第123話 テミスの好きな視線
帝都教会。
侍女に呼ばれて大司教の部屋まで付いて行った。
ガゲッツ公爵の予定はすぐに分かったそうだ。
謁見は毎年2月初旬なので、推測では帝都に向かって無いとおかしいそうだ。
公爵様だから皇帝に会うのは最初の方だよな。
取り合えず議会の見学の線でお願いしてみる。
ステレン大司教に聞いてみた。
「聖女は皇帝に謁見とかあるのですか?」
「ありますよ」
「帝国議会の見学は出来ませんか?」
「皇帝にお願いできれば可能だと思いますが」
「帝国に生まれた御子が希望しているとお伝え下さい」
「何かされるのです?」
「見学が叶うなら神のお言葉を伝えようと思います」
「え?」
「帝国の皆さんに罪を悔い改めて貰うのです」
「そんな事が・・・」
「その頃には獣人奴隷受け入れ準備も出来る頃ですから、議会見学も上手く取り付けて頂けると円満に計画が進みます」
「聖女の帝国赴任挨拶の時に願い出てみます」
「よろしくお願いします」
上手く行くかは分からないけど、個人と集団浸食の二面作戦だけは準備して置いた。ダメなら会議場へ潜入方法も考える。
帝国にも領主が到着してない。
領地にも不在。
聖教国の準備もまだまだ先。
まだ議会まで2か月弱もあるのだ。焦る必要はない。
・・・・
暇が出来たので訴え出た。
腕輪のカーニバルを直せと教皇に訴えたのだ。
「この腕輪の華美な光の効果を・・・」
「すでにそう言ったのだが・・・」妙に力説する。
視たら大司教達に猛反対されて黙り込む教皇が視えた。
「何とかなりませんかね・・・」
「呼んでみるか」そんな哀れな目で見ないで。
侍女がアルノール大司教を連れて来た。
教義部:司祭、聖女御子教育、教義解釈研究。
大学の教授のトップみたいなもんか?
「御子がこの腕輪の華美な効果を嫌がっておる」
「は?どの辺が華美なのでしょうか?」
分かって無いよ!この人分かって無いよ!えーん。
「全てにおいて華美です」
「え?」えじゃねーよ!分かれよ!
「始祖の腕輪見られましたよね?」
「見ましたが・・・」なに?その不満顔。
「分かりますよね?」御子の威圧Lv2で迫る。
「効果には聖教国の伝統がございます」
そんな伝統いらんわ!どんな伝統やねん。
「御子に我が国の伝統は不要。調整してやってくれ」
「・・・承知いたしました」わーい!さすが教皇様。
アルノール大司教に付いて学術研究部にやってきた。
手すきの大司教2名と司教が4名呼び集められる。
この度、教皇様の名代となられる御子様だ。
皆が静止する。
そりゃそうだ・・・こんな子供が。クスン。
腕輪の華美でない調整を大司教から聞かれる。
腕輪を皆の前に出す。
皆がそれを見て大真面目な話と真剣になる。
・誰もが知る聖教国の讃美歌のような演奏を入れる。
魔力の制御で音色と音の大きさが変わる。フル演奏あり。
・変身の効果音的な美しいイントロの演奏なら大歓迎。
・変身は煌めく清らかな光の奔流が滝の様に降り注ぐ感じ。七色は要らない。踊らない。聖教国のイメージを思わせる清浄な光の波が腕輪を中心に腰の高さでゆったりと皆を飲み込み注目してしまう事。魔力消費は気にしない。
・装備セットは錫杖・冠・ローブが出来るなら全部位交換も聖教国の魔法陣技術なら追求出来ないか、アクセサリーチェンジも以後の研究次第で実装。
6名は今まで聞いたことのないような提案に刺激された。
聖教国演奏団の奏でる荘厳な楽曲を聞かされた。
美しいイントロと共に変身と聞いた司祭は曲を探し回る。
イメージを魔術紋に組み替える研究者。
どんどん効果は磨かれて行った。
天上から降り注ぐ光の奔流に弾けるキラキラ成分まで再現され50mどころか100mも周りを飲み込む清らかな大本流が同心円状に広がって行くピューリファイ(浄化)の波。それに飲まれると5秒より30秒の魅了効果で動けない。(秒間セレクト、デフォルト5秒)
※すでに魔法はピューリファイとなり、そもそもの意味である始祖の腕輪を模すホーリーブライトの伝統が無くなった。
