第111話 精霊剣
新年3日目
目の前でハルトさんが崩折れる。
模擬戦で初撃の斧を防いだら、斧が飛んでっちゃった。呆然とした後にハルトさんが崩折れた。
視たらメチャクチャ反省していた。
騎士団の模擬戦でもなかなか思うように勝てないらしい。以前の自分の様に自由自在に斧で戦って遊びたくて俺と遊ぼうと来たのに、子供と舐めてお爺様と同じ事になってしまった事を悔やんでいる。
来た初日にお爺様にあしらわれた事も知った。
視てしまった・・・声が掛けられない。
そこに声が掛かった。
「ハルト、坊ちゃんに稽古つけて貰ってるのか(笑)」
ハルトさんが顔を上げる。
「負け犬野郎!ここで何度死んでんだバカ!(笑)」
ガルスさんも無茶苦茶言うなぁ・・・
「坊ちゃん、負け犬は捨てて私と如何ですか?」
ハルトさんがガルスさんに砂を掴んで投げている(笑)
「何だクソちびり野郎。暁の恥晒しやがって(笑)」
足で砂を蹴ってハルトさんに掛ける。
「うるせぇ!お前もやりゃ分かるよ!」
「ほぉ、それではお願いしましょうかな。坊ちゃん」
「はい、お願いします」
ガルスさんの剣は両手剣。
両手剣の受け流しに神経を集中して全身全霊で覚悟する。受けようとするなよ、超格上だ。流すか避けるを最優先。
初撃に中途半端なスピードの袈裟切りが来た。そのまま右手の最大強化の片手剣を両手剣に当てて半身に流して躱す。その勢いで左回転して懐に入りざまのしゃがみ左後ろ回し蹴りで膝裏に強化最大の
受け流して崩す初撃が自然に出たらクリーンヒットで島袋が尻からすっ転ぶ。受け身は出ない(当たり前だ!)何これ!メッチャ楽しい。攻撃が入るとこんなに楽しいの?わーい!
「ぎゃっはっはっはっ!ガルスざまーねぇな(笑)」
砂を投げながらハルトさんが大笑い。
「お前も負けてんじゃねぇか!ぎゃはははは!」
「まさかここまでとは思わなかっただけだ!」
「俺と一緒じゃねーか!ふざけやがって(笑)」
ガルスさんが笑われて、真剣なスピードの剣が迫るが師匠の比ではない、余裕で捌ける。両手剣で圧し潰そうとして来るが元より承知。普段の鍛錬でも動かさない程の大量の魔力を纏って受け流しに徹する。そして受け捌きの後の最短の返し。それが掠る、当たる。
当たるんだよ!
うぉー!俺戦えてる!戦えてる!切った張ったの世界してる。
実はアルは盗賊を襲いまくっても支援しかしてないのだ。攻撃の剣を教わってからは師匠と一合も打ち合えていない。
嬉しくて嬉しくて入り込んだ。ガルスしか視えなくなった。腕の動作での予測、重心の動き、虚実の魔力の動き、がら空きの場所。以前言っていた眼で視えすぎて鍛錬にならないという状態まで模擬戦に入り込んだ。
ガルスも焦る。Hit!と思った一撃が紙一重で躱される、流される。斬り込んで来ないが自分の攻撃を躱した後、流した後に的確に隙を突いた一撃が返される。
変則な軌道、嵌め技も通用しない。スピードも付いてこられる、圧し潰す両手剣が殺される。唯一の長所が潰される。
アルはアルで見る事、視る事の予測で必死だった。予測が無ければ一切対処できない
そんな中、視えて来ると流す角度を読んで、より模擬剣や腕や体に負担が無い最小の受け流しとなって行く、両手剣に集約された力のベクトルにアルの片手剣のベクトルを添えて合成し、本来の太刀筋を的確に
対両手剣が磨かれて行く。視れば視る程磨かれて行く。眼前の軌道を見切っていく。
大笑いしていたハルトが黙る。見入る。
ハルトが見ていたアルの剣は負けぬ剣だった。防ぐ剣。攻撃を受けた分だけ相手に返す剣。荒々しさは無い。静かに的確に流して的確に返す贅肉の無い剣、無駄の削ぎ落された剣だった。
アランは窓辺で観戦していた。手に汗握って我が子の模擬戦を見つめた。稽古じゃない、武人の模擬戦だった。
リードは庭から聞こえるカーン!カン!カーン!という模擬剣の打ち合わされる音で知った。窓から見るとガルスがアルに手こずってる。しばらく見て、まぁそんなもんだろとアルの鍛錬の深度を測った。
少し考えてからレノアとローレンの部屋に行き、タダ酒飲んで世話になってるなら毎朝稽古してやれと蹴りだした。
二人は大いに納得した。
アルは二丁斧、両手剣、鎗、片手剣、変則二刀の相手を手に入れた。
・・・・
アルが視線に気が付くとアニーが外まで出て来ていた。ほぼ二時間ずっと模擬戦に入り込み師匠の所に行く時間を過ぎていた。アニーに馬車の準備を頼み、師匠の所へ行く。
「遅くなりました」
「どうだった?面白かったか(笑)」
「はい!最高に面白かったです」
「後のお二人は師匠が?」
「おぅ、新年明けに二日も休んでたからな」
「あ!最終日に鍛錬し過ぎたと言ってましたね」
「そうだな・・・今日も休むと鈍るしな」
「それは置いて、両手剣の対処法分かってたな」
「基本だけでしたが、段々と分かってきました」
「まぁ、そんなもんだ。身をもって知らないとな」
「今日はあれだけ真剣に振り回してたんだ、代わりに型を限界までゆっくりにしてやってみろ」
「え?」
「ゆっくりにして自分の型を見つめ直せ」
「はい」
いつもの一連の受け流しの型をゆっくりと行う。
一つ一つの動作を正確に行おうとすればするほど一つ一つの所作に迷いが出た。迷いを振り切って、これで良い、間違っていないという決断と共に歯を食いしばって先に進んでいく。
気が付くと6分の型に30分掛かり、汗びっしょりとなっていた。
師匠が言った。
「よく止まらなかったな(笑)」
「これ程も迷いが出るとは・・・」
「そうだ。迷って剣が出なくなる」
「打ち合うだけが鍛錬じゃないぞ」
「はい!」
・・・・・
馬車の用意が出来た所でお婆ちゃんを思い出した。朝起きた時気にして視たのにハルトさんの模擬戦で全て吹っ飛んだ(笑)
聞いてみたら朝食後9時過ぎまで打ち合わせをして先程アンドロ(26歳)が馬車で送ったとの事だった。
今日も馬車で街に出た。
スコッツ武具店がやってたら、こないだ買った中古の剣帯を直してもらおうと持って来たのだ。
ブティックがやっと開いていたので、今の服と同じ作りで少し大きい服と色違いの外套を注文してきた。変なマナーを適用されないように、俺だけが店に入って前の注文書を出させ、体のサイズを測るだけでサインして速攻で出て来た。20分掛かった。俺的に合格だ!
三番街の門に馬車を置くのも三日目だ。アル様!と馬車を寄せるのを手伝ってくれるようになった。小壺効果か(笑)
イヤ、駐車料金のつもりだから間違って無いぞ。
内田が買い物にアウトレット行きましょう。とカスタムで連れて行くと駐車場無くてさぁ、延々と入るの待ってた事考えるとマジ貴族は便利だよ、スッと来てスッと置ける。
毎日ロスレーンの街に出るのもいいなぁ、新年の休みで人出も多いから商人も大きな街から出ないみたい。大通りの休みの店の前はギッシリと露店で埋まってる。
蚤の市の公園から見て行く。
また絵本があったので二冊買う。アニーに髪飾り、ビクトリオに執事服に似合うブローチを買ってやった。買ってやったというか中古で大銅貨3枚で買う貴族もどうなんだ(笑)
二人共16歳と17歳だから素直に喜んでるから可愛いのよ。シュミッツみたいに「貴族とは!」とカチカチじゃない。シュミッツ連れて来たら青筋立てるわ。
蚤の市で何かいい物ないかな?と見て回る。
検索掛けたら出たよ!
アルまっしぐら!と普通のフリーマーケットの店に来た。腐った剣を視る。間違いない、これ精霊剣と出る。
なんかこういうの見ちゃうと欲が出るね。さも気の無い振りをして横の剣を取ったりして値段を聞いてみる。これは?これは?と模擬剣持ったお坊ちゃん風が本物の剣を欲しがってる風を装う。
話してるうちにアニーが気が付いた。
アル様が段々幼児語になっていき、平民と馴れ馴れしく仲良くなっていく。ビクトリオもアル様が・・・と変貌ぶりに驚いた。
アル様の言葉が、気付いたらこうなっていた。
「うーん、おじちゃん。この剣抜けないよ」
「それな(笑)中でサビてくっ付いてんだよ」
「おじちゃん、このサビて抜けない剣は?」
「うーん、それ鍛冶屋で直さないと使えないぞ」
「安かったら買えるんだけど?」上目遣い。
「幾ら持ってんだ?」待ってました!
鞘のこしらえが良く、銀貨1枚と思ってる。
「銀貨一枚(一万円)貰ってきた」視えてんだよ!
「よし、わかった銀貨一枚にしてやる」キタキター!
ポケットをゴソゴソする格好で銀貨を掴む。
「はい!銀貨。おじちゃん、ありがとう!」
ヒーラリ ヒラヒラ ヒヒラヒラ~
アルは剣を手に不思議な踊りを踊った。
(アニーとビクトリオは魂を抜かれた)
異世界が俺の手に来た!
(それは異世界じゃない)
銀貨一枚で精霊剣ゲットだぜ!
コレ。俺!行ける。商人! 興奮し過ぎて言葉変。
アニーとビクトリオは魂を抜かれて呆然としている。
目の前で幼い子供が剣を捧げて踊っている。幼児語で踊る主人はアリア様より幼く見える。
アニーとビクトリオを捨て置き、短い剣を掴んで路地まで走る。物陰で剣をインベントリに叩き込み何食わぬ顔で戻る。
我ながら怪しすぎる行動で、人間の欲深さが出てるな(笑) 俺の目なら絶対見逃さない程の怪しさだ。
次にダンジョンから出たという魔道具を置いてる露店に一直線に行った。そこに使えないマジックバッグがあるのだ。ダンジョンの拾得物とか遺留品だろうな。
店で色々視て行くがガラクタの見本市だ。
こんなの持って行商って一体・・・大丈夫なのか?
確かにダンジョンで出てるけど、嘘じゃ無いけどさぁ。
誰が買うのよコレ、詐欺っちゃ詐欺じゃないのか(笑)
使い終わった魔法スクロールが大銀貨一枚(10万円)
ビクトリオの持っている絵本を奪い。それを入れる袋を探してる風にマジックバッグに目を付ける。
「おじちゃん、その袋頂戴」
「なんだ?坊主、この袋は魔法の袋なんだぞ」
「これ入る?」絵本をおじちゃんに出す。
「いや、これはな、物が入らないんだ(笑)」
おじちゃんはとても正直だった(笑)
「え?袋なのに?」
子供の興味深々を装いパッシブソナーで微速前進。
「物が入らないから魔法の袋なんだ」
開始早々に有効取られた。
「嘘だー!そんな袋無いよ(笑)」
狙うは勝利のみ。組み手争いから丁寧に行く。
「ほら、入れてみな」袋を渡される。
確かに口は有るのに入らない。のを見せないとな。
「本当に入らないや。魔法の袋だ!すごい」
おじちゃんは笑って見ている。
「これ幾らなの?欲しい、みんなに見せたい」
欲しい欲しいからの発展形でおじちゃんを攻める。
「坊主、それは無茶だ」
「なんで?使えない袋なのに・・・」
「使えない袋が欲しい人も居るんだよ」
核心を突くおじちゃん。相手にとって不足なし!
「えーホントに?(笑)」魅力84を食らえ。
サビキでツンツン 寄って来い、寄って来い。
「坊主も欲しいって言ったぞ(笑)」
虚実の駆け引きでおじちゃんを誘い込んでんだよ。
「あ!そうだった。えへへー(笑)」
大きく油断を誘う、子供冒険者の巧妙な罠
「高いの?」<「高いぞー!」<「えー?幾ら幾ら?」
ツンツン、ツンツンと釣る準備
「金貨二枚だ(100万円)」
寄った!袖取ったー!
「すごい高い!使えない袋が金貨二枚なの?」
上目づかいで可愛くおじちゃんの冥途の土産を聞く。
「そうだ!金貨二枚だ」
刹那!懐で巻込み腰に担ぐ。そいやー!袖釣込腰一本!
「はい金貨二枚」親父の手に冥途の土産を叩き付けて親父から袋を引ったくった。
アニーとビクトリオは唖然。
親父が呆然と金貨を見る隙に二人を引きずって逃げた。
逃げるドサクサに紛れてインベントリに叩き込む。
俺は何をやってるんだ。欲って奴は・・・
次回 112話 隠密司祭
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