第122話  身代わりの珠



ゾルタス子爵は1月15日予定通り帝都に向かった。


3日の間、寝ても覚めても奴隷解放のシミュレーションを考え、具体的な行動計画に落として行く。



謁見と議会が終わるまで各地の領主は不在。


全領主が帝都に向かう今からが大チャンス。

ガゲッツ公爵領、すでに金鉱の守備戦力は制圧した。金鉱内部は奴隷の指示系統なので制圧次第に解放できる。


解放準備が整わないと連れて行けないのが歯がゆい。

2か月後3月10日頃を目途に2万人解放が精一杯。


残り4万の奴隷は闇金鉱の領主エールス公爵、ゾスト侯爵が戻ってからだ。領主が戻ると師匠、導師、俺の3人いないと危ない。


二大領主を抑えないと怖くて残りの獣人を解放出来ない。

領主を隷属してトップダウンで制圧と思っている。


考えれば考える程、議会で浸食する案が重要に見える。


まだ焦る時期じゃないさ、目の前のことをやるだけだ。



当面、聖教国に約束した解放資金を集めないといけない。


ゾルタス子爵も居ないので、一度ロスレーンに帰った。


証文が残ってるんだよ。

帝国を理由に逃げちゃ終わらないんだよ。



・・・・



深夜。義賊Ⅱが闇の中を跳び回る。


ガゲッツ公爵領、エールス公爵領、ゾスト侯爵領の領都へ辿り着いた。山から領を見下ろして、領主が隠した財産だけを暴いた。


別邸の金品、床下の金塊、執務室の金品、領主邸の隠し地下の大金塊。換金性が高く発覚しずらい物だけ集めた。



かなり集まったので約束通り聖教国へ持って行った。


教皇様と財務部を訪れ、財務庫に大金塊がズーン!と納められた。財務庫がきしむとは!とロッテン大司教が驚く。


帝国の隠し金塊だから自由に解放準備のために使って下さい。と自由裁量を伝えておく。


以後は財務庫に直接運ぶので増えても驚かない様に言う。

ロッテン大司教は7大司教だ、事情は知っている。



教皇の間に帰り、教皇のみに計画案を話す。

7大司教と共に計画を煮詰めてもらう為だ。


獣人奴隷 6万人×金貨4枚(200万円)の和解金としても白金貨6000枚(1200億円)必要となる。


6万人を1か月間宿に泊めるなら銀貨6枚(6万円)。でも宿が無い。だから希望した土地に連れて行く。


聖教国に用意された土地で希望者別に分けて補償金と共に希望した土地、略取された土地に跳ぶ計画だ。


略取された8000人以上の人族もそうする。

和解金は白金貨800枚(160億円)



帝国は一旦聖教国が100年程預かる。

新しい国名も考えて貰う様にした。


教皇が戴冠した国は神聖を付けても良いと口が滑った(笑) 

帝国を実質聖教国が占領する事に教皇が驚いた。


御子が帝国国民全員と神の誓約を結んで、獣人と仲良くさせると言う。獣人も人間も平等、罪を犯しても人も獣人も罪は平等と神の誓約を結ぶと言う。信じられないのもしょうがない。



あっちの世界じゃ、国内の不満を抑えるために外の国に敵を作る教育を行って3~40年掛けて国民感情を正反対にしてしまう国が有ったんだ。この国は歴史的に1000年前から獣人奴隷だ。メディアは無いが100年歴史を語らせず、差別と悪口を一切無くして、犯罪を憎む様にしたら子供は普通に育ってニュートラルな感性になるさ。



俺が忙しいだけだ。



少し間が空いたので教皇に聞いた。


「あの派手な演出と出て来る錫杖は何ですか(笑)」

「もう使ったのか?」と教皇が大笑いした。


帝国に跳んだらステレン大司教が消えたと大騒ぎで探していた聖騎士に取り押さえられそうになった事。取り合えず聖騎士をぶっ飛ばして、「者ども静まれぃ!」とやったら錫杖が現れた事。余りの演出に聖騎士が平伏した事。


二人でお爺さんと孫の様に笑いあった。



教皇が大笑いしながら”御子よこちらにおいで”と外に誘う。



聖教国の宝物庫に案内された。


宝物庫の高貴な机と椅子に座り教皇が語ってくれた。


「御子よ、そなたの行動は先程の財務庫で証明された」


「私は先日の事が夢か魅了に掛かっておるのではと、あれから何度も考えておった。聖教国の歴史で神の代弁者が現れた事はあっても全て偽であったと記されておる。その行動、考え、神の教え、今まで聖教国において初めて聞く話ばかりであった」


「教皇始め7大司教が揃って打ち破れぬ話であった。私の悩みを。皆の悩みまでも晴れやかにしてくれた。皆が何の悔いも無く我が道を誇って生きて行ける」


「始祖の件もよくぞ聖遺物を聖教国にもたらしてくれた。正に2700年前のまがい無き真実をもたらせてくれた。本当に感謝する。この原初ホーリーブライトの腕輪はこの宝物庫のどの宝よりも尊い宝となった」



「教皇の腕輪は古くから1年に一回議会で教皇が開会を宣言する儀式だが間違いなく始祖の腕輪を模しておるな(笑) 


あの演出は、司教になって初めて議会に入った時から変わっておらぬ(笑)


出たのは私の王笏セプターですな。そこに立てかけてあるのが歴代の教皇の笏です。ふむ、1300年前の教皇の物が一番強いのでこれと交換して持って行くとよろしい。冠もそっちの棚に揃っておる。聖教国の冠はこの国を象徴する。どれも立派な冠じゃ。


そちらは法衣、国のお祝いなどで着るものだが凄いであろう?金箔が張り付けられて重みで潰れてしまうわ(笑)」


「すべて神の御子に相応しい品と思う。

全て揃えて腕輪とセットにするとよいでしょうな」


「私は子供ですし・・・法衣もキラキラ過ぎて、冠も大きくて合いませんよ(笑) 錫杖も華美で大きいですしね。強く無くて良いので華美じゃない奴頂けませんか?」


「ふむ、御子様がそう言うのであれば、笏は気に入った物を選びなされよ」


ずっと視て行って、アルはバランスの取れた振り回しやすい錫杖を手に取った。先には船の操舵輪のような直径10cm程のミスリルに輝く法輪が付いている。


錫杖(僧侶用):笏(神官用):王笏(王の証)アルは教皇の証である聖教国五種のレガリア(冠、ローブ、王笏、腕輪、祭祀靴)をまだ知らない。そういう事知らない。水戸黄門が振り回す様なただの魔法杖と思っている。


「御子様は、渋い趣味をお持ちですな」


え?そうなの?教皇から渋い言われるって。


「御子よ、こちらへ」


「ここからかな、華美でない法衣であるとこの時代か。魔法、物理防御はちと落ちるが中々の品と思う」


ローブだった。教皇が羽織らせてくれると小さくなった。


「あ!教皇様!小さく」

「そう。さすがの御子様も驚いた様だ(笑)」


「一番防御が強いのはどれです?」

「それは新しければ新しい程、今が一番強いと思う」

「それを見せて頂けますか。見るだけで結構です、聖教国の技術が見たいのです」


「それだとこれだの」

(シェル見てる)

(みてますよ)

(なれる?ならなくていいけど)

(なれますよ)

(わーい!シェルすごい!)

(普通ですよ、えへへ)


「ありがとうございました」

「もう良いのか?」

「冠も選ぼうかの・・・」

「え?冠もですか?・・・」


「腕輪、錫、法衣、冠、祭祀靴で教皇の代弁者と思われる。御子はまだお若い、聖教国の権威を盾に執らなければ侮られ軽んじられる」


「はぁ、そういう物ですか」

「あ!あの帽子は?」

「聖教国の紋章入りの物か?あれは冠ではなく儀礼で褒章などを行うときの物だが外でする物では無いな」


「それでは、何処の国に行っても教皇様だ!って分かる物が良いのですが」


「それはこちらの形だの」

「えー?これですか?」


「そうじゃ、何処の国の王も華美で大きな冠を作り儀典の間脂汗を流してその重みに耐えてきた」


「今では儀典の長さを知り王の華美に負けず、教皇は涼しい顔でこれを乗せる」


「あはははは!本当です?(笑)」


「本当だ(笑) 見てみよ、この年代位からだんだん小さくなって・・・儀典用は今、これ程小さい(笑)」


「威厳を出す用はこちらだな」大きいのを指さす。

「王様や皇帝や教皇様は大変ですね(笑)」

「地位が増せば無駄な儀式で大変ですな(笑)」


「教皇様も分かっておいでですね」

「何かな?」


「人はお母さんが生んでおっぱいで育てたです」

「・・・御子様、深いお言葉ですな」


「今の世でその意味に気が付く人がどれ程いますかね?」

「貴族は貴人より生まれたと思っておるな」


「・・・」

「・・・」


話題を変えるために言った。

「それでは、このミニクラウンよろしいですか?」

「こちらですな、御子様どうぞ」


ミスリルのミニクラウンを頭に乗せて貰った。


「あれ?これって吸い付くのです?」

「(笑) 吸い付くのではない、装備されたのじゃ」


「え?剣とか装備と言うか持つだけですよね」


「教皇は聖魔法の長ですからな、対魔法耐性の装備が落ちたりしない様に冠などの不安定な物は装備される様に当人の魔力を吸って装備される」


「あ!吸魔紋ですか?」魔法陣の魔石を置く紋。


「御子様はよくご存じじゃ。腕輪、笏、法衣、冠、靴、ダンジョンの穢れなど、ご自身の魔力を吸えば、そこに在るだけで祓いますぞ」


「それほどなのですか?」


「穢れ用の装備ゆえ祓いますな。最近はそうでもないが、ここから、これ。この辺の年代には記録上大きな穢れが伝承で残っておりますな」


「冠、ローブ、笏をしまいなされよ」

「?」


「一度、腕輪に収納のつもりで触る・・・そうです」

「え?これってマジックバッグ! の腕輪です?」

「そうですな」

「あの光の凄いのが終わったら自然に無くなったのは?」


「自動装備ですな」

「え?自動で装備するのです?」

「そうですぞ(笑)」


こないだの錫杖を出して教皇に返す。


「確かに」と教皇が受け取る。


改めて腕輪の中を見ると教皇の寝巻まで入っている(笑)

