第132話 幸せの花
貴族学院の卒業式にジャネットを連れて行った。
2日目の朝に迎えに行くと、ジャネットの胸に小さな花のコサージュが付いていた。
それは偶然にも神聖国の紋章の花だった。
なんで? と良く視た。
花言葉は安息の幸せ、癒される幸せだった。
略して安息の花、癒しの花だった。
そして逆に略して幸せの花でもあった。
こんな所でアリアに弱点を突かれて苦笑した。
・・・・
聖教国から選任された神聖国の大司教を運んだ。
外交部:内政部:教会部:情報部:財務部:教義部:調停部の7つの部会から6名の大司教と14名の司教、28名の司祭が神聖国に赴任した。教義部のステレン大司教はそのまま続投で神聖国の教皇代理。
なんか7大元老みたいな、あっちの共産党システムになった。
神聖国の国内は安定している。俺が行く街、行く街で罪人が排出されて行く。自警団作って領都で獣人狩りやってたガゲッツ公爵領民までの過激派は全国にはいない。
しかし、幼い時期から”うちの家系は獣人奴隷を600人も使って農園やっていたんだぞ”と親に自慢される子供達はみんな獣人をそう思い込んで育つのだ。
俺は死神の鎌を持って街を訪れ罪を刈って行く。
布教されると自分は有罪と進んで鉱山行きの馬車に乗る。
男爵が裁くどころでは無かった、多すぎたのだ。
法則としか思えない。それを因果律とも言う。
種を蒔けば芽が出る。因を作れば果となるのだ。
前ガゲッツ公爵領はガゲッツ郡に改名された。全ての領地が貴族の家名を元に郡になった。司祭は郡や街の代官である。
男爵が面倒を見る郡で男爵の領地ではなくなったからだ。
代々郡の面倒を見て行く仕事で男爵の地位を保証する。
富の集中は起こらなくなった。領主に寄生していた者ばかりだったのだ。商人は薄々知っていても大なり小なり加担しなければ大きくなれなかったのだ。解体して適正な大きさにしていった。
少しずつ富の分配へ変わってきた。
富を適正にする帝国では男爵には維持出来ない豪邸が残った。
そんな中、教皇が周辺国首脳に華美な邸宅をセールスしてくれた。首脳同士による経済外交である。
サント海商国では十指に余る海商王達が権勢を誇る。
海を股にかけるそんな海商王が帝国建築の華美な屋敷や別荘を買った。もちろんいきなり飛ぶように売れた訳ではない。
教皇からの申し出を受けた海商国一番の海商王が帝国最後の皇帝の邸宅を話のタネに買った。あっちで言うバロック様式の華美な建築物は内陸の文化を余り知らない人達に夢を見させた。
さざ波の様に少しずつ華美な帝国建築がサント海商国に売れて行った。
その結果、海商王の零れる財産が物資として神聖国に流れ込んだ。神聖国の首都に荘厳なる大教会の建築が始まった。無駄使いではない。国の威信がそれに掛かるのである。
皇帝の邸宅、公爵、侯爵、伯爵の邸宅。注文が入れば売って物資で貰った。国中から集まった自称罪人によってメガシティーに向かう金鉱の街では物資が圧倒的に足りない。
金鉱山の街では金など売る程あるのだ。それは文字通り売られて物資に代わり街作りを加速した。
奴隷も普通の住民も一緒くたの金鉱の街。そこでは悪事しないから犯罪が起きない。犯罪が起きたら起きたで罪を憎む全ての住民に袋叩きだ(笑)
そしてその犯罪者は罪を憎む男爵に裁かれて鉱夫が増える。
