第102話 現実を視ろ
導師と村を回る成長促進、村人への恩寵付与。
色々あったんだよ。もうね沢山。
愚痴に聞こえそうで、口に出したく無かったのよ。
まず、1番の問題がこれ。
キャンディルの民に恩寵を付与して回ったらSPが無くなった。
俺の持っていた約10000SPが1日で無くなった。
SP5使う恩寵農業Lv1にしたら、たったの2000人分だもの。
導師に相談した。
レンツ様(伯爵)に相談した。
犯罪奴隷の持つ不要な恩寵を提供してもらう様に相談した。
鉄鉱の鉱山。石炭の炭鉱、石切り場、木の切り出し場などに点在している罪人から恩寵を奪う。罪人の必要のない恩寵を採掘Lvや伐採Lvに変換して作業効率を上げて、領民に恩寵を付与する原資(SP)とするのだ。
伯爵の許可がすぐ出たので施設に許可証を持ち、導師と転移する。坑道は狭く一度に入れないそうなので、3交代の24時間制だった。
恩寵を奪って採掘を付与していく。一つの坑道で400人の宿舎が立ち並ぶ。年老いて模範囚的な罪人は、食事や身の回りの面倒を見るグループに入れられている。奪った上に家事や料理を付けておいた。
転々とする鉱山の宿舎を回る。
それが終わると石切り場の宿舎へ。
また終わると山の切り出し場へ。
街の擁壁の小さな飯場みたいな所も回った。
驚いたのが、罪人のステータスボード保有率が高い事だ。より高いステータスや恩寵が必要と認識した上で宣誓の儀を受けた者が多いのだ。確信犯なのか恩寵に踊らされて悪に走ったのかは分からないが、8割以上が宣誓の儀を受けていた。
貧しくてステータスボードを持ってない者は、富を持つ者に泣かされ、恨んで罪を犯すのが多かったが、基本そういう人は弱者なので人を襲っても負けるから凶悪犯はいなかった。
そう考えると罪人は恩寵に
そして採掘、伐採、採石が付いている罪人が多い!
ステータスボード持って毎日鉱夫してるから上がるのよ。認識が変わった、以後はステータス封印止めて採掘以外の恩寵付いたら取りに行く。
戦争奴隷もいる。敵国の兵士たちだ。
貴族同士の交換はあっても一般兵士じゃ身代金も出せず交換の手間を省かれてそうなっちゃう。見てるこっちが鬱になる。
真偽の審問官が居て、何人殺したってキッチリした罪状だからどうしようもない。
冒険者崩れより兵士の方が恩寵のLvは高いので助かったが、俺の気は晴れない。無駄な恩寵を民に還元させて貰うという意思が無いと続かない。
坑道の中の罪人が宿舎に上がって来たらまた回る。
頑張れ頑張れと念じながらステータスボードが無くて恩寵が無い人には採掘や木工の恩寵を付けて行く。効率が上がれば値崩れを防ぐために生産調整になるからな。少しは楽んなるぞと念じて付与していく。
伯爵領だけあって経済規模が大きい。
ロスレーンは土地が大きいけどここまで人がいない。
当然罪人も多い。終いには月に一度の公開裁判(と言う名の刑の言い渡し)を待つ罪人まで即日裁判で恩寵を奪いに行った。
当然、ステータスボード持ってる奴しか恩寵を持ってない。
ロスレーン領も罪人巡りしないと恩寵足りない。やっぱ有効に恩寵を使って礎になって貰わないとなぁ。ホント気が重い。
人口24万のキャンディル領で恩寵を持つ罪人や奴隷約7000人より約96万8000SPを確保した。難民村や流民が流れ着く貧民街、人口に入っていない人も多く、そこまでしても足りない。
この世界で一番裕福な国の罪人から奪ってこようかしら?と俺が悪人みたいな考えに染まる(笑) イヤ各国が平均値で幸せってのもあるじゃない。
罪人の後はさぁ、SPを探し回ったんだよ(笑)
分かる?SPを探し回る。ゾンビが生者探して徘徊みたいだ。
だって、そうだったんだもん。
