第116話 帝国潜入
獣人奴隷解放計画の骨の部分である。
・帝国に最初の安全地帯の拠点を作る。
・聖教会の密偵の拠点を探し教皇に謁見を願う。
・各領主家も隷属でさざ波の様に浸食して行く。
・領主家>領都>街>村まで侵食。何年も掛かる計画。
・奴隷鉱山に侵入し、金鉱山の全てを隷属していく。
・略取された子供を返すための周辺国への折衝。
・獣人奴隷解放後に生活させる場所の問題。
聖教会に現実の帝国を直視してもらう。聖教国の教えは知らないが、帝国の行く末を見守って貰おうと思っている。
そんな感じで導師と師匠に大筋を話して煮詰めて行った。
まだ何も真相は掴めていない。
夕食を取って、お爺様の所へ向かう。
いつもの通りジャネットが迎えてくれる。
「お爺様、領内に人攫い関係の奴隷商を見つけました」
「なに!人攫い?」
「どうも根の深い話で、導師と師匠と盗賊狩りと並行して人攫いルートを壊滅させようと話合ってます」
「アル、お主本当に大丈夫なのか?」
「やる事は一緒なのでご心配なく」史上最大の嘘だ。
「二人も新年早々に我が領のために済まぬのう」
「大喜びで手伝ってくれてますよ」
「お前、ようも師匠に向かってそのような・・・」
「仲良し3人組なので大丈夫です」
「ベント卿は儂より上じゃろう?爵位も伯爵と知っとるな?」
「お爺様と同じくお優しいので大丈夫です」
「む!」
「ぷっ!」ジャネットが吹く。
「付きましては、朝と言わず晩と言わず3人が揃わなくても不審に思わぬように願います」
「それは良いが、抜かるで無いぞ」
「世に聞こえた英雄と賢者様ですよ。大丈夫です。私が知ってお二人に教えるだけですからね」
・・・・
部屋に帰ってアニーが食事から帰って来るのを待つ。
お爺様に言ったことを話す。
明日から朝食食べるまでアニーと一緒。後は自由で良いと言う。アニーも11歳のアル様が盗賊退治とは信じられない様だった。
「あの冒険者とか暁の副団長の模擬戦見たでしょ?」
「見ましたが、気を付けて下さいね」
「それでは、今日は上がって良いからね」
「はい、お休みなさいませ」
2時間証文やって寝た。
・・・・・
朝から訓練をレッドゾーンでぶっ飛ばす。
別に入国しても戦うつもりは無いんだけど自然に熱が入る。
今日、リノバールス帝国に入る。
お父様に聞いた話ではリノバールス帝国は食料輸入に頼る国。国内に豊富な金山、銀山、鉄鋼、炭鉱が有るために鉱山関係者が多く、採掘した資源で食料を他国から買っている。
食料も勿論作っている、作っているが荒れ地が国土の半分近くあるらしい。元々が荒れ地で耕作地が少ないので略取してきた獣人を奴隷にして耕作地を広げていた国だ。
獣人奴隷同士で結婚させて獣人の大家族ごと農園の中に暮らす。何世代もそんな事やってたら獣人=奴隷になっちゃうよな。
聖教国が来たって心の中まで変えられないよ。
荒れ地はアメリカの荒野の山と比較してもそんなに違わない。
西部劇だって豊かな土地や財産を巡って戦うんだ。騎兵隊とインディアンだって多分そうだったんじゃないかな。先住民だから肥えた土地と水源の場所に居ただろうし。
開拓に世界中から奴隷集めて使ってたのも一緒だ。牛や馬と人と獣人。植民地の人も獣人も一緒だな。未開で弱いから力に負けてしまう。力の強い者が独り占めの世界だ。
弱肉強食で自然のままと言いたいか(笑)
自然は死んで持って行けないものを溜め込まないんだよ。生きるために食うだけだ。
欲に踊り周りに災いを振り撒く者。
それは抗えない混沌衆だ。
先頭に立って抗わないとな。
高嗤う奴は同じ目に遭わす。力には力とも思うが因果応報で穏便に引っくり返すよ。
師匠も導師も食堂7時集合なのに俺だけ使用人食堂で食っていた。
こっちにご飯が用意されていた。因果応報だった。
・・・・
導師の部屋からオードの宿へ。俺の部屋に跳ぶ。
「お父様、おはようございます!」
抱き付きに行く。
「アル!おはよう!」
熱烈に抱きしめられてしまう。
「何時頃出発になりますか?」
「8時半頃になるから準備はしておけよ」
「はい、お父様、ターミと稽古してもよろしいですか?」
「いいぞ!稽古頑張れよ」
「ターミ行こう!」
「はいアル様」
部屋を出てから師匠と肘で腹をガスガスやりながら外へ行く。
「もう!
「いいじゃねーか!アル様なんだから」
「ワザとらしい!(笑) あー苦しかった!」
「俺も吹き出しそうで大変だった」
「導師が鼻からお茶出す寸前ですよ(笑)」
「今度は吹かせてやる(笑)」
「イヤ、吹いても良かったんですよ。隷属してた(笑)」
「あ!そうだったな、みんな身内だったな(笑)」
「身内!そうですね(笑)」
「やりましょうか」
「おぉ!」
・・・・・
8時半にラッソーが馬車を回す。後ろの馬車はゼムだ。騎士団員が10名とガンダとターミが馬。横にノストリーヌ(馬)が布陣する。布陣してもオードの街なので何も無いけど。
東門に合流の大型馬車2台が待っていた。
今回同行するキャノール商会の使用人4人は全部帝国人だった。キャノールに言って一人一人馬車の中で面会する。隷属紋を刻んで行く。
「仕事に励め」励ます制約の魔力認証。
ああだこうだ言わずに励ますだけで普通に仕事こなすから笑えるんだよ。導師が言った通りに隷属しても普通の人なんだよ。
「はい!」と普通に出て行く。
オードの東門を大型馬車4台が通る。
17人も増えて44名。もはや隊商だ。
・・・・
昼前に王国の国境門に出た。貴族証と人員を確認し通過する。他国の貴族でもフリーパスだな。やっぱ外交官特権みたいな?
2時間程進むと帝国の国境門だ。つまりこの間が緩衝地帯。
聖教国のルールでお互いの主張する国境線からお互いに引きなさいという物が有る。10~20kmが緩衝地帯でお互いの国がそれを挟んで国境門を作る。
大河や山の稜線など明確な分ける物が無く紛争の元となる物を無くしてるのだ。国境の大河とかは物理的に、国境の山の稜線などはふもとまで生活圏にならない。そんな感じで平地も同様に見たてて緩衝地帯を作ると導師が教えてくれた。
国に追われる者は相手国の門をくぐるまで追手が追撃できる場所でもある。
そのままフリーパス。
リノバールス帝国地図
https://gyazo.com/ca9f52debe16679d8c2ca9f38f5f616e
バーグ子爵領の交易路でゾルタス子爵領まで約1週間の行程だ。
ジェルト-アバン-
約一週間後にゾルタス子爵の領都で奴隷商に引き渡されて子爵の仕事は終わる。キャノール商会の使用人4人はまたオードに馬車を持って戻る。
今回略取されてきた12歳未満の奴隷は奴隷交易路に乗って金鉱に送られる。
子供の時に攫われて一生を過ごした人も居る。今回は男の子5名女の子15名だ、必ず助けるからしばらく我慢してくれよ。
国境を越えてからお父様に頼んで御者席に座らせて貰った。見るからに騎士団の護衛が10人居たら盗賊も来ないよな。
馬に乗ったターミとガンダが御者席と馬で並んでニヤ付く。
「今日の帰りに見つけた盗賊やりに行きます?」
「おぉ、良いのう」
「行くか!」
やったー!SP狩りだぜ!毎夕の日課にしよう。
しかし・・・奪った武器防具どうしよ。最近は馬も馬車も馬具も冒険者にやってないからな、ロスレーン西側の盗賊だけで282名とこないだの12名で遺留品の武具や防具、鹵獲の盗品が10トン越えてるよ。キャンディルの盗賊の分置いてきて良かった。
バーグ子爵領のジェルトという街に夕方に付いた。
やっぱ交易路の街だけあってにぎやかだ。
水面の煌めき亭という貴族宿だ。お父様が払うから気兼ねなく泊る。自分の部屋を貰うと、また朝まで遊んで来るとお父様に伝えておく。
・・・・
ガンダとターミ連れて、ロスレーンの東にある山脈に跳んだ。
コルアーノ王国地図
https://gyazo.com/7d7093f86f93ea24dfeb599efb26d4a3
いるいる、14名の盗賊だ。
恩寵取ってターミが突撃。戦利品奪って包んでヘクトに送る。最近インベントリの天幕がフル稼働だ。
ヘクトに移送し即日裁判。俺が罪状を代官のオスモさんに伝えて「やったよね?」と訊いて「はい、やりました」と自白させていく。採掘付けて全員引き渡す。
帰りに盗賊宿と隠れ家に寄ったが入ってなかった。
ロスレーンに帰って食事がてらにお爺様に報告したら。ハルトさんが盗賊退治にアピールしてきたが聞き流すのも得意だ。
・・・・
夕食後。
メイド達と一緒にいるジャネットに約束して、食事後に話が出来るようにしてもらった。
お婆ちゃんの話をジャネットに聞く。
後はリリーさんが来て、話がまとまり次第にドレスの事を打ち合わせるのでバラライカはそのままやってくれてるそうだ。
ドレスの話は良いが、出来上がるまで報酬無ければお婆ちゃんは暮らしていけないので心配した。その辺は詳細に話し合ったと聞いて安心した。
導師の部屋に行き、リリーさんとオットー会長が10日頃着くので帝国の方とこっちで色々忙しくなるかも。と伝えておく。
新年ぐらいゆっくりすれば良いだろうに帝国のアホが休日返上で働きやがるから時間を取られてやりたい事が出来ない。まぁゾルタス子爵家に着けば安全圏が出来るので我慢の旅路を続けるしかない。
翌日も7時集合だけど、俺だけ使用人食堂だ。
・・・・
ジェルトの水面の輝き亭に跳ぶ。
「お父様ー!おはようございます。」
ピトッと抱きつく。
「アル!おはよう。今日も元気だな」
忙しい限りだ・・・
・・・・
5日目の夕方にゾルタス子爵領ライナの街に入った。
ここまで来るのに時間に追われて大変だったがロスレーンの東側に位置するロスレーン・レーン・ギシレン・シレンまでに居る盗賊を狩りまくった。
187名!山に隠れる10人から20人の盗賊が多かった。村を襲う直前の盗賊も居た。ついでに村人の付与も忘れない。
後はモルドの手前と先にいる盗賊だ。ヘクトの代官オスモさんも守備隊と共に夕方に待ち受けるようになっている(笑)モルドの銅鉱山も良いけど最初から話をするのが面倒くさい。
今日、リリーさんとオットー会長がロスレーンに付く予定だ。
ライナの宿に着くなり3人で導師の部屋に跳んだ。
聞くとオットー商会の先触れは無い様だ、
馬車の車輪亭に着いて尋ねるとさっき着いたと言う。
部屋に案内してもらった。
部屋に入るとお茶を飲んでゆっくり一服してたようだ。
「オットー会長!ようこそロスレーンへ」
抱きついた。
「リリーさんもお久しぶりです」
抱きついた。
「うちへの先触れはいいので 今から付き合って下さい」
流石アル、長旅の後もゆっくりさせてはもらえない。
「どちらへ行かれるのです?」
「布のバラライカを作ってるお婆さんのコミュニティーです。以後はオットーさんに身の振り方などを考えて貰おうと思って」
オットーさんは商談でいきなりシャッキリした。
「伺いましょう」
近くなので徒歩で行った。
「お婆ちゃーん、ノックもせずにいきなり入って行く」
「アルベルト様!」針子達と驚いて止まってる。
気にせず言う
「バラライカ出来てる?」
「そちらに」
見ると山のように布のバラライカが出来ている。
これで何枚か視てみた。ひと束10枚が50束。500枚だ。
会長に束になっていないバラライカを渡す。
「こんな感じですが」
「これは幾らでしょう?」
「お婆ちゃーん、コレ幾ら?」
「それは大銅貨3枚(3000円)ですね」
「一番高いのどれ?」
「これが大銅貨5枚(5000円)です」
高いのもオットーさんに見てもらう。
「充分でございます。アル様が仰られた街の民、農民の村、全てに行き渡ると思います」
「本当ですか?」
「今すぐではございませんが、冬これだけ暖かいバラライカです、流行らせて見せます」
「よかった!お婆ちゃん。出来た奴全部で幾ら?」
「束の分だけで大銅貨3枚が300枚 4枚が100枚 5枚が100枚でございます」
視たら、皆が沢山作りたくて安い端切れを仕入れた結果安いバラライカが一番多く出来ていた。
「はい 銀貨90枚と40枚と50枚ね」
90万+40万+50万。針子達の歓声が湧く。
「アルベルト様」
「?」
「最初の材料の代金です」
銀貨30枚が帰ってきた(笑)
てことは糸代含めても一人銀貨10枚以上あるな。
収入から次の布と糸買ったら、この張り切り過ぎの1日6枚ペースは無いにしても1か月計算で銀貨18から24枚ぐらいか?
オットーさんに投資金額と針子の内訳を話す。
「忘れてた!ありがとうね」
「当然の事です、無ければ最初の布と糸が買えませんでした」
「後はね、こっちのオットー商会の会長さんと話をしてね」
「オットーさんこれでお任せして良いです?」
「この者達を私どもに預けて頂けるのですな?」
「はい、この子みたいな若い子(12歳)は針子の勉強に連れて行って、あっちの作業所で寄宿舎も良いですし、こっちで新たに作業場と寄宿舎を作っても良いと思います」
「皆が安定して稼げて暮らしが楽になれば何でも良いです」
「はっ!お預かりいたします」
「みんな、安心してね。このオットーさん儲けてるから。領民のために稼いでくれる人だからね、頑張ったら頑張っただけ暮らしも楽になるよ。平民になって神の祝福でステータスボードを貰って4番街に家を借りよう!(笑)」
皆が突然開けた未来に顔が輝く。
その最初の銀貨が手に握られたのだ。
「オットーさん、これ帰りに持っていくかロスレーンで売ります?」
「こっちに居る間にお店を立ちあげてそこで扱います」
「冬は3月で終わりますけど大丈夫です?」
「大丈夫です、今が1月~2月でも良いもので安ければ必ず売れます。この冬から次の冬まで作って次の冬前から王国全土に売りますぞ!」
わーい!オットーさんの手を取って踊った。
皆がアルの子踊りを見つめていた。
次回 117話 そこまで戯れて無い
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