長、ハルバス公爵家に足を運んだ。



俺は何もしていない、子供の出る幕など無い。

半年程した晩秋に経緯を聞いただけだ。



マルベリス伯爵の序列が伯爵家1位から2位に降爵。正式な通達と共にマルベリス伯爵が自ら引退するらしい。引退後は長子が伯爵位になるが、問題が落ち着くまで決算金は渡すなとレンツ様の指示があった。



コルアーノ王国地図

https://gyazo.com/7d7093f86f93ea24dfeb599efb26d4a3



ハルバス公爵家は国王派閥。コルアーノ王国の盤石を願う派閥である。マルベリス領及び国内貴族に波紋を投げかける道は歩まなかった。腐っても権勢を誇った豪族である。土地を荒廃する派閥間の内戦の芽もあったと聞いた。


貴族派の派閥はヨレンソ公爵家(王叔父)で豪族時代の牙を持つ貴族を束ねて絶対王権を阻む貴族派閥の長である。束ねて牙を持つ者の主張を王に伝えてガスを抜く。牙が有るだけあって戦争時の主役級である。マルベリス伯爵家はココ、貴族派閥に親戚筋が多いのよ。



ロスレーン子爵家の属する中立派閥の長はマルテン侯爵家である。お母様のルーミール伯爵家もこの中立派。お婆様の実家のミウム辺境伯家も中立派だ。


(アルは知らないがラルフお爺様が学生の時にミウム辺境伯より子爵家への打診でそのまま婚約となった。貴族学院魔法科で一歳年下だったルシアナお婆様の一目惚れ。親に頼んでラルフに近付き当時の若様を上手く手懐けた。三男三女を生み次男は22歳で帝国戦で戦死(アルが生まれる5年前、三男は20歳で乞われて中立派男爵家に養子、三女は嫁入り)



全ての領地で搾取された金と奴隷証文と明細書がハルバス公から内密に全ての貴族家に早急に対処するようにと返された。王家、王族が黙る事に領主たちは口を閉じて受け取った。



たまたま知った両替商の悪事、それから1年4か月。

ハルバス公から全貴族への略取金の受け渡しが終わった。何も問題なく終わった事に、全ての決着の時期が来た。


レンツ様から春を前にして、決算金を返す指示が導師に出たのだ。導師から聞いたアルはホッ!と荷を下ろした。


マルベリス伯爵領民の魔術証文と債権奴隷証文、決算金と内訳書は新マルベリス伯爵に返された・・・領収書と共に。



返された時にはアルは手数料を使いこんでいた(笑)



去年の4月に証文終わって決算金が出た時に、端数を手数料で天引き徴収した。大きい金額だったので4/5ぐらいを聖教会の孤児院に突っ込んだのだ。


それは絵本とか文字関係の贈書。

本は何でも高いんだよ。大陸共通語の教本はセイルス商国やサント海商国に沢山あって、帝国の屋敷を運んだついでに孤児が字ぐらい読んだり名前が書ける様に買ったんだよ。


俺はアルベルトが読み書き出来てたので大丈夫。

大丈夫だが・・・字がとても汚い。


記憶の通り書いてもダメなんだよ。

手が慣れて無いのか7歳で寝込んだアルベルトより汚い。だから導師に代筆を頼んだんだよ。


アルが導師に書いてくれと頼んだ言葉。

とても汚い字でアルが書いた言葉。


武官には武道、文官には文道、農工農民、職工には作道、学院には導道、商人には利道、領主の道は如何いかに」


アルは渡されたから導師が書いたと思っていた。

アルから導師へ、導師からレンツ様へ、レンツ様からハルバス公へ渡り。それはまさしくハルバス公が書いたものだった。



・・・・



翌年4月。貴族院任官前の叙爵の儀、ロスレーン子爵は謁見の時に言われたように王都に留まっていた。叙爵式筆頭はラルフだったのだ。


ロスレーン子爵(1位)は伯爵(2位)に昇爵された。

(1位~2位領地持ち、3位都市持ち、4位名誉爵位1代)


何も言わなくても全ての領主家が悟った。

そして感謝した。


ロスレーン家は名実共に大領主となったのだ。


恩賜おんしとしてロスレーン伯爵に貴族院にほど近い王家の別邸が下賜かしされた。王家が昇爵パーティーを行った後、執事とメイド、使用人ごと賜る事になっている。以後は貴族院任官の長兄や学院の兄妹が王都逗留の別邸となる。


恩賜おんし:君主から臣下に忠節や功労を感謝し与える物品。


アルは後で導師に知らされて知った。

ラルフが用事で帰って来ないだけだとロスレーン邸では思っていたのである。昇爵されても情報が伝わるのは約1か月後だ。誰も知ないからアルも聞かない、知らない。


王都で連夜の昇爵パーティーに揉まれてラルフとルシアナが領に帰った5月中旬からポツポツと祝いの品が届き、最後には洪水の様に部屋を埋め尽くした。


ラルフが領に帰るその頃は家に帰って無かった。


導師がロスレーン家に帰った時に伯爵になったと聞いた。

それを聞いたアルがやっと知ったのだ。


「おー!すごい!」でアルは終わりだった。


導師に伯爵家になったのでの大騒ぎと聞き巻き込まれない様に絶対帰らないと誓った(笑)


三カ月以上経ってたまたま導師と家に帰ったアル。

それを見たラルフがすぐに執務室に呼んだ。


アルはギャー!捕まった!と帰ったのを後悔した。


執務室に行ってみたら質問だった。


「これはアルの物か?」

「え?」


「これじゃ、よく見よ」


「あ!はい、私の・・・書いたものです」

「汚い字じゃのう・・・」渋い顔される。


「・・・すみません」しゅん。


「もう少し練習せよ」

分かってるから言わないでよ。


「はい」ぺこり。


あんまり字が汚いから導師がチクリ告げ口しやがった!クソ!まぁ俺の字が汚いからだけどな(笑)



それは昇爵と共に国王からラルフへ賜った物だった。



アルは知らない。


アル>導師>レンツ伯>ハルバス公>コルアーノ王>ラルフ(今ココ)



国を駆け巡り冒険してきた汚い字を。



・・・・・



12歳になった時、神聖国の冒険者ギルドで登録した。


街中で出来る依頼票を30枚達成すると鉄級6位になれる。


時間が出来ると色々な街でクリーンで達成出来る依頼を探して、今はギルドのハンコが18個になってるんだよ。ラジオ体操みたいな紙が冒険者ギルド証の7位の冒険者だ。でも冒険者は皆それをやってきている。俺も頑張って早く鉄級6位になりたい。



今は導師と一緒に神聖国を回っている。

導師が色んな土地を見たいらしい。サント海商国は初めて行ったと喜んだ。その土地行かないと導師は跳べないから俺の布教に一緒に回っては周辺国の地形まで覚えている。


師匠はどうしてるって?

男爵家の跡継ぎが出来るまでロスレーンから出られないの(笑) 王家の男爵の責は重い。あー!貴族はヤダヤダ。


今日は夜遅くなり導師ハウスの台所で料理に奮闘中。

最近の得意料理、小麦粉と肉と野菜を切り刻んで濃いスープをぶち込んだお好み焼きを作っている。


導師が不思議がる。


「どこで貴族のお主が料理を習ったんじゃ?」


「あっちですが・・・」


「道理でのう、キャンディルへ行くときも普通に作っておったのもそれか、不思議だったのじゃ」


「あはは!不思議ですか?」

「貴族の子は料理などせんからの」

「焼けましたよ。はいどうぞ」

「うむ、良い匂いじゃ」


「美味しい筈ですがねぇ・・・うん。充分美味しい」


「美味いの。うむ、充分だの」

「あはは、良かった。はい導師」小壺を出す。

「おぉ、すまぬの、この酒に慣れて他のが飲めぬわ」

「パーヌは当たりでしたよね(笑)」

「当たりじゃな(笑)」



・・・・・



罪を狩る死神の鎌で跳び回る俺のステータスだ。


ステータスボード No.1


アルベルト・ロスレーン 12歳 男

ロスレーン伯爵家 三男 健康

職業 ―


体力:73 魔力:- 力:50 器用:367 生命:54 敏捷:51 知力:684 精神:702 魅力:84 幸運:87


スキル  

身体強化Lv3 格闘術Lv2 剣術Lv2 短剣術Lv2 槍術Lv1 盾術Lv1 虚言Lv2 馬術Lv2 投擲Lv3 威圧Lv2 算術Lv3 魔力眼Lv2 火魔法Lv2 光魔法Lv2 水魔法Lv2 無魔法Lv2 時間魔法Lv2 土魔法Lv2 風魔法Lv1 雷魔法Lv1 氷魔法Lv1 聖魔法Lv2 闇魔法Lv1 空間魔法Lv1 多重視点Lv5 精霊魔法Lv3 真実の眼Lv10 真実の声Lv7 真実の魂Lv6


基本防御恩寵

恩寵付与Lv10 精神耐性Lv10 麻痺Lv10 恩寵強奪Lv10 恩寵分解Lv10 ステータス封印Lv10 恩寵防御Lv10 麻痺耐性Lv10 毒耐性Lv10 


対帝国防御恩寵

状態異常耐性Lv10 危機感知Lv10 自己再生Lv10 並列思考Lv10 気配遮断Lv10 気配察知Lv10 防具強奪Lv10 魔法防御Lv10 物理防御Lv10 魔術紋Lv10 転移Lv7 インベントリLv10

 

※魔法防御、物理防御、魔術紋はLv1よりブースト。

算術スキルは証文でLv10にして、いつも自分で消していたが、証文終わってから付いた。


リノバールス帝国を無血で神聖国イーゼニウムにするためにブーストした恩寵群。死神行脚が終わり次第に不必要な恩寵は消し、有効な物を学んで身につけようと思っている。


布教が終われば転移、気配遮断、気配察知、並列思考、自己再生、危機感知、状態異常耐性を一気に消す。

※インベントリはまだゴミが入っている。


Lv10なんていつまでも持ってたら自分で取得できない。かと言って各地に点在するこの国の獣人差別系傭兵団を相手に布教するには外すに怖すぎるのだ。



防御最強に過ぎてそれを打ち破る最強の矛が混沌衆に用意されたら困る。帝国だって俺に取っちゃ死にかけた程の混沌衆だ。


過剰過ぎる恩寵は努力や気付きを無くす。

師匠と導師に危険性を説き、自己再生、物理防御、魔法防御、状態異常耐性、危機感知など元の恩寵Lvに戻したり消したりした。



1年前。シェルに助けて貰わなかったら死んでいた。



雷雲団長(私兵団)の奇襲攻撃。

縮地と危機感知と気配遮断の複合した恩寵。絶対的と信じた危機感知とアルの眼を掻い潜り、アルを視認せず寄って来て攻撃を成功させた。


そして、護衛が使っていた気配察知と危機感知を複合で連動させるイージス艦のファランクスの様な自動迎撃システムが欲しい。


アルは次の目標を見ていた。この死神行脚も悪くない。この1年半で色々と見た、知った、体験した。人と会うたびに新しい物を知った。危機に会うたびに注意事項が増え、成長する事を実感した。だから物理攻撃の鍛錬と魔法の研鑽に努める。



全部片付いたら冒険者の先生を探そうと思ってるんだ。レノアさんが持ってた恩寵だから何か修行方法があるんだよ。



12歳半のアル。

転生して二年で10センチも伸びた背は130cmになっていた。

やっと9歳程の背になってもアリアと身長が変わらない。12歳で成人してもまだ子供に見られる、だから子供冒険者だ。



    やる事は変わっていない。


自分を鍛え、前を向いて努力する事。

経験を積み、物事を知り、自分に深みを付ける事。

先達に教えを乞い、喜びと感謝を知る事。


毎日少しづつ積み上げて作り出す自分の未来。



    自分を育成する事。




アルは春まで布のバラライカを首にしていた。

12月の初旬、神聖国の街で売られるのを見かけたのだ。


ロスレーンで頑張っている人たちを思い出した。

  そんな人たちと一緒に磨いている。





  第二章 見聞編 「完」




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    第二章あとがきとお知らせ。


少々長くなりましたが、第二章「完」となりました。

ここまで読んで頂いてありがとうございました。


キリの良い所まで書くと8000字以上になってしまい、大人の事情でComing soonとかやってすみません。


見聞編:師走から始まる壮大な伏線10話が付き62/123話を大幅に超過する133話まで掛かりました。異世界転生編のプール行くまでの辛く長い道程みちのりの様で足踏みが遅くて私も辛かったです。


9月のプロットから10月に書き始め、11月より毎日の更新で足掛け6か月も突っ走ってしまいました。

この辺で一度お休みを頂きます。


次回は2022年5月1日より冒険編を開始いたします。

同日、異世界ファンタジーへの移籍に伴い何かリンクが切れたりするかもしれませんが、その時はご容赦ください。


※移籍に失敗してもご容赦ください。

何かあったら近況ノートに書いておきます。


応援下さった方に感謝を込めて。 


           思預しよ


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