こちらにお返ししますね。

宝物庫の机をクリーンして粉を払い、教皇の着替えや日用品を出して行く・・・何よこの図は、恥ずかしい。


机に置ききれずにインベントリから出した盗賊の敷物を出して(クリーン済み)どんどん置いていく。最後にちょこんと教皇の財布の革袋を置く。


気を取り直して教皇を見ると「確かに」と言ってくれた。


「腕輪を発動すると装備出来ますぞ」

「ホーリーブライト」口に出す。

「え?」


ピィピィーピ、ピィピィーピ、ピーピーピーーー!

(※音は出ません。被験者1名:個人の感想です)


たちまち周りがサンバカーニバル!


錫杖と冠とローブが自動装備される。わーいわーい!(笑)

教皇変身セット。


「御子様、ホーリーブライトを?」

「え?そうですが」

「始祖の腕輪の時は魔力を込めておられましたが」

「そういう物だと知ってましたから」

「その腕輪も魔力だけで発動しますぞ」

「そうなんですか!(笑)」


「あと、これをお持ちください」

「これは?」


「ダンジョンから出る身代わりのたまの加工品です」

視た、見て愕然とした。この様な物が!


「分からないのですが・・・」聞いてみる。


「御子様も知らないとは。これは魔法攻撃、物理攻撃を受けても一度だけ身代わりになるアイテムです」


「それは、麻痺でも眠りでもですか?」

「すべての自身に掛けられる攻撃に対してです」


「これは貴重な物ですか?」

「貴重ではありますが、いま教皇用に100位はあるかと」

「神の攻撃が防げるか試しても宜しいですか?」

「え?」


「一個教皇様が付けてください」

教皇が目を見開く!気にせず数珠のような珠を手にするアル。


「え!そのような神の攻撃を!」

数珠を見ながら教皇が後ずさる・・・


「大丈夫です、痛くないです」

教皇を捕まえ数珠の珠を渡す。


「え!痛くない神の攻撃?」

それには答えず目で促す。アルが怖い。


教皇に一個着けさせた。 お前!


奴隷紋を刻んだ。アイテムの珠がはじけ飛んだ。

もう一回刻んだ。掛かった。消した。


バングル型をもう一度着けて貰った。

恩寵を取った。アイテムの珠がはじけ飛んだ。


ブレスレット型をもう一度着けて貰った。 

麻痺を叩き込んだ。アイテムの珠がはじけ飛んだ。


ネックレス型をもう一度着けて貰った。

武具強奪付けて奪った。アイテムが消えた。


武具強奪は身に付けた者への攻撃とみなされてない。

マジ良かった。


「な!消えた!」

「ふー!神の力で存在を消しました」


「分かりました、教皇様。何よりも最高のアイテムを教えて頂けました。このアイテムを知らなければ神の御子は混沌に滅ぼされていたかも知れません」


「なんと!御子様が!それほどですか」

「これは、それほども攻撃を跳ね返す珠です」


「神の力は偉大ですが、それを示すには世の理の中での力となります。私は攻撃を打ち消すアイテムを知りませんでした。魔法で懲らしめたつもりで返り討ちになる可能性がございました」


「私にも、分けて貰えないでしょうか」

「これは早々使う物ではございません」


「私自身が今日、初めて攻撃を受けたぐらいです、10も残して頂けたら結構です、こちらはこちらですぐ作りますので残りは御子様がお持ちください」


教皇攻撃したら教会無くなるし攻撃出来んわな。


「本当にありがとうございます」

「この様な物でお役に立てれば」


「知った以上は大丈夫です。これをご覧ください」


指の形をピストルにして。緩い風の弾丸をパパパパと連射する。クローゼットの教皇の法衣が波を打って揺れる。


「知った以上、何百付けていても打ち砕きます」

「おぉ!良かった!安心しました」


教皇様の手を取り感謝する。


強奪は流石に見せる訳に行かないからな。

以後は”身代わりの珠”検索が必須だな。

10個残しても106個あったので20個残した。

導師なら活用法を知ってるだろう。


よく視た。

加工は魔力を遮断した状態で珠に穴も開けられる。指輪の様に爪で保持も出来る。護身のアイテムで非常に高い。高貴な者がアクセサリーで身に付けている物と知った。


俺や師匠や導師には必要ない。切った張ったの生活だ(笑)


師匠に頑張れよと肩を叩かれただけで弾け飛ぶ気がする。



天啓だ。これを知らなかったら返り討ちの可能性があった。


奴らなら必ず持ってる筈だ。





次回 123話  テミスが好きな視線  

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                思預しよ

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