第131話 神聖国イーゼニウム
3月9日の昼。
試合前の儀式をした。
肩を組めなかったので3人で手を合わせた。
「アル、細心の注意を払うのじゃ!」
「アル、帝国にキャン言わすぞ!」何言ってんだ(笑)
「お二人ともよろしくお願いします」
俺は帝都教会へ、師匠と導師は護衛としてゾルタス子爵の常宿に入った。
3月10日。
そしてその日、帝国が変わる。
向かえた朝日を違う場所で浴びて一日が動き出す。
三人共が腹が据わっていた。念入りに打ち合わせた。身代わりの珠を持った。外部からも内部からも魔法攻撃の効かぬ帝国議会場へ乗り込むのだ。皇帝と貴族当主全てが集まる議会だった。
朝の5時から俺と聖女の用意に侍女がてんてこ舞い。髪の毛を切り整え。産毛を剃られ、爪の先まで磨かれた。ピカピカになった俺は喋らなければ子供スキル全開だろう。8歳のアリアと子供的な見た目が一緒だからな。
7時に教会に横付けされた豪華な馬車に乗った。
正直怖かった。計画が露見して違う場所に行くのを疑った。
降りた所を視ると議会場、皇帝専用通用口。来たぞ。やっと来た。
それは無血で終わらすための三段段構えの作戦だった。
皇帝控室へ続く通路。
真新しい御子服に身を包んだ俺はステレン大司教に連れられ聖女と共に控室に案内されている。
皇帝の控室まで厳重な警戒の中を潜り抜けて来た。
潜り抜ける度に確認して行く、魔法防御結界の魔術紋が師匠によって約50秒ごとに斬り取られて師匠のインベントリに収まっていく。
そんな物を見張っている者など居なかった。居ても師匠なら瞬殺である。45mの縮地半径と45mの瞬歩半径を使って十カ所の魔法結界の基台はインベントリに消えて行った。
魔法結界の破壊。構築される魔法陣を阻害する魔術紋の仕組みを言い出したのは導師。高貴な者は魔法攻撃を一番恐れる、物理攻撃なら手練れを近くに置けばよいのである。
研究者にしたらそんな紋だった。
師匠が斬れなかった場合には導師が議会場を走り回って解除する。それでもダメなら俺が目で睨む。全員麻痺で屋外に引きずり出して師匠と導師が敵から守る中で俺が隷属だ。
力づくにも程がある三段構えだった(笑)
まぁ斬れてるようで安心した。3分ほど前に結界が無い事を確認した。これで魔法が解禁。導師も俺もほぼ無敵の師匠クラスだ。腕まで生える化け物だぞ。いやマジでさ。
結界が消滅したので案内護衛の恩寵を奪い隷属。
下手に検索で確認して護衛に察知されたらかなわない。
皇帝控室が近付いて来る。
扉の前から”身代わりの珠”を取り上げ、何も確認せず範囲強奪で全ての恩寵を取り上げた。控室の扉が開いた時には護衛二名と皇帝を隷属していた。
議会場にステレン大司教も入れて下さいと皇帝にお願いする。大司教にも顛末を見て貰うのだ。
仕事を終えた師匠と導師がスタンバっている。護衛控室は議会場の真横でしくじると雪崩れ込める場所だ。魅了が発動するまで護衛には検索も掛けられない。
「皇帝陛下、開会の宣言をお願いします」
政務官に促される皇帝。議会場の壇上に続く通路を皇帝の後に続く聖女と御子と大司教。
ガゲッツ議会議長が2段上の中央の席に座り、一段下に書記官っぽいのが座る。
議長席を取り囲む扇状の議席に全ての貴族が着座している。
皇帝が議長席の1段上の席に着き、横に聖女、俺、大司教と皇帝陛下の護衛が付く。
皇帝が演壇に立った。
「議会の開会を宣言する前に帝国に赴任された聖教国の聖女とゾルタス子爵の子が魔眼を発現し聖教国の御子となった事を紹介したい」
お父様夢見心地だよ、子供が御子になったらそうだよな(笑)
ありえねぇからな、貴族の子まで教会は取らねぇよ。
聖女の紹介が始まる。
「聖女ユーノ殿は聖教国、教義部、聖女科で優秀な成績を修められ・・・」
皇帝の紹介が終わると聖女が立ち上がってお辞儀をする。
俺の紹介が始まる。
「御子となったアルベルト殿はガゲッツ子爵の第二妃の長男だ。この度、聖教国の宣誓の儀において・・・」
俺は立ち上がり、お辞儀をしながら出入口全てに魔法障壁(物理)8枚。全ての者から身代わりの珠を強奪。
デフォルトのままの腕輪に30秒と念じて魔力を込める。
その場で音楽と共に壮大なイリュージョンが始まるがシミュレーションの通りに冷静に動く。浄化の波が議会場と護衛控室を吞み込むと誰一人動かず俺を注視する魅了時間は30秒もあるのだ。焦らず居並ぶ貴族にドミニオンを叩き込む。
「そのまま進めて下さい」これで隷属。
そのまま師匠と導師を眼で追う。魅了で変な動きをした4人の護衛を師匠が昏倒させている。後の護衛に誰も動きなし、関係者の隷属完了。
会場施設全体の隷属紋無しで検索。身代わりの珠強奪、麻痺を叩き込むと恩寵強奪、隷属紋を刻み込む。腕輪の効果で付いた拡声魔法で叫ぶ。制圧完了!
