第128話 メイド長のお使い
「もういいです。師匠帰っていいです(笑)」
「おぅ!気を付けろよ(笑)」鼻笑いして帰っていく。
・・・・
師匠と別れて部屋に帰る。
部屋でバラライカを裁縫していたアニーが顔を上げて言う。
「先ほどメイド長がアル様を訪ねて参られました」
今から呼んで来ると出て行った。
メイド長が鞄を持って部屋に入って来た。
「あ!出来た?」
「皆さんが王都に向かわれて時間が取れました」
「すごく普通のカバンになっちゃった!(笑)」
「こういうのがお好みなのですね」
「うん。家を出たらお貴族様じゃなくなるからね」
「「え!」」二人が驚く。
「アル様、何という事を仰るのですか」
「出て行くって訳じゃ無いよ。お爺様、お婆様、お父様。お母様の手から離れたら一人で生きて行くしか無いじゃない」
「「え?」」
「アニーだってジャネットだって12歳でメイドになって一人で生きて来たんでしょ?」
「「・・・」」
「僕だって一人で生きてかないとダメでしょ?」
「アル様!それは余りにも早計な考えです」
「・・・」
「・・・話が長くなるから鞄を確かめよう(笑)」
「よろしくお願いいたします」
「うん、いい出来だ!最高!使えます!」
「よろしゅうございました」
「ジャネット?」
「何でございましょう」
「ご褒美は何がいい?」
「その様な物は要りませんよ、アル様(笑)」
「そんじゃねぇ、お届け物のお願いしていいかな?」
「何でございましょうか?」
「これなんだけど」お土産のバラライカを出す。
「こんなに沢山・・・何枚なのですか?」
「60枚あるよ。お爺様が年初めに送ってたでしょ?」
「そうでございましたね」
「2月でまだ一か月は寒いと思うんだよ、ジャネットに届けて貰おうと思って」
「かしこまりました、どちらでございましょうか?」
「王都のグレンツお兄様とヒルスン兄様、モニカ姉様に」
「「え?」」
「お爺様はご学友のご両親に送られましたが、学院のお兄様達も、ご学友の皆さんも誰も持ってないのです。謁見で会った王都で家族が再会した時に親子で首にしていたらご学友も嬉しいでしょ?」
「?」
「だから、アルベルトが命じます。王都に届けて下さい。供回りのアイン(19歳)とマーフ(16歳)とアネット(14歳)には僕から賜ります。お兄様達が選んだ後に三つ確かに渡すように」
貴族学院は貴族しか入学を許されない。貴族の子弟は供回りと言う同じ年代の貴族の子(準男爵含む)を同じ学科(武官:騎士科。文官:貴族科。武官:魔法科)に付けて学院に送り出す。国を支える幹部を作るあっちの防衛大みたいな学校だ。
グレンツお兄様(騎士科18歳・今年19)にはアイン(19歳・今年20)。
ヒルスン兄様(貴族科16歳今年17)にはマーフ(16歳今年17)。
モニカ姉様(魔法科14歳今年15)には男爵家からうちに1年メイドの修行に来ていたアネット・ギシレン(14歳今年15)が子爵家の供回りとして付いて行っている。
男爵家から貴族学院に出すときに、女子の場合は寄り親の子と一緒に寄り親の貴族家の名で供回りで出す事が多い。
アインとマーフはヒース団長とメイド長の長男と次男だ。ジャネットはマーフの入学で王都に行って以来4年会ってない。
「王都でございますか?」
「六人に選ばせた後、残り54枚をご学友と供回りの分と渡して下さい。まだ皆が学生の身分です、この貴族用のバラライカを渡して来て下さい」
「・・・」俺が逝ったと疑うなアニー。
「明日の朝9時半に王都に行ける準備をしてこの部屋に来て下さい。私の命で四日間届け物の使いに出ます」
「・・・」導師に頼むわけじゃないけどね(笑)
「ジャネットはアルベルトの命で四日程の使いに出るので、メイド達に言い含めて置く事」
「四日の使いですか?」
「まだ分かりませんか?」
部屋の隅に跳ぶ。
「!?」
「導師の大魔法をやっと覚えたのです」
戻りながら言う。
「アインとマーフに会って来てね。アインはグレンツお兄様と一緒に任官でしょ?六年頑張ったんだから沢山声を掛けてあげてね」
「アル様」ジャネットはハンカチで目頭を押さえた。
「四日ぐらいアニーが頑張りますよ。ね?アニー」
アニーは固まっていた。
「アルの使いと言えば導師が運んだと思うでしょう(笑)」
翌日、義賊した王都にジャネットを連れて来た。
作ったマジックショルダーバッグを持たせた。