讃美歌の様な曲から、男女が陽気に踊って歌える各国の童謡から流行り歌まで入ってしまった。セレクトの魔力制御が複雑すぎて番号を念じる疑似カラオケの様になってしまった。
装備品は今まで武器(錫杖)頭装備(冠)外套装備(ローブ)靴(祭祀靴)だったものが全部位の交換装備となった。
武器、防具、アクセサリ、頭、胴、外套、腕、脚、足。
寝巻のお着替えは一瞬!速攻で寝られるのだ。
最高の魔法技術で最低の物をアルに作ってしまった。
この様な技術は必要に迫られて戦争などで進化する物だが、アルが言い出した事は、この大陸最先端、聖教国の魔法技術を進化させると共に多方面の最新技術が結集される一例となった。
サンバのホイッスルが(頭の中で)鳴り響くカーニバルはなくなった。
耽美はわかるんだけどさぁ。
高貴な者だ平伏せ! 感がすごい。
千の風に乗って・・・
実は色々と楽曲をチェンジした。
花も風も街もみんな同じ・・・
どちらも終わった感じだ。
オワタ式楽曲はどうなんだ?と、もう諦めた。
違う方向に行ってるが、自分で言ったので我慢した。
1か月掛かったが帝国議会に余裕で間に合った。
そう、アルが考えた対帝国議会用秘密兵器である。
教皇が履く、天にとんがった祭祀靴も用意されていた。
ローブと同じく履くとフィットする靴が。
余計な物ばっか付けやがって!
・・・・
腕輪を預けて、議会まで空いた約2か月。
当然、まったく、一切遊んでいない(笑)
転移を付けたアルは、出来る事は皆やった。
モルドの奴隷商人、レジン商会のモリスを一人で訪ね使用人と略取して来た子供、受け取りに来た男爵含め全員隷属してゲッシュした。そのまま帝国に運ばせた。
(獣人奴隷解放予定の3月初旬まで察知されてはならない)
モルドの周辺に潜む盗賊を一人で狩った。
隠れ家の外でお父ちゃーんと泣くと出て来る盗賊。アルを見た瞬間に感知され麻痺>隷属のコンボを叩き込む。
危険は絶対犯さない、視界に入れないと動かない。心に誓って油断しない。いつ麻痺や恩寵強奪が効かない相手が出て来るか恐れているのだ。
効かなかった瞬間に跳ぶ準備までして臨む。腕を落とされても生える自己再生まで持ってこれである。
お父ちゃーん!と子供に泣かれて身に覚えのある奴は出て来る。誰の子が来たんだよ?と世話焼きも出て来る。どっちが外道か分からぬ方法で盗賊を仕留めてヘクトに送る。
導師と師匠に毎日定期連絡を入れ、進捗状況を伝えた。すでにガゲッツ公爵領の奴隷解放の準備は完了している。
帝国を掌握するための近道として二面作戦の話を導師と煮詰めていた。各領主の謁見が終わり、その後始まる帝国議会に乗り込む事を最初から前提として計画を練っていく。
二月中旬に帝国のゾルタス子爵が帝都に到着。
帝国議会の貴族はアルが押さえて、護衛の制圧と魔法障壁、魔術結界の始末はゾルタス子爵と同行する導師と師匠が行う。
注意点で身代わりの珠を所持してる可能性が高いのでアルが奪えない場合の対処は念入りに打ち合わせた。
導師は効用や実物を知っていた。高価なので実験や検証は行っておらず、アクセサリーとして知っていた。身代わりの珠で作られたブレスレットやアンクレット、ネックレスを導師に研究用で渡した。
皇帝や国王が暗殺防止に設置する魔術障壁と魔術結界。
結界内部は魔法が使えない、魔法陣が阻害されて魔法が構築できないのだ。結界外部の攻撃は大魔法の狙撃も魔術障壁で防ぐ。
俺は当日は議会の中。
前もって破壊する事も出来ないので、当日に素早く破壊しないとダメ。そんなもん簡単に破壊出来る訳無い(笑)
これも厄介な代物だ。
魔力を纏ったミスリルの結界魔法陣の基台。
議会の規模から6つ以上は設置してあるという魔術紋が刻まれる基台を壊さないと隷属も出来ないと導師が言う。
物理オンリーで壊すにもミスリルの魔力を纏った物を壊すのは並大抵ではない。導師は実際にミスリルの魔法結界の基台を作りそれを師匠に壊させた。
師匠のミスリル剣で身体強化最大の魔力を纏わせても一個の基台の魔法陣を削るのに時間が掛かるのが分かり、魔爪根:魔法陣を作らずに魔力をまとう物理攻撃での破壊を行うというのでそっちの作戦は二人に任せた。