導師が議会場の外壁を覆う魔法障壁を付けてくれていた。
麻痺する護衛を目の前に、隷属完了の合図を待っていた師匠が魔法障壁を壊して導師と議会場に入って来た。
障壁を一撃で壊されショックだったが、まぁ張り直した。
30秒の魅了が切れた瞬間、議会は動き出す。
俺は変な格好になっていた、教皇装備のまんまだ。師匠と導師が俺を見て固まったから気が付いた。あれ?御子服に戻って無いよ。腕輪が壊れちゃった?
師匠と導師も驚いてるが、聖女の目がとんでもなく見開いて俺の教皇装備に驚いている。
「帝国議会を開催する」と皇帝が宣言した。
もうしょうがない、教皇代理だからいいわ。
隷属された貴族も俺の教皇装備など目に入らず、何も無かったように拍手で開催を迎えた。
皇帝が宣言した後に着座すると、今度は俺が登壇した。三段上の演壇で錫杖を捧げて言った。この場の師匠、導師とユーノ、ステレン大司教以外に俺は主人になっている。一人もざわつかず俺の登壇とお言葉を拝聴するだけだ。
「皆、そのまま座って御子の言葉を聞くように」
導師と師匠が俺の恰好を見てふざけてんのか?と目で訴える。壊れた腕輪のお着替えまで俺のせいにすんなと逆切れしそうになった。
「この中で獣人を略取した者。獣人を襲う計画に携わった者。人を略取した者。人を襲う計画に携わった者は、この半分よりこちらへ移動せよ」
議会を捧げた錫杖で示して皆の移動を見つめる。
今更教皇装備を着替えたら変だよな?と移動の間に悩みまくる。
皇帝も入った4/5の貴族が携わって来たという。
席の半分に収まらない。1/5は真面目なのも居るのね。
まぁ、連帯責任だ。後で誓約を付け加えとけ。
「この国は本日をもってリノバールス帝国から神聖国イーゼニウムとなる。皇帝は神聖国イーゼニウム建国を宣言し、教皇代理の御子に帝位を返還せよ」
聖女が思わず立ち上がって向かって来る。マジ面倒な奴だ。闇魔法の衝撃食らわして静かにさせる。
衝撃眼のお転婆に闇の衝撃効いた(笑)
俺のしょぼい精神衝撃だ。すぐに立ち直るさ。
皇帝が建国を宣言した。
「我が国は神聖国イーゼニウムである!」
「帝位を御子様に返還する」皇帝の冠を受け取る。
顔しか出てない演台に邪魔なので呆けた聖女に被せておいた。
「神聖国イーゼニウムはここに建国された」
「神聖国イーゼニウム教義を伝える。心して聞け!」
・家内仲良く、親と子を大切にしなさい。
・獣人・人には親切、仕事に熱心でありなさい。
・獣人・人を恨まず
・腹を立てずに悪口言わず正直に生きなさい。
・笑顔の絶えない楽しい人生を歩みなさい。
・悪い事は禁止。不正な蓄財は国に差し出す。
・獣人も人も平等、その悪口も禁止とする。
・罪だけを憎む。死刑は禁止で鉱山奴隷とする。
・周りの人を幸せにして国のためを思う。
宗彦さん湯飲みの人生格言と俺の考えたダメよを付け足す。
「我が国神聖国イーゼニウムは以下の罰を与える」
人、又は獣人を
・殺した者と指示した者:無期。
・部落を襲った者と指示した者:無期
・迫害した者と指示した者:無期
・略取した者と指示した者:無期。
・私欲で奴隷に関わった者。無期。
・差別無く、逆らえず関わった者。無罪。
・身を守るために殺した者。無罪。
・本日以後の罪は聖教国の法で男爵が裁く。
「罪を犯す者を許すな。鉱山に送れ」
「神聖国イーゼニウムは以下の政治を執り行う」
・全ての街の司祭が代官である、その土地の領都にいる司祭がその地を治める領主となる。
・貴族はすべて男爵となる。前皇帝も男爵である。今まで定められた男爵の棒給で暮らす。
・男爵及び武官文官は司祭の元で善政を行う。
・全ての民が教義を知った後の罪は聖教国の法に照らし男爵が裁く。
・前皇帝は神聖国宰相として善政を敷く。
・帝都は以後首都と定め、首都の大司教を宰相が補佐し良き国とする。