五日後の朝9時半に迎えに来て、そのまま仕事に就けば四日間四泊の使いだと笑って。
ジャネットをロスレーン家の常宿まで送り聖教国に跳んだ。
・・・・・
聖教国大教会のトイレの中に跳んだ。
トイレから出て教皇様の所に行く。
もう俺の顔を見ただけで教皇様に通そうとする聖騎士。
「教皇様!」
「御子様!」
「帝国地図を持って来ました」
「ほう、帝国地図ですか、何でまた・・・」
と言いながら見た地図で顔色が変わる。
「戦争用の詳細地図ですな」
「はい、帝国の人族誘拐の拠点地図でもあります」
「これが帝国の奴隷商会の輸送経路ですな」
「周辺諸国のこの印が帝国に協力している貴族です」
「そこまで分ったのですか?」
「帝国を落としてからそっちは掛かります」
「獣人奴隷と人の奴隷は23000人送還用意出来ました」
「え?もうですか?」
「送還場所の関係上、世話をしていた人達も一緒にと」
「一緒に送還の選別をすれば手間も省けますな」
「はい、まだ第一陣ですが帝国議長の金鉱山も掌握済みです」
「なんと!」
「聖教国が用意出来次第に送還する事が出来ます」
「急がせましょう!」
「当初と3000名も増えてしまってすみません」
「仕方ありませんな。助けぬ訳にもいかぬし(笑)」
「第一陣で23000名、総数で7万人と思って下さい。二カ月して同数、また二カ月で同数の受け入れは出来ますか?問題を言って頂けたら考えますが・・・」
「聖都にも聖教騎士団と聖法騎士団がございますので1000名程なら即時に増員できます。大丈夫です」
「教皇様は周辺国の王や元首と面識はございますか?」
「一部の国は。名代の大司教が謁見もありますな」
「聖教国が帝国を掌握して名前を変えてしまうのも周辺国にはショックだと思うのです。この地図と共に帝国の悪事を周辺国の王に知らせ、攫われた者を保護する様に話を付けたいのです」
「必要な政治措置ですな」
「教皇様の面識がある王族には教皇様にお願いしてよろしいですか?勿論私も同席致します」
「御子さまが仰るのならば、そう致しましょう」
「あと検討して頂きたいことがあるのですが」
「何でしょうかな?」
「イーゼの花はご存じですか」
「うむ、見舞いに出す花ですかな?」
「またの名をイーゼニウム:安息、安らぎの花」
「そうですな」
「神聖イーゼニウム」
「む、新しい国名ですな」
「はい、民に優しい国に見えませんか?」
「良い名ですな」
「神聖というのは教皇が付ける事の出来る名とします」
「ん?」
「この国は聖教国だから攻めたら教会無くなるよって意味です」
「わはははは!」
「他国に教えたら分かりやすいですよね?」
「他国と違って我が国は攻められては無いですな」
「威圧しなくて結構です。聖教国の意味を周辺国は分かっております。戦争のルールや貴族の儀礼まで浸透しているのです。新しい国は聖教国と分からせるだけで充分です」
「なるほど、安全かも知れませんな」
「あとですね・・・」
宗彦さんが使っていた湯飲みの人生格言を言った。
・家内仲良く、親と子を大切に。
・人には親切、仕事に熱心。
・人を恨まず、
・腹を立てずに悪口言わず正直に生きる。
・笑顔の絶えない楽しい人生を歩む。
少し付け足した。
「これが新しい国の民と神の誓約です」
「これは、神の言葉ですかな?」
「いいえ、神はこの様な事言いません(笑)」
「それでは、何処からこの様な言葉が」
「人生経験で人が自然と身に付ける事だと思うのですが如何でしょうか?」
「それにしても・・・確かに、なかなか難しい事ですな」
「これを神に誓約して貰えば、勝手に良い国になると思いませんか?」
「え?神と誓約するとそうなるのですか?」
「いちいちあれはダメ、これはダメと言えばそれはまた神の奴隷みたいになると思うのです。人としてこう生きて行きなさいと言う教えにしようと思います」
「1000年以上の奴隷文化を止めさせるには、これで十分かと思います。悪口言わずに頑張る親を見たら100年後には誰も獣人差別のことは知らなくなると思います」
「人がどんな職業でもどんな立場でも当てはまる神の教えとして広げたら、勝手に犯罪の無い良い国になると思います」
「7大司教様にも伝えて頂けませんか?」
「イヤ、質問も出ると思う。今から呼ぶのでお待ちください」
#またしゃべるのかよ!
