第110話  ピンピンコロリ



新年2日目に布のバラライカを発注して家に帰るとお爺様の部屋に行く様にと言付けがあった。


すぐにお爺様の部屋に行く。

招き猫の乗ってる様な小さな座布団。

机の上の座布団にふわふわのバラライカが鎮座している(笑)


「アル、最高級はこれで間違いないの?」

「はい、貴族用の一番高い奴です」

「これを王家に献上したいのじゃがどうじゃろう?」

「え?バラライカをですか?」


「そうじゃ、上級貴族も知らぬ物を子爵がするのものう」


「あ!そういうことですね、大変ですねぇ」

「おいくつ位必要でしょうか?」

「ふむ・・・」

「当主と正妻で2、次期当主と正妻で2。一領地4枚だの」


王国地図

https://gyazo.com/7d7093f86f93ea24dfeb599efb26d4a3


王国

コルアーノ王家。3夫妻と2王子、2姫 10枚。

公爵

ハルバス(元の王家の名:王弟)・ヨレンソ(王の叔父)8枚


侯爵・辺境伯

ルミントン・マルテン・ベークス・ミウム 16枚


伯爵

キャンディル・ルーミイル・ヘルメラース・マルベリス 24枚

都市持ち伯爵2家(王家、公爵家領地内)


子爵家

(ロスレーン除く)

ロンド・セルス・モルゲン・ナッソ・カークス 36枚

都市持ち子爵4家(公爵、侯爵、伯爵家領地内)


男爵家

14家(領地持ち)+32家(都市を持つ男爵)


「領地持ち男爵と都市持ち男爵はいいな・・・


当主と正妻で2、次期当主と正妻で2。

王家は家族分10、公爵8、侯爵、辺境伯16、伯爵24、子爵36」


「94枚欲しいな。予備含め100枚何とかならんか?」

「今から導師の所へ行って頼んでみますね」

「うむ、冬が終わらぬうちに届けたいでの」


・・・・


「・・・と言う訳なんです」

「ほう、それは良い考えじゃな」

「そうなのです?」


「貴族はプライドが高いでな、貰ってしまったらもう作れんわ」


「商会とかに作らせるのでは?」

「それがバレたら大恥じゃぞ(笑)」

「あ!真似したとかです?(笑)」


やっぱ貴族対策なのか?みんなに配ると思えば平和なのに。


「そうじゃ(笑)それではパーヌに行こうかの?」

「はい!」


・・・・


パーヌに跳び、オットー商会に駆け込む。

日程的にまだ出て無い筈。オットーさん居た!


「オットーさん!」


「アルベルト様、ロスレーンへ帰られたのでは?」


答えない。の言訳は最終兵器。


「あのですね、貴族用最高級のバラライカってあります?」


「雪うさぎですか?」

「男用50枚、女用50枚で100枚欲しいんですが」

「え?100枚!」


「アルベルト様が年末に持って行かれたので30枚30枚で60枚ぐらいなら有りそうですが・・・100枚なら次の皮の入荷を待たないと出来ませんな」


「雪うさぎの最高級なら私が24枚まだ有りますので、とりあえず有るだけ下さい」


うちで大盤振る舞いして最高級13枚渡したからな。

「少々お待ちください」


・・・


「あと2時間待って頂けたら75枚になりますが、今なら68枚ですね、熟練の者が7人しか居ないのです」


「あ!それなら待っても良いですね」


「導師、あの美味しいと言ってた葡萄酒買いに行きません?」


「あの酒か、よし分った」


・・・・・


酒屋に歩きながら


「お酒の後、キャンディルのレンツ様の所に行って、私の手持ちの最高級のバラライカだけ先にお渡しいたします」


「お!そうか!あっちは寒いからの。アル済まぬの」


「貴族用の奴なら一杯あるのでメイドさん達にも配ります?」


「そこまでは悪いでの。それなら兄上と儂が買おう」

「分りました」


導師がキャンディルに持って行くって大壺を買いまくった(笑) 俺は中壺と小壺を買いまくった(笑) 守備隊、近衛が寒い中立ってるからさぁ、差し入れ用だもん。


・・・・・


キャンディルのレンツ伯の隣の部屋に跳ぶ。(専用部屋)置いてあるベルをチリンチリンと鳴らすとメイド長か家宰が来てくれるので導師が取次ぎをお願いする。


「ベント、今日はどうした?お前が新年の挨拶か(笑)」


「憎まれ口を・・・ロスレーン卿からの届け物じゃ(笑)」


「レンツ様。こないだの会議で出ておりましたオットー商会の新商品をお持ちしました。うちのお爺様からです」


最高級バラライカを4枚出す。


「おぉ!これか、その様に首に巻くのだな?」


「はい、これを、こうやると鼻まで隠れる感じで被ります」


「ふむ、フカフカで暖かいのう」

「奥方様と次期当主夫妻の分で4枚だそうです」


「兄上、最高級以外に貴族用のもあるのじゃ。見ぬか?」


「ほう、貴族用とな、見せて貰おうか」

「とりあえずこちらになります」

「マリー、使用人はどれ程いる?」

「48人かと」さすが伯爵家、規模が違う。


「48貰おうか」いきなりかい!

「導師、40しかありません・・・」


「ちょっと待っとれ、貴族用を買ってくるわい」


お茶を飲んで20分程雑談していると、導師が戻って来た。


「兄上、とりあえず60枚買って来たでの。メイドが多かろうと女用35枚と男用25枚じゃ。マリーや、メイドの分は足りるな?」


「メイドが31人なので大丈夫です」


「よい!60枚全部貰おう」

「兄上、この酒も美味いぞ新年の祝いに献上する」


導師が大壺10個(直径30cm)を出す。


「ベントよ!お主そういう気が回るようになったのか(笑)」


「何を今更。今は閉じ籠っておらんでの、跳び回っとるわ」


「わっはっはっは、お主も変わったのう(笑)」


「神のお導きじゃ(笑)」

「イヤ、御子様のお導きじゃ(笑)」

「そうだの(笑)」俺の方を二人が見てくれる。


「アル、儂の屋敷に行くぞ!」

「はい!」

「兄上、それではまた来る!」

「おう、馳走になるぞ!」


・・・・・・


導師の屋敷に跳ぶ。


廊下で出会ったメイドが驚きまくっている。


「アリスよ、使用人を応接に集めよ」

「アルムはおるか?」


「先程見ましたが、多分部屋でしょう。呼んできます」


メイドさん8名、執事5名、護衛のアルムさんで14名居た。


貴族用30枚出して導師に渡す。


「こうして見ると、作りは変わらんのう」

「同じ作りですから」

「温かさは同じでも、最高級とは高い物じゃな(笑)」


「私は知りませんよ。オットーさんの値付けです(笑)」


「いや、値が張らねば格の違いが出ないであろうよ」


これは新しい首と顔の防寒具じゃ、この様に使う。

鼻まで上げれば吹雪の時でも顔が凍らんぞ(笑)

導師が皆に見せて説明する。


エルノー、皆の序列順に選ばせよ。


「は!」


執事長>メイド長>護衛(アルム)>副執事長>副メイド長


料理長は居ない、メイド長が差配している。導師一人だけどやっぱ貴族の館は金が掛かるな。メイドも上から3人は通いで結婚してる。


アルムさんの序列もわかった。また勉強になった。


選び終わった後に連れ添いがおる者はその分も取るが良い。


「スザンナ。お主は縁談が来ておったの。受けたのか?」


「はい、お受けいたしました」

「相手の分も持って行け(笑)」

「ありがとうございます」


メイドの皆が手に持ったバラライカをポンポン叩いて祝福してる。


・・・・・・


パーヌへ帰って来たら丁度2時間だった。


「アルベルト様、76枚出来ております!」

「え?24枚合わせて100枚になっちゃった!」


実際はキャンディルで4枚配ったので96枚だけど言えない。


「ありがとうございます!」

「おぅ、良かったではないか」


「これからこの最高級のバラライカがロスレーンの特産として貴族の当主夫妻と次期当主夫妻に配られますので注文も増えてくると思いますよ」


「あ!そういうご用向きでしたか」

「お爺様が、その様にと」

「それではお代の方は結構でございます」

「イヤ、それは領都でお爺様に仰って下さい」


「だから割符さいふは書いていきますね(笑)」

「商会長よ、儲けねば民に行き届かぬぞ」


「あ!今日、この様な物を街の針子に作らせました」

お婆ちゃんが10時半から12時までに作った2枚の趣向の違うパッチワークの布製バラライカを取り出す。


「ほう、見せて頂けますかな・・・」


一枚を熟練の針子にも見せる。分かるかな。


「この針子さんは凄い方です」分った!(笑)


プロが見たらそりゃ分かるわな。


「ロスレーンの秘密兵器の針子さんに縫わせました」


「オットーさんがロスレーンに来た時会って欲しいです」


「かしこまりました」


「それと、商人に一番売れている物を見せて頂けますか?」


「それなら、こちらにどうぞ」


「この、お貴族用は交易商品で商人が買って行きますな。お貴族に伝手が有れば間違いなく値が通りますので。新しい防寒具なので数はまとまりませんが10枚単位で買われて行きます」


「このお貴族用を38枚貰えますか」

「これもですか?」

「はい、皆に配っていたらどんどん無くなって(笑)」

「かしこまりました」


「こちらの、傷の大きなうさぎのバラライカが一番商人達自身が買って行きます。以前打ち合わせた通り表は布で見栄え良く、裏がうさぎの毛皮ですね。毛皮も半分で済む上に傷物なので仕入れも安くて助かってます」


「最高級品はアル様が全部買われてます(笑)」ぐは。


「商売になってるようで良かったです」

「お陰様で、ありがとうございます」

「定着して来たらキツネも良さそうですね」

「キツネの皮は値が張りますのでやはりお貴族用かと」


「それならうさぎの方が良いですね」

「それでは、またロスレーンで!」

「もう日が落ちて参りますが・・・」


15時だった、確かに発つ時間じゃ無い。


「アルよ、宿に参ろうか」

「はい、導師」


オットーさんに手を振ってバイバイ。

コソコソ帰っていく二人。


「アル、もっと注意せよ」

「すみません、帰る気満々でしたよね(笑)」


「お主は口にそのまま出るからの。貴族は注意せよ」

「はい導師!」


裏路地に入ってロスレーンの導師の部屋に帰って来た。


「儂はラルフ殿に会わずとも良い、報告に行くが良い」


「はい、ありがとうございました」

「良い良い、儂も兄孝行が出来たでの(笑)」

「それではお爺様の所へ行って来ます」

「うむ、ご苦労じゃったな」


・・・・・・


お爺様の所へ走っていく。

ノックをするとジャネットが出てくる。

俺の顔見てすぐ入れてくれる(笑)


机に歩きながらお爺様に話しかける。


「行って参りました」

「お!アル、どうじゃった?」

「最高級バラライカ100枚手に入れて来ました」


「そうか、有れば良い。シュミッツに言って特産が生まれたと早々に各領に送り届ける」


「4枚はお爺様からとキャンディル伯に渡しておきました」


「おぉ、そうか。すまぬの」


「それと、オットー商会長が貴族に配られるならお代は要らないと仰いましたが、お爺様と話をしてくれと割賦さいふにサインしてきました」


「うむ、それでよい」


「あと、貴族用60枚をベント卿が買ってお屋敷の使用人用とキャンディル伯に買って行かれました」


「キャンディルは冷えるでの、皆に渡したかったのじゃな」


「それと・・・これ」


布のパッチワークのバラライカをお爺様とジャネットに見せた。


「昨日ジャネットが教えてくれた通りに作りました。一つ大銅貨三枚から五枚で作れそうです」


ジャネットの顔色が変わった。


「ラルフ様、見つかりました」

「ん?」


「あの件です、ライラとマニエラを呼ばなくても良いかと」


「む!そうか」


あのーと呼びかけようとして視た。

うわー!すげぇ!ジャネット裁縫Lv7じゃねぇか!

武術で言ったら達人クラスだよ。歴代メイドの裁縫自慢でリリーさんのドレスって・・・


どこまで進んどんじゃい!(笑) マジか。狂信者怖いわ!


え?婚礼のドレスって半年普通なのかよ!普通の着せとけって。イヤそれが普通なのか(笑)


「アル!これを作った者は何処におる?」


「平民ですがマナーとか・・・」(貧民とは言えないよな)


「すぐに連れて来れるか?」今からかよ!

「四番街が年明けで大混雑で馬車が入りにくく・・・」


「少々遅くてもしょうがないの」


「もう16時ですが、明日ではダメですか?」


15時だけど。


「良い!構わん」


俺が構うよ、服とか靴どうすんだよ。


「・・・」

「アルどうした?」・・・うーん。


そっか。俺の前では優しいお爺様だけど、やっぱ貴族だものな。平民の事情なんかどうでもいいわな。そんなもん、遠慮自体を知らんわな。


「ジャネットを連れて行って宜しいですか?」

「おぉ、婦人じゃからか?」

「いえ、平民がお爺様とお目見えとは用意も必要かと」


「話をするだけだが・・・そうか。ジャネット頼む」


ジャネットがお辞儀とスカートをちょいとやる。


「それでは。ジャネット行こう!」

「はい、アル様」


お爺様の部屋を出てから、ジャネットを連れて自分の部屋に帰るとアニーの目が点。笑う。メイド長がそんなに怖いか(笑)


「ジャネット。実は裁縫の人は貧民なんだよ。多分平服も靴も持ってないんだ、多分サンダルしか履いたこと無いよ。謁見なんてどうしよう?」


「そうだったのですね、ご様子が浮かぬ感じでしたので」


「その方はうちのメイドで言ったら誰の体形でしょうか?」


「・・・」

「・・・」


「アニー、あのお婆さんは体形的に誰だと思う?背が高いからメイベルかクリエッタかな?と思うんだけど」


「あ!私もそう思いました」


「アニー。メイベル(22)とクリエッタ(21)を呼んでメイベルの代わりにジュリエット(20)を、あなたがジュリエットの仕事に入りなさい」


「はい、ジャネット様」


メイベルは副メイド長だ。メイド長ジャネットと家宰のシュミッツはお爺様、副メイド長セリーナはお父様に付く。実質文官が出入りする昼の公務中を含めてメイベルが邸内のメイドを取り仕切る。


貧民がいきなりの領主との謁見である。


メイド長の仕事は流石に早かった。

馬車を並行して従者頭のモースに用意させ、メイベルとジュリエットに夜恥ずかしくない平服一式を用意させて靴も各種サイズを持ち大荷物を屋根に積んで四人は馬車に飛び乗った。


襲撃を受けたお婆ちゃんが可哀そうだった。

いきなりの領主との謁見である。もう!


日が落ちかけて部屋が暗くなったから、日の入る窓辺で張り切ってバラライカを縫ってる所をメイドが急襲。クリーンは掛けるわ、粉を取るわ、髪は結うわ、お化粧するわ、俺が美容術で皺を取った。(従来婆比-40%:顔の皺も年輪の様な手の皺も念入りにとった)用意した平服を来て部屋から出てくると針子一同がため息を吐くほどの婦人になっていた。


それで終わらない。

領主のお爺様が連れて来いと言うのだ。

平民にそれを言ったら貴族が王に謁見する様なものだ。


でも平民じゃねぇよ貧民だ。すだれなく謁見したら目が潰れるとか昔の天子さまみたいな状態だ。


貴族の馬車に乗せられて子爵家に連れ去られるお婆ちゃん。


俺はお爺様に言ったんだ。平民だからダメだって。マナーとか知らないからダメだって。チワワみたいにずっと震えてるんだぞ可哀そうに。


「良い!構わん」


じゃねーよ!クソ爺ぃ。お婆ちゃんの身になってみろ。これ心臓マヒでポックリ行くぞ!


可哀そうにと、震える手を取って屋敷に連れて行く。


執務室に入るまでガタガタブルブルしてたお婆ちゃんが執務室に入った途端にシャッキリした。視るとこんな格好させられたのはバラライカが認められたお陰だから、皆のためにシッカリと仕事を貰わないとダメだと奮い立たせていた。


謁見でドレスの話をされた。当然断れない(笑)

謁見の後に夕食だった。使用人食堂でメイド達と食べたんだよ。


「師匠にドレスとかバレたら」と言ったら即そうなった。


内容はジャネットと一緒にドレスを縫う仕事。ジャネットが腕を確かめる為に食事後に裁縫道具を客間に持って行き、自分と同じ針仕事をさせてみる。どうもジャネットより上っぽい(笑)


薄いレースに刺繍させる手付きをジャネットが食い入るように見つめているから分かっただけだ。レースの刺繍。これは時間掛かるわ!そう言えばウェディングドレスってレースばっかだよな。


俺が恩寵が無いあっちの人間国宝と言ったが、それは緻密な刺繍を視ただけの感想、実際にそうだったみたいだ。


ここまで来てやっと気が抜けた。どうなる事かと思ったよ。俺も朝から晩まで飛び回って疲れたよ。11歳がワーカホリックにも程があるだろ!


そしてお婆ちゃんはメイド付きで客間にお泊りだ。

メイド付きでお風呂も入った。


継母にイジメられてない、王子様もいない、0時に帰らない、年老いたシンデレラがビビリまくって我が家に泊った。



明日の朝。ピンピンコロリは勘弁してくれ。





次回 111話 精霊剣   

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