・本日より全ての男爵は二か月の間、神聖国イーゼニウム首都を離れる事を禁ずる。
「異議のある者は物申せ」
「・・・」
「異議無きものとして神聖国イーゼニウムの政策とする」
「奮闘せよ!神聖国の興廃は男爵に在り!」
ステレン大司教ににっこりと笑う。
「神聖国イーゼニウムの大司教はあなたが初代です」
聖女の冠を取り大司教に渡した。
・・・・
ゾルタス子爵と親子の縁を切った。
お父様と縁を切った途端に涙がポロリと出た。
情が湧く前にと議会制圧直後に縁を切ってもそうだった。
リンデ・ゾルタスはアルを心の底から愛してくれていた、偽物の親子でもその愛は本物の愛だった。以後は誓約で家族を心から愛すると思う。
アルは心をもてあそぶ意味を知った。
踏み込んではならない領域に入っていたのだ。
アルが死ぬとリンデは父親として命を投げ出す程も悲しんだと思うのだ。それが分かるだけにやった事の罪深さを知った。
人が持つ二面性。あれほど我が子には優しく、命を賭けてでも守ろうとするゾルタス子爵。しかし略取され奴隷として送られる子には無慈悲の二面性が悲しかった。
誓約で我が子と縛られて出るその優しさが悲しかった。
・・・・
議会場を出た。
当初の計画通り、周辺諸国に関する重要な案件の文書を全部強奪して聖教国に持って帰る。以後の災いになる帝国の爪痕を聖教国が責任を持ってコントロールするためである。
師匠と導師を伴って前皇帝の居城まで跳んできた。
クレムリン宮殿みたいなソフトクリームっぽい物の全くない帝国建築の大きなバロック宮殿だった。
身代わりの珠を検索し安全を確認したら浄化の津波で魅了し全て隷属する。男爵位の給料じゃ妾の館なんて庭に持っちゃダメよ。視たら妾組織図まで見えた。大奥ぽくて感心する。いらん!全部解体だ。
皇帝の居城を検索し、周辺国、重要、案件、書類でインベントリに叩き込む。導師は禁書庫を開けろと言う。帝国金貨はそのままに金塊、宝石、証文、権利証等全部強奪して行く。
聖教国も帝国の全容を知るには何年も掛かるかもな。
最後に・・・
働いたご褒美貰いましょ、と宝物庫に行き認証ごと乗っ取る。師匠と導師に略奪は戦争の常です。と好きな物を取って貰った。
導師は開けた禁書庫から魔法関係の蔵書を吟味して持ってった。最初からそれが目当てか!ブレない人だ(笑)
師匠は仲間5人に土産のミスリル武器を選ぶ。修学旅行の木刀か!洞爺湖土産か!
俺も余ってるなら欲しかったが、子供用のミスリル武器が無いので大人になったら教皇に言って貰うことにした。
使えない歴代皇帝のマジックバッグをコレコレと導師に笑って見せたりツノの生えた初代皇帝の兜を師匠に被せたりして楽しんだ・・・歴代皇帝が幼少に乗った木馬に乗って。
以後の宝物庫は聖教国の管理に託す。
強奪の指輪とか危険物が有れば奪う。なかったけど。
魔法スクロールと恩寵の球はあったが聖教国が換金するだろ。
師匠と導師とステレン大司教を伴って聖教国に跳ぶ。
教皇と7大司教が揃って待っていた。
にっこり笑い、言った。
「神聖国イーゼニウム建国しました」
・・・・
一か月後に聖教国にて式典が開かれた。
リノバールス帝国を滅し、第二の聖教国として神聖国イーゼニウム建国を高らかに周辺国に宣言したらしい。
・・・・
俺?
一か月後も民に言って聞かせてたんだよ。
議会の貴族連れて布教へ跳ぶ毎日。
神聖国イーゼニウム
・家内仲良く、親と子を大切にしなさい。
・獣人・人には親切、仕事に熱心でありなさい。
・獣人・人を恨まず
・腹を立てずに悪口言わず正直に生きなさい。
・笑顔の絶えない楽しい人生を歩みなさい。
・獣人や人に悪意を持って危害を加えた者は男爵に出頭。
神の御子との誓約を。
次回 132話 幸せの花
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