第103話  師走



キャンディルで過ごした日々の枝葉の話をしておこうと思う。


キャンディルの盗賊が一掃され、領民の恩寵付与が軌道に乗り出した頃、キャンディル伯爵がロスレーンの秘密会議に出席した。


レンツ伯としては、自領の頭を悩ませる大問題が御子によってロスレーンより先に解決してしまう事をどうしてもいさぎよしとせず頭を下げてうちの爺ちゃんに謝りお礼を言いたかったのだ。


お礼の件はこんな要点だ。

・両替商に搾取された領民の財産が返還された事。

・冬の作物、獲物の確保。

・盗賊の一掃

・罪人から得た恩寵を領民へ付与。


そこまでの事を報告して無かった俺も導師も悪いのだが、何も知らぬうちの家族は驚いた。神の御子とは知っていたが、そんな不思議な能力を持っていた事。キャンディル領でやってるとは思いもしなかった。


当然、身内も知らない。俺が話さなかった事をキャンディル伯が知っている事に驚いてお爺様に怒られるわ、お父様に落胆されるわ、お母様に泣かれるわ大変だった。


11歳が街の地廻り〆て回ってたら泣くだろ。お婆様だけが俺を抱いてヨシヨシ頭を撫でてくれた。レンツ伯をその辺に置き去り、家族会議で大紛糾だ(笑)


下火になった頃、ポツリと言った。


「お爺様達にも付けたじゃないですか」

一言で家族が皆、アッ!とお互いの顔を見合わせた。

それで納まった(笑)


皆はステータスボードを見せびらかさない。

位階が上なら見下す事になり、位階が下なら恥と言うか、どうしても見上げてしまう。だから興味本位でステータスボードを求められる事も無いし、それを自分から見せる事は恥知らずともマナー違反ともなっている世界。


うちの家族は恩寵がそれぞれ上がった事を誰も知らなかった程だ。騎士団の話は違う。俺、身体強化やっと上がったぜ!片手剣が今日上がったぜ!とと脳筋が自慢する。いくつに上がったとかステータスボードを見せ合いっこしてる訳ではない。そんな絵面はキモイ。


そんな物見せなくても実力に反映されるのが恩寵なのだ。



キャンディル伯爵は派閥で言う国王派。ロスレーン子爵は中立派。今回の事で領を思う領主同士の派閥を越えた結束となった。

この世はまだあっちの近代史以前の歴史なのでそんな絶対王政ではない。


王政が崩れる=国が荒れる、聖教国の支持も無くなるとかで貴族がまとまっている感じだ。国王派は勿論安定を願う貴族である。貴族派は絶対王政にならない様にするカウンターバランス的存在。中立派はそのバランスウエイト的な物だ。


この王国。世界のどこでも無いこの国に御子が生まれた事がどれ程の喜ばしい事なのかレンツ伯は語り、キャンディル家の門外不出の秘密の成り立ちを語る事でロスレーン家の盟友となる証とした。


キャンディル家はこの国の魔法大家たいけである。1000年以上に及ぶ歴史もある。この国にステータスボードが聖教国より入って来て200年しか経ってない。


何故魔法大家なのかがその秘密であった。

1000年前、その歴史はキャンディルより遥かに古い聖教国の話に飛ぶ。


その時、現在と同じく新しく生まれた国に聖女が派遣された。戦国時代である、物盗りや、山賊、盗賊、豪族のいる時代。


金目の物を持っていそうな聖女一行に有象無象が襲いかかった。

それを偶々通りかかったキャンディルの若様が助けた。聖騎士も倒れ侍女と聖女で3人になってしまった一行を助けたのである。


行くにも帰るにもどうにもならなかった。

キャンディルより聖教国まで3カ月は掛かるのだ。

すぐに雪に閉ざされたキャンディルで保護される聖女と侍女。

閉ざされた地。そこで若様と聖女は恋に落ちたのだ。


当時の話である。聖教国は聖女一行が、新しい国に辿り着けなかったと思った。聖女は亡くなった事となった。


戦乱の世である。聖女は後にキャンディル妃となり自分の子を守ろうと宣誓の儀を行ったのである。聖魔法ホーリーブライト(俗称:神の祝福)である。それを皮切りに領主一族はステータスボードを1000年前から持つ様になった。聖教国すら知らぬ事実である。


聖女は神の祝福の証しとして魔眼を持っている。

穢れの聖女の様な魔眼である。妃になった聖女が持つ魔眼を子が引き継いだ、生まれ持って出たのだ。


平民がステータスボードを持った最初から魔眼を持ち、神の祝福の聖女と崇めて持ち上げられ、聖女としての人生を決められたのではない。


領主家の嫡男として生まれ、当時の一流の教育を受けた子なのだ。その子はその受け継いだ魔眼についての有効性を痛いほど理解した。半生を掛けて魔眼を研究しキャンディル家に残した。



魔力眼。キャンディル家の至宝がこの時生まれたのだ。


魔力がどの様に展開され具現するのか見る事が出来る眼。教義で聖魔法以外は異端とされる聖教国では無い。以後キャンディル家は、ステータスボードを隠して世の魔法を収集した。


新しい魔法と聞くと、その国まで見に行った。キャンディルはすぐ横が他国なのだ。呼べる他国の魔法使いは、たぐい稀なる術者と領主が招き賞賛して褒美を与え、知る限り、世の噂のある限り魔法を見て解析した。表向きはステータスボードを持たない地方豪族の魔法見物と偽って。


聖魔法をレンツ伯は皆の前で使って見せた。

導師も皆の前で使って見せた。


聖魔法をさも自分で見て覚えた風に言ってたのに。

ジト目で導師を見た。


導師もバツが悪かったのか。

「親が使うのを見ておったでの」

シレッと言った。


お母様が実録、の辺から帰って来て無かった。

自分の家も魔法大家なのに(笑)

※ルーミール伯爵家も魔法大家だが属性特化で研鑽し大魔法をブッパする系。少ない魔力量で最大効果に編む秘術を持つが、キャンディル家に見られている。


聖教国セントフォールはその事実を知らない。


結果的に良かった。

同じ事をロスレーンでやることをそのまま認めてもらえた。アルベルトが色々と構想している事に話が早かった。

・犯罪奴隷の無駄な恩寵を採掘に絞る件。

・盗賊を一掃し、ヘクトかモルドの代官が即日裁判する件。

・両替商の搾取した財産を押収してる事。

・近隣の者を集め一気に恩寵付与する件。

(恩寵付与に導師がタクシー代わりを防ぐ)


領主の命令書を作って貰い。アルベルトが持って名代として行使する任命書まで貰った。


師匠は追い込み漁の件があるのでキャンディルで自由に泳がせてある。たまご肌の師匠に必要な報告だけで済ませている。



まぁ、枝葉としてはそんな所だ。



12月中旬。



導師と師匠と今後の事を話し合った。

導師の研究や資料はインベントリに納まったとのこと。


今の状態でロスレーンのヘクトに跳ぶと往路と同じ日程で帰ることが出来る。悪人退治しながら余裕をもって帰る事が出来る。


ヘクト-パーヌ-ミリス-ミリア-ロスト-ロスレーン


アルは一度ヘクトの岩塩鉱山に行き、ロスレーン領の債権奴隷を解放したいこと。同じく犯罪奴隷より恩寵を確保したいこと。


パーヌのオットー商会に寄りバラライカの件でこの1か月の進捗を聞きたいこと。


冬が厳しくなる前にキャンディルの様に盗賊を駆逐したいと思っていること。


パーヌとロスレーンの孤児院しか行けてない事も引っ掛かっていた。


この一月で、ロスレーンでやりたいことが溜まっていた。


1:債権奴隷の解放、恩寵の確保(領主了解済み)

2:盗賊の駆逐と即日裁判(領主OK)

3:貧しさの酷い農村へ成長促進と付与(地図OK)

4:オットー商会の針子が集まっているなら付与。


今、やるべき事を案件順に優先順位を付けていた。


導師と師匠に話したら。

「今からヘクトに取り合えず行くか」だった。


時間が無いとキャンディルで走り回ったせいで、皆のフットワークが異常に軽かった(笑)


早速ヘクトの門外の森へ跳び、執政官事務所を訪れる。ヘクトの代官、オスモさんを訪ねると、すでに領主からの打診が来ているとの事で話が早かった。


債権奴隷証文を奴隷担当の執政官リンドさんに渡すと、サダンさんとコルムさんに命じて解放手続きを早速取ってくれた。ロスレーンの債権奴隷被害者は10の街で282名だった。

ヘクトの街へ連れ、クリーンを掛けた上で旅費として一人小金貨1枚を持たせて解放して貰う。


岩塩鉱山の坑口の地図を見せて貰い、罪人奴隷の街へ行き恩寵を確保していく。罪人奴隷の街はどれもヘクトの街よりは遠いので導師に高い山から確認をし地図を見ながら近くの岩塩輸送道へ飛んでもらい鉱山の罪人から恩寵を回収した。


回収するとまた高い山から特定。次の罪人奴隷の街へと向かった。一つの街に付き約1000人。岩塩の運び出しは領の武官が行っている。岩塩を降ろすと帰りに生活物資をヘクトから輸送している。


7カ所約7000人の罪人。やはりステータスボードの所有率は高かった。約5600人より89万9000SP分となった。宿舎の模範囚もキャンディルと同じく恩寵を家事、料理にしていった。



盗賊捜索も高い山から平野を望み、検索がはかどった。

流石に要塞作ってる盗賊はいなかったが20人から30人クラスの盗賊は新年を前に貯め込んでる奴らが多かった。

ヘクトのオスモさんに即日裁判を行ってもらい、債権奴隷で抜けた穴へ補充した。


ヘクトの教会の孤児院はさすがに財政が良かった。

岩塩取引の街であるため、教会への祈りが多く喜捨も段違いだった。孤児に恩寵を付与してバイバイ。


基本岩塩窟と呼ばれる地層は固く、炭鉱の様に支えが要らない。掘るだけだ。一般鉱夫は掘った分の数パーセントが取り分で、塩の価格が統制され、固い収入が約束されている。だから領民だけでなく難民も仕事を探して寄って来る。


岩塩担当の執政官も鉱夫ばかりが増えても採掘量が増えて塩の値が下がり困る。岩塩街を支える職業を斡旋する。街の近くに有る坑口近くの伐採や製材である。


一般鉱夫が入る坑口は罪人の坑口と違い、街のすぐ近くなのだ。岩塩程は儲からないが伐採や製材で働けば確実に食って行けるので他の領から難民や流民が集まって来る。


人口が多い分、いさかいや、事故も多く孤児も多い。一番多いのは母親が病気で死ぬ、父親が事故や病気になるパターンだ。

貧民街は老人、母子が多い。男は力仕事で稼げるからだ。貧民街に巣食う冒険者由来や盗賊由来の悪人は駆逐した。近くに森が多いのでモンスターも多くヘクトは冒険者も多い。


ヘクト-パーヌ-ミリスと盗賊追って回って行く。師匠がロスレーンに近くなると仲間に会えるからか、キレッキレで悪人どもをぶちのめす。張り切り過ぎだろ!俺と導師は外で震えて待っている。シート広げて待っている(笑)


とりあえず貧民街の人達と孤児たちに付与した。

貧しい村、土地の痩せた村は手当たり次第に成長促進と付与を行った。


空いた時間の夜にパーヌのオットー商会へ導師と跳び、稼働し始めたバラライカの縫製工場の針子経験者16人。ステータスボード持ってない見習い針子20人に裁縫Lv1を付与していく。針子の宿舎まで整備していた。(まだ孤児たちは住んでない)話を聞くと近々爺ちゃんの指示で、うさぎ革の加工場が出来るそうだ。


当然、雪もチラついてるから出来た端からバラライカは商人の首に巻かれていく。門を出る時に皆の首にあるバラライカを見て慌てて買いに来る護衛や商人が多いんだって。わーい。

お土産に女性用、男性用織り交ぜて50ずつ分けて貰った。

最高級から順に買った。全て貴族用の傷無しだ。富裕層向けに廉価版の内側は野兎、外側が雪うさぎもある。


10日間をキャンディルから飛んで、貧しい村優先で成長促進と農民の付与に使い。5日を残した時点でミリアに跳んだ。


ミリア-ロスト-ロスレーン。


ミリアからの5日間は山に粉雪舞う中で盗賊の駆逐である。まだ積もる程は交易路に降ってない。ロスレーンまでの西側交易路にいる盗賊は全部鉱山送りにした。各街にいるゴロツキや悪さをする奴らは徹底的に〆て、混沌に転んで害になりそうな恩寵は取り上げた。


一端第12開拓区の難民村に寄って、ロスレーンに帰り、年明け後に再開しようと決めた。


今度は東側の交易路の盗賊を一掃するつもりだ。

ロスレーン-レーン-ギシレン-シレン-モルド。

@4つ!



弟子と師匠と導師のあわただしい12月。


こっちの世界の師走だった。






次回 104話  団長飛び起きる!  

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                思預しよ

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