ノリノリだったから任せた。まぁ好きに研究してやってくれだ。最悪全員睨んで麻痺させて議会から叩き出せばいいのだ。
・・・・
俺は議会まで時間があったので暇を作った。
ゾルタス子爵が帝国に向かった頃から教会で過ごして、やる事無くなったらロスレーンを起点に行動していたのだ。
師匠が身を固める準備で忙しく、模擬戦にも参加出来ない状態だった。無役の男爵は良いが一切部下も持たない師匠は、うちの文官の力も借りて貴族の婚礼や法律を学んでいた。
リリーさんは既にお婆様とお母様に付いて王国法とマナーを学んでいる。夫婦随伴の立ち位置や席の序列、作法と接し方、話し方までありとあらゆる日常を学ぶ。平民が子爵家の娘として嫁に行くとはそういうことだ。
暇を作って出来た時間で騎士団の模擬戦に参戦した。
楽しくて仕方がない。初日こそやられていたが3日も経つとアルに斬られる者が続出し、皆が目を見張った。
本気でやっても当たらない。団員の太刀筋は6か月間アルの視た太刀筋の再現で研究されていた。団員の恩寵、身体強化Lvと剣術Lvが1上がった以上の成長をしているのだ。皆が化け物を見た。寝たきりから1年経ってないのだ。
団員達の奥の手の嵌め技に引っ掛る時もある、流し切れずに潰される。身体が小さく受ける事は出来ないのだ。流しきれないとそのまま斬られる。
車座の模擬戦。時間が経つにつれ体力気力が切れ、団員の皆が倒れて行く。自然に残った者の順番が早くなっていく。
子供のアルが膝を付かない。模擬戦は最後まで立っている。持久力の化け物だった。はぁはぁ、へぇへぇと息切れはするが、そこまでなのだ。
アルも自分で気が付いた。
この無限のスタミナは加護から来ていると
不思議に考えた末に、テミス様の言葉を思い出した。
わしの加護があればこの子も生き易いであろう。と天と地の神様が加護をくれたとテミス様が教えてくれた事。
寝たきりで最初は午前と午後に1時間と言われていたリハビリを1日していた事を初めて思い出した。騎士団の模擬戦で自身のスタミナをやっと知った。
朝の日課も変わらない、食事を取ったら暁の副団長達が呆れる程の模擬戦。演習場で昼まで叩きのめされる。叩きのめされてもすぐ起きて同じ攻撃で同じ結末に自分から誘導して来る。
最良が見つかるまで何度もシミュレーションを誘う。勝てない相手に攻略法が見えるまで同じやられ方をする。突き詰めた後に納得しないと先にいかない。
技術的に乗り越えると、今の持てる力でどの様に対応するのか結果に繋いでくる。同じ攻防ではしのぐ様になる。
団員もアルの成長を一番近くで体感した。飽くなき探求心と化け物のスタミナで何度試行錯誤しても結果的に対応して乗り越えて来るのだ。
昼からは団員相手に模擬戦で揉まれまくる。
毎日やられた太刀筋を眼に焼き付ける、毎日向上していく、スピードに慣れる、無駄は省かれ最適の防御に磨かれる。
アルを恐れる団員が出て来た。同じ手が通用しないのだ。それは各団長でも同じ、決め技になるとスッと引く。思った瞬間に間合いを外す。勝負の攻撃を受けない。そして持久力は化け物級。
余りにも打ち合いが多すぎ三度切られることも無いので車座から外された横でタイマンである。そして勝負が決まるまで存分に打ち合った。
アルは視ていない、見ているだけだ。魔力の巡りと動きまで見て読んでいた。相手の動き全てを見ていた。入り込んでいた。
あっちで野球を追っていた明が完全復活していた。
車座の中の11歳の視線。
良いも悪いも見極め、体に取り込もうとする姿勢。
素直で純粋な向上を目指す探求の視線。
それはテミスが大好きな視線だった。
毎日、模擬戦が終わると、部屋で全開の証文書き換え。アルに規則正しい生活が戻って来た。
すでに家族とシュミッツ、メイド達、団長以下12名は王都に向かった。コルアーノ王の謁見と、今年貴族学院を卒業し、貴族院に任官するグレンツお兄様(18歳今年19歳)に会いに行く家族だった。
俺は死にそうなので行けない。
次回 124話 両手剣転向
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