親が自主的に金鉱で働き子が私塾や学校に通う家庭が普通になった。金鉱の自称罪人に食べて行くお金を渡すと文句も言わずに自分でちゃんと暮らして行くのだ。
毎日街から街へ跳び罪を刈って行く。気分転換に海商国へ貴族屋敷を持って跳ぶ。対価として神聖国に物資が流れ込む。そして栄える。
余りに自称罪人が多いので他の鉱山も罪人でパンパンの状態になり、新たな坑口を作って掘った。そんな時、北の銀鉱山でミスリルが見つかった。銀が魔素やマナと呼ばれる物に満たされて何千年何万年と経つと魔力をまとうことが出来る武器や工具になるのだ。
それからはミスリルに惹かれて神聖国に次々と沸いて来るドワーフを保護するようにした。
ドワーフ・エルフ・獣人・人には親切。仕事に熱心。
ドワーフ・エルフ・獣人・人を恨まず、
教義の文言を少し変えた。
12歳になったばっかの話だ。
・・・・
神聖国が出来たばかりの3月末、お爺様が王都から帰ると、暁の副団長四名は丁寧にお礼を言いハルバス領に帰って行った。レノアさんと師匠を残して。
レノアさんが騎士の叙爵試験をお爺様に望んだのだ。
ラルフが困った、ラルフに勝ったら無役の騎士として叙爵するとは言ったが、誰でもなれる冒険者じゃ無いのだ。礼儀、作法、儀礼に難があるレノアを従士(叙爵予備軍)たちの中に入れる訳に行かない。
話し合いの後、レノアさんの処遇が決まった。
メイド修行から礼儀と所作を叩き直す。まずは生活魔法の足りない4種を極める事。午前はメイドで朝の水汲みから始める。
午後は騎士団で腕を磨く事。5年後に叙爵試験を行う事。課題は指定の副団長に勝つ事。落ちても護衛のメイドとして子爵家で雇う事。
・・・・・
5月
ロスレーン家の夕食の席でアリアが独演会をした。
神聖国の噂を聞いたのだ。
「新しい国の名は神聖国イーゼニウムという話ですわ」
「アリア詳しいのぅ」
「王都へ向かう隊商の方々が3番街で皆に話してらしたのです。凄い人だかりの中で聞いてました」
「ふーん」頷く師匠、導師、アルの尻の座りが悪い。
「3番街で神聖国、聖教国と大合唱まで起こりました!」
「どんな話じゃった?」
知っているのに聞く良い爺だ。
中立派の長、マルテン侯爵から届いた手紙を見せてくれたのだ。聖教国が帝国を亡ぼしたが周辺国の首脳は事前に了承済みだったと書いてあった。爺ちゃんはそれはもう大喜びだった。帝国戦で次男を亡くしているのだ。
「神聖国に変わったら帝国だった人達が隊商の方々を凄く優しく迎えてくれたそうなのです。聖教国とはすばらしい国なのです」
変な顔になる三人。
「ほう!戦争が無くなると民も安堵するのじゃろうな」
「民を安堵する国が一番ですよね」すかさず同意する。
師匠と導師もすかさず乗る。
「聖教国は出来た国じゃでのう」
「俺は傭兵だが戦争は無い方がいいな」
「聖教国は悪鬼の様な帝国を無血で滅ぼしたそうなのです」
「なんと!儂とアランが死にかけたあの帝国をか?」
お爺様があからさま過ぎて笑うわ。
「そうなのです!」
「さすが聖教国です!名前も神聖国イーゼニウムなのです!」
「どうしたのじゃ?イーゼの花じゃろ?」
「アル兄様が奇跡で治った花なのです!」
ALL「え?」皆が俺を見る。
「・・・」うぎゃーーー!
「・・・」次の話が始まらない、俺のターンか(笑)
「いえ、病気で寝ている間、毎日アリアとマーガレットが僕の枕元に摘んでくれていた花なのです」
「なんじゃ、そういうことか(笑)」
「イーゼの花は幸せの花なのです。ね!アル兄様」
「そうだよ、アリアの幸せの花だよ」
「神聖国イーゼニウムに必ず行きます、お父様!連れて行って下さいませ」
「え?アリア、まだ早いよ。出来たばっかの国だよ?」
「そうよ、もう少し落ち着いてからよ」
「えー!優しい人たちなのに」
師匠と導師の生温かい視線が痛い。
なに。そのふーんな顔は。
バレちゃった。
アリアの花が由来の国だよ。
二か月前に送った聖騎士軍が全て帰って来た事で、交代で次の聖騎士軍団5000名を新たに参集し、三日前に拉致被害者を第二陣で送ったばかりだった。
・・・・・
8月
首都の教会に居候の俺は、ステレン大司教の相談役だが子供なのであまり呼ばれない。呼ばれたら教皇様の所へ連れて行く
聖女ユーノ御一行は赴任先が首都になった。
(本来ならその国の主要都市を任期で巡って歩く)
第二聖教国に聖女が一人しかいない。今は聖教国に各国使節団が押し寄せて祝賀の嵐だ、だから聖女ユーノは首都(笑)
聖女PTがとても多くの仕事をさせられていた。
導師はキャンディルの農作物の作柄で興奮して教会に跳んできた。レンツ様から報告を受けてすっ飛んできたらしい。小麦の収穫も畑の作物も良く育って豊作だったと大喜びで語った。
豊作とは爆発的な収穫を指す豊作の事では無かった。
学者らしく通常の作柄なのに1割ほど収穫がアップしていると的確に教えてくれた。実が太く多いそうだ。
そんな俺も他国の事してないでロスレーンの事やりたいと思うけど、なかなか目の前の事を置いて行けないんだよね。俺的な重要度はロスレーンだけど、やっちゃった俺が布教から逃げたら人としてどうなんだ?みたいな責任感に縛られている。
そもそもロスレーンの作付けが幾らで作柄がどうなんて考えたことも無かった。導師が来るまで忘れていたぐらいだ。恩寵付けときゃ勝手に収穫が増えるだろ?みたいな感じ。そうだよ、俺は無責任一代男なんだよ(笑)
開拓村とか生活が酷いの視たからやってるけど作柄まで興味ねぇよ。
そういうのは専門家がやってくれるの!
・・・・・
師匠とリリーさんの結婚式は10月にロスレーンで行われた。
早くしないと師匠が40歳になってしまうかららしい。
俺と確執が有った訳じゃ無いが3番街の教会だった(笑)
朝の4時頃からジャネットがメイド達を率いて花嫁作りに走り回ってすごかった。そんな俺も純白の貴族服でアリアのドレスとお揃いで朝から作ってもらった。お召し物はすべて新品の貴族服である。取り立てておれは美容術も使わず何もしなかった。師匠は見えても30代、そのままで充分カッコいいからだ。
俺がやった事はアリアと一緒にリリーさんのウェディングベールを持ったことだよ。可愛い双子と言われたぞ。
オットーさんは花嫁を連れて歩く事は出来なかったが、奥さんと子供達と一緒に大泣きしていた。
腕輪から錫杖と冠とローブととんがった靴をインベントリに移して教会から出て階段の前に二人が立った時やってやった。
天上から柔らかで煌めく光の滝が地上に降り注ぐ。
降り注ぐ光の奔流は二人を中心に同心円状に周りへと広がっていく。皆が光の洪水を受けピューリファイの浄化と共に清々しい光の粒が舞い上がる。
皆が奇跡のイリュージョンの中で二人に釘付けだった。
(当然二人には先に魅了耐性付けておいた)
俺は後ろに隠れてるからその場の100mにいる奴は5秒間二人を強制的に見せ付けられた(笑)
意表を付いたつもりだったが読んでいた者がいた。
その時に付いたのだ。
慈愛の神。アローシェ様の加護。
やっぱ神様はお見通しで全部持って行かれた。
凄いイリュージョンを見せたアローシェ様は以後ロスレーン人気投票ぶっちぎりNo.1間違い無しである。
イリュージョンは出るわ加護は付くわ3番街の教会も安泰だ。
次回 133話 国王の恩賜
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