当然、盗賊、悪人検索でキャンディル領の目に余る悪人どもは駆逐していった。山岳地帯に要塞みたいな砦を持ってる盗賊も居たが残さず師匠がやっつけた。麻痺させてシートで包み、伯爵邸の庭で即日裁判やって全員鉱山に送った。
俺が伯爵の前で罪を言って、やったな?>やりました。
伯爵が罪人認定。
捕まっている女子供を開放し、盗賊の子まで産んでる母子も居たが伯爵が穏便に村のコミュニティーなどに割り振った。盗賊はとっ捕まえても周りの領からゾロゾロ湧くらしいので容赦しなかった。逆に他領へ狩りに行こうかと思った。
護衛の冒険者の被害も少なくなるだろうとホッとした。
暇があると街を検索して、ゴロツキや小悪党を〆て回った。師匠が大活躍だ。俺は言い付けるだけ(笑)
嘘を見抜いて心底反省するまで痛めつける。変なスキルがあれば奪う。瞬足、詐欺、解錠、威圧、暴力に物を言わせる奴は身体強化を奪う。危機感知なんて持ってる奴を追い詰めたらとんでもないお尋ね者だった。俺がここに逃げたと眼で追った途端に、感知して逃げ出す(笑) 眼が無かったらマジ捕まえられない。
危機感知はとても有効なのを眼にしたのでLv10にして俺が貰った(今までは俺を害意や監視目的で見た者しか感知できなかった。これで俺に迫る危機が分かるので安全だ) 俺は師匠でもないし導師でも無いんだよ。危機がヤバそうなら転移付けてぶっ跳ぶから大丈夫。
導師に連れて行ってもらい、街へ出ると師匠と俺自体が捜査官というか愚連隊そのままだった。
「こいつ」です。と俺が言うと有無を言わさず師匠が裏道や物陰に引っ張り込んで〆る。一緒にいた仲間は当然「何だ?この野郎!」と一緒に来てやっぱり〆られる。物盗りで人を殺して逃げる盗賊と比べたら街の小悪党は可愛いものだった。
反省したらヒールで治してあげるんだからね。
人を騙さず、ルールを作って街を仕切る奴らは全部見逃した。怖い
・・・・
村人への恩寵付与の裏には地道なSP回収作業が有ったんだよ。
SPが貯まると、すぐに村へ跳んで作物の成長促進と並行して
恩寵付与を行っていく。
キャンディル領の麦や大麦って、俺たちが着いた11月中旬には種まき終わってるんだよ。どうも雪の中関係なく?芽を出すらしいんだよ。
そんな物を成長促進したらどうなると思う?
雪の中の麦刈りとかになっちまうだろ? 雪の中の麦刈り、収穫、落穂拾い・・・賢者が来てそんな地獄を村に作ってどうするよ。
何を隠そう、何でも成長促進すれば良いと俺がやりかけた。
まだ芽の出てない畑にやりかけたら「なにやっとんじゃーい!」バコ!老師が跳んで来て歴史ある杖で殴られた。
都会の子なんだからそゆこと知らねぇよ(笑)
だからさ、やっぱロスレーンの難民村みたいにした。
キャンディルの土地では、雪が降る前には根菜をいっぱい植えるのよ。雪が降っても土の中なら育つでしょ。
根菜類の成長促進は、主に芋類を中心にあっちで冬野菜と言われてる土の中で育つ野菜に6段階から10段階に分けて行った。
「かぶ・ごぼう・大根・にんじん・じゃがいも・さといも・長いも」みたいなこっちの野菜だ。やっぱ品種改良されてないから野性的と言うか原種というか。視るとハイブリッドでそれ系統ってあっちの野菜の亜種とか近似種とか出るから分かりやすい。
慣れたらね、何処の村に行ってもやる事同じだしね。簡単なお仕事だったよ。簡単に終わる分、恩恵に預かる村の数が増えた。
前にコモランって鳥の串焼きあったよね?
あれさ、あの鳥。平地で雑穀食べる鶏と同じ系統ってあったでしょ?あれスズメみたいな何処にもいる鳥なの。冬のふくら雀ってモコモコになるでしょ。モコモコになったコモランがキャンディルの山の村にいたのよ。モコモコになった飛ぶ鶏。
あれがね、村に居たんだけど。あっちみたいに電柱とか電線無いからさ、夜に木を視るとジッとして止まってる。村の人が喜ぶかなって俺が電撃で落としてさぁ、皆がハッ!と気が付いた。
そうだ!狩りに行こう!
キャンディル領の高い山、連峰って感じの奥の方まで入り込んで、そこに住まうモンスターを狩りに行った。世界大自然紀行の世界だったよ。見渡す限り人居ない、原初の森と言うか山を師匠が魔爪根で切り開いていく。
中国の奥地とかブラジルの奥地の山の世界だよ?普通の冒険者はどうやって獲物持って帰るのさ。無理ゲーすぎて笑う。獣道ですら倒木で乗り越えるの大変なんだから。そんな簡単に肉が取れたら食糧問題終わってるって。
パーティーで1匹殺すようなキラーバイソン(牛の魔獣)が何百頭と尾根と尾根の間を歩いてる。高地から雪に追われて草を食べながら雪のまだ無い場所へ大移動だもん。アメリカのバファローの群れがクソ山奥を徘徊してると思ってよ。
群れの一割、30頭頂戴!と賢者と英雄と子供が狩って行く。
解体に掛かる費用はレンツ伯爵が冒険者ギルドに依頼して導師がインベントリに保管した。雪が降ったら魔導士の宅急便で村長宅の前の雪にドサッと置けばいいのだ。
そんな俺は導師の転移に付き合って村に跳ぶ。村は視てすぐに覚えるが、その村に行く道が分からない(笑) その村がどの辺に有るのか探るのが一番面倒だった。
・・・・・・
11月中旬に来て12月中旬
当初の予定ならば12月に着いて、12月の中旬に降り始めるキャンディルの雪に追われながらロスレーンへ引き返す行程だった。
初っ端から15日程短縮し、帰るのを15日遅らせたので、魔術証文と債権回収に1週間、作物の成長促進に3週間も掛けることが出来た。
導師も俺も師匠もこれで良いだろうと満足する所まで出来た。本当に楽しみな領地に変わった。
俺が考えるだけの、今出来るだけの事をした都市だ。ロスレーンはここ程も厳しくない。今回の経験で、より洗練させてロスレーンへ還元させる。
領民が自らの足で立って生きる。
理想を追う実験都市がキャンディルだ。
・・・・・
明るく振舞うアルの深層心理はダメージを受けていた。
恩寵強奪。それは人の積み上げて来た証しを奪う。
アルにとっては禁忌だった。
思っても、アルにはそれ以外考えられなかった。
原資のSPが無い。強盗殺人で一生犯罪奴隷となる者から不必要なスキルを奪う。不遇な人たちの礎になって貰う。それが唯一の解答だった。
心では禁忌と思っていても、動かなければ現状は変わらない。毎年のように領民が流民が難民が死んで行く世界。食べ物が無いお陰で攻めて来る国。負けても口減らしなどという戦争はバカらしいにも程がある。そして人を生かせば共倒れ。
だから一人一人に種を植えて行くしか出来なかった。
民を楽にする。領を良くする。国を良くする。
神のゆりかごの環境を整える。
その心がアルを支えていた。
人攫いに遭う。売られる子供が幸せな世界は許せない。
己が思う禁忌に手を出すしかなかった。
為政者の論理と、アルの
圧倒的に過ぎる現実の厳しい世の中を見てしまっていた。口で簡単に言えない程の現実。逃げずに受け止めようとしていた。無理をする分、心が
ロスレーンを良くする。
自分の視たくない物を改善しようとしたら、いつの間にか引きずられてキャンディルや国中を跳び回っていた。
両替商の件も実はショックだった。
ショックだった分、強気で強引だった。
ニュースでは知っていた。頭では知っていた。現実はどれ程汚い物なのか骨身にしみた。汚かった。穢れていた。人とは思えない。心が金にまみれて蝕まれていた。人より無機物の鉱物である金の方が上と本気で考えて、人をしゃぶってる連中だった。
生きて行くために金を借りる。その人間を嵌めて地獄に叩き込む。堕ちた人は借金の事で頭が一杯だった。そんな事のために人は生まれて来たんじゃない。そんなのは許せなかった。
カードと一緒だな。リボ払いも少ない金額を長く取ろうと必死だ。リボの金利はやっぱ高いな。
あっちの人間なら分かった上の契約だ。サラ金だって、リボ払いだって本人が承知して借りるんだから破棄など出来ない。借りて返さない方が悪いとも言える。それでも破棄するなら個人破産したら楽になれるのだ。鉱山奴隷になって一生採掘して過ごす事も無い。
問題を視る度に、どんな小さな問題でも単体では存在していない事。悪事や貧しさが互いに繋がって世界が巡っていた。
あっちで幸せな学生だったアルは、こちらの厳しい現実を見てショックを受けていた。頭では理解しても目で見る物は悲惨な悪循環だった。悪循環が現実に巡っていた。
最初に食べるために悪事をする。その悪事が楽だからどっぷり浸かる。悪事以外見えなくなる、いつしか真面目に働く奴はバカと思い込む。そして、人の上前を掠め取るのが上等な人間と思い込んでいる。それを人生と思い込んでいる。
良い事ばかりが互いに繋がってる訳では無かった。表面だけ見ても直せない事が分かった。根が深く一人では無理なのだ。
街の小悪党は〆るだけで改心する。
小悪党を原資には思って無い。小悪党には小悪党の存在理由もアルは見出している。人の道の抜け穴を探して、ゾーンを見極め隙を突いて小銭を稼ぎに来る。そんな気の効く頭を持っている連中だ。
でも、人の人生を狂わせることはしていない。騙されたと怒って次は気を付けようと反面教師となっている。そんなのも居なきゃ文化程度も進まない。鬼畜に落ちたならその時に裁く。
あっちの世でもいたちごっこだ。何やっても無くならない。無くならないのなら、コントロールと思った。
悪い事知ってて捕まらないように立ち回る悪人はどうしようもない。そんなのにお優しい人権だ何だと言うから間違う。
悪い事知った上でやった奴は法律もクソも無い。あっちよりも手早く裁くだけだ。一人じゃ対応できない。経過観察も保護観察も出来やしない。
大悪に対する秩序のカウンターバランスになるしかなかった。
カウンターバランスの理不尽を知らせ抑止力とする。
心の中にうっすらと輪郭があった。
アルもまだ認識していない。昇華された言葉は出ない。
次回 103話 師走
----------------
この物語を読みに来てくれてありがとうございます。
読者様にお願い致します。
応援ポチ。☆も頂けたら嬉しいです。
ポチをしてくれる事。それはとても励みになるのです。
一期一会に感謝をこめて。よろしくお願い致します。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます