第119話  聖教国セントフォール



リノバールス帝国 帝都教会 司教執務室。


アルとステレン大司教。


「神が見ておられますよ」


大司教はそのステータスボードを見て震えていた。



「信じられませんか?」

「・・・」

「聖教国の御子とは違うでしょうが本物ですよ」

「本当に、本当に・・・」

「そうです、本当です」

「お見せしましょうか?見た事も無い神の御業を」

「よろしいのですか?」

「部屋に鍵を掛けますね」鍵を掛ける。

「何を・・・」

「大司教が消えたらまずいからです」

「怖がらなくて結構ですよ、神の御業です」


「行きますよ」

「どこへ」

「教皇様の所です」

「え?」


「跳びます」



・・・・・



16時


聖教国セントフォール大教会


教皇の間の前の階段。


「どこだかお分かりですね」

「ここは・・・セントフォール大教会?」

「教皇様にお取次を願います」

「あなたが見た事を信じられませんか?」

「いえ、その様な事は」

「信じて頂けたら結構です」

「まずは私の部屋へ行き遣いを出さねば」

「わかりました」

「御子様、こちらへどうぞ」

「はい」


ステレン大司教の部屋で認証紋に魔力を注ぎ扉を開ける。開けると台のうえのベルをリリリンと鳴らす。


すぐに侍女がやって来て目を剝く。


「ステレン様!いつお戻りに!」


「仔細は良い。侍女長を呼んでくれ、あとお茶も頼む」


「かしこまりました」


「御子様は聖教国は初めてでございますか?」

「はい、わかりますか?(笑)」

「珍しそうに色々見ておられますよ」


「あはは、本当に珍しいので見ちゃいます。ふふっ」


「今までどちらにおられたのですか?」

「死ぬ間際に神が降臨され、生かされました」

「なんと!その様な事が」


「はい、御子になってからええと・・・10か月目ですね」


「生まれたての御子様ですな」


「はい、生まれてから神の啓示を受け、この様な事を」


奴隷債権を見せた。


「え、な!これは?」

「神の啓示で助けよと・・・このように」


瞬時に証文の魔術紋が書き換えられていく。


「まさしく神の御業!」

「今回の帝国も神の啓示で知りました」

「おぉ!神よ。御子を遣わされ感謝いたします」


イヤ、俺に祈られても困る。


ノックがあり侍女長が入ってきた。


「アロラ、元気だったか」

「ステレン卿!本当に帰って! 大丈夫なのですか?」


「良い!聖教国始まって以来の大事件だ」


「え?」


「教皇様にお取次ぎを」


執務室の引き出しから白銀のメダルを出してアロラに渡す。


「え!そのような!」

「良いのだ。大司教の使命だ」

「すぐに!お待ちくださいませ」


入れ替わりに侍女がお茶のワゴンを持って来る。

聖教国の大司教が飲むお茶は美味しかった。


アルは流れるに任せた。

勝負は教皇を落とせるかどうかに掛かっている。

6万の奴隷は軽くない。聖教国に神の試練と思わせたら勝ち。政治的な判断が勝てば、俺は神を語る神敵になる。


最悪はそうなる前に支配するけどしたくない。聖教国は多分中央大陸一番の情報通だ。最新の文化を持つインテリの集まりだ。論理を説いて倫理で落とす。倫理を説いて道徳で落とす。


現場で教会と孤児院をやる理想に努力する司祭たちの元締めだ。聖教国にちゃんと聖職者の誇れる仕事をさせてあげたい。それが聖教国への何よりのご褒美だと思うのだ。神の使徒が来るなんてなかなか無いだろ?(笑)


しばらくして侍女長が帰って来た。


「教皇様がお呼びです。仔細を聞いてからメダルを使うと」


「ふむ、分かった。参ろうか御子様」

「はい」目を剥く侍女長のお婆さんが可愛かった。


・・・・


「ステレン大司教をお連れ致しました」


侍女長が両脇の聖騎士に告げる。

聖騎士が教皇の間へ消えていく。

扉が開く。


「教皇様がお待ちです」

「それでは、参りましょうかな(笑)」

「はい(笑)」


「ステレン卿、帝国はどうした?」

「先程まで帝国にいました」

「ん?どういうことだ?」

「お喜び下さい、神の使徒が降臨されました」

「はぁ?」凄い顔で驚く。

「ぷっ!」笑ってしまった。


「子供を連れておるな?」

「教皇様、こちらへお越しください」

「なんだ?何かあるのか?」

「教皇様がお喜びになることが」

「ん?なんであろうかな」


机のこっち側に来てくれた。


「御子様お願いいたします」

「はい」


ステータスオープン No.3


アルベルト     11歳 男

神の御子       健康

職業 神々の使徒


体力:62 魔力:ー 力:40 器用:342 生命:48 敏捷:35 知力:652 精神:671 魅力:84 幸運:87

スキル  


加護

  創造主、ネロ

   豊穣の神、デフローネ。

   戦いの神、ネフロー。

   審判の神、ウルシュ。 

   慈愛の神、アローシェ。

   学芸の神、ユグ。 


「え?・・・あぁー!」


「教会の御子ではございません。正しく神の使徒殿です」


「・・・」


視たら、聖教国の史実で見た神を騙る者が現れたと(笑)


打ち消しておかないとな。


「歴代の騙る者はこういう事は出来ましたか?」

聖魔法を無詠唱でオンパレードする。異端はダメだ(笑)


子供が自由自在に操る。二人が目を見開いて驚いている。


信用してくれたようだ。


「教皇様、私は神にお会いしております。教皇様がこれまで悩まれてきた神への疑問にお答え出来ますが如何です?」


「!」


「それは本当なのか!」両肩を強く握られる。


目を見て優しく頷く。教皇だって伊達では無いのだ、悩み、惑い、止まり、答えを出しながら歩んできた。答えてあげたかった。


「折角お会いできたのです。これも神の思し召し。ステレン大司教様も神への疑問があればお答えしますよ」


「え!私もよろしいのでしょうか?」


「誰でも目に見えぬものには疑問が湧くでしょう、恩寵や加護は見ても神は姿を現しません。いつも神と共におられる方なら疑問もあるでしょうから。自己紹介も兼ねて語らいましょう」


「おぉぉ・・・」教皇が目に涙を溜めている。

「肩を優しく撫でる」視えてますよあなたの人生が。

「ステレン大司教も涙ぐむ」



・・・



「神はこれ程まで信仰しても何故助けてくれぬ」

「神は助ける存在では無いからです」

「それではどのような存在なのだ?」

「人の一生。人生を見守る存在です」

「見守るだけか?」

「そうです、なにも致しません」


「・・・」


「何かされた方は歴史上おられますか?」

「言い伝えしか・・・」

「そうです。根本が違います」

「根本?」


「はい、人が・・・教皇様の様に迷い、悩み、悲しみ、立ち止まり、それでも答えを見つけようと自ら立ち上がり努力する姿を喜んで見つめる。見守る者が神です。そうやって努力した者こそ死して召されたときに神の存在に近付く事が出来ます」


「世の悲しみや災厄を助けぬとお思いでしょうが、それも少し違います。世の理は秩序と混沌で絶えず流転しております。人が抗えない物、これが混沌です。戦争に巻き込まれて抗って死ぬ者、抗えずに死ぬ者。これ全てが一生を通じた人生なのです」


「教皇様の様に秩序の中で一生を通じて己を磨く者もあります。混沌の中、戦争に巻き込まれて子を守りながら子と共に召される親子もいます。人の一生で得も損もございません。混沌に巻き込まれる者もそれが人生。秩序の中、己を考え磨く者もそれが人生です」


「神の世界の時は長いですよ、何十億年も何百億年も過ごします。人に生まれ出て一瞬の混沌を悲しんではいけません。神の世界の子がこの世で修行して、神の世界に帰るのです」


「教皇様、磨いてこられましたね。魂が輝いていらっしゃいますよ。神の世界に行ったとき、初めてご自分の輝きを誇れると思います」


「心配する事はございません、この世はこの世の理に縛られます。政治力も無ければ上に上がれません。上に行かなければ沢山の人も助けられないのです。


同じ様に沢山の人を助けるには何かを犠牲にする事もあるでしょう。それを悼み、苦しみながらも考え、少しでも人の世を、国の生活を、民の幸せを、家族の暮らしを良くしようと努力することが人の世の務めなのです」


「何も悩む必要はありません。一番怖い事。やってはいけない事。それは悪事と知りながら行う事です。それを知られない様に隠す事です。


分かりやすく言います。人の足を引っ張って倒そうとする者。人から奪って蹴落そうとする者。自身の欲で人を踏み台にすることです。神の道に遠ざかる所業となります。


一度悪事を隠すのが上手くいくと万を引くと言いますね。自分は努力せず人の足ばかり引き、悪い事を繰り返す。そしてその悪事を隠し蜜に浸り、また悪事を行う人生を過ごします」


「聖教国の教えは知りませんが、罪を犯すな。とか有りませんか?その罪はそういうことです」


「何を言っても聞かない盗賊とか居ますよね?神は放って置けと言ってました(笑)言っても無駄なのですよ。そういう盗賊も抗えない混沌として役割を達成してるそうです。ただし神の世界に行った時に後悔して何千年何万年も苦しむそうですよ」


「御子は私の考えが読めるのですね」


「はい、テミス様が見守るように視えますよ。あなたが若き頃に世界を変えて見せようと司教の皆と誓った言葉。あなたが歩んで来た教皇の道、その茨であった苦渋の選択の道が」


「おぉぉ・・・」教皇が泣き崩れる。

「聖教国2700年の歴史は重かったですね」


教皇を撫でる、背中を擦る。


「ステレン大司教は何かございますか?」

「私の心も晴れております、多分この国の司祭すべてがその様に悩み苦しんで歩んでいるかと思います」


「大司教様はじめ教皇様も強がる必要は無いのですよ。誰もがこの世を見て、情けは無いのか、神は居ないのかと悩みます。当然の事です。神は助けません。人がそうやって悩みながらも答えを探して進むのを見守る者だからです。教皇だって悩むのだから皆も悩んで当然だ!頑張って精進しろ!って笑って言っても良いと思いますよ」


「なんと!」

「そのような事を上の者が!」


「大司教様?恥ずかしく無いですよね?それほどあなたは悩んで来た。若い司祭なら当然悩みます、そして前を向いて進む。あぁそうですね、聖女だって人間です。好きになった男と去る事だってあります。あなたに教えを頂いたその聖女もそれで悩むのです、神を裏切ったと悩むのです。


でも子を作り、その子を胸に抱いて前を向いて人生を歩みます。神はそれも祝福いたしますよ。教会のイメージは悪くなりますが、隠すのも政治ですね。世を渡る政治です。教会には背いても人としてはそんな聖女もお許しくださいね」


「・・・」


「人が暮らすにはルールが必要です。ルールは人が作った物です。人を愛する事は人として当然の事ですよ。それを人が作ったルールで悪と決めてはいけませんよ」


「本人が悩み悔やみ背負って生きて行く問題です。それは神の御許で本人だけが悔やむのか胸を張るのか知るだけです」


「納得されたようですね」

ステレン大司教の目が床に落ちる。


「神は笑ってその人生を見守っていますよ。それがその聖女の試練です。その試練で磨いて召されて神の元へ行くのです。それを神が見ています、心配せずとも大丈夫です。」


静かにステレン大司教が頭を下げた。


・・・・


「一つ聞いて頂きたいことがあります」

「何でしょう?」

「私は御子となったとき、神から言われております。好きに生きて良いと、好きに生きてこの世を学べと。神から力も授かっております」


「力を?」


「はい、私には神の啓示がございます。啓示をどうしようが私の好きに致します。無視しても良いですし、解決しても良い。好きに生きるとはそういう事だと思います」


「リノバールス帝国の事を知りました。あれは人には抗えない混沌です。ですから使徒の私が抗います。帝国を止めます」


「聖教国は掴んでいるのか知りませんが、今帝国には各地で奴隷狩りに遭った獣人奴隷が6万人程います。帝国の周辺国から略取された子供は8000人います。獣人奴隷の世話をするために攫われた子達です。助け出した後、神の罰を受けさせます」


「獣人奴隷6万人ですか?子供が8000人も?」

「はい、正確には子供の時に奴隷とされ、奴隷同士で結婚し、その子まで奴隷となって巡っております。奴隷のまま一生も終えています」


「なんと・・・」

「神の使徒の私が裁きます。聖教国の裁きは必要ありません」


「しかし御子様一人でなど・・・」

「教皇様にお会いしたかったのはお願いがあるからです」


「お願いですか?」


「2か月後を目途に2万人ずつ、聖教国に獣人奴隷を連れてきます。この国に一時避難させて下さい。費用は帝国から私が持って来ます。避難させたら帝国の補償金を持たせて元の周辺国へ帰る準備をしてあげて欲しいのです」


「え?連れて来られるのですか?」


「はい、帝国から聖教国までステレン大司教が来られた方法で連れてきます」


「受け入れ準備は出来ますか? とにかく2万人程が並べる程の草原か広場があれば良いのです。無いと連れてこられません。それから保証金や食料を持たせて私が連れ去られた国へ送ります」


「何とか致します」


「あと、帝国から硬貨を持って来てもダメですよね?金鉱で出た金でよろしいでしょうか?」


「金なら自由になりますのでそちらの方が」

「それなら近いうちに持って来ますね」

「周辺国へは食料の買い付けをお願いいたします」

「わかりました」


「あ!忘れていました」

「何でしょうか?」


「私のステータスを神に誓って黙っていて下さいね」


「私も遅ればせながら。聖教国 教皇ライトス・ド・ミラゴ・イ・クレンブルでございます」



あ!教皇ってこの国の王様だよ!(笑)

あ!だからだったんだ!



色々ともう・・・



※教皇は崩御すると49名の大司教の投票で教皇が決まる。そして名を受け継ぐ。




次回 120話 Don't Stop Me Now 

----------------


この物語を読みに来てくれてありがとうございます。


読者様にお願い致します。


応援ポチ。☆も頂けたら嬉しいです。


ポチをしてくれる事。それはとても励みになるのです。


一期一会に感謝をこめて。よろしくお願い致します。


                思預しよ

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る