・・・・
「・・・と言う訳です。国の名前始め、ご質問は?」
「これを、聖教国の教えとしてもよろしいですか?」
「ご自由に。どこの国でも部族でも当てはまる筈」
「神聖国は国主が教皇様で政治はどうなります?」
神聖国になっている・・・よし神聖国だ(笑)
「今の政治体形そのまま誓約すれば、勝手に回ります」
「今の腐敗政治がですか?」
「はい、貴族の財産は全部聖教国が没収して、文官の大臣に渡せば勝手に良い国になるように使い始めます」
「え?」
「あ!帝国が聖教国に占領されます。占領は聖騎士も一人も要りません。帝都は教会の司教が率います。各領都は教会の司祭が率います」
「えー!」
「神の誓約を守らせるのが司祭の役目となりますが、基本何もしなくても回って行きます。”領と民に良いと思う様にしなさい”と司祭が言えば領都はその通りに回って行きます」
「・・・」
「帝都が司教様で荷が重いと思われるなら教皇様の名代でステレン大司教様でもよろしいかと思います。政治力も高そうな方ですから、各7大司教の補佐をされてる大司教様を7人送れば国の中枢も回ると思いますし・・・」
「・・・」皆が唖然としている。
「その辺の仕組みは皆様でお決めください」
「最初は帝国を100年聖教国が預かるなどと言ってましたが、人材が揃い次第に中枢の人材を聖教国から派遣して、神聖国を第二聖教国にしてしまえば良いと思います」
「そんな大それた・・・」
「いえ、腐った国など要りません。民が不幸になります」
「今の聖教国の皆さんが協力して作り上げる新しい国が生まれるのです。始祖セリム様が導いた聖教国、同じ様に皆さまが神聖国イーゼニウムをまた2700年続く国へ導くのです」
煽っておいた(笑)
「教皇ライトス・ド・ミラゴ・イ・クレンブルが命ずる。各部で神聖国の舵取りが出来る大司教を推薦する事。今議会にて新しい大司教を任ずる司教の投票も行う」
教皇様もその気になった(笑)
話を〆ようと思ったら腕輪の話をアルノール大司教から振られた。
そういえば腕輪の改良頼んでた。
・・・・
最大浄化・魅了距離2000mで変身。デフォルトは100mで変身。
2000mにするに当たって御子の声が届くように拡声の魔法も付けたという。
何というファインプレー!
ゲッシュするのが簡単になったわ。というか湯飲みの人生格言を聞かすのに毎回毎回叫びたくない(笑)
完全防寒の上でキャンディルのグレートネイチャーに行ったら極寒地獄の猛吹雪だった。雪が積もり過ぎなのか高度が高く極寒なのか、そこら辺の木がバンバン倒れてた。倒木多い訳だ。
凍えるので2000mの発動を確認して、うほー!寒いー!と拡声したらその振動で木が折れて何本か倒れる。バッキーン、メリメリメリメリ、ドッシーン。その振動でまた連鎖する。
慌てて教義部の研究棟に帰って来た。
雪まみれでガチガチ歯を鳴らす御子に皆が注目するのでOKサイン出しても誰も分からなかった。
「動いた。声大きくなった」と錫杖と冠とローブととんがった靴でガチガチ震えて言った。
教皇装備の自動格納機能が勝手に取り外されていた事を、その時の俺は気付かなかった。
ずっと後に気が付いて関係者に聞くと、分かって無いあいつのせいだった。
アルノール大司教!
次回 129話 大雑把な笛吹き
----------------
この物語を読みに来てくれてありがとうございます。
読者様にお願い致します。
応援ポチ。☆も頂けたら嬉しいです。
ポチをしてくれる事。それはとても励みになるのです。
一期一会に感謝をこめて。よろしくお願い致します。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます